異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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096.ざわつき

 マヤが戻ってきた翌日は、朝の訓練の時間が慌ただしくなった。

 

 昨日のマヤの帰還の流れでラファ、ヘルミーネが獣戦士のジョブ取得を希望し、ミラとサンドラが暗殺者のジョブ取得を希望した。

 ラファ達の話を聞きつけたフラウスもヘルミーネの予想通り、獣戦士のジョブ取得を希望。

 ヘルミーネが焚きつけたのじゃないだろうな?

 

 ともかく、護衛部隊の主力組も含めて新規ジョブ取得希望が急増。

 新ジョブの取得は・・・・・・朝の訓練の時間に希望者を迷宮に連れていって実施することに。

 なんとも慌ただしいことだ。

 

 そんなに慌てなくてもと思うのだが、モチベーション維持のためにも対応することにした。

 ミラとサンドラの希望する暗殺者のジョブ取得条件を満たすのは楽勝だ。

 ベイルの3階層に行って、転ばせたコボルトに毒針を使わせてサクッと条件を満たした。

 条件を満たした二人は、ワープゲートを開いて早々に帰宅させる。

 

 少し面倒なのは、獣戦士のジョブ取得の方だ。

 こちらもベイルの3階層で、グリーンキャタピラーのいない二匹のモンスターのグループを見つけて回避マラソンを実施。

 グリーンキャタピラーは糸のスキル攻撃があるので、回避する対象から外した。

 

 コボルトとニードルウッドなら、俺のセブンスジョブ効果で回避も楽勝のはず。

 ヴィルマ、ケリー、マリー、イレーネもパーティーに加えようと思ったが、嫌がりそうだったので今回は見送った。

 ただパーティーに入って、他人が戦うのを見ておけってのは、戦闘民族の彼女達には酷だよな。

 俺は主催者だし、ジョブ取得確認があるので逃げられない。

 

 ラファは元々近接戦闘も得意としているので、楽々とモンスター二匹の攻撃を避け続ける。

 避け過ぎて距離を置くと、コボルトがトロいので次の攻撃まで時間がかかるまである。

 コボルト程度なら、俺のパーティー効果も不要だったかも。

 でも、ジョブ取得確認が必要だから仕方ないのだ。

 

 コボルトがトロいせいで時間はそれなりにかかり、後方から別の二匹に挟み撃ちされた。

 幸いなことにグリーンキャタピラーがいなかったので、そのままヘルミーネが回避マラソンを始めてしまった。

 前後から挟み撃ちされると危険だという迷宮の常識は、どこに行ってしまったのだろうか?

 まあ、Lv3のモンスターなど楽勝だから挟み撃ちされても問題ないのだが。

 それに時間短縮もできるから、とっても助かる。

 

 100連続回避に成功したラファは無事に獣戦士のジョブを取得できていた。

 これで、昨日予想した獣戦士のジョブ取得条件の検証ができた。

 獣戦士、更に百獣王の量産に目処がついたのかもしれない。

 実際に量産するかどうかは別にして。

 

 ラファが使っていたコボルト二匹はフラウスが引き継いで回避マラソンを開始。

 その後、暫くしてヘルミーネも獣戦士のジョブ取得を完了。

 ヘルミーネが相手していたコボルトとニードルウッドは俺がデュランダルで煙に変えた。

 そして、フラウスも少し遅れてジョブ取得を完了し、モンスターは俺が討伐した。

 

「これで、三人とも獣戦士のジョブを取得できたな」

「「「はい、ありがとうございました!」」」

 取得したのは構わないのだが・・・・・・。

 

「今後は獣戦士のジョブを併用していくつもりなのか?」

「はい。迷宮討伐に向けて戦い方の幅を広げたいと思っています。

 そして行く行くは6人目に・・・・・・」

 ラファが不穏当な発言をした気がするが、スルーしよう。

 

 それはともかく、三人とも満面の笑みを浮かべ、幸せそうな表情だからヨシとしよう。

 

 そんなに獣戦士のジョブって憧れるものなのかね。

 フラウスは槍の名手なので、獣戦士ってどうなのかと思うけど。

 鬼人族である俺には分からない感覚だ。

 

 目的は果たしたので、クーラタルの自宅に戻ることにした。

 

・・・・・・

 

