異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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063.武闘会?

 リカルド騎士団長に連れられた俺達は、領主の執務室を出て練兵場に向かった。

 前にレドリックと模擬戦やった時は騎士団員はほとんどいなかったが、今回はかなり大勢の者が訓練に勤しんでいる。

 だが、練兵場の空気は良くない。

 

 別に周りの騎士団員から威圧されている訳ではなく、男達のむせかえるような汗の臭いが充満しているせいだ。

 女性もいるようだが、大した割合ではなさそう。

 タケダ家の女性メンバーに囲まれている俺は、清々しい空気の中から出たくなくなる気分。

 

 騎士団長を先頭にザビル子爵とエミリオ士爵が続き、その後を俺達五人が練兵場の入り口から姿を現すと少しざわついた雰囲気になった。

 騎士団長が進むと、周りが少しスペースを空けて遠巻きに広がった。

 

「おい、ガリア、その剣を寄越せ!」

「へい、大将」

 ガリアと呼ばれた大柄な男は、手にしていた木の剣を騎士団長に放り投げた。

 

 それにしても山賊団じゃあるまいし、大将呼ばわりに、剣を投げるとか粗暴な集団のようだ。

 ガリアと呼ばれた男も髭面で、見た目は山賊そのもの。騎士団員という感じがしないぞ。

 

 こちらも、アイテムボックスを開いて、木の剣と木刀を取り出した。

 

「ケリー、どれを使う?」

「主、それ・・・・・・」

 彼女が指差した木の剣を差し出した。やはり、盾は使わないのか。

 

 ケリー(チヴィルマ)はヴィルマ達と模擬戦やっている時も、普段から盾は使ってなかったからな。

 他の騎士団員も訓練を止めて、遠巻きに周りを囲み始めた。

 近くの騎士団員を見ると、タケダ菱の入った額金や竜革のジャケットを身に着けている者がいて、なんだか面白い。

 

「主、本気でやってもいい?」

「大怪我させない程度にしろよ」

 ニコニコしながら、彼女が頷いた。

 

「おい、聞こえてるぞ。手加減なんかしやがったら、ぶっ殺すぞ!」

「・・・・・・」

 この男、本当に男爵位の貴族なのだろうか?街のチンピラのような台詞だ。

 

 

「主、行ってくる」

「相手は強いぞ。注意しろよ」

 俺の言葉に頷きながらも、彼女は緊張しているようには見えない。

 

 騎士団長が待ち受ける広場の中央にゆっくりと進んでいく。

 話し方や振る舞いがヴィルマ(師匠)に似ているせいか、ヴィルマがドーリットルと決闘をした時のことを思い出させる。

 

 俺も彼女の右後方から追随して、二人の対峙する中央からやや離れた場所に立った。

 

「見届け人を務めます」

「好きにしろ。直ぐに結果は出る」

 騎士団長は、こちらに視線を向けることなくケリーを見据えている。

 

 これは別に決闘ではないので、見届け人は不要だ。でもせっかくなので、近くで見物したい。

 ヴィルマの決闘の時のような命のやり取りも緊張感もないので、ワクワクしてしまう。

 そして危険だと判断したら、止めることにしよう。

 間に合うかどうか正直自信はないが、近くにいないと止められないからな。

 一応、俺の方も左手に木刀を持っているので、最悪の場合は実力行使だ。

 

 

 百獣王Lv48のケリーと聖騎士Lv19のリカルド騎士団長の模擬戦が始まろうとしている。

 

 レベル補正的には彼女が有利だが、木製の剣だからダメージはあまり関係ないか。

 腕力の効果では聖騎士のジョブは優位だがレベル補正で打ち消されており、敏捷の効果で百獣王のジョブの方が圧倒的に優位な状態だ。

 腕力補正が有効になるのは、剣で鍔迫り合いした時ぐらいなのだろうか。

 その場合って、レベル補正により効果が増減したりするのかな?

