異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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078.ゼノとゼナ

 晩餐会の翌日もクーラタルの56階層の迷宮探索の続きだ。

 前日同様にゼリースライム、オイスターシェル、ボトルマーメイド等をしばき倒して探索は順調に進んでいく。

 やはりゼリースライムはタフなのだが、動きがトロいので状態異常にし易く、石化させてしまえば怖くない。

 

 56階層の通常モンスターで問題なく対応できるのなら、レベルは多少上がるが63階層の通常モンスターも問題ないと見なせるだろう。

 いよいよ、威霊仙をドロップする階層が射程圏に入ってきた。

 

 あとは、ワンランク上がったモンスターからの攻撃で、スキル融合した状態異常耐性を抜けてくるかとか、ボス戦闘が手強いかどうかがポイントになるはず。

 特にボス戦はボス二匹に加えて、お供が四匹になるから対応力が問われる。

 

 迷宮討伐戦で見せた俺の槍四刀流をボス戦で使う手もあるが、前衛陣三人には不評だよなぁ。

 できれば彼女達にも活躍してもらいたいが、必要以上に危険に晒したくない。悩ましい。

 

 午前中いっぱい探索を続けたが、ボス部屋に辿り着くことはできず探索を終了することに。

 クーラタルの地図を見る限りでは、ボス部屋はまだ遠そうだ。

 やはり56階層からはフロア全体が広い。

 地図はアバウトな記載しかないので、どの程度で辿り着けるのか初見では分からなかったが、午前しか探索しない今のやり方だと3日間コースだろうか。

 迷宮入口の騎士団員にボス部屋に一番近い部屋に案内してもらい、地図を使ってすら時間がかかるのだからどうにもならない。

 

 それでもワープで好きな所から移動できるので、本当にありがたい。

 フロアがいくら広かろうが、こちらの帰りたいタイミングで自宅に帰れるからな。

 

 探索を切り上げて、クーラタルの自宅に戻った。

 

・・・・・・

 

 昼食を終えて、二階の作業室へ。

 アミルからザビルに持っていくためのスキル融合武器を受け取るためだ。

 

「こちらになります」

「急に悪かったな。とても助かったよ。ありがとう」

 俺が頭を下げると、アミルは手をひらひらとしながら、気にするなのジェスチャー。

 

 激情のダマスカス鋼剣2本と強権のダマスカス鋼槍2本。

 きっとユリア士爵が手ぐすねを引いて待っているだろう。

 

 

「今日のクーラタルの探索はラファがいないから、アミルが巫女だったよな?」

「はい。ヘルミーネさんが探索者をやります。

 私とヘルミーネさんでリーダー役を交互にやりながら、お互いに連携を高める訓練です」

 ヘルミーネがパーティーにいれば、お互いに学ぶことが多いだろう。

 

 トカラの魔法使いとしての訓練もある。

 前衛三人は迷宮組だから、戦線が崩されることはないだろう。

 

「気を付けてな」

「はい。まだ組んで二日目ですから、注意して行ってきます」

 アミルが去るのを見送って、俺は自室に戻り出発準備にかかる。

 

 昨日は感情的になってしまったので、今日は対応項目をチェックリスト化して冷静に臨む。

 初めに実施すること・・・・・・終わりに念押しすること・・・・・・チェックリストを見ながら、会話の流れをシミュレーションしておく。

 昨日のような醜態はもう御免だ。

 

 必要なことを速やかに伝え、収集可能な情報を極力引き出す。

 こんなところか。

 

 頭の整理もできたので、階下に降りてエネドラに外出を告げた。

 

「これからザビル子爵の館に行き、二人を引き取ってこようと思う。

 カラダンの所に行って、奴隷契約をしてもらうことになるだろう。

 クーラタルに一度戻ってくるので、エネドラも後でザビルに行けるか?」

「そうですね。クララも連れていこうと思います。

 彼女の奴隷商人になるための条件も満たした方がよいでしょうから」

 なるほど。そういえば若いけど、クララを奴隷商人にするという話だったな。

 

「分かった。いずれにしても、クーラタルに一度戻るから。では行ってくるな」

「はい、いってらっしゃいませ。旦那様」

 

 まずは、ザビル本館の玄関に移動して、領主の館を目指した。

 

