異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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088.実験台

 入会試験の翌日も平常運転。

 

 午前中は迷宮組五人でクーラタルの58階層の探索。

 フロックフロッグとトータルタートルの水生モンスターをひたすら叩きまくる。

 タフな相手だが、斬撃を思いっ切り放っても、簡単に煙になったりはしないので、ヴィルマ達には好評な相手だ。

 でも討伐するより、石化する方が早かったりする。

 

 そして、止血剤とソフトシェルといった薬関係のアイテムが大量に積み上がっていく。

 半日程度ではボス部屋に辿り着けないのも想定内。

 

 58階層の探索時間は、一日の半分だけだから、ボス部屋を発見するのは二、三日後だろう。

 まだまだ先は長い。

 

・・・・・・

 

 食事を挟んで、午後からはクーラタルの45階層の探索。

 俺を除いた迷宮組四人とラファとトカラで六人パーティーを組む。

 トカラが魔法使いなので、ラファは斎王を務めることになる。

 

 トカラもラファも普段から聖槍を使っている。

 ラファが使っている聖槍はサボー一味から決闘に勝利して、対価で接収したものだ。

 空きスロットが5つある逸品。

 一方でトカラの使っている聖槍はバルドルフの倉庫からもらってきた空きスロット4つのもの。

 どちらの聖槍にも知力2倍、攻撃力2倍、MP吸収、HP吸収のスキルが融合されている。

 魔法攻撃と近接攻撃とHP/MP回復も兼ねた豪華な武器だよな。

 

 ラファは魔法使い系と巫女系ジョブの二系統を使いこなし、槍の腕前もなかなかなので、聖槍が様になっている。

 トカラは純粋な魔法使いで近接戦闘は得意ではないが、MP吸収を効率的にするために聖槍を持たせている。

 

 アミルは探索者ジョブで全体の指揮をとる。

 そういえば、このパーティーもトカラ以外は全員が女性だ。

 背が高く美男子な彼を取り巻く美女達・・・・・・俺がいる時も、いつもあんな風に見えているのだろうか・・・・・・インテリヤクザの部分が美男子で画像編集されている気もするが。

 

 それはともかく、今日の俺はソロパーティーとなり、彼らの戦いを見守る役目だ。

 45階層からモンスターの強度がワンランク上がる。

 出現する半分程度はワンランク上のモンスターで、残り半分は44階層以下のモンスターのレベルが少しだけ上がる程度だ。

 

 ラファとトカラにとっては初めての強度のモンスター。

 つい昨日、入会試験で戦ったとはいえ、ヴィルマ達迷宮組四人にとっては、俺のセブンスジョブのパーティー効果無しで45階層以降を戦う初めての経験だ。

 この六人がどのような戦いを繰り広げるのか、凄く楽しみだったりする。

 

 オリビアが俺に向かって右手を挙げたので、手を振り返した。

 出発するようだな。

 

 彼らが小部屋から出るのに続いて、後を追いかける。

 索敵スキルでマップを開いて、彼女達と前方のエリアを確認。

 六人の先に赤い点が5つ見えてきた。

 背が高く大柄で重装備のオリビアに視線を遮られないように、右に寄って目を凝らして彼女達の先をじっと見つめて鑑定スキルで識別。

 

 初戦の相手は・・・・・・ネペンテス3匹、ホワイトキャタピラー1匹、パーン1匹か。

 この相手なら、まずはパーンが突っ込んでくるか・・・・・。

 

 そして、やはり一匹だけ突っ込んできたパーンが前衛陣三人によってタコ殴りにされている。

 オリビアが転倒させ、アミルが押さえつけ、その後は三人で袋叩きだ。

 

 モンスターは殺意は高くても、連携するような知性はないのだよな。

 各個撃破がやりやすい。

 

 その後はネペンテスとホワイトキャタピラーの集団が近づいてきた。

 トカラがファイヤーストームをかけたようだ。

 火はネペンテス三匹の弱点属性だったよな。

 

 魔道士ではないトカラは雷魔法がまだ使えないから、弱点属性を突く戦略なのだろう。

 というか、それが魔法使いの標準的な戦い方だ。

 魔法の選択はアミルの指示なのか、それともトカラが考えてのことなのだろうか。

 俺がいる時は、ざっくりと『雷魔法で麻痺しろ!(サンダーストーム)』だから。

 

