ドタドタと足音が聞こえ、騎士団員の一人がドアの外に見えた。
「そろそろ人数が揃います」
「うむ。直ぐに行くと伝えてくれ」
「はっ、では私はこれで」
ハルツ公の返答を受け、足早に騎士団員は去っていった。
「それでは、本日の会議はここまでとする。
以後は、この部屋から外に出て構わぬ。
カシアは結婚の際にセルマー伯から連れてまいった者達を集めて見張りを頼む。
そろそろ、この騒ぎに感づいておるやもしれん」
「私も父の城に向かう際に同行させて下さい」
『討ち入る』等ではなく、『向かう』という言葉を使うあたり、辛い気持ちが透けて見える。
「もちろん行ってもらうつもりじゃが、まずはこちらの情報が伝わらぬように差配してくれ」
「分かりました・・・・・・」
カシア様は俯きながら足早に去っていった。
正直、メンタル的には、かなり厳しいはずだ。
貴族の務めだからという一言で、できることじゃない。
よほど普段から強く貴族としての義務を頭に沁み込ませておかなければ。
「余らも行こうか」
「準備のために、こちらの部屋で着替えさせていただいてもよろしいでしょうか?
アイテムボックスに装備品を持ってきておりますので」
とは言っても、今は見せて問題ないものしか装備しないけどね。
「構わぬ。一人、ここに騎士団員を置いていくので、準備が終わったら来てくれ。
タケダ殿がおらぬと始められぬからな」
「はい。では急いで準備します」
ドアが閉められ、索敵のマップを開くとグレーの点が一つ外の通路に見えた。
その者が、案内の騎士団員だろう。
「みんな、装備品を取り出すから準備をしてくれ」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
:
:
:
アイテムボックスから、いつも使っている装備品と今回用に準備したものを取り出して、テーブルの上に並べていく。
武器は俺とオリビア以外はいつも通り。
俺は硬直のエストックを一本だけ持ち、オリビアも硬直のダマスカス槍一本のみだ。
ハルツ公の騎士団には、これを見せておいて初回突入時の直前に追加する。
防具の方は、俺はボーナス防具は着けずに頑強の竜革鎧にして、ヴィルマとイレーネはいつも通りのものを装備。
入会試験でエステル男爵達の前で使った防具だ。
デュランダルとアルフレイルはアイテムボックスの方に収納。
ボーナス装備は全力で殲滅する時は切り札として使うが、偵察の時は使わない。
アミルとオリビアはダマスカス製の防具は止めて、俺と同じく頑強の竜革鎧や駿馬の竜革靴を装備する。
偵察するのに、音がうるさく鳴る金属製の鎧は不向きだから。
頭装備の額金と腕輪と武器だけはダマスカス鋼製を使う。
ジョブ構成はセブンスジョブで概ね、いつも通り。
今回は城の中なので、戦闘が発生したとしても魔法は使えないから魔道士はセットしない。
そもそも、俺は冒険者という扱いになっているから、魔法攻撃を見せられないが。
最悪の場合は無詠唱でメテオクラッシュを使い、建物ごと吹っ飛ばす程度は考えている。
包囲され追い詰められ、本当に手詰まりに近い状態になった場合等、戦局を無理やり動かしたい時以外は使う気はないけど。
魔道士の代わりに剣聖をセット。
『ダブルスラッシュ』のスキルはハルツ公達の前では見せられないが、剣聖の持つ敏捷の上昇効果は捨てがたい。
遊び人には、『敏捷大上昇』と博徒の『状態異常耐性ダウン』をセットした。
対人戦を意識して回避重視にする。
