ハルツ公と、この場にいる主な騎士団員で何か協議をしているようだ。
どうも、セルマー伯の城に行こうとするハルツ公を周りが止めている模様。
やがて結論が出たのか、ハルツ公が俺を手招きしている・・・・・・嫌な予感しかしない。
「タケダ殿、これから余は、この冒険者と共にセルマー伯の居城へと移動する。
ゴスラーのパーティーの者達は、この場に残していきたい。
タケダ殿達には護衛をお願いしたいのがじゃが・・・・・・」
「護衛であれば、特に構いません」
護衛と言いながら、殺戮部隊と化している俺達。
アミルだけは、まだ今回の作戦に限れば、一人も殺していないな。
無理に人を殺める必要もないが。
当初の想定は、単なる
ボーデの城の賊軍を殲滅した訳ではないので、戦力を残していかないと人手不足なのだろう。
ゴスラー騎士団長からの呼び出し理由も分からないし。
伝令役が何か伝えたのかもしれないから、差し迫った危険はないのかもしれない。
それに、ここの移動用絨毯を確保しておかないと、いざという時の身動きが取れない。
ゴスラー騎士団長達は、ハルツ公のエンブレムの所からフィールドウォークで移動できるが、移動先はダイレクトにこの絨毯の方が便利なはず。
ここの絨毯を撤去されると、へたするとボーデの冒険者ギルドを経由して城門から入ることになるので、かなりの遠回りになる。
他の移動用絨毯は外してしまったからな。
「では、移動する。カシア、ここの確保を頼むぞ」
「はい。閣下も気を付けて下さい」
カシア様をリーダーにいったん据えるのか。
まあ、ここから動かないのであれば旗頭としては悪くないのかも。
「閣下、一応、先に我々が移動します。少し時間を置いてから移動をお願いします」
「むっ、分かった」
猫の目のように状況が変わるので、伝令役が出発した時と状況が一変してることもあり得る。
フィールドウォークの呪文を詠唱して、セルマー伯の居城へと五人で移動。
(索敵)
ゲッ、赤い点が二つ見えるじゃないか。
その近くにグレーの点が二つ存在する。
ゴスラー騎士団長と見たことのある騎士団員の二人だが・・・・・・二つの赤い点は?
(鑑定)
ルイ(エルフ族 ♂ 14才 )
山賊Lv1
装備 皮の靴
カーラ・エストグリュン・アンセルム(エルフ族 ♀ 17才
装備 革の靴
伯爵!・・・・・・ってことは、この娘が亡くなったセルマー伯の嫡子の長女ってことか?
それにしても、何故ジョブが剣匠なのだ?・・・・・・しかも、年齢の割にレベルが結構高い。
原作通りなら、低レベルの村人ジョブなのではないのか?
両腕には手枷が着けられて、装備品らしきものは革の靴以外は一切ない。
身代わりのミサンガも着けてないな。
捕縛され、武装解除させられたということなのだろうか。
いや、それよりも、この女、よく見ると左目に黒い眼帯をしている。
服装は虜囚のせいなのか、伯爵という地位の割には質素な身なりだ。
黒髪の豊かな長髪をポニーテールように後ろにまとめていて、右目の眼光は鋭い。
囚われの身になり、怒りを抑えているのかもしれないが。
もう一人のルイとかいう未成年の男の子は山賊のジョブか。
Lv1だし、亜人族で盗賊落ちしたばかりということか。
セルマー伯に毒を盛って、暗殺した犯人?
