異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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 拙作をいつもお読みいただき、感謝しております。
 今回はちょっとルビが多いので読みにくいかもしれませんが、お付き合いいただければと。


082.和解?

 クーラタルの自宅に戻って、エネドラに帰宅を報告。

 

「旦那様、お時間があるようでしたら、

 私とヘルミーネとで選んだ購入奴隷候補の面談に行きませんか?」

「そうだな。面談するなら早い方が良いだろう」

 エネドラが差し出したリストを確認しながら、相槌をうつ。

 

 有望な者は直ぐに売れてしまうかもしれないからな。

 リストには男性3名、女性4名の面談時のメモが記載されている。

 戦闘職が4名に後方支援が3名か。

 

「もし、我が家に加えるとしても、住まいは当面の間はザビルになるよな。

 クーラタルの邸宅は増築工事が終わるまでは、空き部屋がもうほとんどない。

 ザビルの方はまだまだ部屋が空いてるからな」

「増築工事もある程度進めば居住できる部屋ができるでしょうが、

 今の工事の進捗ではまだ難しいでしょう。

 後方支援メンバーの所属は恐らく人手が不足しがちなザビルの方になるかと。

 戦闘メンバーの方は旦那様にお任せします」

 まあ、戦闘奴隷の方はマテウスとレドリックで相談してもらうことになるだろう。

 

 ザビル側の強化を優先すべきだとは思うが。

 

「では、出掛けるか」

「はい。お供いたします」

 エネドラと二人だけで外出なんて久しぶりだな。

 

 と思っていたら、護衛にマヤが付くらしい。

 マヤは護衛の機会があまりなかったので、経験を積ませるためだ。

 狼人族で更に大柄なマヤは、見た目という意味では護衛にピッタリだったりする。

 

 三人で帝都、ドブロー、ドホナの順で奴隷商館を巡って、面談することにした。

 

・・・・・・

 

 三か所の街を回ったが、事前に選定していた候補の一人は売約済になっていた。

 まあ、我が家とは縁がなかったということだな。

 

 残りの6名を購入することにした。

 今回は3割引のスキルをセットさせてもらい資金を節約だ。

 6名とも死後解放でエネドラが相続することにして、後で所有者変更が必要ならカラダンにやってもらうことにする。

 

 

 戦闘職は剣士1名、探索者1名、巫女1名。

 

カイ(狼人族 ♂ 21才 奴隷)

剣士Lv19

 

レジーナ(人間族 女 19才 奴隷)

探索者Lv11

 

ジゼル(猫人族 ♀ 20才 奴隷)

巫女Lv10

 

 後方支援は商人1名、薬草採取士2名。

 

ダフネ(猫人族 ♀ 22才 奴隷)

商人Lv12

 

エルザ(人間族 女 20才 奴隷)

薬草採取士Lv9

 

ノーラン(人間族 男 22才 奴隷)

薬草採取士Lv10

 

 全員、性奴隷非承諾で3割引が効いて、手数料込みで合計で60万ナール弱だった。

 クーラタルで運用している手持ちの金が200万ナールを割った。

 また稼がないとな。

 

 それにしても、3割引を使ったとはいえ、一人10万ナールなのか。

 

 カラダンが言っていたことが思い出された。

 盗賊が跋扈(ばっこ)していたりして、世の中が荒れると奴隷の発生頻度が上がり、販売金額が安くなっていく傾向があると。

 今がその時期なのか、こちらの世界観がずっとそうなのかまでは分からない。

 

 もちろん、魔法使いや竜人族の奴隷は例外らしい。

 一般的な奴隷の命の金額が安いということだ。

 

 ちなみに帝国の奴隷規則では、戦争奴隷や重罪の犯罪奴隷には性奴隷の選択権がないらしい。

 ただ、一般的な奴隷であっても、結局は売れ残りそうになると鉱山等の厳しい労働環境に追いやられるので、性奴隷を本人了承の下に選択するのだそうだ。

 それは事実上は(裏技を使えば)選択肢がないのと変わらないだろうと思い、酷い話だと思ったが、こちらの世界では仕方がないことらしい。

 

 ともあれ、我が家に加わる以上は建前上の話ではなく、衣食住と労働環境には配慮したい。

 

