異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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091.武者修行と三人目

 入会儀礼を済ませた翌日、朝食を済ませて迷宮探索の準備に自室へ戻ろうとしたら、相談を持ち掛けられることになった。

 目の前のテーブルの席にはマヤ、ミラ、レドリック、ヘルミーネ、エネドラが座っている。

 これはマヤとミラに関する相談なのだろうか・・・・・・彼女達は同室のはずだが・・・・・・クーラタルの幹部三人が揃って俺に相談って?

 

「旦那様、今後の件でマヤが相談したいそうです。

 ミラがマヤから相談され、私の所に話を持ってきたので、

 レドリックとヘルミーネにも相談したのですが、旦那様と相談するべきだと判断しました」

「まず、エネドラの所に話が来たのか?」

 レドリックやヘルミーネではなく、何故、エネドラの所なのだろうか?

 

「マヤ、まずはあなたの口から説明してみなさい。

 足りない事があれば、周りの者が補足します。

 私達は皆、貴方のやりたい事には理解を示しています。

 あとは自分の言葉で旦那様に理解を求めなさい」

「あ、はい。それでは・・・・・・えーと・・・・・・」

 マヤは少しアタフタしているようだが、幹部三人が賛同しているのなら、俺が反対することはない気もするけど。

 

「あ、あの・・・・・・私はここを出て、武者修行をしたい・・・・・・です?」

「ん?武者修行?」

 しかも、最後が何故、疑問形?

 

「ご主人様、マヤはニムラルさんの所に行って、稽古をつけてもらいたいと言ってるのです」

「なるほど」

 マヤの言葉だけでは全然分からなかった。レドリックの通訳が必要だな。

 

「わ、私は最近、自分の力に自信が持てなくて・・・・・・、

 今までと何か違うことをしなければならないと思うのですが、それも思いつかなくて。

 レドリックさんに技を教えたというニムラルさん?・・・・・・という剣の達人に教えを乞えば、

 今までの自分を変えられるかもしれないと思いまして・・・・・・、

 そのためには、ここを一度離れて、ターヘラ?・・・・・・へ行って・・・・・・

 武者修行?・・・・・・した方がいいのかもしれないと思って・・・・・・」

「・・・・・・」

 うーん、どうだろうな。

 

 まあ、環境を変えたら、何かが変わるということはあるのかもしれない。

 一応は同じ狼人族だし、エステル会長のようなセクハラの雰囲気はニムラルのオッサンにはなかったから、修行するだけなら危険はないか?

 あのオッサンが教えるのが上手いのかは未だに疑問ではあるがな。

 それでも子供達には教えているし、双子は獣戦士のジョブを得たし、そしてレドリックも詠唱隠蔽の技を教えてもらったよな。

 何かを教わるのなら、意外におもしろいのかもしれない。

 

 マヤは狼人族だが、敏捷性に優れた軽戦士ではなく、大柄でベタ足で戦う盾防御を中心にした近接戦闘を得意としている。

 剣の扱いも上手いから、剣士系ジョブでステップアップして剣匠のジョブを取得し、迷宮探索では前衛の中央で盾役を務めることが多い。

 剣匠の上位ジョブである剣聖も取得しているが、剣聖のスキルが二刀流前提のため盾との相性が悪く、剣匠のジョブに留まってジョブのレベルを上げている。

 

「マヤは、この家を離れて別の場で修行したいということが受け入れられるのか疑問で、

 旦那様に伝える前に、私の所に相談に来ました」

「まあ、確かにエネドラに相談するという判断は悪くないな」

「ミ、ミラちゃんが、エネドラさんに相談した方がいいって言ってくれて」

 同室だから、仲が良いのだな。結構なことだ。

 

 

「それで通いではなく、ターヘラに住み込みで修行したいのだな?」

「はい。ターヘラの剣術指南所?・・・・・・に寝泊まりしようと思ってます。

 ただ、レイモンドさんに聞いたら、ニムラルさんは時々?・・・・・・、

 他の人達と迷宮探索に行くので、それにも同行しようかと思っています。

 実戦で教われば、何かを得られるかもしれないので」

 マヤは自信の無さそうな表情と真剣な表情が半々に見て取れる。

 

「そうか・・・・・・そうだな。まあ、構わないのじゃないか?

