異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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076.晩餐会(前菜)

 自室で部屋着に着替えて、ベッドに横たわって天井を見上げて脱力。

 本当にクールダウンしないと。明鏡止水、明鏡止水・・・・・・。

 

 ゼノとゼナのことはエネドラ達に任せよう。

 アミルが迷宮から戻ってきたらスキル融合を頼んで、俺は明日の午後迎えにいくだけだ。

 

 まずは今日の公爵との晩餐会のことに集中しよう。

 原作だと、このイベントの前後でペルマスクの鏡の話が打ち切りになったのだったか。

 ペルマスクの鏡については、ハルツ公側の冒険者に引き継いでも全く問題ない。

 既に貴族の委任状なしでもペルマスクと取引できる算段はしてあるから。

 

 俺達の手ではなくとも、鏡が広がれば石鹸の需要が高まる可能性がある。

 利益は多少減るが、俺達が損をする訳ではない。

 余った鏡は別の流通経路に回せばよい。

 

 鏡を持っていくことはなくても、石鹸の取引は残っている。

 そして、新商品ができれば、その取引も望める。

 まだ開発されてもいない新商品に過剰な期待は禁物だが。

 

 

 あとは、騎士団員に模擬戦を申し込まれたり、夕食の途中で中座して帝国解放会の誘いを受けるという展開だったはず。

 

 同じイベントが起きるのかは分からないが、相手の出方を見ながら対応していくだけだ。

 発生してほしいのは、帝国解放会のイベントだけだ。他はどうでもいい。

 今後の情報収集のために、帝国解放会に入会してロッジを使える権利を得ておきたいから。

 皇帝との接点はなくても構わないが・・・・・・戦争の情報を得るためには持つべきか。

 まだ帝国解放会の誘いも受けてないのだから、先の事を細かく考えるのは止めよう。

 

 その後も軽く今日の展開を想像しながら、対応内容を考えた。

 

 よし、クールダウンできたな。着替えるか。

 着替えが終わったので、クローゼットの奥に隠してある原作本を熟読。

 

 

(コン、コン・・・・・・)

 

 ドアを開けると・・・・・・チクルスか。

 

「お母様が準備が整ったら、降りてきていただきたいと」

「分かった。直ぐに降りるから待つように伝えてくれ」

 チクルスに礼を言って、出発の準備をする。

 

 

 準備を終えて玄関に向かうと、すでに五人が揃っていた。

 全員、琥珀のネックレスと瑪瑙のブレスレットをしている。

 服も帝都で購入した豪奢なものだ。

 というか、前にもこんなことがあった気がするけど、その時より破壊力が増している。

 

 正直、全員の可愛さ、美しさにちょっと・・・・・・。

 

「ユキムラ君、どうしたの~?」

「い、いや、みんな綺麗だなって思って」

 アミルとエネドラとオリビアは俺の心の内を正確に読んでいる。

 

 分かっていて揶揄ってくるのがオリビアで、黙っているのがアミルとエネドラ。

 

 イレーネとヴィルマは、そもそも自分達の可愛さや美貌に気付いていない。

 鼻にかけないのは美徳だが、ちょっと残念娘だ。

 

 イレーネ、ヴィルマ、オリビアの三人はこんな格好でも、気にせずにクルクルと動いて、俺の直ぐ傍にいる。

 なんか色とりどりのドレスっぽい服装ががヒラヒラして・・・・・・本当にクラクラしてきた。

 なんで、こんな娘達と迷宮討伐なんてしてたんだっけ?・・・・・・まあ、俺のせいなのだけど。

 

 

 今更だけど、ハルツ公の所に連れていきたくなくなってきた。

 俺だけで行ってくる?・・・・・・自分勝手な独占欲だよなぁ。

 

 

 服装選びに失敗したか?

