異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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089.入 会 儀 礼(その1)

 帝国解放会の入会儀礼の日であっても、午前中は通常運転だ。

 

 朝の訓練でも、最近はスキル使用を解禁することになった。

 レドリックはニムラルのオッサンに詠唱隠蔽の技術を伝授してもらい、数日後には自分のモノにしていた。

 その詠唱隠蔽の練習のためでもあり、詠唱共鳴による詠唱中断の練習のためでもある。

 

 剣士系ジョブ同士の戦いでは、少し間抜けだが常に詠唱し続けながら戦えば、相手の詠唱を阻止することができる。

 それはそれで戦いにくいのだが、相手のスキルを封じるという意味では有効なので、常に詠唱しながら戦闘を行う訓練もしている。

 

 一方で常に相手が詠唱し続けてしまうと、詠唱隠蔽の訓練にはならない。

 なので、詠唱したと見破った時のみ詠唱するようにして、詠唱隠蔽の訓練も行うようにした。

 この辺りはレドリックとヘルミーネが相談しながら、模擬戦のルールを決めたようだ。

 

 始める前にどのような訓練をしたいか申し合わせた上で模擬戦を開始するらしい。

 

 この訓練に興味を持つ者と持たない者とがいたりする。

 迷宮組なら、前者はヴィルマ、後者はイレーネとオリビア。

 

 ヴィルマは百獣王のジョブだが、獣戦士はそれなりの数を見かける程度にメジャーなジョブだ。

 なので、詠唱共鳴による詠唱中断は意識せざるを得ない。

 

 一方で、イレーネの『くのいち』、オリビアの『竜将軍』はかなりレアなジョブ。

 暗殺者系のジョブでは、『くのいち』、竜騎士系のジョブでは『竜将軍』になって、初めてアクティブ系攻撃スキルが使えるようになる。

 現時点では我が家以外で見かけたことのないジョブのため、詠唱隠蔽や詠唱共鳴による阻害技術に興味を持てないのだろう。

 『竜将軍』あたりは、そのうち見かけそうな気もするから、油断大敵だと思うが。

 

 それはともかく、剣士系、獣戦士系のジョブを持つ者達の間では、レドリックが持ち込んだ技術や訓練が最近は浸透し始めた。

 

 ちなみにラファも真面目に取り組んでいる。

 ラファは魔法使い系のジョブの時でも聖槍を使っているので、初見では魔法使いには見えない。

 なので、詠唱隠蔽を使った奇襲が有効だと認識しているようだ。

 

 魔法使いであっても、普段から槍を使ってモンスターに攻撃をしているので、迷宮で練習もしているそうだ。

 モンスターの魔法は詠唱共鳴の影響を受けないのだが、戦闘しながら詠唱をしたり、詠唱隠蔽をしながら戦闘をするといった実戦的な修練の場にしているとのこと。

 真面目過ぎて頭が下がる。

 

 14才にして、迷宮討伐を意識し、対人戦への備えも怠らない。

 元貴族ということに加えて、誘拐された過去の経験も影響しているのかもしれない。

 将来は帝国の貴族になるといった華やかな道を目指したいのかもしれないが、タケダ家が貴族になるのはちょっとねぇ。

 

 

 詠唱短縮や詠唱省略ができるチート能力持ちの俺は、彼女に頭が上がらない気分になる。

 俺の場合は相手の詠唱を中断させたければ、強権系のスキルを融合した武器で攻撃するか、詠唱短縮でスキル名だけを唱えればできてしまう。

 詠唱省略で頭の中で唱えれば、詠唱共鳴の影響も受けない。

 本当にラファ達には申し訳ない気分だ。

 

 そんな俺の気持ちはともかく、目の前ではモニカとマヤの激しい模擬戦が展開されている。

 

 モニカは剣聖Lv56、マヤは剣匠Lv60。

 モニカは木の両手剣を両手で持ち、二刀流で戦っている。

 一方で、マヤは長巻型の片手剣である木刀と鋼鉄の盾を持って、防御に専念しながら隙を狙う。

 

 手数に優る剣聖の攻撃に防御偏重にならざるを得ないのだろう。

 ジョブのレベル差ではマヤの方が若干有利だが、この程度の差ではレベル補正で優位に立つことはできない。

 レドリックと比べれば攻撃偏重のモニカの繰り出す二刀をマヤは慎重に捌いている。

 

