今日から午前・午後に分かれて迷宮探索を行うことになった。
午前中はクーラタルの56階層に挑む。
迷宮組の今までの最高階層が52階層だったが、52階層のボス戦で苦戦しなかったので、55階層までを1階層ずつ上げて挑戦する必要はないと判断した。
56階層の通常モンスターとの戦闘で苦戦すると判断したら、その時は仕切り直すだけだ。
56階層のボス部屋に一番近い小部屋でブリーフィング。
ハルツ公のエンブレムを見せて、先日騎士団員に案内してもらった場所だ。
「クーラタルの56階層の新規モンスターはゼリースライムで、ボスはソリッドスライムだ。
既に戦ったことがあると思うが、スライムは物理攻撃が効きにくい相手だ。
動きは大して速くないが、飲みこもうと被さってくるから注意が必要だ。
ドロップ品はスライムゼラチンで、ボスドロップの情報は特に無い。
ゼリースライム、オイスターシェル、ボトルマーメイド、ラフシュラブの順に多く出現する。
ゼリースライムはグミスライムの出現するボス戦で戦ったよな。
56階層なので、その時よりもかなり強くなっているから注意してくれ。
56階層の新規モンスターは、55階層まで戦った相手よりもワンランク強くなる。
まずは、ゼリースライム相手に自分達の力が通用するのか確認することから始めよう」
「動きが遅いから回避の練習にならない・・・・・・」
「イレーネ、そう言うな。その分、どこまで状態異常になり易いのか確認しようぜ」
彼女はあまり納得できてないようだが、56階層から始めるのは仕方ないだろう。
いきなり63階層に挑むのは無謀だから。
「オイスターシェル、ボトルマーメイド、ラフシュラブはターレ迷宮で最近戦った相手だ。
戦闘のフォーメーションと雷魔法を使うことは今までと変わらない。
ボス戦になると、お供が四匹になるらしい。
今まで二匹だったのが倍になるから今まで以上に厳しい戦いになるぞ。
アミルの方から何か補足はあるか?」
「移動速度がマチマチなので、個別に叩きましょう」
「そうだな。ボトルマーメイドは特に早く接敵してくるから初めに片づけよう」
さて、ゼリースライムはどこまで手強くなっているか。
「じゃあ、始めるぞ。みんな油断なくな」
全員が力強く頷いたのを確認して、探索を開始した。
56階層になってから、通路がまた一段と広くなった。
間違いなく階層の広さも大きくなっているはずだ。
目標地点であるボス部屋まで、どんどん遠くなっているということだよな。
迷宮探索者にとって、過酷な状況になっているということか。
原作では、80階層までいけば十分に一流と記載があった気もするが、一流ってどんな連中なのか興味がある。
案内してもらうだけなら、入口の騎士団員に頼めば行けそうな気がする。
ただ、入口の騎士団員も鑑定で見る限りは、だたの案内人でしかなく、60階層、70階層で戦えそうなレベルでも装備でもないように思えた。
それでも、クーラタルの迷宮は簡易だが地図があるのでマシと言える。
ボス部屋を求めて、うろちょろしなくて済むからな。
初戦の相手は、ゼリースライム三匹に、オイスターシェルとボトルマーメイドか。
「前にゼリースライム3、後ろにオイスターシェル1、ボトルマーメイド1。1番だ」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
少し詰まりながらも、飛行型のボトルマーメイドがいち早く接近してくる。
オリビアが対応するため前に出て、中央で待ち受けた。
多少、身体を揺らしながら飛行してくるが、カジキマグロのように突進してくる訳でもないので、槍二刀流のオリビアには与しやすい相手だ。
早々に槍二本で相手の重心を突き崩して、地面に叩き落とした。
