異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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061.子爵からの依頼

 エネドラを秘密基地(桃源郷)で労った翌朝は、早朝から忙しかった。

 結局、彼女の被っていた皮の帽子(スイミングキャップ)は外れてしまい、頭も体もオイル塗れの酷い状況に。

 チクルスの時と同じ惨状になってしまった。

 

 髪の毛の多い女性に、あの帽子は無理があるのかなぁ。

 それはともかく、疲労困憊でぐっすりと寝ていた彼女を優しく起こしながら、書斎の壁からワープゲートを風呂場に繋げて二人で移動。

 小部屋から書斎の壁までの間は、汚れ対策にマットを敷いてある。

 

 風呂場で彼女の頭から足の先まで付着したオイルを丁寧にお湯で流して、石鹸を体中に塗って更にお湯で(すす)ぐ。

 

「エネドラ、大丈夫か?」

「・・・・・・」

 大丈夫じゃなくした本人に言われても、説得力がないのだろうか。

 

 心なしか、彼女もまだ放心状態のようだ。

 

 なんか昨晩のことが思い出されて、妙な気分になりそうだが・・・・・・これ以上はいけない。

 自分も頭と体を急いで洗い流して、大きな布で彼女を包み込み、彼女の部屋にワープゲートを繋げて送り出した。

 俺も自室にワープで移動・・・・・・急いでラブホをチェックアウトするカップルのような状態。

 

 

 だが、俺にはまだ過酷な部屋の清掃活動(ラブホのスタッフのお仕事)が待っている。

 まずは秘密基地の中に入って、壁に設置しておいた蛇口からお湯と水を出して、モップもどきを使って床と壁についたオイルを拭き掃除。

 樋に繋がった排水溝からオイルとぬるま湯が一緒に流れていく。

 

 排水溝からキラキラとオイルとお湯が流れていくのが、屋外の樋で見えるのだろうか。

 

 なんだろう、物悲しい気分になってきた。兵どもが夢の跡(つわものどもが ゆめのあと)

 一句詠んでいる場合ではない。

 ひたすら、モップもどきでオイルをこすって綺麗にする。

 ある程度、綺麗になったところで、ローショ●マットに付いたオイルも洗い流す。

 

 準備も大変だったが、後始末はもっと大変だった。

 自分でも何を必死にやっているのだろうか?・・・・・・と疑問を感じなくもない。

 でも、きっとまたやるだろう・・・・・・いや、やらいでか。

 

 尊敬する師匠(原作主人公)に比べれば、風呂を沸かす手間がないに等しい俺の生活で、この程度の苦労から逃げるようでは師匠に申し訳ない。

 次のターゲット(お客様)はアミルにしよう。うん、そうしよう。

 

 無心とは程遠い邪念を抱きながら、ひたすら秘密基地の壁、床、マットを磨き上げ、渇いた布で水分を丹念に拭き取る。

 この大量の布を洗濯に出したら、勘の良いチクルスは何が起こったのか察するかもしれない。

 結局、基地を秘密にしても、やってることは駄々洩れな気がしないでもない。

 まあ、アミルの次のターゲット(お客様)はチクルスにして、共犯にしてしまおう。

 

 水分が粗方拭きとれたところで、解体作業。

 そして、適当に壁へ立て掛けて乾燥作業(暖房装置ON)

 

 これで、朝食を食べ終える頃には乾いているだろう・・・・・・と思いたい。

 

・・・・・・

 

 何食わぬ顔で朝練に参加し、適度に体を動かした後に美味しい朝食をペロリ。

 別に何一つ悪いことをしてないのに、微妙に罪悪感があるのは何故?