 突然、二刀流での攻撃が激しくマヤへ襲いかかった。

 一刀を鋼鉄の盾で防いだものの、もう一刀が逆の腕で痛撃を与えた。

 バランスを崩しそうになるのを必死に耐えて、防御姿勢を保っているのが窺い知れた。

 

「そこまで!」

 

 レドリックが止めに入った。

 

 モニカとマヤが一礼して、模擬戦は終わった。

 怪我を心配して近づこうとしたモニカをマヤの右手が制して、彼女は逃げるように後方の木陰へと小走りで去っていった。

 ミラがマヤの方にゆっくりと近づいていく。今は彼女に任せるべきか。

 

 後味の悪そうなモニカに視線を向けながら、レドリックに話しかけた。

 

「今のモニカの攻撃は剣聖のスキルであるダブルスラッシュだよな?」

「はい、ご主人様。

 モニカとマヤは詠唱隠蔽の訓練もしていました。

 先ほどはマヤが詠唱隠蔽のタイミングを見切れずに、

 ダブルスラッシュを受けてしまったようです。

 ダブルスラッシュは必中攻撃なので、一刀を盾で受けても、もう一刀は躱せません。

 盾2枚なら受けられたのかもしれませんが、それだと反撃できませんから」

 模擬戦でスキル攻撃を使うようになったのは最近のはずだが、かなり実戦的な訓練だな。

 

 それにしても、やはり剣聖のスキル攻撃は対人戦では有効だな。

 詠唱共鳴による妨害や詠唱中断の付与されたスキル融合武器がないと厳しいだろう。

 

 剣士系ジョブ同士の戦いなら妨害は可能だろうが、詠唱隠蔽を使って初見の相手なら有効かも。

 二刀流は剣匠か剣聖のジョブになるから、ジョブやスキル攻撃の存在はバレバレだとは思うが、スキル攻撃のタイミングを相手に気取られないと攻撃の幅が増えるかもしれない。

 

 今回は詠唱隠蔽を見切らなければ詠唱妨害をしてはいけないという特殊ルールだったから、マヤは余計に不利になったのだろうけど。

 

「マヤは最近、自身の技術に伸び悩みを感じているのかもしれません。

 剣士だった頃よりも剣匠になって、急成長したのは実感したはずですが、

 逆にそれ以降の成長に自信が持てなくなってるのかもしれません」

「マヤはミラと同じく防御が得意だからな。

 剣匠でもスラッシュは使えるだろうけど、剣聖と比べるとスキルという面では見劣りする。

 だが、剣聖にするとスキルが二刀流前提になり、盾を使った防御ができなくなるよな。

 ジョブとスキル、戦闘スタイルで、どこに彼女を生かすのかというと難しいところだな」

 今は高レベルの剣匠にすることで、迷宮でもシッカリと活躍している。

 

 今のままレベルを上げ、レベル補正を効果的に使った戦いをしていくのか、別の道を探るのかは悩ましいな。

 別の道というのも簡単に見つかる気はしないし。

 長巻型の片手剣を使って、防御と近中距離の近接戦闘に対応できるバランス型の前衛職というのが当面のシナリオだが、下手すると中途半端な状態になりかねない。

 

 先ほど立ち去ったマヤからは、薄っすらと涙を浮かべているようにも見えた。

 今でも十分に役立っていると俺は思っているのだが、彼女自身が自分の決定力不足を感じているのなら、なんの慰めにもならないのかもしれない。

 何かブレイクスルーになることを考えなければならないだろうか。

 

・・・・・・

 

 訓練と朝食を終えて、午前中は迷宮組としての活動だ。

 

 クーラタルの60階層の探索は昨日から開始している。

 戦う相手の半分はマザーリザード、残りの半分ぐらいは水生モンスターのカープカープ、フロックフロッグ、トータルタートルといった面々。

 マザーリザードがモンスターを召喚してくるのがウザいので、早めの接敵が必要だ。

 更にマザーリザードは全体火魔法まで使ってくるので、詠唱中断で止める必要がある。

 

 全てがタフな相手、加えてやっかいなマザーリザードがメインなので前衛組三人はご満悦。

 好戦的な三人に苦笑いするしかない。

 適度に楽しんだ後、彼女達は残念だろうが、少し早めに切り上げた。

 

 午後から帝国解放会の入会儀礼があるので、俺が早めの昼食を摂るためだ。

 先日のロッジの案内でお腹をグーグー鳴らしてしまっていたので、それを回避したい。

 