 全体攻撃魔法のファイヤーストームだが、迷宮内では他のパーティーの者がいても魔法の被害を受けることはない。

 壁魔法やボール系の魔法では他のパーティーの者だとダメージが発生する。

 本当に不思議な迷宮の法則(ゲーム仕様)だ。

 迷宮の外に出ると他のパーティーの者であっても、全体攻撃魔法でダメージが発生する。

 他のパーティーの者というか、荒野で実験してみたら生えてる草とかも燃えたから、屋内で全体魔法を放つと大火事になるのだ。

 ラファに聞いたら、魔法使いギルドで一番初めに習う禁則事項だと言っていた。

 確かに知らずに使ってしまうと、大惨事になるだろうからな。

 

 ファイヤーストームを何度か撃ち込むが、前衛陣が状態異常にさせる方がやはり早い。

 ネペンテス三匹とホワイトキャタピラーを石化させたので、削りモードに入ったようだ。

 俺は前にいるアミル達の方へと向かった。

 

 

 石化させると、前衛陣に混じってトカラとラファも聖槍でMP回復させている。

 殲滅速度という意味では、普段の迷宮組の方が今回の混成部隊よりも圧倒的に早い。

 まあ、セブンスジョブ、雷魔法、四刀流、デュランダル・・・・・・これだけ揃えば当たり前だ。

 

 一方で、昨日見たエステルのパーティーと比べたら、どうだろうか。

 殲滅速度は同じぐらいか、ややこちらの方が早いぐらいかもしれない。

 向こうは魔道士だが、こちらは魔法使い・・・・・・劣っている点があるとすれば、そのぐらいか。

 

 前衛陣は多分こちらの方が上・・・・・・我が家の最高戦力の迷宮組の前衛陣そのままだからな。

 探索者と治癒系ジョブもこちらが上・・・・・・レベル差もあるがパワー、槍の技量はアミルとラファの方が優れている。

 魔法使い系以外は、総じて今回のパーティーの方が迷宮探索の実力は上に思える。

 パーティー単位で6対6で戦えば、また別の評価になるかもしれないが。

 対人戦や戦争での経験などで、あちらの方が上の可能性も十分にある。

 

 それにしても、ラファの槍の扱いはアミルより上かもしれない。

 二人が戦えば、レベル補正の関係でアミルに軍配が上がるかもしれないが、純粋な技量ではラファに分がある気がする。

 アミルは半年前までは探索者Lv3だったし、それを考えると努力して今の状態まで持ってきたので立派なものだと思うが、貴族として鍛えられてきたラファはそれ以上ということか。

 もちろん、そのラファでもオリビアの槍捌きには全く敵わないのだが・・・・・・大したものだ。

 

 

 それでも、このペースだと午後の時間を使って45階層を攻略するのは問題ないが、時間を余らせて魔物部屋までのルート開拓は難しいかもしれない。

 

「お疲れ。安全に戦えているようだな」

「はい、ご主人様。

 トカラ君とラファさんとの連携を徐々に確認しながら、無理せずにいきたいと思います」

 アミルの評価では、まだまだ連携を改善する余地があるということか。

 

 安全第一だから、本当に無理せず戦ってほしい。

 

 :

 :

 :

 

「たあぁー!」

 

 迷宮の通路にラファの気合の入った声が響き渡る。

 

 アミルが転倒させたハントアントにラファの槍の一撃が入った。

 声を出したからといって、いせはれ(ゲーム)の世界では攻撃力が上がるとは思えない。

 

 トカラはもちろんのこと、迷宮組は声を張り上げて戦うことは滅多にしない。

 イレーネやヴィルマが怒った時とか、オリビアの気の抜けた声が響くことはあるけど。

 でも、モチベーションを維持して戦うためには必要な行為だと思う。

 

 元の世界で空手、柔道、剣道とつまみ食いした俺だけど、空手の師匠は『気合』の重要性をいつも強調していた。

 『技を磨くのは重要、でも技が足りない時は体力で補え、それも足りなければ気力で補え』が師匠の座右の銘だった。

 最後の気力が尽きる時は負けだから、気力だけは格上の相手でも負けずに戦えと言っていた。

 まあ、根性論の好きな師匠だった。

 でも、柔道の師匠は体力重視、剣道の師匠は技術重視だった・・・・・・指導者による違いかね。

 