 

 急いで自室に戻って、書斎の木製の大楯、ローショ●マットを確認すると無事に乾いていた。

 見つかる前にアイテムボックスに収納。

 これで秘密は守られた(完全犯罪だ)

 

 やはり、秘密基地は秘密裡に運用されてこそ価値があるのだと思う。

 

・・・・・・

 

 その後は迷宮組のメンバーとターレ迷宮48階層に向かい、探索を進めた。

 

 それからの探索は順調で、2日かけて魔物部屋の殲滅、ボス部屋の発見から階層ボス討伐と危なげなく完了した。

 階層ボスのノドグロも超速スキルからの硬直のダマスカス鋼槍の連打で状態異常に追い込み、余裕をもって討伐できた。

 ボスドロップは『トロ』で、通常モンスターであるブラックダイヤツナのレアドロップ品と同じなのは微妙な感じだったが。

 

 途中、46階層の到達報告を入口の兄ちゃんにして無事を喜ばれ、少しだけ罪悪感を覚えた。

 既に48階層まで到達しているからね。

 黙っていて悪いとは思うが、これも迷宮討伐を円滑に進めるためだと割り切っている。

 

 49階層の小部屋に到達した時には、討伐の終わりが近づいてきたと実感した。

 早ければ、あと2つ階層を攻略して終わり。最悪もう一階層増えて51階層までか。

 だが、終わりが近いことには変わりはない。

 最後まで油断せずに、誰も大怪我などを負わず攻略を終えたい。

 

 

・・・・・・

 

 翌日の迷宮探索はお休み。

 新しくザビルで引き受けた奴隷に対して、クーラタルのメンバーに加えるかどうかの面談を行うため、ザビル拠点に行かなければならない。

 

 朝食を終えるとエネドラと共にザビルに移動して、二階の会議室に向かった。

 会議室のドアが開いていて、人の気配がする。

 

 中を覗くと、カラダン、ミシェル、ピコがいる。

 それと幾人かの見知らぬ者達が立っている。

 面談対象者か。

 

 エネドラと共に入室して、カラダンの座る席に向かった。

 

「悪い、遅くなったか?」

「いえ。そのようなことはないのですが・・・・・・」

 なんだ歯切れが悪いな。

 

「実は朝早く、ザビル子爵の使いの者が来て、旦那様宛に伝言がありました。

 なるべく早く、領主の館に来てほしいとのことです」

「えっ?あぁ~そうなのか」

 いきなり出鼻をくじかれたな。

 

「今日は、面談の予定だったのになぁ」

「旦那様、私だけで面談は問題ありませんので、領主様の館に行かれては?」

 そうだな。エネドラに任せるか。

 

 今日の面談メンバーに戦闘奴隷はいなかったはずなので、エネドラに任せても問題ないか。

 

「では、エネドラに任せる。この後、俺は領主の館に行ってくる。

 俺とそちらのどちらが早く終わっても、ここでいったん合流しよう」

「承知いたしました」

 四人と別れて、領主の館に向かった。

 

 領主の館で、門番に用件を伝える。

 用件と言っても、実際の用件は知らないので呼び出しを受けたと説明するだけなのだが。

 

 暫く待っていると、騎士団員の指示で後に付いていくことに。

 前に相談事を受けた時にも行ったことがある領主の執務室に向かっているようだ。

 執務室に直接向かうということは、よほど急いでいるのだろうか。

 

 騎士団員がドアをノックして誰何された後に、案内してくれた男に指示され、室内に入った。

 

 子爵と騎士団長までいるな。しかも完全装備の状態に見える。

 初対面の男性が一人いる。文官か何かだろうか。

 

(鑑定)

 

 

ガルシア・エルナンド・アンザビル(人間族 男 32歳 子爵)

聖騎士Lv11

装備 激情のダマスカス鋼剣 竜革の鎧 竜革の靴 竜革のグローブ 身代わりのミサンガ

 

 

リカルド・エルナンド・アンザビル(人間族 男 42歳 男爵)

聖騎士Lv19

装備 ダマスカス鋼の剣 竜革の鎧 竜革の靴 竜革のグローブ 身代わりのミサンガ

 

エミリオ・ブルーム(人間族 男 36歳 士爵)

魔道士Lv13

装備 ひもろぎのスタッフ アルバ 竜革の靴 竜革のグローブ 身代わりのミサンガ

 

 

 魔道士か。ゴスラー騎士団長と比べるとレベルで見劣りするが、それでも子爵家ともなれば、魔道士クラスの強者がいるのだな。

 

 前回はレドリックとリカルド騎士団長が模擬戦やったのだっけ。

 木刀の二刀流でレドリックが勝ったけど。

 子爵様はレドリックのことを『強そうな剣匠の者』と誤解したのだったよな。

 あの時点で実は、レドリックは剣聖のジョブを取得していたのだが。

 