 原作主人公達は普段着だった気もするが、俺達は貴族に会うための小奇麗な服をチョイス。

 

 あえて言えば、俺だけ少し地味だが、今日の主役は俺ではない・・・・・・あれっ、俺も主役か。

 そもそも呼ばれた理由は迷宮を討伐を成し遂げ、それを労ってもらうのだったよな。

 だから俺も主役の一人なのか。混乱してきた。

 

 それにしても、この女性陣の格好だと・・・・・・模擬戦を挑まれても断るしかないというか・・・・・・断ればよいのか。

 別に戦いに赴く訳ではないのだし。

 

 

「待たせたか?」

「いえ、全然。もう行かれますか?」

 頷いたが、その前にやることが。

 

「石鹸セットは俺が持とう」

「旦那様が持つ必要は・・・・・・」

 こんな綺麗な女性五人に荷物持ちはさせられないって。

 

 彼女達が手にした石鹸セットを取り上げて、俺のリュックに入れた。

 大き目なリュックで、晩餐会に相応しくはないが、俺は荷物持ち(ポーター)冒険者(タクシー)だから問題ない。

 

 彼女達をパーティーに加えて、ボーデの冒険者ギルドへ移動。

 ギルドを出て城に向かった。道行く人達に我が家の娘達を自慢したかった。

 まだ夕方というには全然早い時間だし、それぐらいは構わないだろう。

 

 騎士団の詰所に着き、用件を伝えた。

 

「こちらへどうぞ」

「ああ、ありがとう」

 今日はこちらが客扱いだから、少し丁寧な対応だな。

 

 話は通っているようで、別室に連れていかれた・・・・・・というか、普段からこちらの待合室を使うべきところを素通りで案内されているだけか。

 

 何人かいた騎士団の目が俺が連れてきた娘達に釘付けになっている気がする。

 騎士団員のほとんどはエルフ族だが、種族差を超えた美しさが伝わっているに違いない。

 それが分からない者には・・・・・・決闘を申し込んで斬るしかないな・・・・・・いかんいかん、いつの間にか剣呑な発想になっている。

 落ち着け・・・・・・ハルツ公に会うまでにクールダウンせねば。

 

 騎士団員の視線から五人を守るためにウロウロしていたら、ゴスラー騎士団長がやってきた。

 ゴスラー騎士団長自らお迎えとはVIP待遇だな。原作でも、そうだっけ?

 

「タケダ殿、よくみえられました。こちらへおいでください」

 

 ゴスラー騎士団長と数名の騎士団員に連れられて、いつもと違う通路の方に。

 さすがに迷宮討伐した五人に騎士団長一人という訳にはいかず、護衛しているのだろうか。

 

 案内された先は大きな部屋で、多くの騎士団員と共にハルツ公が立っていた。

 綺麗な板張りの何もない部屋だが、板はタルエムでできているのだろうか。

 タルエムは白木だから違うか。

 高級木材を床に使うとか、そもそもあり得ないよな。

 みんな美男・美女のエルフ族の集団なので、舞踏会の会場のようだ。

 

 騎士団長の勧めで、ハルツ公の前に六人で並んだ。

 

「タケダ殿、よくまいられた」

「本日はお招きにあずかりまして、ありがとうございます」

「よいよい。堅苦しい挨拶は抜きじゃ」

 俺が頭を下げたので、五人も空気を読んで頭を下げてくれた。

 

「彼女らがタケダ殿の?」

「エネドラは何度か城に伺っているかと思いますが、

 こちらがパーティーメンバーのアミル、ヴィルマ、イレーネ、オリビアです」

 

 四人が改めて公爵に向かって頭を下げた。

 

「余がハルツ公爵じゃ」

「はい。よろしくお願いします」

 アミルが代表して挨拶する。

 

 さすが司令塔、特に指示がなくても、やるべきことが分かっている。

 

「して、ゴスラーが立会人を務めたというのは?」

「確か彼女ですね」

 ヴィルマの方に向かって、ゴスラー騎士団長が掌を差し出した。

 

「彼女がヴィルマです」

「このようなドレスを着ていると、決闘をするようにはとても見えないな」

 原作にもあったハーロー効果って奴か?