 詰所にいる騎士団員に用向きを伝えて、待つこと数分。

 騎士団員の案内で、子爵の執務室に。

 

 部屋の中に入ると、珍しくザビル子爵以外には文官らしき者しかいない。

 夕方までに結果を伝えると言ったので、夕方に来ると思われていたのかも。

 

「直ぐに終わるので、座って待っていてくれ」

「承知しました」

 ザビル子爵の勧めでソファに座らせていただき、周りを観察。

 

 思えば、ここでゆっくりしたことなどなかったよな。

 入室したら直ぐに用件を伝えられるか、誰か他の貴族がいて近づいてきて話しかけられたり。

 

(コン、コン、ガチャ・・・・・・)

 

 おっ、エミリオ士爵が入室してきた。

 っていうか、ドア開けるの早くない?

 誰何も受けず、直ぐにドアを開けているから、ノックの意味はないのでは?

 

 彼の後ろにはゼノとゼナの姿が見えた。

 こちらを見て、笑顔になっている。

 

「エミリオ、対価のスキル融合武器を受け取っておいてくれ」

「了解」

 三人が近づいてきたので、立ち上がってエミリオ士爵に頭を下げた。

 

「では、武器の方を・・・・・・」

 

(ガチャッ)

 

「武器が来たって?」

 

 ノック無しでユリア士爵とリカルド騎士団長が入室してきた。

 結局、こうなるのか。

 

「エミリオ、武器はどこだ?」

「ちょっと待ちなさい。今から受け取るのですから」

 エミリオ士爵の左右にユリア士爵とリカルド男爵がドッカリと座った。

 

 とりあえずアイテムボックスを開いて、激情のダマスカス鋼剣と強権のダマスカス鋼槍を2本ずつ取り出してテーブルの上に置く。

 

「こちらが武器屋からもらい受けた鑑定書です。お確かめを」

「はい、ありがとうございます」

 エネドラに鑑定書を作ってもらい、今回も持ってきた。

 

 武器屋が鑑定しないと実際には分からないのだが、前回はこれで問題を指摘されなかったから、今回も同じ手法を適用。

 

「うひょー、どちらにしようかな」

「倉庫に入れてから、再度配布しますから今はダメです」

 満面の笑みを浮かべるユリア士爵に、エミリオ士爵の言葉が届いているとは思えない。

 

 

 おっと、ここでやっておかないとな。

 

 

(索敵)

 

 えーと・・・・・・はあぁ?

 

 ザビル子爵、お付きの文官、リカルド騎士団長、ユリア士爵がグレーなのは想定内。

 昨日、ガン飛ばしてしまったから、リカルド騎士団長の色をチェックしたかった。

 あの程度で機嫌を損ねるほど、器が小さいとは思えなかったが念のためだ。

 

 想定外だったのは、青色になっている者達。

 

 エミリオ士爵、ゼノ、ゼナの三人が青い。何故?

 特に何か親密度を高めるような事などなかったはずなのに、エミリオ士爵が青くなっているのは薄気味悪い。

 赤になっているよりは全然マシだが、前にチェックした時はグレーだったはず。

 

 実は、この二人を誤って仕入れてしまい、俺がフォローしたことになったので青くなった?

 そんな訳ないか。

 結構な回数を取引しているルークだって、未だにグレーのままだ。

 まあ、ルークにどこまで感謝されているのかは、あの表情からは読めないけど。

 

 

 そして、奴隷契約を正式に結ぶ前から青いというのは、ヴィルマ以来じゃないか。いやオリビアもか。

 ゼノとゼナが青いのは何故?

 俺が身請けすると伝えたから感激して?

 いや、今まで契約した奴隷達でも、そんなことは記憶にないぞ。

 

 ヴィルマは身請けする意思表示をする前から青かった。

 あれは、模擬戦で痛い目に遭わせて、ツンデレフラグが立ったのだっけ?

 もう、『ツン』はどこかに捨てられてしまったようだけど。

 

 他の者は奴隷契約が正式に終わってから、グレーが青に変わった。

 それが普通だろう。この状況は一体?

