異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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092.資料室(ロッジ)

 皇帝から召喚状をもらった翌日、ロッジに行くことにした。

 せっかくだからローザとアミルも連れていくことに。

 護衛は俺が務める。

 

 というか、俺も資料室で調べ物をするので、今日は終日、護衛兼資料調査の文官だ。

 資料室に入って索敵で確認すれば、(赤色)が分かるから、俺以上の護衛はいないだろう。

 

 それに、せっかくの『異世界言語(全言語)』のスキルだ。

 ここで生かさずにどこで生かすのかという話でもある。

 

 なので、迷宮組のクーラタル60階層の攻略や、護衛部隊との混成チームでの迷宮攻略もお休みになった。

 俺とアミルが一日中ロッジにいるので仕方ない。

 

 ヴィルマやラファ達も不満かもしれないが、我慢してくれ。

 

 朝食を終えて、さっそく二人を連れだってロッジの壁にワープで移動。

 移動できるということは開業時間なのだろう。

 

 壁を出て、周囲を見回そうと思ったらセバスチャンがダッシュで駆け寄ってきた。

 これは俺も皇帝と同じぐらい丁寧な扱いを受けているということ?

 いや、昨日の召喚状が皇帝案件だからか。

 

「ユキムラ様、お待ちしておりました」

「ああ、よろしく頼む」

 セバスチャンの頭を下げる角度は、今日も70度ぐらいだ。

 

 残念、特に扱いが変わった訳ではなさそうだ。

 そして、待ち受けていたということは、俺の用件も把握しているということかな。

 

 手紙にはロッジに来てくれと記載があっただけで、特にセバスチャンと話をしろとの指定はなかったはず。

 ロッジに来れば必然的にセバスチャンと話をすることにはなるのだろうが。

 

 さすがに皇帝直々に迎えに来て、俺にプレッシャーをかけるようなことはしないのか。

 忙しい皇帝がそんなことする訳ないか。

 でも、手紙を直々に出してきたりするから油断はできない。

 原作ではストッキングを贈った礼に、直々に出迎えていた気もするが、今回は俺が何もまだ贈ってないからかもしれない。

 

 俺の両脇にはアミルとローザがいて、ローザは不思議な顔でセバスチャンを見ている。

 

「この娘はローザだ。俺のパーティーの参謀格のようなものだな。

 今日はアミルとローザと俺の三人で資料室を利用したいと思っているので、よろしく頼む」

「ローザ様でございますね」

 このルーティンをすることで、人の名前を記憶するのだろうか。

 

 しげしげと彼がローザを見つめている気がするが、ローザはまだキョトンとしている。

 

「ユキムラ様、少々お待ち下さい」

「?・・・・・・ああ、分かった」

 セバスチャンは現れた時と同じ速度で小走りで去っていった。

 

 

「あの方からは敵意を感じられません」

「そうか・・・・・・」

 セバスチャンはローザの敵検知センサーに反応なしと。

 

 まあ、索敵スキルで確認してグレーだったから、知ってはいたけどね。

 敵でもないが、味方でもないってことだ。

 

「出掛けにも言ったが、資料室に入っても警戒を怠らずにな」

「はい。大丈夫です」

 ローザには敵意を感じる者がいたら、俺に知らせるように事前に伝えてある。

 

 いきなり襲い掛かってくるような奴がいるとは思えないが、貴族が出入りするような場所だから一応は注意するようにした。

 もちろん、俺の方でも索敵スキルを使って赤色識別をする予定だ。

 

 暫くすると、セバスチャンが二人の男女の職員と共に戻ってきた。

 手には少し大きめの紙袋を持っている。

 

「こちらはガイウス様からユキムラ様にお渡しするように、仰せつかりました」

「そうか、ありがとう。要件はガイウスから聞いているだろうか?」

 俺の質問に彼は首を横に振った。

 

 一応は、入会儀礼の秘密が守られているのか。

 

「では、この者達が案内しますので・・・・・・」

「分かった。ありがとう」

 書記の者と思しき二人の職員に付いていけばいいのだな。

 

 資料室の場所は知ってはいるが、勝手に入るのはNGということね。

 

 ロビーの場所から階段を上って、資料室に行こうとしたら、行く手を阻まれた。

 見知った顔が何人もいる。

 

 ブルーノ、カルロス、魔道士の男、そして何故かゴスラー騎士団長まで。

 みんな両手に紙袋らしきモノを持っているのだが・・・・・・マジっすか?