 六人はザビルに連れていき、タケダ家の所属ということでカラダンに引き渡した。

 部屋がザビルにしか空きがないので、現状は致し方ない。

 ベッドなどの家具類はザビルの倉庫に予備があるので、自分達で準備させる。

 男二人、女四人だから3部屋あれば足りるだろう。

 

 教育はミシェルがやるそうだが、手が足りなければクーラタル側から人手を出すことをエネドラが申し出ていた。

 ジョブの育成方針は戦闘奴隷の方は既存ジョブを生かすと思うが、マテウスに再度面談をやってもらうとのこと。

 後方支援の者はカラダンとミシェルの方で面談して決めるそうだ。

 

 決まったらジョブ育成は俺の方で支援するので、報告をお願いした。

 

 

 そして、いよいよクララを奴隷商人として、ザビルの商人ギルドで登録するらしい。

 クーラタル側にも正規の奴隷商人がいると便利だって話だったが、実行に移す時が来たのか。

 

・・・・・・

 

 遅刻厳禁なのでミラを連れて、早めに帝都の鍛冶師協会へ行くことにした。

 受付で先ほど会ったばかりの事務方の男に会長を迎えにきたことを伝える。

 

「これを・・・・・・」

「これって、ひょっとしてルッソ?」

 彼は苦笑いしながら頷いた。さっそく、ルッソを調達してきたらしい。

 

 持つとそれなりの重さだ。

 いくらぐらいの金額なのだろうか。

 ちょっと興味があるけど、訊く訳にもいかないよな。

 お得意様価格かもしれないし、そもそも我が家で購入する予定はない。

 

 ルッソという言葉を聞き、木箱を見てもミラからは特に反応はなかった。

 特に酒が好きということではないのだろうか。

 前回は気づいたら酒を飲んでいて、気付いたら隻眼のバルドルフにヘッドロックをしていた。

 今日は彼女の暴挙を止めるのが、俺の重要な役目の一つだ。

 

「ご主人様、私が持ちますけど・・・・・・」

「だ、大丈夫だ。これは俺が頼んだものだから、俺が持っていくことにする」

 この娘から、なるべく酒を遠ざけるべきだろう。危機回避の第一歩だ。

 

 フランツ会長が来たので俺のパーティーに入ってもらい、フィールドウォーク用の壁からザビルの冒険者ギルドに移動。

 ギルドを出て、バルドルフ邸に向かった。

 

 途中、無言という訳にはいかないので、雑談を試みる。

 

「今日はドブローのワーレン会長も招いてるみたいですよ」

「あいつもか?」

 あいつ呼ばわりするぐらいだから、知り合いなのだな。

 

 さすがは鍛冶師協会の会長、顔が広い。

 

「あいつとは昔は同じパーティーで迷宮に入っていたこともある。

 バルドルフもパミラもだがな」

「そうだったのですか。広いようで狭い世界ですね」

 昔馴染みが、みんな出世して偉くなったということなのか。

 

 しかし、それだと隻眼のバルドルフとフランツ会長、ワーレン会長でパミラさんを巡って恋のさや当てなんて起きていたのではないか?

 それぐらい、パミラさんは器量がありそうだが。

 

 酒が進んで盛り上がってきたら、それとなく確認してみるか。

 

 やがて、バルドルフ邸に着いたのだが・・・・・・玄関の前にバルドルフとワーレン会長がいる。

 鍛冶師協会の会長ともなれば、出迎えが必要なのか。

 

「よう」

「遅いぞ!」

「まだ明るいだろうが!」

 VIPを出迎えている雰囲気ではないが、気安い関係なのだろう。

 

 隻眼のバルドルフと帝都のフランツ会長は揉めていたという噂も聞いたけど、険悪ということでもなさそうだ。

 

「お前、その木箱、まさかルッソじゃないだろうな?

 馬鹿っ、すぐに隠せ。俺達を殺す気か?」

「・・・・・・?」

 前に手土産で持ってきた時には喜んでいたはずだが。

 

 

(ガチャッ)

 

 ドアが開くと二人のドワーフの女性が・・・・・・一人はパミラさん、もう一人は誰だ?

