異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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097.セ二号作戦(その1)(根くらーべ)

 ハルツ公が突然、『セ二号作戦』の発動を宣言した。

 原作通りとはいえ、晩餐会の前に模擬戦やるって話は方便だったのだろうな。

 発動宣言の後に、さすがに模擬戦でもやりましょうかって話にはならないよね。

 

「閣下、今、なんと?」

「セ二号作戦じゃ。しっかりしろ、ゴスラー」

 苦労人のゴスラー騎士団長であっても、上位に入る程の胃の痛いイベントかもしれない。

 

「今夜、決行するぞ」

「は、はい」

 抜き打ちでやるから、味方に紛れ込んだ敵も騙せるのだろう。

 

「タケダ殿、悪いな。緊急事態じゃ」

「その緊急事態に、私達がここにいても問題ないのでしょうか?」

 原作通りに進んでいそうだが、俺達の立場も明確にさせておきたい。

 

「すみません。私は非常招集をかけるため、失礼します」

 

 ゴスラー騎士団長は、沈痛な面持ちで退室していった。

 ハルツ公の顔は厳しい表情だ。

 

「タケダ殿を招いたのには訳がある。

 だが、その説明の前に食事にしよう。付いてきてくれ」

「・・・・・・」

 こちらの返事も聞かず、ハルツ公が執務室から出ていくので、俺達も付いていかざるを得ない。

 

 前回、前々回に晩餐会を実施したホールに向かっているな。

 

 ホールの入口の傍にいた騎士団員二人が、両側からドアを開けた。

 ハルツ公はそのまま入っていく。

 

「タケダ様、ようこそいらっしゃいました。先ほどは結構なものをありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」

 この、のほほんとした雰囲気も直ぐに消し飛ぶのだろう。

 

 室内には先日もお会いしたゴスラー夫人といつもの貴族女性がいた。

 テーブルの上には既に料理も並べられている。

 

「カシア、ゴスラーは緊急の用件で来られなくなった。

 余とタケダ殿らは会議室で食事を取る。

 七人分の食事だけ移動させるように手配してくれまいか」

「えっ?あ・・・・・・はい。分かりました」

 引き篭もり会議をやるのか。

 

 彼女は直ぐに使用人達に指示を出し始めた。

 

・・・・・・

 

 食事に参加する七人と使用人とで、二階の会議室に移動。

 

 それなりの量の料理を運んできているので、使用人達も大変だ。

 そのような苦労は気にも留めず、ハルツ公が椅子に座り、俺達にも席を勧めてきた。

 

「タケダ殿、バタバタしてすまんな。

 カシア、夕食はこの場でとる。皆に説明も必要なのでな」

「はい・・・・・・」

 この後の展開を思うと胸が痛む。彼女の実家に討ち入る訳だから。

 

「これから、重要な会議を行う。手の空いた者は外に出てくれ。

 必要があれば、こちらから呼ぶ」

「飲み物などはこちらに。では、我々は失礼いたします」

 全員の飲み物を入れ終えて、水差しなどを持っていた使用人達は挨拶して去っていった。

 

 四角形のテーブルの一辺にハルツ公とカシア様、ハルツ公の横に俺とアミル、その対面にオリビアとヴィルマ、貴族二人の対面にイレーネが一人で座った。

 見ようによっては、イレーネが一番偉く見えるかも?

 

 

「あの・・・・・・これは一体?」

「カシアには悪いと思うが、来るべき時が来てしまった」

「まさか・・・・・・、本当にそうなのですか?」

「すまん」

 ハルツ公がカシア様に小さく頭を下げた。

 

「そうなのですか・・・・・・、いつかは来るかもと思ってましたが、それが今日なのですね」

「そうじゃ。既にゴスラーには指示を出した」

 ハルツ公の言葉に、彼女は俯いてしまった。

 

「この会議では、結論が出るまで誰も外に出られないのが慣例じゃ。

 タケダ殿達も、そのつもりで参加してほしい」

「議題を聞いておりませんが、ルールは承知いたしました」

 俺以外の迷宮組は当惑している・・・・・・というかアミル以外は彼の言葉を理解したのだろうか。

 

「説明の前に、まずは食事からじゃ。カシアもよいな?」

「はい」

「タケダ殿達も遠慮なく食べてくれ」

「では、みんな、いただこうか」

 俺が四人にも勧めると、早速、食べ始めた。

 

