帝国解放会の入会試験の当日、朝早めに出てボーデの城を訪れることにした。
詰所で騎士団員に用向きを伝えると、スンナリと執務室に案内される。
ただし、俺以外のパーティーメンバー達は詰所で待つように言われた。
今日は五人ではなく六人で来ているが、入会試験なので完全装備だ。
さすがに武装した六人もの人間を執務室には通してくれないよな。
入室すると、原作の有名キャラであるエステル男爵が待ち受けていた。
エステル・エステルリッツ・アンエステラ・・・・・・確かにややこしい名前だ。
公爵が俺を出迎え、紹介してくれた。
「この者がユキムラ タケダ殿だ」
「ほう。その者がサボーを倒したという男か。
あの者は粗暴な男だったが、実力の方は我と同じく狼人族の中でもそれなりであったはず。
奴を倒すほどであれば、おそらく問題はあるまい」
原作通りの紹介だが、俺がサボーに辛勝したことは伝わっているのだろうか。
辛勝だと俺の実力も『それなり』という評価になるのだが。
『それなり』だと入会試験免除にはならないが、試験を受ける資格はあるのかもしれない。
サボー達も迷宮討伐に精を出していれば、入会試験を受けられたのだろうか。
推薦人がいるかは別として。
「タケダ殿、彼の名はエステル。今回の帝国解放会への入会試験を行なってくれる」
「ユキムラです」
「エステルだ。よろしくな」
垂れたイヌミミで、確かにセントバーナードみたいな風貌だ。
鑑定で見る限りは狼人族なので、犬人族でも狼犬人族などでもないようだ。
こちらのヴィルマが虎人族だけど獣戦士だったり、百獣王のジョブに就けるのだが、エステルはスタンダードな狼人族なのだな。見た目は犬っぽいのに。
その後、普段の役職を公爵が説明しようとして、エステル男爵に止められたり、敬語は不要だの等、原作と同じやりとりがあった。
「一応説明しておくが、帝国解放会は帝国の迷宮からの解放を目指して戦う者達の扶助組織だ。
会員になれば、迷宮からの解放を目指して日々戦い、切磋琢磨しなければならない。
主要な義務といえるのはこれだけだ」
「主要ではない義務というのは、たくさんあるのか?」
敬語不要と言われたので、対等な口調で話を進めさせてもらう。
原作と同じ規則かどうかは確認しなければならない。
「帝国解放会は全ての人達の解放を目指すのだから、他種族に対する差別は禁止だ。
他にも帝国解放会の内部で知りえたことを外に漏らすことも禁止されている。
とりわけ誰が会員なのかという情報は、外部の者に決して話さないように注意してくれ」
「外部というのは、どこまでが外部と見なされるのだ?
今は五人で探索することが多いが、もう一人加えたり、
日によって、一人二人はメンバーを代えながら探索を行なっている」
メンバー変更があるのは日常茶飯事なのだよな。迷宮討伐戦では固定メンバーだけど。
「通常はパーティーの代表者だけが入会することになっている。
代表者が入れば、他のパーティーメンバーを守秘義務で拘束することは難しくないだろう。
メンバー変更があろうと、パーティーのリーダーが代表者として責任持てば問題ない」
「なるほど」
なら、ロッジにローザを連れていくのも問題ないな。
お目付け役にアミルを同行させるべきだと思うけど。
「自分が会員であると公言することも許されない。
これは、迷宮を倒そうと戦う者に暗殺などの卑怯な手段を使われることを防ぐためだ」
「それは他国からの干渉を防ぐ意味もあるのか?」
表情が少し読み取りにくいが、エステルがニヤリとした気がする。
「よく分かっているではないか」
帝国解放会に入っている者なんて、ほとんどが貴族か、その予備軍だろう。
原作主人公だって、貴族になることを見込んでハルツ公に推薦されたのだろうし、今回の俺も同じパターンだと思う。
その国の貴族の力を削ぐため、敵対国ならやりそうな話だと思っていた。
原作の方でも暗殺防止の話が出ていたが、意図はイマイチよく分からなかった。
特定の貴族を狙うならともかく、帝国解放会の会員だから暗殺する理由があるのだろうか。
迷宮討伐しないと、概ね全ての人が困ると思うのだけど。
帝国解放会に対する反対組織が、原作ではそのうち登場するのだろうか。
迷宮解放会とか?・・・・・・帝国をモンスターに開放するための闇の組織?