 

 美しい容貌と綺麗なドレスにばかり目が奪われているな。

 実際にはヴィルマは迷宮討伐が終わった後に、お替わりを要求する好戦派だぞ。

 

「確かに。決闘の時と同一人物とは思えません」

 

 ゴスラー騎士団長まで騙されている。

 あの時は百獣王ジョブでLv50をちょっと超えたぐらいだったが、今はLv83だ。

 多分、ここにいる騎士団員の誰よりもレベルが高い・・・・・・いや、僧侶のLv90がいるようだから、一人を除いてか。

 

 

「そちはどうじゃ」

「恐れながら、一度手合わせさせていただければと思ってましたが、

 さすがにドレス姿の令嬢とは・・・・・・」

 ハルツ公の部下にしては、空気を読んでくれている。

 

 きっとゴスラー騎士団長共々、苦労しているに違いない。

 パーティーメンバーは苦労人繋がりの仲間だったりして。

 

 

「主、戦いたい」

「えっ?」

 こちらの娘は空気を読んでくれなかったようだ。

 

 というか、お前、ドレス着てるんだよ。

 エネドラに怒られるから止めなさい。

 

「タケダ殿、あちらに女性騎士用の更衣室があるぞ。

 必要な防具も貸すことが可能じゃ」

「・・・・・・」

 ハルツ公、なんということを・・・・・・ヴィルマの笑みが令嬢のそれから、野獣の表情に。

 

 

「タケダ殿、いかがか。この者は余の騎士団でも最も腕が立つ。

 一度彼女との手合わせを願いたいが」

 公爵も空気を読んで下さい・・・・・・って無理か。端からそれが狙いだったのだろうな。

 

 迷宮討伐を成し遂げた我が家の戦力を確認したいのかも。

 帝国解放会のプレ試験?・・・・・・いや、迷宮討伐した時点で基準は満たしていると思うのだが。

 

 こちらもこちらで、公爵領クラスの精鋭の戦力を確認したいところだが。

 ヴィルマをパーティーから外して、実力を少し落とした上で確認するか。

 

 

 そういえば、ゴスラー騎士団長のパーティーには聖騎士が二人いたのだっけ。

 確か原作にそんな記述があったよな。

 聖騎士二人って、随分偏ったパーティーだなぁって思ったので記憶に残っている。

 魔道士をとにかく守って、魔法で片をつける戦法なのだろうか。

 

 

「そこまで、おっしゃるのなら。ヴィルマ、今日は晩餐会なのだから程々にな」

「うん」

 ヴィルマ、メッチャいい笑顔だけど、これはダメな(手加減しない)パターンだ。

 

 昨日、帝都の洋服屋に連れていかれたし・・・・・・その反動もあって歯止めは利かないかも。

 相手の聖騎士が気の毒になってきた。

 まあ、こちらとしては公爵領の精鋭戦力を、模擬戦で見られるのならOKか。

 

「ご案内いたします」

 騎士団の女性騎士らしき者が来て、ヴィルマを更衣室に案内してくれるようだ。

 

 エネドラが俺の所に近づいてきた。

 先ほどまで一言も発しなかったけど、怒っているのだろうか?・・・・・・俺のせいじゃないぞ。

 

「旦那様、贈り物のことを忘れずに。私はヴィルマ()に付き添いますので」

「達?」

 何か・・・・・・。

 

 ヴィルマの方に視線を向けると、女性騎士の後ろに付いて歩いているのはヴィルマ、イレーネ、オリビア、アミル・・・・・・って模擬戦するのは一人だけじゃないのか?

 しかも何故アミルまで?

 

「旦那様、石鹸をお忘れなく」

「あ、ああぁ・・・・・・」

 石鹸という言葉が聞こえたのか、カシア様がこちらをジッと見つめている。

 

 先に済ませるか・・・・・・公爵と並んで会話をしているカシア様の方に近づいた。

 

「恐れながら・・・・・・本日お招きいただいた御礼に、石鹸をいくつか持ってきております」

「まあ、それは素晴らしい」

 カシア様の笑みに反して、ハルツ公は魚の死んだような目になった。

 

 お礼だから取引ではないのだが・・・・・・今日の分は無料だから、そんな顔をしないでほしい・・・・・・溜飲が下がった気もするけど。

 

 饅頭怖い、もとい石鹸怖い?・・・・・・公爵のはフリではない気もするが。

 もっと石鹸持ってこようか?