 ラファはヘルミーネに師事して、気合の必要性を学んだのだろうか。

 あるいは誘拐されたり、貴族でなくなったりした境遇から不撓不屈の精神力を身に付けたのかもしれない。

 なんにしても14才にして、頼もしい限りだ。

 今回の45階層攻略が貴族への返り咲きを願ってのものかもしれず、そのため気合が入ってるという疑惑もあるが。

 

 45階層の探索は順調に進んでいる。

 2時間ぐらい経過しただろうか・・・・・・今のところ、危ないと感じた戦いは一度もない。

 ただ、戦闘時間は普段の迷宮組と比べれば、長いなと感じるぐらい。

 

 

 戦闘が一区切りついたところで、ドロップアイテムを拾いながら、イレーネが近づいてきた。

 

「御館様、まだ、あたし達の戦い方、心配か?」

「いや、見ていて安心できるな」

 じっと、後ろから見られているのが嫌なのかね。

 

 

 ストーカー・・・・・・じゃない、信用されていないと感じるのだろうか。

 そうだな。これぐらいの出来なら、今日は大丈夫か。後はボス戦を確認したいが。

 

 皆が集まっている所に行って、今後の予定を伝えた。

 

「俺は暫く、皆から離れるが、部隊編成のマップで動きを見ている。

 ボス戦が近づいたら俺も合流するので、それまでは今まで通り探索を続けていてくれ」

「了解!」

「了解!」

「了解!」

「了解」

「了解!!」

 ラファ、言ってみたかったのね。なんとなく分かりました。

 

・・・・・・

 

 皆と別れて、45階層のボス部屋に一番近い小部屋・・・・・・今日のスタート地点に移動。

 これから、魔物部屋の捜索を行うつもりだ。

 

 ソロで45階層をうろつくなど、正気の沙汰ではない。

 だが、俺にはオーバーホエルミングとオーバードライブとワープがある。

 

 相手が少数で倒せると思えば倒すし、倒せないぐらいの人数(面倒な相手)ならワープで逃げればよい。

 逃げると言っても、先に進むのだけど。

 見えている範囲なら、ワープと超速スキルを使って、モンスターよりも高速で移動できる。

 ターレ迷宮の低階層では探索優先で先に進む時にやったやり方だが、45階層はさすがに相手のレベルが高いから無理はしない。

 六匹相手でも勝てる気はするけど、かなり疲れるだろうから。

 

 小部屋を出て、ボス部屋の方向とは逆へと進む。

 クーラタルの地図でも、おおよその魔物部屋の場所は分かる。

 だけど、アバウト過ぎるから距離までは分からない。

 方向は多分合っているだろうぐらいの出来栄えの地図に従い、ズンズンと突き進む。

 

 二、三匹なら倒す。

 四匹以上なら、相手によって超速スキルで脇をすり抜けるか、ワープで先へと進む。

 格好悪い戦い方だが、効率重視だ。

 

 部隊編成のスキルを使いながら、ヴィルマ達の動きも確認する。

 ボス部屋に向かって順調に進んでいるのは間違いないようだ。

 青い点が6つ、たまに赤い点の集団と対峙しながら進んでいくのが見える。

 

・・・・・・

 

 高速で移動しているせいもあって、魔物部屋の近くへと来たようだ。

 後は壁を触りながら、入口を探すだけ。

 

 :

 :

 :

 

 入口を見つけて、雷魔法を使いながら、出入りを繰り返し、最後は超速スキルとデュランダルで殲滅を完了した。

 結構、汗まみれになってしまったな。

 でも、爽快な気分だ。

 ドロップ品を拾って、マップでヴィルマ達のパーティーの位置を確認して、ワープで合流。

 あと少しの距離でボス部屋だし、試験官を再開。

 

・・・・・・

 

 ボス部屋前の待機部屋でアミルを中心にブリーフィングをしている。

 俺は聞いてないフリをしながら、聞き耳を立てている。

 現在、戦闘中のパーティーもいないので、侵入すれば直ぐにボス戦が開始できる。

 

 事前確認は終わったようで、オリビアが俺に手を振りながらボス部屋に入っていく。

 今回の最終入室者はラファか。

 まあ、妥当なところだろうな。

 彼女は足も速いから、走って入っても直ぐに準備できる。

 俺はボス部屋の扉のすぐ横の壁の傍で待機。

 

 ラファがこちらをチラリと見て、直ぐにダッシュで走って部屋に入ると扉が閉まった。

 

