異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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075.ザビルでの奴隷取引(竜人族)

 新商品開発のレクチャーが終わり、食堂から這う這うの体で逃げ出して二階に上がった。

 

 再度、クーラタルやザビルの迷宮に派遣した部隊の状態をマップでチェック。

 先ほどと同様、問題なく探索はできているようだ。

 34階層や12階層なら問題ないのは分かっているのだが、つい心配でチェックしてしまう。

 

 ザビル子爵に会うための準備を整えて、玄関へと向かう。

 階段を降りて、食堂の方に視線を向けると、開け放ったドアから熱気溢れる女性陣の議論の声が聞こえてくる。

 試作品ができる(羞恥プレイを強要される)のは意外と直ぐかも・・・・・・今はそのことを考えるのは止めにしよう。

 クーラタルからザビルの玄関に移動して、領主の館に向かった。

 

 

 領主の館を護衛する騎士団員に用向きを伝えて、面会の予約をお願いした。

 暫くすると、騎士団員が戻ってきて、これから面会するそうだ。

 予約不要か・・・・・・まあ、なんとなく分かってはいたけど。

 

 騎士団員に付いていくと、いつぞやの執務室に案内された。

 だんだんハルツ公からの扱いと同じになってきたな。

 原作のように、『閣下の所にご自由に行って下さい』とはなってはいないが。

 

 執務室に行くと、ザビル子爵、リカルド男爵、エミリオ士爵、ユリア士爵までいる・・・・・・何故?・・・・・・暇なの?

 

「今日は誰も連れがいないのか?」

「おりません」

 リカルド男爵は模擬戦の(遊び)相手が欲しかったのか。

 

「激情のダマスカス鋼剣は持ってきてないのか?」

「対価のモンスターカードも素材ももらっておりませんので」

 ユリア士爵、無茶は言わないで(カツアゲは止めて)下さい。

 

「それにしても、ハルツ公の伝手があるとはな。

 貴族の依頼というのは、ハルツ公であったのか。

 しかも、其方は迷宮を討伐したのであろう?」

「さて、なんのお話をされているのやら」

 ここは、すっ呆けるしかない。

 

「この紹介状にある竜人族の奴隷取引は本来は貴族の者しかできないものだ。

 その対象となり得るのは、貴族か迷宮討伐ができる家の者に限られておる。

 共和国から輸入しているのは、帝国が得た自爆玉を使っているからな。

 言わば国家事業なのだよ」

「国レベルの取引なのですか」

 だったら、ザビルの奴隷商館の引継の際に話が出てこないのは仕方ないのか。

 

「威霊仙のために迷宮討伐を申し出たのは、冗談ではなかったのだな」

「冗談で迷宮討伐はできませんので」

 冗談のような戦法で迷宮討伐はしたけど、迷宮討伐自体はリアルだ。

 

「それで、其方は竜人族の奴隷を望むのか?」

「こちらで対価が用意できるのであれば欲しいと思っています」

 金額で言えば50万ナールぐらいだろうか。

 

 カルクのスキルを持ったジョブの者が相手でないと、金での取引は避けたいな。

 

「今、竜人族の奴隷は二人いる。興味があるのなら会ってみるか?」

「ええ、可能なら是非お願いします」

 ん?何かトントン拍子で話が進んでいるのに違和感が。

 

「では、私が二人を連れて参ります」

「ああ、エミリオ、頼むぞ」

 わざわざ士爵が連れてくるのか・・・・・・うーん?

 

「連れてくる前に一般的な対価をお聞きしても構わないでしょうか?

 国レベルですと、とてもつなく高いとか安いことはなく、ほどほどの値段でしょうか?」

「ふむ、そうだな。

 確かに自爆玉と交換しているものだから、ただ同然という訳にはいかぬ。

 とはいえ引き取る者が現れなければ、対価が安くなることもある。

 結局はその奴隷次第ということだな」

 となると交渉で腹の探りが必要ということか。

 

「ガルシア、武器だ!激情のダマスカス鋼剣を要求しろ!」

「ユリア、落ち着け。まだ、タケダ殿は奴隷を購入すると決めた訳ではないぞ」

 ユ、ユリア士爵は・・・・・・ザビル子爵をファーストネームで呼ぶの?

