異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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086.帝国解放会入会試験(結果発表)(その2)

 その後も45階層の探索は順調に進み、ボス部屋に辿り着いた。

 待機部屋で試験官であるエステルから再度の説明。

 

「迷宮に入った直後にも説明したが、ユキムラ達にはこれからボス戦をやってもらう。

 ユキムラ達が討伐を終えたら、その後、我もボス戦を終わらせて46階層に抜ける。

 我が到着するまで、そのまま46階層の小部屋で待っていてくれ」

「了解した」

 さすがに原作と違って、この待機部屋から一番近い小部屋まで戻ると時間がかかる。

 

 途中のモンスターは討伐したとはいえ、リポップしているだろうし、距離も結構なものだ。

 俺達がボスを倒した後に、エステル達も続いて倒すのが時間短縮になるだろう。

 

 原作では不正して入会しても意味がないと言及されていたけど、さすがに第一位階よりは第二位階になった方がステータスという意味では価値があるのではないだろうか。

 だから、わざわざ待機部屋まで試験官が付き添ってきたのではないかと邪推してしまう。

 皇帝が現れるイベントでも、結構な貴族が一堂に会してた気もするし、会員総会の時に第二位階の方が大きな顔ができそうな気もする。

 

 世俗の爵位などは意味を為さないって話だった気もするが、会員総会で発言権を持つにはどうするのだろうかね。

 討伐した迷宮の数?討伐した迷宮の最高階数?クーラタル迷宮の最高到達階層?・・・・・・どれも抜け道があって判定しにくいよな。

 周りはほとんど貴族だろうが、そもそも貴族ではない俺には、あまり関係ない話だろうけど。

 

 小部屋から数戦ほど戦い方を見てから引き返して、46階層の開始地点の小部屋で待つ方が入会試験を運営する側は楽ではないかと思う。

 それをしないってことは、第二位階の試験では不正を防止する意味がやはりあるのだろう。

 

 俺達のモンスター殲滅速度はかなりのものだから、46階層に抜ける時間が早過ぎて怪しまれるので、今回は時間調節という意味で逆に助かったと思うけど。

 それにエステル達のパーティーの実力がこの目で確かめられたのは大きい。

 単なる試験以上に実りがあった気がするな。

 

 

「ボス戦を始める前に、こちらも確認してから始めたい。少し待っていてもらえるか?」

「ユキムラの好きなタイミングで始めてもらって構わん」

 事前にジョブ変更をするので、ブリーフィングが必要だ。

 

 イレーネはダンスバトルをしたせいで、ジョブは『くのいち』に既に変更してある。

 ヴィルマを百獣王に変更。

 別に獣戦士でもボス戦の戦力として不足は全くないが、彼女のストレス解消のためだ。

 アミルは斎王に変更。

 俺とオリビアはジョブ変更なし。

 

 武器はこのタイミングで変更すると、エステル達に怪しまれるからこのままだ。

 エステル達から離れて、小声で変更内容を説明。

 準備は整ったかな。

 

 

「それでは、始めさせてもらう」

「ああ、しっかりとな」

 エステル達に手を上げながら、ボス部屋に侵入。

 

 

 今回は見ている者がいるので、小荷駄隊外しはできない。

 その代わりに先に四人がボス部屋へ入り、一番最後にアミルが入る。

 四人がフォーメーション通りの位置に着いたのを確認して、アミルに向けて手を振った。

 

 アミルが入り、扉が閉まるのを確認し、直ぐにオーバーホエルミング。

 アイテムボックス操作で俺とオリビアの武器を取り出す。

 オーバーホエルミングの効果が消え、モンスターが出現した後に彼女に武器を渡しながら、雷魔法を連発して博徒のスキルをかけた。

 

 :

 :

 :

 

 やっぱり、アッサリと終わったな。

 さすがに45階層程度のボス戦なら楽勝だ。

 

