異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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021.アミル

 アランの商館に向かい、用向きを護衛の受付の者に伝えた。

 店主のアランが出てきてくれたので事情を説明した。

 ブラヒム語の勉強中に悪いが、アミルに必要な細々としたものを購入したいので、市に連れて行きたいと。

 アミルは今日中には戻すが、こちらで夕食を与えてから帰宅させることも合わせて伝えた。

 

「奴隷にそこまで良くして頂くのは恐れ入ります」

 

 あまり恐れ入ってはなさそうだが、とりあえず、こちらの要望は受け入れられたようだ。

 こちらで用意した皮の靴を渡して、履いてもらうことも依頼した。

 

 暫くするとアミルが連れられてきたので、皮の靴を履いているのを確かめ、アランに礼を言い、商館を後にした。

 アミルは前回見た時よりも、髪が少し短くなっている気がした。

 商館で切り揃えてもらったのだろうか?まあ、髪が短くなっても可愛いのは可愛い。

 

 商館を出て、アミルにコート(鑑定ではマント)を渡した。

 ちょっと見た感じ、すぐに奴隷と分かるのを防ぐためのものだ。

 まだ、寒い時期でもあるから。

 午前中に購入したコートはアミルが着ても問題なさそうなサイズだった。良かった。

 コートを羽織ったアミルが少し不思議そうな顔をしていたので、本日の予定を説明。

 

「今日は、5日に一度開かれる、市のタイミングだったので、

 アミルを迎え入れた時に必要なものを買おうかと思っている。

 ベッドや布団等は既にあるから、服や日用品等をアミルの希望を確認しながら買いたいんだ。

 あと、迷宮にも行くので、リュックサックとか、そういったモノも買っておきたい」

 ざっと、説明したけど、伝わっただろうか?

 

「...分かりました」

 うーん、あんまり伝わっていない気がする。奴隷は自分で選ぶとかしないからか?

 まあ、店で品物を選んでいくうちに、相互理解が深まると良いのだが。

 とりあえず、雑貨を扱ってそうな店に立ち寄る。まずはリュックあたりからだ。

 

「迷宮に行くときに背負うもので、普段使いも出来そうなものをアミルが選んでみて」

「...分かりました」

 手近なリュックを見つけて、ちょっと背負ってみたり、中や外の縫製を確認しながら、選択していくようだ。

 

「では、これでお願いします」

 割と普通のリュックだ。

 ドワーフ用という訳ではないが、ちょっと小ぶりな感じだが、体格上はこんなものか。

 自分もアミルのリュックとは別に麻袋を10枚ほど購入した。

 麻袋は割と粗末なものだ。前から欲しかったもので、今回は3割引対応のためのものだ。

 

 次は服だ。それほど見すぼらしくない程度の中古服を扱ってそうなところに行くことにした。

 

「普段アミルが着るための服を上下2セットと、肌着を3セットくらい、買ってくれないか?

 (あと、俺はよく分からないのだが、生理の際に必要な肌着みたいなものがあれば、

  それも3セットくらい買っておいて)」

 最後は小声だ。

 

「えーと、この店の服は奴隷が着るようなものではないのですが、

 もう少し安いお店の方が良いのではないでしょうか?」

 アミルが奴隷らしい発言で俺に確認を求めてくる。原作でも、そんな説明があったかな。

 

「いや、我が家ではこれ以下の服はナシだ。

 気に入ったのがなければ、他の店に行って選んでも構わないが、

 値段を理由に質の悪い他の店で買うことはナシにしたい」

「...分かりました」

 怪訝そうな顔をしてはいるものの、こちらの意向に従ってくれるみたいだ。

 しばらく、いろいろな服を見比べながら選び始めたので、俺はそっと離れて、自分の物色。

 とは言ったものの、俺の服って結構選択肢が限られるんだよね。

 腕というか骨格の関係で。装備品と違って、自動的に体に合わせてはくれないから。

 腕が4本あっても自動で調節してくれる装備品は普段着にしたいぐらいだ。

 ゆったり目の服を選んで、元の世界から持ってきたプチ裁縫道具で、繕って使っている。

 結局、俺は自分の服は見つけられず、アミルが選んだ服を差し出してきたので終了となった。

 