相手を状態異常で無力化するのは、いつも通りだ。
ユキムラ タケダ(鬼人族 ♂ 17才 自由民)
百鬼夜行Lv93 鬼神Lv93 勇者Lv93 英雄Lv93 遊び人Lv93 剣聖Lv93 忍者Lv93
装備
硬直のエストック(石化添加、攻撃力2倍、MP吸収、クリティカル二倍)
頑強の竜革のジャケット(物理ダメージ削減、状態異常耐性、魔法ダメージ削減、空)
耐水のダマスカス鋼額金(水耐性、火耐性、風耐性、土耐性)
耐毒の竜革グローブ(毒耐性、石化耐性、睡眠耐性、麻痺耐性)
駿馬の竜革靴(移動力増強、回避力二倍、空2)
身代わりのダマスカス鋼腕輪(身代わり、対人強化、空2)
他の四人のジョブは、今、彼女達が持っているジョブで一番レベルの高いものにしてある。
アミル(ドワーフ族 ♀ 16才 奴隷)
鍛冶師Lv86
装備
強権のダマスカス鋼槍(詠唱中断、HP吸収、攻撃力2倍、麻痺添加)
頑強の竜革のジャケット(物理ダメージ削減、状態異常耐性、魔法ダメージ削減、空)
耐水のダマスカス鋼額金(水耐性、火耐性、風耐性、土耐性)
耐毒の竜革グローブ(毒耐性、石化耐性、睡眠耐性、麻痺耐性)
駿馬の竜革靴(移動力増強、回避力二倍、空2)
身代わりのダマスカス鋼腕輪(身代わり、対人強化、空2)
ヴィルマ(虎人族 ♀ 17才 奴隷)
百獣王Lv93
装備
激情のダマスカス鋼剣(攻撃力2倍、麻痺添加、HP吸収、MP吸収)
頑強の竜革のジャケット(物理ダメージ削減、状態異常耐性、魔法ダメージ削減、空)
耐火のダマスカス鋼額金(火耐性、水耐性、風耐性、土耐性)
耐毒の竜革グローブ(毒耐性、石化耐性、睡眠耐性、麻痺耐性)
駿馬の竜革靴(移動力増強、回避力二倍、空2)
身代わりのダマスカス鋼腕輪(身代わり、対人強化、空2)
イレーネ(豹人族 ♀ 17才 奴隷)
くのいちLv84
装備
硬直のエストック(石化添加、攻撃力2倍、HP吸収、クリティカル二倍)
鋼鉄の盾
頑強の竜革のジャケット(物理ダメージ削減、状態異常耐性、魔法ダメージ削減、空)
耐風のダマスカス鋼額金(風耐性、火耐性、水耐性、土耐性)
耐毒の竜革グローブ(毒耐性、石化耐性、睡眠耐性、麻痺耐性)
駿馬の竜革靴(移動力増強、回避力二倍、空2)
身代わりのダマスカス鋼腕輪(身代わり、対人強化、空2)
オリビア(竜人族 ♀ 18才 奴隷)
竜将軍Lv93
装備
硬直のダマスカス鋼槍(石化添加、麻痺添加、MP吸収)
頑強の竜革のジャケット(物理ダメージ削減、状態異常耐性、魔法ダメージ削減、空)
耐土のダマスカス鋼額金(土耐性、火耐性、水耐性、風耐性)
耐毒の竜革グローブ(毒耐性、石化耐性、睡眠耐性、麻痺耐性)
駿馬の竜革靴(移動力増強、回避力二倍、空2)
身代わりのダマスカス鋼腕輪(身代わり、対人強化、空2)
ザビル第二迷宮で盗賊との戦闘を意識して作っておいた、レイモンド達が使っている身代わりのダマスカス鋼腕輪も装備する。
高レベルのジョブによるレベル補正効果と対人強化のバフを利用する。
これで、もし対人戦闘で数的不利な状態になったとしても、簡単に致命傷を負うことはないと思っている。
自爆玉による玉砕攻撃でもあれば別だが、一度は『身代わり』のスキルで耐えられるはず。
念のため、身代わりのダマスカス鋼腕輪は一人に2つずつ予備を渡してある。
ボーナスポイントの編成は、経験値系は全て外した。