 

(鑑定)

 

 

パミラ(ドワーフ族 ♀42才)

鍛冶師Lv73

装備 革の靴

 

 

オリガ(ドワーフ族 ♀38才)

鍛冶師Lv67

装備 竜革の靴

 

 

 パミラさんだけでなく、このオリガという女性鍛冶師もレベルが高い。

 バルドルフのハーレムメンバーか?

 

どんがおごにとっかっでがきへ(そんなとこに突っ立ってないで)あさきかみきさたひ(中に入りなさい)

「?」

 何を言ってるか、全然分からん。

 

 分かっているのは、酔っぱらっているということだけだ。

 なんで、始まる前からこんな状態なんだ?

 既に始まっているということなのか。

 

「フランツ会長、パミラさんの言ってることが分かります?」

「俺が分かる訳ないだろうが」

 フランツ会長だけでなく、ワーレン会長も首をかしげている。

 

「中に入れって言ってるぞ」

「今の言葉で意味が伝わるって・・・・・・?」

 バルドルフは『異世界言語(全言語)』の上位スキルでも持っているのか?

 

 少なくとも俺のスキルでは翻訳してくれなかったぞ。

 ドーリットルが決闘前にヴィルマに切れて発した奇声も翻訳してくれなかったから、本当に訳分からない言葉の時は翻訳スキルも有効ではないはずだ。

 

「えーと、こちらの方は?」

「俺の母ちゃんだ」

 ワーレン会長の奥さん?

 

 十六歳も年が離れているけど・・・・・・犯罪じゃない?

 パミラさんとバルドルフは九歳しか離れていないからセーフ?余計なお世話だが。

 

 

だんがなはかりだまみご(あんたらが入らないと)こだであどけだいひげひょう(お酒が飲めないでしょう)!」

「・・・・・・」

 ワーレン会長の奥さんも、既に泥酔状態のようだ。大丈夫なのか?

 

「早く中に入って酒が飲みたいっていってるぞ」

「・・・・・・」

 本当にそんなことを言ってるのだろうか?

 

 既に酒を飲みまくっているように見えるけど、まだ飲みたいのか。

 

「早く入らないと、ぶん殴られるぞ」

「わ、分かりました、お邪魔します・・・・・・」

 俺が玄関をくぐると、続いてミラも家の中へ。

 

 本当に大丈夫なのだろうか?

 

・・・・・・

 

 何故、こんなことになった?

 

 俺はバルドルフ邸の厨房で『竜皮』を火で焙っている。

 ペッパーを軽くまぶして揉みこんで、串に刺した『竜皮』を火にあてて軽く焼いている。

 パリパリとした音が食欲をそそる。

 自分で言うのもアレだが、結構美味そうに焼けていると思う。

 

 目の前にはムッツリとした表情のバルドルフが、俺が提供した『竜肉』を切れ味の鋭いナイフで丁寧に切り分けている。

 あのナイフは隻眼の装備品生成で作成した特別製なのだろうか。

 鑑定しても、ただ『ナイフ』としか表示されないから、多分違うと思うけど。

 柔らかくて手でちぎれる『竜肉』とはいえ、なんの抵抗もなく綺麗な断面でスルリスルリと次々に切っている。

 道具ではなく、腕前が良いというか慣れているのだろうか。

 

 その横ではワーレン会長とフランツ会長が、俺とバルドルフが作った酒の肴を丁寧に皿の上に盛り付けている。

 バルドルフはともかく、残りの三人は招待状をもらって訪れた客ではなかったのか?

 それが、何故に厨房で飲み屋のスタッフのようなことを。

 

こたへろあなたこらいかひお(お酒も肴も足りないよ)~、ごんごんおっえひけ(どんどん持ってきて)!」

 客間の方から何やら叫び声が聞こえた。あれはオリガさんの声かもしれない。

 

「なんか叫んでいるみたいですけど?」

 言ってることが分からないから、バルドルフの方に視線を向ける。

 

 あの三人の話を翻訳できるのはバルドルフだけだ。

 

「酒と肴を持ってこいと言ってるぞ」

 そうなのか。まあ、そうだろうな。

 

 始まって直ぐの間は俺達四人も客間で飲み食いしようかと思った。

 

 止める間もなくミラが開始1分ほどで二人と同化して(泥酔状態になり)、身の危険を感じて逃げた先が厨房だったりする。

 俺の後に続いて、三人が次々と避難してきた。

 酒の肴を持ってくると称してだ。

 凄い勢いで酒がなくなっているのを尻目に立ち去った。

 あの勢いなら、直ぐにでも酒は尽きるだろう。

 ミラも結構食べる方だから、テーブルに乗っていた程度の肴では物足りないと思う。

 

 また、あの修羅場に行きたい奴がいるか?