 まあ、模擬戦で鍔迫り合いとか、あまり見たことないけど。

 あとは戦闘の経験や剣の技量の差がどの程度あるのか。

 

 

ケリー(狼人族 ♀ 15才 奴隷)

百獣王Lv48

装備 木の剣 竜革のジャケット 竜革の靴 耐火のダマスカス鋼額金 耐毒の竜革グローブ

    身代わりのミサンガ

 

 

リカルド・エルナンド・アンザビル(人間族 男 42歳 男爵)

聖騎士Lv19

装備 木の剣 竜革の鎧 竜革の靴 竜革のグローブ 身代わりのミサンガ

 

 奴隷と男爵位の身分差に加えて、年齢差は実に半分以下。大人げないとも言える。

 装備品に関する差はほとんどないか。

 むすっとした表情の騎士団長とは対照的にケリーはニコニコ顔だ。

 ヴィルマの決闘の話を聞いて、自分もやりたかったのじゃないだろうな。

 

 

 やがて、二人が構えたのを見計らって、右手を上に掲げて下に振り下した。

 

「はじめ!」

 

 

 俺の言葉に反応した訳ではないだろうが、ケリーが一気に騎士団長までの距離を詰める。

 

 鋭く振った彼の横薙ぎの一閃を軽くバックステップで躱して、左右に小刻みに跳びながら、彼女は間を詰め始めた。

 そして、時折ジャブのように刺突を繰り返す。両手剣を使っているのに器用なものだ。

 

「この・・・・・・ちょこまかと、鬱陶しい!」

 

 騎士団長が力を入れて振りぬいた剣戟が彼女を襲う。

 ケリーは下から上に軽く振り上げて剣を当てて、そのまま体を右に流しながら強振した横薙ぎをやや上方にずらした。

 

 そのまま、剣を鋭く突き出して、彼の喉元を狙う。

 ケリーって、こんな器用なことができるのか。

 ヴィルマかレドリックに教わったのだろうか。ヴィルマも意外に器用なんだよな。

 

「うぉっと・・・・・・」

 

 騎士団長は寸前のところで、喉への突きを躱して、距離を取った。

 

「チッ、顔に似合わず、えげつない攻めだ」

 

 彼の言葉には反応せず、無表情になったケリーは次の機会を窺いながら、サイドステップをして間合いを測っている。

 俺達をこの場に引っ張り出すまでの振る舞いを見ていると、頭に血が上り易い男なのかと思ったが、直ぐに突っ込んでこない辺りは冷静な一面もあるのだな。

 そうでなければ、騎士団長など務まらないか。

 

猪口才(ちょこざい)な・・・・・・だが、こいつは楽しめそうだ」

 

 彼女とは対照的に獰猛な笑みを浮かべながら、牽制のために剣を鋭く振るっている。

 体格差によるリーチの優位性を保つために、距離を詰めさせまいとしているのだろうか。

 

 彼女も無理に間を詰めようとせず、騎士団長を中心に半時計回りに一定の距離でサークリングしながら隙を窺っている。

 体力的にはどちらが有利なのだろうか。

 体力ステータスの効果という意味では互角のはずだが、模擬戦が始まってから動いている距離は彼女の方が長いかもしれない。

 

 そこから、ギリギリの間合いの境界を出たり入ったりしながら、ケリーがコツコツと騎士団長の隙を突きながら剣を当てていく。

 だが、決定的な打撃が入らぬまま、膠着状態。

 このまま体力勝負になると、彼女が不利になるかもしれない。

 

 だが、そんな俺の心配をどこ吹く風で、ケリーは鼻歌でも歌い出しそうな楽しそうな表情になり、軽やかなステップで間合いを徐々に詰め、騎士団長へのプレッシャーを強める。

 一方で騎士団長の方も、彼女を舐めた感じで見ることもなくなり、表情を消して繰り出される攻撃を慎重に観察しているようだ。

 この二人の戦い、お互いの表情がコロコロ変わって面白い。

 

 お互いに牽制のための剣を振るい合う、奇妙な膠着状態が続く。

 間延びした膠着ではなく、剣を振るった相手にカウンターを仕掛け合うという、一つ間違えれば決着が着きそうな鋭い斬撃の応酬。

 

 初めにリズムを変えたのは、常に先手を取ってきたケリーだ。

 騎士団長が放つカウンターの斬撃を受け流しながら、懐に迫る・・・・・・のはフェイントで体を急速に右に捻じりながら、鋭い一閃を横薙ぎに入れる。

 なんちゅう、アクロバチックな動きだ。

 慌てて防御のために縦に立てた騎士団長の剣に、今度は体を低く沈ませて下から突き上げるような軌道で鋭く一閃。

 

「力っ!」

 ピンポイントで高速の斬撃か。

 

 口から出た言葉とは全く合ってないが、高い集中力が必要な剣技だ。

 剣の柄の底の部分を強く弾いて、騎士団長の剣が宙に舞った。勝負あったか?