 クーラタル迷宮に派遣する護衛部隊の編成が少し煩雑になった。

 護衛メンバーの迷宮への派遣を上手くローテーションしながら、新ジョブ取得者のパワーレベリングを計画することになったからだ。

 ミラとサンドラの暗殺者は、迷宮探索で使いたいジョブなので早めにレベリングをしたい。

 マヤも獣戦士Lv1なので、早急にパワーレベリングが必要。

 

 ラファ、ヘルミーネ、フラウスの獣戦士はどうなのだろうな。

 三人共、槍がメインで戦っていたはずだが、槍で獣戦士として戦うのだろうか。

 戦士のラッシュじゃないけど、槍でビーストアタックとか使うのだろうか。

 それはそれで見てみたい気もするけど。

 

 実戦で使えるレベルになるまでは、従来のジョブを利用してもらう。

 レベルが下がるとはいえ、転職を自由自在にできないから、普通はジョブ取得したら使わざるを得ない。

 タケダ家では少し多めに安全マージンを取るので、暫くは迷宮で従来ジョブを使ってもらう。

 

 新しいジョブ取得に伴い、一部のメンバーは武器を変更する必要がある。

 こちらは、アミル、ミラ、サンドラの鍛冶師三人衆が頑張って用意するとのこと。

 こんな時の三人の結束は固そうだ。

 サンドラもタケダ家加入前は、鍛冶師を忌避していた感じだったが今は大丈夫みたい。

 

 

 今はクーラタルの23階層から33階層に向けて、護衛部隊を新規メンバーと従来メンバーをミックスして、慣らし運転を行なっている。

 こちらは午前組と午後組に分けて、新ジョブのパワーレベリングを行う。

 迷宮に出発したメンバーはパワーレベリングできないので、午前、午後それぞれの居残り組でパワーレベリングを行う。

 クーラタル迷宮は地図があるし、従来メンバーは各階層の攻略経験もあるので、お昼の帰宅時間が調整しやすい。

 

 一方でザビル第二迷宮に向かう部隊は地図無しで迷宮探索しているので、なかなか都合の良い時間に戻ってこられない。

 ザビル第二迷宮に向かう者達を午前、午後に分けてメンバーを変更してパワーレベリングできないため、一日固定メンバーで探索を頑張ってもらう。

 

 フラウスはレイモンド、ドロテアもそうだが、そもそも完全固定メンバーでローテーションもしないから、パワーレベリングの機会がほとんどない。

 交流会の日等を利用するしかないな。

 まあ、そのうち機会があるから待ってくれ。

 

 

 いずれにしても、スケジュール調整が煩雑。

 前日にレドリックとヘルミーネが作ったスケジュール表をもらい、パワーレベリングを行う。

 工夫しながら、育成していくのは楽しいけどね。

 

 今日のスケジュールはこんな感じ。

 

■本日の迷宮派遣スケジュール

(クーラタル迷宮62階層:終日)ユキムラ、アミル、ヴィルマ、イレーネ、オリビア 

 

(ザビル第二36階層:終日)レドリック、ミラ、ケリー、レイモンド、フラウス、ドロテア

 

(クーラタル27階層:午前)マリー、モニカ、ニクラス、サンドラ★、ゾフィ、ラファ★

      ★サンドラは探索者、ラファは魔道士 

(クーラタル28階層:午後)マリー、フレイヤ、ニクラス、サンドラ★、ゾフィ、トカラ

      ★サンドラは探索者

 

■本日のパワーレベリングスケジュール

(小荷駄隊:午前)トカラ(魔道士)

(小荷駄隊:午後)ヘルミーネ(獣戦士)

 

(輜重隊:午前)マヤ(獣戦士)

(輜重隊:午後)ラファ(獣戦士)

 

■本日の護衛(クーラタル)

(午前)ヘルミーネ(統括)、フレイヤ、トカラ、マヤ

(午後)ヘルミーネ(統括)、モニカ、ラファ、サンドラ

 

 

 ザビルでも、2パーティーをザビル第一迷宮の15階層と4階層に派遣している。

 15階層が主力組で、4階層は主力組3名と販売奴隷3名の混成チームだ。

 主力組は迷宮探索の経験を重ね、実力を向上させるのが目的。

 混成チームは販売奴隷達を鍛えるのが目的。

 言い方がアレだが、売り物としての付加価値向上だ。

 そして、居残りメンバーが拠点の護衛を務める。

 

