秘密基地を利用した翌朝は忙しい。
ダウンしているアミルを優しく起こし、風呂場へ移動。
全身くまなく洗ってオイルを落としてやり、乾いた布で水分を拭き取り、更に新しい布を被せて彼女を自室へと送り出した。
その後は怒涛の清掃作業。
それでも一度経験しているので、手際が良くなったと思う。
二度目の利用だったが、反省点も浮き彫りになった。
やっぱりすっ飛んでいくスイミングキャップ、鏡(ペルマスク製の大鏡)の設置、他にも細々と改良していかなければならない。
次の
・・・・・・
なんとか後片付けを終えて、朝練に参加。
アミルも少し、ぼーっとしているように見えるが参加している。
このまま模擬戦をさせると怪我するのではないかと思い、近づいて会話を試みる。
「大丈夫か?」
「・・・・・・」
こちらに振り返った彼女の顔には、まだ気だるげな表情が見て取れる。
昨晩、ちょっと気合を入れ過ぎてしまったか。
「今日の迷宮探索は休みにするか?」
「大丈夫です!」
おっ、少し表情が引き締まった。迷宮討伐が近いから気合を入れざるを得ないだけかも。
「迷宮討伐に向けて、武器と防具のスキル融合をお願いしたいと思っているんだ」
「武器と防具の両方ですか?迷宮ボス戦用の専用装備なのでしょうか?」
専用になるのかな。どちらかというと汎用装備というか標準装備というか。
迷宮ボスの特性を踏まえて、アミルにスキル融合装備品の希望を説明した。
用意してもらうのは、俺が使う武器と防具が大半だ。
迷宮ボス戦用に準備するのは、端的に言うとボーナスポイント消失対策だ。
現在、通常の戦闘にボーナス装備品であるデュランダルとアルフレイルを利用しているが、原作情報によると迷宮ボスは装備品を破壊する特性を持っているらしい。
万が一、デュランダルとアルフレイルを破壊されたら、ボーナスポイントを消失してしまうのではないかと恐れている。
破壊された場合にボーナスポイントを消失するだけではなく、二度と利用できなくなる可能性があるのではないだろうか。
再度、キャラクター再設定でボーナス武器6を選択しようとしてもグレーアウトされて使用不可になるかもしれない。
ボーナスポイントを増やす方法を検討してはいるが、今のところは目処が立たない状況だ。
そんな状況を考えると、ボーナス武器や防具を装備してボス戦に挑む気にはなれない。
どの程度の確率で装備品破壊が起きるのか分からないが、ボス戦で試す訳にいかないだろう。
だから、ボーナス装備よりはやや劣るが、皆が普段装備している標準防具を準備する。
原作では、超絶避けタンクヒロインがいたので、そんなことを考える必要もなかったのかもしれないが、こちらにはそれほどの切り札はない。
武器の方は、迷宮ボス戦に特化するので、その意味では迷宮ボス戦用の専用装備かも。
それに加えて俺だけでなく、他のメンバーの戦闘中の回避力、移動力の強化をする。
回避力2倍については、今までもやろうと思えばできたのだが、つい後回しにしていた。
これを機会に取り組もうと思っている。
移動力強化については、今までは戦闘中に足並みを揃えることを優先して優先度を落としてきたが、迷宮ボス戦では速やかに移動して、優位な位置取りをすることが重要だと考え直した。
なので、牛とコボルトのカードを使って移動力増強のスキルを付与したい。
迷宮ボスと戦うのは俺だけの予定だが、不測の事態が起きた時を考慮しておくべきだろう。
回避力も移動力も普段の戦闘でも役立つから、試してみて使い勝手が良いようなら標準装備にするかもしれない。
まだ49階層を攻略中なので、準備する時間はある。
慣らし運転の時間も取りながら、万全の準備をして臨みたい。
・・・・・・
朝練はアミルと迷宮ボス戦用の装備品についての議論にほとんど費やしたが、なかなか有意義な時間だった。
なんの訓練にもならなかったが。
訓練しなくても、腹が減ったのは昨晩の運動のせいかもしれない。
出てきた朝食をぺろりとたいらげて、迷宮探索の準備にかかる。
玄関に集まった迷宮組のメンバーは今日もやる気に満ちている。