 石像を削りながら、今後について考える。

 さすがに、殲滅し終えて直ぐに46階層に抜けると早過ぎるよな。

 時間調整をしながら、上に抜けるか。

 

 

「イレーネはあの百獣王の男の技量、どう思った?」

「あいつは回避が上手い。学ぶこと、多い・・・・・・」

 相手の実力を素直に認められるのは良いことだ。顔が少し悔しそうだけど。

 

 できれば、表立って挑発しないでもらいたかった。

 

 

「オリビアは探索者や禰宜の槍の実力はどう思う?」

「あたしの方が全然上だね~♪

 槍二本あれば二人まとめてかかってきても、やっつけられると思うよ」

 うん、聞いた俺がバカだった。

 

 でも、相手の実力を冷静に分析した判断なのだろうな。

 

 

「ヴィルマは、あちらのエステルってリーダーの実力をどう思う?」

「強い一撃を放つけど、あたしには当たらないから大丈夫!」

 ●い彗星みたいなことをおっしゃる。

 

 

「アミルは魔道士の者の動きを見て、何か感じることがあったか?」

「なんか、苦労してそうですね」

 なんも言えねぇ・・・・・・同じ境遇の者同士の共感?・・・・・・俺のせいなのか?

 

 

 46階層に抜けた後に武器が変更されいると拙いので、ボス戦の前の武器に戻した。

 時間もそれなりに経過したし、もう大丈夫か。

 

「では、46階層に上がるぞ」

「了解!」

「了解!」

「了解!」

「了解」

 

・・・・・・

 

 46階層の小部屋で、水分補給をしながらボーッと待つことしばし。

 やがて、エステル達のパーティーが現れた。

 当然のことながら、45階層のボス戦で苦戦することはなかったようだ。

 

「やはり早かったな」

「そうか?」

 『早い』とか言われると、相手が男であってもドキッとしてしまうぞ。被害妄想?

 

 この後は直ぐにロッジに移動するのだっけ?

 エステルのパーティーの冒険者に案内してもらうのだったよな。

 

 

 俺の右やや後ろにいたヴィルマに百獣王の男が近づいてきた。

 

 

「お前、強くて綺麗な(いい)女だな。俺の妾にならないか?」

 

(ゴッ・・・・・・)

 

 あっ、つい百獣王の男に蹴りを入れてしまった。

 避けタンクでも、俺の高速ローキックには反応できなかったみたいだな。

 

「それは俺の女だ。妾だと?ふざけるな。ぶっ殺すぞ!」

 

 

 相手は貴族っぽいけど、だからってヴィルマに手を出す奴は許さん。

 というか、あれだけ挑発し合っていたイレーネじゃなくて、何故ヴィルマ狙いなんだ。

 

 

「痛ぇな・・・・・・この野郎・・・・・・」

 

 百獣王の男が俺を睨みつけながら、こちらに近づいていた。

 

 

(ゴンッ・・・・・・)

 

 

(ひょいっ・・・・・・)

 

 

 百獣王の頭にエステルの拳骨が炸裂した。

 金属製の腕装備をしているから、結構痛いと思う。

 

 一方で俺の方は、オリビアに後ろから抱え上げられてしまった。

 前にもこんなことあったような。

 ジタバタしても、宙に持ち上げられてしまって振り解けない。

 

「ユキムラ君、落ち着いて~♪」

 

 

 涙目になった百獣王の顔を見ながらニヤニヤしていると、あちらも女に抱っこされている俺を見てニヤニヤしやがった。

 くっ、お互い恰好悪い・・・・・・子供の喧嘩か?

 

 

「うちの者が無礼を働いたな」

「こちらこそ、ご主人様が失礼なことを・・・・・・」

 エステルが謝罪し、アミルが受け答え・・・・・・俺の立場は?