 

 青くなること自体は良いことなのだが、こうなると本当に気持ちが悪い。

 うーん。だが、それを理由に今回の件をなかったことにする訳にもいかないよな。

 

 特に今の状態で、取引を御破算にしてスキル融合武器を回収しようとすると、反乱が起きるかもしれない。

 エミリオ士爵の両側の二人は、索敵で見た色が赤くなる気がする。

 

 それ以前に索敵の色の説明が困難だ。

 取引はこのまま成立させるしかない・・・・・・だが、どうにも薄気味悪い。

 

 いつから青に変わったのだろうか。

 まあ、今考えても答えは出ないか。

 

 

「では、この二人はタケダ様の所有奴隷となります。

 二人の所有者の手続きについては、ご自身の奴隷商館の方でお願いします」

「承知いたしました」

 エミリオ士爵に頭を下げて、二人を手招きした。

 

 双子が俺の背後に回るのと同じタイミングでザビル子爵が近づいてきた。

 お付きの文官の方は、子爵の執務机の前で何やら書類を読んでいる。

 

「遅くなったな。取引は終わったか?」

「ええ、先ほど。もうタケダ様に二人を引き渡しました」

 子爵の質問にエミリオ士爵が答える。

 

 両脇の二人は武器の品定めが忙しく会話に加わらない。

 

「今後も、スキル融合装備品の取引が可能と思ってよいのか?」

「ええ、そのように考えていただいて構いません。

 今回はかなりサービスいたしましたので、

 戦える竜人族がいましたら、是非お声がけをお願いいたします」

 背後にいる二人には酷かもしれないが、次の取引に向けてキッチリと言っておかないとね。

 

「そうだな。次はまだ先だが覚えておこう」

「はい、よろしくお願いいたします」

 次は竜騎士候補の奴隷でお願いします。

 

「それから、前にお話のあった内容について確認させて下さい。

 ギルド神殿と威霊仙を交換していただける貴族の方を紹介していただく件ですが、

 ザビル第二迷宮の討伐前でも可能でしょうか?」

「やはり、迷宮討伐をしていたのではないか。

 だが、紹介するには我がザビル領内の迷宮を討伐することが条件だ」

 まあ、そう簡単には紹介してもらえないと思っていたけどね。

 

「迷宮討伐した後であれば、その方にギルド神殿を複数渡して、

 威霊仙を複数いただく交渉をしても構わないでしょうか?」

「まあ、交渉するのは自由だ。それをダメとは言わない」

 それなら構わないか。

 

 本当にその貴族とやらが、威霊仙を複数個持っているのかは分からないけど。

 これで、取引や伝えたい事、確認したい事がクリアになったので、終わりにするか。

 ザビル子爵とエミリオ士爵に暇乞いをして、執務室を出ることにした。

 

 

 三人で出口に向かおうとするが、エミリオ士爵も用事があるようで、途中まで一緒だ。

 彼と俺が並び、双子がその後ろにいる。

 さすがに先導する騎士団員も随伴している。

 

 エミリオ士爵と並んで話をしながら、出口を目指す。

 

「二人とも、あまり食べたがらなかったので、食べるように言ってやって下さいね」

「?・・・・・・はい、分かりました」

 竜人族とはいえ、小食なら無理やり食べさせたりはしないが、相槌だけ打っておく。

 

 途中でエミリオ士爵と別れて出口へ。

 先導してくれた騎士団員に礼を言って、領主館を後にした。

 

「まずは、このザビルの街にある我が家に向かう。その後は、別の街の家に移動する予定だ。

 別の街というのはクーラタルという名の街になる。

 二人にはそこで暮らしてもらうつもりだ。

 普段は俺もその街で暮らしている。

 後で、その家の仲間にも紹介してやる」

「はい。ありがとうございます。

 その・・・・・・本当に戦えない僕達二人でよろしかったのでしょうか?」

 俺の先ほどの言葉が引っ掛かったのかな。悪気はないので勘弁な。

 

「二人を引き受けた判断を覆すつもりはないぞ。

 確かに戦える竜人族を期待して、ザビル子爵の所に取引に来たのは事実だ。

 だが、我が家のメンバーには戦わない者もたくさんいるから心配無用だ」

「はい。ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 赤い糸ならぬ、青い色に導かれて二人を仲間に加えたのかな。

 

 まあ、何が青くする引き金になっているのかは、未だに理解不能ではある。

 まだ不安そうな二人を見ると・・・・・・俺の方が背が少し高いか。

 オリビアはもちろん、フレイヤやトカラと比べても二人は背が低いな。

 まあ、普通の人間族の成人並の身長ではあるのだが。

 

 

「二人は小食だとエミリオ士爵がおっしゃっていたが、

 こちらの国の食べ物の好みが合わないのか?」

「いえ、そのようなことはないです。

 前の村とこの国の食べ物にそれほど差はないと思います。

 ただ、その・・・・・・身体が大きくなって戦闘に駆り出されるのが嫌だったので」

 なんだって?