 イレーネはホントに遠慮していないな。ブレない彼女は、ある意味頼もしい。

 

 俺もアミルも目の前の料理を食べ始める。

 だが、今日は正直、味わっている余裕はなさそうだ。

 腹が減っては戦ができないから、適量は食べておきたいが。

 

 

「タケダ殿は、領内の迷宮討伐に失敗すると貴族が爵位を失うことがあるのを知っておるか?」

「誰かが、そのような話をしているのを聞いた記憶があります。曖昧な記憶ですが」

 とりあえず、話の腰を折らない程度に相槌をうっておく。

 

「迷宮を討伐すれば、貴族に叙せられる。

 爵位が上がり、領地を所有すれば、その土地の迷宮を討伐しなければならぬ。

 それが貴族の務めじゃからな。

 迷宮が討伐できずにモンスターが蔓延れば、人が住めなくなる。

 それでは領地を所有しているとは言えぬ。

 であるなら、爵位を召し上げられるのも当然のことだ」

「私の実家・・・・・・セルマー伯のことです」

 虚ろな目でカシア様がつぶやいた。

 

 

「当代の伯爵になってから、セルマー領内では迷宮討伐が進んでおらん。

 迷宮が増えることはあっても、減ることがない。

 このままでは、降爵の危機に瀕しているのじゃ。

 エルフ族としては、現在、公爵1名、侯爵2名、伯爵1名を保持しておる。

 その一角を失うことを看過できぬ。

 貴族ではないタケダ殿には関係ない話で悪いが」

「そうなのですか」

 その侯爵1名の中にシェル達を陥れた貴族もいるのだろうか。

 

「エルフ族として、譲れぬ一線があるということじゃ。そこは理解してほしい」

「なるほど」

 ただ、エネドラの仕入れてきた情報では、既にその一角が崩れている(クーデターが発生している)という疑義もある。

 

 

「それで、セルマー伯を討つことにした」

「そうなのですか?」

 既に討たれてしまったということは、ないのだろうか。

 

 

 カシア様を見ると、俯いたまま、じっと耐えている。

 先ほどの反応と今のこの状態だと、既に討たれているということはないのか。

 いや、油断は禁物だ。

 

 

「タケダ殿は余と一緒にセルマー伯に面会したことがあるのを覚えておるか?」

「はい、一度お会いしたかと」

 やはり、奇襲作戦の尖兵になれということか。

 

「そこに我が領のエンブレムが入った幕があったのは覚えておるか?」

「はい」

「冒険者のタケダ殿には、そこにフィールドウォークで移動してもらいたい」

「・・・・・・」

 『今日は探索者のジョブで来てますが・・・・・・』と言われる事は考えてないのだろうか?

 

 迷宮に入る時に適宜ジョブを変えているって、入会試験の時に執務室で伝えたと思うが。

 鬼神のジョブにフィールドウォークのスキルがあるから、問題なく使えるとはいえ。

 探索者で来ていたら、急いでギルドに行って転職してこいってなるか・・・・・・会議は中座できないからデッドロック?

 いや、引き受けた後に冒険者ギルドに行けってなるのか。

 まあ、この雰囲気だと、なにがなんでも原作展開通りに進めようとしているようだけど。

 

 

「セルマー伯は慎重な男でな。

 城の内部には冒険者をなかなか立ち入らせないし、

 遮蔽セメントもふんだんに使っておるらしく、フィールドウォークが使える場所も限られる。

 身を守る点においては、かなり気を付けているらしい。

 じゃが、タケダ殿を面会に連れていったことで、つけ入る隙ができた訳じゃ」

「冒険者であるという情報が漏れていることはないのですか?」

 議論ということなので、ちゃんと穴が無いか確認しておく必要がある。

 

「冒険者が探索者に戻れることはセルマー伯も理解しておるので、想定しておるやもしれぬ。

 だが、日々四六時中待ち受けているということもなかろう。

 見張りや警備の者がいることは考えられるが、それほどの危険はないはずじゃ。

 こちらの動きが漏れないことが前提で、細心の注意を払っておる。

 この会議のように余人を排して話をしておるしな」

「・・・・・・」

 ハルツ公は俺が探索者のジョブで来ることを想定してなさそうだよな。思い込みは危険だぞ。

 