(オーバーホエルミング)

 

(ワープ)

 

 急いでボス部屋に入ると、モンスター出現のエフェクト中で、これから戦いが始まるようだ。

 俺がいてもリバースして、モンスターが消えたりはしない。

 複数パーティーでボス部屋に入ったのって、俺が実はこの世界で初だったりするのだろうか。

 いや、過去に異世界転生者がいたら、その限りではないか。

 初代皇帝とか怪しそうだものな。

 

 ともかく、ボス戦が始まった。

 ラファとトカラは初めての相手だ。

 どうなるかな。

 

 :

 :

 :

 

 結果としては、楽勝のようだった。

 やはり迷宮組の前衛陣は強い。

 ボスモンスターのドロセア二匹を相手にオリビアが無双していた。

 

 オリビアを中心に右にヴィルマ、左にイレーネで三対四のマッチアップをして、更に右側と左側をアミルとラファで側面から攻撃していた。

 お供のモンスターが二匹ともネペンテスだったため、包囲攻撃しやすい相手だったな。

 トカラも淡々とファイヤーストームを撃ち続けていた。

 四匹とも火魔法が弱点だから、魔法を変更する余地もない。

 次々に状態異常で戦線離脱するモンスターを尻目に、残った奴を更に袋叩きにして、石像を増やしていった。

 

 その後は、不完全燃焼だったラファのため、ボス周回をやらせてやった。

 ヴィルマやイレーネが、サシでボスモンスターとの相手を望んだからという理由もある。

 

 通常戦闘でもボス戦闘でも綻びを見せなかったので、安定した強さを見せつけた感じだ。

 それもアミルの的確な指示があったからだと思うけどな。

 

 前衛と司令塔が護衛部隊のメンバーに代わっても、45階層の戦闘で問題なければ、護衛部隊の力はホンモノということになるのだろう。

 今日のところは迷宮組の実力を見せつけたという印象だった。

 ラファとトカラも着実に力を付けているとは思うけど、迷宮組はその数段先を歩んでいる。

 

 ラファは今日の戦いをどう思ったのだろうか。

 ヘルミーネに時間を置いて確認してみるかな。

 

 46階層に抜けて、今日の探索は終了とした。

 

 

・・・・・・

 

 その後は、帝国解放会の入会儀礼前日の午前中までに、迷宮組は58階層を攻略し終えて60階層の探索に着手した。

 午後は迷宮組と護衛部隊の混成部隊で46、47、48階層を攻略した。

 混成部隊は綻びを見せず、合間に俺が魔物部屋を発見するだけの余裕もあった。

 おかげで、ザビルに新規参画したメンバーのパワーレベリングもできた。

 レベルという数値だけの話だが、ザビルのメンバーの戦闘部隊/後方支援部隊の層が厚くなっていくのが見えて、とても楽しい。

 

 ザビル第二迷宮の探索も順調に進み、一日に1階層ずつ到達階層を上げるペースを落とすことはなかった。

 

 翌日が入会儀礼ということもあり、準備のために少し早めにクーラタル迷宮の探索を切り上げて帰宅した。

 

 

・・・・・・

 

 自宅の玄関に戻ると、ドロップ品を全て一度倉庫に預けて、アミルと修練場へと向かった。

 ちょっと実験してみたいことがあるので。

 

 俺のジョブは久々のシングルジョブで魔法使いLv88。

 他のジョブはセットしていない。

 

 一方でアミルのジョブは、身請け当初に少しだけレベリングした戦士Lv21。

 お互いにパーティーには入らずにソロの状態。

 

「ご主人様、本当によろしいのですか?」

「ああ、大丈夫だ。気にせずにやってくれ」

 アミルが非常に嫌そうな顔をしている。でも必要なことなのだ。

 

 アミルが意を決して、槍を構えた。

 

「・・・・・・、ラッシュ!」

 

 アミルの槍が俺の竜革の鎧の胸の辺りを突いた。

 

「グッ・・・・・・?」

 痛いのは痛いけど、思っていたよりは全然痛くない。

 

 次に防具を解いて、アミルにもう一度攻撃をしてもらった。

 アミルは先程以上に嫌そうな顔をしている・・・・・・スマンな。

 

 そして、さきほどよりは少し痛い程度で、大して効いていないというのが実感できた。

 

