異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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070.意見交換(迷宮ボス戦)

 今日の朝練には、新メンバーが参加している。

 普段はザビルにいるマチルダとレベッカだ。そしてローザとロベルトの姿もある。

 

 ザビルの護衛部隊リーダであるマテウスが、クーラタル側と交流する許可を出したとのこと。

 マテウスとニケはザビル側の販売奴隷達の訓練や統括があるから、クーラタルには来ない。

 

 レベッカの訓練参加は母親のマチルダが難色を示していたようだが、娘の熱意に折れたらしい。

 マチルダとレベッカはずっと二人だけで模擬戦をやっていて、クーラタル側のメンバーとは戦っていない。

 武器は双方が木の槍を使っているから、剣ではなく、まずは槍から習熟させるのか。

 レベッカは剣を使いたがっていた気もするが、安全重視なのだろうな。

 

 新しく訓練に加わった二人にケリーとマリーが興味津々で近づいていくと、レベッカは双子であることに気付いて驚いていた。

 ザビルの会議室でコテンパンにやられた時はマリー一人だけだったからな。

 全く同じ顔の二人が近づいてきたら、そりゃ驚くだろう。しかも同じぐらいの猛者だ。

 

 だが、自分達と実力差があることが分かると、双子は早々に立ち去ってしまった。

 まあ、模擬戦をやるにはまだ無理だな。双子は手加減が下手だから危険だ。

 マチルダ母娘が上位のジョブを得て、レベリングしてからの方が良いだろう。

 

 

 ローザは昨日の滝行の後にでも、アミルと何か相談したのかもしれない。

 今も彼女はアミルと何か楽し気に話をしている。

 

 ロベルトの方はレドリックと何やら話し込んでいるが、傍らにヘルミーネもいる。

 気を使って話しかけたレドリックが彼女を呼び寄せたのだろうか。

 ロベルトは木の槍を持って、ヘルミーネに助言をもらっているようにも見える。

 

 

 アミルはジョブを巫女に変更して、慣らし運転をしているようだった。

 結局、あの後にジョブ変更したのはアミルとロベルトだけだ。

 他の四人の滝行は一体なんだったのだろうと言いたい。

 

 レドリックとヘルミーネには昨晩、神官・巫女のジョブ取得ができそうな場所を得たことを伝えたから、そのうち誰かを推薦してくるかもしれない。

 複数ジョブを使いこなす運用がかなり広がってきた気がするので、今後は神官や巫女のジョブに就く者が増えるだろう。

 

 

 護衛部隊のメンバーは、今日からザビル第二迷宮の探索を始めることになっている。

 初日の参戦メンバー達は一か所に集まって、模擬戦をしているようだ。

 今までクーラタルの33階層で戦っていたのだから、今日挑む予定の階層ではモンスターの脅威度は低いはず。

 

 懸念点は盗賊との遭遇なので、それを見越したフォーメーションを模擬戦で確認しているように見える。

 レイモンドとフラウスが中心となって、守り主体のドロテアも加わり、時々模擬戦を中断しながら話し込んでいるようだ。

 しっかりと連携の確認をして、怪我無く帰ってきてほしい。

 

・・・・・・

 

 訓練と朝食を終えて、まずはドブローにワープで移動。

 ドブローと言っても街ではなく、街道から外れた森だ。

 数十日前に大量の盗賊を討伐した近辺。

 

 盗賊に用がある訳ではなく、花を摘みに来ただけだったりする。

 この辺りを索敵で確認しまくった時に、たくさん花が咲いてる場所を見かけた。

 こちらの世界の墓参なんてやったことがないので、献花する風習があるのかは知らなかったが、エネドラに聞いたら普通に問題ないと言っていた。

 

 前に見た時にピンク色の花が多く咲いていた場所には花は見当たらず、別の所に白い花が咲いていたので、数本切り取らせてもらって紙を巻いた。

 元の世界ではトゲがない方が良いとか聞いてたが、この花にもトゲがないので問題ないか。

 アチラの風習と同じかは分からないけど。

 

 花は確保できたので、ザビルへと移動した。

 