 マヤがそれをやりたいというのなら」

「は、はい。ありがとうございます・・・・・・ありがとうございます」

 マヤは何度も、俺にお辞儀をしている。

 

 周りの皆も何か嬉しそうな表情だ。

 こういう雰囲気のタケダ家を俺は結構、好きだったりする。

 マヤは剣匠Lv60だし、タケダ家以外の者が一緒のパーティーでも他の者を守れるだろうし、万が一にも後れを取ることはないだろう。

 

「では、早速、この後、ターヘラに行って相談してみよう。

 今日の午前中は迷宮組の探索は休みにするか」

「あ、私がアミルさんに伝えてきます」

 ミラは席を立ちあがると、食堂を出ていった。

 

 二階のアミルの部屋に行くのだろうな。

 

「マヤも一応、この後、そのまま住み込みでターヘラへ行くことを前提に、

 部屋の整理や出発の準備をしておいてくれ」

「あ、はい、分かりました。それでは・・・・・・ありがとうございます」

 マヤはペコペコお辞儀をしながら、食堂を出ていった。

 

「ご主人様。ニムラルさんは、そんなに簡単に引き受けてくれるでしょうか?」

「俺の勘だが、在宅であれば、ほぼ確実に引き受けてくれると思うぞ。

 ただし、何かを得られるかどうかはマヤ次第で、彼の関知することではないって感じかな。

 引き受けてもらう対価に、こちらは防具や武器を供出しようかと思っている。

 あのニムラルという男はあまり報酬に拘らないと思うが、

 こちらとしても無償で引き受けてもらうのは悪いと思うしな」

 あのオッサンは細かいことには頓着せず、マヤを引き受けると確信している。

 

「それよりも、マヤが暫く抜けるとなると、ザビル第二迷宮の前衛が一人欠けることになる。

 レドリックはどう思う?」

「一日置きですが、ミラを前衛に復帰させようかと思っています。

 本人も望んでいるようですから。

 最近、実戦を離れていたので、本人も思うところがあったようです。

 多分、今、ミラの方からアミルさんの方に説明していると思いますよ」

 鍛冶師が一日不在になるのを避けて、ザビル第二迷宮の探索メンバーから外したのだったな。

 

 ザビル拠点から前衛を補充する手もなくはないが、あちらも前衛メンバーが不足していたから、クーラタル側に回すのは厳しいか。

 

「そうか、ミラはミラでイロイロ考えるところがあったのだな。

 となると、鍛冶師の三人目も考えるべきかもしれない。

 エネドラ、ヘルミーネ、ちょっと確認したいのだが。

 前に奴隷商館巡りをした際には、鍛冶師になりそうな奴隷はいなかったのだよな?」

 俺の質問に、二人が背筋を伸ばした。

 

「いえ、鍛冶師は既に二人タケダ家にいますので、

 鍛冶師候補という視点では選出しませんでした。

 ドワーフの探索者は何人かいたと思います。

 ちょっとメモを取ってきますので、お待ちください」

「ああ、急な話で悪いな。お願いする」

 一応、いることはいたのかな。

 

 俺が改めて奴隷商館巡りをしても構わないが。

 

 ミラが戻ってくるよりも早く、エネドラが戻ってきた。

 

「旦那様、ドワーフの探索者は2名面談しており、いずれも女性です。

 一人はLv6、もう一人はLv12です。

 Lv6の方が18才で、もう一人は19才のようです。

 18才の方はレベルが低いこと、

 19才の方は弱気そうなので探索者の候補としては外した感じですね。

「なるほど、ありがとう。では、ターヘラに行って話をした後に行ってみるか」

 エネドラがリストを俺に見せてくれた。

 

