朝の訓練のために修練場に来ているのだが、目の前で繰り広げられている光景に目を疑う。
修練場の隅っこの方で、ケリーとゼノが取っ組み合いをしている。
ゼノは竜人族とはいえ、昨日ジョブ取得したばかりの薬草採取士だ。
小柄だが百獣王のケリーと取っ組み合いで勝てるとは思えない。
ケリーがゼノに喧嘩でも売ったのだろうか。
体がデカい奴を見ると、挑みたくなる性癖なんて彼女にあったっけ?
取り急ぎ二人の所に行って、仲裁しないと。
近くでレドリックが呑気に見ている・・・・・・止めろよ!
「レドリック、これは一体どうしたことだ?」
「素手で組み手をしているようですね」
「組み手?喧嘩で揉めているとかではなく?」
確かに武器なしで訓練に参加してみろと双子には勧めたけど、こういう意味ではない。
「はい。ゼノが体を動かしていたらケリーがやって来て、組み手を始めたみたいです」
「喧嘩ではないから止めないのだな?」
レドリックは苦笑いしながら、頷いた。
「初めは止めようかと思ったのですが、二人とも楽しそうにやってるもので・・・・・・」
「確かに楽しそうだな」
なんか、動きの速いケリーを捕まえようと必死になっているゼノが面白い。
普通に追いかけるとスピードに優る百獣王を捕らえるのは難しいので、逆にケリーに掴ませてから捕らえようとしているな。
ゼノの体は人間族の成人並、ケリーは小柄だから、兄に妹がじゃれて組み付いているように見えなくもない。
実際には同い年なのだけど。
それにしても、ゼノはケリーに組み付かれても転倒しそうにはない。
足腰が強いのか、体幹が良いのか。
それよりゼノって、戦うのが嫌いじゃなかったのか?
昨日、コボルトを踏みつけたせいで、
「なあゼナ、ゼノって実は戦うのが好きなのか?」
「いえ、そんなことはないと思います。
元いた村でも、農作業の合間に普通に子供同士取っ組み合いとかしていましたけど。
体の大きい子には勝てなかったので、別に強くもなんともないですよ」
にこやかにゼナは話しているけど、そういう問題か?
確か、竜人族の奴隷村にいたとか言っていたよな。
素で腕力に優る竜人族の取っ組み合いって、一般人から見ればプロレスラー同士のバトルでは?
それは言い過ぎか。
その近くで、今度はマリーとゼナも取っ組み合いを始めた。
なんなのこれ?竜人族って、男女関係なしにこんなことやるの?
ゼナも体幹が強そうだ。
二人とも格闘センスがあるのだろうか。
意外に僧侶のジョブは適性があるのか・・・・・・この世界にも少林寺みたいな所があるのかも。
拳を使ってないから、少林寺は関係ないか。
ケリーとマリーも素手の戦いに適性ありそうだから、気が合うといいな。
まあ、怪我しない程度に気分転換になればいいや。
俺が勧めたのだし、護衛部隊とも交流した方が良いと思っていたしな。
ちょっと思っていた交流とは違ったけど。
護身術レベルなら、身に付けておいた方が良いから、このまま放置しよう。
別の場所では、ローザがイレーネと模擬戦をしている。
ローザ、チャレンジャー過ぎないか?
イレーネはかなりの猛者なのに。
実際、イレーネの剣はビシバシとローザに当たっている。
木刀だから大怪我には至らないだろうけど、イレーネは時々クリティカルを発生させるから痛いのは痛いと思うぞ。
敵の気配を感じても、イレーネの剣は回避できないのか。
まあ、イレーネも殺気までは放っていないだろうから、気配は感じない可能性もあるけど。
なんか、こう見ると我が家の訓練もバラエティー豊かだな。
モニカとマヤの攻防なんて、激しくて見ごたえがある。
オリビアとフラウスの槍捌きも見ていて楽しい。
レベッカもザビルから来て、レドリックに剣を習っているし。
あれは、マチルダが許可したのだろうか。
そのうち剣士のジョブを育成したいと言い出すのじゃないか?
おっと、ヴィルマが良い笑顔で近づいてきた。
暇しているなら、相手をしろと?
