異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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065.サプライズ(その2)

 ザビル子爵から要請された納品を終え、作業部屋を出て、カラダンに確認。

 

「カラダンは、このままザビルの拠点に戻るのか?」

「いえ、よろしければ私も村に同行させて下さい」

 迷宮の入口で様子見して帰るだけのつもりだが、カラダンも連れていくか。

 

 それにしても、ちょっと意外だな。商売のネタでも探すのだろうか。

 騎士団の冒険者にも一応確認しておかないと。

 

「同行するのが二人でも構わないでしょうか?」

「ええ、構いませんよ。

 移動用の絨毯のある場所まで行きますので付いてきてください」

 男の案内に二人で付いていく。

 

 やがて、フィールドウォーク用の絨毯が掛けられた壁の前に辿り着いた。

 

「では、こちらのパーティーに入って下さい。

 友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成・・・・・・」

 彼のパーティーに二人で加わった。

 

「冒険者の方でしたっけ。帰りは自分で戻れますか?

 村の中にある迷宮の傍には騎士団員がいますので、直ぐに分かると思いますよ」

「はい、大丈夫です。ここまでで結構です。ありがとうございました」

 冒険者の男がフィールドウォークを唱えた。

 

 カラダンと二人で、ゲートをくぐって村へと移動。

 

 ゲートを出た場所は、村の広場近くにある家の壁だった。

 案内してくれた冒険者のパーティーから外れ、カラダンを俺のパーティーへ加える。

 

 人の気配がする場所がいくつかありそうだな。

 

 家屋の数は、そんなには多くはない。

 全てが見えている訳ではないが、十数軒といったところか。

 

 人の気配がほとんど感じられないし、家畜も全く見えない。

 廃村だからなのだろうが、本当にガランとしていて薄気味悪い。

 

 まだ陽が出ているからマシだが、日が暮れると本当に静まり返って捨てられた村という雰囲気になるのだろうな。

 

 

(索敵)

 

 マップを確認すると、近くにグレーの点が数個ある。

 グレーの点の方に視線を向けると民家らしき所に人影が見えた。

 

 その人影の傍にはザビル子爵から借りたエンブレムと同じ意匠の旗が立てられている。

 少し近づいてみると、民家のドアは開いていて、家の中と外に騎士団員っぽい者がいるな。

 臨時の詰所か何かだろう。

 まずは、情報収集してみるか。

 

 二人で臨時詰所と思しき場所に近づく。

 

 騎士団員の一人が気づいて、声を掛けてきた。

 

「迷宮探索者か?」

「ええと、似たような者です」

 俺の回答が想定と違ったのか、騎士団員は首を傾げた。

 

 リュックからザビル子爵に渡されたエンブレムを取り出し、彼に見せる。

 

「子爵様から、我が家のパーティーを迷宮に派遣するように要請されたので下見に来ました」

「そうか、協力感謝する。何か知りたいことがあれば、可能な限り答えるぞ」

 では、お言葉に甘えさせてもらおう。

 

「ここは、臨時の騎士団の詰所か何かですか?」

「まあ、そうだな。

 騎士団の者も迷宮に派遣するので、その待機場所も兼ねている。

 まだ、騎士団は本格的に活動していないが、装備が整い次第、迷宮に派遣される予定だ。

 ここには生薬も置いてあるし、昼間は僧侶も常駐しているので、

 騎士団員だけでなく、迷宮探索者も万が一負傷したら治療を受けることができる。

 ただし、金はもらうがな」

 最後の言葉のところで、彼は苦笑している。

 

 まあ、ただで生薬を与えたり、治療したりはしないよな。

 そこまで手厚く迷宮探索者を誘致している訳ではないだろうし。

 初期段階はともかく、迷宮を討伐するのは騎士団の責務と思っているはずだ。

 

 『装備が整い次第』と言ってたが、ここにいる騎士団員の防具は硬革製が多いようだ。

 竜革の鎧は一人だけだし、ダマスカス鋼製の装備をしている者は見当たらない。

 我が家からの納品を待っていたのだろうか。

 さすがに、『つい先ほど納品しましたよ』とは言えない。

 ペラペラと客の内部情報を漏らす奴は信用されないからな。

 

 