 

 ここの騎士団、なんでもアリだな。

 幼馴染グループか何かなのかね。

 

 オリビアはスキル融合装備品二つと交換で奴隷契約したのだよな。

 スキル融合装備品を対価にできるのなら、我が家にとってもありがたい。

 二人の候補がいるというなら、一人ぐらいは我が家にとってアタリを引けるだろうか。

 

 しばらくするとエミリオ士爵が二人の竜人族の若者を連れて戻ってきた。

 

(鑑定)

 

 

ゼノ(竜人族 ♂ 15才 奴隷)

村人Lv2

装備 皮の靴

 

 

ゼナ(竜人族 ♀ 15才 奴隷)

村人Lv2

装備 皮の靴

 

 

 ん?これは双子か何かだろうか。名前が似ているだけでなく、顔もそっくりだし。

 二人とも背格好はほとんど一緒で、今まで俺が見てきた竜人族の中では小柄な部類だ。

 小柄といっても、人間族の成人程度の身長はあるが。

 

 例によって、トカラ同様スリムで手足が長く、モデル体型だ。

 それにしても二人とも村人Lv2か。

 まあ、いつものパターンでちょっと迷宮でデュランダルを振り回せば、直ぐに竜騎士のジョブは取得できると思うが。

 

 

「二人とも、自己紹介を」

 エミリオ士爵が突っ立ったままの二人に話をするように促した。

 

「ゼノと言います。15才です」

「ゼナです。15才です」

 

 :

 :

 :

 

 えっ?それだけ?

 村一番の力持ちだったとか、村の中では普通の腕力でしたとかの説明もなし?

 

「君達はすごく顔も背格好も似ているが、双子なのか?」

「はい、双子です。似てるとは、よく言われるのですが、本当にそうなのかは分かりません」

 無理やり話題を振ってみたのだが、双子はアタリだけど似てるかは分からないと。

 

 まあ、鏡が一般的ではない世界では当人同士は分からないのか。

 ケリーとマリーも確か似たようなことを言ってたよな。

 

「まあ、双子ということもあって、この二人の体は竜人族にしていは小さい方だな」

「・・・・・・」

 ザビル子爵の言葉に何と応えたものか。

 

 確かに双子は生まれた直後は体が小さいけど、しばらくすると平均の身長や体重になるって聞いたけど、この世界では違うのか?

 体の大きい、小さいなんて食生活や遺伝要素が原因なのじゃないか?

 でも、ケリーとマリーも小柄だったか。

 だから困ったことがあるかというと、特にないのだけど。

 

「この二人はあまり食事を多く摂らないですね。まあ小食という程ではないですけど」

「そうですか」

 エミリオ士爵の言葉にも相槌を打つしかない。

 

 奴隷としては、大食漢じゃないから安上がりというアピールだろうか。

 ただ、今もらっている情報だけでは、なんの判断もできない。

 

「二人は得意としている武器や戦い方はあるのか?」

「えーと、戦闘は得意ではありません。というか、できれば戦いたくないです」

「あ、あたしも・・・・・・」

 はあ?

 

 魔法使いを生み出すための自爆玉と交換した竜人族の奴隷が戦闘を嫌がっているのか。

 これって、帝国と共和国の関係上、問題ないのか?