・・・・・・

 

 既にレドリック達は玄関に集合していた。

 まずは俺のパーティーにピコを入れて、二人だけで移動。

 ゲートを出るのは、先頭が俺でピコがそれに続く。

 前回使った壁から二人で出た後、ピコだけザビルにトンボ帰りさせる。

 

 ピコは俺のパーティーから外れ、後はピコがフィールドウォークのゲートを繋ぎ、彼のパーティーに加わったレドリック達が次々と出てくるのを待つ。

 このやり取りは、これから毎日のようにピコにやってもらうことになる。

 ともかく、護衛部隊の迷宮探索組6人が揃った。

 

 初日の探索メンバーは、レドリック、ケリー、フレイヤ、レイモンド、フラウス、ドロテア。

 剣聖、百獣王、竜騎士、探索者、斎王、魔法使い・・・・・・なかなか豪華なメンバー。

 もう、このまま勇者パーティーですと紹介しても問題なさそうな布陣。

 

 まずは、騎士団の詰所に挨拶に行く。

 

 挨拶するのはレイモンドの仕事。

 彼は固定メンバーなので、ザビル子爵のエンブレムのあるワッペンを持たせている。

 リーダー格と言えばレドリックだが、彼は日替わりメンバーなので、ザビル第二迷宮の探索ではレイモンドがリーダーで、フラウスをサブリーダーとしている。

 

 前衛組を日替わりで入れ替えながら、暫くはザビル第二迷宮に通うことになる。

 休暇日も設定するが、目標は33階層なので二十数日ぐらいはかかるかもしれない。

 34階層以降は、迷宮組が引き継ぐか護衛組が継続するかは別途判断する予定だ。

 

 レイモンドが騎士団への挨拶を終えたようなので、一緒に迷宮の入口に向かった。

 入口の周りには他のパーティーは屯しておらず、ここまで来る間に索敵スキルを使ってみたが赤い点は特に見当たらなかった。

 

 レイモンドが入口の騎士団員にワッペンを見せ、迷宮の探索状況を確認した。

 

「今の到達階層は8階層でコラーゲンコーラルだな。

 7階層がニードルウッド、6がスローラビット、5がエスケープゴート、・・・・・・だ」

「では、8階層でお願いします」

 探索者の騎士団員のパーティーにレイモンドが入って、8階層へ向かうため迷宮に入った。

 

 やがて戻ってきたレイモンドが他のメンバーをパーティーに加え、俺に会釈しながらメンバーと共に迷宮へ消えていった。

 部隊編成のスキルを使って、時々マップで確認しよう。

 

 

 入口から右へ視線を移すと、前に見た石の細い柱が見える。

 ローザとロベルトの母親の墓標。

 墓標の前にしゃがみ、摘んできた花を供えて目を瞑って手を小さく合わせた。

 

 娘と息子さんを預かっていますので、安らかに・・・・・・そのぐらいしか思いつく言葉はなかった。

 今の子供達の状況を見たら、母親としてどう思うのだろうか。

 良かったと思うのか、残念に思うのか。

 考えても回答のないことを悩むのは止めよう。

 

 

 立ち上がると、騎士団員が声を掛けてきた。

 

「知り合いか?」

「まあ、知り合いの知り合いって感じですね。会ったことはないのですけど」

 彼は神妙な顔をしていたが、会釈して引き返すことにした。

 

 あの墓標に刻まれた迷宮を探求することを娘のローザが引き継ぎ、目標を達成する未来はやってくるのだろうか。

 少し猪突猛進気味なローザの顔を思い浮べながら、クーラタルへ戻った。

 

・・・・・・

 

 クーラタル自宅の玄関に出ると、既に迷宮組が待ち受けている。

 

「待たせて悪かったな。迷宮に行くぞ」

 こちらも既に準備できているので、そのままターレ迷宮へと向かった。

 

 ターレ迷宮の入口で騎士団の兄ちゃんを48階層に案内。

 これが最後の階層案内だ。49、50階層の案内はしない。

 ここから先は横槍を入れられたくないので、報告をせずに終わらせるつもりだ。

 次の報告をする時は迷宮討伐をした時になる予定。

 数日後には、終わっているはずだ。

 