 

 伯爵とカルロスは、入会儀礼の場にいたから、まだ理解できる。

 いや、カルロスはそれは自分用ということか。

 皇帝の護衛任務はどうした?

 というか、よくエナメルのハイヒールブーツを二足も用意できるな。

 実は良い家のボンボンなのか?

 

 そして、魔道士の男は・・・・・・エステル会長のパーティーの苦労人枠の人だったか。

 こんな事をやらされているのか?・・・・・・エナメルのハイヒールブーツが魔法使い用の装備品だから、魔道士が持ってきた?

 別に入会試験の時には、履いてなかったように思えたけど。

 

 そして、エステル会長は魔道士の男に俺の入会儀礼の内容を明かしたと。

 パーティー内では守秘義務で縛れるから問題ないということか?

 

 問題はゴスラー騎士団長だ。

 ハルツ公は俺の入会儀礼の際にわざわざ外してもらったのに、駄々洩れじゃないか。

 あの場を外れてもらった意味はなかったということだ!

 誰がチクりやがったのだ?

 

 やっぱり帝国解放会の個人情報管理はガバガバのようだな。

 

 素知らぬ顔をして通り過ぎようとしたら、ブルーノ副会長が俺の前に立ちはだかった。

 

「ユキムラ、どこに行くのだ?」

「資料室ですが・・・・・・どちら様でしたっけ?」

 ここは他人の顔をして、通り過ぎよう。

 

 小さな子を伯爵の毒牙から守るための予防保全措置だ。

 帝国解放会は地位や年齢、性別、種族で差別しないから、ここはガン無視しても大丈夫だろう。

 

「私の顔もお忘れですか?」

「確か、カルロス・・・・・・?」

 あんな衝撃的な懺悔をされて、忘れられるはずがない。

 

 惚けようとしたが無理だった。

 

「エステル様から依頼されて、断り切れませんでした。

 お願いですから、これを受け取ってください」

「そうか・・・・・・」

 苦労人枠の者に頼まれると断りづらい。

 

「私も閣下に命じられたのです。どうか受け取ってください」

「・・・・・・」

 そして、ハルツ公か・・・・・・石鹸と鏡の優良顧客・・・・・・どうしたのものか。

 

 アミルとローザが、ますます不審げな顔で俺を取り囲む四人を見ている。

 伯爵からアミルは一応隠しておこう。

 ギリギリ守備範囲だとか言われたら困る・・・・・・アッチ見たらダメだからね、アミル。

 

 

 しかし、さすがにこの状況は想定外だ。

 皇帝を入れて五人分?・・・・・・予備の個数を楽勝で超えているぞ。

 

「いや、そうは言われても相手の商人にも個数に限りがあると言っていたので」

「そこをなんとか・・・・・・」

 うーん、どうしたものか。

 

「とりあえず受け取るが、相手もいることなので、

 もし期待に沿えない場合には、そのまま返却するので勘弁してもらいたい」

 四人を見渡しながら、言い訳じみた説明をしておく。

 

 皇帝は第一優先だから、それ以外は空きスロットの多かった順に公平に配分するか。

 ワンチャン、アミルが増産を引き受けてくれる気もするが、もう何に使っているのかバレてしまったから、少しだけ頼みづらい。

 やはり、『皮 の 鎧(ローションマット)』は入会儀礼の条件でもある、恥ずかしい性的秘密だったようだ。

 

 

「ユキムラ、特別会員になりたい時は、いつでも助力するぞ」

「・・・・・・」

 副会長、そんな事を言ったらダメでしょう・・・・・・特別会員になる気は全くないぞ。

 

「同じ時期に入会儀礼を受けた仲ではないですか。

 もし、よろしければ入会儀礼でも話さなかった、とっておきの秘密をお話しします」

「・・・・・・」

 いやいや、アレを超える話なんて聞きたくないから。

 

「私はエステル様に渡すように依頼されただけなので、どうでもいいのですけどね」

「・・・・・・」

 正直過ぎるな。

 

 苦労人を長く務めるには、程よくスルーするのがコツなのかもしれない。

 俺もアミルにスルーされてないことを祈りたい。

 

「タケダ殿、信じておりますぞ」

「・・・・・・」

 そう言って、いつもゴスラーは裏切られてきたのではないのか?