マップに灰色の点が2つ現れた。
エンブレムの傍だからハルツ公と伝令役の冒険者か。
二人はゴスラー騎士団長の方へ早足に向かっている。
俺達も護衛役だから、一応、付いていこう。
剣匠Lv22の者は危険だ。
手枷をしているとはいえ、手に持たずに小刀とか隠していたら、鑑定では見えないし。
ゴスラー騎士団長達も、こちらに気付いたようだ。
ようやく主立った人物が集合したことになるのかな。カシア様がいないけど。
原作通りなら、これから少し状況が動き始めるのだろうか。
隻眼の女伯爵はハルツ公や一緒に来た俺達を親の仇のように物凄く睨みつけている。
実際、セ二号作戦のせいで、セルマー伯が毒殺されたのなら、仇扱いされても仕方ない・・・・・・俺のせいではないと言いたいが。
そして、彼女は村人や魔法使いという雰囲気ではなく、どう見ても
近くで見ると、地黒なのか日に焼けているのか、エルフにしては小麦色の肌をしている。
ダークエルフとまでは言わないが、色白のエルフ特有の透明感のようなものはない。
「カーラ殿、この城の主、セルマー伯が亡くなられたのはご存じか?」
「・・・・・・」
彼女は鋭い眼光をハルツ公に向け、無言で頷いた。
「セルマー伯の嫡子の長女や、その弟妹の居場所をご存じか?」
「・・・・・・」
今度は首を横に振った・・・・・・というか、この娘が、その長女ではないのか?
「其方の父君も亡くなられておるな?」
「・・・・・・」
彼女の右目は、そのままハルツ公を呪い殺さんばかりの鋭さになった。
なんだ、一体、何が起きているのだ?
話の流れが全然、分からない。
「閣下、カーラ殿が今、セルマー領の伯爵となっております。
先ほど、インテリジェンスカードの確認をしました」
「なんじゃと?」
ゴスラー騎士団長の言葉に今度はハルツ公が驚く番になった。
俺は鑑定で知っていたけどね。
だが、セルマー伯が死んだのなら、その行方不明の長女が伯爵を継ぐという話ではないのか?
原作では、確かそうなると言っていたはずだ。
まさか、既に殺されてしまったのか?
いや、仮にそうだとしても、カシア様の従弟が伯爵位を継ぐはずでは・・・・・・。
このカーラという娘は一体どういう立ち位置なのだ?
爵位だけは、今、伯爵というのは分かったが。
「この城にいたカーラ殿の弟妹、付き添いの騎士も捕縛しております」
「そうか」
今はハルツ公の方も厳しい顔で彼女を見据えている。
ドアの向こうの通路からグレーの点がいくつか近づいてくるのが見えた。
やがてドアを通り抜けて、こちらに向かってきたのは・・・・・・カシア様の従弟か。
随分久しぶりに見たような気がする。
今日は原作と全く異なる展開がイロイロ有り過ぎだよ。
最初にこの謁見室に冒険者達を輸送するまでは、比較的順調だったのに。
「閣下、城の中の確認はほぼ終了しました。敵対する勢力はおりません」
「そうか、よく頑張られた。其方の今回の功績は小さくないはずじゃ」
いやいや、ここに赤い点の方々が二人いますけど。
他にも捕縛した弟妹とか騎士とかも、きっと赤いのじゃないか。
捕縛してあったら、敵対勢力だったとしても誤差のうちなのだろうか。
ハルツ公がこの場を離れて、次期伯爵の男と何やら内緒話をしている。
この状況をかいつまんで説明しているのかもしれない。
あっ、ゴスラー騎士団長まで二人の所に行ってしまった。
彼等がこの場を離れたせいで、今度は俺がこの女伯爵にガンを飛ばされているのだが。
俺はただの運び屋だったのだから、敵意を向けないでいただきたい。
でも、俺達は敵対勢力を両手両足では数えられないぐらい殲滅したから無罪とは言い難いか。
それは不可抗力だったし、俺の方は別に君に遺恨はないぞ。
だから、ヴィルマとイレーネは俺の左右から、この女伯爵にガンを飛ばさないように。
お互いガンを飛ばし合っても何の意味もないから。
一応、警戒のため残っている騎士はいるが、レベルから考えると、この娘の方が強そうだ。
この丸腰の娘に俺が負けることはないが、ゴスラー騎士団長あたりだと危ないかも。
ここでは魔法は使えないからな。
密談が終わったのか、ハルツ公、ゴスラー騎士団長、次期伯爵候補の三人がこちらに合流した。
「カーラ殿、其方がセルマー領の伯爵位を務めるのは荷が重い。
そなたも面識があると思うが・・・・・・こちらの者に次期伯爵になってもらう」
「奥方のカシア殿の従弟か・・・・・・相変わらず政争が好きなようだな」
おおぉ・・・・・・この状況で、よくそんな台詞が吐けるな。
「政治、領地経営、迷宮討伐とこなしてこそ、貴族なのじゃ。
其方の父君は前の二つが苦手だったようじゃが・・・・・・」
「父上を愚弄する気か!