 18才の方が帝都で、19才の方はドブローの奴隷商館か。

 まあ、アミルとミラと年齢が近い方が良いかもしれないから、帝都の方から行ってみるか。

 レベルの低さは何とでもなる。

 もう一人の弱気というのも、内勤向きというのであればアリかもしれない。

 ゼノとゼナの件もあるしな。

 

「一人増やすとなると、部屋の問題があるか。

 ザビルの方もなんだかんだと人を増やしたから、部屋が埋まってきてるからな」

「旦那様、一期工事分で増築した1階の一部が完成してますので、

 そちらを使ってはどうですか?2階部分はまだ工事中なので昼間は煩いですが、

 夜になれば使用には問題ないと思われます」

 それしかないか。

 

 確か一期工事分で完成したのが、談話室が二部屋と居住スペースが六部屋か。

 今までは二階の工事が完了してないので遠慮していたが、そんなことも言ってられないか。

 

「分かった。拡張した玄関の横の一階部分を開放しよう。

 ザビル側はもう受け入れるスペースがないからな」

「はい。では、身請けが決まったら、掃除をするようにします。

 今なら人手に余裕がありますから。

 それと、これからも人が増えることを前提に家具類も調達しておきます」

「ああ、よろしく頼む。

 今度はザビル側の増築工事も考えなければならないな。

 今晩にでも、カラダンに相談してみるか。

 既に考えてそうにも思うが」

 俺の言葉に彼女は頷いた。既に相談を受けている感じだな。

 

 

 そうこうするうちに、ミラが戻ってきた。

 アミルに説明を終えたようだ。

 二階からヴィルマ達が降りてきたのが、食堂のドアの先に見えた。

 きっと、そのまま修練場へ訓練に行くのだろう。真面目だ。

 悪いな。急に予定を変えて。

 でも、いつかは行かなければならないので、早い方が良いと思ったのだ。

 

 やがて、マヤも戻ってきた。

 リュックにいつもより、多めの荷物を詰めている感じに見える。

 問題はオッサンがいるかどうかだが、いなければナナイにまずは話だけ通しておこう。

 いずれにしても、俺だけでなく本人も一緒に行った方が誠意が伝わるだろう。

 押しかけの弟子という気もするが。

 

「では、俺はマヤとターヘラに行ってくる。

 相手が不在なら、ナナイに話だけしてマヤと戻ってくる。

 いるようなら、そのまま話をつけてマヤを置いてくることになると思う」

「はい。承知しました。

 マヤ、気を付けて行ってらっしゃい。それとこれを・・・・・・」

 エネドラがお金が入ってると思しき小袋を渡している。

 

 もう、行かせるのは彼女の中では、ほぼ確定だったのだろうな。

 小遣いを準備していたぐらいだから。

 

「マヤちゃん、頑張ってきて!」

「うん、ありがとう。何が得られるか分からないけど・・・・・・頑張ってみる」

 同室のミラの言葉を受けて、マヤが頷いている。

 

「私の方も、時間を見つけてマヤの所に行くようにします。

 向こうで何か必要なものがあれば、届ける必要があるでしょう。

 もし、ユキムラ様も何かマヤに申し付けたいことがあれば伝えますので」

「ああ、分かった、ヘルミーネ。

 修行に集中するべきだとは思うが、何か連絡事項はあるかもしれない。

 その時は頼むとしよう」

 皆のマヤへの心遣いを嬉しく感じてしまう。

 

 マヤと二人で皆に見送られて、ターヘラの孤児院へと移動。

 

 これで、オッサンに断られるなんて事になったら、俺の立場がないな。

 まあ、不在はあっても、断られることはないと思うが。

 

・・・・・・

 

 結論から言えば、ニムラルのオッサンは在宅で、即決で受け入れてくれた。

 対価の話をする前に即答しやがった・・・・・・こういうところは武人というか、ナナイが苦労する原因というか・・・・・・まあ、助かるのだが。

 