ゼリースライムとオイスターシェルはまだ遠い。
ボトルマーメイドを五人で囲んでタコ殴り。
アミルは押さえ役だが・・・・・・早々に石化させた。
後ろにいるオイスターシェルはゼリースライム三匹に阻まれて、前に出てこられない。
ゼリースライムが横一線に並んで、ゆっくりと近づいてくる。
中央にオリビアが立ち、右にヴィルマ、左にイレーネで迎え撃つ。
俺とアミルは遊撃で援護だ。
じりじりとこちらから、近づいて間合いを詰めていく。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
雷魔法二発を放ち、博徒の『状態異常耐性ダウン』のスキルを中央のゼリースライムにかけた。
オリビアの槍の間合いに入った瞬間、鋭い突きが連続して中央のゼリースライムを襲う。
時折、左右のゼリースライムに槍を突き入れて、三匹の横一線を崩さないように配慮する余裕まである。
俺が槍四刀流で臨んでも、できない芸当だよなぁ。
オリビアの左右の牽制の突きの合間に、ヴィルマとイレーネが相対するゼリースライムに斬撃を次々と入れる。
イレーネとオリビアの前のゼリースライムが、ほぼ同時に石化した。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
(状態異常耐性ダウン)
ヴィルマの前のゼリースライムに博徒のスキルをかけた。
オリビアはヴィルマの方のゼリースライムに二本の槍で激しい突きを入れ始めた。
ゼリースライムが大きく揺れる中、ヴィルマも斬撃を繰り返す・・・・・・と、こちらも石化した。
三匹のゼリースライムが石化して通路を塞いだ。
オイスターシェルが小型のモンスターなら、すり抜けてくるのだろうが、あいにく陸上型でそれなりのサイズのモンスターなので後ろに詰まったままだ。
「とりあえず右側のゼリースライムを倒すか。
倒したら、オイスターシェルがすり抜けてくるから、それを叩こう」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
俺がデュランダルと激情のダマスカス鋼剣で滅多打ちする。
かなりしぶといな。いつもなら煙に変わる回数を打ち込んだと思うが、まだ煙に変わらない。
っと。ようやく煙に変わった。
「来るぞ!注意しろ」
右側の空いたスペースからオイスターシェルが侵入してくる・・・・・・と、オリビアの槍二刀流が側面から激しく突き入れられ、オイスターシェルを揺らす。
(状態異常耐性ダウン)
最後の一匹に博徒のスキルをかけた。
ヴィルマがオリビアの攻撃の合間に追い打ちをかけた・・・・・・石化したな。
あとは削って終わりだが、石化したゼリースライムは結構時間がかかるかも。
索敵のスキルを使って周囲を警戒しながら、全員で石になったモンスターを削る。
やはり、ゼリースライムはデュランダルを使っても、それなりに時間がかかった。
それでも、他の武器に比べれば圧倒的に早いのだが、結局、ゼリースライムは俺が煙にして、残り二匹をアミル達に処理してもらった。
ドロップ品はスライムゼラチン3つ、ボレーと丹銅が1つずつ。
次の獲物を求めて、歩き始めた。
「イレーネ、ゼリースライムは手強いと感じるか?」
「うーん、分からない。動きが遅いから攻撃は楽。回避の練習にならない」
まあ、そう言うなっての。
「石化する時間は遅くなったと思うか?」
「一回だけじゃあ、分からない」
そりゃそうだな。数をこなさないと分からんわ。
:
:
:
その後も、ゼリースライムを中心にモンスターを狩りまくった。
状態異常にさせる確率は感覚的には変化がない感じだ。
ただ、イレーネのレベルも45階層以上は徐々に上がっているから、比較が難しいのだよなぁ。