わが父とエストグリュン家は迷宮討伐をに力を傾けていた。
セルマー伯に認めてもらえるまで、あと一歩のところだったのだ」
よく分からないが、もう少し待っていたらセルマー伯の迷宮討伐に進捗があったということ?
本当にそうなのだろうか・・・・・・希望的観測ってやつじゃないか。
「いずれにしても、其方では全エルフ最高代表者会議の賛同を得られない。
其方には、伯爵位を譲位してもらうぞ」
「そのような事は分かっている。
実力もないのに転がり込んできた伯爵位など、私には不要だ。
父上亡き後、私がエストグリュン家の当主になり、迷宮討伐に邁進するつもりだ」
17才で当主ってのは、それはそれで大変だよな。
「悪いが、そなたがエストグリュンの子爵家を継ぐことも許可できぬ。
今回の戦いでは大きな被害が出ている。
当事者である其方らを子爵家のまま残すことなどできぬのじゃ。
其方には、家名を捨てるために奴隷になっていただく」
「父上も我々も・・・・・・エストグリュン家は嵌められたのだ。
罪なき者を裁くのが、其方の政治の道理に適うとでも言うのか?」
どちらの言い分にも理がありそうだが、所詮は勝てば官軍だ。
ハルツ公は今回、負けに近い損害を被ってそうに思えるのだが、勝者としての論理を振りかざすつもりなのだな。
まあ、勝ったと言い張る以外の選択がないのだろう。
実際問題、セルマー伯側のトップ層は死亡しているので、文句を言う奴がいないのかも。
加えて、全エルフ最高代表者会議がバックについているので、外堀も埋められている。
こちらの城には、もう敵対勢力がほとんどいないと言ってたよな。
ボーデの城の方でも、討ち入った賊軍を一掃したら、セ二号作戦を遂行するための障害はほとんど排除できるか。
だとすると、残っている問題は誰がセルマー伯になるかということだけ。
どちらの選択が将来のセルマー伯領にとって良いのかは、俺には分からないけど。
ただ、選択するのは敗者ではなく、勝者の方だってことなのだろう。
「エストグリュン家を捨てることは、私にはできない。この命を失うことがあっても・・・・・・」
「では、其方には死んでいただく。もちろん、其方の弟妹らも同じく後を追っていただく。
こちらは穏便に済ませたいと思っていたのじゃが、それができぬというのであれば仕方ない」
ハルツ公の言葉に、彼女は怒りの表情になった。
「ひ、卑劣な・・・・・・」
「もう一度言う。家名を捨てなされ。
それが多くの者にとって、最も良い選択肢なのじゃ」
美しい真っ青な片方の瞳でハルツ公をにらみつけている。
懸命に涙をこらえているかのようだ。
「妹や弟たちも一緒に・・・・・・」
「それは認められぬ。エストグリュン家の力を一箇所に集める訳にはいかぬからな」
やっぱり、弟妹は人質にするのか。
「妹や弟達がいつかエストグリュン家を・・・・・・」
「期待を持たせる訳にはいかぬから、予め言っておくが、それは叶わぬ。
この城とボーデの城で死んだ者達を納得させられぬからな。
迷宮討伐を成し遂げ、功績を残せば、別の家を立てることもありえるだろう。
いずれにしても、其方の弟妹達の努力次第だ」
迷宮討伐の一番きつい所に送られるとか?