「まずは、そこに座ってくれ」

「はい」

 リカルド騎士団長が俺に席を勧めてきた。

 

 ゴスラー騎士団長と違った雰囲気なのは、前衛職のジョブだからなのだろうか。

 それよりも、きっと性格の違いだ。

 いきなりレドリックに模擬戦を申し込んでくるぐらいだから。

 

 ザビル子爵は忙しいのか、手元の書類に目を通しながらペンを動かしているように見える。

 

「ザビルの村に迷宮が発生した件は知っているな」

「はい。存じ上げております」

 我が家の奴隷商館で、その村の者を幾人か引き受けたのだから。

 

「端的に言うと、幾つか迷宮攻略に関して協力してほしいことがある」

「具体的にはどのようなことでしょうか?」

 内容も聞かずにオッケーは出せない。

 

 それにしても、子爵様ではなく騎士団長が交渉に当たるのか。

 荒事なので、騎士団長の管轄なのだろうか。

 

「リカルド、一人で勝手に話を進めるな」

「別に構わないだろう?そっちは忙しそうだから」

 なんだ、騎士団長の暴走か?

 

 ハルツ公爵(あちら)の方と違って、ザビル子爵(こちら)の方は暴走と制止役(ボケとツッコミ)が主従逆だな。

 

「もう少しで手が空くので、待っていろ」

「へいへい」

 なんか、軽いノリだなぁ。

 

 ザビル子爵も、なんかざっくばらんな感じだし。

 

 迷宮対応の方は、それほど深刻な状況ではないのだろうか。

 まあ、そんなことないか。村が一つ事実上、壊滅してる訳だし。

 そもそも呼び出し受けてる時点で状況は良くないのだろう。

 

「あの強い兄ちゃんは元気か?」

「今は別の迷宮に探索に出向いております」

 軽いノリでレドリックを貸せとか言われても困るから、予防線を張っておこう。

 

 やがて書類仕事が終わったのか、ザビル子爵がこちらに近づいてきて、騎士団長の隣に座った。

 

「待たせたな。早速だが、本題に入ろう。

 先程、リカルドが言っていたように、新しく出現した迷宮の対応で其方の力を借りたい。

 具体的には、装備品、スキル融合装備の調達、迷宮探索者パーティーの派遣だ。

 可能なら生薬の調達も頼みたい」

「それは、また随分な規模の対応になりますね。

 具体的な数量や対価はどの程度のものでしょうか?」

 タダ働きする気はないので、報酬はキッチリと確認しておきたい。

 

 随分と依頼事項が多いけど、そんなに信用されているのだろうか。

 ああ、でも思い返せば、潰れた防具屋の代わりに出店して、奴隷商館の後釜も用意し、おじゃんになりかけた防具契約の納品もしたな。

 それにレドリックが騎士団長に模擬戦とはいえ、勝利したからなぁ。

 少しは頼りにされるのも致し方ないか。

 

 それにしても、パーティーの派遣か。

 

 ハルツ公からの迷宮探索は、有耶無耶のうちに報酬が分からないまま引き受けたけど、今回は条件闘争だ。

 それに、迷宮組はターレ迷宮の攻略にかかっているので、派遣できるとしても護衛部隊だ。

 護衛部隊を派遣する場合には、人選を考えなければならないな。

 

「武器と鎧はこちらにリストがある。装備品もその下に記載した。

 必要としている生薬はこのリストだ。

 パーティーの方は、この前の剣匠の男は派遣できるのか?」

「ちょ、ちょっと待って下さい・・・・・・」

 いきなり随分と踏み込んできたな。

 

 それに気になる発言があったぞ。

 

装備品の調達

 ダマスカス鋼の剣5、エストック5、ダマスカス鋼の槍5

 ダマスカス鋼のプレートメイル2、ダマスカス鋼の額金15、竜革のジャケット3、

 竜革のグローブ10、竜革の靴10

 

スキル融合装備品の調達

 激情のダマスカス鋼剣 または 激情のエストック

 ひもろぎのスタッフ

 強権のダマスカス鋼槍 または 強権の鋼鉄槍

 耐毒の竜革グローブ または 耐毒の硬革グローブ

 

生薬の調達

 滋養丸300、強壮丸150、毒消し丸200、抗麻痺丸100、万能丸100

 

「我が家は防具屋なので、武器は武器屋に依頼した方が宜しいのでは?