 

 体重を減らすためにだけに、無理なダイエットをする元の世界の現代人のようなことを、この二人はやっていたのか?

 それは健康上、良くないだろう?

 

 

「なら、これからは好きなだけ食べろ。

 体が大きくなったのだから迷宮に行って戦えなどと言うことはないから。

 だが、気分転換のために、朝の訓練に参加した方が良いと思うぞ」

「朝の訓練?」

 今までの反動で太り過ぎになっても拙いよな。体は動かした方が健康的だ。

 

「迷宮で戦う者は、朝や屋敷に待機している時に戦闘訓練をやっているのだが、

 気が向いたら、それに参加してみたらどうかという意味だ。

 別に武器を持って訓練に参加する必要もない。

 ただ体を動かすだけだ。

 薬草採取士でも僧侶になるのでも構わないが、家に籠り切りは良くない。

 もし、合わないようだったら無理に参加しなくても構わないから、

 一度、気軽に参加してみたらどうだ?」

「はい。分かりました」

 戸惑いながら、二人は頷いた。

 

 

 この二人はまだ若いし、外の事をあまり知らないようだから、我が家のいろんな者と交流した方が良いと思う。

 後方支援チームは放っておいても、かまってくるだろうけど、戦闘部隊とは自ら接点を作らないと交流できない。

 まあ、まずはちゃんと食って寝て、我が家の生活に慣れてもらうことからだな。

 

 

 路上で話をするのを止めて、ザビルの本館に向かった。

 本館前の門を通って、二人を手招きした。

 

「ここがザビルの街にある我が家だ」

「お、大きい家ですね」

 まあ、敷地も建物も大きい家を購入したからな。

 

 玄関に入り、まずは上履きの履き替えルールを教えた。

 戸惑っていた二人に室内用の靴を履かせて、二階に上がった。

 

 カラダンの書斎をノックすると、ピコがドアを開けてくれた。

 立ち上がってカラダンがこちらに近づいてきた。

 

「お疲れさまでした。取引は終わったようですね」

「ああ、滞りなく終わった。

 この後、二人の奴隷契約手続きが必要だが、エネドラを連れてこようか?

 彼女の話では、クララも連れてきて、奴隷商人のジョブ獲得のための経験もさせたいそうだ」

 俺の話にカラダンも頷く。

 

「はい。先日の会議の時にクララの件はエネドラ様から相談を受けました。

 いつでも構わないと思っていましたが、今日やってしまいましょうか。

 奴隷商人のジョブを取得するのなら、私がアルマー様の商館でやった手続きをやるだけです」

「そうだな。では、二人は向かいの会議室で待っていてもらうか。

 俺がエネドラとクララを連れてこよう」

 

 ピコが二人を会議室に案内して、俺はクーラタルの自宅へと移動。

 食堂に向かうと、エネドラがクララとフローラの二人とテーブルで待ち受けていた。

 

「奴隷手続きのためにザビルへ行けるか?」

「はい。大丈夫です。

 手続きにはクララも参加してもらいますけど、

 二人が薬草採取士をやるならフローラも連れていこうかと思いまして」

 まあ、同行する者が一人増えたところで問題ないだろう。

 

 

「ああ、いずれは紹介するのだし大丈夫だ。では行こうか」

「はい。こちらは大丈夫です。

 それとルーク様から、旦那様の留守中に伝言がございました。

 附帯契約の取引の件だそうです」

 入れ違いで伝言があったのか。

 

「分かった。では、ゼノとゼナの対応が終わったら、商人ギルドに行ってこよう」

「はい。お願いいたします」

 

 四人でザビルの邸宅へと移動した。

 二階に上がりながら、エネドラ達に双子の件を説明。

 