特に前衛の三人は目がギラギラしていると言っても過言ではない。
迷宮ボス戦が近づいてきたからもしれない。
アミルは体調もメンタルも復活したようだ。
原因を作った俺が言うのもアレだが、多分、大丈夫だろう。
今日中に49階層の攻略を終えて、50階層に突入したい。
ターレの冒険者ギルドを経由して、迷宮の入口へ。
いつもの兄ちゃんに挨拶して、49階層の先日の続きの場所にワープした。
再開した49階層の探索も順調の一言。
ボトルマーメイド、ブラックダイヤツナ、パットバットといった飛行型のモンスターを槍でひたすら状態異常にしていく。
午前中の探索が終わる前にボス部屋を発見できた。
待機部屋で階層ボス戦に入る前にアミルからブリーフィングを受け、ボス戦に突入。
いつものボス戦用フォーメーションでアッサリと状態異常に追い込み、煙に変えて終了。
やはり、飛行型モンスターに状態異常付与をさせる槍は有用過ぎる。
階層ボスのレイジマーメイドのドロップ品は『逆鱗』。
魚にも鱗はあるけど、逆鱗に触れるほどの・・・・・・人魚も怒ると怖いのだろうか?知らんけど。
とりあえず、用途も分からないのでアイテムボックスにそのまま収納。
50階層に抜けた。
ここが最終階層になるのか、それともその次の階層があるのか。
キリが良いので、午前中の探索をここで終えることにした。
・・・・・・
昼食になり、食事をしながらアミルと朝練でも相談したスキル融合装備品の件を議論。
だいたいの詰めが終わったところで、アミルがなにやら相談したいと。
「今、私は鍛冶師、探索者、冒険者のジョブを育成していますけど、
もう一つジョブを取得するのはダメでしょうか?」
「もう一つ?3つのジョブ以外でやりたいジョブがあるのか?」
アミルは少し躊躇しながらも、頷いた。
「巫女のジョブをやってみたいと思うのですけど・・・・・・」
「なるほど、巫女か」
今は、俺が治癒系ジョブも兼ねているが、専門の治癒系ジョブの者はいない。
原作では、超絶避けタンクのヒロインが巫女をやっていたが、アミルを巫女系のジョブに据えるのは悪くないかもしれない。
アミルの鍛冶師、探索者はレベルキャップに引っ掛かっているし、冒険者もそのうち引っ掛かる。
今や冒険者ジョブはレベル上げを懸命にやるほど、優先度は高くない。
高い階層に行くほど、探索者の方が有用だし、経験値を捨てるのはもったいないから、巫女系のジョブを育てるのは悪くないかもしれない。
それに帝国解放会の入会試験を考えれば、俺は冒険者か探索者のジョブだと伝えるから、パーティーに治癒系のジョブがいないと不自然な気がするよな。
まあ、帝国解放会のイベントが発生するかは不明だが。
発生したとしても、それまでに迷宮討伐するつもりだから試験が免除になるかもしれない。
「アミルがやりたいというのなら、やってみるか。
ただ、まずは巫女のジョブを取得しなければならないよな。
アミルは巫女のジョブを取得できる場所を知っているか?」
「えーと、神官ギルド以外では知りません」
そりゃそうか。
「だが、既に鍛冶師ギルドに入会しているから、神官ギルドでジョブを取るのは避けたいな」
「なるほど、確かにそうかもしれません。
ご主人様といると、つい複数のジョブを切り替えてしまうのですが、
普通はギルドを転々とはしないですから」
この世界にはリスキリングの波はまだ来てないようだ。
俺は瞑想でジョブ取得したけど、この世界の人間に瞑想は通じないだろう。
やっぱり、どこか野外で滝行をするのが近道かもしれない。
「タケダ家で神官のジョブを取得している者に確認してみるか。
どこか適切な場所を知ってるかもしれない」
「はい。そうですね。私もいろんな人に聞いて回ってみます」
既に昼食を終えて、ほとんどの者は席を立ってしまった。
フラウスがラファ達と話をしているから、後で確認してみるか。
昼食を終えて、ラファ達のおしゃべりの場に出向いて確認したが、フラウスは神官ギルドで取得したそうで、野外で取れそうな場所は特に知らないそうだ。
ラファも同じだった。
あとは、ザビルのヒューゴとかゾフィか。
夜の会議でカラダンに確認を依頼しておくか。