 だが、セルマー伯の方はどうだろうか。

 俺達が頻繁にこの城に出入りしている時点でかなり目立っている気もするが。

 多くの騎士団員の前で、うちのメンバーが模擬戦まで披露してしまったし。

 

 

「エンブレムに対して、なんらかの対策をしているということは?」

「可能性はあるが、あれはいざという時にこちらからあちらに攻め入っても構わないという

 ハルツ公爵家とセルマー伯爵家の友好と信頼の証だ。

 こちらに知らせることなく動かすことはあり得ない」

 面会の際には友好の欠片も感じられなかったけど、本当に大丈夫なのだろうか。

 

 俺なら、来てほしくない時間帯には、エンブレムの前に落とし穴でも開けておいて、落ちた先に槍衾(やりぶすま)でも仕掛けておくが。

 垂れ幕を動かすとフィールドウォークで移動できなくなるから、あの謁見の間に仕掛ける。

 原作主人公もそんなことを考えていたよな・・・・・・普通に考えるのでは?

 ついでに鳴子でも仕掛けておけば、警報装置の役目も果たせるし。

 

 そもそも、その信頼の証を奇襲攻撃の手段として使おうとしている者がいるのだ。

 奇襲を迎え撃つための罠を準備してないと何故言い切れるのか?

 まあ、罠は俺が確認して回避する手もあるが、誰もがそれを使える訳ではないぞ。

 

 それにしても、クーデター云々の話を聞いているので、必要以上に警戒してしまう。

 

「セルマー伯領の傷が浅い間に対処したい。それが今ということじゃ」

「・・・・・・」

 クーデターが起きていたら、浅い傷どころではないな。

 

「一つ伺ってもよろしいでしょうか?」

「どのようなことでも構わぬ。なんじゃ?」

 気になる点は、やはり潰しておきたい。

 

 

「クーラタルの商人ギルドで、セルマー伯領内でクーデターが発生したという噂がありました。

 もちろん、ただの噂なので真実とかけ離れている可能性が高いでしょう。

 ですが、噂にも一片の真実が紛れ込んでいることもございます。

 その件は、どのようにお考えでしょうか?」

「その噂の内容次第じゃが、まず、現セルマー伯が討たれているということはない。

 それは既に確認しておる」

 誰かを面会に向かわせたってことか?

 

 

「タケダ殿は、爵位に継承順位があることを知っておるか?」

「一応は聞いたことがございます。詳細な規則などは知りませんが」

 エルフヒロインは現セルマー伯の直系で順位が高いとか、次期伯爵は傍系だとかあったな。

 

 正直言って、カシア様の前で、現セルマー伯の生き死にの話をするのは心が痛い。

 会議から途中退出できないとルールで定められてるから、この場で確認するしかないのだが。

 

 

「我が城にもセルマー伯の継承順位が高い者がおる。

 もし、セルマー伯が討たれておったら、その者の順位に変動があるはずじゃ。

 先日、それとなく確認した際には、その者の順位に変化はなかった」

「なるほど」

 どのようなルールでどのように確認したのか詳細を知らないと、確実に大丈夫とまでは思えないが、ここは信用するしかないか。

 

 

「引き受けてくれるのなら、報酬も考えておる。

 もちろん断るという選択肢も当然与えられる。

 選択の自由は保証するつもりじゃ。

 断る場合には、作戦決行時まで、この部屋から出られないことが条件じゃ」

「報酬というのは、具体的には?」

 引き受けるのなら、報酬を確認してからだよな。

 

 カシア様の前で報酬云々の話をしたくはなかったのだが、命を賭けるかもしれないのだから妥協はできない。

 

「むっ・・・・・・威霊仙そのもの・・・・・・とは言えぬが、それに相当するものだと思ってくれ」

「具体的には教えていただけないのですか?」

 何をもって『相当するもの』なのかは、人それぞれだろう?曖昧過ぎる。

 

「タケダ殿の迷宮討伐に役立つものとだけは言っておこう。それ以上は今は口にできぬ」

「・・・・・・」

 この言い方だと威霊仙そのものは無理か。

 

 今日の午後、クーラタルの63階層に到達したから、威霊仙でなければ絶対にダメとまでは言わない。

 だが、威霊仙をケチるような者と取引すべきかどうかという点だ。

 

「では、報酬の話は作戦が終わった後に改めて、御相談させてください」

「おお、引き受けてくれるのか。さすがはタケダ殿だ。余が見込んだだけのことはある」

 本当に見込んでいるのだろうか。

 

 

「いえ、まだ引き受けた訳ではございません。

 もう少し条件なり、背景なりを確認させて下さい」

「むっ、まだあるのか。他に気になる点があれば答えるぞ」

 『どのようなことでも構わぬ』と宣言されたのだから、遠慮なくいこう。

 

「作戦の名前は『セ二号作戦』とのことですが、一号や三号というのがあるのでしょうか?