迷宮と違い、城の中ではエルフ語が飛び交うはずだから、『異世界言語』をセット。
セブンスジョブなどの基本構成はそのまま。
残りのポイントは器用上昇と敏捷上昇に半分ずつ割り振った。
迷宮探索時
ボーナスポイント(289(初期値198+91(Lv上昇分))
・キャラクター再設定(1)
・武器6(デュランダル)(63)
・防具5(アルフレイル)(31)(防御力2倍、魔法ダメージ削減、状態異常無効、レベル補正無視)
・鑑定(1)
・パーティージョブ設定(3)
・パーティー項目解除(1)
・異世界言語(10)
・索敵(5)
・拠点構築(5)
・MP回復速度三倍(7)
・器用上昇(45)
・敏捷上昇(45)
・セブンスジョブ(63)
・詠唱省略(3)
・MP全解放(1)
・ガンマ線バースト(1)
・パーティライゼイション(1)
・ワープ(1)
・メテオクラッシュ(1)
余剰ポイント(1)
これで準備完了か。
「みんな、準備は大丈夫か?」
俺の質問に全員が静かに頷いた。
必ず戦うと決まってる訳ではないが、皆、良い眼をしている。
この集中力なら大丈夫か。
「よし行くぞ」
ドアを開けて、外にいた騎士団員に声をかけた。
「遅くなった。案内を頼む」
「はい。付いてきて下さい」
緊張した面持ちの若い騎士団員の後に俺達も続いた。
付いていった先は・・・・・・模擬戦をやった場所なのか。
その場所には多くのエルフ族の者達がいた。
空気が張り詰めている気もするが、美男美女のエルフ族の者達が集まっていると、これから討ち入りを決行する・・・・・・ようには見えず、舞踏会でも始まるのかと錯覚してしまう。
これがエステル男爵や、この前の百獣王のような獣人系の者達が集まっていたら、『えっと、ここはどこの組事務所でしょうか?』と感じるのだろうか・・・・・・偏見が過ぎるか。
ザビル騎士団だったら、山賊の隠れ家に来てしまった・・・・・・とか?
ああぁ・・・・・・山賊は亜人が盗賊落ちした時になるジョブだったっけ。
亜人ってエルフもか・・・・・・エルフの盗賊が山賊って、ちょっとイメージ的にどうだろう。
どちらかというと義賊とか・・・・・・ロビンフッドのイメージなのだが。
「ご主人様、どうかしました?」
「あっ、いや・・・・・・アミル、大丈夫だ」
思考の迷路に入り込んでしまっていたらしい。
案内の騎士団員や迷宮組のメンバーが俺を不思議そうな顔で見ている。
いかんいかん。集中しないと。
俺達が現れると、ゴスラー騎士団長が手を振って、手招きをしている。
少し離れた場所に、衝立が複数置かれた場所が見えた。
あの場所に移動用の絨毯でもあるのだろう。
その少し横にも絨毯がかけられた箇所が二箇所ある。
一度、五人の冒険者と伯爵の城に行き、戻ってきたら、複数のパーティーを一気に送るためのものだろうか。
絨毯の数が少ないと渋滞する気もするけど、大丈夫なのだろうか。
移動するための絨毯と戻るための絨毯を決めてあるのかもしれないが。
あまり目立ちたくないが、先陣を切るのでゴスラー騎士団長の近くに行き、五人で並んだ。
今回は俺が先頭に立ち、イレーネは後ろに引っ込んでいる。
こういう時は彼女は一番前に拘らない・・・・・・面倒臭いのだろう。
まだ、少し明るいので、篝火の用意はされているが、火は焚かれていないようだ。
城の建物が近くにあり、バルコニーのような場所から下の我々を見ている者までいる。
ひょっとしたら、騎士団員の家族が心配して見守ってるいるのかもしれない。
