異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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069.滝

 自室でハルツ公対策メモを再度チェックして、玄関に向かう。

 既にエネドラとザビル組4名が集合していた。

 マテウスは小型の背負子を背負っている。あの中に石鹸セットが入ってるのだろう。

 ピコも大き目のリュックが膨らんでいるから、同じく石鹸セットが収納されているのだろうが、サイズの差は腕力の差か。

 マテウスは剣聖のジョブだから、腕力補正があるからなぁ。

 まあ、戦闘員と非戦闘員の差か。

 

「重そうだな。大丈夫か?」

「マテウスさんより少ない数ですから、大丈夫です!」

 ピコは頑張ってる姿がなんとも可愛らしいが、ちょっと顔が赤いので無理しているのかも。

 

 俺も急いで倉庫に向かい、鏡の満載された背負子を背にして合流。

 商人組三人と、俺も含めた肉体労働組(ポーター)三人に分かれてしまったな。

 

 玄関の壁にゲートを開いて、ボーデの城近くの木の幹にワープで移動した。

 今日は荷物があるので、ボーデの街並みを歩いて見るような余裕はない。

 マテウスやピコを汗だくにするのも可哀想だし。

 

 騎士団の詰所に向かって、用件を説明。

 説明よりも、背負子を背負った俺達の姿を見て、いつもの()()ね・・・・・・と理解した感じで騎士団員が案内を始めた。

 徐々に原作主人公のようなぞんざいな扱いになりつつあるのは、良い事なのか悪い事なのか。

 

 公爵の執務室へ入室を促され、挨拶を交わす。

 既に数回目の挨拶だが、全くもって洗練された振る舞いができている気はしない。

 相手が平民ということもあり、礼儀作法に頓着しないハルツ公だから許されているのかも。

 ザビル子爵の執務室では、リカルド騎士団長というハードルを下げてくれる存在がいるから、気にしたこともなかったけど。

 

 ハルツ公以外にゴスラー騎士団長とカシア様も待ち受けていた。

 騎士団長は別に俺達を待っていた訳ではないだろうが、カシア様は満面の笑みだ。

 

 事前の取り決め通り、鏡15枚と貴族用石鹸15セットを取り出して、テーブルの上に並べていく。

 真剣にそれらを確認するカシア様、その一方でそれをなるべく視界に入れようとしない公爵と騎士団長のギャップが酷い。

 

 こちらとしては代金をもらって、とっとと立ち去りたいだけなのだが。

 彫像のように立って、やり過ごそうとしていたら、公爵から手招きされた。

 代金を支払ってくれるならウエルカムだが、まだ確認中なのでそれはないよな。

 

 カシア様に近づかずに俺を呼びつけるあたりは、何かあるのだろうか?

 少し警戒しながら、ハルツ公のいる机まで近づいた。傍に騎士団長も立っている。

 

「ターレ迷宮探索の助力、感謝する。

 担当の者からも驚異的な探索速度と時間をかけてもらってることは報告を受けている」

「お役に立てて、光栄にございます。

 ですが45階層を越えた辺りから、出現するモンスターも手強くなっており、

 これからの探索は難航するものと想像しております」

 騎士団の兄ちゃんに説明していた内容と合わせるため、同じような台詞で伝えた。

 

「確かに45階層以降は大変であろう。凄腕の冒険者であってもな。

 だが、騎士団で使われている方法はタケダ殿にもきっと役立つ助言になると思っておる」

「騎士団の方法ですか?」

 今、考えている予行演習以上に役立つ方法があるなら、是非知りたい。

 

 だが、公爵から騎士団の方法なるものを聞いてしまうと借りを作ることになってしまうかな。

 こちらは威霊仙入手のために貸しを作りたいと思っているのだが。

 

「なに大したことではない。クーラタルの迷宮を利用するのだ」

「なるほど」

 なんだ、こちらの考えていたやり方と同じか。

 

 ターレ迷宮の50階層のボスはクーラタル迷宮の52階層のボスと同じだ。

 迷宮攻略に挑む前にクーラタルの52階層でボス周回をすれば、予行演習になると思っていた。

 

 原作の数少ない迷宮攻略の表現では、迷宮ボスであっても普通の階層ボス戦と変わらなかったと記載してあった。

 装備品を破壊するという特性以外が同じだとするなら、クーラタル迷宮で練習するのが合理的だと考えていただけだ。

 

「その反応だと既に考えていたようだな。

 だが、クーラタルの迷宮で45階層を新たに探索するのも大変であろう?