レベル差か攻撃する者のレベルによって、状態異常の確率は変動している気がするので。
戦闘をこなしながらも順調に目的地に向かっている。
それでも午前中のうちにはボス部屋に辿り着くようなことはなく、探索を終了することにした。
「56階層の探索は今日はこれで終わりだ。明日の午前中も継続する。
56階層のモンスターは回避の練習には向かないが
ボス部屋までの探索時間を確認するために、一度はボス戦を行う]
「了解」
「・・・・・・」
「了解」
「了解」
一名、不満気な娘がいるが、我慢してくれ。
適当な壁からワープで帰宅した。
・・・・・・
昼食を終えて、ヴィルマ達はラファとトカラを加えて、クーラタルの34階層に向けて出発した。
アミルは探索者ジョブへ変更し、ラファは斎王、トカラは魔法使いという後衛の編成だ。
部隊編成のスキルでまめにマップを開いて状況を確認するつもりだが、恐らく迷宮組四人がいれば問題ないだろう。
俺の方は食堂でエネドラ達に新商品開発のレクチャーを行う。
説明する対象は、エネドラをリーダーにアネット、シルビア、クララの商人娘達とチクルス、フローラの生薬生産部隊、それにポーラの7人だ。
エネドラ、チクルス、ポーラの三人は元々クーラタルで石鹸を量産していた。
そこに四人が加わった形になる。
ポーラはそろそろ産休に入ってほしいのだが、身体を動かしていた方が体調が良いと本人が主張するため、チクルス同席の下で参加してもらっている。
何か問題があるようなら、チクルスから産婆さんやミモザと連携する体制だ。
テーブルに着いた者を改めて見渡すと俺以外みんな女性。
なかなかプレッシャーのかかるシチュエーションだ。
クララはアルマーの奴隷商館から来たのだが、エネドラから才能を認められて、何故か奴隷商人への道を歩むことに。
アネット、シルビア、フローラはザビル第二迷宮が出現した村の出身。
アネットは村長の娘、シルビアは村付の商人、フローラはアネットの友人だったらしいが廃村になったため、三人とも我が家に流れてきた。
ザビル拠点に所属するのもアレだし、エネドラが人材を欲しがっていた関係もあり、クーラタル拠点の所属になった。
廃村になった村の関係者ということなら、ローザとロベルトはその村を襲撃した盗賊によって、母親の命を奪われて我が家に。
ニクラスとゾフィは同じく盗賊に仲間を殺され、護衛任務に失敗して借金奴隷になり我が家に。
我が家には、あの村で起きた襲撃事件の関係者が7人もいるんだよなぁ。
事件はともかく、アネット達四人はクーラタルで何か働き甲斐を見つけてほしいものだ。
今日のレクチャーが少しでも、それに繋がるキッカケになるだろうか。
元の世界から持ってきたサバイバル教本にあった簡易シャンプー、化粧水、保湿クリームの頁から作成したメモを見ながら、説明を開始。
「今考えている新商品は洗髪用の石鹸と化粧水と保湿剤だ。
俺のいた国ではシャンプー、化粧水、保湿クリームと呼んでいたな。
恐らく貴族や富裕層の女性には受けが良いのではないかと想像している」
「なるほど、石鹸と同じ位置づけですね」
石鹸で慣れてもらったところで、新商品でさらに深みにはめる感じだな。
「洗髪石鹸・・・・・・シャンプーというのは髪の毛を洗う液体状の石鹸のようなものだ。
それで髪の毛を洗うと通常の石鹸で洗うよりは、髪の毛を痛めずに済むようになる。
なので、洗って髪の毛が乾くとサラサラとした手触りになる。
「髪の毛がサラサラですか?ちょっと想像しにくいのですが」
実物を使ったことがない者に理解してもらうのは難しい。
「この家で風呂に入るまでは、髪の毛をお湯や石鹸を使って洗わないと、
髪の毛がべた付いた感じだっただろう?