今は考えるのは止めるか。
「五人と言っていたが、ユキムラは五人で入会試験を受けるつもりなのか?」
「そうだ。六人でないと拙いのか?普段は五人で戦うことが多いのだ」
今更一人連れてこいと言われると面倒だな。
今日、連れてきた六人目は試験目的ではないから。
「45階層の試験を受けるのに五人パーティーの者など、初めてなので確認したたけだ。
迷宮では自己責任なので、別に構わぬ」
「そうか。では五人で受ける」
「入会試験はどうやって行うのだ?」
「クーラタルの45階層のボス部屋に一番近い小部屋からボス部屋を目指してもらう。
途中の戦い方を見て、入会の資格がないと判断すれば不合格で終わりだ。
問題なくボス部屋に辿り着いたら、そのまま45階層のボスモンスターと戦ってもらう。
ボスモンスターとの戦闘が終わった後に合否を伝える」
一応、こちらで想定していた通りか。
「今日は試験を受けるパーティーメンバー内に探索者がいない。
俺は普段、冒険者と探索者を必要に応じて変更している。
今日は六人目として探索者を連れてきているが、その者は入会試験を受けない。
小部屋まで送らせて、その後は帰らせるが問題ないか?」
「むっ、変わったことをしておるな。
迷宮で五人の実力を判断するだけなので、構わない」
エステルにも変わり者と思われてしまった。無念だ。
アミルは今回は巫女だから、探索者をやるなら俺しかいない。
ロッジから帰る時は好きな時に帰りたいので、冒険者でいたかっただけだ。
ハルツ公がニヤリとしたのは、セルマー伯との謁見で冒険者だった俺が探索者ジョブに変更していた時のことを思い出したのかもしれない。
そして、迷宮討伐したことはハルツ公からエステルに伝えてないので、普通に45階層で試験を行うのだろう。
もっとも伝えていたとしても、実力を確かめなければ入会は認められないのかもしれないが。
「試験は今からやると思ってよいか?」
「そうだ。クーラタル迷宮の45階層のボス部屋に一番近い小部屋に来てくれ。
では先に行って待っておるぞ。ブロッケン、行ってくる」
こちらの返事も聞かずに、エステル男爵は去っていった。
貴族家の当主って、みんなセッカチなのだろうか。
「では、我々も出発しますので」
「タケダ殿の実力なら問題はあるまい。頑張られよ」
「いつも通りに戦えば合格間違いないでしょう。落ち着いて戦って下さい」
ハルツ公とゴスラー騎士団長に一礼して、退室させてもらった。
騎士団員に連れられて詰所に戻った。
「待たせたな。これから試験を行うので、付いてきてくれ」
「僕は本当に付いていくだけなのですよね」
そう、ぼやくな、レイモンド。
偽装のために連れてきただけだ。
いったん、クーラタルの冒険者ギルドに移動して、迷宮の入口へと向かう。
朝早いこともあって長蛇の列に並ぶのか。
歩いている先に、エステル達のパーティーを発見。
少し早足で歩いて、追いついた。
「おっ、早いな。もう追いついたのか」
「待たせると悪いと思ったので」
でも、結局、並ぶから時間がかかるのだよなぁ。
入口に着くと、やはり凄い列ができている。
「ユキムラ、こちらへ来い。貴族であれば、列に並ぶ必要はない。
今回は入会試験だから、特別にユキムラ達も通させよう」
「それはありがたい」
やっぱり貴族ってズルいよな。
ただ、入場料を払うのは免除されなかった。
エステル達も支払ったので、それは仕方がない。
彼のパーティーは俺達よりも先にゲートの先へと消えていった。
俺達も騎士団員に銀貨6枚を支払って迷宮に入る。
ダンジョンウォークで45階層のボス部屋に一番近い小部屋にゲートを繋げた。
一応、レイモンドに詠唱のフリはしてもらったけど・・・・・・彼の役目はここまでだ。
レイモンドは小部屋には来ず、そのまま自宅へ戻ってもらう。
彼は小荷駄隊に入れてあるので、今日はこのままパワーレベリングだ。
本日のザビル第二迷宮の探索はお休みにしてある。
レイモンド、フラウス、ドロテアは普段は迷宮にずっと入っているため、パワーレベリングができない。
今日はその経験値補填のために三人だけ集中的にパワーレベリングを行う。