 入口の騎士団の者に通常の階層案内金額の3倍支払えば、

 ボス部屋に一番近い小部屋まで送ってもらうことができる」

「それは知りませんでした」

 なんだ、そんな裏技があったのか、是非活用させてもらおう。

 

「そして、タケダ殿に渡した我が領のエンブレムを騎士団に見せれば、

 3倍の金額を支払わずとも、通常の金額で案内してもらうことが可能だ。

 なに、貴族が迷宮討伐を行うのは当たり前のこと故、

 それに協力する者にも同等の配慮がなされている訳だ」

「左様ですか」

 まあ、3倍払っても時間短縮になるのなら払うけどね。

 

「どうだ。参考になったかな」

「はい。大変参考になりました。ありがとうございます」

「なに、タケダ殿には普段から迷宮探索で世話になっておる。

 このぐらいのこと、造作も無いことだ」

 まあ、有益な情報には違いない。

 

 どの迷宮がどこの階層まで攻略が進んでいるか等は、さすがに部外者には洩らさないだろうが、攻略方法の一端を教えてもらったのは悪くない。

 ハルバー迷宮とターレ迷宮で比べれば、恐らく俺達の攻略速度の方が早いはずだ。

 騎士団側が驚くような攻略方法を駆使しているということはなさそうな気がする。

 俺が考えつくような一般的なアプローチしかないのだろう。迷宮攻略に近道はなしと。

 俺達のアドバンテージは、ワープや索敵によるマップ攻略の効率化、複数ジョブや高品質装備、スキル装備による殲滅速度だろうか。

 

 助言に感謝を述べたところで、カシア様の検品が終わったのか、こちらに近づいてきた。

 

「いつも通りの鏡、石鹸でした。品物に問題はございません」

「ご確認、ありがとうございます。

 そういえば、ルーク殿の方でも私共の石鹸を取り扱うようになりました。

 私共のように30日に一度でなく、ルーク殿と取引することで任意の時期に

 お取り寄せが可能になると思われます」

「まあ、それは素晴らしい事ですわ」

 カシア様の顔が笑顔で溢れた表情になった。

 

 一方で彼女から見えない所で、ハルツ公の顔がこの世の終わりのような(恩を仇で返すなよという)表情になった。

 ゴスラー騎士団長はどちらにも与せず、淡々と小袋をもって進み出た。

 

「こちらが今回の代金となります。確認をお願いします」

「ありがとうございます」

 納品の代金は18万7500ナール。3割アップなしでも、それなりの金額だ。

 

 銀貨の数が多いので確認が大変だったが、数に問題なし。

 

 ペルマスクのような長期契約の話でも切り出そうかと思ったのだが、これ以上ハルツ公にダメージを与えるのが憚られたので自粛した。

 俺が執務室に来ると、魚の死んだ目のようになるのは気のせいだろうか。

 

 ルークの販売チャネルの売り込みもしたから、今日のところは引き下がろう。

 タケダ家での新商品の開発が進めば、新しい取引を持ち掛けるかもしれないから、きっと誤差のうちだと思うのだが。

 

 取引と迷宮攻略の助言に感謝の言葉を述べ、執務室を後にした。

 城を出て、適当な木陰からクーラタルの自宅にワープで移動。

 

「この後は背負子を置いたら、ザビルに移動してロベルトの神官ジョブ取得を手伝う予定だ」

「では、我々は戻って彼に伝えておきます。

 水を被っても問題ない格好と風呂の準備をしておけば良いのですね」

「そうだな。俺の移動魔法で拠点と滝の間を行き来するだけだ。

 一応、場所を覚えるためにピコも一度一緒に行こうか」

 俺だけでなく、フィールドウォークを使える者に場所を覚えておいてもらいたい。

 