 っていうか、曲芸の域じゃないか?

 

「大将!」

「うっせぇわ」

 ガリアと呼ばれた山賊男の悲鳴に騎士団長が言葉を返す。

 

 だが、彼の闘志が衰えないのを見たのか、ケリーは左上腕に鋭い一撃を見舞った。

 

「痛えな、このクソガキ!」

 いやいや、もうギブアップしろよ。

 

 ケリーに向けて、右の拳をフック気味にぶん回してきた・・・・・・お、大人げねぇ。

 彼女は今度こそ懐に入って拳を躱し、顎に向けてアッパー気味に右の拳を軽くカチ上げた。

 

 左手に木の剣を持ったまま、拳を振るうとか器用な奴だ。

 でも、これで騎士団長は脳を揺らされたかもしない。戦闘の継続は無理じゃないか。

 

 おっと、ケリーが木の剣を上段に振り上げた。これ以上はダメだ。

 素早く彼女の側面に回り、木の剣を振るって彼女の剣を弾き飛ばした。

 

「もう終わりだ!」

「・・・・・・」

 少しふくれっ面した表情が見える。子供か!

 

 

 だが、その後、ケリーは騎士団長の懐に入って、右手首を掴んで背中を彼の腹に付け、背負い投げの要領で地面に叩きつけた。

 左腕を打ち据え、顎に拳を入れて、背負い投げとか・・・・・・お前も容赦ないな。

 年齢差が倍以上だから、大人げないとは言わないけど。

 

 更に何かを仕掛けようとする前に、後ろからケリーを羽交い締めにして、引き離した。

 

「もう、勝負はついたのだから、止めろっての!」

「・・・・・・」

 彼女はジタバタしているが、腕力差と身長差で持ち上げられて何もできない。

 

 チヴィルマだと思っていたが、性格的にはチレーネのようだ。

 というか年齢は成人でも、まだまだ子供なのだろうか。

 強い相手と戦えば、攻撃的な衝動が抑えきれないのかもしれない。

 

 リカルド騎士団長の方に目を向けると、呆然とした表情で天を見上げている。

 

「大丈夫ですか?」

 模擬戦とはいえ、男爵位の貴族を殴りつけて地面にスッ転がしたので少しだけ心配。

 

「こんな小娘に負けるとはな」

「まあ、うちの期待の若手なので」

 狼人族の年齢なんて、人間族の男が見て分かるのだろうか?

 

 まあ小柄だし、会話も子供っぽい(おじさん呼ばわりした)から分かるか。

 

 だが、彼女はナナイ流拳闘術とユキムラ流柔術を学んだ格闘技の猛者なのだ。

 朝練でも時々、素手で組技からの投げとか練習したし。

 迷宮ではコボルト以外には使えないだろうけど。

 それに剣技はヴィルマとレドリックに仕込まれている。末怖ろしい逸材だよな。

 

 だが、彼女がリカルド騎士団長に勝ったと言っても、殺し合いの真剣勝負だったら、別の結果になったかもしれない。

 普段から、様々な戦闘スタイルの相手に模擬戦を積み重ねているから、初対面の相手には強いというのはある。

 

「大将、次は俺にこのガキとやらせて下さい!」

 ここにも大人げない奴がいた。ガリアとかいう山賊男だ。

 

 この騎士団長にして、この部下ありなのかもしれない。

 

「リカルド、手酷くやられたな」

「ああ、油断してないから、言い訳もできねぇ」

 別の騎士団員に抱き起こされながら、彼は負けをアッサリ認めた。

 

 ザビル子爵はケリーにリカルド騎士団長が負けても、あまり気にしてないようだ。

 まあ、そんな気はしていたけど。

 こちらの迷宮探索メンバーの実力が分かれば問題ないだけなのかもしれない。

 

 それはともかく。山賊男が(やかま)しい。

 一戦終わって、少し疲れた感じのケリーに向かって捲し立てている。

 

 

「あたしがお相手します」

 マヤが山賊男とケリーの間に割って入った。

 

 彼女は狼人族の中でも大柄な方なので、山賊男と対峙しても遜色のない体格だ。

 

「チッ、このデカ女を叩きのめしたら、そこのチビの相手もしてやるから待ってろ」

「・・・・・・」

 口にしてはいけない言葉を発した(デカ女呼ばわりした)山賊男を見る彼女の顔は無表情で怖い。

 