 

 とりあえず大量の紙袋を名前のメモを付けながら受け取り、四人を置き去りにして資料室に向かうことにした。

 

 案内役の書記二人も、大量の紙袋を抱えた俺を不審げな表情で見ている。

 いや、俺が悪い訳ではないのだけど。

 

・・・・・・

 

 案内された資料室の中に入ると、割とこじんまりした小さな図書室という感じだ。

 さすがに図書館とは比べ物にはならないが、情報量は思っていたよりも少なさそうだな。

 量よりは質が重要なのだろうが。

 

 これなら、一日では無理だとしても、数日あれば全て調査できるかもしれない。

 

「こちらのテーブルをお使い下さい。

 我々はロビーにいますので、お飲み物や筆記具が必要な場合には、お申し付けください」

「分かった。ありがとう」

 飲みものは水筒を各自持参しているから大丈夫だ。

 

 案内した二人は資料室から去っていった。

 書棚などをざっと見回したが、我々の他に誰もいないようだ。

 念のため索敵でも確認したが、我々以外の存在は確認できなかった。

 今のところは貸し切り状態だな。

 

「あの、ご主人様、その紙袋はなんでしょうか?」

「ああ、帰ったら説明するから。今は気にしなくてよい」

 変な事を言って、調査に支障が出たら困る。

 

「では、昨晩、話した通りの分担で調査をしようか。二人とも頼むぞ」

「はい、ご主人様」

「はい・・・・・・」

 三人で手分けして、書棚の資料の確認を開始。

 

 ローザは迷宮の情報、変わった迷宮や上の階層のモンスター、ドロップ品に関する調査を中心にブラヒム語で記載された資料を確認。

 アミルは装備品や鍛冶・スキル融合関係の調査を中心にブラヒム語やドワーフの言葉で記載された資料を確認。

 俺はその他の情報で、ブラヒム語、ドワーフ語以外の言語で記載された資料があれば、それを調査する分担だ。

 

 まあ、一日で確認するのは無理な情報量なので、数日かけて必要に応じて軌道修正しながら調査するのが妥当と思う。

 内容にも興味があるが、とりあえず、地図や図解があるもの中心にザっと目を通していく。

 特に地図については、なかなかお目にかかったことがないので、興味を惹く対象だ。

 

 地図だけ見ても、帝国や他国の歴史や政情を知らないと、理解が深まらない気もする。

 今度、図書館に行くか、ヘルミーネやマテウスあたりにレクチャーしてもらうべきか。

 元の世界なら、まとめサイトや参考文献をネットで探すことができるのだが、この世界ではそうはいかない。

 

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 面白そうな情報を見ると、つい読み込んでしまい、時間がドンドン過ぎていく。

 リュックの中に隠し持った、腕時計を見ると、もう昼に近い時間だ。

 一度、昼食のために戻るか。

 

「一度、食事に戻るか。

 どうせ、今日だけで調査を終えるのは無理な量だ。

 数日かけて調査してみよう」

「はい、分かりました」

「はい」

 ローザは後ろ髪を引かれる感じなのだろうが、資料室は逃げないから。

 

 メモ類などをリュックに入れて、再び俺は大量の紙袋を抱え、資料室を出ることにした。

 階段を降りて、書記の者に一時帰宅して今日中に再び戻ることを伝えた。

 セバスチャンはいなかったが、お出迎え専用なのだろうか。

 

 皇帝でもなければ、帰りにお見送りなどないか。

 二人と共にクーラタル自宅に戻ることにした。

 

・・・・・・

 

 昼食時に二人と資料室で目についた情報の共有。

 

「クーラタルの60階層以降の階層になると、

 隻眼のジョブでないと扱えない鍛冶素材がドロップすることも多いようです。

 直近の60階層のボスモンスターのレアドロップに聖銀があります。

 残念ながら、鍛冶師の私では装備品生成に使えません」

「そうか、でもいつかは隻眼になるからドロップしたら売らずに取っておこう」

 オリハルコンがドロップする階層の情報もあったとのことだ。こちらも隻眼案件だな。

 

 バルドルフに頼む手もあるが、アミルはいつか隻眼になると確信している。

 それにタケダ家で装備品生成すれば、直ぐに空きスロットの数が確認できる。

 もし、貴重な素材なら、一度ハズレカードを使って融合に失敗させて素材に戻す手も使えるかもしれない。

 なんにしても、楽しみな情報だな。

 

 それ以外にも、ハイコボルトを使って融合する対になるカードのドロップ階層の情報も入手できたようだ。

 隻眼のジョブでないと扱えなさそうなカードらしいが、いずれは融合して、今以上にスキル融合装備品を充実させていきたい。

 