「私も見学させていただきたいのですが」

「別に構わないぞ、マテウス」

 ピコは移動したら、直ぐにとんぼ返りだがマテウスがいた方が良いかもしれない。

 

 Lv1だがニードルウッドが出るらしいし。

 俺ともう一人ぐらい、戦える者がその場にいた方が良いだろう。

 

「では、また後ほどな」

 

 倉庫に背負子を置き、ザビルに行くための準備をする。

 

・・・・・・

 

 ザビルの玄関に集合。

 俺の他に、ロベルト、マテウス、ピコの三人・・・・・・のはずなのにローザも何故かいる。

 

「ローザも興味があるのか?」

 俺の言葉に首を縦にブンブン振っている。

 

 まあ、見学ぐらい構わないか。一応、剣を腰に差してあるようだし。

 ミシェルが言ってたけど、好奇心旺盛なのだろうか。

 母親を亡くしたばかりのはずだが、悲しみを乗り越えて行動に移そうとしているのかも。

 滝に行くことは迷宮の謎を解くことに繋がるとは思えないが、何と何が繋がってるかなんて後になってみないと分からないよな。

 好きにさせてやるか。

 

 まずは全員に俺のパーティに入ってもらう。

 玄関の壁にワープゲートを開いて、ヒューゴに案内してもらった滝の近くの木陰に繋いだ。

 先にゲートから顔を出して、モンスターがいないことを確認。

 

「では、移動するぞ。みんな付いてきてくれ」

 

 一番乗りでゲートから出る。

 その後、次々に四人が出てくるが、ローザが最初に出てきた。積極的だな。

 

 索敵のスキルでマップを開いて、周囲の警戒を行なった。

 周りに赤い点は存在しない。

 

 

「あそこに見えるのが滝だ。崖の上から水が落ちているのが分かるだろう?

 あの窪みの部分に体を預けて、まずは頭の上に水が落ちるように調整するんだ。

 少し水が冷たいが我慢して、頭に水を受け続けてみてくれ。

 そして、慣れてきたら一つの事だけに集中して、頭の中で念じるんだ。

 例えば、『神官になりたい』、『神官になりたい』・・・・・・って、ずっと思い続けるとかな。

 別に念じる対象はなんでも構わない。自分の思い描くこと一つに集中することが大事だ。

 俺の言っていることが分かったか?」

「はい。なんとなくですが・・・・・・やってみます」

 

 ロベルトは意を決して、服を脱ぎ始めた。

 薄着と言っても、下着姿になるだけだ。

 ローザも興味津々で彼を見ている。

 弟の下着姿など見慣れているだろうから、これから起きることに興味があるのかな。

 

 彼は服や持ち物、予備の下着を濡れない所に置いて、滝の水が落ちてくる所まで歩いていく。

 

「うっ、思っていたよりも冷たいです」

「そうか、無理そうだったら今日は止めても構わないぞ。

 体を壊してまで、今日無理にジョブを取得する必要はないからな」

 なんか、俺が無理やり誘った感じになってしまったので申し訳ない。

 

「ロベルト、頑張って!」

「・・・・・・」

 彼はそのまま、窪みに寄りかかって、滝の水が頭の上に落ちるように調節し始めた。

 

 ローザ、プレッシャーをかけてやるなよ。

 

「ロベ・・・・・・」

「ローザ、静かに!集中させてやるんだ」

「はい。申し訳ありません」

 少しシュンとさせてしまったが、今は静かにして彼を集中させる方が重要だ。

 

「ロベルト、周りのことを気にせず集中しろ。目は閉じた方が集中しやすいぞ」

「・・・・・・」

 少しだけ、こちらに視線を向け、無言で小さく頷いた後、静かに目を閉じたように見えた。

 

 

 それにしても滝を使ったジョブ取得で、初めて見るのが男のびしょ濡れになった姿とは。

 原作主人公とは格差を感じてしまうな。

 彼には実験台になってもらうために連れてきたのだから、文句を言うのは筋違いなのだが。

 

