ザビルから戻り、エネドラと合流。
久しぶりに二人揃って商人ギルドへ。
今日の護衛にはモニカも付いてきている。
商談が終わったら、ギルドで情報収集するのだろう。
受付で用件を伝えて、商談室で待つこと数分。
ルークが付き人のヌートと共に入室してきた。
この二人とはオークション以来だな。
挨拶を交わして、本日の商談の内容をルークが説明し始めた。
「モンスターカードを落札しましたので、その取り引きが一点。
ご提案いただいた『頑強の鋼鉄大楯』の取引について、交換するものがまとまりましたので
ご確認をお願いしたいのが一点。
最後にオークションで出品されていた石鹸の取引についての御相談となります」
「なるほど。一つずつ片づけていこうか」
エネドラに視線を向けると彼女も頷いた。
「まずは落札したカードですが、こちらになります」
ルークがリストを俺に提示しながら、メモを添えてテーブルの上にカードを置いていった。
コボルト4、つぼ式食虫植物1、鯉2、鳥1
「いつも通り、全部もらおう」
「はい。ありがとうございます」
次回カードの手数料と落札カードの代金を支払った。
メモとカードが散逸しないように丁寧にリュックに仕舞った。
鑑定でいくらでも識別可能なのだが、そうは言えないので慎重な素振りで対応している。
「次に『頑強の鋼鉄大楯』の取引ですが、こちらが素材とカードの一覧となります。
お確かめください」
「拝見しよう」
素材
ダマスカス鋼10
モンスターカード
コボルト10、トカゲ1、蝶1、人魚1、ゴーレム1、羊1、灌木1、サンゴ1、アリ1、芋虫6
提示した装備品が鋼鉄製なので、ダマスカス鋼に換算すると数が少なくなるのは仕方ない。
カードの方はコボルト以外の枚数が全部で12枚だが、融合に使ったスライムに比べると芋虫を筆頭に落札価格の安いカードが多いのでこんなものか。
手元にある落札カードの価格表と照らし合わせて、合計金額に大きな乖離がないことを念のため確認した。
一応、こちらの希望したカードの選択肢から選ばれているし、問題ないな。
「素材、モンスターカードともに問題ない」
「左様ですか。ありがとうございます」
こちらもアイテムボックスから『頑強の鋼鉄大楯』を取り出して、テーブルの上に置いた。
相変わらず、大楯はデカくて邪魔だな。
ルークが防具鑑定の詠唱を行い、目的のスキル融合装備品であることを確認した。
大楯をルークのアイテムボックスに仕舞うのを手伝う。
ルークがカードとメモのセットを取り出して、テーブルの上に広げ始めたので鑑定で確認。
メモと現物のカードに特に誤りはないようだ。
カードとメモのセットもリュックに仕舞う。
ヌートもダマスカス鋼の素材をアイテムボックスから取り出し始めたので、受け取って俺のアイテムボックスに収納。
「今回の取引に附帯契約を加えられるでしょうか?」
「そうだな。可能だと思う」
カードは倉庫に潤沢にあるし、空きスロット付きの装備品も山ほどある。
「決闘でかなりの数を手に入れられたという噂も伺っておりますので、
やはりイロイロとお持ちなのですね」
「どうだろうな」
決闘と大量のスキル融合装備品を手に入れた噂が伝わっているのか。
そういえば、原作でも吸精のスタッフとひもろぎのロッドを取り引きした際に、
まあ、カードも素材もまだまだ欲しいので、ルークの提案に乗っからせてもらおう。
「では、後ほど附帯契約の書類を準備いたします」
「分かった。よろしく頼む」
これで二つ目の取引も完了だな。
「では、最後に先日のオークションで出品されました石鹸の取引についての御相談です。
オークションで公爵領の貴族の女性達が落札された事もあって、
当該の石鹸がギルドでもかなりの噂になっております」
「ほう、どのような噂なのだろうか」
この後にエネドラもギルドで情報収集するが、事前に知っておいても悪くはない。
「貴族の、しかもそれなりに高い爵位を持つ家の女性が落札しましたので、
需要もあり、品質も高いのではないかという噂です。