 どのような選択肢の中から、二号作戦を選んだのか知りたいです」

「察している通り、作戦はいくつか検討された。主に3つじゃが。

 一号作戦というのは、タケダ殿から断られた場合に正面からセルマー伯の城を攻める作戦じゃ。

 三号作戦というのは、これは貴族内の謀略戦であり、直接的な武力に訴えぬやり方じゃ。

 謀略の詳細は、ここでは言えぬがな。

 一号作戦は正面から攻めるので、敵味方に犠牲者がそれなりに出るじゃろう。

 二号作戦は奇襲作戦だから、犠牲は最低限じゃと見込んでおる」

 この程度の同調圧力には負けないぞ。

 

 原作でも断られた時は正面突撃だと言ってたから、それが一号作戦か。

 実は四号もあって、暗殺やテロもどきもあるのかも・・・・・・それも含めて三号なのかな。

 

 

「もう一点は、フィールドウォークで乗り込む際のやり方についてです。

 それに、こちらの希望を取り入れていただきたいです」

「ふむ、それは具体的には?」

 ここは原作に近いと言えば、原作に近い。

 

「一番初めに乗り込む時が一番危険だと思っています。

 こちらは、その一点について、全力で臨みたいと考えます。

 まず、初回に乗り込むのは、我々タケダ家五人で移動して、

 セルマー伯の移動先の確認をさせて下さい。

 一番危険な場所へは一番信頼のおける仲間と共に行きたいと考えます」

「むっ・・・・・・『まず』ということは他にもあるのじゃな?」

 ハルツ公の質問に頷く。

 

 

「はい。その際に、こちらの手の内を他家の者に見せたくはないのです。

 武器や振る舞い、陣形など、全て秘匿したく考えております。

 フィールドウォークで移動するための場所を衝立などで隠していただきたく存じます」

「それ程のものか?」

 それ程のものなのですよ。

 

 相手が三十人で待ち受けていたら、全員を撫で斬りにして戻ってくることも考えている。

 ジョブや装備品等も最大の力で乗り込みたい。

 俺の四本の武器やオリビアの槍二刀流も解禁だ・・・・・・槍をぶん回すだけのスペースがあるのかという気もするが、彼女なら器用に対応するだろう。

 

 もっとも、そんな展開は最悪寄りのシナリオだ。

 セルマー伯領の騎士団員を大量に斬殺すれば、多くの恨みを買うことになる。

 だからと言って殺されてやる義理は、こちらにはない。

 命には優先順位はある・・・・・・俺、タケダ家のメンバー、ハルツ公一派、セルマー伯一派・・・・・・戦いが不可避となれば、優先度を付けざるを得ない。

 極力、命のやり取りのある戦闘には直接関わりたくないのが本音だが。

 これは貴族同士の内紛なのだから、当事者同士でやってくれと言いたい。

 

 それでも、このイベントに関わろうとしているのには、いくつか利点があると感じているから。

 貴族という、この世界での軍隊の集団戦闘が見られるかもしれない。

 公爵領、伯爵領の戦闘能力の情報収集ができるかもしれない。

 貴族に関する情報収集ができること。

 貴族へ貸しが作れること。

 今回は無理でも、今後のイベント展開で人材が得られるルートが開けるかもしれないこと。

 

 全てが必須のことではないから、命の優先度とも照らし合わせて対応を決めていく。

 そのシミュレーションは完璧とは程遠いが、散々やってきた。

 

 

 ハルツ公は一言発した後は沈黙したままだ。

 

「これは、セ二号作戦に参加する我々が全力を尽くすため・・・・・・その誠意とお考え下さい」

「そうか、そこまで言うのなら、初回の移動については、その条件を飲もう」

 報酬の話はともかく、これを受けてもらえなかったら断ることも考えていた。

 