最高階層に到達する前の露払いに使われることもありえるか。
いずれにしても、簡単に功績を上げられるようなチャンスは与えられないだろう。
多くの者の上に立つ為政者としては示しが付かないということかも。
その弟妹が、いつか反乱分子になる可能性は・・・・・・その程度のことは考えた上での選択か。
「・・・・・・分かりました。好きにすればよいでしょう」
「では、気の変わらぬうちに手続きを済ませよう」
彼女はハルツ公に連れられて、俺から離れた所に向かった。
こんな床が血に染まってる場所でやるのか?・・・・・・その原因を作ったのは俺達だけど。
そちらにはゴスラー騎士団長、次期伯爵のカシアの従弟の合わせて四名が集まる。
騎士の一人が山賊の男の子の見張りをやっている。
この子も女伯爵の関係者なのだろう・・・・・・顔を見ると、頬が涙に濡れている。
ここでの会話からすると、女伯爵の弟妹ではなさそうだが。
俺から、この子にかけてやれる言葉はない。
盗賊落ちしたということは、この子の人生は女伯爵の弟妹以上に過酷な人生を送ることになるのだと思う。
そして、俺は部外者って事なのか。
まあ、貴族の誰が伯爵になるかなんて、俺が関与することではない。
女伯爵は・・・・・・いや、元伯爵か・・・・・・青ざめた表情で戻ってきた。
先ほどの鋭い眼光はもはや失われている。
手枷も外され・・・・・・貴族ではなくなり、奴隷になったのだろう。
奴隷が逃亡すると盗賊になると聞いた気がする。
そんな事になったら、殺す大義名分を与えてしまうか。
(鑑定)
カーラ(エルフ族 ♀ 17才
剣匠Lv22
装備 革の靴
家名も継嫡家名もなくなった。
原作のエルフヒロインと同じか。
そういえば、そのヒロインはどこに行ったのだろうか。
そもそも、何故、原作の彼女が伯爵継承ルートに関与してないのかも謎だ。
元女伯爵の彼女は、索敵スキルで見ると赤色からグレーに色が変わったようだ。
「タケダ殿」
「はい」
「よろしければ、彼女を貰ってくれまいか」
やっぱり、そう来たか。
結構、無理やり原作通りの流れに持ってくるな。
だが、主導権を握っているのはハルツ公の方だ。
拒否権が俺にあるとはいえ。
「何故、私の身柄がこの者に引き渡されるのだ?」
「其方には、選択権などない。身分をわきまえよ」
先ほどまで虚ろな目だった彼女の目に生気・・・・・・というか怒気が。
これが、『親の仇と付け狙ってもいいですから、生きなさい』ってことなのだろうか。
カーラの父親が何故亡くなったのか、俺は知らないが。
「このタケダ殿は、余らにも窺い知れない実力を持っておる。
恐らくは遠くない将来、迷宮を倒して貴族の仲間入りをするだろう。
そうなれば、元貴族である貴女にとって大いに活躍の場ができる」
「この者が迷宮討伐を・・・・・・?」
何を言ってやがる。
既に迷宮討伐はしているし、貴族になる気はないと宣言しただろうが。
そんな事を百も承知でぬけぬけと言ってきた。
やっぱりハニトラを仕掛けてきてるとしか思えない。
それに『窺い知れない』のは隠しているからだ。
今回は盛大にイロイロと見せてしまった気もするが。
「もし、もし・・・・・・エストグリュン家と同等の武家の再興が適うのなら、
私はこの身と心の全てを捧げても構わない・・・・・・」
「・・・・・・」
ぶっ、なんてことを言うんだ!
今のは、女性に言われてみたい台詞のトップファイブに入るものじゃないか?
「彼女は貴族の令嬢だから魔法使いになるための試練はクリアしている。
タケダ殿の迷宮討伐に向けて、大いに役立つはずだ。
魔法使いを得れば、タケダ殿の迷宮での活動も楽になることだろう。
貴族としての一通りの知識もあるので、今後、貴族の対応をするのにも困ることはなかろう」
「・・・・・・」
いや、この娘のジョブは『剣匠』なのだけど・・・・・・。
でも、原作でも村人ジョブのエルフヒロインが魔法使いになる条件をクリアしてるからと褒美として下げ渡されたのだよな。
一応、理屈は通っているのか。
この娘を差し出して、今回のセ二号作戦の報酬に充てる気なのだろうか。
それにさっき、『武家』って言ってなかったか?
魔法使いをやる気が本当にあるのか疑問に思える。
「確かに、タケダ殿にもらっていただくというのは悪い選択ではないのかもしれません」
「・・・・・・」
ゴスラー騎士団長、それはカシア様の台詞のはずだが、あなたがそれを言うのか?
カーラという娘は俺の前で跪いた 。
「私の忠誠は貴方様のものです。
この剣に誓って、私の身も心も捧げますので、受け取って下さい」
「・・・・・・」
いやいや、今、君は剣を持ってないでしょう?