特にドロテアは魔道士Lv1なので、ザビル第二迷宮では魔法使いのままで戦っている。
今日で少しレベル上げして、明日からは魔道士で慣らし運転をしてもらう予定。
小部屋でエステル達のパーティーと合流。
「来たか。ユキムラ、よろしく頼むぞ」
「こちらこそ」
右手を挙げて、エステルに応じた。
「では、先行してボス部屋を目指せばよいか?」
「慌てるな。まずは説明からだ。
この部屋からボス部屋まで戦いながら目指すので、試験は昼ぐらいまでかかる。
途中かなりの回数戦うことになるはずだ。
我も長い間、更に上の階層で戦ってきているので、何かアドバイスできることもあるだろう。
望むなら、ここからボス部屋まで助言して戦いながら、ゆっくりと進むことができる。
ボス部屋に到着したら、ユキムラ達に先に戦ってもらう。
ユキムラ達が討伐し終えたら、
我のパーティーのボス戦が終わるまで46階層の小部屋で待っていてくれ」
助言するだけで、代わりに戦ってくれる訳ではないのだよな。
「助言は不要だ。さっさとボス部屋まで行こう」
「そうか、分かった。では、好きに戦ってくれ」
四人に視線を向けると頷いている。
さて、昨日の予行演習の成果を見せますかね。
エステル達のパーティーは男爵が聖騎士で、その他に冒険者、探索者、魔道士、百獣王、禰宜という原作通りのメンバー達。
上位ジョブの割にはレベルも高い方だと思う。
こちらは俺が鬼神で、その他に獣戦士、刺客、竜将軍、巫女・・・・・・ちょっと和風な感じだな。
最近、気が緩んでいたから、念のためチェック。
(索敵)
青色の数が多い!・・・・・・何故?
うちのパーティーは当然、全員が青色だが、エステルが何故、青色なのだ?
彼以外のパーティーメンバーは当然のようにグレー。これが普通だ。
「どうした、ユキムラ?武者震いか?」
「いや、そんなことはない・・・・・・」
索敵カラーが青のエステルに話しかけられたが、別に彼からは親愛の情は感じない。
こちらを見定めようという試験官の眼だ。
気持ち悪いが気を取り直して、入会試験に集中しよう。
俺達が普段使っている武器はスキルが複数融合されているのが簡単に見破られてしまうので、スキル融合数を減らしたものを用意した。
HP吸収や攻撃力2倍はバレないだろうが、石化と麻痺などは同じ武器に融合しないようにして配慮してある。
詠唱中断が使えるのは、アミルだけになってしまったので注意が必要だ。
その分、昨日はしっかりと練習したから大丈夫だろう。
ユキムラ タケダ(鬼人族 ♂ 17才 自由民)
百鬼夜行Lv88 鬼神Lv88 勇者Lv88 英雄Lv88 遊び人Lv88 剣聖Lv88 忍者Lv88
装備
硬直のダマスカス鋼槍(石化添加、HP吸収、攻撃力2倍、空)
頑強の竜革の鎧(物理ダメージ削減、状態異常耐性、魔法ダメージ削減、空)
耐水のダマスカス鋼額金(水耐性、火耐性、風耐性、土耐性)
耐毒の竜革グローブ(毒耐性、石化耐性、睡眠耐性、麻痺耐性)
駿馬の竜革靴(移動力増強、回避力二倍、空2)
身代わりのミサンガ
アミル(ドワーフ族 ♀ 16才 奴隷)
装備
強権のダマスカス鋼槍(詠唱中断、HP吸収、攻撃力2倍)
頑強のダマスカス鋼のプレイトメイル(物理ダメージ削減、状態異常耐性、魔法ダメージ削減、空)
耐水のダマスカス鋼額金(水耐性、火耐性、風耐性、土耐性)
耐毒の竜革グローブ(毒耐性、石化耐性、睡眠耐性、麻痺耐性)
駿馬の竜革靴(移動力増強、回避力二倍、空2)
身代わりのミサンガ
ヴィルマ(虎人族 ♀ 17才 奴隷)
装備
激情のダマスカス鋼剣(攻撃力2倍、麻痺添加、HP吸収、MP吸収)
頑強の竜革のジャケット(物理ダメージ削減、状態異常耐性、魔法ダメージ削減、空)
耐火のダマスカス鋼額金(火耐性、水耐性、風耐性、土耐性)
耐毒の竜革グローブ(毒耐性、石化耐性、睡眠耐性、麻痺耐性)
駿馬の竜革靴(移動力増強、回避力二倍、空2)
身代わりのミサンガ
イレーネ(豹人族 ♀ 17才 奴隷)
装備
硬直のエストック(石化添加、攻撃力2倍、HP吸収、クリティカル二倍)