風呂でお湯や石鹸を使って洗い流して、乾かすとべた付きが無くなる。
それよりも更にサラサラとなるというのは、
櫛を髪の毛に入れた時の通りが驚くほど滑らかになるということかな」
「ユキムラ様、それは是非試してみたいですね」
チクルスを筆頭に女性陣の俺を見つめる眼力が増した気がする。
「シャンプーの作り方だが、石鹸作成の延長にある感じだ。
お湯を沸騰させて冷ました後、お湯と同量のパームオイルをかき混ぜて均一にする。
その後に、シェルパウダーを少しずつ入れながら、溶けて均一になるまでかき混ぜる。
かき混ぜる時間は、今の石鹸作成の時間と同じぐらいから徐々に増やしていって
品質の状態をチェックして記録してみてくれ。
かき混ぜて均質になったら、弱火で更にかき混ぜてくれ。
必要なのは、そのかき混ぜた後で作成されたものの『液体』の方だ」
「ドロドロとした方ではなく、液体の方なのですか?」
エネドラの言葉に頷いた。
「その通りだ。
石鹸の場合だと形のあるドロッとした方が必要だが、シャンプーは液体の方が重要となる。
その液体の方だけ分離して取り分ける必要がある。
その後は、その液体に水分であるお湯、石鹸を少量削ったもの、
パームオイルなどを適量混ぜて完成となる。
この適量というのは、混ぜる割合をいろいろ試しながら、何が最適なのかを確認する必要がある」
「なるほど、それは作り甲斐がありそうですね」
また、エネドラのやる気スイッチが入る音がした。最近、この音がよく聞こえる気がする。
取り分けた液体ってグリセリンなのだけど、その概念を説明するのは難しいから割愛だ。
「シャンプー作成時は石鹸を作っている時と同様に
アミルが作ってくれた皮の手袋を使って、手や指を痛めないように注意してやってくれ。
それと、滋養丸や万能丸を常に手元において、手や皮膚が傷ついたら直ぐに服用して、
細心の注意を払って作業をしてほしい」
「はい。石鹸作成の時にも同様のことをしていますので、注意したいと思います」
念には念を入れて、注意して作業してほしい。
髪や肌を綺麗にする商品を作るために、逆にダメージをもらってしまうと本末転倒だ。
「次に化粧水というのは肌に水分を与えるものだ。
肌には、本来、水分が含まれていて、しっとりした肌とかカサカサした肌とか個人差がある。
感覚的に分かるだろうが、しっとりしている肌の方が状態がよく、女性が好むのもこの状態だ。
風にさらされたり、日に照り付けられると乾燥してしまって、肌によくない訳だ。
人間の身体の皮膚にも適度に水分が必要で、その水分を与えるものが化粧水だ」
「水で濡らすのとは違うのですね?」
チクルスの言葉に頷く。
「布に水を浸して手や体を拭いたりしても水分は与えられるが、
化粧水は更に水分を多く補給できるものらしいのだ。
手を洗っても、布で拭き取ると直ぐに乾いてしまうだろう?
化粧水だと肌に馴染んで、より多くの水分が皮膚に行き渡るようなのだ」
「何か聞いてるだけでも、とんでもないことのような・・・・・・」
クララ、言ってる俺もよく分かってないから、話半分で聞いてくれ。
「化粧水の作り方だが、割とシンプルだ。
さきほど、シャンプーを作るために取り分けた液体があっただろう?
それに水を混ぜるだけだ」
「えっ?それだけ?」
シルビアが目を見開いて確認してきたので頷いた。
「そう、それだけなのだ。
もっとも先ほど説明したように、その液体を取り分けるのが大変なのだがな。
さきほど説明した液体というのは、髪の毛や皮膚に水分を与えるためのものなのだ。
そして、その液体というのは水分を長く保持させる特徴も持っているらしい。
風呂から出て髪の毛や身体を拭くと、しばらくしたら乾いて乾燥するだろう?
そうなっても、髪の毛や皮膚により多くの水分を与えたままにすることが、
髪の毛をサラサラにしたり、皮膚をすべすべにするために重要らしいのだ」
「そ、それは何かとんでもない世界の秘密を知ってしまったような・・・・・・
肌が乾燥していない方が良いというのは感覚的に分かるのですけど、
それを長く保持させる方法があるなんて」
女性陣が驚愕の表情になっている。
ある意味、ちょっと前にアミルが拠点構築スキルの『倉庫』を使って、空きスロットを初めて見た時に似ているような(違う)。
でも、手に少量の香油などを馴染ませるなんてのは昔からやられていたみたいだから、この世界でもある概念だと思うけどね。