「あとは、これも金が必要だが、

 ここからザビルの冒険者ギルドまでフィールドウォークで送ることもやっている。

 銀貨1枚で三人まで送ってやるぞ。

 六人パーティーなら銀貨2枚だな」

「なるほど、冒険者がいないパーティーなら、ありがたいですね」

 意外に手厚いサービスだな。

 

 普通は近距離でも一人送って銀貨1枚だ。

 同じパーティーじゃなくても、迷宮探索者同士で話し合っておけば相乗りタクシーのような使い方もできるな。

 我が家も往復の移動をどうするか、後でレドリックと相談しよう。

 

 迷宮でのドロップ品や最高階層の到達案内の報酬などとの兼ね合いだけど、銀貨2枚か・・・・・・その程度を気にしているようじゃ、ここでは稼げないということだな。

 でも行きはどうするのだろうか。

 この近辺の土地鑑はないけど、馬車でここまで来るのは大変なのかもしれない。

 歩いて来られる距離かは知らないが、盗賊の襲撃を受けたぐらいだから治安も悪いのだろう。

 

「ひょっとして冒険者ギルドから、

 ここに来るのも銀貨1枚で三人送ってもらえたりするのですか?」

「そうだな。ギルドには話を通しているのでな」

 そうなのか、では誘致している感じではあるのか。手厚いサービス(送迎無料)はないけど。

 

 

「さすがに食事は用意していないので、そこは自分達でなんとかしてくれ。

 水は、この裏に井戸があるので勝手に使ってもらっても構わない。

 無論、井戸を壊したり、汚したりしたら相応の報いを受けてもらうがな」

「では、こちらに来る者達にも伝えておきます」

 食事についても相談しておかないとならないな。

 

 クーラタルの迷宮探索時は昼に戻ってきて食事していたが、地図のない迷宮だから都合の良い時に帰れるとも限らないだろう。

 こちらの世界では昼食を取るのは少数派かもしれないが、我が家は一日三食にしているので。

 

 あと、もう一つ確認しておくことがあったな。

 

「この村は盗賊に襲われたと伺いましたけど、討伐されたのでしょうか?」

「いや、この村が襲撃された時に幾人か討伐したが、全滅させた訳ではない。

 それもあって、少し多めの騎士団員がここに詰めることになったのだ。

 と言っても、夜になったら引き揚げるがな」

「なるほど、では、村でも迷宮でも注意するように伝えておきます」

 こんなところかな。

 

 一通り、情報収集したので、念のため村全体を索敵でクリアにしておくか。

 

 詰所を離れようかと思っていたら、室内の絨毯から騎士団員が一人現れた。

 

「おい、指示書を届けにきたぞ」

「了解、了解。あれっ、なんだこりゃ?」

 壁の絨毯から出てきた騎士団員から書類を受け取った男が首を傾げている。

 

「なんか、迷宮でドロップする鍛冶素材とモンスターカードを騎士団でも集めるようにってさ」

「はあ?ドロップ品は迷宮へ入ったパーティーのメンバーで自由にできるのじゃないのか?

 なんで、今回はそんな話に?」

 なんとなく、指示の出所に予想がついてしまった。

 

「よく分からんが、姉御からの指示で素材とカードをできるだけ集めろって。

 姉御だけじゃなくて、エミリオ様の署名もあるから、正式な指示書だぞ」

「また、姉御の無茶振りか?」

 あ、姉御って呼ばれているの?・・・・・・それって間違いなくユリア士爵だよね?

 

「まさか、迷宮探索者からも集めろという指示じゃないだろうな?」

「さすがに姉御もそこまでは言わないのじゃないか?」

 本当にそうだろうか?

 

 あのユリア士爵(山賊女)なら迷宮探索者からも集めろ(カツアゲしろ)と言いそうな気も・・・・・・。

 

「ギルドに送る代金の代わりに鍛冶素材とか、

 治療魔法や生薬の代金の代わりに素材やモンスターカードを徴収する手もありますかね」

「おっ、お前、頭いいな。ちょっとエミリオ士爵に、それやっても構わないか確認してこいよ」

 俺のアイディアのせいで、指示書を届けにきた団員の仕事が増えてしまった。

 

 でも、迷宮探索者とWinーWinになるのなら構わないだろう。

 許可が出るかどうかは知らんけどね。

 