 先日に引き続き、50階層の探索。

 ロールトロールが大半だが、モンスターの討伐も探索も問題なく進んでいく。

 昼休みを挟んで、50階層の探索を継続。

 午後の半ばで中間部屋らしき部屋を発見したが、そのまま探索を続けた。

 ボス部屋も魔物部屋も見つけられずに、その日の探索は時間切れとなった。

 

 ザビル第二迷宮のレドリック達の様子は、マップを開いてチラチラと見ていたが順調そうだ。

 少なくともマップを開いていた時には、盗賊集団と遭遇した気配はなし。

 

 帰宅したレドリックに確認したが、特に問題なく普通の低階層の探索で終わったとのこと。

 明日は予定通り前衛の三人を入れ替えて、1階層上の9階層を探索するそうだ。

 

・・・・・・

 

 翌日も引き続き50階層の探索。

 魔物部屋を発見したので、魔法で削りながら最後はデュランダルを使って殲滅。

 昼休みを挟んで夕方になる前にボス部屋を発見。

 待機部屋で改めて、今後のスケジュールを伝えた。

 

「さすがに今日このままボス部屋に突入はしないぞ。

 前から言っていたと思うが、明日はクーラタルの52階層を使って、

 迷宮ボス討伐の練習をする。

 俺だけではなく、他のメンバーもボスと戦うことを前提とした練習をするからな」

 四人の反応はマチマチ。

 

 アミルは苦笑。

 残りの三人は自分達が挑みたくて、うずうず&ワクワクしている感じだ。

 特にイレーネの気合の入り方が凄い。

 今にでもクーラタルに行きたいと言わんばかりの目で訴えてくる。落ち着けっての。

 

 だが、明日の練習結果が良くなかったら、迷宮討伐自体を中止にする可能性だってある。

 迷宮討伐は成し遂げたいけど、命を賭けるほどの危険なことをするつもりはない。

 最悪の場合はワープで逃げるから、命を失うことはないと思っているけど。

 その逃げることも含めて、明日は予行演習を行う予定だ。

 今まで、ボス戦闘中に迷宮組がワープで撤退したことは一度もないから練習しないと。

 

 待機部屋の壁にゲートを開いて、自宅に戻ることにした。

 

・・・・・・

 

 夕食前に迷宮討伐に向けての意見交換会を食堂で実施する。

 

 参加者は迷宮組とレドリック、ヘルミーネ、ラファ達ぐらいを見込んでいたのだが、かなりの人数が集まってきた。

 ザビル第二迷宮の探索は問題も発生せず、9階層を楽々突破して10階層に到達している。

 盗賊と遭遇しない限りは、かなり余裕があり、早めに探索を切り上げてきたとのこと。

 

 後方支援組はほとんどいないけど、護衛部隊はほぼ全員参加している。

 ザビルからはマテウスも来ている。カラダン経由で俺が呼んだからだけど。

 そして何故かローザもいるぞ。どこから聞きつけてきたのやら。

 

 なんか大袈裟な感じになってしまったけど、みんな興味があるのだろうな。

 

 エネドラ達が皆にお茶を配って回ってくれた。

 俺の前にも、お茶の入った木のコップとハーブティーと水の入った水差しが置かれた。

 しゃべると喉が乾くから、とっても助かる。

 エネドラとチクルスも聞くのか。皆に遠慮してか後方の席に着いている。

 

「それでは、ターレ迷宮の迷宮討伐についての意見交換を始めたいと思う。

 一部の者には伝えたが、近々、ターレ迷宮の50階層のボス戦に挑む予定だ。

 50階層が最後なのか、次の51階層が最後なのかは分からない。

 ボス戦を終えてから、初めて分かるからな。

 迷宮ボスの特徴、俺がどのように迷宮ボスに挑むつもりなのかをこれから説明する。

 迷宮ボス戦に挑む前に、迷宮ボス戦を想定した練習をクーラタルの迷宮で行うつもりなので、

 それについても説明したいと思う。

 説明を聞いた上で、疑問に思ったことや感じたこと、

 自分達だったらこんな風に迷宮ボスと戦う・・・・・・等、

 なんでもいいから意見を出してもらえると助かる。

 では、説明するぞ・・・・・・」

 前置きを話しただけだが、ほとんどの者は興味津々な顔で、結構、目をキラキラさせている。

 