とはいえ、現物が出回っておりませんので、どこで入手できるのであろうかといった感じです」
「そうだな。この近辺では、まだハルツ公爵領以外では出回っていないからな」
オークションに出品したのは宣伝のためだったので、一定の効果があったということか。
「この近辺ということは、これも例の鏡と同様に外国から仕入れたものでしょうか?」
「いや、入手ルートは明かせないが、あの石鹸は外国産ではない。
それなりの数をハルツ公にも納品させていただいているからな」
腹の探り合いか。入手方法は別だが、販売に関してはあまり隠すようなことではない。
「それは、我が商家にも卸していただくことは可能なのでしょうか?」
「条件次第では可能だな」
大した条件ではないのだが、一応、販売方法を決めているので。
「条件というのをお伺いしたく存じます」
「ルークもオークションの際に現物を見たと思うが、
販売するのはあの木箱に入った単位で行なっている。
あの箱の中に石鹸が5個入っているのだが、中身を取り出して個別に売るのは禁止だ。
一箱単位、その形態でのみ販売してほしい」
俺の言葉にルークが首を傾げた。
「条件というのは、それだけでしょうか?」
「そうだな。基本的にはそれだけだ。
箱の中身・・・・・・詰め替え用の石鹸を個別に売るのは我が家だけだ。
他の店、商家は箱単位で販売してもらうということだな」
ルークは隣のヌートと顔を見合わせている。
「その場合、当家には一箱いかほどで卸していただけるのでしょうか?」
「ハルツ公と同じ価格だ。一箱2500ナールになる」
この金額は現時点では譲らない予定だ。
「大量に購入する場合でも値引きはしない。逆に需要が増えたとしても値上げもしない」
「・・・・・・」
3割アップのスキルも行使しないつもりだ。
「店舗での販売は考えていないのでしょうか?」
「いや、考えている。というか、ザビルの店では既に販売しているな。
その店での販売価格も2500ナールだ」
ルークの表情は変わらない。
「そうなのですか。
では、2500ナールで仕入れても、あまり高い値段で売るのも考えものなのですね」
「その判断は仕入れる側の判断だから、こちらからはなんとも言えないな」
まあ、高値で出回るのを避けたいというのはある。
貴族用石鹸は高級品のつもりだが、売り方は薄利多売形式を目指しているので。
「となると、贈答用に絞るか・・・・・・」
「・・・・・・」
ルーク、珍しく声が漏れているぞ。隣でヌートがあちゃ~という顔を一瞬浮かべたような。
まあ、今直ぐに決める必要はないので、後で存分に二人で考えてくれ。
「石鹸は早急に入手したいのか?」
「そうですね。一つ二つは急ぎで。できれば10箱ほど入手したかったのですが」
10箱購入しても2万5000ナールだから、大商家からすれば大した金額ではないだろう。
「必要なら我が家に後日使いの者を寄越してもらえれば、
代金と引き換えに石鹸を渡すことは可能だ。
その場に自分かエネドラがいることが条件だが」
「なるほど。では、後日、タケダ様の所に我が家の者を使いに出すかもしれません」
販路の開拓になるかもしれないので問題ない。
「ところで、この前のオークションに出したのは貴族向けの石鹸セットなのだが、
我が家では平民の富裕層向けに少し品質を落とした商品も用意している」
「むっ・・・・・・」
リュックから平民用の石鹸セットを取り出して、テーブルの上に置いた。
「こちらも箱売りだが、1箱1000ナールだ」
「お人が悪い・・・・・・」
いやいや、ペルマスク以外ではルークにしか見せてないから、優良顧客扱いだよ。
「せっかくなので、こちらの1箱は進呈しよう。
貴族用のはこれよりも品質が上だが、こちらもそれなりの自信作だ」
「こちらも販売価格は固定なのですね?」
胡散臭い笑顔で頷いた。
「ひょっとしたら、こちらは通常のオークションで出品するかもしれない」
「なるほど。今なら飛びつく者もいるかもしれませんね」