 正面からの戦闘を仕掛けて被害を被ることに比べれば、この程度の事は妥協してもらえると想定している。

 報酬を吹っ掛けたいところだが、今は無理だろうな。

 

 

「迷宮を討伐するのは、貴族の務めです。それを果たせなかったのですから、仕方ありません。

 私からも、タケダ様へお願いいたします」

「・・・・・・」

 カシア様にも頭を下げられてしまったら・・・・・・ここが手の打ちどころか。

 

「分かりました。先ほどの条件を引き受けていただけるのなら、先陣を切りましょう」

「ありがたい・・・・・・」

 あくまで条件付きだからね。

 

 エルフ貴族に多数囲まれて、『さっさと移動してくれ』と圧力をかけられても屈しないぞ。

 

 

「出陣は今夜遅くになる。酒はないが、たっぷりと飲み食いして英気を養ってほしい」

「ありがたく」

 既に存分に食ってる者もいるが、一区切りついたので、先程よりは味わえるようになるはず。

 

 食事をしながら、実際の段取りについても確認していく。

 

 

「安全を確認した後に一度戻ってくることになりますが、それ以降の段取りは?」

「こちらに冒険者五名で組んだパーティーを用意しておくので、

 タケダ殿は戻ってきたら、自分のパーティーを解散して、その五名に加わってくれ。

 フィールドウォークで再度、移動してもらい六名で戻ってきてパーティーを解散する。

 そうなれば、セルマー伯の城に飛べる冒険者が六名できあがることになる。

 つまり、六つのパーティーが移動できることになる訳じゃ。

 冒険者一名が最大2回、フィールドウォークで飛べば、今回の全戦力が移動を完了できる」

「なるほど」

 原作では確か、総勢四十名ちょっとだったはず。

 

 今回はタケダ家のメンバーを除いて、こちら側の戦力は36名から65名ぐらいまでか。

 

「今回の戦力はどの程度の人数なのですか?」

「それは今、ゴスラーが招集している結果次第じゃな」

 三十人なら少なくて、四十人なら大丈夫とか、こちらも判断はできないが。

 

 

「あの、閣下・・・・・・二人だけで話をしたいのですが・・・・・・」

「むっ、なんじゃ?・・・・・・まあ、よかろう。あちらへ行こう」

 ちょっと、これ以上、血生臭い話はカシア様には聞かせられない。

 

 

 カシア様から、最も離れた会議室の隅に行くと、その先にはバルコニーに続くドアがあった。

 ハルツ公はドアを開けて、バルコニーへと出た。

 これは会議室から出たことにならないのだろうか?

 ハルツ公が出たのだから問題ないか。

 

 思っていたよりもバルコニーは広い。

 というか隣の部屋との仕切りが無い、おおきなバルコニーだった。

 これって、会議室から完全に出たことになると思うぞ!

 外部の者に気付かれなければ問題ないのだろうか。

 

 思っていたよりもバルコニーは広く、眼下に見える広いスペースは見たような光景?

 ああ、これは先日、模擬戦をした場所だな。

 あの大きな部屋は、こんな感じで二階から見渡せるのか。

 模擬戦をやっている時には全然、気付かなかった。

 ここにいると、模擬戦を上から眺めることができるので、良い観戦場所になっていたのだな。

 それはともかく、会議室に残った者達に聞こえないように小声で囁くように話しかけた。

 

「初回の移動先で見張りがいる場合、無力化する必要があります。

 もちろん、見ただけで帰ってくることも可能ですが、

 見張りに気づかれると、作戦が失敗する可能性が高まります。

 一人、二人なら、私が突撃して無力化することも可能かもしれませんが、

 その場合は首を刎ねる、動けない程度に無力化する、どちらをお望みでしょうか?」

「命を奪わずに、そんなことが可能なのか?

 今回、流れる血は少なければ少ないほど良いが・・・・・・」

 絶対大丈夫とは言わないが、やりようはある。

 

「相手次第ですが、昏倒させてロープで縛ったり、口枷を噛ませることは可能でしょう。

 手っ取り早く黙らせるなら首を刎ねますが、なるべく被害は最小限にしたいのですよね?