 対価の話をすると、ナナイから一度は断られたのだが、子供達全員分と予備数セットの武器と防具を渡すことで押し切った。

 既に双子を身請けする時の対価の一部で装備品は渡していたが、全員分ではないので、それを補う分にプラスアルファの数を渡すことにした。

 一部は硬革の装備品もあるので、子供達には重いかもしれないが、そのうち成長するだろうし、装備品は体に合わせてサイズが調整されるので無駄になることはないだろう。

 次にヘルミーネが、ここに来る時に渡すことを了承してもらった。

 

 俺達とこの孤児院の間で水臭いと言われたのだが、こちらも大きな商家を営む以上、そのメンバーに良くしてくれるのであれば、対価を渡さない訳にはいかない。

 仮にマヤが何も得ることなく帰ってくるにしてもだ。

 まあ、経験したことは成功でも失敗でも次へと繋がるはずだから、無駄にはならないだろう。

 マヤが笑顔で戻ってくる未来に期待したい。

 

 それに、こんな世の中だからと言って、オッサンやナナイは子供達にも戦闘系のジョブに就けようとしてるのだから、やはり武器、防具類は常備すべきだろう。

 

「マヤ、納得できたら、いつでも戻ってこい」

「はい。頑張ります。私の我儘をお許しいただき・・・・・・ありがとうございました」

 頑張ろうとする奴は、つい応援したくなってしまう。

 

 身内に甘いとか、誰かに言われそうだが、我が家はそんなものだ。

 

 マヤにもう一声、励ましの声をかけて、ターヘラを後にした。

 次は帝都の奴隷商館か。

 クーラタルでエネドラをピックアップするために、一度自宅に戻ることにした。

 

・・・・・・

 

 エネドラにマヤは無事に剣術指南所で預かってもらったことを伝えた。

 その後、彼女をパーティーに加えて、帝都の奴隷商館へ。

 

 彼女が面談したドワーフの探索者女性を求めたのだが、あいにく売れた後だった。

 そういえば、エネドラとヘルミーネに推薦してもらった際にも、売れてしまった者がいたな。

 日が経つと、やはり売れてしまうのは仕方ない。

 

 気を取り直して、ドブローの奴隷商館へ。

 店主に取次をお願いし、前に面談した者を指名で再度、面談させてほしいと伝えた。

 やがて、店主が一人の女性を連れて、入室してきた。

 

 

(鑑定)

 

 

サンドラ(ドワーフ族 ♀ 19才 奴隷)

探索者Lv12

装備 皮の靴

 

 確かに、探索者Lv12だ。

 19才という年齢からすると優秀な部類だろうか。

 ただ、表情が冴えないように見えるな・・・・・・俺の雰囲気が厳ついのが悪いのだろうか?

 レイモンドも19才で身請けしたけど、ここまで確かレベルは高くなかったよな。

 

「では、この者と我が家の者の三人だけで面談をさせてもらえないだろうか?」

「それはできません」

 はっ?サシの面談NG?・・・・・・何故?

 

「理由を教えてもらえないだろうか?」

「お客様のためでございます。

 この者は私が同席していない場では、消極的な発言をするため、それを防ぐ目的です。

 私がいれば、しっかりと自分の特徴をお客様に説明させることができますので」

 ん~?ホントか?逆に腹を割った話をするのを阻害するのでないか。

 

「店主がいない場での面談は、どうしてもダメか?」

「お客様のためでございます」

 許可は出ないと。

 

「仕方がない。では、このまま面談としよう。まずは、得意なこと、苦手なことから教えてくれ」

「はい。ドワーフの探索者でサンドラと言います。

 よろしくお願いします」

 多少、キョドッてはいるが、挨拶ぐらいはできるのだな。

 

 ここに今いるエネドラのことを覚えているのだろうか。

 それとも、ヘルミーネがこのサンドラに何か言ったのだろうか?