 

 少し時間が経ったか。

 

(パーティージョブ設定)

 

 まだ取得できないか。

 

 

 そろそろ、どうだ・・・・・・うん、無事取得できた。

 彼の待機ジョブに『神官』のジョブが表示された。

 

「ロベルト、もう大丈夫だ。足元に注意して、ゆっくりとこちらに戻ってくるんだ。

 ピコ、その布をロベルトに渡してやれ」

「はい」

 そういえば、ピコを帰らせるのを忘れていた。まあ、みんなで一緒に帰っても問題ないか。

 

 ピコから大判の布を受け取り、頭を拭きながら濡れた下着を脱ぎ始めた。

 ローザがまだ弟を凝視していたので、彼女の視界を遮るように俺が壁になる。

 弟の着替えシーンを凝視するなよ。どんな探求心なんだよ。

 

 ロベルトは軽く服を羽織って頭を拭いていたので、身支度を整えるのを少し待つ。

 騎士のジョブをセット。

 やがて、粗方拭き終わったのを見計らい、声をかけた。

 

「左腕をちょっと出してくれ」

「はい」

 

 彼の左腕を手に取り、無詠唱でインテリジェンスカード・オープンを唱えた。

 

「どうだ。確かに神官のジョブになっているだろう?」

「本当に神官になっています。ありがとうございました」

 少し顔が青いが笑顔の表情だ。

 

 ローザが弟の後ろに回って、インテリジェンスカードを見て確認している。

 

「あの、次はあたしも挑戦したいのですが・・・・・・」

「はあ?」

 ちょっと待て。

 

「ローザはなんの準備もしてきてないだろう?」

「えっ、下着姿で水被るだけじゃないのですか?」

 いやいや、待て待て。

 

「こんな男だらけの環境で、下着姿になることは認められない」

「奴隷にそんな気を使わなくても」

 本心でそんなこと言ってるの?そこまでして巫女のジョブが欲しいのか。

 

「とにかく、巫女のジョブが取得したいのなら、別の機会にしてくれ」

「そうですか。巫女のジョブを得る時って、どんな状態なのか知りたかったのですけど。

 分かりました。別の機会にお願いしたいと思います」

 巫女のジョブが欲しいのではなく、ジョブ取得の経験がしたかったのか。

 

 この娘、頭の構造が研究者なのか?

 

「次の機会はいつになるのでしょうか?」

「えっ・・・・・・と」

 次って、アミル達をこの後直ぐに挑戦させる予定なのだよなぁ・・・・・・ここは戦略的撤退だ。

 

「話は後だ。直ぐにロベルトを風呂に入れなければならないからな。

 ロベルト、こっちに来てくれ」

 

 ここに来た時の木陰から、ザビルの風呂場にゲートを繋げた。

 顔を出すと、お湯が張られた浴槽が見える。このまま移動させてしまおう。

 

「このゲートを通ると、風呂に繋がっているから直ぐにお湯を被って体を温めてくれ」

「はい、分かりました。ご支援いただき、ありがとうございました」

 なんか、弟の方がしっかりしているように感じるのだが。

 

 彼が移動したのを確認して、ワープゲートを閉じた。

 これでロベルトの希望ジョブが取得できたし、この滝が神官ジョブを取得可能な環境であることも確認できたな。

 

「あの次はいつ・・・・・・?」

「・・・・・・」

 まだ諦めてなかったか。どう回答したものか。

 

 適当に誤魔化すこともできるけど・・・・・・こうも真剣に迫られると嘘はダメだよな。

 

「この後、クーラタルの女性メンバーで巫女のジョブを取りたい者が挑戦する予定だ」

「女性ですか?では、私もそれに混ぜてもらうのは・・・・・・」

 ダメとは言えないよなぁ。

 

 それに、この娘をアミルに紹介しておいた方が今後のためになるかもしれない。

 アミルも知識を蓄積するタイプだし、冒険者/探索者で司令塔タイプだ。

 探索者ジョブを持っているがローザが司令塔かというと、少し疑念があるのだが。

 