はいはい、分かりましたよ。
・・・・・・
朝練と朝食を終えて、迷宮組はクーラタル迷宮へ移動。
入口の騎士団員にハルツ公のエンブレムを見せて、俺だけ58階層のボス部屋に一番近い小部屋を案内してもらった。
56階層のボス部屋の攻略を終えて、次のターゲットは58階層にした。
58階層になると、ほとんどがワンランク上のモンスターになるので、不評だったゼリースライム戦からモンスターの強度を上げた戦闘へ切り替えることができるはず。
58階層を攻略できたら次は60階層で、その後は1階層ずつ上げて63階層まで挑む予定だ。
なので、60、61、62、63階層も合わせて案内してもらった。
一括払いにしたので、前回同様の騎士団員が出てきて、精算してくれた。
もう、慣れたものだな。
63階層のボス部屋に一番近い小部屋だけ、他の階層とは様子が違った。
案内してくれた騎士団員とは別に騎士団員っぽい者が数人ほど、小部屋の出口に詰めている。
「あれは?」
「ああ、63階層のボスは威霊仙を落とすことがあるからな。
この先に進むのなら、インテリジェンスカードのチェックをしてもらうことになる」
そういえば、他国への密輸は重罪とヘルミーネが言っていたっけ。あれは自爆玉だったか。
威霊仙も似たようなことしているのかな。
「まあ、今日はここに案内してもらうだけなので」
「そうか、この辺りの階層はボス部屋まで長丁場になる。
挑むなら水や食料をしっかりと準備してから探索に出た方が良いぞ」
彼の助言に礼を言って、入口の迷宮組が待つ場所へ向かった。
迷宮組と合流して58階層へと移動。
探索を始める前に、まずはブリーフィングから。
「57階層の攻略を飛ばしたから、57階層の情報も説明するぞ。
クーラタルの57、58階層の新規モンスターはトータルタートルとフロックフロッグだ。
トータルタートルは噛みつき攻撃をしてくる。
噛みつかれると振り解くのが大変なので回避を心掛けてほしい。
フロックフロッグは時折、強い一撃を出してくるので注意が必要だ。
いずれも、動きの遅いゼリースライムよりは強敵になるはずだ。
58階層のボスモンスターはプロックフロッグだ。
ローザの情報によると、プロックフロッグは攻撃した時に毒の追加効果を発生させるらしい。
攻撃を受けた際には、毒化させられていないか気を付けてくれ。
ドロップ品はそれぞれソフトシェルと止血剤で、ボスドロップの情報は特に無い。
フロックフロッグ、トータルタートル、ゼリースライム、オイスターシェルの順に多く出現する。
もう一度言うが、この階層は55階層よりもワンランク強いモンスターがほとんどだ。
対戦するモンスターが全てタフになっているから、今まで以上に心してかかってくれ。
戦闘のフォーメーションと雷魔法を使うことは今までと変わらない。
アミルの方から、何かあるか?」
「恐らく、フロックフラッグ、トータルタートル、ゼリースライムの順に移動が速いはずです。
各個撃破も考えましょう」
「そうだな。相手を見てから、前に出るか待つか考えよう」
ここからが、本番だろうな。
「じゃあ、始めるぞ」
全員が頷くのを確認して、探索を開始した。
クーラタルは地図があるので、ボス部屋までの最短と思われる経路で進む。
初戦の相手はフロックフロッグ四匹とトータルタートル二匹か。
フルコースだな。
「前にフロックフロッグ2、トータルタートル1、後ろも同じで計六匹いる。1番だ」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
トータルタートルをやや置いてきぼりにして、フロックフロッグが近づいてきた。
オリビアがやや前に出て中央で待ち受け、両翼にヴィルマとイレーネが配置につく。
俺とアミルは三人の間の後方に、槍を持って援護できる位置に陣取った。
相手がやや近づいてきたところで、
(サンダーストーム、サンダーストーム)
(状態異常耐性ダウン)
雷魔法二発を放ち、博徒のスキルをイレーネの前のフロックフロッグにかけた。
麻痺したのは見当たらないな。
オリビアは相変わらず槍二本で、器用に自分の目の前のフロックフロッグを足止めしながら、両翼の援護までしている。
俺とアミルも間から槍を突き入れて、両翼の援護に回る。
イレーネの前のフロックフロッグが突進してきた。
突進というか飛びつきか?
彼女は軽く躱して・・・・・・その先にいるのは俺だよ!