 

「得意なのは、剣と槍です。探索者Lv12で今年で19才になりました。

 迷宮での探索経験は6年ぐらいになります。

 苦手なことは人前でしゃべることです」

「未成年の頃から迷宮に入っていたのか?」

 俺の質問に笑顔で頷いている。迷宮に入るのが好きなのかな。

 

「はい。11才の頃から迷宮に入ってました」

「・・・・・・」

 ん?・・・・・・計算が合わないような。

 

 11才からで6年間なら17才?・・・・・・まあ、奴隷の期間があると自由に行動できないし、迷宮に入ってなかった期間があっても不思議ではないか。

 それにしても11才から迷宮って、人生ハードモード過ぎじゃないか?

 

「ドワーフということは、鍛冶師についての憧れは持っているのか?」

「い、いえ、全然・・・・・・もうLv13ですし、とっくに諦めております」

「お客様はご存じないかもしれませんが、探索者Lv10で鍛冶師になれない者は、

 鍛冶師になれる才能がないというのが定説でございます」

「・・・・・・」

 まあ、一般論は知ってるつもりだ。だが、俺は自他共に認める非常識人間なので関係ない。

 

「剣と槍に自信があると言ってたな。今から、俺と模擬戦をしてもらうことは可能か?」

「えっ、お客様、それは・・・・・・」

「大丈夫です。剣と槍には自信があります」

 おおぉ、言い切ったな。これは頼もしい。是非試させてもらいたい。

 

・・・・・・

 

 奴隷商館の裏庭で、俺はサンドラというドワーフの女性と対峙している。

 彼女は木の盾と木刀を両手に持ち、少し重心を低めに構えた。

 なかなか雰囲気がある。

 俺も彼女に合わせて同じ武器と盾を持つことにした。

 

「では。始めよう。まずは、好きに攻撃してくれて構わない。打ち込んでみてくれ」

「はい」

 剣を握ったら、先ほど見せていたキョドッた感じはないな。

 

 打ち込んできた木刀の鋭さを見る限り、6年間迷宮に潜っていたという話に嘘はないようだ。

 こちらが軽々と彼女の剣を受けるのを確認すると、次々に鋭い剣戟を放ってくる。

 びっくりする程の才能は感じないけど、悪くない。むしろ上出来に思える。

 

「もういいぞ。分かった。ありがとう」

「はあ、はあぁ・・・・・・これだけ打ち込んで・・・・・・全然、当たらないなんて」

 いやいや、セブンスジョブの俺に大健闘だって。

 

「じゃあ、次は槍を使ってもらおうか」

「は、はい・・・・・・」

 

 :

 :

 :

 

 槍は剣ほどではないが、それでもそつなく扱えている。

 近接戦闘と中距離戦闘を代わる代わるこなせる程度には器用な探索者なのだな。

 まあ、探索者はジョブの効果からしても、バランス型になる傾向があるから、そんなものか。

 近接・中距離戦闘をこなしながら、我が家の第三の鍛冶師になってもらえれば問題ない。

 

・・・・・・

 

 模擬戦を終えて、彼女を下がらせて、店主と価格交渉。

 裏庭から戻る時にエネドラに確認したが、彼女もサンドラをタケダ家に迎え入れることには異論なさそうだった。

 後は金額次第だな。

 

 

「あの娘の値段はいかほどだろうか?」

「性奴隷は非承諾ですが、戦闘経験の長さから、お値段は20万ナールとなっております」

「ふむ・・・・・・経験が長いとは言ってるが、

 俺と模擬戦をやった感じでは大した技術はなさそうだったな。

 我が家には戦闘奴隷が複数いるが、あの者よりは全然、実力が上に感じたぞ」

 まあ、みんな初級ジョブを脱却して、次のジョブでLv50前後ぐらいはあるから嘘ではない。

 

「むっ、それでは16万ナールではいかがでしょうか?」

「店主殿は彼女一人では弱気になると言っていたではないか。

 弱気な性根は戦闘奴隷に不向きなのに、その値段を付けるのか?」

「・・・・・・では、14万ナールではいかがでしょうか?・・・・・・これ以上はまかりません」

 初めにサシの面談を拒否されたので、意趣返しをしたくなってしまったな。

 