鋼鉄の盾
頑強の竜革のジャケット(物理ダメージ削減、状態異常耐性、魔法ダメージ削減、空)
耐風のダマスカス鋼額金(風耐性、火耐性、水耐性、土耐性)
耐毒の竜革グローブ(毒耐性、石化耐性、睡眠耐性、麻痺耐性)
駿馬の竜革靴(移動力増強、回避力二倍、空2)
身代わりのミサンガ
オリビア(竜人族 ♀ 18才 奴隷)
竜将軍Lv85
装備
硬直のダマスカス鋼槍(石化添加、攻撃力2倍、HP吸収)
頑強のダマスカス鋼のプレイトメイル(物理ダメージ削減、状態異常耐性、魔法ダメージ削減、空)
耐土のダマスカス鋼額金(土耐性、火耐性、水耐性、風耐性)
耐毒の竜革グローブ(毒耐性、石化耐性、睡眠耐性、麻痺耐性)
駿馬の竜革靴(移動力増強、回避力二倍、空2)
身代わりのミサンガ
ボーナスポイントの割り振りは、ターレ迷宮討伐戦の構成を少しだけ変更した。
ボーナス装備品は見せたくないので、外したおかげでポイントがかなり余った。
セブンスジョブにした上で、パワーレベリング用に獲得経験値二十倍をセット。
残りを器用と敏捷に半々ぐらいに割り振ってある。
とにかく、状態異常と回避を優先する構成だ。
ボーナスポイント(285(初期値198+87(Lv上昇分))
・キャラクター再設定(1)
・鑑定(1)
・パーティージョブ設定(3)
・パーティー項目解除(1)
・索敵(5)
・拠点構築(5)
・獲得経験値二十倍(63)
・MP回復速度十倍(31)
・器用上昇(50)
・敏捷上昇(57)
・セブンスジョブ(63)
・詠唱省略(3)
・ワープ(1)
・メテオクラッシュ(1)
余剰ポイント(0)
小部屋を出て、ボス部屋に向けて歩き始めた。
索敵でマップを表示しながら、進行方向にモンスターがいないか確認しながら進む。
エステル達は、俺達のやや後方に付いてきている。
初戦はネペンテス三匹にパーン一匹か。
昨日、散々戦ったから問題ない。
オリビアに目配せすると、彼女は後ろを振り向いて、右手を上げた。
モンスターとの戦いが近づいた時に、エステル達に伝えるための合図だ。
パーティーメンバーに聞こえるように小声で呟いた。
「前にパーン1、ネペンテス2、後にネペンテス1だ。パーンが突っ込んでくるぞ」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
特にフォーメーションも告げずに俺が中央の一番前に出た。
パーンがこちらへ凄い勢いで走ってくるのが見える。
接敵する少し前に、俺は左に逸れて、槍を低く緩やかに横に薙いだ。
パーンが軽く跳んで躱す・・・・・・タイミングでオリビアの鋭い槍の突きが空中のパーンに炸裂。
もんどりうって、パーンが地面に叩きつけられた。
(状態異常耐性ダウン)
無詠唱で博徒のスキルを転がっているパーンにかける。
あとは、ヴィルマ、イレーネ、アミルに任せればよい。
俺とオリビアは後方にいるネペンテスに向かって早足に進んだ。
彼女の走るペースに合わせて、やや速度を落としながら次の接敵に備える。
前方からネペンテス二匹とやや後ろに遅れて更に一匹が見えた。
かなり後方にエステル達がいるので、超速スキルを使いたい衝動に駆られるが我慢だ。
中央にオリビアが立ち、左に俺が位置してネペンテス二匹を迎え撃つ。
(状態異常耐性ダウン)
オリビアの前のネペンテスに博徒のスキルをかける。
俺はひたすら目の前のネペンテスに硬直のダマスカス鋼槍で連続突きをかます。
ネペンテスは葉っぱを振り回してくるが、その程度の攻撃は今の俺達なら楽々と躱せる。
たまに消化液を垂らしてくるが、それもなんなく回避。
回避の合間に攻撃をドンドン入れて・・・・・・先にオリビアの前の奴が石化したようだ。
俺は淡々と前の奴に槍を突き入れる。
最も後方にいたネペンテスが右側から回り込もうとしてくる。
彼女は下がりながら、後ろへと引き付ける。
足音からヴィルマ達が駆けつけてきたのが分かった。
オリビアは中央に寄り、アミル達三人と連携しながらネペンテスをタコ殴りにしていく。
やがて、残った二匹も石化した。