 お互いの連携を考慮して、適宜ローテーションしながらスケジュールを組んで派遣している。

 ザビルのスケジュール調整は、マテウス、ニケ、マチルダで計画しているらしい。

 マテウスの働きかけで、マチルダもザビル拠点の戦闘部隊の幹部になったようだ。

 ザビル拠点のリーダーであるカラダンからの助言もあったと聞いている。

 

 今のパワーレベリングはクーラタルメンバーが中心だが、ザビル側の方をやる場合はマテウスからスケジュール表をもらって、必要なメンバーを小荷駄隊、輜重隊に入れて実施する。

 

 ザビル拠点のメンバー編成までは俺も関与できないので、マチルダがマテウスの補佐を上手くやってもらえると非常に助かる。

 彼女は過去の貴族関連のトラブルもあって、表舞台には立てないので、裏方で頑張るようだ。

 その分、ニケが各メンバーや販売奴隷達を鍛えることを主にやっている。

 ザビル拠点のメンバーが強化され、上の階層の攻略に挑めるようになってほしい。

 

・・・・・・

 

 午前、午後と迷宮組はミッチリとクーラタルの62階層の探索を実施。

 

 最後に残っていたボスタウルスを石化させたので、皆で分担して石像を削りにかかった。

 削りながら、アミルと明日の晩の話をする。

 

「明日の晩餐会だが、エネドラを連れてこないでくれとハルツ公に言われた」

「エネドラさんを連れていくと商談が増えるからですかね」

 確かにそういう面もあるが・・・・・・あの言い方はそういう意味ではなかったはず。

 

「迷宮討伐者がその場に多くいるからと言っていた。

 殺伐とした雰囲気になるから連れてこないでくれと言われたのだ」

「殺伐と・・・・・・ですか?」

 何かの暗喩かと思った。

 

「そうだ。エネドラは商売人ではあるが、戦う者ではない。

 明日のその場では、戦えない者を連れてきてはならない何かが起きるのかもしれない。

 のんびりとした晩餐会ではなく、武器を持ち、防具を付けて臨むべきだと言われた気がする。

 ハルツ公の騎士団と模擬戦をするだけなら、過去にエネドラが同行した事もあったし、

 彼女がいても何も問題ないだろう?

 わざわざ釘を刺すということは、それ以上のことなのだろう」

「その何かは分からないですが、心の準備をするべきだと言われているのですね?」

 アミルの言葉に頷いた。

 

 セ二号作戦が始まるかもしれない・・・・・・だが、その内容を説明するのは難しい。

 事前に俺が知っている作戦の概要を説明しておくと、原作通りの展開になった時にスムーズなのだが、何故、そんなことを知ってるのだという説明ができない。

 

 ジョブの取得方法、モンスターとの戦い方、新しい商売・・・・・・そんな話とはレベルが違う。

 今までは説明に困ったら、『師匠(原作主人公)に教わった』で済ませることで事足りた。

 その説明の適用が今回は難しい。

 

「場合によっては命を賭けた者同士の戦い、貴族同士の争いに巻き込まれるのかもしれない」

「そうなのですか・・・・・・」

 アミルはつい、数か月前までは人間に武器を向けるようなことはしたことがなかった。

 

 今でも人を殺したのだって、盗賊を一人だけだ。

 不安に思うのも無理はない。

 

「でも、迷ったら命を失うことになります。迷わずに立ち向かわなくてなりませんね」

「そうだな。迷宮でもそうだが、迷うことが一番命取りだ」

 そう言ってる俺に迷いがあるようじゃ、皆を不安にさせてしまう。

 

 サボーとの決闘の時は、目の前の奴を倒すって明確なゴールがあった。

 今はなんだか分からないものに備えなければならない。

 原作通りかもしれないし、違うかもしれないという漠然とした不安。

 

 

「ユキムラ君は難しい事を考えずに、あたし達に目の前の敵と戦えって言えばいいのよ。

 あたし達はそれに従うからねぇ~♪」

「その通りだぞ、主。一人で戦うのじゃなく、あたしらをちゃんと頼ってくれ」

 オリビアとヴィルマにも聞こえていたか。

 