「では、彼女は死後相続で、ここいるエネドラに相続させたいので、その手続きも頼む。

 その場合は、合計でいかほどになるだろうか」

「本日、会ったばかりの彼女にそれほどの待遇をしていただく事に感謝を込めて、

 合計で、9万8350ナールでいかがでしょうか?」

「分かった。その金額で問題ない」

 結局、初めの値段の半額以下にさせてしまった。悪いな。

 

 『これ以上まからない』金額からまけさせてしまう、3割引スキルの極悪非道さ。

 

 だが、面談させてくれていたら、ここまで値切らなかったと思うぞ。

 銀貨35枚出すのが面倒だが、値切らせたのが俺だから仕方ない。

 

 指定された金額を払い、彼女を呼んで死後相続の手続きを完了。

 これで、我が家に三人目の鍛冶師が加わった訳だ。

 まだ鍛冶師のジョブは取得できていないので、鍛冶師候補だが。

 

「では、世話になったな」

「またのお越しをお待ちしております」

 店主と別れて、奴隷商館を後にした。

 

「では、俺のパーティーに入ってくれ。

 友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成・・・・・・」

「あ、はい」

 商館に入る前に1stジョブを冒険者にしたので問題はない・・・・・・問題は・・・・・・えっ?

 

 パーティージョブ設定で見ると、見慣れたジョブがあるのだが・・・・・・。

 

サンドラ(ドワーフ族 ♀ 19才 奴隷)

探索者Lv12

装備 皮の靴

 

(控えのジョブ)村人Lv6 農夫Lv1 剣士Lv1 戦士Lv1 薬草採取士Lv1 ()()()L()v()4()

 

 Lv1ではなくLv4ということは・・・・・・鍛冶師としての経験有?

 ん?どういうことだ。

 

「旦那様、どうなさいました?」

「いや、後で話す。まずは自宅に戻ろうか」

 

 適当な木陰にゲートを開いて、クーラタルの自宅に戻った。

 

 玄関でまずは、室内土足厳禁ルールをエネドラが指導し、その後は三人で食堂へ。

 あまりに大きな屋敷に、サンドラは再びキョドッた状態に戻ってしまった。

 

 

「サンドラ、ようこそタケダ家へ。我が家は君を歓迎する。

 歓迎するのだが、まずは君に確認しておきたいことがある。

 君は鍛冶師の経験があるようだな。

 それを隠していた理由を教えてもらえないだろうか?」

「!・・・・・・」

 彼女の視線は俺とエネドラの顔の間を行ったり来たりしている。

 

「えーと、なんのことでしょうか?」

「そうか。では。

 滔々(とうとう)流るる(たま)の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン」

 彼女のジョブを鍛冶師に変更した後に、左手を持ってインテリジェンスカードを表示させた。

 

「えっ、どうして、インテリジェンスカードが・・・・・・あっ、これは・・・・・・」

「ここには君が鍛冶師と表示されているのが見えるよな?

 この理由を教えてほしいのだが・・・・・・」

 先ほど以上にキョドってしまい、オロオロしている。

 

 落ち着くのを待って、今度はエネドラが彼女に話しかけた。

 

「この旦那様の前では全てを隠し通すことなどできません。

 別にあなたが鍛冶師をやりたくないのなら、無理にとは言いません。

 でも、せめてその理由を正直に打ち明けてもらいたいのです」

「あ、はい。その、実は・・・・・・」

 彼女は観念したのか、自分の過去を語り始めた。

 

 

 彼女の話によると、探索者で暫く実力をつけていたのだが、同じパーティーの者が誤って魔物部屋に入ってしまい、パーティーが半壊。

 その時に死亡した探索者のリーダーがパーティーの資金を管理していたため、所有資金がほぼ消失して税金が払えずに奴隷落ちになったらしい。

 