 

 まあ、アミルの言ってることは正論だ。

 手を出すのはダメだよな・・・・・・出したのは足だけど。

 次に同じ事を言われたら、同じ行動を取る気もするが。

 

 アミルの行動は、合格が決まるまでは下手に出るべきということかもしれない。

 こんなことで不合格になったらつまらないということか。

 でもヴィルマに粉をかけてきたのを我慢するのには疑問が残るぞ。

 

 

 最近、相手が貴族であっても理不尽に侮られたりすると、感情的になってしまうことが多い気がするんだよなぁ。

 こんな性格だったっけ。

 元の世界ではもっとドライだった気がするのだが、なんなのだろうか。

 

 

「ここでは誰か来るかもしれん。

 一度迷宮の外へ出たら、帝都にあるロッジへと向かう。

 我のパーティーの冒険者を入れて、先に行ってくれ」

「分かった」

 ロッジの説明もされずにロッジと言われても通じてしまう。

 

 ロッジと言えば山小屋のイメージだから、原作主人公は山荘を思い浮べていたようだが、俺にはセバスチャンが待っている皇帝の居城のエリアを期待してしまう。

 それよりも抱っこされたまま説明を受けているのが、とっても恥ずかしいのですけど。

 

「オリビア、いい加減降ろしてくれ」

「はーい♪」

 明鏡止水、明鏡止水・・・・・・。

 

 

 ロッジに向かうということは、いきなり不合格ではないということか。

 試験態度が悪いからといって、不合格にはならなかったと思いたい。

 

 元の世界の日本なら、試験官に蹴りを入れたら、一発退場だろうな。

 受験生を試験会場で口説く試験官はいないかもしれないが。

 もっとも百獣王の男は試験官ではなく、ただのエステルの護衛の可能性が高いか。

 

 

 エステル達はさっさとゲートをくぐったので、俺達も続くことに。ホントにセッカチだな。

 貴族だから、一分一秒が惜しいのかもしれない。

 迷宮の入口に出ると、ズンズンと進んでいくので、急いで追いかける。

 歩きながら、探索者がパーティー編成の詠唱している。慌ただしいな。

 

 冒険者がエステルのパーティーから外れたようで、こちらに視線を向けてきたので、俺もパーティー編成の詠唱を行なった。

 ラルフという名の冒険者が俺のパーティーに加わる。

 こんな時は五人だと便利だよな。

 

 詰所でエステルがエンブレムらしきものを見せている。顔パスではないようだ。

 

「移動できる壁を借りたい」

「はっ、もちろんであります、閣下」

 実は顔パスなのに、規則通りにエンブレムを見せただけかもしれない。

 

 だとしたら律儀な奴。さすが、百獣王に拳骨くれるだけのことはあるということか。

 

「では・・・・・・」

 冒険者のラルフがフィールドウォークの詠唱をした。

 

 彼に続いて、俺達もゲートをくぐった。

 

 

「これはラルフ様、ようこそお越し下さいました」

 

 ロビーに出た俺達を迎えてくれたのは、セバスチャンだ。

 念のため鑑定したけど、やっぱり冒険者のセバスチャンだった。

 

 ロマンスグレーの五十代の紳士。

 一部の女性には受けそうだが、うちの女性メンバー達の琴線に触れることはないようだ。

 

 

「お世話になります」

「お役目ご苦労様でございます」

 原作通りっぽいセリフでイベントが進行していく。

 

 

「私はエステル様のメンバーを迎えに行ってきます。しばし彼らのことを頼みます」

「かしこまりました」

 こちらを振り向いたので、パーティーから彼を外した。

 

「では・・・・・・」

 出てきたゲートから彼は戻っていった。

 

「ようこそ、いらっしゃいました。まずは、お名前をお聞かせ願えますか。

 苗字をお持ちの方は苗字まで。爵位と継嫡家名は結構でございます」

 セバスチャンが俺の前に立って、原作通りの説明をしてくれた。

 

 継嫡家名って、アンハルトとかアンエステラだよな。貴族でないから関係ないな。

 

「イレーネ」

「・・・・・・」

 いきなり一番好きの彼女が名乗ったので、セバスチャンが硬直した。

 

「イレーネ様ですね」

 再起動したようで、彼女に頭を下げた。

 

 俺の左後方に向かって、頭を下げたので、なんとも言えない気分。

 

「ユキムラ タケダだ」

「ユキムラ様でございますね」

 

「ヴィルマ」

「ヴィルマ様でございますね」

 みんな自己紹介がぶっきら棒過ぎじゃないか?