 カシア様は喜ぶだろうが、落語と違って公爵は心底嫌がりそうな。

 嫌がらせをされた時の対処方法として覚えておこう。

 そのうち化粧品も持ってきたりして・・・・・・クックックッ・・・・・・いかんいかん自重しなければ、つい先ほどした反省はどこにいった。

 

 リュックから石鹸セットを5つ取り出すと、カシア様以外にも女性騎士が集まり始めた。

 男性騎士達は遠ざかり、こちらを見ないようにしている。

 

 俺から渡された石鹸セットを手に、女性騎士達はニッコニッコだ。

 

 何か妙な盛り上がりを見せ始めたところで、ヴィルマ達が戻ってきた。

 だけど、完全装備じゃないですか。

 武器こそ持っていないけど、防具は迷宮探索で使っている装備じゃん。

 

 アミルが持ってきたのか?それとも、エネドラのアイテムボックスに入れてきたのか。

 いずれにしても、なんで持ってきているの?

 常在戦場(模擬戦上等!)ってこと?

 

 先ほどまでは、豪奢なドレスに身を包んでいたのに、今や完全な戦闘装備だ。

 ヴィルマだけでなく、他の三人まで。

 アミルはストッパーではなかったのか?

 

 ヴィルマは部屋の中央に進み出て、相手の聖騎士と対峙する。

 

 聖騎士Lv54・・・・・・リカルド騎士団長よりもレベルが高い・・・・・・というか2倍以上のレベルだ。

 これが公爵レベルの精鋭部隊か・・・・・・とはいえ、ヴィルマは百獣王Lv83で更に上だ。

 ヴィルマは俺のパーティーから外したが、相手の聖騎士の方はどうなのだろう。

 

 ゴスラー騎士団長が審判役か。いいなぁ、俺も近くで見たかった。

 二人が中央に寄るのを待って、ゴスラー騎士団長が右腕を上に掲げて、下に振り下ろした。

 

 こちらの試合形式って、開始の合図を声で出さないのかな。

 俺は声で『始め!』と言ってくれる方がやり易いと思うのだけど。

 

 聖騎士の男がジリジリと間を詰めていく。

 ヴィルマは動かずに様子見か。

 フットワークも使わないなんて珍しい。

 

 お互いに木製の両手剣を持っているので、盾は持っていない。

 聖騎士なのに盾が無いというのが、なんとなく違和感あるな。

 彼は頭装備はしておらず、エルフイケメンの顔がハッキリと見える。

 長髪の金髪でヴィルマに近づいていく姿はプロポーズでもするのですかというぐらい余裕が見えて、だんだんムカついてきた。

 

 ヴィルマの鋭い一閃に、彼が剣を合わせたが激しく弾かれた。

 木製だけど、けっこう痛いのじゃないか。

 彼から余裕の表情が消えた。

 

 うん、イケメンは死ね!・・・・・・原作主人公も言っていた(師匠の言葉に賛同する)

 

 俺の呪いの言葉に反応した訳ではないだろうが、イケメンが横薙ぎに剣を振るったが・・・・・・ヴィルマはバックステップで躱す。

 原作では、ヒロインが回避に徹して掠らせもしなかったが、ヴィルマはどうするつもりか。

 

 急に聖騎士が連続で攻撃を始めたが・・・・・・それをヴィルマが難なく躱す。

 やはり彼女は相手に合わせて攻防を柔軟に変化させられる・・・・・・上手いな。

 紙一重で躱すこともあれば、大きく距離を取ることもあり、緩急をつけて相手に的を絞らせない感じなのかもしれない。

 しかも、たまにカウンターで強い斬撃を放ち、相手の攻め気を削いでいる。

 

 見てて安心できるな。

 

「それまで」

 

 あれっ、審判役のゴスラー騎士団長ではなく、ハルツ公が止めた。

 何故?まあ、構わないけど。

 とりあえず、相手に怪我させなくて安堵した。

 

「ありがとうございました」

「・・・・・・」

 こらっ、ヴィルマ。相手に合わせて挨拶しなさい。

 

 そんな不完全燃焼みたいな表情で・・・・・・ガン飛ばすんじゃないよ。

 最近、ザビルの騎士団長にガン飛ばした俺が言うのもアレだが。

 

 ヴィルマが不満気で戻ってきた。

 

「ヴィルマ、お疲れ。なかなかの戦いだったぞ」

「これからだったのに」

 手加減できないのだから、終わりにしてくれて助かった。

 

「やはり強かったな」

「は。届きませんでした」

 やはりというぐらいなら、やらせなくても。まあ、自分の目で確かめないと納得いかないか。

 

 

「では、次は私にも一手指南願います」

「えっ?」

 もう一人の聖騎士Lv47が俺の前に向かってきた。

 

 俺、防具を装備していないのだけど・・・・・・今から着替えろと?