「御館様・・・・・・あたしらは戦うため、日々鍛えている。

 目の前に敵がいれば、なんであれ、それを倒す。

 御館様の敵、全部、あたしらが倒す。心配いらない」

「そうですよね。私もイレーネさんの言葉に賛成です。

 どんな事が起きるのかは分かりませんが、

 一日一日積み重ねてきたことしか私達もできません。

 今までもそれで乗り切ってきたので、これからも乗り切れると信じています」

 自分達の力を信じろか。

 

 この世界に来てから、力をつけるために時間も知恵もたくさん注いできた。

 その成果を信じ、仲間を信じて突き進むだけだよな。

 

 原作通りのことが起きるかもしれないし、起きないかもしれない。

 そんなことに関係なく、今も迷宮で鍛えているのだし。

 

 タケダ家には俺も含めて今は59名が所属している。

 所帯がデカくになるにつれて責任が大きくなり、余計なことを考え過ぎるようになったか。

 タケダ家の命運を握ってるのは事実だけど、怯むことなく、軽んじることもなく果敢にいこう。

 

「そうだな。俺が迷ってるようじゃダメだな。

 明日はきっと皆を頼ることになる。俺に付いてきてくれるか?」

「任せろ、主。置いてきぼりだけはダメだぞ」

「御館様を倒すのはあたし。あたしが倒す前に倒させない」

「ユキムラ君、不安なら抱っこしてあげようか~♪」

「ご主人様が、あたし達を頼るのは当たり前のことです。もっと頼って下さい」

 この五人なら、セ二号作戦だろうが、なんだろうがきっと問題ない。

 

 手強い敵が出てこようが、貴族の騎士団が敵に回ろうが、普段通りに戦って何事もなかったように帰ってこよう。

 

「ドロップ品も拾い終えたし、次の敵を探すか」

「了解!」

「了解!」

「了解!」

「了解」

 

 :

 :

 :

 

 迷いを振り払うように、ひたすらボスタウルスを切り刻み、食材のドロップアイテムを量産。

 午後は結構な時間をかけて62階層を探索したが、それでもボス部屋の発見には至らず、探索を打ち切ることにした。

 

・・・・・・

 

 翌日も迷宮組はクーラタル迷宮の62階層の探索。

 そして、昼前にはボス部屋を発見。

 

 待機部屋でブリーフィング。

 

「62階層のボスモンスターはミウラタウルスだ。

 ローザの調査では、ボスタウルス以上に鋭い突進で突っ込んでくるらしい。

 特に角を使った突撃は危険なので、正面から受けないように注意してくれ。

 魔法攻撃はほとんどしないらしいが、

 後ろ足を使った蹴りもしてくるので後方からの攻撃でも油断しないように。

 ボスドロップは『リブ』という肉らしい。

 アミルの方から補足することはあるか?」

「ボスタウルスもミウラタウルスも突進されると乱戦になるかもしれません。

 ボス部屋は広いですから、自分達の位置とモンスターの位置に注意しながら戦いましょう」

「了解!」

「了解!」

「了解!」

「了解!」

 ミウラって闘牛の品種か何かだっけ?・・・・・・昔の高級スポーツカーにもそんなのがあったような、なかったような・・・・・・。

 

 :

 :

 :

 

 牛たちの大行進状態が発生したものの、最終的には全て石像にして殲滅した。

 俺の前のボスは早々に石化し、オリビアの前のボスは彼女の二本の槍でまともに立つことができないぐらい、おもしろいように転がされて、最後は石となった。

 正直、ミウラタウルスの強さは分からなかった。

 俺とオリビアのボスモンスターへの相性が良過ぎるからだろう。

 問題はイレーネやヴィルマ達が対応したボスタウルスで、アミルが懸念した通り、彼女達が回避した後は縦横無尽にボス部屋を走り回り、倒すのに時間がかかった。

 イレーネやヴィルマは闘牛士のように楽々と躱すのだが、その後、モンスターが行ったり来たりと面倒臭い。

 俺が倒すと、横取りしたと怒られるし。

 

 迷宮の通路だと進行方向が割と限定されるから扱い易いのだけど、レベルの高いタフな暴れ牛を広い場所に放つのはダメだと実感。

 

 ドロップ品はリブ2つ、ロース3つと革1つだった。

 その後はボス周回を数回重ねて、63階層の小部屋に抜け、昼食のために帰宅した。

 

・・・・・・

 

 昼食を挟んで、63階層の探索を開始する。

 ついに、威霊仙がドロップする階層まで辿り着いた。

 ドロップするのは、ボスモンスターらしいので、入手はもう少し先だが射程圏内に入ってきたということだ。

 