 俺に視線を向けた彼女の表情が、『ご主人様、こいつ殺してもいいですか?(訓練中の死亡事故はよくあることですよね?)』と言ってるような気がする。

 それにしても騎士団長に勝ったケリーに山賊男が簡単に勝てるとも思えないのだが、こいつら脳筋(バカ)ばかりなのだろうか。

 

 近接戦闘では、ケリーよりは劣るマヤだが、そんじょそこらの奴よりは強いぞ。

 

 山賊男(ガリア)は戦士Lv27、うちのマヤは剣匠Lv60だ。

 装備、ジョブのスペック的にも負ける要素は全く無い気がするが、どのような戦いになるのか。

 山賊面はもう少しで戦士Lv30到達なので、実は騎士を目指す従士だったりするのかもしれない。

 何か変わった特技か技能でも持っているのだろうか?

 

 それより、この男が騎士団長より若いのには驚いた。髭を剃ると意外に美男子だったりして。

 

 

ガリア(人間族 男 33才)

戦士Lv27

装備 木の剣 硬革の鎧 硬革の靴 硬革のグローブ

 

 

マヤ(狼人族 ♀ 15才 奴隷)

剣匠Lv60

装備 木刀 ダマスカス鋼の盾 竜革のジャケット 竜革の靴 耐火のダマスカス鋼額金

   耐毒の竜革グローブ 身代わりのミサンガ

 

 

 マヤの持つ木刀は長巻型片手剣と通常の片手剣の中間ぐらいの長さの木刀。

 一方のガリアの持つ木の両手剣は幅広で剣先の長い普通の剣だな。

 見た目には武器のリーチでは、それほど有利、不利はなさそうだ。

 

 対峙する二人の脇で、再び見届け人を務めることにした。こういうのは近くで見ないとね。

 

 

「はじめ!」

 

 ガリアがジリジリと距離を詰めていく。意外に冷静か?

 一方でマヤは足を止めて待ち受ける彼女のいつもの戦闘スタイル。

 

 両手でマン振りの一撃を見舞うが、マヤは冷静に盾で受け止める。

 盾がダマスカス鋼製というのもあって、全くダメージが通っている気がしない。

 

 その後も山賊男は激しく木の剣を連続で振り抜くが、全て彼女は盾で受け流す。

 初撃だけダメージ確認のためにまともに受け、二撃目以降は受け流しているな。

 マヤは防御のスペシャリストだから、朝練でも両ひざを柔らかく使いながら、斬撃の衝撃を上手く吸収するのだよなぁ。

 山賊男の攻撃でダメージは全くないはずだ。

 竜人族のトカラの攻撃を立て続けに受けてもびくともしないし。まあ、彼は魔法使いだけど。

 

「この野郎、装備品の良さが全てじゃねぇぞ!」

「・・・・・・」

 彼女は挑発には乗らず、淡々と攻撃を受け流している。

 

 

「あのデカ女は、地味だが基礎がちゃんとできているな」

「・・・・・・」

 回復したリカルド騎士団長が俺の近くに寄って話し掛けてきた。

 

 僧侶のジョブの者に手当でも受けたのだろうか。

 

 それはともかく、見届け人(審判)に話しかけないでほしい。

 気が散るというか、良い場面を見落とすから。

 

 あと、マヤに聞こえる距離で、癇に障る暴言(デカ女呼ばわり)は控えてほしい。

 領主や文官はそうでもないけど、ザビル騎士団の男共はガサツな連中が多い気がするぞ。

 

「・・・・・・、ラッシュ!」

 あっ、山賊(この馬鹿)野郎はスキル攻撃を使いやがった。

 

 マヤは気にした風もなく盾で受け止めて、立ち位置を変えもしない。

 というか、初めからほとんど動いていないな。

 

「やるねぇ。ガリアの攻撃が全く通じねぇじゃないか」

 背後を振り向けないけど、騎士団長はきっとニヤニヤしているに違いない。

 

 だから、気が散るっての。邪魔くさいな。

 

「・・・・・・、ラッシュ!」

「・・・・・・、スラッシュ!」

 山賊男のラッシュを再び受け止め、カウンターでマヤがスキル攻撃を返した。

 

 彼女のスラッシュで左の膝部分を痛打したのか、髭面男が蹲って足を抱えている。

 

