「あれっ?今朝は早くから迷宮に入っていたのですね。
もう出てきたのは・・・・・・次の階層に進めたのですか?」
「えーと、そのことなのだが・・・・・・」
今日で兄ちゃんの迷宮入口での仕事は終わりかもしれない。
「迷宮を討伐したようだ」
「はっ?」
フッと討伐して、ハッとなってしまったか?
「ちょっと迷宮を討伐してきた」
「そんな朝から散歩してきたみたいなノリで言われても・・・・・・マジっすか?」
マジなのだよ。兄ちゃん、言葉が崩れているぞ。
アイテムボックスからギルド神殿を取り出す。
「これが証拠のギルド神殿だ」
「そう言われても、ギルド神殿なんて見たことないです」
俺だって見たのは先程が初めてだ。
「討伐されると迷宮には入れなくなるから、疑うなら迷宮に入ってみれば分かるはずだ」
「ああ、そういえば、そんなことを聞いたことがありましたね。
ちょっと待って下さいよ。ホントにホントですか?」
首を傾げながら、兄ちゃんは迷宮の入口に歩いていった。
討伐されても、数日は迷宮は残っていると原作では記述があった。
その記載の通り、迷宮の入口は討伐されても存在している。
これで兄ちゃんが迷宮に入れなければ、討伐が証明されるだろう。
もし入れてしまったら・・・・・・もう一回討伐?
ヴィルマが喜びそうだな。
「確かに入口からどこにも行けないですね。本当に討伐されたのですね」
「そうだな。かなり苦戦したが、なんとか討伐できた。怖ろしい相手だった」
瞬殺で石にしたとは言えないので、頑張りました感を出してみる。
「報告はこれで終わりにしても問題ないか?」
「いえ、さすがに騎士団の詰所に来てもらえますか?
そのギルド神殿を提示してもらわないと説明も難しいですし」
原作ではエルフヒロインが口頭で説明して終わりだった気もするのだが。
こちらの世界ではそうはいかないようだ。
迷宮組にはエルフ族の者はいないし、俺が鬼人族ということで信用が足りないのかも。
「じゃあ、パーティーの者達はいったん帰宅させる。説明は俺一人で構わないだろう?」
「それは別に問題ありません」
俺以外のメンバーまで説明に付き合う必要ないよな。
それにヴィルマあたりが、『フッと気付いたら、ハッと主がボスを石にしていた』とか貴族の前にで証言されると困る。
瞬殺で石化させたから、その説明は案外妥当な気もするけど。
説明は俺がアドリブで適当にするしかない。
適当な木陰からゲートを開いて、クーラタルの自宅に繋げた。
「アミル、エネドラ達に無事迷宮を討伐したと伝えておいてもらえるか?」
「はい、分かりました。ご主人様、くれぐれも自重をお願いしますね」
報告するだけなのに、何を自重すればよいのだろうか。
最近、俺の信用度が下がっている気がする。
最後にアミルがゲートを通ったのを見届けて、ゲートを閉じた。
「ボーデの冒険者ギルドに移動すればよいか?」
「はい。お願いします」
「では、こちらのパーティーに入ってくれ。
友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成・・・・・・」
兄ちゃんが俺のパーティーに加わったのを確認。
フィールドウォークのゲートを開いて、ボーデの冒険者ギルドに移動した。
・・・・・・
詰所に入っていった兄ちゃんを見送り、俺は外でボーッとしている。
もう季節は春だな。
初めてボーデに来た時は雪がかなり残っていて、かなり寒かったのを覚えている。
まだ、この辺りは肌寒いから半袖で過ごすという訳にはいかないが、それでもかなり暖かくなってきた。
この後は、公爵か騎士団長に褒美をおねだり・・・・・・あわよくば威霊仙をゲットしたいが、そう簡単にいかないだろう。
無報酬だったら、次のエルフ領の
『別の貴族からも依頼を受けてまして・・・・・・』と言って、適当にお茶を濁す手もある。
多少はひも付きであるところを見せておかないと、便利屋として使われてしまうからな。
とはいえ、その貴族と話をつけようかという流れになっても困るから、その口実は拙いか。
おっと、兄ちゃんがゴスラー騎士団長を連れて戻ってきた。
「タケダ殿、ターレ迷宮を討伐したとか?」
「はい。これが討伐した際に得たギルド神殿となります」
リュックから小さなボールを取り出して騎士団長に見せた。
あまり高級感のあるボールではないから、簡単に偽物が作れそうな気もするけど。