「化粧水を作るための、水とその『液体』の割合は水4に対して『液体』1にして
いろいろと試してみてくれ」
「お任せ下さい!」
うん、任せたけど、程々にね。
この場で『自重して下さいね』と発言する勇気は俺にない。
「そうなると、その『液体』というのが肝なのですね。
石鹸を作る時の工程を見直せば、大量に作れそうな・・・・・・」
「・・・・・・」
確かにクララの言う通りだ。
彼女は本当に賢いな。まだ我が家に来て大して時間が経ってないのに。
「髪の毛を洗う時は今は石鹸を少しお湯で薄めてから使うようにしろと言っていたと思う。
髪の毛は意外に繊細なので洗濯物を洗うように、ごしごしとこすったり、
石鹸をたくさん使えば良いということではないからだ。
シャンプーというものは髪の毛の汚れを落とすのと同時に、
水分を適度に与えて長く保持させる役割を持っているんだ」
「・・・・・・」
女性陣がメッチャ真剣にメモを取っている。
この間にクーラタルやザビルの迷宮に派遣した部隊の状態をチェック。
うん、問題なく探索はできているようで、特にメンバーが減っているなどの事故も無さそうだ。
「次に保湿剤・・・・・・保湿クリームというのは肌に水分を保持する油のようなものだ。
それを掌や腕、脚、身体に塗ると肌に水分が保持されて触るとすべすべになるらしい」
「そ、それも何かとんでもない薬のような?」
あ、あれっ、徐々に女性陣の目つきが怖くなってきたのですけど。
「保湿クリームの作り方だが、こちらの方はかなりシンプルだ。
まず、大きな鍋に水を入れて沸騰させる。大鍋の方は火から外して別の場所に持っていく。
次に小さな鍋に蜜蝋とパームオイルを入れて、
沸騰した大鍋のお湯に浸して、その熱で鍋に入れたものをかき混ぜるだけだ。
重要なのは直接鍋で温めるのではなく、沸騰したお湯の熱を使って温めて溶かすことだ」
「なるほど、変わったやり方ですが、簡単と言えば簡単ですね」
湯煎って概念があるのか分からないけど、あまり見たことがなかったので回りくどく説明した。
「蜜蝋とパームオイルの割合だが、蜜蝋1に対してパームオイル10の割合で始めてくれ。
そこから少しずつ増やしたり、減らしたりして適量を探ってくれ。
割合や作成方法の記録も残して、
品質の良いものが作成できたら誰でも同じモノが作れるように頼むぞ」
「お任せ下さい!」
もう、止められない程、やる気に満ち溢れている気がする。
「化粧水で水分を与えて、保湿クリームでその状態を保つという二段構えなのだ。
化粧水、保湿クリームはそれぞれ単独でも効果があるが、2つ使うことで相乗効果がある。
今の話をまとめると、化粧水は基本的に水分の材料が多い。
水分を与えることが目的だからな。
保湿クリームは水分を逃がさないようにするため、油分がメインだ。
ただ、ギトギトしないようにクリーム状にして塗って、
薄く延ばすようにして使うことで肌全体の水分を逃がさない鎧のような感じになるのだ。
水分をより長く保持させるためにフタをするのが、保湿クリームの役割だな」
「よ、鎧・・・・・・」
フローラ、そんな怖い目で自分の肌を見ても、まだクリームも何も塗ってないだろう?
「化粧水も保湿クリームも塗った後に頻繁に手を洗うようなら効果が薄れてしまう。
寝る前に手のひらに塗るのはアリだと思うな」
「なるほど。それは確かに重要ですね」
そんな獲物を狙う目で見ないで下さい。
「言わなくても分かってるとは思うが、シャンプーにしろ保湿クリームにしろ、
何か香りづけするなどして、付加価値を出すように工夫してみてくれ。
そちらは既に石鹸でやっていることだから、俺が口出しするほどのことはないだろうが」
「「「「「「「お任せ下さい!」」」」」」」
お、おう・・・・・・もう、任せたよ。
まあ、似たような商品がこの世界でも売られてることは知っている。
重要なのは、拠点構築のリーダー設定と拠点規模で石鹸の品質が上昇したように、これから作成する商品の品質をチートスキルで向上させることが狙いだ。
この手の女性用商品で重要なのは、量ではなく質だからな。
エネドラ達女性陣のやる気からすれば、拠点リーダーにした時の効果もきっと付与されることを確信している。
原作を踏襲する形で石鹸を作ったけど、当初は高額な売り物になるとは思ってなかった。