ヴィルマは後方の石化したパーンを煙に変えるため、アミルと共に走っていった。
入れ違いにエステル達のパーティーが追いついてくる。
構わずに石化したネペンテスを三人で削りかかった。
「これがユキムラ達のやり方か。相手を状態異常にする戦いなのだな」
「まあ、見ての通り、武器に頼った戦いということだな」
視線はエステルの方に向けずに、ひたすら槍を突き入れながら返答する。
アミルとヴィルマ達が戻ってきたようだ。
パワーのあるアミルと、ヴィルマのビーストアタックで素早く煙に変えてきたのだろう。
残った石像を削り倒すために、二人も加わった。
やがて、全てが煙に変わるとドロップ品を拾い、五人で前へ歩き始めた。
次の相手は、ネペンテス四匹にホワイトキャタピラーが一匹か。
「前にホワイトキャタピラー1、ネペンテス2、後にネペンテス2だ。
糸と突進攻撃に注意して、先にホワイトキャタピラーを仕留めよう」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
少し小走りの状態で前に進み始める。
ヴィルマを中央に、右に俺、左にイレーネが横一列で前へとひた走る。
やがて、ホワイトキャタピラーとネペンテス二匹が近づいていた。
(状態異常耐性ダウン)
ホワイトキャタピラーに博徒のスキルをかける。
そのまま、右から回り込むようにホワイトキャタピラーに槍を鋭く突き入れ、壁に叩きつけてイレーネとヴィルマに渡す。
俺はそのまま前に出て、ネペンテス二匹を槍で牽制しながら膠着させる。
左側からネペンテスが回り込んできて、三対一の状態になるが、落ち着いて槍で距離を取りながら攻撃を加える。
葉っぱを三匹が振り回してくるが、回避は全く問題ない。
今はレベル差に速度差もあるから、膠着させるだけなら三匹相手でもなんとかなる。
ホワイトキャタピラーを石化させたヴィルマとイレーネが左のネペンテスを相手にし始めた。
(状態異常耐性ダウン)
二人の前のネペンテスに博徒のスキルをかけた。
そして、オリビアとアミルが近づいてきたな。
「ユキムラ君、中央は任せて~♪」
「了解。右にずれるぞ」
中央のネペンテスに連続突きをかまして、右横に移動。
空いたスペースにオリビアが滑り込み、激しい槍攻撃を始めた。
俺も淡々と前のネペンテスに突きを入れる。
「俺は少し後ろに下がるぞ」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
目の前のネペンテスに突きを入れながら徐々に下がり、アミルと二対一の状態にする。
アミルが横から鋭い突きを入れ、バランスを崩したネペンテスに素早い連続突きをかます。
数セットこなしたところで石化した。
オリビアは目の前のネペンテスを既に石化させ、右側から回り込んだ奴を相手している。
石像だらけで、彼女を援護するスペースがないな。
(状態異常耐性ダウン)
博徒のフォローだけしておく。
仕方なく、最後の一匹はオリビアに任せ、周りの石像を二人一組で削り始める。
オリビアは鋭い一撃を加えてバランスを崩させると、小刻みに突きを連続する緩急をつけた攻撃を繰り返し・・・・・・石化させた。
再び、エステル達のパーティーが追いついてきた。
「ここまで、素早く石化させる戦いは入会試験では見たことがないな。見事の一言だ」
「それはどうも」
石像を削る作業に忙しく、視線を向けずに手をひたすら動かす。
今日はこの作業を延々繰り返すことになりそうだ。
いつもやってる作業だけど、デュランダルがないから時間がかかって面倒臭い。
「ホントに武器に頼った戦いだな・・・・・・」
後ろにいた百獣王の男の呟きが聞こえた。
俺の目の前のネペンテスが煙に変わった。
「おい、なんだよ・・・・・・」
振り向くと、百獣王の男にイレーネが近づいて、ガンを飛ばしていた。
「イレーネ、止めろ!お前の相手はそっちじゃなくて、先にいるモンスターだ」
昨日言った言葉は伝わらなかったようだ。
二度じゃなくて、三度四度と言っておくべきだったか。
エステルはニヤニヤしながら、止めようとしない。
試験官がそれで問題ないのか?