索敵で確認した限りは、タケダ家以外の者達は全員グレーの色。
ここに赤色の者がいたら、ちょっとどうしたものかと躊躇してしまうが、大丈夫のようだ。
現時点では、こちらの動きは察知されていないと思いたい。
ザッと数えた感じでは、40名を超えているぐらいだろうか。
本当に全員が移動するのかは分からないが。
やがて、ハルツ公が前に進み出た。
いつの間にか、戦うための装備品をちゃんと身に着けていた。
彼の目の前には次期伯爵に指名されたカシア様の従弟の姿がある。
カシア様の姿は見当たらない。足止めをしているのだろう。
「簡単に作戦を説明する。
まずはタケダ殿達に偵察してもらって、移動場所の安全確保を行なってもらう。
その後は城に戻ってきて、冒険者達のパーティーを運んでもらう。
彼らが再びこちらに戻ってきたら、貴公と余達の出番となる。
貴公にはこちらの用意した人員と共に目的の城まで飛んでもらう。
今回倒すのはセルマー伯一人なので、城の正面から入り、その旨を触れまわってくれ。
そして伯爵側の者達に向けて、抵抗しないように説得してほしい。
抵抗が弱まれば、犠牲者も減り、その功績が貴公の手柄となるのだ」
「精一杯のことをいたします」
敵陣に乗り込んで戦うのではなく、まずは説得するというのは勇気ある行動だ。
へたすれば、捕らえられて殺される可能性だってある。
元々は身内とはいえ、窮鼠になれば何をしでかすか分からないだろう。
いつも奇襲で斬りかかるのを常としている俺にはできないことだ。
「その後は戻ってきた冒険者達がパーティーを組んで、どんどん戦力を送り込む。
後方から一気に攻め込み、城内を押さえ、セルマー伯を捕縛するのじゃ」
「分かりました」
次期伯爵の男は青ざめた表情だが、しっかりとした声で応じた。
つい先ほどまで、こんな話になるなんて知らなかったのだ。
それなのに、今は命懸けの先陣を切る。
考えようによっては、俺達よりも遥かに命の危険があるはずだ。
それを決断して行動に移れるからこそ、次期伯爵に指名されるのかもしれない。
「簡素な装備品でよければ、こちらで用意したものを使ってくれ」
「ありがとうございます」
彼は騎士団員に連れられて、この場を離れた。
でも、こういう時は簡素ではなく、ちゃんと見栄えのする鎧で、伯爵領の者達にアピールした方が得策だと思うのだが。
実は彼が途中で裏切るということも、ハルツ公は想定に入れているのかもしれない。
作戦の内容もたった今、説明したばかりという感じだしな。
装備品を取りに戻させるとセルマー伯側に通報する可能性があり、それを防ぐためだろうか。
外堀を埋めてからゴリ押ししている気もするが、突貫工事なのでどこかで綻びが生じないことを祈りたい。
「タケダ殿も、あの衝立の先で準備をしていただきたい」
「分かりました」
その前に確認しておかなければ。
「戻る時は、どの絨毯に戻りますか?」
「衝立の先ではなく、その横の右の絨毯に戻るようにしてくれ」
「なるほど、分かりました」
衝立をどかしたりとか面倒だから、指示に従おう。
五人で衝立の陰へ移動。
壁には絨毯がかけられていて、その傍にロープの束と口枷らしきもの3つ置いてあった。
口枷なんて使ったことはない。俺には特殊な性癖などないので。
飛ぶ前に使い方を試しておかないと・・・・・・自分で着けて試すしかないのか。
誰かを実験台にするのは忍びない。
これをイレーネに使うと噛まれることがなくなるのだろうか?