 一方で俺以外の迷宮組はロッジに行く予定はない。

 アミルとローザを資料室に派遣したかったのだが、入会儀礼が終わって正式会員になってからでなければ施設利用ができないらしい。

 俺達の振る舞いを見て、セバスチャンが不合格のリスクを感じたのではないだろうな。

 

 ともかく、俺以外の迷宮組は普通の時間に昼食を摂るようで、三人組は修練場へ訓練に、アミルは二階の作業室で装備品生成をするようだ。

 昼からは迷宮組はトカラとラファを加えて49階層の攻略に挑む。

 午後の入会儀礼で俺が不在になるため難色を示したのだが、アミルに説得されてしまった。

 俺が本当にいない緊張感の中で戦ってみたいということで。

 

 49階層から出現するマダムバタフライは麻痺を発生させる可能性があるが、状態異常耐性のある防具を装備しているので危険は少ない。

 更に空中飛行型の相手はオリビアとの相性も悪くない。

 ここはアミルの提案に乗ることにした。

 ボス戦までには入会儀礼を終えて、戻ってこられるだろう。

 

・・・・・・

 

 俺だけ早めの昼食を終えて、ロッジへフィールドウォークで移動した。

 

「これは、ユキムラ様、ようこそおいで下さいました」

「今日は入会儀礼のために来た。よろしく頼む」

 下げる頭の角度も深い・・・・・・が90度まではいってない。70度ぐらいか。

 

 第二位階だと、そんなものなのだろうか。

 それよりも、いつも入口で張っている総書記というのも怖いな。

 今日が入会儀礼のため、特別だと思いたい。

 

 

「ユキムラ様、エステル様は既にお見えになられておりますが、現在は所用で外しております」

「そうか。では、待たせてもらおう」

「直ぐに戻られると思います」

 セバスチャンの視線を方向を見ると・・・・・・ああ、そういうことね。

 

 人が・・・・・・貴族らしき者達が大勢集まっている。

 

「ユキムラ様もいかがでしょうか。エステル様も間もなくあちらから参られると思います」

「分かった」

 もう、あのイベントは確定なのだな。

 

 セバスチャンと共に人が集まっている方向へと歩いていく。

 

「おなりになられました」

 

 途中で声が聞こえると、セバスチャンが走り出した。

 廊下を走ってはいけませんと言いたかったが、それどころではないのだろう。

 あっという間に群衆の先頭の位置に立った。

 俺がフィールドウォークで移動してきた時も、あんな感じで走っていたのだろうか。

 ゲートが開いた瞬間に・・・・・・だとすると、50代でも若々しい動きだ。

 

 廊下の向こうの扉が開き、セバスチャン以下、全員が揃って頭を下げた。

 空気の読める俺も当然、真似して頭を下げる。

 

 扉の中からエステル会長とハルツ公の二人がやってきたようだ。

 遠目でも鑑定スキルをかければ分かってしまう。

 

「セバスチャン、委細問題ないな」

「はい、エステル様」

「では」

 

 エステル会長がセバスチャンに確認すると、開いた扉の前で立ち止まった。

 開いた扉の両側にエステル会長とハルツ公が分かれて立つ形だ。

 そういえば今日、セニ号作戦の状況について、ハルツ公に確認できるだろうか。

 さすがに無理か・・・・・・ドワーフ殺しでも飲んでくれれば口も滑らかになるだろうが、飲むのは新人の方だっけか。

 

 扉の向こう側から三人の男が出てきた。

 それにしても、ここに集まっている貴族は皆、男ばかりだ。華がないな。

 向こうから歩いてきた三人も全員男だし・・・・・・まさかの女性メンバーのサプライズというのはなかったようだ。

 昨晩はダメ出ししたが、この中に混じって、ラファがいるというのは違和感があり過ぎるよな。

 まあ、俺がこの貴族の集団に混じって、帝国で最も高貴な人間を出迎えるというのも決して自然とは言えないが。

 

 ここにいるのが全員、男ばかりということは会員はほぼ男性ばかりなのだろうな。

 エステルのパーティーには女性も存在したので、会員に準じる者という意味では女性も当然いるのだろう。

 俺のパーティーだって、そうなのだから。

 ただ、リーダーが会員登録するから、メンバーまでは会員にはならないのだろう。

 

 貴族だからとはいえ、パーティーメンバーまで全員が会員登録していたら、ここにいる人数は数倍に膨れ上がってしまう。

 芋づる式に会員が増えて収拾つかなくなるかもしれない。

 

 

 さて、一応、確認しておくか。

 

(索敵)

 

 全員、グレーだ。エステル会長を除いて。

 こうなるとエステル会長の異色さが際立つ。青色だけに。

 