 63階層のボス部屋に一番近い小部屋に移動すると、騎士団員が小部屋の出口付近に張り付いている。

 インテリジェンスカードのチェックをするのだな。

 

 見られても問題ないように、パーティーメンバーのジョブを変更した。

 俺は探索者、アミルは巫女、ヴィルマは獣戦士、イレーネは暗殺者、オリビアは竜騎士にした。

 

 インテリジェンスカードのチェックをしてもらう前に、ブリーフィングを実施。

 

「今日は、この小部屋を出る前にインテリジェンスカードのチェックを受けることになる。

 その前に、この階層の情報を説明するぞ。

 クーラタルの63階層の新規モンスターはハートハーブだ。

 曲がった茎を持つ草の格好をしたモンスターだな。

 ドロップ品は緑豆で生薬素材だ。

 そして、ローザの調査によるとボスモンスターはホーリーバジルだそうだ。

 通常ドロップ品は同じく緑豆で、レアドロップに威霊仙を落とすらしい。

 ボス部屋まで辿り着くのは先になるが、辿り着いたら何周もボス戦をこなすことになる。

 ハートハーブ、ボスタウルス、シルバーサイクロプス、マザーリザードの順で多く出現する。

 ハートハーブは足が遅いので各個撃破ができると思うぞ。

 アミルの方から何かあるか?」

「特にありませんけど、インテリジェンスカードのチェックは大丈夫なのでしょうか?」

「昨晩、伝えた通り既に皆のジョブは変更してある。

 騎士団からチェックを受けた後に小部屋を出たら、直ぐに元に戻す。

 だから、問題ないはずだ」

「なるほど、分かりました」

 他のメンバーの表情も確認したが、特に疑問は無さそうだ。

 

 本当に深く考えて疑問がないのかは怪しい気もするが。

 

「じゃあ、行くぞ」

「はい」

 俺を先頭に出口の方へと向かった。

 

 

 騎士団員に近づくと、あちらから話しかけてきた。

 

「ここから先に進む場合にはインテリジェンスカードのチェックを行う。

 ボスドロップ品の威霊仙を外国に流出させないためだ。

 そのため、帝国民であるかの確認をさせてもらう。

 外国の者はこれ以上、先には進めない。

 全員、インテリジェンスカードのチェックを行うか?」

「確認してもらおう」

 インテリジェンスカードに国籍の情報なんて記載があるのだろうか?

 

 騎士のジョブでインテリジェンスカードを表示した時には分からなかったよな。

 俺が見方を知らないってだけかもしれないが。

 騎士ギルドに入れば教えてもらえるのだろうか。

 事前にヘルミーネあたりに確認すべきだったのかもしれないが、ここで何するかなんて知らなかったしなぁ。

 

 俺は外国出身という触れ込みにしているが、実際に帝国以外の国出身な訳ではない。

 あえて言えば、こことは別の異世界出身。

 確認してくれとは言ったものの、本当に大丈夫だろうか?

 

 俺の心配をよそに、目の前の騎士がインテリジェンスカード操作の詠唱をした。

 

「むっ、自由民か・・・・・・だが、帝国民としての登録はされているな。

 問題ない。では次の者・・・・・・」

「ありがとう」

 良かった。

 

 よく分からないが俺は帝国民だったらしい。今初めて知ったよ。

 自由民だが、税金を払うということが帝国民の証拠なのだろうか。

 外国出身で帝国に入ってきた帝国民じゃない者はどういう扱いになるのだろうか・・・・・・この世界の常識に疎くて困る。

 自由民は皇帝直訴権があると原作ではあったよな。

 外国の自由民の者が帝国に皇帝直訴権を訴えたら、『知らんがな。お前の国の皇帝(王)に相談しな』って言われるのだろうか?