今は考えるのはよそう。
「これを・・・・・・」
「ユキムラ君、ありがとう~♪」
アイテムボックスから、オリビアの槍を一本取り出して渡した。
俺もデュランダルを取り出して、硬直のエストックと共に左右の上腕に持った。
殺傷武器はこの二本だけだ。
次にアミルに用意してもらった、武器を二本取り出す。
催眠の木刀 片手剣
スキル 催眠
木製武器で、普段は訓練に使っている木刀は殺傷能力がほとんどない。
装備品であるから、空きスロットも1つは作られることがあるので、催眠のスキルをアミルに融合してもらった。
催眠の木刀二本で連続して突けば、即座に無力化できるだろう。
もし、相手を生かして無力化するのであれば、これを使うのがベターだ。
石化や毒は放置できないし、麻痺もそうだが意識があると暴れられて困る。
眠らせることができれば、ダメージを与えなければ起きる確率は低い。
セブンスジョブで偵察に行くので、通常の武器で峰打ちで昏倒させるなんて器用な真似は無理。
加減もできずに殺してしまう可能性があるからだ。
かといって村人ジョブで向かう事もできないので、わざわざ木刀にスキル融合した。
今回はなるべく殺さずにという要望だったので、用意しておいた木刀を使うのが適切だろう。
もちろん、起きてしまうリスクもゼロではないので、そのためのロープと口枷だ。
ついでに、今日はエネドラが準備してくれた大量の布がある。
目隠しもさせてもらって、相手の視界もシャットアウトする。
だが、できれば使うことなく、往復してピストン輸送をするだけであってほしい。
そして口枷、口枷・・・・・・これ、結構難しいな。
自分で使いながら、頭の後ろに手を回してセットすると、それを見たアミルが口元を押さえながらクスクスと笑っている。
アミル、やっぱり可愛いな・・・・・・この口枷で悪戯したくなるじゃないか。
とりあえず、3つともちゃんと使えることを確認。
ちゃんと綺麗に洗ってあったようで、試しに使うのに嫌な気分にはならなかった。
だが、これを敵の奴らに使う時は、俺と間接キスをすることになるかと思うとゲンナリする。
まあ、仕方ない。今から洗っている暇はないし。
「そろそろ必要な準備が整ったようじゃな」
「全員、傾聴!」
ハルツ公とゴスラー騎士団長の声が衝立の向こうから聞こえた。
俺達も追加の武器を衝立に立て掛けて置き、見える場に出てきて話を聞く。
「事ここに至って、作戦内容を細かく説明はしない。
この作戦は全エルフ最高代表者会議の賛同を得た大義あるものじゃ。
セルマー伯領を滅ぼすのではない、共に歩むために誤りを正すのみ!
臆することはない。
勇敢に立ち向かい、相手に慈悲を与え、気高き勝利を我らが手に。
エルフ族の未来は、皆の双肩にかかっておる。
ハルツ公爵家とセルマー伯爵家に栄光あれ。
諸君らの奮闘に期待する」
「「「「「「オー!」」」」」」
集まった騎士団員が一斉に声を上げた。
声が高いせいか、イマイチ迫力を感じないが、皆、真剣な表情だ。
士気は高まったので、さすが貴族最高位の公爵様という感じだろうか。
「まずは偵察の部隊を出す。
安全を確保できたら、直ぐに戻ってもらい、冒険者達のパーティーを送り込む。
もし、移動できないようなら、正面から乗り込むつもりだ。
移動できない場合は速やかに伝えてもらいたい」
「分かりました」
エンブレムが撤去されていたら、セ一号作戦に切り替わるのか。
「タケダ殿、注意していかれよ。
まずは自分達の安全を第一に考えて行動されよ。
どのような事態になろうとも責任は全て余が持つ」
「了解です」
さて、覚悟を決めよう。
何度も頭の中で繰り返してきた、シミュレーション通りに行動するのみ。
衝立の陰に五人で移動。
「まずは俺が一番初めに移動する。
俺の姿が消えたら、後に続いて移動してほしい。
足音をなるべく立てないように行動してくれよ」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「ご主人様、決して無理をしないで下さい」
アミルの心配そうな顔に俺も無言で頷く。
デュランダルを上腕の右手で持ち、硬直のエストックを左手で持ち、ローブの束もしっかりと左手で握り込んだ。
硬直の木刀を下腕の左右に持ち、左手には口枷も持つ。
残りの口枷とロープの予備はリュックに入れた。
これで準備完了だ。
暗くても、幸い鬼人族の俺は夜目が利くので、周囲を確認することは十分可能なはず。
「では、行ってくる」
皆に声を掛けて、絨毯の前に立った。
速攻でケリをつけよう。
(オーバーホエルミング)
(フィールドウォーク)
開いたゲートをセルマー伯の城の謁見した場所のエンブレムがあった場所に繋げた。
ちゃんと繋がったので、移動されたりはしていないのか。
フィールドウォークのゲートを閉じる。
(ワープ)
ワープゲートをエンブレムから少し離れた壁に繋げた。
開いたゲートに顔を入れる。
出先のゲートで顔だけ出して・・・・・・明るいじゃないか!・・・・・・見張りは?