 生薬は薬師ギルドに御相談された方が数が揃えられると思いますが」

「そのザビルの武器屋が、ダマスカス鋼の武器を必要な数だけ調達できないと申してきたのだ。

 他の街の武器屋に調達を依頼するよりも、其方の方で調達できるのなら任せたい。

 本件の依頼に関して、この街の武器屋が其方の店に文句を言わせぬように言い含めておく」

 まあ、この程度の数なら、我が家の倉庫に眠っているので問題ないのだが。

 

 地元の武器屋と揉めたくないので、上手く調整しておいてもらいたい。

 

「薬師ギルドにも協力要請はしてあるが、

 通常の迷宮探索者用の在庫も一定数確保させておかなければならない。

 その在庫を確保した上で供出させ、不足する分をそちらに記載してあるのだ」

「なるほど」

 生薬もまあ、なんとかなるだろう。

 

 倉庫にあるもので足りると思うが、不足するなら生成してもらうこともできるはず。

 生薬素材も倉庫にかなりストックがある。

 

「予算はいかほど、ご用意いただけるのでしょうか?」

「逆に其方はいくら必要だと考えているのだ?」

 安売りはしないぞ。

 

 商人ジョブをセットして、手元のギルド価格メモを見て、カルク、カルク・・・・・・。

 

「そうですね。装備品と生薬を合わせて、ギルド価格で53万3000ナールでしょうか。

 スキル融合装備品は含まれていない価格です。

 スキル融合装備品は79万8000ナールぐらいとなります」

「くっ、白金貨1枚を遥かに超える額か」

 それ以外にも騎士団員への手当や怪我した場合の補償で、予算が膨らむのだろうな。

 

 ザビル領内の年間予算っていかほどなのだろうか。

 

「スキル融合装備品については、

 鍛冶素材とモンスターカードとの交換で予算をお安く抑えることもできますが」

「ほう。それは詳しく聞きたいな」

 ここでも等価交換方式を発動だ。

 

 もっとも必要数10倍分の素材とカードの交換はきっと無理だろうから、一定割合まで下げる必要はあるか。

 

「79万8000ナールの金額の2割ほど、16万ナールを金貨でいただき、

 残りの金額に相当する鍛冶素材とモンスターカードの金額を

 ギルド価格と平均的なクーラタルのオークション落札金額で交換する形はいかがでしょうか。

 先に優先度の高いスキル融合装備品を1つお渡しして、

 ある程度、素材とカードをいただけたら、次の一つをお渡しする形をとることも可能です」

「なるほど、素材とカードを徐々に渡すのだな」

 別に分割払いにしているつもりはないけど、イメージ的にはそんな感じだ。

 

「ただ、スキル融合に必要なカードが集まるのを待っていたら、

 いつまで経っても必要なスキル融合装備品は得られないのではないか?」

「同等のカードであれば、交換に応じさせていただきます。

 現時点でお持ちのカードがあるのなら、それも査定させていただきます」

 なんかブランド買取の怪しい営業マンのような台詞になってきた、

 

「エミリオ、城に蓄えてある素材やモンスターカードがあったはずだが、

 どの程度のものがあるか分かるか?」

「文官に確認して参ります」

 魔道士のエミリオという男は足早に退室していった。

 

「エミリオが戻ってくるまでにもう一つ確認したい。

 其方の家から、ザビルの新迷宮の探索に派遣できるパーティーはいるか?

 この前、リカルドと模擬戦した剣匠の手練れがいただろう?