 まあ、当人達にとっては知らんがなってことかもしれないが。

 

「そいつらは竜人族の癖に戦うことを拒否する腰抜け野郎だ。

 お前はそんな奴らを連れて帰るつもりか?戦闘ではなんの役にも立たないぞ」

「・・・・・・」

 リカルド男爵の言いようには、少しカチンとくるものがある。

 

 だが、迷宮討伐を目指す貴族からすると当然の判断なのかもしれない。

 貴族ではない俺には知った事ではないが。

 

「この二人と私で三人だけで話をさせてもらうことは可能ですか?」

「構わんぞ。そこのドアの先にある部屋を使うがよい」

 ザビル子爵の勧めで、三人で隣の別室に移動。

 

 

「まずは、そこに座ってくれ。立ったままで話すのは落ち着かないだろう」

「あ、はい。ありがとうございます」

 入った部屋は会議室か何かなので、俺も二人も適当に座ることにした。

 

 

「俺の名前はユキムラ タケダだ。迷宮探索もしているが、商人もしている。よろしくな」

「・・・・・・」

 二人はお互いに顔を見合わせて、俺に向かって頭を下げた。

 

「二人は帝国の隣の国の共和国の出身だと聞いたのだが、合っているか?」

「はい、多分。隣の国に売られると聞いたので合っていると思います」

 隣の国がどんな国かなんて知らないのかもな。俺も知らなかったし。

 

「話せる範囲で構わないのだけど、二人が奴隷になった経緯を教えてくれるか?」

「経緯と言っても、生まれた時から奴隷ですから」

 予想通りか。

 

 家族の事を質問するのは酷な気もするが、確認しない訳にはいかないな。

 

「二人はどんな感じで育てられたのだ?

 その戦闘をやりたくないって言っていたので、家が戦士の家系でもなさそうだが、

 普通にブラヒム語を話しているよな?」

「ブラヒム語は村では必ず覚えさせられます。

 村の人間に戦士などの戦うジョブの者はほとんどいませんでした。

 うちの両親も村人ジョブでしたし。

 村人全員が奴隷の身分の村でしたから。

 村長だけ人間族の男性で、その方が取り仕切っていました」

 これは、生まれたら奴隷として売るのが定められている管理された村だったのか。

 

 反吐が出るような環境だが、それを利用して取引をしている共和国と客である帝国か。

 そして、その延長戦上に俺もいる訳だから、同じ穴の狢なのだよな。

 これ以上、生い立ちを突っ込んで聞いても意味ないか。

 

「それで、戦うのが嫌だと言ってたが・・・・・・では、やりたいことはあるのか?

 就きたい仕事やジョブに希望があれば言ってみてくれ。

 他にも何か希望はないのか?」

「仕事と言われましても・・・・・・奴隷なので、できることはなんでも。

 ただ、争いごとが苦手なので迷宮で戦ったりするのはちょっと・・・・・・」

 生まれた時から奴隷で、売られる未来が確定しているから意志とか自我が育まれないのか。

 

「あの、雇ってもらうのなら二人一緒で」

「一緒か。一緒なら二人で頑張れるのか?」

 また、お互いの顔を見合わせて頷いた。

 

 鏡が無いのに、鏡で映したように同じ顔が同じ動作をする不思議。

 

「でも、たまに来る人間族の女性の中に薬草採取士のジョブの人がいて、

 あんな感じで薬を作って、皆を元気にするのは凄いなあって思ってました」

「そういえば、僕も怪我した時に僧侶のジョブの人に治してもらったので、

 僧侶は人の役に立つんだなって思いました」

 売ることが前提だから、その人間族の村長が最低限の健康管理だけは気にしてたのだろうか。

 

「薬草採取士や僧侶だったら、やってみたいか?」

「・・・・・・」

 二人はお互いの顔を見合わせて、こちらに向かって頷いた。

 

 竜人族の奴隷を購入して、薬草採取士や僧侶のジョブにする?・・・・・・貴族からしたら、アホな奴と思われるのだろうか。

 別に今更、悪評や不審者呼ばわりされても、なんとも思わないがな。

 言いたい奴には言わしておけばいい。

 

 竜人族だからと言って前衛で戦わなければならないってことはないだろう。

 トカラは竜人族だけど、魔法使いジョブだし。

 迷宮で戦わなければならない?・・・・・・別に我が家のメンバー全員がそうではない。

 

 二人を連れて帰るとしたら・・・・・・他に何か問題があるか?

 二人は後方支援チームに入りそうだから、エネドラ達の了解が必要だろうか。

 それに対価も確認しなければならない。

 

「まだ、先ほどいた貴族連中との交渉があるし、

 我が家の偉い人(エネドラ)の許可を得てないから確約できないが・・・・・・うちに来るか?