(鑑定)

 

 

ガイウス・プリンセプス・アンインペラ(人間族 男 39歳 皇帝)

冒険者Lv41

装備 オリハルコンの剣 聖銀のメッシュウェア 身代わりのミサンガ

 

 やはり、皇帝か。

 影武者ということは無かったな。

 入会を知られると迷宮で暗殺されると言ってたから、影武者の可能性もあると思ったが、考え過ぎだったようだ。

 ここで顔を確認して、迷宮で暗殺とか・・・・・・まあ、それなりの爵位の貴族なら皇帝の顔ぐらいは皆知ってるか。

 俺は今知ったけど。

 

 三人がロッジの中に入ると扉が閉められた。

 セバスチャンが皇帝の前に進み出て迎えている。

 

 

「ガイウス様。この場ではガイウス様で失礼させていただきます」

「苦しゅうない。帝国解放会の決まりは、よく理解しているつもりだ」

「私めの代にてガイウス様のご入会を賜ること、歓喜に堪えません。真に喜ばしい限りです」

「これからよろしく頼む」

 やっぱり、総書記とはいえ、相手が皇帝だと扱いが丁寧だ。世俗を完全に無視できないよな。

 

 そして、ここで名前の確認はさすがにしないのね。

 

 『ガイウスじゃ』とか名乗りはしないか。

 まあ、名前を明らかに知ってる場合は省略するのが当たり前だよな。

 皇帝だと知りませんので、名前を名乗って下さいという小芝居も無しと。

 俺達の時は・・・・・・総書記が俺達のパーティーメンバーの名前を知っていたら、それはそれで驚いてしまう。

 

「お。ユキムラも来ていたか」

「つい先ほど」

 入会儀礼に呼ばれたから来ているのだが。

 

 

 皇帝の出迎えに来てたのが意外だったのかな。

 俺達を無頼の輩とか、セバスチャンから告げ口されてないか心配だ。

 

 

「ちょうど良かった。騒がせたかもしれんが不審がるな」

「大丈夫だ」

 不審がるもなにも、貴族最高位の一角であるハルツ公よりも偉い人なんて、この国で一人だけしかいないはずだ。

 

 いくら帝国解放会が世俗の爵位と関係ないとか言っても・・・・・・いや、このような出迎えしてるのだから、全く関係なくはないじゃないか。

 

「会では世俗の役職など関係のないことだ」

「・・・・・・」

 こんなに大勢で丁寧に出迎えて、言動不一致じゃないっすか?

 

「この者は?」

「本日の入会儀礼を行う予定のユキムラです」

「ユキムラです」

 イレーネを連れてこなくて助かった。

 

 ここで俺よりも早く、「イレーネ」とか名乗られたら、ここに集まった連中の度肝を抜くところだったかも。

 

「ユキムラか。朕のことはガイウスでいい」

「・・・・・・」

 とりあえず、黙って頭を下げた。他にどうしろと。

 

 それにしても、冒険者Lv41か。

 かなりレベルが高い。我が家のレイモンドよりは低いけど。

 39才という年齢からすると不思議ではないが、皇太子から始まって皇帝などの公務をこなしての、このレベルは凄い気がする。

 周りの者がパワーレベリングしてやって、頑張ったおかげかもしれないが。

 

 皇帝を待つ間にひたすら鑑定しまくったが、爵位は様々だったが、物凄く変わったジョブや極端にレベルの高い者はいなかった。

 色魔のジョブはいなかったし、アミルとこの前、ハルツ公の城で模擬戦をやった僧侶Lv90のような高レベル者はおらず、ちょっと拍子抜けした。

 帝国解放会の第二位階の者達が大勢いるのなら、尖った者がいるかと思ったが、いたって平凡に感じた。

 見た目のジョブやレベルでは判断できない、対人戦のスペシャリストや戦争で活躍する者がいる可能性もあるが。

 

 

「では、部屋に行くか」

 

 エステル会長の一声で、入会儀礼に参加する者達だけが動き出した。

 他の者は見送っているのだが、俺の場違い感が半端ない。

 俺だけ平民だからなぁ・・・・・・まあ、今更だが。

 

 このロッジに慣れてないので、急いでエステル会長の直ぐ後ろに付いてしまい、俺の後ろに皇帝、公爵、伯爵が続くという、おかしな行軍に。

 

・・・・・・

 

 三階の一番奥の部屋に入り、エステルがこちらを振り向いた。

 何もない部屋だが、エステル会長、俺、皇帝、ハルツ公、伯爵とカルロスという男の六人。

 