 あの者が加わったパーティーなら心強い」

「即答はしかねます。

 現在、とある高位貴族様からも迷宮探索の依頼を受けており、

 そちらの対応との兼ね合いもございます故。

 それに実力者を出すとなると、報酬の内容も確認いたしませんと」

 剣聖の安売りはできない。

 

「その言い方だと、こちらよりも位の高い貴族の依頼を受けているようだな。

 報酬というのは、どの程度のものを望んでいるのだ?」

「そうですね。では遠慮なく言わせていただければ・・・・・・」

 なんか、腹の探り合いだな。

 

「仮定の話ではありますが、

 迷宮討伐を我が家で成し得た場合には、威霊仙かエリクサーをいただきたく存じます」

「ほう、迷宮討伐とは大きく出たな。それだけの自信があるということか」

 ザビル子爵の目がスッと細くなった。隣の騎士団長は笑いを噛み殺している。

 

 ひょっとして、騎士団長は俺が冗談を言ってるとでも思っているのだろうか。

 

「いえ、仮に迷宮討伐ができた場合に限っての成功報酬で結構でございます。

 ですが、達成した暁には威霊仙かエリクサーをいただきたいということでございます」

「それは自信があるという意味ではないか」

 まあ、自信はあるが絶対できるとも言えないから、成功報酬なのだ。

 

 迷宮探索者なんて失敗したら命を落とすのだから、元より成功報酬制みたいなものだが。

 

 途中の階層までレドリック達の護衛部隊に攻略を任せて、後から迷宮組が引き継げば、ターレ迷宮の実績を踏まえると最高階層到着レースで負ける気はしない。

 問題があるとしたら、最終階層の迷宮ボスを討伐できるかというところだけだ。

 それもターレ迷宮で感触が掴めるから、今日から10日前後ぐらいで判明するだろう。

 

「ふむ。だが、威霊仙もエリクサーも私の手元にはないな」

「左様ですか」

 子爵でも持っていないのか。

 

 持っていたとしても、大切な者に使うために保管しておくよな。

 大した知り合いでもない者に、ビジネスライクで渡すような安っぽいアイテムではない。

 我が家だって、そうなのだから。

 

 あっさりと交渉の手札を場に出したのは失敗だったか。

 

「だが、威霊仙を所有している者との取引の仲介をすることはできるな。

 それならどうであろうか?」

「おいおい、まさかアイツを紹介しようって訳じゃねぇだろうな?

 あいつの肩を持っても仕方ないだろう?」

 なんだ、問題人物を俺に紹介するつもりか。

 

「その者ならばギルド神殿を持っていけば

 威霊仙の取引に応じる可能性が高いと思っている」

「だから嫌なんだよ」

 騎士団長と反りが合わないのか。

 

「ギルド神殿のみを欲しているのでしたら、降爵間際の貴族の方ということでしょうか?」

「ほう。分かっているではないか」

 『政治』の話をしていた原作主人公の台詞を思い出してしまったぞ。

 

 原作主人公の台詞はともかく、これを機会にザビル子爵派に組み入れられても困るのだけど、それは大丈夫だろうか。

 でも、チクルスの傷を治すためと思えば試す価値はあるか。

 もし、何かつまらない争いに巻き込まれるとしても、最終的には力でねじ伏せる手もある。

 力と言っても、表立って戦う方法ばかりではないし。

 

「その方の求めているギルド神殿というのは一つでしょうか?

 その・・・・・・持っている威霊仙というのは一つだけでしょうか?」

「?・・・・・・ハハハッ、これは参ったぞ。討伐できる迷宮は一つではないと?

 だが、先に出現していた迷宮の方はかなり以前からある迷宮なので、

 今回できた若い迷宮よりは難易度が桁違いだぞ」

 いやいや、この後にターレ迷宮を攻略するので、若い迷宮を2つ討伐するつもりなのだけど。

 

「まあ、全ては迷宮討伐できてからの話ですが」

「そうだな。是非お願いしたいところだ」

 ザビル子爵はどこまで本気で考えているのだろうか。

 

 だが、威霊仙の入手方法を複数持っておくことは悪くないと思う。

 それなりの爵位の貴族にタケダ家の力を見せるのも、必ずしも悪手ではないはず。

 一長一短がありそうだけど。

 

 執務室内が妙に盛り上がってしまったところで、エミリオ士爵が戻ってきた。

 

「おや、何かかなり楽しそうな話をしていたようですね。

 これが今あるモンスターカードと素材の一覧です」

「ふむ・・・・・・」

 士爵から渡された紙をザビル子爵が確認し始めた。

 

 さすがに、直接俺に見せるようなことはしないよな。

 

 ザビル子爵は紙を手に取り、何かを書き込んでいる。

 

「こちらが出せる素材数は、この紙の記載にある通りだ。

 そして、手元にあるモンスターカードはこれだ」

「拝見いたします」

 モンスターカードの方は、士爵が持ってきた紙をそのまま俺に渡してきた。

 