 やはりレベル差が60以上もあると、レベル補正が効いてスキル攻撃であっても致命傷にはならないのだな。

 一応、念のため身代わりのミサンガを装備していたが、当然のように切れることはなかった。

 

 魔法使いは戦闘職ではあるが、前衛職でもないし、体力などのパーティー効果はない。

 それでも、戦士Lv21のスキル攻撃はあまり通じなかったようだ。

 ということは後方支援メンバーであっても、不意打ちや一撃死、戦闘に巻き込まれた際の安全確保のためには、高レベルにすることは意味がありそうだな。

 余裕ができたら、エネドラ達もパワーレベリングしよう。

 

 今更ながら自分達の達したレベルを見て、ハルツ公の僧侶Lv90の男の事を思い出したので、後方支援メンバー用のレベル補正実験をしてみたかったのだ。

 これからも戦闘メンバーだけでなく、後方支援メンバーも忘れずにパワーレベリングに励もう。

 優先順位は付けるけどね。

 

 自分の主人を攻撃するという嫌な思いをさせたアミルに礼を言って、自室に戻ることにした。

 

・・・・・・

 

 魔物部屋までの探索やその後の殲滅でかなり汗をかいている。

 ここ2、3日は帰宅すると、夕食前に風呂場に向かうのが日課になっていた。

 修練場で少し嫌な汗もかいたので、装備品を脱いで風呂場に向かった。

 

 だが、今日は風呂場のドアの前にエネドラ達が待ち受けていた・・・・・・えっと、俺が何かした?

 

「旦那様、お待ちしておりました」

「・・・・・・?」

 何かいつも以上に圧を感じる。

 

「ついに、シャンプーの試作品ができたのです!」

「「「「「「できたのです!」」」」」」

 エネドラの発言にチクルス、ポーラ、アネット、シルビア、フローラ、クララが唱和した。

 

 どこかの騎士団に包囲されたような威圧感・・・・・・既に逃げたい気分。

 

「ひょっとして、これから試したいと?」

「「「「「「「もちろんです!」」」」」」」

 逃げ場はないようだ。

 

 仕方なく観念して、ドアを開けて脱衣場に入った。

 女性陣7人がゾロゾロと入ってきた。

 

 さすがに、素っ裸になる訳にはいかない。

 下着姿になって、着衣のまま風呂場に向かった。

 既に浴槽の四角いタライにはお湯が張られていている。

 手回しの良いことで。

 

「これが試作品となります」

「あ、ああ・・・・・・分かった」

 エネドラから、小さな陶器の壺に入った白いドロドロの液体を受け取った。

 

 見た目はシャンプー?・・・・・・液体石鹸のように見えなくもない。

 覚悟を決めて、実験台になるための段取りを急いで考える。

 

「まずは、髪の毛を十分に濡らす。こんな感じだ。

 髪の毛が汚れているようなら、温めのお湯で洗い流すように丁寧に水分で浸す。

 髪の毛だけでなく、髪の毛の根元の部分も洗う事だな。

 まあ、頭だな・・・・・・その表面もしっかりお湯で洗い流す。

 髪の毛同士をゴシゴシこすり合わせないよう方がよいな。

 頭の表面や髪の毛に爪を立ててはだめだぞ。指の腹でやさしく洗う感じだ」

「「「「「「「・・・・・・!」」」」」」」

 桶に入ったお湯を水で割って温めのお湯を作り、丁寧に頭にかける。

 

 少し、髪の毛を指ですくようにしながら、ゆっくりとお湯をかけて何度か洗い流した。

 いや、普段、こんなに丁寧に髪の毛を洗ってないけど・・・・・・メッチャ真剣にメモっている。

 

「ああ、そうだ。俺は髪の毛が大して多くないけど、女性の中には多い者もいるだろう?

 髪の毛を洗う前に、櫛で髪の毛をすいておくと、汚れが取れてよいかもしれない。

 櫛の通りが良くないと洗いにくいからな」

「「「「「「「・・・・・・!」」」」」」」

 いや、適当に思いついたことを言ってるだけだよ。

 

「次に適量を掌の上に乗せる。こんな感じだ」

「「「「「「「・・・・・・!」」」」」」」

 左手の掌に乗せたけど・・・・・・そんなガン見されても、ホント適当な量だよ。

 