「これは・・・・・・確かにギルド神殿に間違いない。
いやはや、こんなに早く迷宮討伐を成し遂げられると、
ありがたくはありますが騎士団としては立つ瀬がないですな」
「たまたま運に恵まれたのでしょう。それに我が家はパーティーメンバーが優秀ですから」
ここは仲間を持ち上げておこう。
実際、50階層に到達できたのは彼女達のおかげだ。
「では、閣下がお待ちですので、こちらへどうぞ」
「はい」
兄ちゃんは会釈だけして、立ち止まっているので、ここでお別れのようだ。
次に会えるのはいつになるのか分からないな。
ボーデやハルバーの迷宮の入口に行けば会えるのか・・・・・・いや、別の担当かもなぁ。
ターレの村長に迷宮討伐の報告でもして、いっぱい感謝されてくれ。
わざわざ迎えに来てくれた騎士団長を待たせる訳にはいかず、急いで後を追った。
・・・・・・
執務室に入ると、公爵が立ち上がって出迎えてくれた。
いつもなら書類と格闘していて、手が空いてからこちらに話しかけるのだが、迷宮討伐効果なのだろうか。
「こうも早く迷宮を討伐するとは。
さすがはタケダ殿だ。余が見込んだだけのことはある」
「お役に立てて光栄です」
なんか公爵のこの台詞は面倒事を押し付けた時に使っていたような気も。
「迷宮を討伐したということは貴族への足がかりを得たことになるが、どうかな?」
「一介の迷宮探索者ですから、貴族になるなど、とてもとても・・・・・・」
こんなタイミングで貴族になったら、公爵にこきつかわれる将来が目に浮かぶ。
貴族そのものになりたい訳ではないし、メリットも現時点では感じられない。
「一介の迷宮探索者は、貴族に石鹸をあれほど売りつけたりはしないであろう?」
「・・・・・・」
どう返事を返せばいいんだよ?
やっぱり、この前のルークの委託販売紹介の件を根に持ってるのだろうか。
一介の商人と言っておけば良かったか?
迷宮討伐した後にその言葉は不自然か。
「まあ、優秀なパーティーメンバーに恵まれただけですから」
「ほう・・・・・・」
エネドラとか、アミルとか、ヴィルマ達とか・・・・・・他多数の有能な者達だ。嘘ではない。
「なるほど。ゴスラーが褒めていたパーティーメンバーにも会ってみたいな。
一度タケダ殿のパーティーを晩餐会に招きたいと考えておるが、いかがか」
「えっ?」
ここで夕食の誘い・・・・・・これは・・・・・・帝国解放会に繋がるフラグだろうか?
それに、褒めていたメンバー云々は原作では超絶回避ヒロインがドーリットルを決闘した際の・・・・・・ああ、ヴィルマも決闘したなぁ。
しかも、ドーリットルを仕留めてしまったし。
俺の決闘の方は黒歴史だから、特に言及してもらわない方がありがたい。
ついでに迷宮討伐の戦いへの質問も控えていただきたい。
「食事の作法などは、私もパーティーメンバーも分かりませんが」
「作法など謁見の場でなければ問題にならぬ。気楽にしてもらえればよい」
晩餐会の話でもして、話題を逸らそう。
「パーティーメンバーは、我が家では全員奴隷ですが」
「構わぬ。迷宮討伐で活躍できる者であれば身分など問わぬ」
ヴィルマ達も連れてくるか。
ザビルの時と同様に、舞踏会ならぬ武闘会が開催されると困るのだが。
「タケダ殿には、イロイロと世話になっておる。
パーティーメンバーを招いて食事するくらいは当然のことであろう」
「左様ですか」
やっぱり、鏡やら石鹸やらのことを根に持たれている気がする。
「今宵の夕餉などはいかがか」
「閣下、いくらなんでも早過ぎます。夕刻の予定が・・・・・・」
そういえば、せっかちキャラだったっけ。
「では、明日の夕餉なら?」
「むむ、それなら私もカシア様もなんとか・・・・・・タケダ殿はいかがでしょうか?」
いかがと言われても、断る選択肢が与えられているのだろうか。
「そのまま普段着で来てもらえば問題ない。何の準備もいらぬ」
「分かりました」
まあ、帝国解放会に繋がるかもしれないから、来るしかないよな。
それよりも、迷宮討伐の褒美が豪華な夕食で代替されようとしているのだろうか。
貴族とのパイプを太くして、戦争等各種情報を収集するのは吝かではない。
迷宮討伐の褒美を個別にもらうのも全く吝かではないのだが。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
この間は?