飛び込んできたフロックフロッグに槍とデュランダルを使ってカウンターで攻撃して、なんとか突進を止めた。
空いた場所から入ってきたフロックフロッグとイレーネが相対したのが見えた。
こちらは任せたということか。
(オーバーホエルミング)
ボーナス防具のおかげで毒化しないから、遠慮なく斬撃を連続でかます。
煙にする前に、先に石化したか。
本当にタフだな。
彫像となったフロックフロッグの前に出て、オリビアの対峙しているフロックフロッグの側面に回る。
(オーバードライブ)
(状態異常耐性ダウン)
博徒のスキルをかけた上で状態異常に追い込もう。
スローモーションとなった魔物に硬直のダマスカス鋼剣の連打を叩きつける。
デュランダルも振り回して、斬撃をひたすら叩きつけると・・・・・・煙に変わった。
オリビアが結構、ダメージを与えていたのか。
オリビアは更に前に出て二匹のトータルタートルを相手にし始めた。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
(状態異常耐性ダウン)
イレーネの前のフロックフロッグに博徒のスキルをかける。
この通路の広さだと、なかなか窮屈な戦いだな。
ヴィルマの前にいるフロックフロッグは麻痺になっているようだ。
彼女とアミルが剣と槍で滅多打ちしている。
イレーネの前のフロックフロッグが石化したので、彼女はオリビアの前のトータルタートルの側面に回って、硬直のエストックを連打し始めた。
トータルタートルの首がスッと少し縮んだか思った瞬間、首を急激に伸ばして噛みつき攻撃をしかけてくる。
「よっと~♪」
オリビアはトータルタートルの顎の中に槍先を突っ込んで、噛みつき攻撃を余裕で止めた。
そのままジリジリと力比べをしながら、右のトータルタートルに槍の連続攻撃をかましている。
オリビア、無双状態だな。
攻撃の機会を失ったオリビアの前のトータルタートルはイレーネが連続突きで石化させた。
人数的には有利なのに、石の彫像が多過ぎて、攻撃のフォローができない。
動いているモンスターも、石化したモンスターを攻撃はせず迂回しようとするので、こちらも二対一に持ち込むのがやっとだ。
右を向くと、ヴィルマの前にいたフロックフロッグも石化したので、残りはトータルタートル一匹だけだ。
手持無沙汰になった俺は仕方なく、彫像をデュランダルで叩きまくる。
残り一匹だし、雷魔法を使うのも勿体ないよなぁ。
最後の一匹も石化したので、後は削って終わりだ。
索敵スキルで周囲を警戒しながら、皆でひたすら彫像を砕きにかかった。
戦闘に危なげない要素はなかったと思うが、今後はどうだろう。
やがて、全てを煙に変えて、ドロップ品の止血剤4つとソフトシェル2つを回収。
今更だけど、トータルタートルのドロップ品って、ガマの油なのかな?
なんか液状だし。
「今回の相手はどうだった?」
「スライムより楽しい!」
「カエルが意外にすばしっこくて回避の練習になる!」
「噛みつこうとしても無駄ぁ~♪」
「さすがに、この階層だとタフですね」
多数決で楽しいという結果のようだ。
まだ、うちのパーティーには余裕がありそうだが、63階層を越えるとどうだろうか。
64階層になったら、最大出現数が7匹になる。
通路の幅の制約で対峙できる相手のモンスターの数も限られるから、66階層まではこのままいけるだろうか。
63階層が威霊仙の階層だから、そのボス戦をクリアできたら改めてどうするか考えるか。
その後も、地図に沿って探索を進めるが大きな事故もなく、戦闘をこなしていく。
ゼリースライムよりは遥かに戦い甲斐のある相手で、前衛の三人組もご満悦だ。
午前中だけでは、当然ボス部屋に辿り着ける訳もなく、探索は終了となった。
ワープゲートを開いて、自宅の玄関に繋げる。
イレーネ、ヴィルマ、オリビアの三人が次々とゲートを通って帰宅していく。
最後にアミルとゲートを通って、玄関へと出た。
「ご主人様、戦闘は順調だったと思いますが、さきほどから溜息が多いですね」
「そうだな・・・・・・先の事を少し考えてしまってな」
アミルは俺の表情をよく見てるなぁ。
玄関で靴を履き替え、廊下を通って二人で二階へ上がる。
アミルの部屋の前で立ち止まり、話を続けた。
「心配事ですか?」
「心配事というほどではないのだが・・・・・・いや、心配事なのかな。
67階層以降の戦いのことを考えてしまってな。
まだ、63階層もクリアできていないので、先の事を考え過ぎかもしれないが」
56階層をクリアした時も感じた不安が、今日になっても払拭されない。
「56階層以降になってから、モンスターがタフになっているのだろう?