モンスターを倒す実力が全てであって、試験態度は採点外?
「イレーネ、行くぞ。遅れるなよ」
「了解!」
ふくれっ面した彼女の頭をグリグリ撫でながら前に進み始めた。
次の相手は、パーン一匹にハントアント一匹か。
珍しい組み合わせだな。
まあ、楽勝だが。
「前にパーン1、ハントアント1だ。パーンが突っ込んでくるぞ」
「了解!」
「御館様、パーンはあたし一人に任せて!」
「了解!」
「了解?」
アミルじゃなくても、俺だって疑問に思う。
「分かった。俺とオリビアでハントアントに向かう。あとは三人で好きにしろ」
前から突っ込んできたパーンに、先ほど同様、軽く横薙ぎの一閃。
パーンはジャンプして躱した。
次のオリビアは着地したパーンにやや上側から横薙ぎの一振り。
パーンはしゃがんで躱し、そのまま通り過ぎていった。
スピードは落としたから、後はイレーネ達がなんとかするだろう。
すれ違いざまで、博徒のスキルは使わなかったが問題ないはずだ。
そのまま、俺とオリビアはハントアントの所まで向かった。
:
:
:
ハントアントを石像にして煙に変えても、誰もこちらに来ないので、仕方なく元来た通路を戻ることにした。
二人で戻ってみると・・・・・・何やってるの?
戻った先では、イレーネがパーンと一対一で戦っていた。
パーンの攻撃を彼女が躱す、躱す、躱す・・・・・・パーンの拳や蹴りの攻撃を笑みを浮かべながらなんなく回避している。
お前、ずっとこれやってたの?
エステル達のパーティーに見せるために?
俺とオリビアが戻ってきたのに気付いたようだ。
「終わりにする!」
今度は回避するだけではなく、パーンの攻撃に大して逐一カウンターで硬直のエストックの刺突を入れ始めた。
十回前後のカウンターを入れたところで、パーンは石像となって転がった。
イレーネ以外の四人でタコ殴りにして、最後にヴィルマがビーストアタックで煙にする。
ドロップ品を拾って、イレーネの方に視線を向けた。
彼女はドヤ顔で百獣王の前に行き、フンスとばかりに挑発の表情で笑みを浮かべていた。
彼の顔が無表情になった・・・・・・怒っている、怒っている。
そして、エステルは笑いを噛み殺している。
こんな試験でいいのか?
「エステル様、生意気な
「くっ、くっ、くっ・・・・・・構わんぞ」
助言じゃなくて、実演してくれるの?
俺達よりも前に、エステルのパーティーが歩き始めた・・・・・・入会試験の目的を忘れてない?