ちょっと豊かな生活ができればラッキーぐらいのノリだったよな。
拠点構築スキルの効果のおかげで、貴族や平民富裕層が顧客になったのは嬉しい誤算だった。
無理のない範囲で商品を増やして、タケダ家を豊かにしてもらいたい。
まあ、我が家の女性陣の娯楽専用でも構わないのだけどね。
シャンプーもどきを固形ではなく、液状の製品にするのは使い勝手の問題だ。
髪の毛の量が多い人に固形石鹸を削って液体状の物を作らせるのは難しいし、濃度の調節も素人には難しいので液状にする方が良いと判断した。
その方が人によっては、消耗が激しく、リピーターで儲かるという狙いもある。
「重要なのは肌には個人差があるから、販売の際に助言する人がいた方が良く、
開発段階で試したことを記録して、試した結果を後で顧客に役立てる方が良いかもしれない。
また、肌が敏感な人は本当に薄めの効果のものが良い場合もあるし、
開発途上のものは失敗も多いので、
いきなり激しい効果がでないように安全に試作を繰り返すようにしてくれ。
試す方法は、手の甲や腕の外側、内側に薄く塗って、
1、2日経過したら、どのようになるかを確認するのが良いかもしれない」
「分かりました。
・・・・・・けど、旦那様は新商品に全く興味が無さそうなのに何故、そんなに詳しいのですか?」
笑って誤魔化すしかない。
元の世界のサバイバル教本にあった記載と家庭の医学書を要約した感じなのだから。
確かに俺個人としては、興味はほとんど無い。
エネドラ達が綺麗になってくれることはウエルカムなのだけどね。
「シャンプーの方は、とりあえず作ったものを、お湯で薄めて試すだろうから、
お風呂に入るときに、どの程度のお湯で薄めたのか覚えておいて、
お風呂を出てから記録を残すなど工夫してみてくれ」
「そうですね。皆と相談して決めるようにします」
「俺から説明できるのは、こんなところかな。
あとは皆でいろいろと話し合って良い方法を考えてみてくれ。
シェルパウダーやパームオイル等は倉庫にたくさんあったはずだから、自由に使ってくれ」
「はい。ありがとうございます。
さっそく、今日から取り掛かりたいと思います」
き、今日から?まあ、思い立ったが吉日というやつか。
クーラタルの後方支援部隊も人数が増えたから、新商品が形になるのは早いかもしれない。
最近、迷宮討伐で戦闘部隊の方が盛り上がっていたから、後方支援部隊のモチベーションが上がるイベントになってくれると嬉しい。
「あっ、それから入れ物の話をするのを忘れていた。
シャンプーも保湿クリームも化粧水も容器をちゃんと考えなければならない。
シャンプーも保湿クリームも石鹸よりは全然柔らかいので、
陶器製の壺かなにかでフタがキッチリと閉まるものが適切だと思う」
「え、えーと?」
シャンプーの実物を見たことないだろうから、想像つかないよなぁ。
ただ、この世界にはプラスチック製ボトルもキャップ式のプラスチック容器もない。
だから、代用品が必要になる。
使い勝手や保存性にも影響があるからな。
「化粧水は水分が多いから、シャンプーや保湿クリームより粘性が低いが、
水分が蒸発してしまうと品質が悪くなるので注意が必要だ。
陶器製の蓋がしまる壺のような容器はオネスタさんか、
場合によってはターヘラのマリアさんの店に作成を依頼した方が良いかもしれない」
「なるほど。容器については、確かにシッカリと考えなければなりませんね。
ですが、今の話を聞いて思ったのですが、我々は実物を知りません。
一方で旦那様は実物を知っています。
ですから、まずは品質がある程度の試作品ができましたら、旦那様に使っていただきましょう。
我々の
そうすれば良し悪しが直ぐに分かるでしょう。
容器のことを考えるのは、それからでしょうか。
無論、準備はある程度しますが」
えええぇ~?『目の前』でってマジっすか?
どんな羞恥プレイなんだよ!・・・・・・こ、ここは戦略的撤退だ。
「で、では・・・・・・俺はザビル子爵の所に行ってくる」
「はい、旦那様。本日は説明、ありがとうございました」
「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」
「・・・・・・」
ユキムラハ ニゲダシタ・・・・・・。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/3/23(月)の予定です。