 その後に奴隷契約した商家で迷宮探索者としての実績を買われて、鍛冶師のジョブを取得。

 暫くはその商家で、お抱え鍛冶師としてやっていたのだが、スキル融合が上手くいかずに商家も傾いてしまったとのこと。

 所属していた商家没落と同時に再度奴隷として売られ、ドブローの奴隷商館に流れ着いた。

 その時の辛い経験から、鍛冶師の奴隷として売られることを回避したかったらしい。

 ギルドで探索者ジョブに戻り、迷宮探索者の奴隷として生きていく決意だった模様。

 

「スキル融合は除くとして、装備品を作ったり、モノ作りをするのも嫌いだったのか?」

「そんなことはないです。

 ただ、スキル融合は失敗続きなので、期待に応えられないのが凄く辛くて・・・・・・」

 彼女は涙を浮かべながら、過去の話を俺達に聞かせてくれた。

 

「我が家には既に鍛冶師が二人いて、君には三番目の鍛冶師になってもらうつもりだったのだ。

 スキル融合は筆頭鍛冶師の仕事なので、君にスキル融合を頼むことはないが」

「鍛冶師が既に二人?私は三番目?スキル融合しなくても構わないのですか?」

 彼女の問いに黙って頷く。

 

 やっぱり巷の鍛冶師って、相当メンタルが強くないとスキル融合を続けられないのかな。

 10回に1回しか成功しないのに、何度もスキル融合するのだから、相当タフな神経じゃないと続けられないか。

 

「それなら鍛冶師として、やっていっても・・・・・・」

「まあ、焦ることはない。

 まずは、この家にいる鍛冶師の二人と話をしてみたらどうだ?

 俺の言葉よりも、同じ境遇の二人に相談してみると、より納得できると思うぞ。

 君がこの家でどうやっていきたいのかは、それから決めても遅くない。

 もちろん、鍛冶師をやってもらうのは有難いと思う。

 だが、無理に続けても上手くいかないことを経験したのだろう?」

「あの・・・・・・それで宜しいのでしょうか?」

「大丈夫よ。旦那様のおっしゃる通り、焦らずにじっくりと考えてから決めなさい」

 エネドラが話を巻き取ってくれた。

 

 これで、後はエネドラとアミル、ミラと相談して上手くやっていくだろう。

 レドリックとヘルミーネも相談相手になるはず。

 鍛冶師にしろ、探索者にしろ、進みたい道が決まれば、ジョブの育成は俺がパワーレベリングでなんとかする。

 

 サンドラにタケダ家でのルールを教えることや、彼女の進路相談をエネドラの采配に任せて、俺は迷宮探索に注力させてもらおう。

 

 とはいえ、古馴染みの取引は俺が出て行かざるを得ない。

 夕方にベイルのビッカーを訪ねて、ビー玉の納品をしたが、そこで遅ればせながら石鹸の委託販売を行いたいと打診を受けた。

 結構前に提案していたので諦めたのかと思っていたが、やる気になったようだ。

 なんにしても、販売ルートが増えるのは大歓迎だ。

 

 とりあえず、平民用石鹸20セットを置いて、スモールスタートで開始するとのこと。

 委託販売だから、売れなくても損はしないと思うけどね。

 

 ビー玉の納品は、あと一回で終了だ。

 石鹸の委託販売はビッカーとの取引を継続する良いネタになったかもしれない。

 次回のビー玉納品の約束をして、ベイルを後にした。

 

・・・・・・

 

 その後は通常運転に戻り、迷宮組はクーラタルの60階層攻略、迷宮組と護衛部隊の混成チームはクーラタルの50階層以降を攻略して回った。

 混成チームは綻びを見せることなく、53階層までの攻略を達成。

 初めの一時間程度を確認し、その後は俺は別行動で魔物部屋の探索&殲滅して、最後のボス戦を見届けるというルーティンになった。

 