 特にラファは興奮し過ぎだと思うぞ。そんなに楽しみなのか。

 一方で迷宮組はアミルが真剣な表情、他の三人は目をギラギラさせている。

 君達には事前に説明したよな?まあ、興奮が抑えきれないだけかもしれないが。

 

 まず、ターレ迷宮の50階層のボスモンスターの種類と特徴を説明。

 その後、迷宮ボスの攻撃を受けると、装備品が破壊されることがあること等を付け加えた。

 クーラタル迷宮の52階層で同じボスモンスターと戦って、練習をすることも説明した。

 

 次に現時点で考えている迷宮ボス用のフォーメーション、特別に用意するスキル装備品、主軸となる戦術を説明した。

 主軸となる戦術は俺の持つ英雄、勇者ジョブが持つ超速スキルを使ったものだ。

 主軸の戦術以外を選択するかどうかは、クーラタルでの練習結果で判断すると伝えた。

 

 俺主体の戦術の説明が終わると、聞いていた者達はざわつき始めた。

 

「その戦い方はユキムラ様しかできませんよね?他の者には使えないやり方だと思います」

「ラファの言う通りだ。だが、現時点では一番安全な戦い方ではないかと思っている。

 俺のやり方を少し崩して、他の迷宮組や護衛部隊の者でも流用できる方法があるかもしれない」

 こんなに聴衆が多い場で、先陣を切って発言するラファは凄いな。

 

 14才とは思えない。貴族ならではか?

 

「ご主人様が、その戦い方を選択した一番の理由は何でしょうか?」

「そうだな。いかに迷宮ボスから攻撃を受けないようにするかに重きを置いた。

 それを第一に考えた時に最も確実な方法だと思えたからだ。

 迷宮ボスの攻撃を受けると装備品を破壊されることがあると先ほど説明したよな。

 武器であれ、防具であれ、破壊されてしまうと戦局が一気に傾いてしまう。

 そのような事態を回避するためだ」

 質問したマテウスは二度三度と頷いている。

 

 

「武器を破壊されると、その者は攻撃する手段を失う。

 今回は武器や防具を破壊されることを前提に、

 俺やアミルといったアイテムボックスを使える者が、予備の装備品を収納して臨むつもりだ。

 戦っている最中に、アイテムボックスから装備品を取り出して仲間に渡すだけでも、

 大幅な戦力低下になってしまう。

 可能な限り避けたいが、破壊されることを常に頭に入れて迷宮ボス戦に挑むつもりだ」

「武器や防具を戦闘中に受け渡しすることも練習するのですか?」

 レドリックの質問に頷く。

 

 普段の戦闘では事前に準備しておくから、戦闘中に交換することなどないよな。練習は必要だ。

 

「ユキムラ様がそこまで迷宮討伐の準備を万端にする理由は何故なのでしょうか?」

「迷宮組メンバーの安全に配慮することが一番の理由だが、

 まあ、俺の性格的なこともあるかもしれない。

 重要な局面では、なるべく準備を万端にして臨みたいからだ。

 そして、全力を尽くさないと得るものがほとんどないのではないかと思ってるからだな」

 ラファは『貴族になるためだ』という回答を望んでいたのではないだろうな。

 

 その回答はしないぞ。

 

「では・・・・・・では・・・・・・私をユキムラ様のパーティーの6人目に加えて下さい。

 ユキムラ様のパーティーは5名しかいません。

 迷宮ボス戦に全力を尽くすのであれば、5名で臨むのはおかしいと思います。

 私は魔道士としても活躍できますし、斎王として治療役もこなせます。槍も使えます。

 迷宮ボスと戦うのは無理かもしれませんが、

 お供のモンスターを抑えることはできると思います」

「ラファを6人目に?」

 彼女は真剣な眼差しで俺を見据えている・・・・・・そうきたか。

 

「気持ちはありがたいが現時点では、それは認められない」

「何故でしょうか?