 

「私は『魔境』と呼ばれる地域が気になりました。

 迷宮が多数、出現して迷宮に飲まれてしまった地域のようですが、

 放置された迷宮なので、近場の迷宮とは違った何かがあるかもしれません」

「そうだな、ローザ。俺も見た資料に『魔境』の記載があった。

 いつか行って実際に調査してみたいと思ったぞ。一緒に行くか?」

 俺の言葉にローザは一瞬意外そうな表情になったが、最後は笑顔で頷いた。

 

 迷宮となれば、気になるのだろうな。

 『魔境』と呼ばれていても、通常よりも上の階層まで伸びた、単に放置された普通の迷宮群かもしれないけどな。

 出現するモンスターが全然違って凶悪になってたりすると困る。

 一部の迷宮組メンバーは大喜びしそうだが。

 

 俺が確認した資料の中にも、地図の記載があった資料に『魔境』の記載があり、凄くアバウトだが凡その場所が記されていた。

 野良迷宮がありそうだから、いつか探索してみたい。

 ローザの迷宮センサーがあれば、意外と簡単に見つけられるかもしれない。

 迷宮に飲まれた地域というぐらいだから、ひょっとしたら高レベルのモンスターが闊歩しているかもしれないが、こちらも実力者を同行させていれば十分対応可能だろう。

 楽しみな情報だと思った。

 

 

 昼食を終えて、自室で持ち帰った紙袋の中身を開けて確認。

 皇帝からの二足はやはり原作通りだ。

 空きスロット5つのものと1つものが一足ずつあった。

 これだよ。これを求めていたのだから狙い通りだ。

 

 他はエステル会長からの二足のうち一足が空きスロットが2つだ。2つは微妙だな。

 ブルーノ伯爵、カルロス、ハルツ公の二足は全て空きスロット無しだ。残念。

 二足は原作通りとはいえ、十足もらって三足が空きスロット付きなら十分当たりと言える。

 問題はアミルに『皮 の 鎧(ローションマット)』の量産を依頼するかどうかだが、どうしたものか。

 

・・・・・・

 

 再びアミルとローザを連れてロッジへと向かった。

 今度も出迎えはセバスチャンだった。

 もう皇帝の用事はないのだから、セバスチャンが出迎えでなくても構わない気がする。

 彼には『お出迎えセンサー』が装備されているのだろうか。

 鑑定しても、ジョブは普通の冒険者にしか見えないのだが。

 

 資料室の利用を申し出て、同じ書記二人に案内してもらった。

 部屋に入って確認したが、我々以外の利用者は他にいないようだ。

 ちなみに、案内してくれた書記に配置された資料の管理について質問した。

 

 例えば、新しい資料が置かれるようになった場合、その資料がいつ、どこに置かれるようになったのか記録されているのか?

 あるいは、何か資料の分類別にどの程度の資料が置かれているのかといった情報はあるのか?

 予想通りだったが、そのような管理情報は記録されていないとのことだった。

 

 元の世界の図書館や図書室じゃないから、そんな管理分類や新設図書の情報等はないか。

 もしあるのなら、一度調査し終わった後に次回調査の際には、その新規情報の差分だけを調査すれば効率的だ。

 

 某ラノベ主人公じゃあるまいし、ここにある資料情報を分類して悦に入る趣味は俺にはない。

 今日、資料室を立ち去る際に書記の者に、新設情報の一覧記録だけやってもらえないかと改善提案だけしておくか。

 

 午前中に引き続き、三人で分担して資料チェックを再開した。

 『魔境』に興味が惹かれたので、関連しそうな情報を手当たり次第に読み漁る。

 殆どはハズレと言えるような、感想じみた情報や位置が特定できない資料ばかり。

 

 『魔境』とは言っても、その先に『魔王』が存在して、人類を苦しめているといったようなラノベ展開はなさそうだ。

 単純に迷宮に飲まれて、人の手が及ばない地域になったというだけのことらしい。

 領地を管理する貴族からすると降爵の危機でもあるし、人類にとっても笑って済ませられる状況ではないので、帝国解放会の出番なのだろうけど。

 

 そして『魔境』と呼ばれている地点は、帝国の複数の地域に存在するようだ。

 