 エステル会長が口を開いた。

 

「準備が整い次第、隣の部屋でガイウス、カルロス、ユキムラの入会式ならびに入会儀礼を行う」

「よろしく頼む」

 入会者を代表して、皇帝が応じた。

 

「よろしくお願いします」

「・・・・・・よろしくお願いします」

 カルロスが応じたので、俺も空気を読んで返事をした。

 

 代表したのではなく、それぞれが返答しなければならないのか?よく分からん。

 

 

「今回は三名とも第二位階の入会だ。入会式には三人の立ち合いが必要となる。

 本日は我の他、ガイウスとカルロスの推薦人のブルーノ、

 ユキムラの推薦人であるブロッケンが立ち会う」

「ブルーノだ」

「ブロッケンだ」

 エステル会長の言葉で、彼の両側にハルツ公と伯爵が並び立った。

 

 

「では、三人はこの部屋でしばし待つように」

 

 立会人三人が隣の奥の部屋に去っていった。

 

「ユキムラは鬼人族か」

「そうだ」

 さすがに今日は多くの目に触れるのでマントをしてきたが、この至近距離ではバレてしまう。

 

 それでも、腕四本あると鬼人族だと直ぐに分かるということは、それなりに知られているのか。

 世俗の爵位は関係ないということだったので、対等のしゃべり方でいこう。

 皇帝との相応しい喋り方の作法など知らないし。

 

「鬼人族の年齢は見た目からは分からないが、いくつになる?」

「17才だ」

 インテリジェンスカードのチェックをされれば、バレてしまうので正直に答えた。

 

「その歳で、第二位階か。とてつもなく優秀なのであろうな」

「この前まで帝国解放会の事を知らなかったので、よく分からないのだ」

 原作では知っていたが、ハルツ公には知らないと言ったので整合性を取った。

 

「朕などは歳を取ってからの入会だからな」

「帝国解放会は種族や年齢は関係ないと聞いたぞ」

 俺の言葉に皇帝はニヤリとした。

 

「そうであったな。どうも世俗の癖が抜けきらぬようだ」

「よく分からんが、大変そうだな」

 俺の言葉のどこにツボがあったのか分からないが、皇帝が大笑いしている。

 

 皇帝に『大変そうだな』はないか・・・・・・でも、きっと大変そうだと思うのだが。

 俺の経験したくない大変なことを沢山知っていそうな気がする。

 

「何か盛り上がってるようだが、そろそろ始めるぞ」

 

 ちょうど場が温まったところで、エステル会長が戻ってきた。

 俺の他に鬼人族を見たことないか確認したかったが、その時間はもらえなかった。

 

「全員、これを着用せよ」

 

 ダルマティカという奴か。

 鑑定しても、一つだけ空きスロットがあるものが一着しかなかった。

 俺のダルマティカは空きスロット無しだ。

 記念に貰える訳ではないから、関係ないのだろうが。

 

「着けたら隣の部屋に行くぞ」

「男爵よ、複数の者が同時に入会するのは珍しいと聞いたが、そうなのか?」

 そこは、『男爵』ではなく『会長』か名前呼びではないのだろうか?

 

 まだ会長とは名乗ってないが、皇帝なら知っているだろう。

 

「そうだな。我が会長になってから複数の者が同時に入会するのは初めてだ」

 

 ここで、ようやく会長であるという役職が公言されたか。

 それにしても、あれだけの人数が集まっていて、複数の人間の同時入会はないのか。

 年に何名ぐらい入会しているのかね。

 歳を取り過ぎたら引退する者もいるのだろうか。

 迷宮で敗れて、永遠に退会する者も一定数はいるのかもしれないけど。

 

「やはり珍しいのか」

「入会の基準を満たす人材はそれ程多くはない。

 三人同時という例はほとんどないのかもしれない。

 二人同時というのは知ってのとおり、

 皇帝が入会する場合には護衛の近衛兵が一緒に入会するのが慣例だからな」

 近衛兵って、皇帝と同じパーティーということなのかな。

 

 迷宮に入った時、近くで守れなければ近衛兵とは言わないか。

 文字通り、近衛兵って訳なのね。

 

「それで誰から行う?」

「俺は二番目で」

 俺はイレーネと違って一番は好きではないのだよ。

 

 レディーファーストって、危険な場所に一番乗りするのを避けるための男尊女卑的な言葉だと聞いたことがある。

 一番は危険だ。

 皇帝もカルロスもレディではないが・・・・・・いや、皇帝はレディに踏まれるのが大好きだったか・・・・・・ある意味危険を冒すのを好むタイプだと言える。

 

「では、朕がやろう」

「そうか、ガイウスからか。その覚悟、見事」

 エステルが言祝いだ。

 

 俺も心の中で賛辞を贈ろう。頑張れ、皇帝!