67階層以降になれば、さらにタフになるのが予想される。
今は状態異常にすることに頼った戦い方で、それが通じなくなる時がくるのかどうか。
戦いが長期化すると、挟み撃ちに遭う可能性があるからな」
「確かに石化することが多くて、状態異常にする前に倒してしまうのはめっきり減りましたね」
今は普通のパーティーよりは楽に戦っているとは思うけど、この先も同じである保証はない。
「まあ、最悪は逃げることも視野に入れているのだけどね。
迷宮ボスとの戦いでも練習したけど、あれを実戦すれば大怪我する前に退却できるから」
「普通はダンジョンウォークでは逃げられませんけど、ご主人様のワープなら可能ですからね」
そう、最悪ケースを想定したセーフティネットは確保してある。
いざとなれば、オーバーホエルミングとオーバードライブをはしごでかけて、無理やり倒す選択肢もある。
相手をある程度減らせば、逃走は楽になるはずだ。
できれば避けたいのだけどね。
「そして気になっているのは、状態異常付与だけでなくレベルの件だ」
「レベルですか?
普段はご主人様しかレベルが見えないから、あまり意識してないのですが、
レベルの上がり方が良くないのですか?」
そうだよなぁ。俺しか見えないので気付きにくい。
「レベルの上がり方は悪くない。むしろ順調なんだ。
それが逆に懸念点になっている」
「えーと、どういうことでしょうか?」
レベルの概念なんてゲーム脳でなければ理解できないかもしれない。
「今、俺の主要なジョブはLv88で、アミルも探索者や鍛冶師はLv86なんだ。
レベルは階層に30を加えた値までしか成長させられないのが、迷宮でのルールのようだ。
今、58階層だからLv88までしか成長させられないといった感じにな」
「はあ、・・・・・・なるほど?」
問題はこれからだ。
「で、仮に69階層まで探索して成長させたらLv99まで上がると思うけど。
Lvの成長限界って、恐らくLv99なのではないかと思っている」
「探索者のLv99ですか?なんだか夢のような話をされているような。
聞いたことない話ですし」
そうなのかなぁ?探せばいそうな気もするけど。
「つまり、69階層近辺までいくと、ジョブの成長が止まる可能性があるということだ。
一方で迷宮のモンスターは67階層、78階層を越える度にワンランクずつ強くなっていく。
こちらの成長が止まるのに、モンスターだけが強くなっていくのに焦りを感じているんだ。
実際に、Lv99近辺まで成長して、どこまで強くなっているか分からないのだけどな」
「なるほど、成長が止まるのですね。
私はご主人様のおかげで、探索者のLv10だった頃よりも、Lv86まで成長した時の方が、
体が強くなっている実感はあるのですが。
でも、そういえば、最近は成長をあまり感じられなくなっているかもしれません」
Lv80とLv86の違いなんて、俺も自分のジョブで実感できなかったから当然だろうな。
「なので、成長が止まることを前提に、何か強くなる方法を考えなければと思っているんだ。
ただ、あまり良いアイディアが見つからなくてな。
考えているのは新しい強いジョブを見つける、装備品を強化する、新しい戦い方を見つける、
まあ、口で言うのは簡単だが、どれも難しいだろうなと思っている」
「そうですね。
今、取得しているジョブでも結構強力なジョブですし、
複数スキルを融合した装備品を使っています。
これ以上というのは・・・・・・隻眼のジョブが扱う装備品なら可能性はありますが、
私が隻眼のジョブを取得できるのも、かなり先でしょうし」
おっと、アミルに申し訳なさそうな顔をさせてしまった。これはダメな方向だ。
「アミルが隻眼のジョブを取得できないことを気にする必要はないぞ。
お前は今でも十分以上に俺達のパーティーやタケダ家に貢献しているのだから。
ミラも含めてな。
それにクーラタルの迷宮も限りなく上を目指している訳でもない。
どこかで立ち止まっても構わないと思っているからな。
まずは、威霊仙の階層をクリアして、そこからまた方針を見直すと思う」
「そうですか・・・・・・そうですね。まずは目の前のことを一つ一つ片づけますね」
俺が大きく頷いたので、アミルにも少し笑顔が戻ったか。
危ない、危ない。
当主の俺が不安に思っていることを強調し過ぎて、アミルに心配をかけてはダメだな。
「まあ、何かあれば、みんなに相談するから、みんなで解決していこう」
「はい。分かりました」
笑顔になったアミルが自室に消えるのを待って、俺も自分の部屋へと戻った。
・・・・・・
昼食が始まると、エネドラが俺に話しかけてきた。
「旦那様宛に商人ギルド経由で伝言が届いております。
送り主はパミラ様という方のようですね」
「パミラ様?・・・・・・どこかで聞いたような」
ターヘラで翡翠を取引していたのは、マリアさんだったよな。響きは似てるが別人だ。
あっ、思い出した。
隻眼のバルドルフの奥さんで高レベルの鍛冶師の女性が確か、そんな名前だったような。
食事を終えて、伝言の内容に目を通す。
えーと・・・・・・はあぁ?