 

「オリビアだよ~♪」

「・・・・・・、オリビア様でございますね」

 一瞬の硬直の後、再起動した。慣れてきたらしい。

 

「アミルと申します」

「アミル様でございますね」

 彼女が一番礼儀正しい。さすがは迷宮組の良心。

 

 セバスチャンも最後に口直しができたのではなかろうか。

 

 

「当会では世俗の役職や身分などは何の影響も持ちません。

 くれぐれもそのおつもりでお願いいたします」

「了解した」

 でも、言外に『だからと言って、礼儀知らずは困ります』と言われた気がする。

 

 

 今の自己紹介で、パーティーリーダーがイレーネと思われていたら困るな。

 

 俺が無駄に悩んでいると、エステル達のパーティーがやってきた。

 

 

「エステル様、お待ちしておりました」

 言外に、『この人達、本当に合格したのですか?』と言われている気がする。

 

 そして、本当にエステルに直角に頭を下げている。

 世俗の役職や身分とは関係ないから、会長に対して総書記として頭を下げているのか。

 でも、原作だと皇帝に対しては、セバスチャンはかなり丁寧な物腰だった気もするぞ。

 何事にも例外というのがあるのかもしれない。

 

 そして、俺達の時はエステル会長程には丁寧ではなかったよな。

 まあ、それに値してなかったから、ある意味正しい判断だ。

 礼には礼をもって返すのが基本なのかも。

 こちらも例外扱いということか・・・・・・いや、第二位階の者への標準対応ぐらいだと思いたい。

 

 

「ユキムラ達の名前は確認したか?」

「はい。お伺いいたしました」

 エステル会長が俺の名前を出したから、ここで初めてパーティーリーダーが俺だと認識されたかもしれない。

 

 ラルフは俺達の説明をしてなかったし、イレーネの自己紹介で総書記が混乱してたりして。

 

 

「ユキムラは第二位階の会員になる。そのつもりでな」

「かしこまりました」

 つまり、合格したということだよな。

 

 まあ、不合格だったら、この場所を教えたくないだろうから、46階層の小部屋でサヨナラだったはずだ。

 なんにしても、ホッとした。

 

 

「部屋を用意してくれ。それとハーブティーを人数分」

「かしこまりました。こちらへお越しください」

 

 

・・・・・・

 

 セバスチャンに案内されて、豪華な会議室に入った。

 

 テーブルの真ん中にエステル会長が座る。

 後ろに百獣王と冒険者が立ったが、護衛につくのだろう。

 

「ユキムラ達も座ってくれ」

「分かった」

 とりあえず、会長相手だが今は対等の口調で話をしておこう。

 

 問題があるのなら、後でセバスチャンが何か言ってくるだろう。

 あのメンバー(無礼な女)にして、このリーダー(非常識な男)ありとスルーされるかもしれないが。

 

 それにしても索敵で確認すると、セバスチャンもグレーだし、何故、エステル会長だけ青色なのだろうか。

 とっても気になるのだが・・・・・・今は考えるのは止めるか。

 

 

 エステル会長の前に俺が座り、右にアミル、更に右にヴィルマ、俺の左にオリビアが座り、更に左にイレーネが座った。

 こういう時、イレーネは真ん中に座ったりしない。

 面倒くさいことからは逃げるという回避能力を身に付けているからだ。

 

