異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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103.天秤にかけるもの(その1)

 ボーデの城を訪ねた翌日、朝食の時間にエネドラからカーラの状態を確認した。

 カーラは相変わらず塞ぎこんでいるようで、食事時以外はほとんど部屋から出てこないと。

 食事も部屋でさせた方が・・・・・・とエネドラに助言したが、部屋から出す口実になるので、食事は食堂で摂らせたいと断られた。

 

 カーラに対するヒアリングが終わった後に、エネドラとヘルミーネが彼女に何を話したのか確認したのだが、教えてもらえなかった。

 気にはなるけど、彼女達なりに考えがあるのだろうと思って深くは追及していない。

 

 今は時が解決してくれるはずだと信じて、迷宮探索は通常通りに実施。

 

 その日は、丸一日、クーラタルの63階層の探索を行なったが、ボス部屋までは遠い。

 地図で確認する限り、凡その道のりは判明しているので、あと少しの所まで来ているはず。

 翌日にはボス戦ができるはず・・・・・・と期待しながら、探索を終了した。

 

・・・・・・

 

 翌日、アミルやエネドラと雑談しながら、美味しい朝食をいただく。

 でも、実際は『今日こそは威霊仙を!』と心に秘めながら、なるべくチクルスの方を見ないようにしている。

 エネドラの時と同様に、サプライズで渡したいので、気取られないようにせねば。

 

 

(侵入者を検知しました。侵入者は2名です・・・侵入者を検知しました。侵入者は2名です・・・)

 

 

 おっと、久しぶりに拠点構築スキルの侵入者検知が反応している。

 朝っぱらから、なんだ一体?

 

 脳内で、どのあたりに侵入者がいるのか分かるが・・・・・・今回は玄関先の門のあたりか。

 盗賊などではなく、普通に訪問客かもしれない。

 

 やがて、この時間の護衛をしていたモニカがやってきた。

 同じく護衛当番だったフレイヤは門の所に残してきたらしい。

 

 

「ご主人様、よろしいでしょうか?

 ハルツ公の使者という方から伝言を預かりました。

 なるべく早く城の方に来てほしいとのことです」

「そうか・・・・・・では、この後、行ってくるか。

 モニカ、午前中の早いうちに伺うと伝えてくれないか」

 彼女は使者に回答を伝えるために玄関の方へ戻っていった。

 

「アミル、悪いが午前中の迷宮組の探索は中止にする。

 用事がどの程度で終わるのか分からないからな。

 午後は探索をしたいと思っているが、成り行き次第だな」

「はい。分かりました。皆さんにも伝えておきます」

 今日こそは威霊仙をゲットしようと思っていたのに、出鼻をくじかれた感じだな。

 

 とりあえず、侵入者検知は拠点リーダーのチクルスが解除したようだ。

 これから、増築工事の作業者が我が家に来るので、いずれにしても解除しなければならない。

 いつもなら朝食を終えて、護衛部隊メンバーの交代のタイミングで解除するのだが、今日は少し早めに解除することになったな。

 

 

 今日はまず、ハルツ公の所へ訪問か。

 行くのは構わないのだが、ハルツ公やゴスラー騎士団長は、ちゃんと寝たのだろうか。

 セ二号作戦の翌日のような状態なら、とてもじゃないけど会話にならない。

 報酬の計算結果でも出たのだろうか。

 いや、急ぎということは、きっと悪い知らせかなぁ。

 まあ、行ってから確認するしかない。

 

・・・・・・

 

 ボーデの執務室を訪れた。

 ハルツ公とゴスラー騎士団長が目の前にいるが、今度は意識はまともそうに見える。

 

「タケダ殿がターレ迷宮を討伐した際のギルド神殿をまだ持っているようなら、

 それを買い取りたいと思っておる。

 そして、これは余からの頼みなのじゃが、ボーデに出現した迷宮の討伐に助力を願いたい」

「・・・・・・」

 報酬の話ではなく、ギルド神殿のおねだりと新しい仕事の話だと?