 

 俺以外の四人も問題なく、インテリジェンスカードのチェックが終了。

 

「では、行って構わないが、ここからボス部屋までの道のりは遠い。

 この階層を五人で挑む者など初めて見た気もするが、迷宮探索は自己責任だ。

 十分な準備をしてなかったり、モンスターに敵わないと思えば躊躇せず戻ってくるように」

「分かった。気を付けるようにする。忠告、ありがとう」

 なんか、いつもと違う感じで調子が狂う。

 

 ターレ迷宮の入口にいた兄ちゃんぐらいの距離感の方が、俺にとっては好ましい。

 

 騎士団員に手をヒラヒラと振って、通路へと進んだ。

 

 :

 :

 :

 

 63階層での戦いは62階層よりも楽に感じて拍子抜けだった。

 ハートハーブは足が遅く、先に前に出てくるボスタウルス、シルバーサイクロプス、マザーリザードを各個撃破で簡単に石像にできる。

 

 後から遅れてくるので、じっくりとハートハーブは料理した。

 特別リーチがある訳でも、素早い攻撃をするでもない。

 ただタフなモンスターという感じで、迷宮組の前衛陣にとっては与しやすい相手だった。

 威霊仙をドロップする階層だから注意が必要かと思っていたが、槍との相性も良く、簡単に石像にして、後は時間をかけて砕くだけ。

 そんな作業にも似た繰り返しだった。

 

 おかげで大量の緑豆が蓄積されていく。

 これで、生薬生成部門のギルドへの売り上げが更に上がるだろうか。

 チクルスのニンマリした顔が目に浮かぶ。

 とは言え、小部屋に詰めていた騎士団員の指摘通り、ボス部屋までは遠い。

 

 午後の間には目的地にたどり着ける訳もなく、適当なところで探索を切り上げることにした。

 通常なら開けないゲートをワープを使って迷宮の壁に作り、自宅の玄関へと繋げる。

 今日は夜から晩餐会に招待されているので、早めに帰宅した。

 

・・・・・・

 

 食堂にいるエネドラに帰宅の声掛けをして、二階の自室へ。

 

 迷宮で汗をかいたので、着替えを持ってとにかく風呂へと向かった。

 汗を流してサッパリした後に自室に戻り、机の上にメモを広げる。

 

 今日のイベントがどのように進むのかは予想はできないが、原作通りであった場合に備えてのシミュレーションを暇を見つけて行なってきた。

 イベントの重要なポイント、いくつかの選択肢や、それを選ぶための誘導方法、原作ではやってなかった工夫やらを紙のメモに書いて、頭に叩き込むように何度も検討した。

 考え過ぎないように、タケダ家としての利とは何ぞや?・・・・・・と自分に問いかけるように考える軸を設定して繰り返した。

 アミルにもイロイロと準備をしてもらったので、それらはアイテムボックスに収納してある。

 

 最後にもう一度メモを読み返して、深呼吸。

 

 サボーとの決闘の際にも、事前に実施したシミュレーションは、実戦では役に立たなかった。

 準備が不十分ってのもあったけど、冷静さを失い、最後はチートの力で辛勝したのだった。

 今回も想定通りにはいかないかもしれない。

 だからって考える努力を放棄する気はないけどね。

 

 いつか、今日やった事が報われる日がくれば・・・・・・ぐらいの気持ちで臨むつもりだ。

 

 水差しからコップに水を注いで飲み干した。

 さて、少し早いかもしれないが出発するか。

 

 

 一階に降りて、エネドラにボーデの城に向かうことを告げた。

 

「旦那様、玄関にシャンプーを入れた容器を30個置いてあります。

 リュックに入れて運んでいただき、カシア様への納品をお願いします」

「ああ、準備ありがとう。割らないように注意して運ぶようにするよ」

 一緒に玄関に向かいながら、カシア様への説明書の受け渡しを忘れないように注意を受ける。

 

 俺の方でも何度もチェックして、エネドラ達と議論を重ねて作り上げたものだ。

 これを渡すのを忘れると、イロイロな意味で大変なことになる。

 

 玄関にはアミル達四人が既に待ち受けていた。

 今日はドレス姿等ではなく、全員が小奇麗なパンツルックの服装だ。

 なるべく身軽で着替え易いようにしている。

 さすがにそのまま防具を着る訳にはいかないので、更衣室を使わせてもらって着替える想定だが、リュックに仕舞える程度のものにしてある。

 

 そして、そのリュックにこれから、シャンプーを収納する訳だ。

 

 エネドラの指示の下、テキパキとリュックにシャンプーの入った容器を収納していく。

 間に挟んで割れないような緩衝材として使う布まで用意されている。

 納品前に割れているなんて事になったら、その時のカシア様の顔を見ることは俺にはできないだろう・・・・・・怖すぎる。

 

「旦那様、いってらっしゃいませ」

「ああ、慎重に行動するよ」

 輸送という面でも、今日のイベントという面でも慎重にいこう。

 