「無論、迷宮討伐の褒美は個別に考えておる。
どうかな、貴族への推挙や余の騎士団で騎士に取り立てることも可能じゃが・・・・・・」
「先ほども申し上げましたが、貴族などとてもとても・・・・・・」
それって、こちらにとっては褒美でもなんでもないから。
「であるか」
「はい」
信長かよ!・・・・・・こちらはタケダだけど。
「では、何か欲しいものがあれば申してみよ。余の力の及ぶ限りなんとかしよう」
「では、お言葉に甘えまして。威霊仙かエリクサーをいただければと思います」
言ってやった・・・・・・いや、言ってしまったな。
「ふむ、威霊仙かエリクサーか・・・・・・」
「閣下!」
ゴスラー騎士団長が慌てているってことはNGか?
「確かに迷宮討伐と引き替えに重傷を負った者を癒すのに使うことはある。
迷宮討伐の対価としては妥当ではあるが・・・・・・」
「・・・・・・」
ザビル子爵もギルド神殿と引き換えに威霊仙くれそうな貴族がいると言ってたな。
「だが、あいにく手元に今、威霊仙もエリクサーも無いな」
「左様ですか」
うーん、本当にないとは思えないが、これはNGということか。
「だが、同等の褒美であれば示せるか」
「・・・・・・」
自爆玉は持っているから、威霊仙かエリクサーでなければ意味ないのだけど。
「有力貴族への紹介状となるが、どうであろうか?」
「紹介状ですか?どちらの貴族様への?」
貴族の伝手かぁ・・・・・・微妙だな。
「ザビル子爵への紹介状を出そう」
「!」
いや、既に結構な知り合いなのですけど。
「まあ、そのような顔をするでない。
子爵とはいえ、
「重要な領地ですか?」
ペルマスクに近いとか。
「其方はザビル領が共和国と国境を接していることは?」
「共和国?いえ、初めて知りました」
帝国でも王国でもなく、共和国?
共和制・・・・・・いや、共和政の国家があるのか?古代ローマも共和政だったっけ?
ザビルのどの辺りが国境に接しているのだろうか、ザビル第二迷宮のある村以外でザビルの外に出たことないのだよなぁ。
この世界に来てから、国レベルの地図とか見たことないし。
「共和国が帝国に輸出しているものがある。
それはさすがに知らぬであろうが・・・・・・奴隷じゃ。
竜人族の奴隷を帝国に輸出しておる。
帝国の価値ある物品と交換でな」
「竜人族ですか」
変な話になってきたな。
ザビル子爵からも、そんな話は聞いてない。
奴隷商館をザビルで営むことにしたというのに。
平民レベルには聞かせる話ではないのかもしれないが、そのうち耳に入ってくるのだろうか。
いや、それなら元の奴隷商館からカラダンへの引継の中で行われるだろう。
「帝国と取引をしているということは、共和国は帝国の友好国なのでしょうか?
戦争や紛争を起こすような間柄ではなく?」
「そうじゃな。帝国と共和国は通商条約を結んでおる。
国境を接しているが、戦争や紛争などは今のところはないな」
友好国ということか。
ヘルミーネが言っていた、友好国だか同盟国だかって共和国のことか?
帝国と王国は仲が悪いのだっけ?ちょっと帰ったらもう一度確認してみるか。
それにしても、輸入品が竜人族の奴隷とはな。
帝国は自爆玉を友好国には輸出しているとヘルミーネは言ってたかな。
魔法使いと引き換えに竜騎士を得るって算段なのだろうか。
気持ちの良い取引ではないなぁ。
既に我が家には竜人族が三人いる。
別に竜人族ならドンドン増えても問題ないのだが、今は威霊仙かエリクサーの方が欲しい。
ないものねだりなのか。持っていそうな気はするのだが。
権力者はコネを交渉材料にしがちだよなぁ。
「その紹介状をいただくと、竜騎士の奴隷を得ることができるということでしょうか?」
「無論、それなりの対価は必要となる。
だが、貴族でなければできない取引も可能になるということじゃ」
平民のまま、貴族と同じレベルの取引ができるということか。
ペルマスクで貴族の紹介状を使って、装飾のない鏡の取引ができたのと同じかもな。
威霊仙やエリクサーが入手できないのなら、アリなのだろうか。
ここでゴネても、威霊仙に届きそうな気はしない。
ギルド神殿は、ザビル子爵の知り合いとの交換で威霊仙の伝手が使えるかもしれないから、そちらに回すか。
「紹介状、いただきたいと考えます」
「そうか。やはり迷宮討伐を目指す者は違うな」
迷宮討伐は目的ではなく、手段なのだけど・・・・・・それは言葉には出せない。
公爵は机に戻り、何やら書き物を始めた。紹介状を作ってくれているのだろう。
「タケダ殿、おかけになってください」
「はい・・・・・・」
そういえば執務室に入るなり、ずっと立ち話だった。
ゴスラー騎士団長に勧められて、ソファに座ることにした。
「タケダ殿のパーティーは五人だと団員から伺いましたが、
晩餐会にはパーティーメンバーの方でなくとも連れてきて構いませんので」
「なるほど、検討いたします」
エネドラかなぁ。
そういえば、原作でもパーティー編成の上限まで、知り合いを連れてこいとか言ってたっけ。
我が家は現在、数十名在籍しているから、全員連れてきて驚かす?