それに言葉とは裏腹に、鋭い眼光を俺に向けているじゃないか。
忠誠を誓っている者の眼じゃないだろう。
さきほどまで赤色だった者が奴隷で所有されることになったからって、急に『ご主人様、大好き』なんて、心変わりしないことぐらいは俺だって分かっているから。
伊達に、この世界で50人以上の奴隷を持つ当主をやってないぞ。
彼女は前屈みの状態で、胸の下に腕を横に付けて、俺に頭を下げるような状態で俺の返事を待っているようだ。
華奢なイメージのエルフにしては、若干ふくよかで健康的な腕と胸・・・・・・胸は結構あるな・・・・・・胸の下に腕を付けているせいで、より強調されて・・・・・・ふくよかは言い過ぎか。
別に太っている訳ではないし・・・・・・真ん中高めいっぱいのストライクだ。
いや、高めいっぱいは失礼か・・・・・・絶好球のホームランボールということだ。
自分でも何を言ってるのか分からなくなってきたが、有体に言えば『好みの女性』だ。
あ、あれっ・・・・・・ハニトラに引っ掛かりつつある?
俺が一向に返事をしないので、彼女は顔上げて、俺を見上げてきた。
眼帯をしているものの、少し不安げな表情で右目の方は先ほど威嚇していた時と異なり、不安げでややタレ目で上目遣いなのが・・・・・・なんとも。
夜伽の時にアミルにも、こんな表情をされて・・・・・・いやいや、既にハルツ公の罠にかかりつつあるのじゃないか。
「私の身も心も捧げますので、受け取って下さい」
「ま、まあ・・・・・・そ、そこまで言うのなら・・・・・・」
ダメ押しされて、陥落してしまった。
「おお。さすがタケダ殿だ。余が見込んだだけのことはある」
「これで私も安心しました」
ゴスラー騎士団長、いったい何を安心したのだ?
実は俺に関連することで、ハルツ公から無理難題の密命を受けていたのじゃないだろうな?
「彼女の身分は奴隷なので、継嫡家名も外れておる。
後はタケダ殿が知り合いの奴隷商人の所へ連れていき、所有者の名義を書き換えるのみじゃ」
「ソウデスカ・・・・・・」
知り合いも何も、我が家は奴隷商を営んでいる。
カラダンかクララにやってもらえば問題ない。
それにしても、原作のように最低二年間所有せよと注意喚起してこないってことは、長く所有させて貴族になるように丸め込ませようとしているのではないか?
「それではお願いします。
エストグリュン家を再興するのに役立つ命令には従いますが、
それ以外のことは拒否する可能性があります」
「えっ?」
さっき、『身も心も捧げます』って言わなかった?
条件付きなの?
『エストグリュン家の再興が適えば』みたいな話を初めに条件で言ってたか・・・・・・。
『身も心も』と言われたので、他の事が消し飛んでいたかも。
さっき、急に心変わりなんてする訳ないって言ってた奴は誰だ?