 あと、我が家のパーティーは素材とカードを渡さないよ。

 最終的には指示書のおかげで、我が家に素材やカードが回ってくるにしてもね。

 

 これ以上、ここにいても仕方がないので、村全体を見るために詰所を後にした。

 

 まずは村全体を索敵でクリアにしよう。

 そうすれば、村の中に出現した迷宮も見つかるだろう。

 出現したばかりの迷宮だから、モンスターがいてもLv1だろうし、俺一人の力でカラダンぐらいは守れるだろう。

 人にしろ、モンスターにしろ不意打ちを喰らわないように索敵で警戒しよう。

 

 カラダンと共に村の中を歩くことにした。

 

「結構、荒れてますね」

「やはり盗賊が襲撃したからだろうな。

 ここに村長の娘のアネットや商人のシルビア達が住んでいたのか。

 先ほどの詰所も元はアネットが住んでいた村長宅だったのかもしれないな」

 そう思うと、ちょっとやるせない気分になる。

 

 村の家屋には、アチコチ壊された箇所や焼け焦げた跡がある。

 盗賊の襲撃の際に、焼き討ちされたのか。酷いことをしやがる。

 誰も住むことのなくなった空き家ばかりだから、これからもっと壊れていくのだろう。

 

 畑も荒れて雑草がたくさん生えてきている。

 村を囲む柵も元々立派なものではなさそうだが、あちらこちらで壊れている。

 これだとモンスターは通り抜けられるな、村の中に迷宮があるので、放っておくとモンスターが外に出ていってしまうという感じか。

 

 さして歩かずにグレーの点が一つ見えてきた。騎士団員だろうか?

 

「そこの二人、止まれ!そこで何をしている」

「驚かせて申し訳ありません。

 ザビル子爵の要請で迷宮にパーティーを派遣する者です。今日は、その下見に来ました」

 騎士団員にエンブレムを提示する。

 

「そうか、協力感謝する。だが、時々モンスターが出てくるので油断しないように」

「はい。分かりました。お勤めご苦労様です」

 見張りがちゃんと巡回しているのだな。

 

 盗賊の襲撃があったりとか、モンスターが出てくるから当然なのか。

 

 その後も柵に沿って村を一回りした。

 

 廃村になっているのに、迷宮探索者が押しかけてくるとか元村民はなんと感じるのだろうか。

 落ち込みがちな気分を追いやり、視線を動かして、索敵でマップを確認しながら歩いていく。

 人がいないので、クリアになっても特筆するようなことはないはずなのだが・・・・・・。

 

 ありゃ、赤い点とグレーの点がいくつか見える場所がある。

 

 グレーの2つの点は、迷宮の入口っぽい所に立っているから騎士団員かもしれない。

 

 入口の周りに探索者パーティーのような連中が二組見える。

 

 一組は赤い点6つだ。鑑定で確認すると五人が盗賊で、一人が探索者だ。

 盗賊はLv32の者が一人で、後はLv20台と10台が二人ずついる。

 探索者の男はLv17。

 初心者パーティーなら太刀打ちできない戦力だ。

 リュックからメモとペンを取り出して、盗賊達の名前とジョブ、レベルを記録した。

 

 もう一組は普通の探索者パーティーのようだ。索敵の色は全員グレー。

 ほとんどが、Lv20台なので一線級ではないが、ある程度の経験は積んでいるようだ。

 そこの盗賊達ぐらいなら、不意打ちされなければ互角以上に戦えるだろうか。

 

 二組とも冒険者の者がいないのだが、歩きでここまで来たのだろうか。

 ギルドで冒険者に送ってもらったのかもしれない。

 

 普通の迷宮探索者パーティーの方はゆったりと休憩しながら、何かを食ってる。

 詰所の裏に井戸があるので水はなんとかなるが、食料は自前で持ってきたのだろう。

 食事は朝に腹いっぱい喰ってきて、夜まで我慢というパターンもアリだろうが、戦うと腹減るんだよなぁ。

 

 

 入口にいる二名の騎士団員のうち、一人は探索者で一人は冒険者だ。

 そして、この二名ではインテリジェンスカードのチェックはできないな。

 まあ、迷宮の入口でチェックしているのは見たことないが。

 さきほどの臨時詰所には騎士のジョブの者はいなかったけど、たまたまかもしれない。

 今後は本格的に騎士団員が派遣されると、騎士のジョブの者も来るだろう。

 