・・・・・・いや、アミルに自重しろって言われていたよな。
アミルは大丈夫だろうけど、三人のお目付け役が必要な気がする。
お目付け役というか、ブレーキ役というか。
「他の二つの迷宮の探索は順調なのでしょうか?」
「ボーデ、ハルバー共に計画通りに探索は進んでおります。
ターレ迷宮の方は後からと思っておりましたので、団員も気が楽になったことでしょう」
気だけではなく、予算も楽になったはず・・・・・・その分をご褒美に回してもらいたかった。
「鏡や石鹸の方は、お役に立てているでしょうか?」
「ああ・・・・・・そうですね。カシア様が各方面に配られて好評だと伺っております」」
何か一瞬、天を仰いで遠い目をしたように見えたが、好評なら問題ない。
紹介状の作成が終わったのか、ハルツ公がこちらに近づいてきた。
普通は、こちらがあちらに向かうべきだと思うのだが、やはりせっかちか。
「ゴスラー、これを・・・・・・。
タケダ殿は引き続き、ハルバーかボーデの迷宮に入ってくれぬか?」
「今回の迷宮討伐で自分達の力の無さを痛感したところです。
しばらくはクーラタルの迷宮で修行をしようかと考えております」
ゴスラーは渡された紹介状を確認し終えて、こちらに視線を向けて頷いている。
ハルツ公の表情からは考えていることが読み取れない。
正直なところ、あまり便利な迷宮討伐人としてコキ使われるのは困ると思っている。
威霊仙の芽がないのなら、63階層を目指す準備をしたいし、実力を磨くためにもクーラタルの上の階層で修練したい気持ちは嘘ではない。
今後どうしていくのかは、皆と相談してから決めたいな。
ゴスラー騎士団長は、我々が公爵領の迷宮探索に参加しないことには異論がないようだ。
これ以上、部外者に討伐されるのは騎士団の沽券に関わると思っているのかもしれない。
「まあ、その話は明日の晩にでも、また話そう。
タケダ殿、晩餐会は労いの場なので、ゆるりと過ごしてもえらえればよい」
「はい。ありがとうございます」
貴族との会食でリラックスし過ぎると、とんでもないことが起きないか。
そういえば、酒飲んで暴れる奴とかいないだろうな。
明日、酒が出るかは分からないが、油断禁物だ。
家に無事に帰るまでが、晩餐会だ。
ミラのように隻眼にヘッドロックをかます猛者がいないことを祈りたい。
普段から酒を飲ましてないから、何が起きるか分からないんだよなぁ。
これ以上、変な話が出てくると困るので、適当なところで暇乞いをしてクーラタルの自宅に戻ることにした。
・・・・・・
自宅の玄関に繋げたゲートを抜けると、ラファとばったり出くわした。
「ユキムラ様、お待ちしておりました!」
「お、おう・・・・・・」
女の子に出待ちされる日が来るとは。いや、この場合は入り待ちか。
「あの、その・・・・・・」
「ん?」
なんか珍しく、ラファがもじもじしている。ちょっと可愛い。
「迷宮討伐を成し遂げたと伺いました。素晴らしい・・・・・・偉業だと思います」
「あ、ああぁ・・・・・・そうなのかな」
なんだか、彼女のテンションがおかしい。迷宮討伐は彼女の目標だったのだろうか。
でも、さっき貴族への誘いは断ったのだよ。
このテンションの彼女の前で言う気はないけど。
「それで、あの・・・・・・」
「ん?」
なんか歯切れが悪いな。
「ギ、ギルド神殿を見せてほしいのですけど・・・・・・」
「えっ?」
あんなチンケなボールを見たいの?
そういえば、さっきの謁見で雑にリュックに入れたままだった。
取り出して、彼女の前に差し出した。
「これがギルド神殿・・・・・・」
「・・・・・・そうらしいな」
彼女は俺から受け取ったギルド神殿を掌に乗せて、丁寧に触れたり、撫でたりしている。
こんな美少女が恍惚とした表情で、珠を撫でたり触ったりしている・・・・・・なんだコレ?