これは早急にエリクサーを取得し、左目を回復してあげて仲良くなるのが得策か。
チクルス、フラウス、クロード・・・・・・そして、今回のカーラか。
どんどん必要な数が増えていくな。
「カーラ、よろしく頼むな」
「迷宮討伐の能力があるというのでしたら、奴隷であることは
無かったら、どうなるのだろうか。
まあ、迷宮討伐は既に果たしているので、能力には問題ないけどね。
その時、エンブレムの方から、また誰か飛んできた。
冒険者の男とエームンドという名の騎士だ。
もう、原作から外れた報告はノーサンキューだぞ。
偉い人は悪い報告から先に確認すると聞いた気がするが、俺はここでは下っ端なので凶報はもう聞きたくない。
エームンドはハルツ公に近づくと報告を始めた。
「閣下、ボーデの城の掃討戦は終わりました。生き残りの賊はもう見当たりません」
「そうか、分かった。ご苦労じゃった」
ボーデの方も終了か。
これで、セ二号作戦は収束するのだろう。
果たして、これが作戦成功と言えるのかは疑問だが。
タケダ家としては、新しい人材(?)も得られ、貴族同士の戦闘を通じて建物内での戦闘を経験して課題点も見つかったし、この後の報酬も期待できそうだから、合格ラインの成果が得られたかもしれない。
ハルツ公がゴスラー騎士団長を連れて、こちらにやってきた。
新伯爵は何か部下の騎士団に指示しているようで、こちらには来ない。
「今日のところはここまでじゃな。
タケダ殿のおかげでセ二号作戦はほぼ完了した。助力に感謝いたす。
この後、ボーデの城で作戦終了の報告と終了式を行うが、
そこまでタケダ殿達は付き合う必要はない。
パーティーメンバーと共に彼女も連れて帰ってくれ。
我々もこれからボーデに戻るつもりじゃ」
「そうですか」
だが、帰る前に一つだけやることがある。
「彼女を連れて帰ることに異論はございません。
ですが、その前にお願いがございます。
連れて帰る前に、一目、彼女達の弟妹に引き合わせてやっていただけないでしょうか?」
「むっ、そうじゃな。暫く会えぬであろうから、そのぐらいは許そう」
目配せされたゴスラー騎士団長が、部下の騎士団員に何やら指示を出し始めた。
カーラの弟妹が到着するまでの間、周りを見ていると、山賊ジョブのルイと目が合った。
「あの子の処遇は?」
「それはタケダ殿には関係ないことじゃ」
関係がないか・・・・・・まあ、そう言ってしまえばそうなのだが。
あの子が何をしたのかは分からないが・・・・・・盗賊落ちか・・・・・・貴族殺しは大罪と言ってたな。
奴隷落ちして再出発できるのならマシだが、きっとそんな甘いことはないのかもしれない。
索敵のマップに赤い点が三つとグレーの点が三つ、こちらに近づいてくるのが見えた。
やがて、ドアを通って、こちらに近づいてくる。
カーラの弟妹という者達か。
三人もいるのか・・・・・・。
(鑑定)
シーナ・エストグリュン(エルフ族 ♀ 14才)
剣士Lv16
装備 革の靴
ノエル・エストグリュン(エルフ族 ♂ 13才)
剣士Lv13
装備 革の靴
リオン・エストグリュン(エルフ族 ♀ 27才)
騎士Lv38
装備 革の靴
ん?一人は27才ってことはカーラの守役か、この弟妹の世話をしている者か?
みんな同じ家名だな。
さっき、エストグリュン家は子爵家と言っていたが、継嫡家名を持つ者が誰もいない。
14才と13才は未成年だからだろうけど、27才の女性は継承権がないのか?
もしくは、既に外されたのだろうか。
というか、この14才と13才の弟妹は年齢の割には剣士のレベル高くないか?
貴族のパワーレベリングでもしているのだろうか。
それより、みんな普通に剣士というか、近接戦闘職ばかりだ。
一人ぐらい魔法使いがいないのか?
武家と言ってたけど、脳筋臭がしてくる・・・・・・。
あっ、しまった。
さっさとカーラをパーティーに入れて、パーティージョブ設定で彼女のジョブを確認しておくべきだった。
実は魔法使いのジョブを持ってないってオチもあるかもしれない。
「姉上・・・・・・」
「ルイ・・・・・・」
山賊になった男の子は、このリオンって騎士の弟なのか。
「姉上、私は犯罪などしておりません。
ただ、言われた通りに水差しを持っていっただけなのです。
信じて下さい、姉上!」
「ルイ、分かっております。あのレーガンという男に騙されたのでしょう?
・・・・・・ですが、私にはどうしてやることもできません。
ルイ、力のない姉を許してください・・・・・・」
レーガン、レーガン・・・・・・今日戦った相手の中にいたような・・・・・・。
それにしても元々はセルマー伯を討とうとしていたのに、暗殺ならば犯罪者扱いということになってしまうのか。
目的のためには手段は選ばずという訳ではないのだな。
それに、なんだか複雑な人間関係だな。
改めて索敵のスキルでマップ表示してみると、残酷な現実が。
カーラは奴隷となり、家名も継嫡家名も外れたからなのか、赤からグレーの色になった。
俺の所有奴隷になったら、青色になるのだろうな。
ルイは山賊だから、当然のように赤色。
残りの三人は家名がまだ残っているから、ハルツ公とセ二号作戦遂行中の俺からすると敵になるので赤色になっているのだろうか。
別に俺がこの三人と敵対している訳でもないのだが。
セ二号作戦が終わったら、三人の色はグレーになるのだろうか、それとも赤色のままなのか?