左右を見回すと、エンブレムが見えた・・・・・・罠は設置されてない。
(索敵)
マップを見ると、謁見室の中に赤い点が一つ。
場所は・・・・・・エンブレムと出口のドアの中間付近で、こちらに背を向けている。
外の通路やマップの見えるところに他の点は見当たらない。これは捕縛のパターンだ。
(鑑定)
騎士Lv8か。
なんとなく分かっていたけど、見張りがやっぱりいたか。
ワープゲートを抜けて駆け出し・・・・・・騎士の男の背中に迫る。
(状態異常耐性ダウン)
からの、催眠の木刀二本による連続突き・・・・・・優しく、それでいてしっかり突っつくように。
7、8回突いたところで、いったん攻撃を止めて、超速スキルが切れるのを待った。
「うっ・・・・・・」
小さな声を上げて、崩れ落ちそうになる男を後ろから抱えた。
眠ったのか、痛みで昏倒したのか分からないが確認する余裕はない。
抱えた感じでは、死んではいないからセーフだ。
口枷をつけ、ロープで足を縛り、手を後ろに回して縛り付ける。
布を使って目隠しもする。
「主、大丈夫か?」
小声でヴィルマが話しかけてきた。
「ああ、眠らせた。みんな、出口のドアの傍を警戒しておいてくれ」
「・・・・・・」
俺が小声で話し掛けたので、四人とも無言で頷いた。
オリビアから槍を一本だけ受け取った。
少しでも時間が惜しい。
(オーバーホエルミング)
(アイテムボックス操作)
オリビアの槍、デュランダル、硬直の木刀二本を収納。
俺の手には硬直のエストックの一本だけだ。
パーティーをいったん解散した。
この瞬間から、四人がもっとも危険な状態になる。
早く戻ってきたい焦燥に駆られるが、グッと我慢。
足音を立てないように、エンブレムのある場所に戻る。
右横にあるワープゲートを閉じておく。
(フィールドウォーク)
ゲートを開き、衝立の右側にあった絨毯へと繋げた。
超速スキルの効果が切れるのを待つ。
オーバーホエルミングの効果が切れ、ドアの傍にいる四人に視線を送って、無言で頷いた。
扉の傍にいる全員が頷くのを確認してゲートを通り抜けた。
ゲートをくぐり抜けると、ハルツ公とゴスラー騎士団長の顔が見えた。
「うちの四人を安全確保のために、謁見室のドアの傍に残してあります。
見張りが一人いたので、眠らせました。
口枷を付けてロープで縛ってありますので、人を寄越して確保するようにして下さい」
「分かったが、まずは冒険者達の移動からじゃ」
ハルツ公は俺にそう告げると、横にずれるように移動した。
すぐにパーティーへの参加要請が来たので受諾。
フィールドウォークの呪文を唱えて、セルマー伯の城のエンブレムに六人でとんぼ返りした。
(索敵)
四人は無事のようだ。外の通路にも、マップの見える位置にも他に点は見当たらない。
冒険者五人に続いてゲートをくぐり、俺もボーデの城に戻った。
戻ってくると、横の絨毯の前に次期伯爵の姿が見えた。
「それでは、行ってまいります」
「期待しておるぞ」
「お任せ下さい」
まずは先陣を切るのだな。正面から入る一番危険な役目だ。
殿の俺が戻ると、一緒に移動した冒険者がパーティーを解散したようだ。
「タケダ殿、次は余達を頼む」
「はい」
パーティー編成の詠唱をして、五人を加えた。
その間にも、俺が一度運んだ冒険者達のパーティーが次々と絨毯の先へと消えていった。
探索者がパーティーを組んでいて、それに冒険者を加えて飛んだってやつか。
探索者ジョブは迷宮では大活躍だが、対人戦闘ではどうなのだろうな。
そんなことよりも、俺は早くアミル達がいる所に戻りたい。
今は絨毯の空き待ちだ。
「向こうについたらパーティーを解散し、そのまま待機してほしい。