 うちに来るのなら、戦闘とは別に我が家に貢献してもらうことを求めるぞ」

「畑仕事でも、雑用でもなんでもやります」

 まあ、おいおい考えるか。

 

 畑仕事なら、ナナの手伝いだが、共和国に近いザビルに置くのはなぁ。

 成人を迎えているとはいえ、15才でなんの才能があるかなんて分からないだろう。

 環境が変わると、やる気スイッチが急に入る可能性もあるかもしれない。

 まあ、普通に美男、美女って感じだし、放っておくとエネドラやチクルス達の着せ替え人形になる可能性もあるが。

 

 とりあえず、ひとつずつ交渉事をクリアにしていくか。

 

 三人で、元の執務室へと戻った。

 

「お待たせしました。二人への確認は終わりました」

「それで、その二人、もしくはどちら一方か?購入するつもりはあるのか?」

 『どちら一方』という言葉に二人の表情が凍り付く。

 

「まだ、我が家の家宰に確認が必要なので最終決定ではないですが、

 値段次第では、二人とも迎え入れようかと思っております」

「はあ?マジかよ。物好きな。迷宮探索になんの役に立たないと思うぞ」

 リカルド男爵、ちょっと黙っていて下さい。

 

 口には出さないが、睨みつけてしまった。

 貴族にガン飛ばしたのは初めてかもしれない。

 

「値段か。其方はいくらぐらいが妥当と考えておるのだ?」

「さて、竜人族の値段など私には縁がないものですから」

 トカラは若干訳アリで50万ナールで落札して、更に3割引だったか。

 

「ガルシア、激情のダマスカス鋼剣と交換しろ」

「ユリア、ちょっと黙ってろ!」

 そんな両手剣一本と交換なら安いものだ。

 

「腰抜け二匹だと、ユリアの欲しい剣一本でもお釣りがくるだろう」

「・・・・・・」

 この脳筋のボケ共が。

 

「こちらはスキル融合装備品との交換でも構わないぞ。

 其方はこの二人にどれほどの価値を付けるのだ?」

「激情のダマスカス鋼剣2本、強権のダマスカス鋼槍2本でどうでしょうか?」

 俺の出した言葉に、リカルド騎士団長がアングリと口を開けた。

 

 別に感情的になって、売り言葉に買い言葉で発言した訳ではない。

 

 タケダ家の原価ベースでは、4本合わせても10万ナールを遥かに下回る。

 スキル装備品を生成するための材料集めルートも確立しているし、我が家の鍛冶師娘達は優秀なのだ(フンス)。

 オークションに出したら、白金貨1枚をかなり上回るかもしれないけどね。

 

 どちらかというと、これから入荷する竜人族の奴隷に対する投資だ。

 俺が優良顧客と知れば、取引が優先される可能性もあるかもしれない。

 ザビル子爵が中間マージンをどの程度取るのか知らんが。

 

「まあ、うちの家宰の許可が得られればですがね」

「そこまで出すのなら、こちらとしては文句はないな。

 して、いつまでに決断できるのだ?」

 エネドラは否とは言わないと思うけど、確認してから最終決定だ。

 

「明日の夕方までには回答いたします」

「うむ、分かった。それまで待つとしよう」

 交渉が終わったので、暇乞いをして席から立ち上がった。

 

 双子もエミリオ士爵に連れられて退出するようなので、二人の所に近寄って声を掛けた。

 

「多分、迎えに来ることになると思うので、もう暫く待っていてくれ」

「はい。待っています」

「ま、待ってます」

 二人のキラキラした目で見られると、なんとしてでも迎えようという気になってしまう。

 

 我ながら甘いなと思う。でも、打算もあり、勝算もある戦いなのだ。

 

「この二人の事をよろしくお願いしますね」

 

 なんだエミリオ士爵は双子の擁護派なのか。ならもっと援護射撃をしてくれよ。

 