 

 盗賊達は、近くの拠点から来たのじゃないだろうな。

 こいつらが村を襲撃した者達なのかは分からないか。

 そして、いきなりこいつらに斬りかかる訳にもいかないよな。

 第三者に分かる証拠もなしに、騎士団員の前で討伐する訳にもいかない。

 こちらには、非戦闘員のカラダンもいるし。

 

 奴隷商人のカラダンにインテリジェンスカード操作をさせる手もあるが、彼を盗賊集団に近づけるのは危険過ぎるし、チェックする大義名分もない。

 詰所に騎士団員も数人いるから、俺達が今すぐに介入する必要はないのだが。

 

 

「カラダン、あそこに迷宮の入口があるのが分かるか?

 その周りに探索者パーティーが二組いるようだが、残念ながら一組は盗賊達だ」

「そうなのですか・・・・・・」

 騎士団員が詰めている迷宮だから大丈夫とは限らない。

 

 ベイル迷宮でも頻繁に盗賊に出くわしたし、ターレ迷宮にはハインツの一味がいた。

 こちらの方が騎士団の人数が多いから、かなり盗賊達に取ってはリスキーだとは思うけど。

 

「そういえば、何か、この村で確認したかったことがあるのか?」

「いえ、大した事ではないのですが、ローザ達の母親の墓標でもあるのかと思いまして」

 ああ、迷宮の近くに埋めたと言っていたな。

 

「今日のところは、カラダンは帰った方が良いだろう。墓標は俺の方でも確認してみるよ」

「はい。引き揚げさせていただきます」

 

 ここに来る際に移動に使った家の壁まで戻って、ワープゲートをザビルの本館の玄関に繋げた。

 

「じゃあ、この後のことは会議の場で報告するから」

「はい。くれぐれも、お気を付けください」

 そうだな。油断せずにいこう。

 

 カラダンがゲートの先に消えるのを確認して、迷宮へとゆっくりと向かった。

 

 村を一回りしたが、家屋の数は15軒前後ぐらいだったか。

 盗賊に襲撃される前の村民の数は50名前後?

 全員が成人でもないだろうし、ひょっとしたら農奴もいたかもしれない。

 

 税収としては、一般の平民が3万ナールだったっけ。

 廃村となってしまったことで、年間で白金貨1枚強ぐらいの収入がザビル領内から消滅したことになるのだろうか。

 死者や奴隷落ちした者の数も知らないし、別の村や街に引っ越した者もいるだろうから、本当のところは分からないが。

 

 襲撃した盗賊集団を見つけて、騎士団で討伐してほしいものだ。

 

 

 防具はいつも通り装備してあるので、硬直のダマスカス鋼剣だけアイテムボックスから取り出して左手に持つことにした。

 デュランダルは目立つから、後から取り出そう。

 もう、陽が傾いてきたな。あまり長居はしたくない。

 

 夜になったら、騎士団員は引き揚げると言っていたから、それまでに済ませるか。

 

 見つけた盗賊達をどうするか。

 明日からではないが、これからレドリック達を迷宮に派遣するのだから、盗賊集団は討伐しておきたいところだ。

 騎士団員もいるから、あちらもうかつに攻撃はしてこないだろうが、こちらもいきなり首を刎ねる訳にもいかない。

 心の準備だけして、後は成り行きに任せるか。

 

 まずは入口の騎士団員に話を聞いてみるか。

 マントのフードを被って、顔を少し見えにくくした。

 大柄でただでさえいかついのに、更に見た目がちょっと怪しくなってしまったが、仕方ない。

 先ほどまでは、カラダンと一緒にいたから商人と護衛と見えなくもないが、今は一人だから少し浮いてしまっているかも。

 

 

 迷宮の入口にいる騎士団員の二人に近づいていく。

 盗賊のパーティーは後方のやや右側に屯している。

 その向かい側に探索者パーティーが車座で座っている。

 

 入口から、やや離れた場所に細長い石のようなものが見えた。

 

 名前と・・・・・・『迷宮を探求せし者』の文字が見える。これが墓標か。

 刻まれた文字は・・・・・・『探索』ではなく『探求』なのか。

 『異世界言語』のスキルで翻訳され、視界の右上に『エマーロ語』の表示がある。

 ローザ達の母親の墓標に間違いないだろう。

 