あるいは、タケダ殿のパーティーメンバーをこちらに戻しても構わない」
「いえ、彼女達は常に私と行動を共にしますので」
「そうか。わかった。タケダ殿の都合の良いようにされるがよい」
俺達の順番が来たので、フィールドウォークでゲートを開いた。
俺はゲートを最後に通り、ハルツ公とそのメンバーを加えていたパーティーを解散。
ハルツ公達は急いで出口に向かっている。
パーティーをちゃんと組んでいるのだろうか。
組まないで戦闘するのは危険な気がするぞ。
あるいは戦闘をしないで降伏させる自信があるのだろうか。
(索敵)
青い点が四つ、他はまばらにグレーの点が見える。
マップで見る限りは赤い点は見えないから、差し迫った危険はないだろう。
ドアの近くに行き、皆と合流した。
「お疲れ。皆、俺のパーティーに入ってくれ」
「あっ、主、出ていく者はたくさんいたけど、入ってくる者はいなかったぞ。
敵らしい奴等も来なかったし」
ヴィルマの尻尾が高速回転していて可愛い。
イレーネがなんか、キョロキョロしている。
「どうした?」
「ん~、なんか変?」
俺が首を傾げると、彼女も同じ方向に傾げている・・・・・・これも可愛いな。
ともかく全員がパーティーに加わった。
これでかなり安心できたな。
ひとまずは役目を果たし終えただろうか。
「ちょっと緊張しましたけど、何事もなくて良かったです。
ご主人様が縛り上げた者は、騎士団員の方達が引っ張っていきました」
「そうか。だから、この場にいないのだな」
まあ、彼には顔を見られていないから、俺が昏倒させたということは分かるまい。
今回、ハルツ公が派遣しようとしている戦闘人員は44、5名ぐらいだったか。
冒険者が俺を除いて6名程度だった気がする。
この6名は兵員輸送用かつ戦闘もできるという者達なのかも。
我が家は59名の所属メンバーのうち、戦闘メンバーが35名。
冒険者のジョブが使えて、戦える者が6名ぐらい。
まあ、単純比較はできないか。
ピコ、ビンス、リックも冒険者のジョブを持っているが、三人は戦闘は不得手だ。
有事の際に、逃げるだけの訓練とかもやるべきだろうか。
セルマー伯のこういう状況を見ると、つい考えてしまうな。
ドアの傍に立ちながら、索敵のマップをチラチラと見ていると、エンブレムの方から複数人の気配がした。
カシア様のパーティーが到着したのか。
戦闘装備を身に着けている。
まだ冒険者がいたのか、いや、あれは俺が初回に送り届けた冒険者だな。
ゴスラー騎士団長は8割と連絡が取れたと言ってたから、残りの2割がおっつけ到着して、移動し始めたのかもしれない。
ドアからカシア様達が出ようとしたところで、外からハルツ公が数人を引き連れて戻ってきた。
急いで、俺達はドアの傍から離れる。
「カシア、大丈夫だ。
作戦は順調に推移しておる。
こちらにもセルマー伯側にも損害はほとんど出ていない。
一部の部屋で立てこもっている連中がいるようで、そのドアを破ろうとしている。
伯爵はまだ身柄を拘束していない・・・・・・というか、居場所が分からない状況だ」
「そうですか」
居場所が分からなくて、順調と言えるのだろうか。
ああ、原作では炭置き小屋とかに隠れているという話だったっけ。
なら、時間の問題か。
その時、廊下の外から爆発するような低い音が聞こえた。
少し足元も震えたような気がする。
「なんじゃ、何が起きた?」
「父様・・・・・・」
ハルツ公は眉間に皺が寄り、カシア様は心配そうな表情でドアの外を見つめた。
簡単には終わらなさそうだな。
やっぱり、この世界はハードモードのようだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/5/12(火)の予定です。