 なんとなくだが、原作に登場したグリニアの近くも『魔境』に隣接してそうだ。

 エルフ領から交流が途絶えた地域の先に、グリニアが存在するのだっけ。

 グリニアに至るまでの近辺には、まだエルフ族の人々が居住していた気もするが、帝国から見れば野良迷宮が放置されたような感じなのかもしれない。

 

 帝国の南部にも同様な『魔境』が存在するようで、そちらの方がエリアとしては広そうだ。

 討伐すれば領地が獲得できそうだが、『魔境』に隣接する領地を管理していくのがシンドイなどと愚痴じみた記載が散見された。

 

 図書館と比べれば小さな資料室だが、全ての文献をチェックすることはできず、ロッジでの調査には一区切りつけることにした。

 

「ローザ、アミル、資料室はどうだった?」

「あの、楽しいです。こんなに迷宮に関する情報がたくさん。

 私の知らないことが多く記載されていて、真偽を確かめなければならない情報も多いですが、

 迷宮に行くのが楽しくなりそうです」

 ローザはヴィルマ達とは、また違った迷宮ライフの楽しみ方をするのだな。

 

「クーラタル迷宮の上の階層のドロップ品やモンスターについて、整理して報告します。

 また相談に乗って下さい」

「ああ、アミル、頼むぞ。

 60階層を攻略した後、どの階層を探索するか考えたいので、相談させてくれ」

 63階層の威霊仙を直ぐにでも目指したいが、焦らずに着実に進みたい。

 

「ハイサイクロプスのカードがドロップする階層が61階層なので、そこは攻略すべきだと思います。

 62階層は肉類のドロップ品なので、その扱いをどうするかでしょうか。

 62階層の新規モンスターは、牛人のモンスターカードがドロップする可能性があるので

 探索に含めるのも面白いかもしれません。

「なるほど、牛人は『対人強化』のスキルだったな。今晩にでも皆に相談してみるか」

 迷宮組に相談すると、62階層は外せなくなる気もするが、それはそれで構わないだろう。

 

 資料を元の書棚に戻し、三人でロビーに降りることにした。

 書記に資料室での調査を終えたことを伝え、資料室の運用の改善事項も指摘した。

 管理に関わる事なので、セバスチャンの判断も必要になるだろう。

 彼はロビーにはいなかったので、宜しく伝えるように言ってロッジを後にした。

 

・・・・・・

 

 ロッジで調査をした翌日も、迷宮探索は通常運転。

 

 午前中にクーラタル迷宮60階層のボス部屋へ到達。

 基本、午前中だけしか60階層攻略にあててなかったとはいえ、6日目でここまで来た。

 ボス部屋に一番近い小部屋からボス部屋までは、ざっくりと3日間コース。

 66階層までは、ずっと同じペースなのだろう。

 

 広大なエリアなので、なかなか厳しい探索だ。

 俺達はワープのスキルでいつでも家に帰れるから問題ないが、通常のダンジョンウォークでは帰還ポイントがないので迷宮内で野営しなければならない。

 ボス部屋まで安全地帯が無いから、モンスターの襲撃に備えなければならない。

 ロッジの資料室でも、56階層以降は同じ実力ぐらいの複数パーティーで交代制で挑むのがセオリーだと記載があった。

 

 ボス戦に挑む前に、まずはブリーフィングから。

 

「クーラタルの60階層のボスモンスターはシルバーリザードだ。

 ローザの調査によると、銀色をした二足歩行のトカゲの形をしたモンスターだ。

 マザーリザードと同じく火魔法を放ってくるので、スキルのキャンセルに注意しよう。

 そして同じく、モンスターを召喚してくるのでなるべく早く倒す必要がある。

 召喚は詠唱中断で防げないので、早めに石化させよう。

 シルバーリザードのドロップは銀で、稀に鍛冶素材である聖銀をドロップするらしい。

 ボス二匹にお供が四匹なのは今までと変わらない。

 中央のボス二匹に右にオリビア、左に俺があたる。

 俺とオリビアは更に左右のお供への攻撃も行うようにする。

 両翼は一番右がヴィルマとアミル、左がイレーネだ。

 博徒のスキルはイレーネの前のモンスターを優先する。

 魔法はいつも通り、雷魔法を使う。

 他には・・・・・・今回のボス戦には小荷駄隊外しを使うぞ。

 何かアミルの方で補足はあるか?」

「私は斎王のジョブで臨みますので、魔法攻撃を受けた場合は私が全体手当を使います。

 あとは、ご主人様とオリビアさんの槍が届かない範囲で飛行型のモンスターが出現した場合は

 私が対応します。

 声を掛けてから移動するようにしますので、連携をしっかりしていきましょう」

「シルバーリザードとマザーリザードにポンポンと召喚をされたら、収拾がつかなくなる。

 早めに無力化するようにしよう」

「了解!」

「了解!」

「了解!」

「了解」

 