・・・・・・
午後からターレ迷宮の探索を再開。いよいよ50階層だ。
まずはブリーフィングから。
「50階層の新規モンスターはロールトロールで、ボスはトルネードトロールだ。
既に戦ったことがあると思うが、近接戦闘をしかけてくる人型のモンスターだ。
転がりながら、巻き込むようにパンチを放ってくるので要注意だ。
ロールトロール、ボトルマーメイド、ブラックダイヤツナ、パットバットの順に多く出現する。
前階層と違い、ロールトロールは歩行して近づいてくる。
ボトルマーメイドやブラックダイヤツナは飛行型だから各個撃破ができると思う。
ドロップ品は鉄で、レアドロップは鋼鉄だ。
ボスドロップの情報は把握していないが、鍛冶素材かもしれない。
戦闘のフォーメーションと雷魔法を使うことは今までと変わらない。
アミルの方から何か補足はあるか?」
「ロールトロールは雷魔法を使ってきますので、魔法をキャンセルさせることが必要です」
「雷魔法は麻痺を誘発させてくる。注意していこう」
ボスにロールトロールが出た時は瞬殺したが、今回は通常モンスターで出てくるから要注意だ。
状態異常対策も魔法対策もしてあるから、ある程度は軽減できると思いたい。
「ヴィルマとイレーネの武器だが、槍から剣に戻すか?」
「御館様、剣で戦いたい」
「主、あたしも」
飛行型の方は俺とオリビアとアミルでなんとかするか。
二人に元の剣を渡して、槍二本をアイテムボックスに収納した。
「じゃあ、始めるか」
全員が力強く頷いたのを確認して、探索を開始した。
・・・・・・
ロールトロールが数匹出現したら苦戦するかと思ったら、そんなことは全くなかった。
雷魔法は状態異常耐性と魔法耐性の防具で凌げるので、危険を感じることはない。
痛いのは痛いけど、全体手当を時々かける程度だ。
そして、ローリング攻撃については複数のロールトロールが連携してこないので、全く問題なかった。
というか、あいつら横に複数並んでいて、こちらも横一線に並ぶとロールトロールが縦方向にローリングできないじゃん。
三匹とか一斉に向きを変えて、縦にロールしてきたらどうしようかと思ったけど、そんなチームワークは存在しないようだ。
俺とオリビアの槍で、縦にローリングさせないように
特にオリビアの芸術的とも言える槍芸はロールトロールを手玉に取るレベルだ。
俺には彼女の真似はできないので、せいぜい邪魔にならない程度に槍で突っつく程度だ。
飛行型は槍で叩き落とし、ロールトロールは自由に動かせないように槍で制限させながら、ヴィルマとイレーネの剣で連撃を加えて、小気味よく状態異常にして回った。
順調に探索を進められたが、夕方で時間切れとなり、探索を終了とした。
順調だったが、50階層の通常戦闘は迷宮ボス戦の予行演習にはならないと感じた。
予行演習は別に考えてあるのだが、上手くいくかどうか。
迷宮の壁にゲートを開いて、クーラタルの自宅にワープで戻った。
・・・・・・
翌日は迷宮探索はお休み。
30日周期での鏡や石鹸の取引の日に該当するため、一日、事務処理にあてる必要がある。
まずは、ザビルに移動して、カラダン達と合流だ。
鏡を仕入れるための背負子を背負って、ザビルの拠点に移動した。
背負子の中にはペルマスクに納品するための石鹸セットが収納してある。
本館の玄関から二階に上がると、カラダンの部屋の向かいの会議室にカラダン、ミシェル、ピコの三人が集合していた。
「悪いな、待たせたか」
「いえ、大丈夫です。一つ、御報告があります。
昨日、依頼された神官のジョブ取得の件でヒューゴに確認したのですが、
彼がジョブ取得した場所は、既にギルドに見放されたらしいです。
ギルドが新しい場所を修行の地としたようで、その滝は使わなくなったようです。
人里離れた場所なので、モンスターが徘徊しているかもしれないとのことです」
なるほど、原作に近い環境なのかな。
問題は、その場所がどこにあって、今も神官ジョブが取れそうな滝なのかどうかだな。
「もし、よろしければ、ヒューゴにこの後、滝に案内してもらうのはどうでしょうか?