 

「御館様を倒したいのなら、まず、あたしを倒してから」

「むっ」

 聖騎士の前にイレーネが立ちふさがった。

 

 道場主と戦いたいならまず師範代を破ってから、という感じか?

 いや、彼女の場合は聖騎士に勝った後、俺に模擬戦を挑みかねないな。

 単純に(獲物)を取られたくないだけかも。

 

 

 イレーネと聖騎士が中央で対峙する。

 聖騎士Lv47に対して、こちらは『くのいち』のLv60・・・・・・レベル差はそれなりにあり、しかも彼女のジョブはかなりの上位ジョブだ。

 恐らくは勝負にならないだろうが、剣の技量が物凄く高い猛者という可能性もあるか。

 

 騎士団長の合図で模擬戦が始まった。

 イレーネは体を小刻みに左右に揺らしながら、相手の的を絞らせない。

 気合が入ってる証拠かも。

 

 聖騎士の横薙ぎの斬撃をかいくぐり、カウンターで強めの打撃が入った。

 

「グッ・・・・・・」

 顔に苦痛の表情が出たものの、前に出てイレーネを追う。

 

 再び、振るった彼の剣にイレーネがカウンター。

 その後も彼の剣はイレーネに届かず、全てカウンターで合わせている・・・・・・というか、猫がネズミをいたぶる感じじゃないか?

 彼女のドS性が発揮されているような。

 俺に彼が向かってきたから、ムカついたのだろうか。

 

「もうよい。終わりじゃ」

 またもや、ハルツ公が止めた。

 

 ゴスラー騎士団長って単に見学したかっただけじゃないか?

 俺にその場所を譲ってほしい。

 だけど、ザビルの武闘会に比べると、ちょっと見応えがないかも。

 

「ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 おっ、イレーネが珍しく礼儀正しい・・・・・・表情はガン飛ばしているようにしか見えないけど。

 

 

「では、次は私が・・・・・・」

 ここで僧侶Lv90の男?・・・・・・しかも、その視線の先は俺。

 

 なんか、先鋒、次鋒、中堅、副将みたいな順番になっているか?

 先鋒はイレーネが買って出そうなのだが、今回はご指名でヴィルマだった。

 となると、いつものパータンだと中堅はオリビアか?

 

 オリビアが無表情な顔で俺の前に出ようとして・・・・・・アミルが割って入った。

 えっ、アミルが行くの?

 

「私がお相手いたします」

「・・・・・・」

 僧侶Lv90の男の前に小柄なアミルが登場したせいで、彼は驚いたような表情だ。

 

 相手に聞こえないように、彼女が俺に囁いた。

 

「オリビアさんの戦い方は伏せておきたいので」

「そうか。そうだな」

 確かにオリビアの槍二刀流(手の内)は、ここで見せたくないな。

 

 別の意味でストッパー(情報漏洩防止)の役割を果たしている。さすがはアミル(さすアミ)

 

「私はパーティーに入れておいたままにして下さい」

「分かった」

 まあ、アミルなら引き分けか、上手く負けて相手の面子を立ててやれるかも。

 

 

 ・・・・・・そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

 

 アミルは僧侶Lv90に対して、木の槍でほぼ相手に何もやらせずに封殺してしまった。

 鍛冶師Lv84が繰り出す重い突きを何度も喰らい、僧侶Lv90がギブアップした。

 レベル差が6ぐらいだとレベル補正はあまり関係ないのだろうか。

 俺のセブンスジョブのパーティー効果も乗っているのが原因かも。

 

 今回、ハルツ公もゴスラー騎士団長も止めるのを忘れ、アングリして見てしまっていた。

 おかげで、彼の心が折れるまで戦ってしまったかもしれない。

 今後の公爵領の迷宮探索に支障がないことを祈りたい。

 

 それにしても、なんで僧侶の男は模擬戦を挑んできたのだろうか?

 レベル補正を意識して、何かこちらの実力を測ろうとしたのか?