 迷宮ボス戦における装備品破壊が、ある程度まではレベル上げで回避できることを入会試験の際に聞き出せた。

 なので、レベル上げをかなり頑張れば、混成チームの実力なら、俺が加わらずとも迷宮討伐が可能な水準まで達してるのではないかと期待してしまう。

 

 ハルツ公が帝国解放会の特別会員である事実と、ゴスラーの最精鋭パーティーのレベルを考えるとLv60~Lv70ぐらいが一つの目安なのかもしれない。

 そして、僧侶Lv90の男も通常なら後衛職でありながら、迷宮ボス戦では装備品破壊を回避する能力が実は高いのではないかと疑っている。

 聖騎士が前衛で最前線を支えているのだろうが、装備品を万が一破壊されたら、前衛に代わりに僧侶が入って、その間に装備品を交換するような戦略を取っているのかもしれない。

 今度、模擬戦でもする機会があれば、鎌をかけてみようかな。

 

 マヤの代わりにザビル第二迷宮探索の前衛に入ったミラも、特に問題なくこなしているようだ。

 一日置きに迷宮探索と鍛冶作業を行なっている。

 結局、サンドラはアミルとミラの話を聞いて、鍛冶師に再度返り咲くことになった。

 

 現状、タケダ家ではアミルだけがスキル融合しており、ミラは装備品の生成しかしていないという話が安心材料になったようだ。

 鍛冶師ギルドの登録は、鍛冶師としての再登録ということで、ザビルで行うことにした。

 今は鍛冶師としてのレベリングをしながら、修練場で護衛部隊の面々と訓練に励んでいる。

 

 ザビル第二迷宮の探索も、マテウス達のザビル第一迷宮の探索も順調に進んでいる。

 

・・・・・・

 

 マヤが武者修行に出てから3日程経ったが、彼女は今どうしているのだろうか。

 オッサンに連れられて迷宮探索で活躍しているかもしれない。

 何か手がかりというかキッカケでも掴めると最高だが、3日で何か掴めるようなら、今までそんなに苦しんではなかったはずだ。

 戻ってくるのは当面先だろうが、笑顔で無事に帰ってきてほしい。

 

 そんな事に思いを馳せていたら、夕食時にエネドラから俺宛の伝言というか手紙が届いたという話があった。

 手紙の差出人はもちろん、マヤではない。

 というか、こんな豪華な手紙をもらったことがないのだが・・・・・・嫌な予感しかしない。

 

 食事を終えて、恐る恐る封を開けると、『師兄(すひん)』とか『エナメルのハイヒールブーツ』という言葉が目に入った。

 どうやら、ロッジへの『出 頭 命 令(例のブツを持ってこい)』のようだ。

 というか、普通、皇帝から伝言とか手紙が来るか?

 カルロスかセバスチャンの入れ知恵だろうか。

 

 帝国解放会の入会式の際に住所を伝えていないのだが、何故、ここに手紙が届くのだろうか。

 暗殺対策のため、会員の情報は秘匿されるのではなかったのか?

 帝国解放会の個人情報管理はどうなっているのかと、小一時間説教をしたいくらいだ。

 

 とは言え、空きスロット5つのエナメルのハイヒールブーツが欲しくない訳ではない。

 帝国の最高権力者からの呼び出しであれば、行くしかないか。

 

 いくつ皮の鎧を持っていこうか。

 確認したら、予備は3つあった。念のため3つ持っていくか。

 いや、商人と交換で手に入れると言ってしまったから、いきなり持っていくのはダメだな。

 エナメルのハイヒールブーツを入手してから持っていくしかないか。

 つまり最低でも二回はロッジに行かなければならないのか。

 面倒だが、空きスロット5つの装備品を手に入れるためだから仕方ないな。

 

 入会儀礼で顔を合わせた面々が、皆、エナメルのハイヒールブーツ二足を持って待っていたら、どうしよう・・・・・・?

 ハルツ公まで並んでいることはないよね?・・・・・・綺麗な奥さんとマットで・・・・・・いや、これ以上は止めておこう。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/4/28(火)の予定です。
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