 

 ワーレン会長が俺に向けて皿を差し出してきた。

 

「私が行くのでしょうか?」

 会長は俺と目を合わせようとしない。

 

「俺は肉を切っているから」

 

 バルドルフはやけにゆっくりと肉を切り始めた。

 さっきまでスパッ、スパッと手際よく切っていただろうが!

 

「フランツ、お前が用意したルッソなんだから、お前が持っていけ。

 ユキムラ、お前は肴を持っていけ。

 なんのために、そんなに手がたくさんあると思っているんだ?

 こんな時のためだろうが」

「・・・・・・」

 バルドルフは明後日の方向を見ながら、俺とフランツ会長に進言してきた。

 

 確かに俺の四本の腕をもってすれば、四枚の大皿料理を一度に運ぶことができる。

 だからって、そんなことの(飲み屋の給仕の)ために、鬼人族で異世界転生した訳ではない。

 

「行くぞ。きっと今行った方が後から行くより楽なはずだ。

 次はあいつら二人に行かせようぜ」

「・・・・・・」

 確かに後になればなるほど、酷い状態になる気がしないでもない。

 

 仕方なく、テーブルの上にあった大皿料理四枚を四つの手で持ち上げた。

 確かに便利な四本腕だ。

 普段、自宅の食堂でも配膳や片付けをさせてもらえないから、便利さに気付かなかったぜ。

 

 

たりひとぎんへいぜ(鍛冶師の人生で)ちひだんざいびかとろをふかえたふ(一番大事なことを伝えます)

 ほうぎきんをふへけふひたかっへほ(装備品を全て売り払っても)おりひいおたへをとるぜひ(美味しいお酒を飲むべし)~!」

 パミラさんが上機嫌で何か叫んでいる。言ってることは全く分からない。

 

らまきと(あたしも)らまきとひたへせ(あたしも言わせて)

 がんたをぞへいりょうたんひぶいたさっへほ(旦那を奴隷商館に売り払っても)おりひいおたへをとるぜひ(美味しいお酒を飲むべし)~!」

 オリガさんもパミラさんに呼応するように叫び声を上げた。

 

 何を言ってるのか分からないが、とても上機嫌のようだ。

 

 

えんひょうひかいたるぅ(勉強になりますぅ)~!」

 ミラも叫び声を上げたが、この三人は会話が成立しているのだろうか。

 

 素面の俺には酔っ払いの行動は理解できない。

 

 

「酒の肴をお持ちしました」

 

 もう、酒場のホールスタッフのような振る舞いだ。

 なるべく気配を殺して、役目を果たしたら速やかに立ち去るべきだろう。

 

 俺の言葉に合わせるように、パミラさんとミラの間からフランツ会長がすかさずルッソを置いて立ち去ろうとした。

 俺を囮に隙を突こうというのか?

 さすが鍛冶師協会の会長、世渡りが上手い。

 

(ガシッ・・・・・・)

 

「うっ・・・・・・」

 

 どう見ても軽く掴んでいるようにしか見えないのに、パミラさんの左手でフランツ会長の動きが完全に止められた。

 

(ガシュッ・・・・・・)

 

「ぐぇっ・・・・・・」

 

 ミ、ミラ・・・・・・お前がヘッドロックをかましているのは、鍛冶師協会の会長だぞ。

 多分、帝国の鍛冶師組織の中では五本の指に入る程度には偉い人だぞ。

 

ほひきいほたへをらいだろう(美味しいお酒をありがとう)~♪」

 

 そんなことにお構いなく、ミラはフランツ会長の頭を抱えたまま、左右に振り回している。

 フランツ会長はミラにヘッドロックを極められたまま、身動きが取れない。

 

 ミラのドワーフ族にしては豊満な胸の感触が堪能できて羨ましいと思う反面、直ぐにでも立ち去りたい気分だ。

 

 隻眼のバルドルフに続いて、帝都の鍛冶師協会会長もミラの毒牙にかかった。

 これであとは・・・・・・皇帝をヘッドロックで仕留めたら、偉業達成だろう(三冠王)か?