「ガリア、てめえの負けだ!」

「・・・・・・」

 見届け人(審判)は俺なのだけど。まあ、勝負がついたのは誰の目にも明らかだな。

 

 

「お前の家には、面白そうな奴がたくさんいるな。次は俺だ」

「・・・・・・」

 もはや、武闘会の様相を呈してきた気がする。

 

 

「では、次は私が」

 

 マヤとリカルド騎士団長の間に、今度は両手に剣を持ったモニカが割って入ってきた。

 うちの連中も好戦的だ。

 

「この前のレドリックとかいう奴と同じ剣匠か?」

「・・・・・・」

 モニカは薄っすらと笑みを浮かべ、気負った様子もなく自信に満ちているように見える。

 

 

 ケリーと騎士団長の戦いを見て、勝てる算段がついたのだろうか。

 ケリーやマリーの戦い方はトリッキーだから、イマイチ参考にならない気もするけど。

 

 彼女は両手剣である木の剣ではなく、片手剣である木刀を二本持っている。

 取り回しの良さで木刀を選択したのだろうか。いや、剣聖のジョブを隠すためか。

 あるいはレドリックが木刀二本で騎士団長に勝ったので、対抗意識なのかもしれない。

 

 

 剣聖Lv49のモニカと聖騎士Lv19の騎士団長・・・・・・レベル差的には先程のケリー戦と同じ程度。

 前回、レドリックが模擬戦で勝った時の剣聖のジョブは、Lv30を少し超えた程度だったか。

 剣聖のジョブと現在のレベルで、腕力、敏捷の効果が彼女に有利に働くだろう。

 そして手数では二刀流のモニカが有利だが、剣の技量と戦闘経験の差は不明だ。

 

 

モニカ(人間族 女 20才 奴隷)

剣聖Lv49

装備 木刀 木刀 竜革のジャケット 竜革の靴 耐火のダマスカス鋼額金 耐毒の竜革グローブ

    身代わりのミサンガ

 

ジョブ 剣聖

効果 腕力中上昇 敏捷小上昇 HP小上昇

スキル ダブルスラッシュ 二刀流(片手剣/両手剣) クリティカル発生

 

 これは結構、面白い戦いになるかもしれない。是非、近くでジックリ見させてもらおう。

 

 

 騎士団長とモニカが対峙した。

 両方とも笑みはなく、真剣な表情。

 

 

「はじめ!」

 

 俺の声と共に、モニカが素早く距離を詰めた。

 ケリーの時と同じく、騎士団長の横一閃の剣戟をモニカは左の木刀で迎え撃ち、右の木刀で鋭く突きを見舞う。

 

 バックステップで下がる騎士団長を追いながら、二本の木刀でモニカは激しく攻撃を加える。

 レドリックが流れるような『静』の剣なら、モニカは激しく攻撃する『動』の剣だ。

 

 相手を追いながら、彼女の斬撃の手数はますます増えていく。

 このまま、相手に何もさせずに圧殺するつもりか。

 

「このっ!」

 

 下から上にカチ上げるような斬撃を騎士団長が見舞うと、ようやく彼女はバックステップで大きく下がった。

 

 そして、また間合いの詰め合い。

 間が詰まるとモニカの二本の斬撃が襲い掛かり、手数の勝負で押していく。

 反撃をしようとしても、彼女のカウンターで返される・・・・・・の繰り返し。

 時々、厳しい一撃が入っているように見えるのは、剣聖のスキル『クリティカル発生』の効果が出ているのだろうか。

 木刀だから大したダメージがないとはいえ、やられる側は地味に嫌だろうな。

 

 やがて、騎士団長は今までよりも大きくバックステップ下がって、剣を下した。

 

「ダメだ、こりゃ。俺の負けだな」

 

 

 騎士団長がアッサリ負けを認めたので、モニカも剣を下げて一礼して戻ってきた。

 モニカも結構、強くなったな。

 彼女はヴィルマやイレーネ達と普段の訓練で、カウンターの取り合いをして鍛えているからな。

 

 まだ、あの騎士団長は何か隠し持ってそうな気もするが、それはこちら(モニカ)も同じだ。

 結果は、まずまずだな。

 

 ザビル騎士団とタケダ軍の大将格の戦いが終わったところで、フラウスが前に出てきた。

 目の前で熱い戦いをやられたら、我慢できないよね。

 

 木の槍を右手に持って、上に掲げてゆっくりと中央に歩き出した。

 

「次は俺だ」

「馬鹿、お前はさっき負けたばかりだろうが。次は俺だ」

 騎士団員(山賊)同士がいがみ合っている。

 

 ガリアと口論しているのは、似たような髭面の男だ。

 

 こいつら本当に山賊上がりじゃないのか?