 単に一番左が日本式で言うところの上座だからじゃないと思うが。

 こちらの世界に上座、下座はないだろうし。

 

 一番頼りになるのはアミルだ。俺の近くに座っていてほしい。

 

 

「察しはついていると思うが、入会試験については合格だ。

 ブロッケンの推薦どおり、申し分のない実力だと認める。

 戦闘の技量、装備品、モンスターへの対応ともに問題ない。

 ユキムラならば、近い将来、迷宮討伐を成し遂げるであろう。

 入会しても、問題なかろう」

「合格と聞いて、ホッとした」

 素行不良で不合格の可能性もあったからな。

 

 そして、この言い方だと、やはりハルツ公は俺達が迷宮討伐をしたことを伝えていないと。

 

 

「無理に答えなくても構わないが、彼女は暗殺者か?

 モンスターの動きを止めるのが、ユキムラ達の中でも一番早かった」

「まあ、そのようなものだ」

 本当は『暗殺者』ではなく、『刺客』で試験を受けていて、最後の方は『くのいち』だったので曖昧に答えておく。

 

 俺、イレーネ、オリビアの三人は石化添加のスキル融合した武器を使っていた。

 その中でもイレーネの石化にする速度が目立ったのだろう。

 

「暗殺者は敵を状態異常にしやすいというが、それにしても素晴らしい働きだった。

 敵を素早く状態異常にするには、単に暗殺者になるだけではダメで、

 経験を積まないといけないらしいから、相当鍛えているのだろう」

「そうだな。うちは迷宮に足繫く通って鍛えているつもりだ」

 少なくとも前衛組三人は、訓練もしくは迷宮に入ってる時間が非常に長い。

 

 だけど、イレーネが状態異常にするのが早いのは、だいたい一番に彼女の相手するモンスターに博徒のスキルを使っているのも原因だったりする。

 彼女のジョブのスキルによる状態異常発生確率上昇と博徒のスキルの相乗効果だ。

 

 

「暗殺者の彼女もそうだが、獣戦士の彼女の攻撃を避ける動きも良かった」

「二人とも研鑽を惜しまないからな。誰にも渡したくないメンバーだと思っている」

 ここで、百獣王の男にも嫌味を言っておく。奴は苦笑いしているが。

 

 

「会員以外には、あまり知られていないことだが、

 迷宮の最後のボスはこちらの装備品を破壊する能力を持っている。

 攻撃を盾で受けたり、剣で弾いたりしただけでも、壊されてしまうことがある。

 モンスターの攻撃を回避する利は極めて大きいと言える」

「そうなのか。迷宮討伐は大変だな」

 こちらが迷宮討伐未経験と思って助言してくれている。

 

 それに乗っかって、今は情報を引っ張り出すか。

 

「ブロッケンがユキムラを推薦してきたのも道理だ」

 あいまいに、ゆっくりと頷いた。

 

 俺達のパーティーには生粋の避けタンクはいない。

 ヴィルマとイレーネは上位ジョブのレベル上げと俺の英雄、勇者のパーティー効果で回避能力を底上げしている。

 もちろん彼女達が日々研鑽していると言ったのに嘘はない。本当に努力している。

 特にイレーネは最近、回避の技術に磨きをかけようと必死だ。

 ただ、原作のような超絶避けタンクのヒロインとは違うという意味だ。

 

 原作ヒロインが確認したような、迷宮ボスに攻撃をヒットして壊されることがあるかという質問はしない。

 既に迷宮討伐して確認済だからな。それよりも知りたいことがある。

 

「壊されてしまうことがあると言ったが、それはどれぐらいの頻度なのか?