あくまで宣伝用であって、高額の落札は期待していない。
談合されて、最低入札金額で落札されても構わないと思っている。
普及のための宣伝が目的だからね。
平民用の鏡とセットでオークションに出しても良いかもしれない。
「どうだろうな。まあ、商品の種類は複数あった方が良いだろう」
「おっしゃる通りですね。
しかし、装備品やモンスターカードばかりにご興味があるかと思ってましたから驚きました」
この世界で生きていくには、それなりに経済力も必要だから仕方ないだろう。
我が家はメンバーも多いからね。お金はいくらでも必要だ。
集めた金が、ターヘラのマリアおばちゃんの装飾品に取って代わられるかもしれないけど。
「石鹸の取引については、こんなところで問題ないだろうか?」
「はい。大丈夫です」
販路拡大に向けて、少しだけ前進というところだろうか。
「では、後はスキル融合装備品の附帯契約の件ぐらいか?」
「旦那様、附帯契約の取引でしたら、私の方で契約書を確認して署名しておきますが」
この後、ドブロー、帝都と回らなければならないので彼女に任せるか。
「ああ、ではお願いしよう。
ルーク、エネドラはこの後もギルドにいるので、彼女に附帯契約の対応をしてもらってくれ」
「承知しました。後ほど、書類をお持ちいたします」
これで、商人ギルドで俺がやれることは終わりか。
ルーク達と別れて、ギルドの玄関へ三人で向かう。
「では、エネドラ、この後の対応を頼むな。俺はドブローに行ってくる。
モニカ、護衛を宜しくな」
「はい。お任せ下さい。
この後もギルドでスキル融合装備品と石鹸の噂を仕入ておきます」
モニカも無言で頭を下げた。
二人と別れ、ギルドのフィールドウォーク用の壁からドブローの鍛冶師ギルドの壁へとワープで移動した。
・・・・・・
鍛冶師ギルドの事務室に向かい、いつもの事務方の男に面談を申し込む。
実はそれなりの役職の者だと思うのだが、直ぐに会議室に会うことができた。
「今日は三つの契約の納品だ。一つは途中納品になるがな」
「ええ、お待ちしてましたので、どんどん納品して下さい。
今日は運よく、武器商人も防具商人も来ていますので、納品確認が直ぐにできます」
なんか、だんだん軽いノリになってきているのは気のせいだろうか。
「二回目のスキル融合装備品の契約の最終納品。
三回目のスキル融合装備品の契約の途中納品。
最後に竜革防具の作業委託契約の納品だ」
「えっ、竜革防具もですか?かなり量があったはずですが・・・・・・」
「うちの鍛冶師は優秀なのでな」
本当は二馬力なのだが、それは言えない。
「スキル融合装備品の鑑定も必要ですが、防具の納品をしている間に終わるでしょう」
「そうだな。並行して進めてもらえると助かる。納品のための部屋に移動するか?」
俺の言葉に頷いて男が部屋を出たので、俺も後に付いて向かった。
「これが残りのスキル融合武器で激情のダマスカス鋼剣が二本だ」
「では、こちらは武器商人に鑑定を依頼しておきます。
報酬は・・・・・・竜と亀のモンスターカードが5枚ずつでしたね」
係の者が来て、剣二本を持って去っていった。
「それで、次は三回目のスキル融合装備の途中納品だ。
激情のダマスカス鋼剣2本、吸精のダマスカス鋼槍2本だ」
「こちらも武器商人に鑑定を依頼と。残りの二つも早めの納品を期待していますよ」
実は既に用意してあるのだが、早過ぎるので保留扱いにしている。
あまりに早くスキル融合装備品を用意すると目立つので。今更な気もするけど。
「あとは、竜革の防具だがドンドン取り出していくぞ」
「はい。こちらにお願いします」
顔見知りの納品検査担当が待ち受けている。
その横でアイテムボックス操作の詠唱をしている収納担当がスタンバイ状態だ。
もはや、いつもの手慣れた単純作業だ。
こちらもアイテムボックスからドンドンと防具を出していく。
竜革のジャケットが60個、竜革のグローブが60個、竜革の靴が60個だ。
特にジャケットはデカいのだが、検品も熟練者がやっているので大して時間はかからない。