「これでお願いします」

 女性の服なので、俺の方から特に何も言うこともない。

 そのまま会計を済ませて、買ったものはアミルのリュックに入れてもらった。

 

 次は日用品の店に行きたいが、その前に新居に行って、今あるものを見てもらい、足りないモノを買った方が良いかもしれない。

 仕方ないので、武器屋に行くことにした。

 ちょうど通り道というのと、掘り出し物チェックという意味合いで。

 あと、アミルが武器などの装備品にどれほど興味を示すのかも確かめてみたかったからだ。

 

 結論から言うと、収穫はなかった。

 アミルはあまり興味を持って武器を見てるようには見えなかった。

 武器も大したものはなかったが、なんとなく手ぶらで帰るのもしゃくだったので、空きスロットが1つの銅の剣と鉄の槍を1本ずつ購入しただけだった。

 

 武器を買った後、俺はアミルを連れて、新居に行くことにした。

 通りを少し歩いて、玄関の前に立って、ドアの鍵を開けた。アミルに手招きをすると、

「え...と、ここは何かのお店でしょうか?」

「いや、ここはこれから俺とアミルが住む家になる。

 ここを見て、足りなさそうなモノを考えてから、買い足そうかと思ってな」

 

 玄関のドアを通って、俺と一緒に食堂に入る。玄関では、中履きに履き替えてもらった。

 アミルはおっかなびっくり、きょろきょろしながら、非常に挙動不審だ。

「アミル、そこに座って、床ではなく、椅子の方に座ってな」

 

 一応、奴隷が座る場所あるあるで、出くわしそうなイベントはガードして、アミルを食堂のテーブルの椅子に座らせる。

 

 厨房の方に行き、食糧庫から午前中に淹れたハーブティーの残りの入ったポットを取り出して、コップに注いだ。

 熱くはないが、まあ、冷めたハーブティーでも喉は潤せるだろう。

 アミルと俺の前にハーブティーの入ったコップを1つずつ置いて、

「まあ、喉も渇いただろうから、ハーブティーでも飲んでみて」

 

 アミルはコップのハーブティーをチビチビと飲みながら、少し表情を変えて、俺に話しかけてくる。

 

「あの、ご主人様は家名をお持ちのようで、ご貴族様なのでしょうか?」

「いや、ただの平民で自由民なだけだな。

 ただ、この国の出身ではなく、外国の出身なだけだ。

 ここからは非常に遠くて、どこの国というのは、ちょっと説明が難しい。

 俺の出生の国については、とりあえず内密ということで頼みたい」

 

「は、はあ。では、この家の一番奴隷の方を紹介していただけますでしょうか」

「うーん、この家の初めての奴隷はアミルなので、他に奴隷はいないな。

 あと、また後で変えるかもしれないが、一番奴隷というのは設けない予定だ」

 俺の言葉にアミルは表情を変えて、

 

「これほど大きな邸宅にお住まいなのに、他に奴隷は居ないのでしょうか?

 あ、あと一番奴隷を設けないのは何故なのでしょうか?」

 

「俺がこの国に来たのが数日前からで、この家を借りたのがつい最近だからかな?

 なので、初めて奴隷を買ったのがアミルということだな」

 

「それから、2つ目の質問の答えだが、これから奴隷を何人か買うことになると思うけど、

 それぞれの役割毎にリーダーになってもらうつもりで、

 それを更に指示するような一番奴隷は設けない方が良いかなと思ってるんだ」

 

「まあ、全体を統括するのは俺がやった方が良いかなと思って。

 それでうまくいかなくて、一番奴隷に統括させる方がうまく行くようなら、

 一番奴隷を指名するかもしれないけど、その時になってから考えようかと思ってるので、

 当面は一番奴隷なしにしようかと思ってる」

 

「まあ、今はアミルしかいないから一番奴隷とか不要じゃないかな?一番奴隷やりたいか?」

「いえ。そう...ですか。分かりました。

 では、迷宮に行くこと、この屋敷の掃除、洗濯、食事の用意を...すれば良いのですね」

 あ、あれっ何か不味い方向に話が進んでるような気がする。

 

「えーと、ちょっと誤解のないように言っておきたいのだが、

 あくまで俺たちのメインの活動は迷宮探索であって、家事等は最低限にしたいと思ってる」

 