 

 過去に迷宮討伐の報酬に威霊仙を要求した時には、取り付く島もなく断られたのに。

 嫌味の一つも言ってやりたくなる。

 

 

「てっきり、セ二号作戦の報酬のお話かと思っておりました。

 ギルド神殿を望まれている理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?

 それにボーデの迷宮の方は騎士団で討伐するのを進めていると、伺っておりましたが」

「作戦の報酬については調整中なので、今しばらく待ってほしい。

 いや、実は報酬についても相談させてほしいことがある。

 ギルド神殿を希望している理由は、セルマー伯領のギルド神殿が強奪されたからじゃ。

 ボーデ迷宮の助力は、先日の戦いでの被害が想定以上のため、

 騎士団の立て直しに時間がかかるからじゃな」

 なんか、想像以上に公爵領、伯爵領がヤバイ状況になっているようだ。

 

 これでは、セ二号作戦の勝者が誰だが分からない気がしてきたぞ。

 

「閣下、要望の内容が曖昧で、こちらとしても判断がつきません。

 もう少し詳細を文面にしていただけないでしょうか?」

「そうか、ちと持ってもらいたい。

 ゴスラーと相談して文章を検討するので」

「はい。では、待たせていただきます」

 曖昧なゴール、曖昧な報酬、曖昧な期限・・・・・・どれも避けなければならない。

 

 一度、ハルツ公とゴスラー騎士団長が退室して、別室で協議するようだ。

 というか、執務室に俺が残されるのだな。

 俺を追い出して、別室で待たせて協議するのじゃないんだ?

 まあ、騎士団員が傍にいるから、執務室で俺が悪さをすることはできないのだが。

 

 

 暫くすると、二人が戻ってきて、ゴスラー騎士団長が俺に紙を提示した。

 意外に早く内容が決まったのだな。

 もっと時間がかかるかと思っていたのだが、事前に相談していたのだろうか。

 

 で、肝心の内容はと・・・・・・、

 

・・・・・・

 

■要望①

 ギルド神殿の買い取り

  (報酬)応相談

 

■要望②

 ボーデの迷宮討伐支援

 ・48階層から探索を開始し、迷宮ボスの討伐まで

 ・ギルド神殿は騎士団側で買い取る

 ・期限はないが、可及的速やかに対応をお願いしたい

  (報酬)応相談

 

■要望③

 セ二号作戦の取得物の買い取り(自爆玉3個)

  (報酬)セ二号作戦の取得装備品は自爆玉以外は全てタケダ家へ譲渡する

 

・・・・・・

 

 ああ、これは引き受けたらアカンやつだ。

 

 報酬の所にこちらで勝手に記載して構わない類のものではないよな?

 書いて問題ないのなら、二箇所に『(報酬)白金貨100枚』と書いてしまうぞ?

 

 というか、これはなんの冗談だ?

 余程、切羽詰まっているのか。

 

 ハルツ公がカーラに勝者の理論を押し付けたように、こちらもハルツ公に同じ理屈を適用してやりたくなってしまう。

 今度の選択権は我が家にあるのだからな。

 

 迷宮討伐の対象はボーデだが、ハルバーの方は討伐したのだろうか。

 セ二号作戦を発動する前に、晩餐会に呼ばれた時は、確かハルバーの迷宮討伐の前祝い的なものだという話ではなかったか?

 あの晩餐会自体は口実だから、信憑性は全くないのだろうけど。

 

 それにしても、ギルド神殿を奪われると何が起きるのだ?

 判断するための情報が不足しているな。

 ヘルミーネあたりに相談するか。

 確か今日はレドリックがザビル第二迷宮に行く日だから、彼女はクーラタルにいるはず。

 

「閣下、この3つの要望に優先順位などはございますでしょうか?」

「記載順の通りじゃな。

 ギルド神殿買い取りの優先度は高い。

 自爆玉は、この場での取引ができなくても、いずれ応じてもらうのでも構わない。

 できれば、今回応じてもらえるとありがたいのじゃが・・・・・・」

 この言葉をどこまで信じるべきか。

 