 奴隷の身で主人の方針に異を唱えるのは本来控えるべきですが、

 ユキムラ様を危険に晒すのであれば、黙している方が罪になると思っております」

 主張していることも真っ当だから、ラファの意見は否定しにくいね。

 

「まず、迷宮組の5人は長い間、低階層から50階層まで連携を確認しながら戦ってきた。

 急にラファを入れてもスムーズに連携ができるかどうかは不安が残る。

 迷宮ボスは別格だと思っているし、少しの連携ミスが戦局を大きく変えるかもしれない」

「私が皆さんより未熟であることは分かっております。

 それでも、雷魔法を放つだけ、全体手当をかけるだけなら、お役に立てると思います」

 気持ちはありがたいが・・・・・・ダメだ。

 

 未成年を迷宮ボス戦に連れていく訳にはいかないってのもあるのだけど・・・・・・通常の探索はOKで迷宮ボス戦はNGというのも変な理屈だ。

 真剣に意見をしてくれている彼女を子供扱いするのは・・・・・・誇りを傷つけることになる。

 

 ただ、迷宮ボス戦は情報が少な過ぎて、今までと比べてリスクが高いと思っている。

 想定外の事象が発生したら、即座に撤退を判断する可能性がある。

 パーティー内の連携が重要だと思っていることに偽りはない。

 

「ラファを俺のパーティーに加えるのはダメだな。

 君をパーティーに入れるのと外すのでは、入れる方がリスクが高いと判断した。

 その俺の判断では納得がいかないか?

 それに俺は迷宮討伐を目標としている訳ではない」

「迷宮討伐が目標ではないとは、どのような意味なのでしょうか?」

 あれっ、この話はラファにしなかったっけ?言った気もするけど。

 

「迷宮討伐を手段として見ているということだ。

 さきほども説明したが、迷宮ボス討伐に失敗しそうなら直ぐに逃げるつもりだ。

 何がなんでもやり遂げたいと思っている訳ではないから、必要以上に命を懸ける気もない。

 安全だと思う範囲で戦い、危ないと思ったら撤退する。

 自分達の実力を確認することや、ハルツ公にタケダ家の実力を示すことも重要だが、

 そのために無理をする気はない。

 今回の迷宮ボス討伐戦は、俺の考えた手法が通用するかの実験という位置づけだ。

 実験のために、必要以上のリスクを冒す気はない」

「じ、実験なのですか・・・・・・迷宮討伐が?」

 元貴族のラファをがっかりさせたかな。

 

 別に迷宮討伐を舐めてる訳ではないぞ。だが、迷宮討伐に拘り過ぎるのは危険だ。

 

またですか(実験ばっかりですね)?」

「・・・・・・」

 ドロテア!お前の独り言、聞こえているぞ!

 

 なんか原作ヒロインも似たような苦言を主人公に申していたような。

 彼女(ドロテア)には結構エグイ実験に付き合ってもらったから、愚痴の一つも言いたくなるだろう。

 

「あの・・・・・・では、私も迷宮討伐戦への参加を立候補します」

「ローザ、お前がか?」

 立候補って、別に空いてるメンバー枠を募集してないぞ!

 

 実は母親から迷宮ボス戦の必勝法を一子相伝で継承しているとか?・・・・・・ないよな。

 

 

「お前は、どういう意図や意義があって迷宮討伐戦に参加するつもりなのだ?」

「いえ、席が空いているから参加したいだけです。

 迷宮ボスが討伐される瞬間を見てみたいです」

 いやいや、人気の飲食店の行列じゃないのだからさ。

 

 ローザはマテウスに羽交い絞めされて、口を塞がれている。

 それにしても、『見てみたい』か。言葉以上に意味がある台詞な気もするな。

 

「ローザ、お前の参加もラファ同様に認められない。理由はラファと同じだ」

「そうですか。残念です」

 羽交い絞めにされながらも、大して残念ではなさそうに返事だ。

 