 攻撃を受けるのが二回に一回で壊されるのか、十回に一回で壊されるのかによって

 心構えが違ってくるだろう?」

「一般的に経験をかなり積んだ者ほど、攻撃を受けた際に装備品が壊されるのが少ないようだ」

 レベル差が関係あるのか?・・・・・・レベル補正という意味だろうか。

 

「それは探索者のレベルの違いで、装備品破壊の割合が違ったということだろうか?」

「さすがにユキムラは鋭いな。迷宮討伐を目指すのに必要な資質だ。

 ただ戦うだけではなく、知恵が無いと迷宮討伐は成し遂げられない」

 エステル会長は、自分の左後ろにいる百獣王の男を見ながらニヤッとした。

 

 あいつは知恵無き者という嫌味か?もっと頭を使えという激励かもしれんが。

 

 状態異常にする確率もレベルに依存するが、装備品破壊の確率もレベルに依存するのか。

 となると迷宮討伐に臨む場合、レベルを上げておくことは重要になるという結論だな。

 ただ、レベルを上げたジョブで戦うだけではダメだろうが。

 レベルが上げ易くても、農夫Lv99で戦う訳にもいかないし。

 

 なんにしても良い情報を入手できた。

 やはり、迷宮討伐を成し遂げたなどと吹聴すべきではないな。

 

「ユキムラに助言するならば、パーティーに魔法使いを加えるべきだと感じた程度だ。

 五人パーティーだから、最後の一人は魔法使いが順当であろう。

 戦い方の幅が広がるぞ」

「助言はありがたくいただく」

 本当は今は魔法使い役を俺がこなしているが、そんなことは説明できないので、感謝の言葉だけ述べておく。

 

 

「お待たせいたしました。ハーブティーでございます」

 

 話の区切りで、セバスチャンがハーブティーを持ってきてくれた。

 これがお高い飲み物ってやつか。

 流れるような所作で、次々にカップに注いでいる。

 

 

 そして、俺とオリビア、アミルについて、エステルから個別の講評は特にないようだ。

 五人パーティーで、そのうち三人が槍を使うのって一般的ではない気もするのだが。

 

 

「では」

 

 エステル会長がカップに口をつけ、俺達もハーブティーを飲んだ。

 確かに美味いな、これは。

 

 

「これは上品な味ですね」

「ありがとうございます」

 ここでも、やっぱりアミルが活躍している。

 

 我が家で、そんなに高いハーブティーを飲ませてないはずなのに。

 礼儀作法に適った物言いをしているだけなのかもしれない。

 エネドラかヘルミーネあたりから指導を受けているのだろうか。

 

 

「このロッジは会員であれば誰でも利用できるので、後で説明を受けておいてくれ。

 ただし、通常の飲食には代金が必要だ。

 それなりの金額なので、あまり散財はしないことだな」

「なるほど、気をつけるとしよう」

 メニューがあれば気楽に注文できるのだが、ないのだろうな。

 

「五日後に入会の儀礼を行うことになっている。

 昼頃に、またここへ来てくれ。

 儀礼と言っても、簡単なものだ。身一つで来ればいい。

 ユキムラ以外のパーティーメンバーが一緒でも構わないが、儀式には立ち会えない」

「なるほど。承知した」

 アミルとローザでも連れてくるかな。

 

 入会儀礼の間に資料室で調査でもしてもらうか。今日も可能なら見学がてら資料をみたい。

 まずはセバスチャンに説明を受けた後になるだろうけど。

 

 ドワーフ殺し対策は、どうしようかな。

 我が家に酒に滅法強いメンバーっていなかったよな。

 

 俺の知る限り、一番強そうなのは隻眼のバルドルフだった気がする。

 だが、まさか、『うちのパーティメンバーです』と言って、バルドルフを紹介する訳にもいかないだろう。

 奥さんに内緒で美味い酒が飲めるからと、ひょいひょい付いてくるかもしれないが・・・・・・そろそろ帝都に引っ越しているだろうか。

 皇帝がいたら、隻眼の者を知らない訳ないだろうから、直ぐにばれるか。

 他には・・・・・・パミラさんやミラを連れてくると・・・・・・ミラの三冠王のチャンス?