 今のところ、帝国解放会の入会式にミラを連れていく予定はないけどね。

 まだ入会試験に合格してもいないのに言うのもアレだが。

 

 とりあえず、ミラの胸に顔を埋めて視線がこちらに向かないのをいいことに、会長を置き去りにすることにした。

 

 厨房への撤退作戦は見事に成功。

 

「フランツは?」

「なんか、パミラさんとうちのミラに捕まっているようです」

 捕まっているというか、掴まっているというか、極められているというか。

 

「そうか、パミラに掴まったのなら、暫くは戻ってこれないだろうな」

「助けにいかないのですか?」

 もはやフランツ会長の犠牲は確定と語るワーレン会長に救出作戦の是非を問う。

 

「パミラは泥酔凶女(ドランククイーン)の異名を持つ猛者だぞ。救出は絶望的だ」

「なんか、凄い異名ですね」

 酒豪列伝みたいな感じか?酒に弱そうだから酒豪ではないか。

 

「迷宮の中での異名じゃなくて、迷宮外の異名?」

「パミラは片手でオリハルコンハンマーを持ちながら、千鳥足で向かっていって

 モンスターに全力で振り下ろすんだよ。

 その様子を見た者が付けた異名が泥酔凶女(ドランククイーン)だ」

 なんか、凄い技なのか・・・・・・酔拳みたいな?流石に迷宮では飲んでないか。

 

「ん?ハンマーって片手武器でしたっけ?」

「両手武器に決まっているだろうが!」

 いや、そんなこと俺に言われてもさぁ。

 

 なんか、いろいろと凄いな。

 

「バルドルフさんにフランツ会長、ワーレン会長って、いつ頃からの仲なのですか?」

「パミラとオリガともう一人の探索者と6人で、新米の頃からパーティーを長く組んでいた」

 そうなんだ。

 

 じゃあ、今日は懇親会というより同窓会だったのか。

 俺とミラは部外者だし、盛り上がってるのは女性陣三人だけだが。

 懇親会や同窓会の役目は果たしていない気もするな。

 

 バルドルフが用足しに外したところで、ワーレン会長に疑問をぶつけてみる。

 

「バルドルフさんとフランツ会長って喧嘩したんですかね?

 揉めたのでドブローにバルドルフさんが来たのだと伺ったのですけど、

 実は仲が悪かったりします?」

「ん?別に仲が悪かったとかはねえな。

 昔はパミラを落とそうと裏で何かあったかもしれんけど。

 別に険悪になったりはしなかったと思うぞ」

 やっぱり恋のさや当てはあったのか。

 

「それで、パミラさんをバルドルフさんが射止めたと?」

「いや、飲んだパミラにバルドルフが襲われたらしい」

 ぶっ・・・・・・バルドルフってパミラさんに手籠めにされた(やられちゃった)の?

 

 なんかイロイロと大変なパーティーだったのだな。

 そういえば、オリガさんも泥酔状態だったな。ワーレン会長の奥さんだったっけ?

 

「言っておくが、俺はちゃんと母ちゃんを自分から口説いたぞ」

「はあ」

 正直、男の恋バナなど興味はない。

 

 じゃあ、なんで隻眼のバルドルフは帝都から出奔したのだろうか。

 

 

 フランツ会長がようやく、厨房に戻ってきた。

 俺に恨みがましい視線を向けてきたが、俺のせいではない。

 

 その後も男性陣は黙々と酒の肴を用意している。

 女性陣が飲み会をやっている裏で、厨房で男性陣が肉を焼いているという構図。

 別に男が飲んで、女が料理の用意をするなんて古い因習だと思う。

 だが、俺はもてなされるはずの客だったのでは?・・・・・・と思っただけだ。

 

 あれっ、俺は何しに来たのだっけ?・・・・・・と思わなくもない。

 ひとしきり結構な量の竜肉と竜皮が用意できた。

 