形状が余程おかしくはない限り、装備品としてアイテムボックスに収納できれば、壊れていることはないので。
置き場所が無くならない程度に、テンポよく防具を取り出して渡していく。
:
:
:
とはいえ数が数なので時間は少しかかったが、全防具について問題なく検品は完了。
「納品物に問題はありません。では、報酬の竜革と革をお渡ししますので確認をお願いします」
「了解」
竜革を300枚と革を20枚だ。
ひたすら数を数えながらアイテムボックスに収納していく。
もう慣れた、慣れたぞ・・・・・・。
無心で数を数えて、契約通りの報酬の素材数であることを確認。
「素材の数に問題はない」
「では、こちらに署名をお願いします」
提示された書類を確認して、署名を実施。
「次の竜革防具の作業委託契約をされますよね?」
「次・・・・・・か」
まあ、するしかないよな。
別の日に来て、契約するほど暇ではない。暇ではないのだが・・・・・・。
「同じ契約で問題ないですよね?」
「ああ、問題ない」
となると、また怒涛の素材収納作業になるのか。
「では、私は書類を用意して参りますので、この者から素材を受け取ってください。
既に何度もやっておられますから、数も分かりますよね?」
「・・・・・・」
黙って頷くしかない。
:
:
:
ひたすら数を数えながら、竜革と革の素材を収納していく。
終わった。ようやく終わったぞ。
こちらの作業の終わりを見計らっていたのか、事務方の男が近づいてきた。
「武器鑑定も終了しました。契約通りのスキル融合装備品であることは確認できました。
こちらが報酬のカードになります」
「ありがとう」
モンスターカードと添えられたメモを受け取り、リュックに仕舞った。
今日はこればっかりだな。
「では、こちらが4回目のスキル融合装備品の契約となります」
「もう次の契約分をやるのか?」
「ええ、まだまだ待っている迷宮探索者が後を絶たないので」
マジっすか。
でも、冷静に考えれば二回半分の納品でも16個しか納品してないのか。
求めている人達の数はもっと多いと。
候補となるスキル融合装備品を確認。
「激情のダマスカス鋼剣、頑強のダマスカス鋼盾、頑強のダマスカス鋼プレートメイルを
2つずつでどうだろう?」
「そうですね。問題ないと思います」
やっぱりドブローの連中は、ダマスカス鋼大好きの者が多いのではないだろうか。
「では、素材の受取をそちらでお願いします。
私は記載してもらったモンスターカードを取ってきますので」
「よろしく頼む・・・・・・」
おおぉ・・・・・・また素材の受け取りか。いや、必要なことだからやりますけどね。
ダマスカス鋼230個、革40枚、板10枚をひたすら収納していく。
:
:
:
数え終わった頃に事務方の男がやってきて、モンスターカードとメモのセットを提示してきた。
「確かに」
「途中納品でも構いませんので、早めにお願いしますね」
もう笑うしかないな。
まあ、スキル融合装備品の方はもらった素材を全て使い切るほどは装備品の生成をしないから、それほど手間がかかる訳ではない。
作業してくれるのはアミルとミラだから、俺が偉そうに言う話でもないが。
スキル融合装備品の新規契約とモンスターカードの報酬受領があるから、他の者には任せられないのだよなぁ。
納品作業を実施して、素材をただ受け取るだけなら俺じゃなくてもできるのだろうが。
素材とカードを得る貴重な機会だから、頑張るけどね。
「では、これで終わりかな?」
「いえ、会長が何やら頼みごとがあるらしいので、これから一緒に会長の部屋に行きましょう」
まだ、何かあるのか。会長室での頼み事は要注意だ。
彼の後を追いながら、会長室へと向かう。
・・・・・・
「これを帝都の鍛冶師協会のフランツ会長に届けてくれ」
「・・・・・・」
ワーレン会長が無造作に手紙らしきものをテーブルの上に投げ捨てた。
手紙をあまり丁寧に扱ってないように見えるのは、どういうことなのだろうか?