 ザビル騎士団の男衆がガサツ過ぎる。

 

(ガンッ・・・・・・)

 

(ゴンッ・・・・・・)

 

 山賊二人の頭に木の棒がめり込んだ。

 こいつら頭装備を着けていないから、すごく痛いのじゃないか?

 

 木の棒ではなく、木の槍か。

 槍を持った人間族の女性が、頭を抱える山賊二人を石突で更に蹴散らしている。

 

 

(鑑定)

 

 

ユリア・グラフ(人間族 女 26歳 士爵)

騎士Lv14

装備 木の槍 竜革のジャケット 竜革の靴 竜革のグローブ

 

 前言撤回。ザビル騎士団は男だけじゃなく女騎士もガサツのようだ。

 でも、彼女の装備している竜革のグローブはタケダ菱が刻印されているので好感度は高いぞ。

 それに、ゴッゼル士爵様よりも年齢が少し若いけど、ジョブのレベルは高いな。

 

 

「ユリア、次は俺がだなぁ・・・・・・」

「二度も負けた男はすっこんでな!」

 騎士団長が一喝されてる。騎士団における男爵と士爵に階級差はないのだろうか?

 

 リカルド騎士団長に向けて、この女騎士は槍を横薙ぎに振ったぞ。

 木製とはいえ、彼が跳び退らなければ槍先が当たっていたと思う。

 

 ブツブツ言いながら、騎士団長が俺の近くにやってきた。

 邪魔だから、別の所に行ってほしいのだが。

 

 

 次は、斎王Lv45のフラウスと騎士Lv14の女騎士様か。

 レベル補正的には有利だが、斎王には近接戦闘に有利なステータス向上の効果がない。

 MP中上昇、知力小上昇、精神微上昇で、どちらかと言えば後衛向きだ。

 

 タケダ家に来る前は近接戦闘をバリバリこなしていて、今でも近接戦闘の手練れ達と訓練を欠かしてないから心配いらないだろうけど。

 それに顔や体の露出している部分が傷だらけの彼女は、槍を持った歴戦の戦士にしか見えない。

 

 

フラウス(狼人族 ♀ 21才 奴隷) 

斎王Lv45

装備 木の槍 竜革のジャケット 竜革の靴 耐火のダマスカス鋼の額金 耐毒の竜革グローブ

    身代わりのミサンガ

 

 

 中央で対峙した二人。今回も俺は近場の特等席だ。

 

 ユリア士爵の方は、もう喜びにあふれんばかりの表情。

 対してフラウスの方は無表情に近い。

 だけど、どちらも()る気満々に見える。

 

 

「はじめ!」

 

 

 開始の合図を出したが、二人ともほとんど動かない。

 槍の穂先をユラユラ揺らしながら、お互いの間合いを測っているようだ。

 

 先に仕掛けたのは士爵の方。

 腰の入った鋭い突きが放たれたが、フラウスが軽くいなした。

 乾いた音を立てて、槍の柄同士が当たった音が練兵場に響いた。

 

 その後もお互いの品定めをするように、代わる代わる槍の攻防が行われる。

 木の槍なのだが、二人の攻防は優雅な薙刀の演武に見えてしまう。

 ガサツな女騎士のイメージだったので、女海賊が銛を使うような戦いをするのかと思っていたら、そんなことはなかった。

 

 

 突然リズムを変えて、士爵が鋭い突きを見舞った。

 フラウスは逆に踏み込んで、穂先を槍の柄で逸らして、石突で士爵のジャケットの胸部を叩いた。

 

「グッ・・・・・・」

 士爵の表情が少しだけ歪む。

 

 ここでムキになって攻撃を仕掛けるようなことはせず、士爵は再び演武のような攻撃を再開。

 また暫く膠着状態が続く。

 これは、終わらないな。

 

 少しずつ槍の動きが速く、鋭くなっていくが、どちらも過度に踏み込もうとはしない。

 だが、どちらも楽しそうなことだけは感じ取れる。

 フラウスも無表情を装っているが、満面の笑みを浮かべる士爵同様に楽しんでいるはずだ。

 