 騎士団員がドアを開けてくれたので、一礼して退出した。

 ドアの先から、室内の声が漏れてきた。

 

 

「リカルド、交渉事の場にいて、初めてお前が役に立ったと感じたぞ」

「はぁ?ガルシア、どういう意味だ?」

 

 エミリオ士爵が俺を見ながら、笑いを噛み殺している。

 食えない男だな。

 彼は悪人には見えないのだが、実際のところはどうだろう。

 事務方の要職に思えるから、表裏があっても不思議ではないのだが。

 

 館を出るまで騎士団員に先導されるが、エミリオ士爵と双子も途中まで同じ通路を歩いている。

 後ろで三人の話し声が聞こえた。

 士爵と奴隷が普通に会話しているとか、凄くない?

 フリーダムだな、ザビル子爵家は。

 

「あの・・・・・・エミリオ様は、私達を引き取りそうな変わった者がいるので

 心配いらないとおっしゃってましたが、タケダ様のことだったのですね」

「・・・・・・」

 背後から、やっぱり笑いを噛み殺したような雰囲気がする。

 

 俺の噂をどこから入手しているのだろうか。

 エミリオ士爵は裏表がありそうだな。

 もう好きにしてくれと言いたい。

 

 ユリア士爵は、この後もらえるであろうスキル融合武器のことしか考えてないな。

 彼女は表しかない気がする。

 

 リカルド騎士団長も表派な気がするが、騎士団長という役職はそれだけでは務まらない気がするから、別の一面もあるのかもしれない。

 まあ、この双子とは合わない気がする。

 だからって、この双子が活躍して、リカルド騎士団長を見返すとかしなくていいから。

 

 そんなラノベあるあるの『ざまぁ』展開など不要だ。

 実は戦うと凄いのでしたとか、ザビル子爵連中の鼻を明かす必要もないぞ。

 この二人が楽しく過ごして、タケダ家にも貢献してくれればそれで問題ない。

 それが、最高の復讐になる・・・・・・なにか原作主人公(師匠)のそんな名言もあった記憶が。

 どこかの国のことわざだとか言ってた気もするけど、我が家もそれでいこう。

 

 もう完全に二人を我が家に迎え入れること前提になっているな。まあ、いいや。

 

 途中、三人と別れて、そのまま俺だけ出口へ向かった。

 

・・・・・・

 

 ザビルの拠点に戻り、カラダンに竜人族の奴隷契約の可能性があることを伝えた。

 双子を連れ帰ることになったら、奴隷手続きをカラダンにしてもらうので下ネゴだ。

 顛末はイロイロと端折ったが、最終的にはエネドラの裁可を得てから、クーラタル拠点の方に迎え入れるつもりだと補足。

 

 執務室の机でカラダンは何やら書き物をして、横にいるピコに渡した。

 

「ピコも旦那様に付いていきますので、エネドラ様によろしくお伝え下さい」

「?・・・・・・分かった。とりあえず、俺はクーラタルに戻る。

 夕方からボーデの城に行かねばならないからな」

 カラダンの部屋を出て、ピコと一緒に玄関に向かった。

 

「ピコ、何かカラダンはエネドラに用事があるのかな?」

「さあ、分かりません。

 今日、カラダンさんの傍にいた時には、そんな話題は上がりませんでしたけど」

 まあ、いいか。こちらはこちらで、やることを済ませよう。

 

 ザビルの玄関から、クーラタル拠点の玄関に移動。

 二人で食堂に向かった。

 

 ドアを開けると・・・・・・なんだか、凄い光景が展開されている。

 テーブルの上に、凄い数の器とその中に入れられた様々な粘度の白い液体が見える。

 

 いきなり複数商品の複数パターンで試験的に作っているじゃないか。

 やる気スイッチどころではない。起爆スイッチだったようだ。

 

「あ、旦那様、意外に早いお帰りでしたね?」

「そ、そうだな」

 だいたい、嫁さんがこんな台詞を言う時は、早く帰ってきてほしくなかった時だ。

 

 漫画や小説でのテンプレというやつだな。

 

「えーと」

 何を話すのだったか・・・・・・思い出せなくなった。

 

「これをカラダンさんから、エネドラ様に」

「・・・・・・」

 ピコが差し出した手紙に彼女が目を通す。

 

 

「竜人族の男女の若者が加入するのですね?」

「えっ?」

 カラダンの手紙は奴隷購入の件だったのか。

 

 でも、わざわざ手紙で?