簡単に言うと、
帝都のフランツ鍛冶師協会長を
ドブローのワーレン協会長の
ミラちゃんも是非、連れてきてください。
おかしい。丁寧な言葉で記載されているのに、行間から恐怖を感じてしまう。
今日、伝言をもらって今晩参加しろとか、かなりの無茶振りだ。
フランツ会長もワーレン会長も帝都とドブローの偉い人のはずなのに。
でも、伝言の手紙からは欠席を許さない圧力を感じる。
そして、何故、パミラさんはミラを知っているのだ?
面識はないはずなのに。
まさか、妹弟子にする気ではないだろうな・・・・・・怖ろしい未来が脳裏に浮かんできた。
ただ、パミラさんの申し出を断って、
もし、欠席しようものなら、バルドルフに裏切り者呼ばわりされそうな気がする。
帝都のフランツ会長宛の招待状まで同封されていた。
とりあえず、これを会長に渡そう。
断られたら、事務方を丸め込んで拉致するしかない。
まずはエネドラに話を通すか。
「急な話だが今晩、ドブローの隻眼様の家で開かれる懇親会へ参加することになった」
「旦那様、それは重要な会のようですね。いってらっしゃいませ」
本当は行きたくない気もするのだが。
「なので、今日は夕飯は食べられない。
あと、何故かミラも誘われているので、ミラも食事はドブローで食べることになる」
「なるほど。鍛冶師繋がりですね。承知いたしました。皆に伝えておきます」
どこがどう繋がっているのか分からないが、連れていくしかない。
ミラは今日は自宅にいるはずなので、後で二階の作業室で声をかけよう。
・・・・・・
ミラに今晩の懇親会の出席を依頼して、俺は帝都の鍛冶師協会へと移動。
受付の見知った事務方の男に、隻眼関連で至急伝えなければならない事項があると申し出た。
ついでに、前回受けた二度目の作業委託契約の納品もあることを伝える。
フランツ会長からの二度目の手紙もバルドルフに渡して受領票を預かってきたので、それも事務方へ渡した。
そのまま、直ぐに会長室に案内されることに。
「これを言付かってきました。
会長からの手紙を渡したところ、
奥様であるパミラ様からフランツ会長を今晩の懇親会にお招きしたいので、
是非連れてきてもらいたいと依頼されました」
「パミラが?」
パミラさんの紹介状を渡すと、胡散臭げな顔をされた。
呼び捨てにするということは、面識があるということか。
「分かった。参加しよう。俺はバルドルフの住処を知らないので、夕方迎えにきてくれ」
「承知しました。これで、手紙の返事も渡せたので、役目が果たせてホッとしました」
フランツ会長の手紙をバルドルフに渡すことと、返事をもらってくることで作業委託契約の報酬が増えるから、便乗させてもらおう。
それにしても、ごねられなくて良かった。
バルドルフと話をする機会を得られるから、出席するしかなかったのかもしれないが。
ついでに、ドブローのワーレン会長がルッソの三十年物を使って、バルドルフを懐柔していたことを伝えた。
帝都の会長なら、今晩までに用意できるだろう。
それがあるとないとでは、パミラさんの心証が違うかもしれない。是非、持ってきてほしい。
言いたいことは全て伝えたので退室させてもらった。
同行してくれた事務方の男に、この後の作業委託契約の納品を頼むことにした。
その後は、いつも通りの怒涛のアイテムボックス操作作業。
ダマスカス鋼のプレートメイル30個、ダマスカス鋼の盾30個、ダマスカス鋼の額金60個をひたすら作業テーブルの上に取り出して、検品をしてもらう。
その後は報酬のダマスカス鋼等をひたすら収納。
誰かに頼もうと思っていても、つい自分で作業してしまうのだよなぁ。
まあ、今回は飲み会の誘いのついでだから仕方ないか。
そして、そのまま3回目の作業委託契約の締結も実施。
作業に必要なダマスカス鋼、革、板の鍛冶素材をひたすらアイテムボックスへ放り込む。
帝都での用事は全て終わったので、クーラタルの自宅へと戻ることにした。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/4/6(月)の予定です。