 彼女はタケダ家の槍二刀流のオリビアや、基本に忠実なヘルミーネ、その他数多くの槍使い達と修練している。

 その訓練の成果が示せて、楽しいかのかもしれない。

 

 最近では、迷宮組でも槍ブームが起きていたな。あれは対空中戦特化だけど。

 

 

「引き分けです。もう、終わりにしましょう」

 

 俺の言葉に、二人はゆっくりと後退した。

 

 こんなところで十分だろう。

 何かリカルド騎士団長の目論んでいた趣旨と違った気もするが、迷宮に派遣する護衛部隊の実力は披露できたはず。

 

 そして、ザビル騎士団の実力の片鱗も見せてもらった。

 騎士団だから、他国との戦争や盗賊討伐など本気の対人戦になった時の実力はまた数段階上がるのかもしれない。

 それでも、タケダ家の実力が全く歯が立たないということはなさそうだ。

 

 ベイルでゴッゼル士爵家と対抗戦をやった頃に比べると、タケダ家の戦力は増強したと思う。

 あの時は迷宮組を前面に出して戦ったが、今回は護衛部隊だ。タケダ家も層が厚くなったな。

 

 

 それにしても、このまま延々と模擬戦をやる訳にはいかない。

 五人で壁際の方に退避することにした。

 ザビル子爵とエミリオ士爵が連れだって近づいてくる。

 少し遅れて、リカルド騎士団長とユリア士爵も合流してきた。

 

 

「それで、こちらの四人は迷宮探索に貸してもらえるのだな?」

「我が家はメンバーが日替わりですけど、おおよそ似たような戦力の者を出す予定です。

 レドリックも毎日ではないですけど、派遣しますよ」

 ザビル子爵の目的って、やっぱりそれ(戦力確認)か?

 

 騎士団長の暴走を止めてくれないから、途中から存在を忘れていました。

 俺が模擬戦の観戦に夢中だっただけかもしれないが。

 

「これほどのメンバーがまだいるのか?」

「まあ、うちには猪口才な奴等がそれなりにいますので」

 騎士団長がケリーを猪口才呼ばわりしたので、嫌味を言ってみる。

 

「マジか、じゃあ、次に来るときは別の奴を連れてこい!模擬戦しようぜ(味見するぞ)

「・・・・・・」

 沈黙を持ってスルーしよう。

 

(ゴンッ・・・・・・)

 

 あ、ユリア士爵の木の槍が騎士団長の後頭部を小突いた。痛そうな音だ。

 さすがに無茶振りを止めるストッパー役は騎士団内にもいるのか。

 ハルツ公爵領のゴスラー騎士団長と違い、口ではなく手で止めるタイプだが。

 

「あんたは今日は二回も戦ったのだから、次は私だよ!

 それに、私は引き分けなのだから、続きは私だ」

 いつから、勝ち抜き戦になったのだろうか。

 

 ストッパー(苦労人)、プリーズ。

 

「あと、うちの騎士団も頭装備ちゃんとしたの揃えよう。あっちの家みたいに」

 

 確かに、我が家の連中はダマスカス鋼の額金を標準装備にしている。

 おかげで、髪の毛がしっかりとまとまっているので、戦闘の邪魔にはならない。

 

 ユリア士爵は髪をヒモみたいなもので押さえつけているようだけど、フラウスと戦っている時に少しだけ髪が邪魔になっている感じだったな。

 是非、我が家の防具屋に陳列してあるタケダ菱が刻印された額金を購入して下さい。

 

「既にタケダ殿から購入する手はずになっておる」

 何故かユリア士爵が無言でガッツポーズをしている。

 

 賑やかな騎士団だな。

 

 その後、他の騎士団員も四人に模擬戦をしたいとか言い始めやがったが、丁重にお断りした。

 というか腹減ったから、もう帰りたいよ。

 

 二日後に装備品の納品をすることを改めて伝え、お暇させてもらうことにした。

 騎士団の連中は、この後また訓練に励むらしい。

 というか、リカルド騎士団長の模擬戦要求のせいで訓練が中断したのだから、引き続き頑張りたまえと言いたい。

 

 ザビルの拠点に戻り、カラダンに契約が成立したことを説明してクーラタルに帰宅した。




お読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿日は2026/3/1(日)の予定です。
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