「ゼノとゼナの双子だが、

 体が大きくなって戦闘に駆り出されるのが嫌で食事を控えていたらしい」

「それはまた・・・・・・そんなに戦うのが嫌だったのですね」

 理由は訊いてないが、打ち解ければエネドラ達に話すかもしれない。

 

 別に秘密でも構わないが、何かトラウマになることがあったのなら把握しておくべきか。

 

「という訳で、我が家に来たからにはシッカリ食わせてやってくれ。

 多少は運動もさせた方が健康に良いから、その辺りも気を使ってやってほしい」

「はい。お任せください」

 

 四人で会議室へと入った。

 

・・・・・・

 

 その後は、お互いに自己紹介をさせ、カラダン主導で淡々と奴隷手続きが実施された。

 クララの奴隷商人ジョブ取得のために、疑似的な手続きを実施したが、最終的には二人は俺の所有でエネドラが死後相続をする手続きを行なった。

 もちろん、性奴隷は未承諾という扱いにしてある。

 この二人は意味をちゃんと理解しているだろうか?・・・・・・エネドラにフォローお願いしたい。

 

 カラダンに礼を言って、六人でクーラタルへ移動。

 

「この後の事はお任せ下さい。

 ジョブ取得の件は二人の希望を改めて確認してからで構わないでしょうか?」

「そうだな。しばらくは午後の時間が融通利くので、相談してくれれば対応できると思う」

 この後は、エネドラ達に任せよう。

 

「ゼノ君はレイモンドとトカラ君と同室、

 ゼナちゃんはドロテアとフレイヤちゃんと同室となります」

「そ、そうかどちらにも竜人族の者がいるから適切だろう。

 ボレーの件も話をしておいてくれ」

「承知しました」

 微妙に呼び捨て、君付け、ちゃん付けになっているのは何か違いがあるのだろうか。

 

 まあ、年齢なのかな。

 別に皆成人しているのだから、子供扱いではないのだろうけど。

 

「では、俺はルークの所に行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ」

 

 玄関からクーラタルの商人ギルドに移動した。

 

・・・・・・

 

 ルークとヌートを前にして、いつもの取引から始まった。

 

「まずは、こちらが落札したカードとなります。

 コボルトが2枚、サンゴが1枚、灌木が2枚となります」

「いつも通り、全部もらおう」

 メモとカードの突き合わせを行い、問題ないことを確認。

 

 指定代金と次の5枚分の手数料を支払った。

 

「次はスキル融合装備品の附帯契約のお話です。

 こちらの提示できるのは、そのリストにある素材とカードになります」

「確認しよう・・・・・・」

 

(リストの内容)

 ダマスカス鋼122個、コボルト10枚、牛2枚、コウモリ2枚、灌木4枚

 

 こちらの希望内容とほぼ一緒か。

 

「問題ない。では、これが・・・・・・耐土のダマスカス鋼プレートメイルだ」

 

 アイテムボックスからダマスカス鋼のプレートメイルを取り出して、テーブルの上に置いた。

 ルークが防具鑑定の詠唱を行なって検品確認。

 

「確かに、耐土のダマスカス鋼プレートメイルのようです」

「では、取引は成立かな?」

 俺の言葉にルークが首肯した。

 

 ヌートが取り出すダマスカス鋼をひたすらアイテムボックスに放り込み、モンスターカードもリュックに仕舞った。

 

「これで、取引は終わりだな。

 そういえば、ハルツ公にはルークの所で石鹸の委託販売を始めたことを伝えておいた。

 カシア様は殊の外、お喜びのご様子だったぞ」

「早速伝えていただいたのですか。ありがとうございます」

 ハルツ公はゲンナリしていたけどね。

 

「石鹸の方ですが、貴族用、平民用20セットずつから始めましたが、

 既にどちらも半分以上売れました。

 今は話題が先行しているのだと思いますので、そのうち落ち着くかもしれませんが」

「そうか、また補充が必要になったら伝言をもらえれば届けさせるので」

「はい。よろしくお願いします。

 売上の方はある程度まとまってから御報告と代金の引き渡しをすることで

 エネドラ様とは話してあります」

 彼女と話がついてあるのなら問題ないな。

 

 ルークに礼を言って、ギルドの壁から自宅へとワープで戻った。

 