「分かった。この後のクーラタル組の時に参加しても構わない。

 ただし、予備の下着や体を拭く布を用意しておくように」

「はい。ナナさんにお願いしてみます。クーラタルに行くにはどうすれば・・・・・・」

 まだ、この娘はクーラタルに行ったことがなかったっけ。

 

「ああ、ザビルの玄関で待っていてくれ。クーラタル組とそこで合流してここに再度来るから」

「分かりました。急いで準備して、待っています」

 うーん、なんかノリがちょっと違う気もするが。

 

「とりあえず、ここでずっと話し込んでいても仕方ないので、一度ザビルに戻ろう」

 

 ゲートを開き、ザビルの玄関に繋げた。

 皆がゲートを通って移動が終わるのを確認して、最後に俺が通る。

 

 ローザの姿は既に無く、ナナに準備をお願いしにいったのかもしれない。

 彼女以外の者をパーティーから外した。

 

 

「あの、ご主人様、他にも神官のジョブを取得させる者を増やすのはダメでしょうか?」

「ザビルで他に希望者がいるのか?」

 俺の質問にマテウスは首を横に振った。どういうこと?

 

「現時点で特に希望者がいる訳ではありません。

 タケダ家所属のメンバーだと、

 ひょっとしたら、マチルダかティナあたりが希望するかもしれませんが、

 彼女達のことではありません」

「ん?」

 特定の希望者がいないのに増やしたいって?

 

「ザビルの奴隷商館の販売奴隷の中で

 神官のジョブを希望する者がいれば取得させたらどうかと思ったのです。

 ご存じかと思いますが、神官のジョブは剣士や戦士と違って

 必ずしも希望通りに取得できるとは限りません。

 神官ギルドで挑戦しても、半分ぐらいの者は取得できないそうです。

 ですが、ご主人様はジョブ取得の成否が分かるのですから、

 例えば村人のジョブの者で神官ジョブを希望する者は、高い確率で取得可能だと思います。

 ジョブ取得だけしておいて、後で神官ギルドに加入して登録すれば、

 神官ジョブを持つ者として奴隷を売ることができます。

 奴隷当人、購入する側、そして販売するタケダ家にとっても利があるように思えます」

「なるほど。確かにそうかもしれないな」

 ジョブ取得だけして、待機ジョブに置いておけば問題ないか。

 

 一度ジョブ取得さえしておけば、ギルド神殿を使って転職するのが100%成功するのは、前に戦士ギルドや商人ギルドで確認した。

 既にジョブ取得済なら、ギルド加入時に滝行等をさせても、させなくても転職できる。

 迷宮などで戦う気があるのなら、神官や巫女という販売奴隷の選択肢はありかもしれない。

 ギルドで登録してから迷宮で鍛え、詠唱を覚えさせたりして、最終的に販売すればよい。

 

 戦う気がないのなら、僧侶のジョブの方が良いだろうな。

 パーティーを組まなくても治療魔法が使えるから。

 神官系のジョブはパーティーを組まないと治癒魔法をかけられないから、戦闘以外での治療には使い勝手が悪い気がする。

 とはいえ、これを考えるのは俺の仕事ではないよな。

 

「分かった。だが、その件はカラダンやミシェルと相談してみてくれないか。

 奴隷商館の主はカラダンなので」

「はい。分かりました。カラダン様に相談してみます」

 それにしても、マテウスもこのような提案をしてくるのだな。

 

 前の奴隷商館で奴隷を鍛えながら、販売奴隷達の行く末について思うところがあったのかも。

 それとも、タケダ家に加入してから考えるようになったのだろうか。

 

「では、俺はいったん、クーラタルの方に戻って、またこちらに出直す。

 今の件とロベルトが神官ジョブを取得できたことをカラダンに伝えておいてもらえるか?」

「承知いたしました」

 販売奴隷の件はザビル組で考えてもらおう。無論、支援はちゃんとするつもりだ。

 

 ザビルからアミル達の待つクーラタルへと移動。

 

・・・・・・

 

 迷宮組の四人を連れて、ザビルでローザをピックアップして再び滝のある場所に移動。

 索敵スキルのマップも開いて、モンスターの警戒も忘れない。

 

「ここが巫女のジョブを取得する滝だ」

「主、こんなしょぼい水で意味があるのか?」

 まあ、確かに水の流れはあまり大した事ないのだよなぁ。

 

「大丈夫だ。先ほど試した者が、ちゃんと神官のジョブが取得できていたから」

「ふーん」

 というか、ヴィルマ。お前、本当に巫女のジョブ取得する気があるのか?