「料理は苦手とも聞いていたので、食事は外食で済ませても良いし、

 掃除もすべての部屋をする必要はない。

 食堂と俺たち二人の使ってる部屋とトイレと風呂場くらいかな?」

 

「お...お風呂があるのですか?お風呂は貴族の方しか使わないと思っていたのですが?」

 あ、あれっ説明すればする程、変な誤解が生まれていくような。

 

「俺の故郷の国では、平民でも普通に風呂に入るような所だったんだ。

 だから風呂と言っても、そんな特別なものには感じてなかったのだ。

 まあ、外国の風習と思って慣れてくれ」

「平民が風呂に入るのが普通...ですか...分かりました。慣れるようにいたします」

 うーん、なんか、あまり相互理解が進まないまま、誤解の迷路に入ってしまっているような。

 まあ、風呂は一度、一緒に入ってしまえば、理解してもらえるだろう。多分。

 

「で、今は、一応、厨房なんてあるけど、ほとんど使ってなくて、

 ここに住む前に泊っていたベイルの旅亭で朝晩の食事を食べてたりするので、

 当面、その旅亭で食事を食べても良いと思ってるんだ」

 

「まあ、見学というか様子見がてら、この後、一緒に食べに行こう」

 

「あ、あの、お言葉を返すようですが...

 奴隷がそのような場所で食事をするものではないと、商館では教えられたのですが」

 

「あ、あぁ...我が家ではそのようなルールはナシだ。

 奴隷も主人も基本的に同じものを食べるのがルールだ。

 旅亭で一緒に食べても違和感のないように、

 さっきも平民が着ていておかしくない服を選んでもらったつもりだ」

「そう...ですか。そのために、先程良い服を選ばせて頂いたのですね...分かりました」

 慣れだ、慣れできっと諸々の誤解は解決するはず...と思いたい。

 

「あ、あと二つ質問しても良いでしょうか?」

「構わないぞ。なんだ?」

 

「あの、ご主人様は先程から非常に流暢なドワーフ語をお話になるのですが、

 何故、今、私はブラヒム語を勉強しているのでしょうか?

 一応、探索者に必要な呪文が話せるレベルではあるのですが」

 

「あと、この邸宅に入ってから、

 非常に明るいカンテラのような光が天井から照らされてるのですが、

 このようなお屋敷では普通のことなのでしょうか?」

 

 がーん、そういえば、全く説明しないまま、異世界言語のスキルで話しかけていた。

 スキル発動中は、話している言語(ドワーフの言語)が表示されてたけどガン無視していた。

 あと、拠点構築の照明に慣れすぎていて、何とはなしにそのまま使っていたが、この世界の人間から見れば、意味不明の設備だよな。うーん、説明どうしよう。

 

「えーと、俺の生まれた街では、いろいろな種族の者が住んでいたせいで、

 俺はたくさんの種族の言葉を流ちょうに話せたりできるんだ。

 自分では、それが当たり前だと思っていたのだけど、

 この国に来て、それが当たり前ではないと気づいたくらいなので、

 俺自身もびっくりしているんだ」

 

「ブラヒム語を今、習得してもらっているのは、この後、何人も奴隷を雇うことになるが、

 全員ドワーフという訳ではないので、みなが使う共通言語はブラヒム語にしようと思ってる。

 そうなった時に困らないように今からブラヒム語が普通に話せるようになってほしいんだ」

 

「なるほど、ブラヒム語の件は承知いたしました」

 ブラヒム語の件...以外のことはどう説明したものか。

 アミルが本格的に探索活動をする際に、複数ジョブやワープ等を説明するつもりだが...