『玉』ではなく、『珠』としておかないとヤバイ構図だ。
珠とは言うが、それを7つ集めても、竜が召喚されて願い事を叶えてくれる訳でもない。
俺にとっては、なんの変哲もないボールだ。今のところは倉庫の肥やし行きの予定。
ああ、ギルド神殿をしかるべき所に提出すると、領地のない貴族である『士爵』にはなれるのだったか。
アイリス家に渡すのも少し考えたけど、実力で得てなければ今後ジリ貧になるから止めた。
彼らが対価を提供できると思えないし、今はザビルでの威霊仙との交換材料に使いたい。
「ありがとうございました。とっても感動しました」
「そ、そうか。良かったな」
イマイチ共感できなかったが、彼女が喜んでいるのならヨシとしよう。
彼女はスキップでもしそうなぐらい、ハイテンションで去っていった。
貴族を目指す者だったら、あれぐらい高揚する程度には目出度いイベントなのかな。
まあ、迷宮討伐は貴族の証だからってことか。
そんなことよりも、エネドラに明日の晩餐の話をしておかないと。
そちらの方が重要だ。
エネドラを探しに食堂の方へ向かう。
厨房にはいなかったが、食堂のテーブルにエネドラを囲んで商人娘達が一堂に会していた。
エネドラ、アネット、シルビア、クララの四人は最近行動を共にしていることが多い。
近づくとこちらに気付いたのか、立ち上がった。
「旦那様、迷宮討伐、おめでとうございます」
「「「おめでとうございます」」」
「あ、ありがとう。みんなのおかげだ」
急に祝いの言葉を伝えられると、気の利いた言葉の一つも出てこない。やっぱり凡人だな。
ハルツ公に明日の夜に催される晩餐会に誘われたことを伝えた。
「それは・・・・・・入念な準備をしなければ」
「えっ?」
あれっ、なんかおかしなスイッチが入った音が聞こえた。幻聴だろうか。
・・・・・・
幻聴ではなかったようだ。
昼食後に迷宮組を連れてボーデの琥珀商の店に行くことになってしまった。
エネドラにはペルマスクでの取引のため、琥珀のネックレスをデモンストレーション用で購入して渡している。
他の四人はペルマスクの取引に帯同させなかったこともあり、購入していなかったよな。
明日の晩餐会のために急遽購入することに。
ターヘラのマリアさんから、瑪瑙の装飾品を購入してはいたが、それでは足りないと彼女は判断したようだ。
その判断に俺が異を唱えることはできない。
明日のお目付け役を気分良くこなしてもらうための必要経費だ。
琥珀のネックレスを4つ購入した後、迷宮組は風呂に直行させられ、エネドラに上から下まで洗われた。
その後、帝都の高級洋品店に連れていかれた。俺も含めて。
彼女達にも、結構前にそれなりに高級な洋服を帝都で購入していたのだが、エネドラは足りないと判断したようだ。
帝都の店には迷宮組だけでなく、商人娘達に加えて同時期に加わった薬草採取士のフローラも連れていかれ、洋服を数セット購入することになった。
今後の取引で表舞台に立つことになった時のための投資だな。
フローラもチクルスの代理で薬師ギルドに出入りすることはあるだろうし。
俺はというと・・・・・・難を逃れた。
腕四本という特殊な体形だから、帝都で今日購入しても明日までに洋服のお直しが間に合わないからね。
やはり、エネドラのやる気スイッチが押されてしまったようだ。俺が押した訳ではない。
おのれ、公爵め・・・・・・こんなところで仕返しをされるとは。
ヴィルマとイレーネは帝都の洋品店に連れていかれて、魚の死んだような目になってしまった。
明日の晩餐会で爆発するなよ。
アミルとオリビアはまんざらでもなさそうだったのが救いだ。
商人娘達は初めはおずおずとしてたが、最後の方は楽しんでいるようで良かった。
先日の鏡と石鹸の売上が軽く吹き飛んだが、まあ、必要な投資だと思うことにしよう。
実際、商人娘達は今後、エネドラの代わりに活躍してもらいたいからな。
ヴィルマとイレーネは・・・・・・まあ、頑張れ。
明日はエネドラの言うことをちゃんと聞くのだぞ。
なにか午前中の迷宮討伐よりも、午後の買い物の方が数倍疲れたような気がする。
とはいえ、明日の晩餐会に出席する準備は整ったようだ。
3割り引きのスキルを使った以外は特に俺は何もしていないが。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/3/19(木)の予定です。