 相手が召喚を多くしてくるかもしれない強敵とあって、ヴィルマ、イレーネ、オリビアの顔にはやる気が漲っているようだ。

 特にイレーネは薄ら笑いを浮かべており、やる気というか殺る気というか・・・・・・。

 

 

 それにしても聖銀か。

 隻眼なら装備品の生成に使えるが、鍛冶師のジョブだと扱えないらしい。

 だが、アミルは絶対に隻眼になるから、ドロップしたらストックしておこう。

 まあ、一回のボス戦でドロップするとも思えないが。

 

 今回、俺はボス戦用に槍二本を持っている。

 

 いつも使っている魔法攻撃用のひもろぎの聖槍はアイテムボックスに仕舞い、硬直のダマスカス槍を二本使う。

 石化添加、麻痺添加、催眠の3つの状態異常添加のスキルを付与し、最後に一枠にHP吸収を付与している。

 迷宮ボス戦で活躍した早期状態異常用セットだ。

 

 

 五人でボス部屋に侵入し、フォーメーションを組む。

 

「では、始めるぞ」

 

 メインパーティーに入れておいたラファを小荷駄隊に移動させた。

 

 モンスター出現のエフェクトが始まり・・・・・・目の前のデカいトカゲのモンスターが現れた。

 こいつが、シルバーリザードか。

 確かに銀色でちょっと気持ち悪い。トカゲと銀色って合わないと思うぞ!

 

 お供はマザーリザードが三匹にカープカープが一匹・・・・・・よりによって飛行型のカープカープがイレーネの前か。

 イレーネの片手剣では届かないな。

 

(オーバーホエルミング)

 

(サンダーストーム、サンダーストーム)

 

(状態異常耐性ダウン)

 

 イレーネの前のカープカープに博徒のスキルをかけた。

 

 硬直のダマスカス槍を使って、シルバーリザードに連続突きをひたすらかます。

 その傍ら、直ぐ左横のマザーリザードの足に薙ぎ払うように槍を振りかざす。

 

 オーバーホエルミングの効果が切れて、モンスターが動き出したが・・・・・・シルバーリザードは石化したな。

 

「イレーネ、スイッチ!」

 

 左にスライドして、マザーリザードへ槍二本の鋭い突きをかまして怯ませ、更に左へ。

 空中に浮かぶカープカープへ槍をかまして、イレーネへ交代を促す。

 

 彼女は俺の背後を回って、右側のマザーリザードと対峙した。

 こちらは、空中のカープカープへひたすら槍をかます。

 空中をフヨフヨと旋回しながら、動き回るので当てにくいが、それでも何発が当たると、空中から落下した。

 石化したのか麻痺したのか分からないので、そのまま槍で突きまくる。

 

(状態異常耐性ダウン)

 

 一応、イレーネの前のマザーリザードに博徒のスキルをかける。

 

 地面に落ちて横たわったカープカープはピクリとも動かない・・・・・・石化したな。

 イレーネの獲物を取ると不機嫌になるから、地面に転がったカープカープをデュランダルで滅多斬りにして煙に変える。

 

 彼女の対峙するマザーリザードの背後を回って、ヴィルマとアミルの対峙する一番端っこのマザーリザードの方へ回る。

 既に一匹のマザーリザードがオリビアによって石化させられている。

 

 ヴィルマ、アミル、俺の三人でマザーリザードを囲んでタコ殴りにして・・・・・・石化させた。

 

 オリビアの前のシルバーリザードを背後から攻撃をしかけようとすると、その横にマザーリザードが召喚された。

 面倒だな。

 

(オーバーホエルミング)

 

 ・・・・・・からの槍二本での連続突き・・・・・・で石化させる。

 

 そのまま、シルバーリザードを槍で突きまくる。

 オーバーホエルミングの効果が切れると・・・・・・石化したようだ。

 

 残った動いているモンスターはいないか。

 戦闘終了だな。

 石像になったモンスターを砕いて煙に変えていく。

 