その間、私とミシェルでボーデで琥珀を、ターヘラで瑪瑙を仕入れてきますが」
「そうか、確かにカラダン達に任せる手もあるか。
ペルマスクの方は皆で一緒に行った方が良いだろうな。
いずれにしても、ここでもう一度、合流しようか」
ヒューゴの案内してくれる滝がどのような所か分からないが、見てから考えるしかない。
見て問題なさそうでれば、神官のジョブを取得したい者を後から連れていくか。
別に原作のように巫女の衣装は必要ないだろう。
神官系のジョブ取得を希望していたのは、確かアミルとロベルトだったか。
別々に連れていくか。
お互い透けて見えるとイロイロ拙いだろうから。見るのは俺だけにしておこう。
「ターヘラのマリアさんの店で昨晩話をしていた件を打診してもらえるか?
なんなら、そのまま取引をしてもらっても良い。
アイテムはこの場でピコに渡しておくから」
「なるほど。分かりました。私の方で交渉してみます。
ピコは旦那様から装飾品素材を受け取って、アイテムボックスへ収納しておいて下さい」
カラダンの指示にピコが頷いた。
カラダンはヒューゴを呼びに屋敷の裏庭に向かった。
残ったのは、ミシェルとピコの二人。
ピコにアイテムを渡しながら、ミシェルと雑談。
「ミシェルは今、何をしているんだ?」
「新しく増えた奴隷の教育と、
探索者ギルドで募集したモンスターカード収集の依頼を担当しています。
今日は行ったことのない街へ取引に連れていってもらえるので楽しみです」
ボーデはエルフの街だし、ターヘラのマリアさんの店は相手がやり手だから、ミシェルにとっては良い経験になるかもしれない。
新しく入った奴隷、特にローザ姉弟とニクラスとゾフィの様子を詳しく教えてもらった。
「ローザは、アチコチ歩き回って少し落ち着きがないかもしれません。
落ち着きがないというか、好奇心旺盛でなんでも確かめないと気が済まないようです」
「そうか、姉の方が活動的なのだな」
エマーロ族だからというより、探索者向けなのかな。あるいは母親の血が為せる業か。
その後も、他のメンバーの話を聞いていると、カラダンがヒューゴを連れてきた。
彼は少し緊張しているようだ。まあ、俺はカラダンの上司という位置づけだしな。
「では、二手に分かれて行動するか。終わったら、ここに集合ということで」
「承知しました。旦那様もお気を付けください」
一応、モンスターと遭遇する可能性もあるから用心しないとな。
「あっ、俺と別行動となると護衛がいなくなるな」
「さきほど、マテウスに申しつけました。今、準備をしていると思います」
そうか、元々は前の奴隷商館でも護衛をやっていたから心配無用か。
カラダン達と別れて、ヒューゴと冒険者ギルドに行くことにした。
迷宮が出現したせいなのか、道行く人の数が心持ち増えた気もする。
増えたと言っても、探索者っぽい者が増えただけだろうけど。
ギルドに行く途中、せっかくなので普段の様子を聞いてみた。
「もう、ザビルでのタケダ家での生活には慣れたか?」
「はい。結構、慣れました。
奴隷になった後の方が、前よりも良い暮らしをさせてもらっているので不思議な気分です」
まあ、我が家の奴隷はだいたい同じようなことを言うよな。元貴族の者は除くけど。
衣食住の向上と風呂の経験。その代わりに自由を失うのだが。
「ヒューゴは、今から行く場所で神官のジョブを得たのだっけ?