 

 三つ目の称号の相手は皇帝か、帝国解放会会長か、総書記か・・・・・・一気に五冠のチャンス到来?

 入会儀礼に通っても、退会処分を受ける可能性があるからダメだな。

 

 まあ、成り行きだな。大して重要なイベントでもないし。

 それよりは、資料室の調査時間をしっかりと取りたい。

 

 

 その後は、皇帝であっても実力がなければ入会できない等、原作通りの説明があった。

 実際、皇帝の戦闘力ってどの程度のものなのかは、気になるところだ。

 入会儀礼で会うことになるのかは分からないが。

 

 

「ブロッケンの方へは我から連絡を入れておく。

 入会儀礼のある五日後までは、推薦者とはあまり会わない方がいいだろう」

「分かった」

 分かったとは言ったものの、どういう意味なのだろうか。

 

 ああ、実際に入会を認めるのは試験の合否だけでなく、イニシエーションの結果とか、下らない判定があるからか。

 今、ハルツ公に合格を報告して、入会儀礼で落ちたら意味ないから?

 でも、会長であるエステルからハルツ公は呼ばれるのだよな。

 他の者に入会儀礼のタイミングがばれると、横槍が入って邪魔されるとか?

 

 原作では入会を認める、認めないなどと叫んでる者がいたよな。

 今日が一次試験で、イニシエーションが第二次試験の面接ってことなのだろうか。

 まあ、指示には従っておこう。

 

 

「我の方からはこんなところだ。

 その他の説明は、総書記のセバスチャンから受けてくれ。セバスチャン、後を頼む」

「かしこまりました」

 そういえば、ここで初めて『セバスチャン』と呼ばれたな。

 

 原作で知ってるし、鑑定で分かってるから、心の中で『セバスチャン』と呼んでいたけど。

 

「では」

 

 エステル会長がカップを飲み干して立ち上がった。

 

 後ろにいたラルフがアイテムボックスを開けて、代金を取り出している。

 ということは銅貨で支払える金額ではないということか。

 原作とこちらの世界で、装備品の値段とかかなり違うのだよなぁ。

 実際、このハーブティーの値段はいくらなのだろうか。

 

 後でこっそりとセバスチャンに確認してみるか。

 

 それにしても、セバスチャンは冒険者であって、カルクのスキルを持ってない。

 大人数で様々な値段の飲食物を注文をしたら、どうなるのだろうか。

 ちょっといたずらしたくなってしまう。

 

 でも、さすがに総書記ともなれば、迷宮討伐レベルの実績を持つ必要はあるのかもしれない。

 本人はともかく、少なくとも所属しているパーティーが迷宮討伐したという実績は必須?

 となると商人系のジョブはあり得ないのか。

 雑用をこなすスタッフまで迷宮討伐者レベルというのは、流石にないとは思うが。

 人材の無駄遣いになるものな。

 

 

 エステル達のパーティーは足早で立ち去っていった。

 

 

「それではユキムラ様、よろしければ当ロッジの説明をさせていただきます。

 こちらに来ていただけますでしょうか?」

「そうか。よろしく頼む」

 ハーブティーを全て飲み干してから立ち上がった。

 

 他のみんなも・・・・・・既に飲み干していたか。

 しゃべっていたのは俺だけだったものな。

 暇してたら飲むしかないか。

 むしろ、お替わりの要求をしなかったのが不思議なぐらいだ。

 アミル以外は絶対話を聞いてなかったと思うし。

 

 

 これからロッジの説明を受けるけど、まさかの『資料室など、当ロッジにはございませんが・・・・・・?』なんてことはないだろうな。

 入会試験の予行演習までして合格したのに、資料室がなかったら入会の効果が半減だぞ。

 そんなサプライズだけは勘弁してほしい。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/4/16(木)の予定です。
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