そしてドブローの鍛冶師ギルドの会長から、帝都の鍛冶師協会の会長に手紙を届けるのに俺が必要なのだろうか?解せぬ。
「ただ、届けるだけで宜しいのですか?何か伝言などは・・・・・・」
「伝言などない!それに手紙の主はバルドルフだ」
ああ、先日フランツ会長から隻眼の男に届けた手紙の返信って訳か。
それにしても、このワーレン会長とフランツ会長は仲が悪いのだろうか。
俺の知ったことはでないが。
どうせ帝都の鍛冶師協会には委託契約の納品があるので、この後に行く予定だ。
手紙の返信を渡せば報酬が上がることになっているので、丁度良いと言えば丁度良い。
手紙の主がバルドルフなので、手紙を渡す報酬をワーレン会長に要求するのは筋違いか。
報酬の二重取りになるし、バルドルフには空きスロット5つの聖槍をもらった恩があるので普通に届けるか。
「では、確かに承りました。
今日はこの後に帝都に行きますので、フランツ会長にお会いできればお渡しします」
「頼んだぞ」
言うだけ言うと、ワーレン会長は再び手元の書類に目を通し始めた。
もう用はないということか。
事務方の男と顔を見合わせ、二人で会長室を後にした。
「なんか、イロイロと大変ですね?」
「どうだろうな。ところでワーレン会長とフランツ会長ってのは仲が悪いのか?」
彼は小首を傾げている。
「さあ、どうなのでしょうか。あまり聞いたことないですね。
ああ、でも隻眼のバルドルフさんと三人で古い付き合いだからバルドルフさんに訊けば
何か知ってるかもしれませんよ」
「ふーん」
まあ、仲が良くても悪くても、俺の今日の仕事はただの郵便配達人だ。
今日の作業を見る限りは、どちらかというと運送会社のトラック運転手な気もするが。
「では、世話になったな。これから帝都に向かうので」
「はい。お疲れさまでした。スキル融合装備品の早い納品をお待ちしておりますので」
待っているのは俺ではなく、スキル装備品と。
彼と別れて、移動用の壁から帝都の冒険者ギルドにワープした。
ギルドを出て、鍛冶師協会に向かう。
帝都は相変わらず賑やかだな。
クーラタルと違って、華やかさを感じるのは歩いている人達が裕福な者が多いからだろうか。
俺はクーラタルやドブローの方が好きだけどね。
銀座よりも秋葉原の方が好きとかそんな感じだ。
鍛冶師協会の通用口から事務室の方に向かう。
もう、出入りの業者と同じだな。
事務室でスタッフと思しき者を呼び止めて、用件を伝えた。
納品と会長宛の手紙をドブローのワーレン会長に持ってきたことを説明。
手紙は直接手渡ししたいことも付け加えた。
さすがに会長に直ぐに会うのは無理か。あっそうだ。
「会長には、この前依頼された手紙の返信と伝えていただけますか?」
「はい。承知しました」
こう言っておけば直ぐには無理でも、全く会ってもらえないということはないだろう。
事務室はそれなりに混んでいるので、壁際の椅子に座って待つことにした。
暫くすると声をかけられたので、納品の順番がきたのだろう。
「会長が今からお会いするそうです。付いてきていただけますか?」
「分かりました」
今日はこのパターンが二度目だな。
・・・・・・
「バルドルフから手紙を預かってきたそうだな?」
「はい。こちらになります。ワーレン会長からフランツ会長に届けるようにと」
ワーレン会長の名を出した瞬間、表情が少し厳しくなった気がした。失敗だったか。
フランツ会長は手紙を手に取ると、内容を確認し始めた。
こちらとしては待つしかないが、なんとも重苦しい雰囲気だ。
一通り読み終えたのか、目を瞑って小さくつぶやくような声を発した。
「返事を書くので、事務室で待つように」
またですか?本当に郵便配達人だよ。
一緒に来た事務員と共に会長室を後にした。
事務員に納品の際の報酬の件を説明。
「こちらの契約書にある通り、会長からの手紙を相手に届けるだけで報酬が二倍、
返信をもらってくると三倍になると記載されています」
「ああ、会長から伺ってますから大丈夫ですよ。
今回の納品の報酬を三倍にしておきますから。
検品作業が終わったら素材を渡しますので。
それで、次の委託契約も受けられますか?」