 イレーネの『くのいち』のジョブはLv74に達したので、Lv60のモンスター相手でも石化する時間は短くなってきた。

 状態異常にする確率の高さは、ジョブのレベルが上がれば高まると原作に記載されていたが本当のようだ。

 

 それを上回るのが俺の『忍者』のジョブだ。

 こちらはLv90でレベル差は実に30もある。

 加えて俺の方は槍二刀流で、必要に応じてオーバーホエルミングまで使っている。

 相手がボスモンスターであっても、瞬く間に石化できる。

 殲滅させるまでには時間はかかるが、原作でもあった相手を無力化する戦略は今のところ、有効に機能している。

 

 

 そして、シルバーリザードのドロップは銀が2つか。

 まあ、さすがに初っ端から聖銀はドロップしないよな。

 それにしても、聖銀と銀ではエライ差だ。

 

 いや、銀はターヘラのマリアさんの店に持っていけば、装飾品の取引に使えるかもしれない。

 たくさん銀を集めて、瑪瑙のブレスレットと交換してもらえないだろうか。

 元の世界なら、瑪瑙よりも銀の方が価値は高そうに思えるのだが。

 今晩、カラダンに相談してみよう。

 

 

「ボス周回はやる?」

 

 俺の質問に前衛陣三人は満面の笑みで頷く。

 

 時間に余裕があるので、ボス戦を追加で四周ほど実施・・・・・・聖銀は1つだけドロップした・・・・・・やっぱり1/10なのか。

 まあ、それが確認できただけでもヨシとしよう。

 この分だと聖銀の鍛冶素材を得るには、それなりにボスマラソンすれば問題なさそうだ。

 

 ボスモンスターの相手から俺が外れて、お供をしばく担当になり、前衛陣三人がシルバーリザードの相手をローテーションで実施した。

 特に危なげなく戦っているし、なんなら召喚してモンスターを増やして戦っているまである。

 お前ら楽しみ過ぎだろうが。

 

 昼食の時間が近づいたので、ゲートを開いて自宅に戻ることにした。

 

・・・・・・

 

 昼食を終えて、午後の探索を実施。

 迷宮組は護衛部隊のラファとトカラを加えて、クーラタルの54階層の探索。

 初めの一時間程度を帯同して問題ないことを確認したら、俺は別行動で魔物部屋の探索&殲滅して、最後のボス戦までに合流。

 別行動の間は54階層の魔物部屋と44階層の魔物部屋を殲滅した。

 

 パワーレベリング用の魔物部屋の開拓がかなり進んできた。

 でも、今日の午前中に攻略した60階層のボス部屋の周回も実施したい。

 さすがに一人で六匹相手するのは無理があるかな。

 オーバーホエルミングとオーバードライブを梯子すれば、殲滅できそうな気もするけど。

 

 54階層のボス戦前にラファ達と合流して、ボス戦の試験官。

 ボスモンスターのレイジマーメイド二匹をものともせず、石像を作りまくって終了。

 やはり、この混成部隊なら迷宮討伐の達成は現実味を帯びている気がするな。

 

 混成部隊でやるか、俺が超速スキル無しで迷宮組だけでやるかってのはあるけど、いつか手頃な迷宮を見つけて迷宮ボス討伐戦を組みたいな。

 

 そして、魔法使いLv50のままであったトカラが、ついに魔道士のジョブを取得した。

 45階層以降の迷宮探索で経験を積んだおかげなのだろう。

 これで俺を含めて、タケダ家に四人目の魔道士が誕生した。

 明日、混成部隊がクーラタルの55階層の攻略を終えたら、今度はトカラの魔道士をパワーレベリングするか。

 

 楽しみが増えて嬉しさいっぱいの気持ちで55階層に抜け、自宅に戻ることにした。

 

 魔物部屋の探索&殲滅でかなり汗をかいた。

 自室に戻って早く風呂行こうと階段を上がろうとすると、ヘルミーネに呼び止められた。

 

「ユキムラ様、マヤのことで少しご相談があります。

 落ち着いてからで構いませんので、お時間をいただけないでしょうか?」

「?・・・・・・ああ、分かった」

 ヘルミーネの横にはミラまでいる。

 

 俺は着替えるために二階に上がり、アミルは階段を上がらずにミラと何か話をするようだ。

 

・・・・・・

 

 風呂で軽く汗を流して、頭に布を被ったまま食堂へ。

 食堂のテーブルには、ヘルミーネ、ミラ、アミルの三人がいる。

 俺のいない間に、何か話をしていたのだろうか。

 