 素材の方は、

 

ダマスカス鋼100、鋼鉄150、竜革50、革200

 

 うーん、流石に竜革は少な目か。

 だが、これだけあれば問題ない。

 

 それにしても、これだけダマスカス鋼と竜革があるのなら、こちらに要求した武器や鎧の一部は揃いそうな気もするのだが。

 高級素材を扱うだけのレベルの高いお抱え鍛冶師がいないのだろうか。

 子爵ぐらいの貴族なら、いてもおかしくない気もするのだけど。

 まあ、もらえるものはもらうけど。

 

 モンスターカードの方はコボルトが28枚で、それ以外が・・・・・・38枚。

 ただし一番多いのが芋虫の3枚で、他は種類毎に1、2枚でホントにバラバラだなぁ。

 この状態だと欲しいスキル融合装備品を狙って、スキル融合を成功させるのは難しいか。

 こちらは絶対成功するから余裕なのだけど。

 

「これだけの鍛冶素材とモンスターカードがあれば、

 ご所望の4つのスキル融合装備品は入手可能です。

 ただし、数日から十日ほどの時間はいただくことになります。

 調達できたものから、逐次お渡しすることは可能です」

「そうか。それは助かる。

 エミリオ、カードを全て放出してしまっても構わぬか?」

 問いかけられたエミリオ士爵は頷いている。

 

「今のまま寝かせておくよりは、スキル融合装備品と交換するのが得策でしょう」

「おい、激情のダマスカス鋼剣は早めに頼むぞ」

 ああ、騎士団長の剣は通常の剣だから、激情のダマスカス鋼剣が欲しい訳ね。

 

「まずは契約を取り交わしてからでしょうか」

「おい、エミリオ、ちゃっちゃっと契約してくれよ」

 この騎士団長、腕は立つけど事務処理はダメっぽいな。

 

 ゴスラー騎士団長のような『苦労人枠』は、ザビルではエミリオ士爵なのだろうか。

 ジョブも同じ魔道士だし。

 

「では、後ほど契約書を作成して、

 事務方の者に館まで届けさせますので確認して返事を下さい」

「承知いたしました」

 書類を受け取るために、またザビルに来なければならないな。

 

「一度、クーラタルの我が家に戻りまして、諸々の準備を確認しておきます。

 それと、今受けている迷宮探索のスケジュールの調整もございますので」

「では、契約書は本日の夕刻に届くように使いを出すことにします」

「迷宮探索に派遣するパーティーの方は、いつでも構わぬ。

 迷宮討伐ができるのであればな」

 おっと、エミリオ士爵は気を使ってもらったが、ザビル子爵は揶揄ってきたな。

 

「いや、迷宮討伐ができる程の奴等ならば、俺が確認(味見)してやろう。

 そいつらを今度連れてきてくれ」

「・・・・・・」

 この騎士団長(脳筋野郎)、何を言ってくれてるの?

 

 そして、ザビル子爵も止める気はないと。

 どうしたものか。まあ、人選は後で考えよう。

 我が家のメンバーには表に出せる者と出せない者がいるからな。

 

「では、後ほど、連れて参ります」

「期待してるぜぇ~」

「リカルド、その辺にしておけ」

 この騎士団長、どこまで本気なのか冗談なのか分からないな。

 

 というか、今までに会ったことのないタイプの貴族だ。

 扱いやすいような、扱いにくいような。

 だが、高圧的な態度ではないから、憎めないところがあるのだよなぁ。

 それはそれとして、キッチリとタケダ家の強さは見せつけるとするか。

 

「では、こちらも急ぎ準備をいたしますので、これでお暇させていただきます」

「早く入手できそうなものから、運び入れてもらうことになると思う。よろしく頼むぞ」

 最後は子爵様も真面目な雰囲気となり、会談は終了となった。

 

 執務室を出て、騎士団員の案内で出口へと向かった。

 

 おかしいな。今日はゆったり面談をして、細々とした事務処理でもしながら、一日が終わると思っていたのだが。

 釈然としないまま領主の館を出て、ザビル拠点に戻ることにした。




お読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿日は2026/2/25(水)の予定です。
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