 

「天井から射し込む明かりは、まあ、俺の国では普通のモノだったのだが、今は説明は難しい。

 この家以外では一般的ではないので、他言しないように今は内密にしてくれると助かる」

 我ながら苦しい...苦しい説明だが今はあまり説明で労力を割きたくない。

 どうせ、迷宮探索でアミルの常識はぶっ壊れるのだ。

 その時にどさくさ紛れで一緒に納得させてしまおう。

 

「じゃあ、この後、ちょっと、この家の中を案内するな。

 そこで、何か足りないものがあるようなら、この後、買い足しに行こうか?」

「...分かりました」

 慣れだ、慣れできっとなんとかなる。

 

 そのあと、アミルに個室が与えられていることや、風呂場の大きさにびっくりされたりとかあって、ひと騒ぎふた騒ぎあったのだが、もういいや。

 まあ、いつか通る道だから早い方が良かったと思おう。

 あと、腕12本は片づけておいて良かったな。それ見たら泣き出してたかもしれない。

 

 日用品が置かれている納戸とか見てもらったけど、アミルのショックが抜けきれなかったのか、買い足そうと思うものは出てこなかった。

 今日の目的は果たせたのだろうか?

 まあ、服とかリュックとか買ったから果たせたと思うことにしよう。

 

 アミルから、この異世界のことをいろいろと訊いてみようかと思っていたのだよな。

 だが、今の流れで切り出すのはちょっと難しいな。

 不自然というか、疑念を持たれかねないだろう。

 

 アミルには自室で今日買った服に着替えてもらい、いつもの旅亭に行くことにした。

 ちょっと早いのだが、まあ良いだろう。

 

 いつも通り、ボイルに挨拶して、二人分なのでコボルトスクロースを12個渡した。

 このペースで渡していくと案外早くなくなるかな?

 アミルに座るように勧めて、定食を選択してもらって二人で食べることにした。

 とりあえず、ここの美味い食事にありつく。えーと、何か話題を...

 

「ここの食事は非常に美味しいです。

 このような美味しい食事を与えて下さり、ありがとうございます。

 ただ、このような食事を用意出来る自信がまったくございません」

 うーん、何か今日はことごとく裏目に出ているような。

 まあ、あまり考えなしにアミルを今回誘ってしまったからなぁ。俺の準備不足か。

 

「まあ、さっきも言ったけど、当面、ここで食事をしても良いのだし、

 料理のことはあまり深刻に考える必要はないぞ。まずは迷宮に慣れてからだな」

 

「あの...さきほどはコボルトスクロースを渡していたようですが、

 ご主人様は商人のようなことをされているのでしょうか?」

「いや、あれは迷宮のドロップ品だから、元手はかかっていないな。

 迷宮探索の際のドロップ品と交換でここの美味い食事を食べさせてくれると、

 さきほどの店主から話があったので、利用させてもらっているだけだ」

 

「迷宮は今、どの辺りを探索されているのでしょうか?」

「今はベイルの迷宮の4階層の攻略が終わったところかな」

 

「4階層...探索者で言えば、レベル4ですか...

 それで、今の生活が維持できるようには、とても思えないのですが...」

 あ、あれ?また説明に窮する展開に。

 探索者は今Lv34なんだけど、それを今ここで言う訳にもいかないしな。

 今日は何か失敗続きな気がする。

 

「まあ、迷宮探索は俺の得意なところなので、

 一緒に迷宮探索するようになってから、また話をしよう」

 得意というか、特異...というか。もう何かグダグタだな。

 アミルがこの食事の味をちゃんと味わえていると良いのだが、さっき美味しいと言ったから、きっと大丈夫だよね?

 

 食事を終えて、旅亭の店主に挨拶をして、俺たちは新居にいったん戻ることにした。

 商館に戻るために、一度、アミルの服を元に戻す必要があるからだ。

 

 新居のアミルの部屋で着替えてもらい、今日買ったものは、部屋に置いてきてもらった。

 コートと皮の靴は商館を立ち去る際にも使うので、そのまま持っていってもらうことにした。

 

 アミルをアランの商館の護衛に引き渡して、俺たちはそこで別れることになった。

 陽はもうとっぷり暮れていて薄暗い。

 アミルは商館の入口で深々とお辞儀をして、商館の中へと去っていった。

 

 原作主人公と一番奴隷の彼女の間には、早い時期から信頼関係が出来ていた。

 俺とアミルの間の関係では、遠く及ばない信頼度だ。

 アミルに俺のことを理解してもらうのには、まだまだ時間がかかりそうだな。

 まだ、俺が鬼人族だということも説明していないし。卒倒されたら、どうしよう...

 

 なんか、初デートに失敗してしまったような敗北感を覚えるのは何故だろう。

 まあ、ほとんど俺が原因なのだよな。次から頑張ろう。

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