 女性陣からお呼びがかかるまでは、客間には行く必要はない。

 わざわざ、虎の尻尾を踏みにいく者はいないのだ。

 

 フランツ会長がボソッと呟いた。

 

「バルドルフ、帝都に戻ってくる気はないか?」

「ああぁ、そうだな。そろそろ戻ろうかと思う」

 帝都で揉めた原因は、鍛冶師協会の事務方の者も教えてくれなかったな。

 

「なんの理由で喧嘩してたのか、もう忘れちまったよ」

「そうか、俺もなんだか忘れたよ」

 これで和解したことになったのだろうか。

 

 

 ストックホルム・シンドロームって、奴なのだろうか?

 でも、あれは誘拐する加害者と被害者が同じ目的を目指す(一緒に逃げる)うちに仲良くなるという話か。

 ここにいるのは、女性陣から難を逃れようとする被害者だけのような気もする。

 同病相憐れむってことか?・・・・・・まあ、どうでもいいか。

 

「そろそろ、持っていった方がいいのじゃないか?」

「バルドルフ、ワーレン、次はお前らの番だ」

 ワーレン会長は諦めた顔になったが、バルドルフは俺の方に視線を向けてくる。

 

「倉庫の装備品を好きなだけ持っていって構わないから、行ってきてくれ」

「はあぁ?」

 隻眼様作成の高級装備品と取引するぐらい、行くのが嫌なの?

 

 でも、あの倉庫には、もう空きスロットの多い武器はなかった気もするのだが。

 

「この前、全部、棚を開けてなかっただろう?

 お前の見てない武器はまだまだあるぞ」

「まあ、四本腕の真価を見せる時なのかな・・・・・・」

 せっかく隻眼邸に来たのに、肉を焼いただけで帰る訳にはいかない。

 

 このまま帰ったのでは、送り出してくれたエネドラにも顔向けできない。

 ワーレン会長が追加のルッソの瓶を持ち、俺が大皿料理を四つ持って客間へと向かった。

 

 向かったのだが・・・・・・女性陣三人は既に沈没していた。

 そういえば先ほどから静かだったのは、こういうことだったのか。

 飲み過ぎの状態で眠りこけるのは、危険だと思うのだが。

 

 

「これは・・・・・・どうすれば・・・・・・?」

「どうするもこうするもないだろう。

 俺は母ちゃんをおぶって帰る。

 お前は、この嬢ちゃんをおぶって帰れ」

 ミラをパーティーから外してないから、ワープでもフィールドウォークでも連れて帰れるな。

 

 外してたら、ミラが起きるまで帰れなかった。

 まあ最悪はここに泊めさせてもらって、翌朝にでも引取るだけだが。

 そういえば、万能丸って泥酔状態を回復させられるのだろうか?

 エリクサーなら一発で酔いが醒めるかもしれないが、あいにく手持ちがない。

 

 とりあえず、二人で厨房に戻って現状の説明。

 

「三人とも酔いつぶれてしまってました」

「じゃあ、これでお開きだな」

 せっかく倉庫で高級装備品を漁る機会だったのに残念だ。

 

「俺達は残りの酒と肴を飲み食いしてるから、お前は倉庫に行って好きな武器を選んでいろ」

「いいのですか?」

 酔っ払い集団に突撃するというミッションを果たしていませんけど。

 

「今回のことでイロイロと世話になったからな。

 武器でも防具でもくれてやるから、好きな物を好きなだけもっていけ」

「・・・・・・」

 マジッすか。さすが隻眼様は太っ腹だ。

 

 まあ、確かに俺が伝書鳩のように手紙を往復で運んだりしなければ飲み会は開かれなかった。

 竜皮と竜肉を持ってこなければ、二人の和解はなかったかもしれないから貢献はしたよな。

 

「では、遠慮なく」

「ああ、まだ開けてない棚を教えてやるから、付いてこい」

 竜皮を焼いて酔っ払いの相手をして、高級装備品をもらって帰るという簡単なお仕事です。

 

 後に付いて倉庫に入ると目に付いたのは・・・・・・前回はなかった大きなハンマーがある。

 

 

(鑑定)

 