「掌に乗せる量は、髪の毛の量や髪の汚れ具合によって異なる。

 こればっかりは自分の髪の毛だから、使いながら適量を自分で把握するしかない。

 何度も髪の毛を洗っているうちに慣れていくだろう」

「「「「「「「・・・・・・!」」」」」」」

 いやいや、そんなに真剣に俺の髪の毛と掌を行ったり来たりしながら見ても、きっと分からないと思うぞ。

 

 美容師の学校に通ったことないのだから、適当なのだよ。

 親に教わったのかもしれないけど、もう子供の頃のことなので忘れたし。

 別に髪の毛を綺麗に洗うために、ネットで検索したこともないから。

 

「右手にお湯を掬って、左手のシャンプーと揉むように薄めて、泡立てる。

 十分泡立ったら、掌のシャンプーを頭に馴染ませるようにつけていく。

 こんな感じだな」

「「「「「「「・・・・・・!!!」」」」」」」

「い、今の技を・・・・・・もう一回やってもらえませんか?」

 わ、技?・・・・・・全然、適当なのだけど。

 

 泡塗れになった頭を放置して、もう一度掌の上でシャンプーを泡立てるのを繰り返した。

 

「俺がやるのを見るよりも自分でやってみたらどうだ?シャンプーもまだ余ってるだろう?」

「「「「「「「なるほど!」」」」」」」

 女性陣はおもむろにシャンプーを壺から掬い出して、真剣に掌で泡立て始めた。

 

「「「「「「「どうでしょうか?」」」」」」」

「いや・・・・・・大丈夫じゃないか?」

 みんな一斉に俺に掌の泡を見せてくるのだが、正直、違いが分からない。

 

 泡立ってれば問題ないんじゃない?

 

「掌で泡立てたけど、髪の毛でも泡立てるように、優しく指の腹を使って泡立てる」

「あ、本当に泡立ってますね」

 ちゃんと泡立ってるということは、シャンプーの作成に成功しているのだろうか?

 

「先ほども、ぬるま湯で洗う時にも言ったけど、爪を立てて洗ってはダメだからな。

 髪の毛を傷めないように、指の腹で優しく洗うようにしてくれ」

「「「「「「「はい!!!」」」」」」」

 

「十分、髪の毛が泡立ったら、今度はお湯で流す。

 シャンプーが髪の毛に残らないように、十分なお湯を使って流してくれ」

「こんなに、お湯をふんだんに使えるのが、タケダ家の凄いところですね」

 そうなのだよ、チクルス。

 

 拠点構築のスキルは偉大だ。

 お風呂のお湯を作り出す時間短縮にもなるし、所属メンバーの衛生管理にも役立っている。

 魔力は消費するけど、拠点に登録しているメンバーであれば、拠点の魔結晶に魔力が補充できるから魔力切れは起きない。

 油断しないように拠点情報を定期的にチェックする必要はあるけど。

 

 桶に水で割ったぬるま湯を何度も被って、シャンプーを洗い流した。

 リンスやトリートメントはないので、これで終了だ。

 

「まあ、こんなところかな?」

「あ、あの、もう一回やってほしいのですけど・・・・・・」

 ああ、そうきたか。

 

「髪の毛をシャンプーで洗うのは、一日一回までらしい。

 何度も洗うと逆に髪の毛を傷めてしまうと聞いたことがある」

「「「「「「「そうなのですか!」」」」」」」

 いや、元の世界で市販されているシャンプーの品質なら、そうだったという話だ。

 

 こちらで作られたものが、どの程度のものか分からないので、実際のところは不明だ。

 だけど、洗い過ぎが良くないのは事実なので、頻度は少な目でスタートするべきだろう。

 

「まあ、始めのうちは1日置きぐらいで様子見したらどうだろうか?」

「「「「「「「分かりました!」」」」」」」

「あの、旦那様、明日も皆の前で・・・・・・」

 いやいや、もう羞恥プレイは今日だけで勘弁してくれよ。

 

「先ほども言ったけど、見ることよりも実際に自分でやってみることが重要だと思う。

 二人一組でも三人一組でも構わないが、お互いに相手の髪の毛の洗いっこをしたらどうだ?」

「「「「「「「それは名案です!!!!!」」」」」」」

 もう、好きにして下さい・・・・・・。

 

 基本的なことは伝えたから、後は自分達で工夫してくれるだろう。

 

「えーと、体を洗いたいので、皆、出ていってもらえないか?」

「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」

 いや、なんで皆、そんなに声が揃うの?・・・・・・ちょっと怖いのですけど。

 