「だが、迷宮討伐戦を見てみたいと言ったお前の意見は、

 俺が迷宮ボス戦を『実験』と説明したものに通じるものがある」

「!」

 俺の言葉にローザが反応する。

 

「迷宮ボス戦は人伝で聞いたことがあっても、俺は経験したことがない。

 だから、実験という形で経験してみたいというのは俺にもあるんだ。

 迷宮ボスはどのぐらいの頻度で装備品を壊すのか、

 壊され方には何か特徴があるのか、

 壊されにくい防御法や攻撃法があるのか?

 迷宮ボスと通常ボスの違いは、本当に装備品を壊すという特徴以外にないのか?

 そういったことを知りたいんだ。

 だけど、命懸けの戦いだから、まずは討伐を優先する。無理なら撤退する。それだけだ」

「・・・・・・」

 俺の言葉に、彼女はコクコクと頷いている。でも、連れていってやらんぞ。

 

 どこまで本気だったのか分からないが、彼女の見たい・・・・・・観察したいという観点は迷宮討伐戦を考える上では重要な視座な気がする。

 

 本当に余裕があるのなら、二匹のボスのうち一匹を早々に倒すか無力化し、残りの一匹からの攻撃を武器で受けてみて、平均何回で破壊されるのかの実験してみたい。

 原作でエステル男爵は攻撃を弾いても武器が破壊されるから、背面から攻撃すると言っていた。

 受け方で違いがあるのか、攻撃のカウンターでぶつけても、やはり壊れる確率は一緒なのか等を調べて記録したいのだ。

 

 迷宮ボスと通常ボスで状態異常が発生する確率の違いも知りたい。

 原作の記載では『普通に石化した』みたいな記載があったけど、こちらの世界でも同じなのかは気になっている。

 アイテムに余裕があるのなら、一度石化させて、エリクサーをぶっかけて回復させて・・・・・・また石化させてを繰り返してサンプリング数を増やしたい。

 石化させたモンスターをエリクサーで回復させられるのかは不明だが、柔化丸を飲ませられないからエリクサー以外の回復手段が思いつかない。

 モンスターはパーティーに加入させられないから、パーティライゼイションも使えないし。

 

 手元にエリクサーは一つもないし、治療したい娘達がいるから、そんなことができるのは遥か先だろうけど。

 それ以前にエリクサーのそんな使い方を説明したら、この場でいる者達にドン引きされそうだから言わないけど。

 

 

 ともかく実験結果によっては、今後、迷宮討伐する際の効率的な方法が分かるかもしれない。

 効率的な方法が分かれば、護衛部隊でも低リスクで迷宮討伐ができる可能性がある。

 実際に、この世界では騎士団などが各地で迷宮を討伐している訳だから、何か効率的な方法があるはずだ。

 避けタンク方式、大量武器持ち込み方式・・・・・・他に適切なアプローチがあるのか知りたい。

 

 魔法で削る方法もあるが、弱点属性が都合よくあるとも限らないから微妙だな。

 魔法攻撃の回数がどの程度必要かも相性次第だ。

 今回のボスはトロール系だから火魔法が弱点なので、それを重点的に攻めるのも良いが・・・・・・雷魔法で麻痺を狙った方が無力化という意味では効率的だと判断した。

 

 まずは初回の迷宮討伐を終わらせた後、二回目以降で実験できるか考えたい。

 迷宮討伐を俺以外の者ができるようになれば、効率的にギルド神殿を得られたり、タケダ家の影響力を増やす一助になるだろう。

 やっぱり迷宮討伐は目的ではなく、手段としか俺には思えないな。

 全員の前では、まだ実験の詳細は説明できないけど。

 

 

「私も仲間からの又聞きですが、迷宮ボスの武器破壊の話は聞いたことがあります。

 二回攻撃されて一回壊れるといった頻度ではなく、

 数回に一回とか十回に一回だとか言ってました。

 情報の正しさを自分自身で確かめた訳でもありませんから、本当のところは分かりませんが」

「マテウス、参考にさせてもらうよ」

 そうそう、こういう情報を知りたかったんだよなぁ。

 