:
:
:
前方に見えたのは、ネペンテスが三匹、ホワイトキャタピラー一匹、パーン一匹、ハントアント一匹のフルセット。
中央に百獣王、右に聖騎士のエステル、左に冒険者が前衛となって臨むようだ。
さすがに俺達と違って、魔道士は魔法を使うと思うけど。
禰宜と探索者の者も槍を構えているから、近接戦闘に加わるようだ。
モンスターの存在に気付いたエステルのパーティー全員が走り始めた。
魔道士が途中でサンダーストームをかける。
パーンは後方にいて、ネペンテスやハントアントを躱しながら走ってきたので、やや出遅れたようだ。
百獣王がノールックで剣を振ってパーンを弾き飛ばし、その先のエステルが重い斬撃を見舞う。
結構器用だな。
足の速い百獣王がやや左後方に弾き飛ばして、阿吽の呼吸でエステルが斬りつけている。
連携がよく取れたパーティーということか。
百獣王はそのまま、ネペンテス三匹の前に出て、葉っぱの攻撃を躱す、躱す、躱す・・・・・・こいつは避けタンクか。
鎧もエステルとは違って竜革の鎧だし、重そうな金属製の防具は着けていない。
さすがに避けタンクをやるなら、ダマスカス鋼などの鎧を装備しないのだろう。
回避に特化しているのか・・・・・・いや、それでも時々、カウンターで斬撃を入れている。
一方でエステルは重そうなダマスカス鋼製の鎧を装備しているので、回避よりは防御重視か。
ダメージディーラーはエステルと魔道士なのかもしれない。
魔道士も周期的に雷魔法を撃ち、一匹を麻痺させた。
戦局が一気に傾いていく。
その後も魔法を撃ち続け、避けタンクの男はカウンターを返し、エステルが重い斬撃を放ち、禰宜と探索者が槍の攻撃を入れ続けた。
一匹ずつ、櫛の歯が欠けるようにモンスターが倒されていく。
やがて、全てのモンスターが煙に変わった。
石像を削る時間を加味しても、トータルの殲滅速度は俺達の方が上な気がするけどね。
それでも、避けタンクの百獣王の男はイレーネの前に来て、ドヤ顔で挑発してきた。
イレーネの顔も無表情になった・・・・・・怒ってる、怒ってる。
避けタンクの男が去ると、イレーネが俺の所に近づいてきた。
「御館様、『一閃』のスキルを使わないから、『くのいち』にジョブ変えて!」
「・・・・・・」
小声で少しふくれっ面した彼女が訴えかけてきた。
苦笑しながらジョブを変更。敏捷の効果が上がったはず。
その後はタケダ軍とエステル軍で交互にモンスターとの戦闘を繰り返すことになる。
入会試験だったはずなのに、いつの間にか、お互いの技の披露の場になってしまった。
イレーネはジョブ変更後は、以前にも増してキレキレの状態で攻撃を回避しまくる。
ヴィルマはビーストスラッシュは披露できないが、獣戦士のままノリノリでカウンターで二撃三撃と斬撃を入れ、たまにビーストアタックの攻撃を行う。
オリビアも槍一本ながら、縦横無尽に振り回して(危ないって!)、重い一撃をかましてモンスターを揺らしまくった。
俺?・・・・・・大した技はないからパワーでモンスターを壁やら天井やらに叩きつけて、三人との違いを見せることに。
アミル一人だけ、皆のペースには乗らず、綻びが生じないようにフォローして回っている。
彼女の後ろにゴスラーの背後霊が見えたような・・・・・・。
それにしても、なんだかダンスバトルの様相になってきた。
実際、百獣王の男とイレーネは回避テクニックを見せあい、激しく踊っているように見える。
挑発し合いながら、相手にもっと技を見せてみろといわんばかりで、まさにダンスバトルだよ。
ちょっと想定していた入会試験と違ってきた。
まあ、身体能力の高さを見せる分には構わないだろう。
ハルツ公やゴッゼル士爵との模擬戦でも見せていたし。
実力の全てを見せてはいないし、帝国解放会会長に実力の片鱗を見せておくのは悪くない。
オリビアは俺を不憫に思ったのか耳打ちして、合作で
ハントアントを槍で持ち上げて天井に叩きつけ、地面に落とさないように二人で交互に天井に叩きつけまくった。
エステル達が驚愕した顔になったので面白かった。
二人で蹴鞠のようにハントアントを離れてリフティングしようかと思ったが自重した。
隠し芸の審査会場ではないからな。
数セットほど戦闘を繰り返したが、魔道士の者に諭されて入会試験モードに戻すことに。
最後の方はお互い笑顔になっていたので、エステル達のパーティーと打ち解けた気がする。
親睦を深めるのが入会試験の目的ではなかったと思うが、これはこれでアリだろう。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/4/14(火)の予定です。