 エネドラに見送られて、玄関からボーデの城の門に一番近い木陰へワープで移動。

 とにかく安全に短い距離を歩きたい。

 

 騎士団の詰所で用件を伝えた。

 晩餐会への参加が用件なのだが、納品も目的の一つ。

 話しかけた騎士団員に挙動不審に思われたかもしれないが、これは割れないようにゆっくりと動いているからなので仕方ない。

 

 直ぐに騎士団員の後について、執務室へと案内される。

 あまり早足で歩かれてしまうと、こちらはゆっくりと歩きたいのに困ってしまう。

 こんな時は、『閣下は執務室にいます(ので、勝手に行って下さい)』と言われた方が、自分のペースで歩けて助かるのだが原作通りにはいかない。

 

 石鹸と比べると輸送面で改善が必要だな。

 

「お待ちしておりました。入って下さい」

 騎士団員がノックすると、中からカシア様の声が聞こえた。

 

 待ち受けていたのだな。

 

 騎士団員が開けてくれたドアから室内に入り、慎重に挨拶をしながら姿勢を正した。

 

「まずは納品の方を先にいたしましょうか?」

「はい。お願いします」

 ハルツ公もゴスラー騎士団長もうんともすんとも言わず、こちらを見もしない。

 

 検品用のテーブルの前へと進み、待ち受けるカシア様の前にリュックから慎重にシャンプーの入った容器を取り出して置いていく。

 他の四人もリュックから取り出して置くのを、乱暴にならないように全力でサポート。

 

「こちらが、この商品を使用するための説明書となります。

 事前に我が家のエネドラからお話があったかと思いますが、

 髪の毛を綺麗に保つため、必ずこの説明書の内容に沿ってご利用下さい」

「はい。承知しております」

 彼女は上品に笑みを浮かべている。

 

 今回は鏡と違って、中身の品質のチェックなどはできない。

 検品はあっという間に終了した。

 

 カシア様はドアに近づき、部屋の外で警備していた団員に何かを申し付けたようだ。

 慌ただしく去っていくような足音が聞こえた。

 やがて、貴族の女性と思しき女性陣が執務室に多数入ってきて、シャンプーの壺を抱え、カシア様と一緒に満面の笑みを湛えながら去っていった。

 あの女性達はカシア様やゴスラー夫人あたりから、今日の納品のことを聞いていたのかも。

 

 この後に本当に作戦が決行されるのだろうか。

 とても、そんな雰囲気には思えない。

 

 

 ゴスラー騎士団長が俺に歩み寄り、金貨の入っていると思われる小袋を無言で手渡してきた。

 中身をサッと覗いて、金貨の枚数を確認。間違いないな。

 

「確かに、いただきました」

 

 ゴスラー騎士団長に視線を向けると、無言で頷いている。

 一方でハルツ公の方を見ると、いつの間にか立ち上がっていた。

 

「ゴスラー、これよりセ二号作戦を発動する」

 

 ハルツ公の目は死んだ魚のようではなく、冷徹な為政者のような目に見えた。




お読みいただき、ありがとうございました。
本話序盤に記載した新ジョブ取得、パワーレベリング、迷宮派遣スケジュール調整は普段から日々執筆者の私がやっていることだったりします。

全て詳細に記載しても、読者様には辛い表現になるので、今回一部だけ表現しました。

各迷宮派遣パーティーのドロップ品を何がいくつ落ちたとか、どこでカードを拾ったとか細かく記載しても、物語として面白いかというと・・・・・・(苦笑
それでも、日々のメンバー育成やジョブ検討等は、執筆活動のエネルギーになってます。
クラン経営のSRPGをやっているような感覚で楽しんでいます。

一方でかなり煩雑で、二時間ぐらい迷宮探索の情報をああでもない、こうでもないみたいににらめっこして、『このキャラのこのジョブって、このままでいいのだろうか?』みたいに考え込むこともあります。
迷宮組のキャラでもないので、どこまで活躍するのか、書いている私も疑問なのですが。

全てすっ飛ばして適当に記載すると、つい自分に都合よくなってしまい、物語を書く気が失せてしまうのですよね。
『だからメインストーリーがなかなか進まないのでは?』と読者様が感じるのではと思いつつも。

次回投稿日は2026/5/8(金)の予定です。
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