 現時点では、真偽不明の情報でも構わない。

 

「私の聞いた話もマテウスと同じです。二回に一回とかではなく数回に一回程度だと。

 唐突に破壊されるため、隙ができてしまうから要注意だと言ってました。

 集中力を長く保つことが重要だと、その者は繰り返し強調してました」

「なるほど。確かに隙ができやすいかもしれない。

 それと、いつ壊されるか分からないから、長く緊張を強いられるよな。集中力は大切だ。

 ヘルミーネ、情報ありがとう」

 複数の情報が集まれば、その情報の精度が向上できるな。

 

 だが、迷宮討伐は貴族が成し遂げることが多いから、元貴族や貴族と接点があった者達でないと収集しにくい情報だ。

 タケダ家だとラファ、ヘルミーネ、マテウス・・・・・・次点でレドリックやニケか。

 

「ご主人様が本命とした手段以外で、諦めたやり方はどのようなものがあるのでしょうか?」

「そうだな、アミル・・・・・・俺が諦めたやり方は二つかな。

 一つは、前衛を務める者がひたすら回避に徹するやり方だ。

 もう一つは武器を大量に持ち込んで、

 壊れることを前提にひたすら武器を潰しながらボスのダメージを蓄積して倒すやり方だ」

 原作でエステル男爵が言及していたやり方だな。

 

「回避に徹する、もしくは回避しながら攻撃するのは、明日のクーラタルの練習で試す予定だ。

 避け続けるのは困難だと思うが、ヴィルマ、イレーネあたりが適任じゃないかと思っている」

「・・・・・・」

 二人がコクコクと頷いている。

 

「その回避する方法の派生が、相手に攻撃させない方法だな。

 相手の攻撃のタイミングを見ながら、バランスを崩させて攻撃をさせないといった感じだ。

 これは通常の戦闘でオリビアやアミルが得意としている。

 こちらも攻撃の全て遮断するのは、かなり困難だと予想している。

 だが、明日のクーラタルの練習では試したいと思っている」

「はい。頑張りたいと思います」

 オリビアは無言で笑みを浮かべ、アミルは神妙な面持ちで頷いた。

 

「回避や攻撃遮断の有効性も、ボスモンスターの攻撃方法や移動方法次第だと思っている。

 ターレ迷宮の50階層のボスは人型で陸上歩行のモンスターだから、

 回避や攻撃の遮断は意外にやり易いかもしれない。

 飛行型であったり、遠隔攻撃を多用してくる場合、攻撃までの予備動作が少ないモンスターは

 かなりの難敵になると思っている」

「攻略するパーティーメンバーのジョブにも依存しそうですね」

 そう、その通りだ。

 

「回避が得意なジョブというと一番に思いつくのが獣戦士系のジョブだ。百獣王もそうだな。

 くのいちのイレーネもそうだし、剣匠、剣聖もそうだ。

 回避が得意なジョブでも本当に避け切れるのかどうかは、やってみないと分からない」

「そうですね。だから、クーラタルの迷宮で練習するのですね」

 レドリックの言葉に頷く。

 

 俺の鬼武者系統のジョブも実は『敏捷』の効果がある。俺しか使えないジョブだけどね。

 盗賊ジョブもあるのだけど、攻撃力の無さと外聞がねぇ。

 迷宮討伐で盗賊が活躍するとは思えないし。

 

 他には英雄、勇者のジョブも『敏捷』の効果があるが、どちらかと言えば同じパーティーメンバーへの効果への期待だな。

 そのジョブ持っていたら、利用するのは超速系のスキルになるからなぁ。

 実際、今回の討伐ではそれを主軸に使う予定だ。

 

「避けてカウンターで手数を重ねて、状態異常ですか・・・・・・」

「そうだな。百獣王や剣聖のジョブは向いているかもしれない。

 あとはどこまで回避ができるかだな」

 レドリックは自分が迷宮ボスに挑む時のイメージを重ねているのかもしれない。

 