 

 ピクニック気分で来たのじゃないかと疑っていたのだが。

 この世界にピックニックという娯楽があるのか知らんけど。

 

「誰から試す?」

「御館様、あたしが一番にやる」

 はい、はい。一番大好きだね。

 

 ロベルトに説明した方法を皆にも説明。

 集中するやり方は人それぞれなのだけどね。

 

 イレーネが滝の方向に進みながら、上着を脱ぎ始めた。

 

(ポイ、ポイ、ポイッ・・・・・・)

 

「ちょ、ちょっと待て、全部脱ぐな!」

 地面に服を脱ぎ散らかして、全裸でズンズン進んでいく。

 

 止める間もなく、彼女は滝の落ちてくるへこみの部分に寄りかかり、頭から水を浴び始めた。

 なんちゅう、大胆な。通行人が来たら、どうするんだ。

 索敵で見る限り、人はおろかモンスターも今のところ見当たらないけど。

 

「ゲホッ、ゲホッ・・・・・・」

「イレーネ、鼻から息をするんじゃなくて、口から息をしろ!その方が楽に呼吸できるから」

 こちらを恨めしそうな顔で見ながら、頷いている。

 

 俺のせいじゃないと思うのだが、説明が足りなかったか。

 原作の猫娘ヒロインと違って、川や海は苦手なのだろうか?

 

 それにしても、引き締まった裸体に滝の水を被って、なんとも魅惑的な姿だ。

 ある意味、巫女衣装よりも破壊力、高くない?

 

 そんなことよりもジョブ取得が重要だった。

 

 

(パーティージョブ設定)

 

 まだ取得できないか。

 

 

 

 そろそろ、どうだ。

 まだダメか。

 

 イレーネの方を見ると、イロイロと揺れている。あえて何がとは言わないが。

 

 

 まだ取得できないか。

 

「イレーネ!狩りをする時に獲物に見つからないように潜むだろう?

 周りと一つになるようにして、気配を絶つんだ」

 

 原作猫娘ヒロインは魚を捕るために、そんなことを主人公に言われてたよな。

 

 今のイレーネは『くのいち』のジョブだけど、隠蔽のスキルはないのだよなぁ。

 某ダンジョン系RGPでは定番の奇襲攻撃なども特にない。

 あえて言えば、『首切り』と『一閃』のスキルが似ているか。一撃死は与えられないけど。

 

 

 そろそろ、どうだ・・・・・・うん、無事に巫女のジョブが取得できた。

 

「イレーネ。もう大丈夫だ。こっちに来てくれ。ゆっくりとだ」

 

 俺の話が伝わらなかったのか、水しぶきを散らしながら、こっちに走ってきた。

 ゆっくりだと言ったのに。転んでも知らんぞ。

 

 大きな布を持って、アミルが急いで彼女に近寄った。

 思っていたよりも、かなり長い時間水に打たれていたから、体が冷え切ってるかも。

 ワープゲートを開いて、急いでクーラタルの風呂場に送り出した。

 

 

「主、次はあたしが行ってくる」

 ヴィルマ・・・・・・キリッとした顔で戦場に赴くような表情だけど、素っ裸じゃないか。

 

 お前ら裸族かよ!