こちらとしては頷くしかない。
「次の委託契約も手紙の受け渡しの報酬の記載をお願いします」
「はい。分かりました。会長に伝えておきます」
こうなったら、ただ働きは御免だ。報酬アップを狙わせてもらおう。
帝都の作業委託契約はダマスカス鋼の防具類だ。
ひたすらダマスカス鋼のプレートメイル、盾、額金を取り出して検品台の上に置いていく。
検品担当がそれを次々にチェックして、別の担当が受け取ってアイテムボックスへ。
納品作業の流れはドブローと一緒だ。
一通り納品物を取り出すと、別の担当者が来て次の契約の素材を出してくるので、今度はこちらがアイテムボックスへ収納していく。
ひたすら、ひたすら素材の個数を数えながら放り込む作業。
午後に実施した無心の素材、納品物の出し入れの作業で、神官のジョブが取れそうに思えるぐらいの集中力。
既に神官のジョブは取得済だが。
収納作業を完了。
「素材の数に問題ありません」
「はい。ありがとうございます。
こちらが次回契約の書類となりますので、確認の上、署名をお願いします。
それと前回契約の納品物は特に問題ありませんでした。
3倍にした報酬の素材をこちらの担当から受け取って下さい」
書類を確認した後、署名をして返却。
そして、最後の素材収納作業を気力を振り絞って実施・・・・・・して完了。
これ、また十数日後ぐらいにやるんだよなぁ。
楽して素材がたくさん取得できると思っていたのだが・・・・・・まあ、迷宮に行ってひたすら素材のドロップを集めるよりは遥かに楽なはずだと割り切ろう。
「そして、これがフランツ会長からの手紙です。バルドルフ様にお渡し下さい」
「あなたは、何故バルドルフが帝都からドブローに移動したのか知ってますか?」
彼は曖昧な笑みを浮かべたまま、首を縦にも横にも振らない。
知ってるのか?・・・・・・教えてくれよ~気になるじゃないか。
これ以上は、問答無用とばかり、彼は礼をして去っていった。
はあ~。まあ手紙を届けるだけの簡単なお仕事なので・・・・・・最後にドブローに行ってくるか。
鍛冶師協会を出て、適当な木陰からドブローの冒険者ギルドにワープで移動。
バルドルフの住んでいる家に向かった。
・・・・・・
(ドン、ドン・・・・・・)
心持ちドアを強めにノックというか叩いた。
酒盛りしていたら、強めに叩かないと聞こえないと思ったので。
どうせ飲んでいるような気がするけど。
ドアが開くと、見たことのない女性が。
「あら、どちら様かしら?」
「あ、えーと、バルドルフさんにお届け物がありまして・・・・・・」
出てきたのは、少しおっとりした感じのドワーフの女性。
(鑑定)
パミラ(ドワーフ族 ♀42才)
鍛冶師Lv73
Lv73は凄いな。今まで見た鍛冶師の中で一番レベルが高いぞ。
俺のボーナススキルでレベリングしたアミルには負けるけど、圧巻だ。
年齢は重ねているが、見た目は可愛い系の女性だ。
「そう。ちょっと待っていてもらえるかしら」
「はい」
彼女は奥に引っ込んでいった。バルドルフを呼びに行ったのだろうか。
やがて、彼女が戻ってきたが、バルドルフは連れていない。
「こちらへどうぞ」
「はい。お邪魔します」
ひょっとして、この女性は隻眼の一番弟子なのだろうか。
彼女に連れられて、いつぞや酒盛りしていた部屋に連れていかれた。
部屋はあの時と違って散らかってはいない。
「よう」
「あ、どうも」
なんか悪い事していないのに、委縮して丁寧な言葉になってしまう。
部屋のテーブルの席に着いていたバルドルフに椅子に座るように促された。
「フランツ会長から手紙を預かってきました」
「・・・・・・」
手紙を差し出すと、無言で受け取って、そのまま中身を読み始めた。
この前はルッソの三十年物とかいうドワーフ殺しの酒を持ってきたのだが、今回は手ぶらだったから機嫌が悪いのだろうか。
居心地がとても悪いのだが、パミラさんというゆるふわ可愛い系の女性がそばにいるから、この隻眼の男がいきなり暴れたりはしないと信じたい。
やがて、読み終えたのかバルドルフは大きくため息をついた。
「返事を書くから、ちょっと待っていてくれないか」
ええぇ~またですか?