 剣聖は二刀流だから、手数と言う意味では有利かもしれない。

 

 実際、タケダ家には百獣王と剣聖が複数所属しているからなぁ。

 その一方で竜騎士系のジョブは迷宮ボス戦でどこまで戦えるのか疑問だ。

 防御に回ると強いけど、攻撃を受けないという意味では向いてないから。

 オリビアの槍二刀流もどこまで通じるか。

 武器で攻撃を受け流していることも多いから、迷宮ボス戦はしんどいと思っている。

 

「武器を大量に持ち込むのはタケダ家では可能だと思うが、

 討伐戦が長時間になるので選択しなかった。

 ただ、冒頭説明した通り、装備品を壊される前提で武器、防具は持ち込むがな」

「ご主人様が本命としているやり方がありますから、

 あえて武器を大量に持ち込む方法を選択する必要はないのかもしれません」

 そうなるよな。

 

「ボスモンスターから、ひたすら逃げ回るのはダメでしょうか?」

「ローザ、それはアリかもしれない。

 ただ、逃げ回るのは一人だけかな。

 ボス二匹で二人が逃げ回ると、どこかで逃げ切れなくなるのじゃないか?

 それと逃げる役と攻撃する役が上手く連携する必要があるな。

 いずれにしても、相当の練習をして連携を高めなければならない。

 だが、発想自体が悪いとは思わないから、何か別の工夫ができると面白いかもな」

 アイディア勝負だから、どんどん意見を出してほしい。

 

 ケリーとマリーのように阿吽の呼吸なら、別々のボスから案外逃げ切れるかもしれない。

 追いかけて攻撃する者は、かなり大変だろうけど。

 

「ダートウォールでボスを封じ込めるのは、どうでしょうか?

 ご主人様は無詠唱で魔法が使えるから、他の魔道士ジョブの者と詠唱共鳴しないのですよね?

 複数の魔法も同時に放つことができたと記憶しています。

 ダートウォールを3枚出してボス一匹を封じ込めれば、有利に進められるかもしれません」

「それは面白いやり方だと思う。

 だが、俺と組む魔道士が連携の習熟を重ねる必要があるな。

 どのタイミングでどの場所に壁魔法を発生させるのかもキッチリ合わせる必要がある。

 それができないと簡単に逃げられてしまうからな。

 だが、発想は凄く良いと思う」

 褒めたのにラファは残念そうな表情だ。

 

 まだ、迷宮ボス戦参加を諦めてなかったのか。今回は諦めたまえ。

 

 相性の悪いボスモンスターが迷宮ボスである可能性が高い時は、周りの迷宮を討伐してから臨むというのはあるのかもしれない。

 確か原作でも近くの迷宮を討伐すると迷宮ボスの階層が下がるような記述があった気がする。

 レベルの多少の差よりも、攻略のしやすい迷宮ボスなのかどうかなのが重要だと思うが。

 

 その後も多くのアイディアが出たが、明日の予行演習に加えられる程のものはなかった。

 それでも、場は大いに盛り上がった。

 

 ボス二匹に対して回避能力が高い者が三人で臨み、その中の一人が攻撃担当となる。

 残りの三人のうち二人がお供のモンスター二匹を一人ずつ担当して、魔法使いが雷魔法か弱点属性の魔法を放ちまくるという方法が話題の中心になった。

 

 お供をどうやって早く無力化して、迷宮ボスへの攻撃に早く駆けつけるか等、実践的な話題にまで及んだ。

 どのようなモンスターがお供として出現するかは分からないので、苦手モンスターがないメンバーがお供と戦うのが適切ではないか等、聞いていて面白い。

 自分達でもこなせそうな役割があると、盛り上がるよな。

 

 もっと早く意見交換会をした方が良かったか。

 だが、そうするとラファが6人目に加わって連携を深めたいと主張したかも。

 まあ、これからも機会はあるだろう。

 

 意見交換会は大盛況のうちに、幕を閉じた。

 明日はクーラタル迷宮の練習で、検討の成果が試せるから少しワクワクしてしまう。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/3/15(日)の予定です。
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