 

 :

 :

 :

 

 うん、ヴィルマは普通に巫女のジョブを取得した。

 特に時間がかかることもなかった。さすがはヴィルマ。

 柔軟性があって、周りに合わせるのが上手いんだよなぁ。

 初対面の時の女ヤンキーみたいな印象が懐かしく思える。

 

 彼女も布を被せながら、風呂場に直行。

 

 

「ユキムラ君、行ってくるねぇ~♪」

 

 圧倒的なボリュームと迫力でオリビアが滝に向かっていた。

 こんな陽の下で見ると、改めて凄い迫力・・・・・・目が釘付けになってしまう。

 

 目を逸らしながら、索敵のマップを見ると赤い点が見えたが、こちらから遠ざかる方向に動いているから放置だ。

 

 アミルはローザと何か話をしている。

 これを機会に親睦を深めてほしいな。

 この後は同じ風呂に浸かるから、より仲良くなれるだろう。

 

 :

 :

 :

 

 オリビア・・・・・・ジョブ取得が早過ぎる!

 いや、早くて悪い訳ではないのだが、集中力あり過ぎじゃないか?

 

 もっと見ていたかったからという訳じゃないけど、謎の集中力だよ。

 お前、ひょっとして滝じゃなくても、眼を瞑って集中してみろと言われただけでジョブ取得できたのではないか?

 瞑想の概念を知らなくても、センスだけで瞑想できるとか。

 

 彼女はサイズがいろいろと大きいから、滝の水が作った窪みに入りきらず、フッと体を動かして位置を調節していたら、ハッとジョブが取得できていた。

 もう、某狼人族ヒロインのような振る舞いだ。

 槍も二刀流で器用に扱うし、俺のような凡人枠(パンピー)とは違うのかもしれない。

 

 びしょ濡れの体で抱き付こうとしてきたので、風呂場に繋いだワープゲートに押し込んだ。

 

・・・・・・

 

 アミルは・・・・・・普通に下着姿で滝に打たれて、ヴィルマ同様に普通にジョブ取得した。

 さすがアミル(さすアミ)。期待通りの安定感だ。

 彼女も急いで、風呂場に送り出した。

 

 そして、次はローザ。さすがに素っ裸にはならない。一応は常識人枠のようだ。

 本当は女性には女性で対応すべきなのだが、パーティージョブ設定のスキルを使えるのが俺しかいないのだから仕方がない。

 

「つ、冷たい・・・・・・」

「あまり無理するなよ。無理に今日、ジョブを取得しなければ困る訳じゃないのだから」

ロベルト()に負けられません!」

 変に張り合わないでほしい。

 

 全員が神官や巫女のジョブでパーティーを組む訳ではないのだし。

 それにしても、にわかに巫女・神官ジョブが流行り出したな。

 みんなの憧れのジョブ(職業)なのだろうか。

 うちは皆が近接戦闘もこなすから、戦闘と治療魔法の双方をこなすと格好良い気はする。

 

 

 そろそろ、どうだ。

 

(パーティージョブ設定)

 

 まだ取得できないか。

 

 

 まだダメか。

 

 彼女の方を見ると、目をキョロキョロして、視線がアチコチに向いている。

 落ち着きがないというか、興味の対象がたくさんあるのかね。

 

 

 このままだと無理だな。

 

 

「ローザ!俺のこの指の先を見ろ。ジッと見続けるんだ」

 集中力をつける訓練で、『一点を見つめろ!』とか昔、剣道でやらされた記憶がある。

 

 主に突きの練習で使っていた気もするけど。

 

 

 ようやく、巫女のジョブが取得できたようだ。

 

 急いで彼女に滝から出てもらって、クーラタルの風呂場に直行させた。

 今回の滝行は彼女の好奇心を満たせたのだろうか。

 

 今日だけで神官のジョブを得た者が1名、巫女のジョブを得た者が5名か。

 治癒職の層は薄かったので、急造とはいえ戦力に厚みができたかな。

 ロベルトとアミル以外は、今日得たジョブを使わなそうな気もするけど。

 

 一過性の流行りにならないように、レドリックとマテウスにも相談しながら、探索者・治癒系ジョブの配置は考えていこう。

 前衛に比べると後衛側のジョブの方がタケダ家では層が薄かった気がする。

 これから少しずつ、パーティーの編成が楽になると良いのだが。

 