ジョブ取得の時は結構、つらかったか?」
「つらいというか、滝の水を訳も分からずに被ってるのが、つらいと言えばつらかったです」
大した説明もなく、『つべこべ言わず、やってみろ』方式だったのかな。
まあ、俺が空手やっていた頃にやらされた滝行も寒稽古も、それに近かった気がする。
今なら、もう少しマシな指導が俺でもできると思うけど。
とりとめもない話をしているうちに、冒険者ギルドに着いたので建物の中に入った。
「滝の近くの村の名前は分かるのか?」
「はい。大丈夫です。でも、今日は人が多いようですね」
確かにヒューゴの指摘通り、冒険者ギルドの中は賑やかだ。
ペルマスクへ行く定期便はもう出た後だから、ちょっと人が多い気がする。
冒険者ギルドは探索者ギルドに比べると人があまりいなくて、静かなイメージなのだが。
ヒューゴが数人いる冒険者達に行先の村を告げて、送ってくれる者を探している。
「ああん?ザビル第二迷宮に行くのじゃないのか?」
「いえ、違います」
新しくできた迷宮へ行く客待ちか。
だから、賑やかだったのか。領主から補助金でも出ているのかもしれない。
だが、そういう時はチップをはずめば良いはずだ。
「俺とその男の二人を村まで送ってくれたら、銀貨5枚出そう」
「おっ、マジか。なら、俺が送ってやるぞ。パーティーに入ってくれ。
友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成・・・・・・」
早い者勝ちだから、先に詠唱した者の勝ちということか。
まあ、時間を金で買うのは、資金力に余裕ができてからの最近のやり方だ。
パーティーに加わった後、冒険者の後についてフィールドウォーク用の絨毯の前に進む。
「これが、代金だ」
「ああ、確かに銀貨5枚だな。俺は村まで移動しないので、二人だけで移動してくれ」
男が開いたゲートをヒューゴと一緒に通り抜けた。
出た先は、村の近くにあるデカい木の幹だった。
結構デカいから、ランドマーク的存在なのだろうか。
さすがに村の中にいきなり移動する訳にはいかないのだろう。
ヒューゴに俺のパーティーに加わってもらった。
「村には用事はないよな?」
「はい、村には特に立ち寄らずに滝を目指したいと思います。
ここから少し歩きますが、それほど遠くはありません」
索敵スキルを使って、モンスターを警戒しながら、二人で目的地を目指す。
少しとは言え、実際に歩いてみると30分ぐらいはかかった。
この世界では30分程度の歩きは、『少し』の部類なのだよな。
馬車もなく、半日程度は歩いて隣の街まで行くのが普通のようだし。
歩きながら、ヒューゴにティナの進路について相談してみた。
彼は妹に危険なことをさせたくないから、探索者のジョブに就くことは反対のようだ。
商人か薬草採取士あたりのジョブで落ち着いてほしいと嘆いてる。
妹想いなのは良いのだが、本人の意志を尊重したいから、俺としては無理にヒューゴの意見に沿って説得する気はない。
やがてモンスターに遭遇することなく、目的地に着いたようだ。
「ここです。当時から時々、ニードルウッドが出現してました。
周りに森があってモンスターを発見しにくくて、滝行をする場としては使い勝手が悪いという評判でしたね。
それもあってか、神官ギルドが別の場所を指定して、ここは使わなくなったようです」
「そうか、なんとなく分かる気もする」
俺達の前には、確かに小さな滝が見える。このしょぼい滝でジョブ取得していたの?
滝と言えば滝だが、思っていたよりも小さい。
崖の上から大きな岩の上に向けて、水が落ちて水しぶきをあげている光景が見える。
水が落ちる所は水の力で削れてへこみ、人間が一人寄っかかる程度の窪みができている。
これは、一人しか使えないな。
水流も大した事なく、滝というよりは少し強めの打たせ湯みたいだ。
お湯ではなく、川の水か何かだから打たせ湯ではないのだろうけど。
まあ、水流はそこそこだから一人が使う分には問題ないのか。
窪みに寄っかかって、落ちてくる水流を頭で受ける感じだな。
大勢で来ると順番待ちが発生しそうだけど。
水量も大したことないから、誤って溺れることもなさそうだ。
足を滑らせて、岩で頭を打たないように注意するくらいか。
あとは、たまに出現するニードルウッドに注意しろと。
「この滝でよろしいのでしょうか?」
「ああ、問題ない。あとは、希望者を連れてくるだけだな」
彼も俺がジョブを自由に変更をできることは聞いてるようだから、ギルド神殿云々のことは指摘してこない。
目の前で鑑定してジョブが取得できたら、直ぐにワープで拠点の風呂に直行だな。
そうすれば、体調を崩すことはないだろう。
幸い、このザビルの近くはクーラタルと比べてかなり暖かいので、この季節でも滝行は問題なくできるだろう。
この世界に来て直ぐのタイミングだったら、体調を崩しかねない水温だったかもしれないが。
「ありがとう。ここで試してみることにするよ」
「はい。お役に立てて良かったです」
ヒューゴは少し照れたような表情で丁寧にお辞儀した。
猫人族の男だからかもしれないが、妙に愛嬌と色気がある気がする。
同族の女性にはモテるタイプかも。シスコンでなければだが。実際どうなのだろう。
手近な木の幹にゲートを開いて、ザビルの拠点にワープで移動した。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿日は2026/3/9(月)の予定です。