 

「入会はガイウス、ユキムラ、カルロスの順とする」

「それがよかろう」

 カルロスは護衛として、先に臨まなくて構わないのか?

 

「では、準備を終えたらついて来い」

「・・・・・・」

 みんなそそくさと着替える。

 

 中に入ると、薄暗い部屋の中に、蠟燭が二本ほど立てられている。

 六人全員がダルマティカを着用して、秘密結社っぽいというか怪しい宗教団体っぽい。

 扉が閉まると、蝋燭の明るさだけになり、怪しさが倍増した気分だ。

 

「ガイウスは前に・・・・・・」

「・・・・・・」

 皇帝が、エステル会長の言葉に従い、前に進み出た。

 

「これより、帝国解放会のガイウスの入会式を執り行う。推薦人は推薦の・・・・・・」

 

 エステルの言葉に入会式がどんどん進んでいく。

 入会式自体は原作通りの段取りで、推薦人の言葉、エステルの試験結果の説明、入会の認定、宣誓の儀、会長の歓迎の辞・・・・・・と淡々と流れていった。

 皇帝、俺、カルロスの順で入会式は無事終了。

 これで、入会が決定したのだろうか。

 でも、その後に入会に反対するだの、賛成するだのとイベントがあったよな。

 

 

「引き続き、自らの性的な恥ずかしい秘密を懺悔してもらう。

 帝国解放会会員として強く生まれ変わるために必要な儀礼だ」

「・・・・・・」

 入会したのに生まれ変わらなければならないのか。

 

 精神面を鍛えるため?まあ、ここまで来て断ることはできないのだろうな。

 

「帝国解放会に入会した以上、懺悔した秘密を明かすことはルール違反となる。

 どんな内容であっても、この場から洩れることはないので安心してくれ。

 なお推薦人については近過ぎる場合もあるため、席を外させることも可能だ。

 後ろの二人もガイウスが懺悔する間に何を話すか考えておくように」

 一応は事前に考えてきているので、特に考えることはない。

 

 後はここにいる人間に伝わるかどうかだ。

 

「ガイウスの懺悔だが、ブルーノを外させるか?」

「かまわぬ。朕には聞かれて困ることなどない故」

 勇気あるな。さすがは皇帝。

 

「では、始めよ」

「朕は女の人の胸は大きすぎないのが・・・・・・」

 ああ、やっぱり、その話なのか。

 

 原作で読んでいるから、イマイチ新鮮味がないというか、驚きを感じない。

 

 :

 :

 :

 

「おまえは何を言っているんだ。

 胸の小さい女性が素晴らしいのは当然のことだろうが。

 そんなことも理解できないとは。まったく、小さい女の子は最高だぜ」

 そして、お巡りさんこいつですキャラも健在と。

 

 :

 :

 :

 

「ガイウスの立場では難しかろう」

「仕方がないので、今度、侍女が歩く通路に穴を掘らせ、そこに隠れようかと思う。

 上手くいけば、踏んづけてもらえるかもしれない」

「危険なことは止めてください」

 カルロスの言う通りだが、侍女と皇帝とどちらが危険なのかは微妙だ。

 

 ハイヒールの利用は推奨しないぞ。後々、困るから。

 

「ここまで懺悔したのであれば問題ないのではないか」

「そうだな」

「認めよう」

 懺悔って、自らの過ちや罪を認めて悔い改めることで許しを請うのではないのか?

 

 皇帝は全く許しを請うているようには見えないのだが。

 どちらかというと珍妙な性癖を自慢しているだけなのでは?

 

 事前に知っていたからという事を差し引いても、客観的に見て大したことがないと感じる。

 インターネットの汚れた知識に塗れているせいだろうか?

 皇帝の話はR18・・・・・・には程遠く、R15ぐらいが関の山ではなかろうか。

 R18はともかく、R15の定義は俺も詳しくは知らないのだが。

 

 15才って、こちらの世界で言えば成人だよな。

 元の世界ではR18に相当するのだろうか・・・・・・既に自分でも何を言ってるのかが分からなくなってきた。

 考えたら負けか?




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/4/22(水)の予定です。
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