 もしそうでしたら、口枷やロープなどの道具の準備をお願いします。

 そして、もし見張りがいて、私が無力化した場合は、

 先にある程度の戦えるパーティーを1つだけ送り込む方が適切かもしれません。

 拘束した者を黙らせるのと、謁見の間を制圧して、ドアからの敵の侵入を防ぎ、

 移動する場所の安全を早めに確保する意味でも」

「確かに・・・・・・そうやもしれぬな。

 戦力を迅速に増やすことの重要性と比較する必要はあるが。

 その判断は今しばらく保留にさせてほしい。

 じゃが、ロープや口枷はタケダ殿に渡すようにしよう。

 それらの準備は既にしてあるのでな。

 タケダ殿は指示されたパーティーを輸送されることに力を注いでほしい。

 今回、戦うのは我らの役目故な」

 まあ、思いつくことは言ったので、後は任せるか。

 

 ロープや口枷は、セルマー伯や側近を捕縛した際に使うことを想定していたのかも。

 

「ただ、三人以上の見張りがいた場合は、その者達の命の保証はできません」

「・・・・・・」

 ハルツ公が俺の方をジッと見ている。

 

 どうした?・・・・・・三人でも殺すなというのだろうか。

 

「タケダ殿は貴族の者を手に掛けるのに躊躇いがないのじゃな?」

「目の前に立ちふさがる者がいるのなら、火の粉を払うのも止む無しでは?」

「・・・・・・」

 この間はなんだ?・・・・・・貴族を舐めていると思われたか?

 

「分かった。後で少し手続きもあるのでな」

「・・・・・・?」

 手続きって?・・・・・・まあ、後で教えてもらえるのだろう。

 

「ついでに、報酬の件も文面にしてもらえると助かります・・・・・・」

「・・・・・・」

 何か言うと相手が無言になる・・・・・・会話のキャッチボールになっているのだろうか。

 

 でも、口約束ほど危ないものはないから仕方ないだろう。

 カシア様に聞こえないと、かなり踏み込んだ話ができるな。

 

 二人で席に戻り、その後も食事を続ける。

 

 

 暫くすると、ドアをノックする音が。

 

 

「閣下、ゴスラーです」

「ゴスラーか。今ドアを開ける。こちらには入ってくるなよ」

 公爵自らドアを開ける。他にいないものな。

 

 勝手の分からない俺達がやる訳にもいかないし。

 

 

「作戦は順調です。予定した者の八割と連絡がつき、現在集結しつつあります。

 ですが、一点困ったことが・・・・・・」

「なんじゃ?」

 ゴスラーがこちらをチラッと見た。

 

「よろしいのですか?」

「タケダ殿には、協力いただくことに決まったので問題ない」

「分かりました。実は・・・・・・」

 小声で話をしているので、よく聞こえない。

 

 問題ないと言ってるのだから、ハッキリとしゃべってほしかった。

 

 

「それでは、作戦の決行を前倒しにするしかあるまい」

「はい」

 上の者は簡単に前倒しというが、下の者はたまったものではない。

 

「では、私は戻って調整します」

「頼むぞ。先ほど言った書類も忘れずにな」

 ゴスラー騎士団長は足早に戻っていった。

 

 

「聞こえていたと思うが、作戦の開始を早める」

「弟に何かあったのですか?・・・・・・」

 

 その後の話は原作の展開通りだった。

 

 カシア様の従弟が次期セルマー伯の予定者であったり、その者とセルマー伯に通じている者が一緒にいたため、その従弟と連携が取れない等。

 

 

 再び、ドアがノックされた。

 

「閣下」

「ゴスラーか?」

「はい。お連れしました」

「準備の方は?」

「全て万端です。書類の方も」

 

 ゴスラーの返事を聞くと、いきなりハルツ公は剣を抜いて、ドアを静かに開けた。

 

 

「久しいな」

「はい・・・・・・えっ、これは?」

 

 この男がカシア様の従弟か。

 次期伯爵にして、苦労人の役目を押し付けられてしまう貴族。

 今はいきなり剣で脅されている。とんでもないパワハラだ。

 

 その後は、カシア様が従弟を諭したり、ハルツ公が脅したり、全エルフ最高代表者会議の決定がどうこうという話が展開された。

 

 だが、俺の方はそれどころではなかった。

 

「タケダ殿は、書類の内容を確認して署名をお願いします」

「・・・・・・」

 結構な量の文書の山だ。なんだコレは?