 

「カラダンからの伝言では、かなりお怒りのようだとありましたが、

 今お話しした限りでは、それほどでもなさそうですね。

 落ち着きましたか?」

「・・・・・・」

 ああ・・・・・・俺は怒っていたのか。目の前の光景のせいで毒気を抜かれていたけど。

 

 確かに怒っていたのかもしれない。

 

 奴隷として生まれて、碌な選択肢も与えられたなかったゼノとゼナの双子。

 共和国も帝国も適当に取引して、役に立たないとか悪しざまに言われているのを見るのは胸糞が悪かった。

 たとえ、この世界ではありふれたことであっても。

 

 リカルド騎士団長にはガンを飛ばしたし、ザビル子爵にも挑むように高額な対価を提示して、意地を張っていたと言えなくもない。

 ポーカーフェイスもせず、感情が先行していたかもな。

 ザビルに戻ってからも、それが表情に出ていたのか。

 カラダンがエネドラに釘を刺すように求めたのだろうか?

 

 最近は頼もしいメンバーも増えたし、資金も増え、迷宮討伐も達成したせいもあって、慢心していたかもしれない。

 こんな時ほど、足を掬われることが多いだろうから、戒めなければ。

 ザビル子爵家の平民に対する気安い態度もあってか、ちょっと気が緩んでいたな。反省。

 もう少し、当主としての自覚を持たなければ。

 

 

「悪いな。ちょっと感情的になっていたようだ。

 竜人族の二人は戦闘奴隷ではなく、後方支援メンバーとして迎え入れたいのだが、

 エネドラの意見を聞かせてほしい」

「旦那様がそう決めたのなら、なんの問題もありません。

 旦那様はもっと我々に我儘を言ってほしいと常々思っておりましたから」

 なんだか、母親に諭されている子供のようだな。

 

 では、ここは甘えさせてもらうか。

 

「そうか。では、明日の午後に二人を引き取ってこよう。

 また、受入の準備などで苦労をかけるし、

 後方支援メンバーとなるとエネドラの部下になると思うが、二人をよろしく頼む。

 戦闘には向いていないと言ってるが、自分達が何をできるのかも分かってないと思う。

 ある意味、ベイルで受け入れた当初の孤児院の子供達と同じかもしれない。

 ブラヒム語は問題なさそうだったが、本人達の話では生まれた時から奴隷だったようなので、

 常識の方はかなり怪しいと思う」

「はい。委細、お任せ下さい。今はクーラタル側も人が揃っておりますので」

 俺に常識がないと言われるのも大概な気がするが、きっと俺の方が常識があると思う。

 

 でも、何も知らない分だけ、あの双子の方が俺よりも伸びしろがあるかもしれないなぁ。

 見た感じは素直そうだったし。

 俺の場合は元の世界の常識が、こちらに非常識になっているだけなのだが、元の世界の考え方がなかなか抜けない。

 外国人のような感じなのかもしれない。

 

 それはともかく、クーラタルの女性陣は真面目そうだし、二人の教育は大丈夫だろう。

 即断で決めて丸投げ状態になりそうで、ちょっと無責任だが彼女達に任せよう。

 

 あとは・・・・・・双子の代金のためにアミルが帰宅したら、スキル融合を頼まなきゃな。

 こっちも人任せか。

 最後に当主の俺が責任を持つから許してくれ。

 貴族の前でポーカーフェイスもできない情けない主人だが。

 

「旦那様は少し二階で休まれては?」

「そうだな。自室で頭を冷やしてこよう」

 公爵に会うのだから、それまでには冷静な状態にならないとな。

 

 頭の整理をするために二階に上がることにした。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/3/25(水)の予定です。
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