いかりのオリハルコンハンマー 槌

スキル 攻撃力五倍 空き

 

 これが、泥酔凶女(ドランククイーン)様の標準装備ですか。

 既に迷宮探索からは引退したらしいけど、倉庫に武器が眠っているのね。

 それにしても攻撃力2倍じゃなくて、5倍なのか。

 これでモンスターを圧殺したのだろうなぁ。

 ハイコボルトで隻眼のバルドルフがスキル融合したのだろうか。

 

 

「おい、ここだ。この棚だ」

「あ、はいはい」

 確かにその辺りの棚は開けなかったな。

 

 バルドルフが次々と棚の扉や引き出しを開けていく。

 前回見てない場所って、結構多いのだな。

 

 どれどれ・・・・・・。

 

「じゃあ、俺達は厨房で飲んでいるから、ゆっくり選びな」

「了解!」

 俺は運び人(タクシー運転手)だから、飲むことはない。

 

 酒の肴はちょいちょい摘まんでいたから腹も激減りではないし。

 遠慮なく選ばせてもらおう。

 

 

 おおぉ、これがミセリコルデという奴か。

 原作でもエストックの上位種の片手剣と記載があった気がする。

 片手剣で場所を取らないから、棚に大量に収納されている。

 これなら、空きスロットの多い奴が見つかるかも。

 

 :

 :

 :

 

 空きスロットが5つのミセリコルデ1本と空きスロットが4つのミセリコルデ2本をもらおう。

 他には・・・・・・欲張り過ぎか・・・・・・いや、せっかくだから。

 

 オリハルコンハンマーは我が家で使う者はいなさそうだし、空きスロットが多いものがないので諦めよう。

 

 後はオリハルコンガントレットか。

 空きスロットは4つまでしかないけど、稀少だからこれにしよう。

 使いこなせるのはオリビア達竜人族だけかもしれないが。

 あとは、何かの取引用に空きスロットが1つのオリハルコンの剣をもらうか。

 

 こんなところかな。

 防具はスペースが必要で数が少ないせいか、空きスロットの多いものがないのだよなぁ。

 

 厨房に戻って、武器4つと防具1つをもらったことをバルドルフに伝えた。

 

 

「意外に欲がないんだな。もっと沢山持っていけばいいのによぉ」

「まあ、良い武器を沢山もらっても使いこなす技量がある者が少ないので」

 あまりに多くもらい過ぎて、借りを感じるようになっても困る。ここは程々に。

 

 空きスロットが5つの装備品は、そうそう手に入らないのだから、これだけでも大収穫だ。

 

「じゃあ、本当にお開きにするか」

「そうだな。俺は母ちゃんを連れて帰らなければならんから」

「おい、ユキムラ、帝都まで送ってくれるか?」

「大丈夫ですよ。鍛冶師ギルドの壁で大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。この後、まだ仕事が残ってるからな」

 結構、飲んでたように見えるけど、まだ仕事するのか。

 

 鍛冶師協会の会長も楽じゃないなぁ。

 

 ワーレン会長はオリガさんを背負い、俺はミラを背負った。

 アミルと違って、ちょっとだけ重いな。

 

「じゃあ、またな。今度は帝都で」

「おう、待ってるぞ」

 隻眼様は帝都に戻るのだったな。

 

「多分、俺の母ちゃんが送別会するぞって、お前ら二人を呼ぶと思うからよろしくな」

「・・・・・・」

 その『二人』って、バルドルフとパミラさんであって、俺とフランツ会長じゃないよね?

 

 聞こえなかったフリをしよう。

 

「それじゃあ、お世話様でした」

「おう、世話になったな。その嬢ちゃんが起きたら礼を言っておいてくれ」

 ミラはきっと起きたら、今晩のことを覚えていない気もするけど。

 

「帝都に戻ってからも、その嬢ちゃんを連れて遊びにこいよ」

「ソウデスネ・・・・・・」

 それは飲み会に連れてこいということ?また同じ惨劇が繰り返されると思うけど。

 

 まあ、行くと豪華な装備品が手に入るかもしれないから難しいところだよなぁ。

 

 バルドルフ邸を後にして、適当な木陰から帝都の壁にゲートを繋げた。

 