 アミルは巫女のジョブを上手く使っていくために、フラウスあたりから助言をしてもらう必要があるだろう。

 MPの多さに任せて適当に全体手当している俺では、良い助言ができると思えない。

 それに巫女のジョブを使っていくのなら、装備品の交換も必要だな。

 アミルの使っている槍にはMP吸収のスキルが付与されていないから。

 

 

・・・・・・

 

 その後、ドブローに行き、ダマスカス鋼工房、武器屋、防具屋を巡り、空きスロットの多い掘り出し物を探し回った。

 空きスロットが4つあったのは、エストックとダマスカス鋼の槍が1本ずつ。

 久しぶりに訪れたので、もう少し期待していたのだが2本買えたから悪くはないか。

 

 その分、ダマスカス鋼工房の親方から頑強のダマスカス鋼盾の注文をもらった。

 

 ダマスカス鋼の素材を得る貴重な機会だから、頑張って納品しよう。

 

・・・・・・

 

 夕方にカラダンと共にザビル子爵の館へ訪れ、こっそりと納品・・・・・・したかったのだが、リカルド騎士団長とユリア士爵が待ち受けていた。

 素材とカードの交換材料がなければ、ユリア士爵の希望するスキル融合武器を納品しないのに、彼女が待っているのは謎だ。

 

 先日、激情のダマスカス鋼剣を納品したので、残りのスキル融合装備品を納品。

 ひもろぎのスタッフ、強権のダマスカス鋼槍、耐毒の竜革グローブをテーブルに並べた。

 今回の武器、防具には我が家で鑑定書を添えた。

 武器はクーラタルの商人ギルドに加入しているエネドラの鑑定書、防具の方はザビルの防具屋であるサライの鑑定書だ。

 

 これで納品を完了してもらえるのか、少しドキドキしたが問題ないとのことでホッとした。

 次からの納品はドブローでも、鑑定書が使えるだろうか。

 ドブローは知り合いの武器屋、防具屋を使いたいとか言われるかもしれないけど。

 

 納品が無事完了したので、残りの代金16万ナールを受領。

 これで、ザビル子爵から依頼のあった迷宮対応での納品が全て完了した。

 ユリア士爵の追加要求は・・・・・・素材とモンスターカードの集まり次第だな。

 いつになることやら。

 

 ともかく、怒涛の事務処理デーを無事完了することができてホッとした。

 次はまた30日後だな。

 

 カラダンと今日の午後の話を共有しながらザビルの拠点に戻り、クーラタルへ帰宅した。




お読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿日は2026/3/13(金)の予定です。

今回、ザビルに納品する際にスキル融合装備に『鑑定書』を添えるということを記載しました。
原作を読む限りは、武器商人、防具商人ジョブを持たない客が直接、装備品を確認(鑑定)できるのは、ギルド神殿を使うしかないと解釈しています。
武器商人が客の目の前で、武器鑑定しても客はその結果を信じるだけで、自分自身が確認した訳ではないと理解しています。

では実際に全ての者がギルド神殿に行って確認しているかと言えば、そんなことはないだろうと感じています。

そして、確認できるのはギルド神殿で確認した人だけであって、その場を離れてしまえば、その装備品と鑑定結果の紐づけを示すものは何もありません。
だったら、『鑑定書』(※)で代替しても問題ないのでは?・・・・・・と考えた次第です。
 ※ある時、●●商人が、その装備品を××という装備品だと判定したというメモ

鑑定書があっても、その鑑定書と武器を紐づけるものは何もないので、単なる気休めに過ぎないのですけどね。

結局のところは、その店や鑑定結果を確認する際に立ち会った者の信用、装備品を受け取る側との力関係で、この世界は回っているからなんでもよいのかもしれませんが。
本当に重要な局面では、本人がギルド神殿に行って自ら確認するのかもしれません。

この作品では、スキル融合装備品をアホみたいな数作って納品しているから、扱いを軽くしてしまうのかもですが。
本件に関して、何か別の意見や原作描写の指摘事項等をお持ちの方がいらっしゃいましたら、感想欄に記載していただけると幸甚です。
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