・・・・・・

 

 その後、体も洗ってスッキリサッパリ。

 

 自室に戻ろうとしたら、ラファに呼び止められた。

 

「ユキムラ様、今、少しお時間よろしいでしょうか?」

「あぁ、別に構わないぞ」

 風呂を終えてしまったが、夕飯までに必須の予定は特にない。

 

「食堂に行こうか」

「はい、ありがとうございます」

 何か相談があるのかな・・・・・・今日のクーラタル迷宮での探索の件とか。

 

 食堂に行くと、既に休憩している者達が何人かいる。

 自室で休むか、食堂でおしゃべりしているのが基本だからなぁ。

 相部屋の相手以外で話をしようと思えば、食堂が手っ取り早かったりするので。

 

 皆から離れたテーブルの椅子に適当に二人で座った。

 

「それで、話というのは?」

「あの・・・・・・ユキムラ様は帝国解放会に入会されると伺ったのですが」

 ヘルミーネから聞いたのだろうな。まあ、ラファぐらいまでなら話をしても問題ない。

 

 レドリックやヘルミーネにも必要以上に広めないように伝えてある。

 彼女がラファには必要と判断して伝えたということなのだろう。

 

「そうだな。明日、入会儀礼というものがあるが、入会はほぼ決まっているようだ。

 とはいえ、これからの行動が何か変わる訳ではないのだけどな」

「そうなのですね・・・・・・」

 うーん、会話の流れがよく分からないな。

 

 

「私も入会することはできるのでしょうか?

 迷宮討伐をする互助組織ということなら、迷宮討伐を目指す者であれば

 入会のチャンスがあると思ったのですが・・・・・・」

「ん?・・・・・・俺が入会するのとは別に、ラファのパーティーで入会したいという意味か?」

 ラファは少し躊躇った後に頷いた。

 

 どうなのだろうな・・・・・・俺が入会した後にタケダ家の別のパーティーが入会するメリットって何かあるのだろうか?

 1つの家で1パーティーまで入会という制約があるとは聞いてないが。

 そもそも世俗の役職、爵位が関係ないのなら、奴隷でも入会可能?・・・・・・でも、奴隷に関することは主人が責任を持つのだよなぁ。

 だが、そんなことよりも、問題点があるだろう。

 

「ラファ、君は他国の元貴族ということもあって、

 貴族が集う場にはあまり顔を出さない方が安全なのではないか?

 帝国解放会は迷宮討伐を目指す者の集まりなので、必然的に貴族が多くなる。

 他国だったとはいえ、帝国にも君のいた国や領地に所縁の者がいないとも限るまい?」

「帝国解放会は世俗から独立した振る舞いを求められると伺ったのですが・・・・・・」

 ヘルミーネ達のいる場で説明した際には、その話もしたが注意事項も言ったと思うが。

 

「ラファ、貴族達が集うからには、建前と本音が入り乱れていることは十分あり得る。

 皆が世俗の事に構わずに振舞っていると思うのは非常に危険だぞ」

「そうなのですか。やはり、ヘルミーネと同じことをおっしゃるのですね」

 なんだ、ヘルミーネからも諫言されたのか。

 

「そうだな。正直、あまり危険なことをしてほしくない。

 焦らずとも、そう遠くない未来に迷宮討伐をするだけの実力を身に付けられるのではないか?

 帝国解放会の会員であるかどうかは、ある意味飾りのようなものだ。

 実力が伴っているのなら、会員であるかどうかは大きな問題ではないと思うぞ」

「私の国には、帝国解放会のような崇高な組織は無かったので、憧れたのかもしれません。

 確かにユキムラ様のおっしゃる通りですね。

 迷宮討伐できるだけの実力を身に付ける方が先だと思い直しました。

 私の話はお忘れ下さい」

 彼女の言葉に、ゆっくりと頷いた。

 

 崇高ねぇ・・・・・・まあ、貴族だから崇高な建前とドロドロとした欲望が渦巻いてる気もするけど、今は彼女の前でそれを言うのは止めておこう。

 

 それにしても、ラファはやはり迷宮討伐に、並々ならぬ拘りがあるようだな。

 拘り過ぎて足を掬われないように注意が必要だ。

 ラファが焦って事故に遭わないように、ヘルミーネとレドリックにも注意喚起しておくか。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/4/20(月)の予定です。
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