 ローザかロベルトが石に文字を刻んだのだろうか。

 手向ける花も何も持ってきていないし、盗賊達が近くにいるので墓標に向かう訳にいかない。

 

 騎士団員に向かって話しかけた。

 この二人、首から笛をかけているな。先ほど巡回していた騎士団員もそうだったな。

 モンスターが迷宮から出てきた時に、詰所の騎士団員に伝えるためだろうか。

 

「探索はどこまで進んでいますか?」

「5階層までだ。

 1階層からミノ、コボルト、グリーンキャタピラー、スパイスパイダー、エスケープゴートだ」

 これは初心者に優しくない迷宮だな。

 

「それより一人か?この迷宮は一人では厳しいぞ」

「今までも一人でしたから、大丈夫ですよ」

 半分は本音だ。

 

 残りの半分は・・・・・・盗賊を釣るためだ。

 乗ってくるかどうかは分からないが。

 

 リュックから袋を取り出して、その中から銀貨を2枚手にした。

 このタイミングでエンブレムは見せられない。

 騎士団の反応で、盗賊が警戒するかもしれないから。

 

「2階層への案内を頼めますか?」

「分かった。友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成・・・・・・」

 銀貨を2枚渡して、探索者の男のパーティーに加えてもらい、二階層に入った。

 

 右側の盗賊達にも見えるように、右手で指二本を出しておいたが、どうだろうか。

 

 二階層の小部屋を出て、少し急ぎ足でモンスターのいない方の通路に走った。

 デュランダルを取り出す。

 

 来るか?

 

 :

 :

 :

 

 来ないか。

 

 暫く待ったが盗賊達は追ってこなかった。

 さすがに一人で迷宮に来るような奴は怪しいから、追ってこないか。

 一人で来るぐらいだから、猛者と思われたのだろうか。

 ベイルの迷宮では、これで盗賊が追ってきたのだがな。

 いや、騎士団員がいるのに、あからさまに追うように迷宮に入ると怪しまれるか。

 盗賊の襲撃があったばかりだから、警戒されるよな。

 

 なんにしても、ここでずっと待っていても埒が明かない。

 今日は諦めて、このままワープで戻るか。

 

 別に迷宮から出て来なかったからって、騎士団は捜索隊を出したりしないだろう。

 迷宮探索は自己責任だし。

 

 盗賊達の対応をレドリックに相談してみるか。

 それ以外にも、迷宮への移動方法など、事前に相談しておくことがいくつかあるし。

 

 ダンジョンの壁にゲートを繋げて、ワープでザビルの拠点に移動。

 一応、無事に戻ったことをカラダンに伝えて、クーラタルに帰宅した。

 

・・・・・・

 

 夕食と風呂を終えて、会議を開催。

 

「明日の迷宮組は、引き続きターレ迷宮49階層の攻略だ。

 護衛部隊の予定だが、ザビル迷宮の対応方法について、この会議の後で相談したい」

「承知しました」

 レドリックだけではなく、ヘルミーネの意見も聞いてみたい。

 

 アミルとチクルスから装備品、生薬の量産状況のいつもの報告。

 

 カラダンからも防具屋の報告があった。今日、見てきたけど順調そうだよな。

 

「近くの街の防具屋からも、竜革やダマスカス鋼の防具を買い付けにきてるようです」

「そうか。ドブローでもダマスカス鋼の装備品を買いに商人達が訪れていると聞いたので、

 同じような感じなのかもしれないな」

 カラダンの報告は朗報だが、一過性かもしれないので暫くは様子見だ。

 

「ミモザの方からターヘラの子供達の希望ジョブの報告がありました。

 まだ全員ではありませんが、ご確認お願いします」

「分かった。後で見ておこう」

 今日、ターヘラに子供達が戻って、明日一日休みで明後日から別の組を受け入れる予定だ。

 

 次の組の子供達の希望を確認したら、それなりの数の子供の希望が確認できるのかな。

 まだ、将来を決めてない小さな子供もいるとは思うけど。

 レドリックがニムラルのオッサンに詠唱隠蔽技を習うのは、子供達のジョブの件やスキル装備品の譲渡の調整ができてからだな。

 

「あの、旦那様に御相談があります」

「ん?なんだ、エネドラ」

 化粧品の開発にそろそろ取り組みたいという件だろうか。

 