気になるが、今後この四人に会える機会は与えられないだろうな。
カーラに対する人質な訳で、カーラ経由で俺を牽制する駒にされる疑いを持っている。
カーラは三人と別れを惜しんでいるが、ルイは一人離れた所に拘束されている。
山賊ジョブ持ちとはいえ、未成年の子供がこんな仕打ちをされているのを見ると胸が痛む。
本当に貴族同士の内乱とか、お家騒動(?)ってどうしようもないな。
ここにいる奴等は、タケダ家以外の者は全員貴族の関係者だし、俺が今気にしてる五人とも、その関係者なのだが。
ひとしきり別れの挨拶ができたのか、カーラ以外の四人は騎士団員に連れられて去っていった。
その後姿をカーラはジッと見つめている。
再び、ハルツ公が俺達の方に近づいてきた。
「タケダ殿は明日またボーデの城に来てほしい。
無論、タケダ殿一人だけで構わない。
今夜はもう遅いし、これから後始末にどのくらいの時間がかかるか分からぬ。
明日の夕方ぐらいの時間で来てもらえると助かる」
「承知しました」
原作では、昼前ぐらいに来てくれって話だった気もする。
今回はかなりの被害が出たはずだから、夕方に行っても片付いてる気もしないが。
委任状に記載された褒美の件もあるしな。
カーラを渡したから、それで報酬は終わりとされても困る。
ドタバタしている所に行くのは忍びないが、確認しない訳にはいかないよな。
「では、タケダ殿、また明日・・・・・・」
「タケダ殿、ありがとうございました」
ハルツ公とゴスラー騎士団長は冒険者とエンブレムの方に行き、ゲートの先に消えていった。
これから、激烈な事務処理が彼等には待ち受けていることだろう。
亡くなった騎士団員の補償とか、どうなるのだろうな。
大怪我を負った者達もいるだろうし・・・・・・この世界に労災があるとは思えないが、領主として補償なり、見舞い金は必要なはず。
戦争でエルフ領が増えたという訳でもないから、エルフ内の論功行賞も大変だと思う。
俺が気にしても仕方ないことだが。
「俺達も帰るぞ。カーラ、俺のパーティーに入ってくれ」
「・・・・・・」
パーティー編成の詠唱を行い、無言のカーラがパーティーに加わる。
彼女の待機ジョブには・・・・・・、
村人、森林保護官、探索者、剣士、戦士、商人、巫女、薬草採取士、魔法使い・・・・・・と。
思っていたよりも、取得しているジョブが多いな。
そして、ちゃんと魔法使いはあるようだ。
Lv4だけど・・・・・・剣士系のジョブとの熱意の差を感じるぞ。
適当なところまで貴族のパワーレベリングして、ほったらかしにしてたのじゃないか?
それにしても、巫女や商人まであるな。
商人のジョブは父親の仕事でも手伝っていたのだろうか。
まあ、事務経験がなくても売買の経験で得られるジョブだから、なんともだが。
そして、森林保護官か・・・・・・確か、エルフ族の種族固有ジョブだったっけ。
どんな条件で取得できるのか知らんが、今回の騎士団員の者には見かけなかったから、後方支援系のジョブなのだろうな。
タルエムを育てたら、ジョブ取得できるとか・・・・・・まあ、今はどうでもいいや。
まだ、その場に残っていたエームンドに声を掛けて、引き揚げることを伝えた。
エンブレムの方へと六人で向かう。
長く濃密な夜だったな。
血塗れで帰ることになるから、エネドラにまた叱られるかもしれない。
カーラを連れて帰った事の説明も必要だ。
人数が増える事にエネドラが否定的な意見を言うことは少ない。
それに甘えてばかりいるのが、当主としてアレだが。
ゲートを開き、迷宮組の四人を先に帰らせた。
次にカーラを送り込み、最後に俺が通り抜け、クーラタルの自宅へと戻ることにした。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/5/18(月)の予定です。