 でも、レベルなんて探索者じゃないから本人でも分からないはずだよな。

 ともあれ、タケダ軍はこれで三戦無敗だ。

 木製の武器を使った模擬戦とはいえ。

 

 ハルツ公がこちらに近づいてきた。後ろにゴスラー騎士団長の姿も見える。

 

「タケダ殿は良いパーティーメンバーをお持ちだ」

「自慢のメンバーですから」

「さすがは迷宮討伐を成し遂げるパーティーメンバーということか」

 ここは肯定も否定せず、曖昧に笑みを浮かべて誤魔化す。

 

「閣下、そろそろ」

「うむ。そろそろ食事の準備も整うころだろう。参られよ」

「では、彼女達の着替えを待ってから」

 俺以外の迷宮組が戦闘装備になってしまったから、晩餐会用に着替えなければならない。

 

 とりあえず、女性陣の着替えを待つことにした。

 エネドラは女子更衣室に行って、彼女達のフォローをするのだろう。

 俺は一人でポツンと立っている。

 

 いや、他にも騎士団員はいるのだが、さすがに俺に挑もうとする者はいないし、話し掛けてくる者もいなかった。

 俺に近づくと、あの四人が戻ってくるとでも思ったのだろうか?

 せめて、ターレ迷宮でいつも顔を合わせていた兄ちゃんでもいれば、雑談できたのだが、あいにく姿を見つけられなかった。残念。

 

 ハルツ公とゴスラー騎士団長は準備があるのか、早々に立ち去ってしまった。

 女子更衣室のドアの傍には女性の騎士団員が立っている。

 この後、彼女が案内してくれるのだろう。

 

 彼女は先ほどもヴィルマ達を案内してくれており、カシア様に石鹸セットを渡した時にも更衣室の傍にいたけど、今日渡した石鹸にありつけるのだろうか。

 他人事ながら、ちょっと気になってしまう。

 

 今回の模擬戦の結果をどう見るか。

 ザビルの騎士団長や団員との模擬戦と比べれば、タケダ家の戦力が圧倒していた気がする。

 こちらの戦力を探るという目的もがあるだろうから、差し引いて考える必要はあるが、それでも迷宮組は公爵領クラスの精鋭と同レベルか、それ以上ということか。

 もっと別の公爵領の騎士団と比較してみないと分からないし、今回は他の騎士団員の実力までは分からなかった。

 最高戦力で優っていても、層の厚さではまだ敵わないだろう。

 

 公爵側の騎士団で模擬戦を行なったのは、聖騎士二人と僧侶一人。

 公爵領の最高戦力は魔道士のゴスラー騎士団長をリーダーに聖騎士二人、僧侶一人、沙門一人と・・・・・・後は探索者ジョブを加える感じかもしれない。

 

 避けタンクがいるように見えないから、公爵家の迷宮討伐は装備品使い捨て方式をしながら、魔法で削る戦術なのだろうか?

 

 エステル男爵のパーティーは、男爵本人が聖騎士で、他は冒険者、探索者、魔道士、百獣王、禰宜だったか。

 冒険者は原作主人公を送るためのフィールドウォーク要員(タクシー)だったかもしれないが、百獣王は案外と避けタンクなのかもしれない。

 武器が分からないが、状態異常にする武器を持ちながら、避けタンクで迷宮ボスの攻撃を躱し、物理と魔法で削るというハイブリッドもありえるか。

 まあ、帝国解放会に入れば会えるかもしれないから、そのうち確かめたいな。

 入会してからの話だが。

 

 タケダ家はタケダ家なりのやり方で、今は迷宮を討伐していこう。

 

 

 やがて、着替え終わった四人とエネドラが女性騎士団の先導でこちらにやってきた。

 

「ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」

 

 彼女の後について、六人で通路へと進んだ。

 

 俺は一番後にいたかったのだが、当主ということで六人の先頭・・・・・・案内してくれる女性騎士団員の真後ろで付いていく。

 目の前のエルフ族の女性は美形の騎士団員・・・・・・その後ろには、いかつい鬼人族の男。

 なんとなく甲子園の入場行進を思い出してしまった。

 俺の後ろの五人は美形の女性達だが。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/3/27(金)の予定です。
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