「護衛部隊がザビルの第二迷宮の探索に派遣され、

 レドリックがクーラタルで待機している日に限ってですが、

 私とヘルミーネで奴隷商館巡りをしようかと考えますが、いかがでしょうか?」

「奴隷商館巡り?」

 今までは俺が巡って良さそうな奴を見つけたら、エネドラに面談してもらっていたよな。

 

「はい。二人で各街の奴隷商館を巡ります。

 私は後方支援、ヘルミーネが戦闘奴隷の面談をして、良さそうな人材をまずは選びます。

 その後、旦那様に『鑑定』のスキルで見ていただき、面談もしてもらったらどうかと」

「今までの逆パターンか」

 まあ、悪くないな。

 

 二人の目で見て良さそうであれば、見どころがあるということだ。

 俺が直接見ると鑑定で見られるから、ジョブのレベルで経験の量的な見極めができるけど、後方支援だとエネドラの方が慧眼の持ち主だ。

 ジョブのレベルでは測れない、経験も聞き出せそうだし。

 今はターレ迷宮にかかりっきりになっていて、俺に時間が取れないというのもある。

 

「クーラタルにレドリックがいる時を見計らうのは、警備を考慮してか?」

「レドリックがザビルの迷宮に出る時にヘルミーネを連れ出してしまうと、

 家の護衛がモニカと若手のみだけになってしまいますので」

 まあ、モニカでも大丈夫だとは思うが、今は増築工事で人の出入りも多いからな。

 

 用心に越したことはない。

 

「分かったが、エネドラばかりに負担が集中してしまわないか不安だ。

 なんども言うようだが、無理のない範囲で頼むぞ。

 クーラタルの方の後方支援部隊も人が増えてきた。

 奴隷を選ぶ際にはリーダーになれそうな者も増やすように考慮してほしい。

 簡単ではないと思うがな。

 後方支援だけでなく、戦闘奴隷に関しても同じだ。

 あとは俺が訪れた街を一度全て、ヘルミーネを連れて移動して回るか。

 そうすれば、フィールドウォークでの移動範囲も広がるだろう」

「承知しました。レドリックやヘルミーネとも相談しながら考えます」

 口に出して言ってみたものの人材採用は難しい。

 

 実際には奴隷でリーダーシップがあるような、しっかりした者はそうそういない。

 そんな才覚があれば、そもそも奴隷になったりしていないのだから。

 

「今日の話は、こんなところかな。では、会議は終了とする。

 この後、ザビルの迷宮探索に関する話をするので、レドリックとヘルミーネは残ってくれ。

 遅くまでお疲れ様。ゆっくり休んでくれ」

 

 皆とお休みの挨拶をして解散にした。

 でも、去っていくのはヴィルマ、イレーネ、オリビアぐらいで他の者は残るんだよなぁ。

 

 まあ、貴族であるザビル子爵様からの要請だし、タケダ家の中では少し大がかりな対応だ。

 興味があるのは仕方ないか。




お読みいただき、ありがとうございます。
話がちょっと長くなってしまったので、ここで区切らせてもらいました。

次回投稿日は2026/3/5(木)の予定です。

(お詫び:2026/3/3記載)
 前話『064.サプライズ(その1)』で49階層のボトルマーメイドのドロップ品に『銅貨』(※)を拙作で設定したのですが、感想でのご指摘を受け、やはり原作の流れと合わないかと考え直し、修正しました。
 ※原作では語られてなかったので、『銅貨』にして、ネタ話にしようかと思ったのでした

 修正後は、丹銅(銅に亜鉛が含有されている金属)にしました。
 それに伴い、銅貨を捨てるなどの記載は別の表現に変更いたしました。

 メインストーリーには影響ないので、読み直す必要まではございませんが、読了の方には大変失礼いたしました。
 上記に合わせて、33階層下のボス戦に関連する以下の記載も変更しました。
 【修正した話】1章の『018.二人の身請け』、『043.追試終了』もアイテム名等を変更

 修正した理由ですが・・・・・・
 原作ではジャックナイフを鋳潰して銅貨にする記載があったので、原作は銅貨をドロップ品にはしないという意図だと判断しました。

 以上となります。引き続き、拙作にお付き合いいただければと思います。
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