「じゃあ、この先は帝都の鍛冶師協会に繋がってますので」

「おう。イロイロとありがとうな

 おかげで奴が帝都に戻ることになって助かったわ」

 会長に一礼すると、彼はゲートの先に消えていった。

 

 さて、俺達もクーラタルに戻るか。

 

 ゲートを自宅の玄関に繋げて、ミラを背負って帰宅。

 

 食堂の横を通って、ミラとマヤの部屋に行こうとしたら、エネドラに呼び止められた。

 帰りを待っていてくれたのかな。

 

「エネドラ、すまない。注意していたつもりだったのだが、ミラが酔い潰れてしまった」

「あらあら。旦那様におんぶされて、ミラちゃんたら・・・・・・」

 彼女も怒ってはおらず、笑みを浮かべているからセーフだろう。

 

 ミラは開始1分で泥酔状態になり、その後の泥酔三姉妹を諫めるのは誰であっても不可能だ。

 次の機会があったとしても、同じ状態になる未来が予想される。

 

「マヤに引き渡してくるから」

「そうですね。何か食べますか?夕飯の残りが少しありますけど」

「そうか。じゃあ、少しだけもらおうかな」

 酒は全く飲んでないし、肴を少し食べただけだから、腹は減っている。

 

 ミラとマヤの相部屋を訪ねて、ミラをマヤに引き渡した。

 彼女は苦笑しながらも、ミラを介抱してくれそうだったので任せることに。

 

 食堂に戻ってテーブルで少し待つと、エネドラが今日の夕食を温め直して持ってきてくれた。

 やっぱり家で食べる食事は美味いと感じる。

 

 エネドラと今晩一緒に酒の肴を作った隻眼やら会長達の話を披露しながら、雑談に興じる。

 思えば、ベッドのピロートーク以外で、こんなおバカな話をしたのは久しぶりかも。

 

 食事を終えて彼女に礼を言い、自室に引き上げることにした。

 

 そういえば、厨房に退避していたせいで泥酔三姉妹が何を話していたかは知らないのだよな。

 

 まさか、泥酔凶女(ドランククイーン)の称号をミラに継承させるための引継をしてたりしないだろうな。

 大丈夫だよね、ミラ?

 まあ、今晩のことは彼女は何も覚えていないとは思うけど。




お読みいただき、ありがとうございました。
いつも、誤字指摘、お気に入り登録をしていただき、感謝しております。
感想、ココスキの投票等も興味深く見させていただいております。

気になっている大量の類似誤記やら性表現の見直しやらを始めているのですが、なかなか時間が取れずに今に至っております。
序章の半分ぐらいまでしか修正ができておりませんがボチボチやっていきます。

(本話で記載した武器について)
パミラの武器を『オリハルコンハンマー』という槌の種別の武器として登場させました。
Web原作でも早いうちにウォーハンマーとフレイルが出てきたので、その二つはオリハルコン製ではないだろうと解釈しました。
ですが、槌の武器ってあまり種類がないので、ウォーピック、モーニングスターだと、ちょっとオリハルコン製にするには見劣りするかなと考え、安直ですが、『オリハルコンハンマー』ということにしました。
槌の武器はあまり出番がないのですが、
こん棒(板製)⇒ハンマー(鉄製)⇒ウォーハンマー(鋼鉄製)⇒フレイル(ダマスカス鋼製)
で今のところは考えております。

『ミセリコルデ』は中世の武器では刺突剣という分類ですけど、安楽死用(トドメを刺す)の小型剣という情報もあって少し扱いをどうしようか迷いました。
原作小説では、エストックよりも上位の片手剣と記載があったので、オリハルコン製の片手剣と現時点では解釈しました。
なので最大で空きスロットは5つあるものとしております。

拙作では、あまり原作にはない装備品やボーナス装備を増やしたくないので抑え目にいこうなどと思っております。
あまり目新しい武器は登場しないかもしれませんが、ご了承いただきたく。


2章の記載をしながら戦乱でのエピソードを徐々に蓄積していることもあって、メインストーリーの進行もなかなか進まず申し訳なく思っております。
引き続き、拙作にお付き合いいただければと思います。

次回投稿日は2026/4/8(水)の予定です。
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