 

 ゴスラーによると、貴族の委任状らしい。

 委任と言っても、端的に言うと『貴族を殺すこと』の委任状。

 

 彼の話では、貴族である者を許可なく殺すことは大罪であり、盗賊に落ちる行為だと。

 それを今回は回避するために、ハルツ公が俺に委任したという体裁を取るらしい。

 そのための委任状というか契約書で、おれはそれに署名することを迫られている。

 

 この契約書は、他国との戦争に冒険者が雇われて傭兵的な扱いで参加する場合の書類を流用して・・・・・・というか、そのまんま持ってきたらしい。

 さすがに、いきなり発動した作戦に合わせた書類が準備されている訳はない。

 標準的なテンプレートそのままなので、いろいろな条件や選択肢が網羅されており、それに従って文書の量も膨大に。

 

 戦争の相手貴族を冒険者が討ち取った場合の報酬は一人あたり幾らにするとか、戦利品をどうするとか、それはそれは生々しい事項が記載されている。

 ちなみに今回は、報酬という意味では固定、戦利品は折半という記載らしい。

 折半というのは、それ以上下げてはならないという最低割合とのこと。

 冒険者の権利を守るとかなんとか、長々とお題目が書いてあった・・・・・・気が滅入る。

 

 

 かなりの量の文章なので、読むのがとっても大変・・・・・・というか、こんなもの全部読めるか!

 ハルツ公、カシア様とその従弟のやりとりなど聞いてる暇がない。

 こんなの弁護士抜きで、抜け漏れのチェックなど初見でできる訳がない。

 仕方がないから、ザッと読んで署名するしかないのかな。

 なんだか押し売りの購入契約書にサインを強要されている気分になる。

 

 やがて、話がついたのかハルツ公が俺の所にやってきたので、少しだけ苦言を呈した。

 

「今回の大義はこちらにあるという話なのでは?」

「それはこちらの言い分であって、あちらにはあちらの言い分があるじゃろう。

 別に法に照らし合わせて、どちらが正しいかなどという話でもない。

 貴族を殺すのであれば、皇帝や貴族の委任が必要ということじゃ。

 そのため、国家間の戦争が始まる前には、正式に宣戦布告をするのが慣わしとなっておる。

 そして、冒険者を戦争に参加させるには、事前に契約を結ぶことになっておるのじゃ。

 でなければ、大量に盗賊が生み出されてしまうからな」

 うーん、勉強になるけど、この先に生かされる知識なのだろうか。

 

「分かりました。署名いたします」

「頼むぞ。それと、ロープや口枷は準備は整っておるので、後でお渡ししよう」

 刃傷沙汰が起きなければ、この書類は不要なのだよなぁ。

 

 でも、最悪のケースを考えて署名するしかないか。

 

 盗賊に落ちても、非公式なら、俺のボーナススキルで元に戻すことはできる。

 公式の方でもハルツ公の力で回避できそうな気もするけど、俺のインテリジェンスカード操作をあまりしてもらいたくないのだよなぁ。

 インテリジェンスカードに更新履歴があるかは知らんけど、『其方の履歴に外国の生まれというのはないようじゃが?』と言われたら困る。

 リスクは極力回避するべきだろう。

 

 貴族殺しの委任状に比べれば、報酬の契約書は非常に簡素な書面だったぜ。

 

 『報酬は委任状の記載の通り、支払期限は本日より20日以内』・・・・・・たったこれだけ。

 委任状の方に報酬の支払期限を記載する欄もあるのだが、条件により分岐していて煩雑になるので、今回、書面を分離して附則事項的な扱いで切り出したらしい。

 まあ、シンプルな方が良いのだけど、委任状もシンプルにしてほしかった。

 

 優位に交渉を進めていた気がするのに、なんだか最後に根負けした気がしたぞ。ちくせう。




お読みいただき、ありがとうございました。

終盤の委任状の話は戦乱になってから使おうと思っていた独自設定の話で、今回、セ二号作戦で試しに使ってみようって思った感じです。
貴族殺しは大罪って設定も同じです。
もし、よろしければ、本件に関する感想や異論などもいただけると、ありがたいです。
引き続き、拙作にお付き合いいただければと思います。

次回投稿日は2026/5/10(日)の予定です。
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