・・・・・・

 

 自宅に戻ってからは、久々に迷宮組メンバー抜きでの模擬戦。

 相手はレドリック、フレイヤ、ケリー、ラファの四人。

 

 特にラファはウキウキで俺との対戦を希望。

 朝の訓練よりは、しっかりと時間が取れるからな。

 他の三人ともミッチリと訓練。

 ちょうど槍使いはラファだけで、剣使いが三人だ。

 レドリックとフレイヤは双剣だが。

 

 剣の技量はやはり、レドリックにはまだ敵わないと思う。

 防具にしっかりと剣を当てられてしまうと、まだまだ剣技を磨かなければと感じる。

 

 ただ、俺のジョブがLv80を超えてしまったので、レドリックの剣が俺に当たってもほとんどダメージを感じない。

 これはレベル補正の効果だと思う。

 訓練用に木製の武器を使っているし、防具は良質なものを使っているというのもあるけど、それ以前に効いてないって感じだ。

 

 レドリックは剣聖Lv54だが、こちらのジョブとはレベル差が30以上ある。

 彼から一撃を受けても、防具の性能以前にレベル差でダメージが入ってない気がする。

 

 ゲーム的な感覚になってしまうが、やはりレベルを上げることは重要だ。

 特にこの世界では。

 

 経験を積むこと・・・・・・レベルを上げることと実際の戦闘技術のピークを上手く合わせないと成功するのは覚束ないな。

 端的にレベルを早く上げようってことだ。

 ジョブの補正効果はレベルが上昇すると上がるはずだ。

 バフが先にかかった状態で訓練をやると効果が高い気がする。

 もちろん訓練は新米の時から地道にやるべきなのだけど、体の動きや相手への打撃の入り易さ等、目に見えて効果があるから。

 訓練時のモチベーションが違うと思うのだよなぁ。

 

 相手とのレベル差だけで勝っていると、自分よりもレベルの高い相手に遭遇すると途端に詰んでしまうから、修練をするのとセットなのだけど。

 

 人間の一生は長いようで短い。特に戦闘職に限れば、それが顕著に表れると思う。

 15才で成人して、現役で戦える年齢は40才ぐらいまで・・・・・・頑張って50才までか。

 全盛期は30才後半まで?・・・・・・延ばして40代前半までとして、15才からだと30年。

 初心者から始めて、脂が乗り始めるのが20代半ばぐらいだろうか。

 それまでにレベルを上げて、Lv40~50ぐらいになって、そこから15から20年ぐらいバリバリと迷宮で活躍して、更なる経験と富や名声を得る。

 経験を積み、実力がピークを迎えてから、全盛期を終える期間はもっと短くて10年ぐらいかもしれない。

 

 貴族なら、子供の頃にパワーレベリングをしてもらえるから、そのピークの期間が5年ぐらいは延びるのだろうか。

 

 タケダ家ではレベルに限ってしまえば、そのピークを迎えるまでの15年ぐらいの期間を一年ぐらいに圧縮して、そこから迷宮での経験や猛者との対人戦を学ぶ。

 装備品も一級品で、衣食住を気にせず、自分を鍛えることに集中できる。

 

 20才前後ぐらいで一流レベルまで引き上げ、そういったメンバーが数十人いて、お互いに切磋琢磨すれば、数年で最強の武闘派集団になるだろう。

 あとは、それを好循環で回していけば、数十年はタケダ家の興隆期が維持できるだろうか。

 数十年の後半には、俺は戦闘職から引退しているか死んでるかもな。

 

 不安要素があるとしたら、やはり俺の寿命や突然死だろう。

 俺は子孫が残せないだろうから、俺が死んだ後は揉めるかもしれない。

 派閥ができていれば派閥毎に分かれても、お互いに仲良くしてもらえることを祈るしかない。

 

「ユキムラ様、疲れましたか?」

「いや、ラファ、大丈夫だ。次の訓練をやるか?」

「はい。お願いします!」

 

 目の前にいるラファは派閥の領袖になっているかもな。

 彼女には野心がありそうだし、向上心もある。

 そして、カリスマ性もあるように見えるから、派閥を率いる未来が想像される。

 

 

 まあ、全てはただの妄想に過ぎないかもしれないが。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/3/31(火)の予定です。
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