 俺が席に着くと、ヘルミーネがマヤの近況を語り始めた。

 

「ターヘラの剣術指南所に顔を出して、マヤの様子を確認してきました。

 ニムラル様の所で元気に稽古をつけてもらっているようです。

 迷宮に行かない時は広場で相手をしてもらい、

 迷宮では戦闘ジョブ志望の子供達に混じって低階層の探索で前衛をやっているそうです」

「子供達に混じって、マヤが前衛をやっているのか?」

 それはいくらなんでも、レベル差があり過ぎるだろう。

 

「マヤの話では獣戦士を希望している子供達と混じって、

 モンスターの戦闘でひたすら回避をする特訓をしているそうです」

「そうか、獣戦士のジョブ取得はニムラルのオッサンの所でやるって言ってたからか」

 低階層とはいえ、未成年の子供にモンスターの攻撃をひたすら回避させるなんて・・・・・・あれっ、原作でも誰かやっていたような?

 

「マヤは回避主体の前衛ではなく、足を止めて防御主体の前衛だから、

 それは良い経験になるってことなのだろうか?」

「そうなのかもしれません。

 ですが、やはり慣れないことをしているので、かなり苦戦しているようです」

 今までの伸び悩みのブレークスルーを考えるのなら、それぐらいの荒療治が必要なのかな。

 

「それで、相談というのは?」

「ミラがマヤのために回避をサポートするための軽い鎧を用意するのはどうかと言い出しまして」

 皮の鎧とか?・・・・・・スライムでもスキル融合して、頑強の皮鎧を作るとか?

 

 いや、当たらなければ普通の皮鎧でも構わない?・・・・・・さすがにスパルタ過ぎるか。

 

「あの、ご主人様・・・・・・

 迷宮討伐の際に使った竜革の靴にスキル融合したものはいかがでしょうか?」

「まあ、普通に考えれば、そちらが妥当だよな?」

 迷宮ボス討伐戦では回避と移動力を重視して、スキル融合したもんな。

 

 とはいえ、スキル融合防具でドーピングしてマヤの為になるのだろうか?

 初めて自転車に乗る時も補助輪でサポートしてもらって慣れるというのもあるから、意味はあるのかもしれない。

 

「じゃあ、倉庫に空きスロット4つの竜革の靴がまだあったよな?

 それに『移動力増強』と『回避力2倍』のスキル融合して、マヤに渡すか?」

「はい、ご主人様、それならマヤちゃんの手助けになると思います」

 三人とも嬉しそうな表情だ。

 

 ヘルミーネは同じ狼人族の仲間意識があるのだろうか。

 ミラはマヤと同室だから、やはり気になるのだろうな。

 その延長でアミルがサポートか。

 

 仲間意識があって、大変結構なことだ。

 

「なら、せっかくだから、アミルのサポートで今回はミラがスキル融合してみたらどうだ?

 マヤに贈るのなら、ミラが竜革の靴を選んでスキル融合して贈ってやれば喜ぶのではないか?」

「えっ、私がですか?よろしいのでしょうか?」

 俺の言葉にアミルも静かに頷いている。

 

 誰がスキル融合しても、空きスロットを倉庫で確認してから、正しいモンスターカードで融合すれば同じ結果になる。

 今までは隻眼ジョブ取得のためにアミルが全てのスキル融合をしてきたが、二回ぐらいはミラがやっても誤差のうちだろう。

 ミラが用意した竜革の靴で特訓すると、マヤも気合が入るのではなかろうか。

 気分的な問題・・・・・・思い込み・・・・・・なのかもしれないけど。

 

「アミル、ミラのスキル融合のサポートをしてもらえるか?」

「お任せ下さい、ご主人様・・・・・・ミラちゃん、一緒に頑張ろう!」

 ミラも不安半分、嬉しさ半分の表情だ。

 

 普通は鍛冶師で初めてのスキル融合の時には不安になるだろうけど、我が家では失敗の可能性は作業ミス以外にはほとんどあり得ない。

 二人に任せよう。

 

「靴の準備ができたら、悪いけどヘルミーネがマヤの所に持っていってもらえるか?」

「はい。迷宮探索で次に戻る日を確認しておりますので、その日に合わせて持っていきます」

 うんうん、万全の連携じゃないか。もう任せたよ!

 

 盛り上がる三人の声を聞きながら、俺は自室に戻ることにした。

 




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/4/30(木)の予定です。
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