(バキンッ・・・・・・)
物凄い音がした方向に視線を向けると、椅子の背もたれの一部が粉々になっている。
「あら、この椅子は古くなってたのかしら?」
「そんなことはないだろう・・・・・・」
何やらバルドルフが目を見開いて、彼女を見ている。
彼女の掌から、粉々になった木片の粉がパラパラと落ちていますけど・・・・・・こ、怖っ~。
「それで、あなたはいつまで帝都の会長と文通ごっこをしているのかしら?」
「・・・・・・」
この女性、バルドルフの奥さんだったのか。
というか、この前昼間から大酒を飲んでいたから、てっきり独身だと思っていたのだが。
ゆるふわ系の笑顔の目が全く笑っていないぞ。
隻眼の男がマジでビビっている。
決してレベル補正の効果ではないのだろうが、鍛冶師Lv73が隻眼Lv27を威圧している。
「あ、あの返事でしたら、また後日にでも取りにきますけど」
「
「ひ、ひゃい・・・・・・」
メッチャ怖いんですけど。
百鬼夜行Lv76でもビビるのだから、レベル補正は関係ないようだ。
「そうは言ってもだなぁ。ここまで来たら、なかなか簡単にはだなぁ・・・・・・」
(バキンッ・・・・・・)
椅子の一部がまた欠けた・・・・・・。なんだコレは?ホラーだ。
「一度、三人で話し合ってみたらどうかしら?」
「・・・・・・」
バルドルフが無言でコクコク頷いている。
俺も同調圧力で何故か頷いてしまった。
「で、では、私はお邪魔でしょうから、これでお暇させていただこうかなぁ~なんて」
「あら、あなたはこのまま帰ってもらう訳にはいきませんわ」
えっ、えっえぇ~なんで?
俺は通りすがりの郵便配達人なのですけど。
「面倒なことに巻き込んでしまったのだから、お土産を持って帰っていただかないと」
「そ、そうだな。お前、この前の倉庫から好きな物を好きなだけ持っていけっ!」
そんな滅茶苦茶な・・・・・・。
けど、怖い思いをしたのだから
「一緒に選んでやるから、付いてこい」
「・・・・・・」
二人でパミラさんの前から戦略的撤退することにした。
倉庫の中でオリハルコンの剣を鑑定をしながら、小声で会話。
「お前、あんな奥さんのいる家で、よく昼間っから酒を飲んでいられたな?」
「この前もらったルッソの三十年物を一人で飲んでるのがバレて、ぶん殴られたんだよ」
酒飲んでたのがバレたから・・・・・・じゃなくて、独り占めしていたから殴られた?
まあ、いいや。ここは早く立ち去ろう。
この前見た時に少しだけ悩んだ、空きスロットが5つのオリハルコンの両手剣を掴んだ。
「これで頼む」
「バカっ、お前、俺を殺す気か?」
ん?どういう意味だ。
「剣一本だと迷惑料としては安過ぎて、俺が母ちゃんにぶん殴られるだろうが。
追加で2、3本持ってけっての!」
「マジかよ」
いや、くれるのならいくらでももらうけど、手紙一通に大袈裟じゃないか。
でも、せっかくだから、良さげな武器を鑑定しまくって選ばせてもらおう。
防具は確か空きスロットの数が少ないものしかなかったから、武器を中心にチェック。
この前の剣とスルーしたオリハルコンの槍か。後は空きスロットが4つが最高だな。
オリハルコンの剣 両手剣
スキル 空き 空き 空き 空き 空き
オリハルコンの槍 槍
スキル 空き 空き 空き 空き 空き
「4つだ。全部で4つ選んでくれ!この通り頼むから・・・・・・」
聖槍 槍
スキル 空き 空き 空き 空き
聖槍 槍
スキル 空き 空き 空き 空き
聖槍を二本追加するか。
武闘派魔法使いが多いから、きっと役立つだろう。
「槍ばっかりだな。槍マニアなのか?」
「いや、槍の方がかさ張るから、お土産としての奥さんへの受けも良いだろう?」
もはや、俺の言っていることも謎理論だ。
かさ張るけど、槍を三本とオリハルコンの剣を持って、倉庫から元の部屋に。
「こんなに、バルドルフさんにお土産もらってしまって、申し訳ないです(棒読み)」
「あらあら、いくつでも持っていって構わないのよ~」
マジっすか、また来ようかな。バルドルフも無言でコクコク頷いている。
「では、これで失礼します」
「また、いつでもいらっしゃいねぇ~」
バルドルフはもはや、会津の赤べこ人形のように首を縦に振るだけの置物と化している。
この後、彼がどのような目に遭うのかとっても興味はあるのだが、巻き添えが嫌なので早々に立ち去ることにした。
なんか午後は凄い疲れる作業が多かったが、最後が一番骨身に応えたような。
それに・・・・・・アミルも将来、あんな風になるのだろうか?とっても不安だ。
適当な木陰からクーラタルの自宅にワープで戻ることにした。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿日は2026/2/17(火)の予定です。