 ハルツ公側が妥協しているように見せるためのエサかもしれない。

 あるいは、本当に困っているのか。

 自爆玉なんて、文字通り自爆攻撃するのではない限り、直ぐに幼児に使っても魔法使いとして戦力になるのは早くとも十数年後だ。

 急いで必要なのは、婚姻の引出物ぐらいだろう。

 3個も必要な理由が分からない。

 

「自爆玉が3個も必要なのですか?」

「・・・・・・」

 彼は大きく深いため息を吐いた。

 

「タケダ殿だから内情を話すが、今回の戦いで魔法使いも犠牲になっておる。

 自爆玉を服用しても直ぐに戦力の補充はできないが、

 長期的には魔法使いの数を揃えておかなければならないのじゃ」

「なるほど・・・・・・」

 ボーデを襲撃された時の犠牲者の中に魔法使いがいたのか。

 

 数が3つということは、犠牲者は一人ではないのかも。

 自爆玉は討伐した際に取得したものだろうが、ネコババしなかったと思うと好感が持てるか?

 いや、違うな。

 報酬を適切に支払ってもいないうちに、次の仕事を頼むというのは、下請けいじめというか、借金に借金を重ねている多重債務者に見えてしまう。

 ドワーフヒロインの『借金から一家離散』の話が思い出されるな。

 全然、好感を持てないわ。

 

 

「閣下、申し訳ありませんが、この内容では即答しかねます。

 一度、持ち帰って、タケダ家内で議論させていただきたいです」

「そうか、なるべく早く結論を出してほしいのじゃが」

 ホントに追い込まれてるっぽいな。

 

「承知しました。応じるにしろ、断るにしろ、本日中に回答をお持ちします」

「そうか・・・・・・」

 ちゃんと断るという選択肢を視野に入れていることもアピールしておくぞ。

 

 深刻そうな顔をする二人に暇乞いをして、執務室を後にした。

 

・・・・・・

 

 ボーデの城を出て、適当な木陰から自宅に帰還。

 とりあえず、ヘルミーネを探しに修練場へと向かった。

 

 ヘルミーネは・・・・・・いた。

 ラファと何か話をしているようだな。

 ちょっと間が悪いけど、先送りできないから突撃しよう。

 とりあえず、彼女達がいる木陰の傍に歩いていく。

 

「ヘルミーネ、ちょっと教えてほしいことがあるのだけど、今、時間はあるだろうか?」

「はい。大丈夫ですよ。なんでしょうか?」

 隣にいるラファが興味津々で、俺の方を見てくる。

 

「ここではちょっと・・・・・・場所を食堂に移して、ギルド神殿のことを教えてくれないか?」

「ギルド神殿のことですか?私に分かることであれば構いませんよ」

 知ってるとしたら、ヘルミーネ、ラファ、マテウス、マチルダあたりだろうな。

 

 手っ取り早く、まずはヘルミーネから聞き出そう。

 

「では、食堂で頼む・・・・・・」

「分かりました」

 そして予想通り、ラファも付いてくる。

 

「ラファ、訓練の方は?」

「私もギルド神殿に興味がありますので・・・・・・」

 そういえば、ギルド神殿を目の前にして、うっとりしていたような・・・・・・まあ、いいけど。

 

 

 食堂に場所を移して、三人でテーブルの一つの席に着くことにした。

 エネドラが気を利かせ、ハーブティーを淹れてくれる。

 きっと、ハルツ公関連での相談だと察したのだろう。

 

「ギルド神殿の役割だが、

 ギルドを設立すること、装備品の限定を付与したり、解除することだと俺は理解している。

 他には・・・・・・貴族に取り立てられる時に、迷宮討伐の証拠として取り扱われるのだっけ?」

「はい。他にも税金の支払などにも使われますが、ユキムラ様の理解で正しいと思います」

 原作では詳細は述べられてなかったけど、そんなものだよな?

 

 貴族に叙爵される時の話はヘルミーネに教えてもらったのだけど。

 

 

「言い方が少し難しいのだが、貴族になった者がギルド神殿を奪われると、どうなるのだ?」

「・・・・・・難しい質問をされるのですね?」

 彼女の表情が少し曇った。

 

 やはり、相当困った話なのだろうか。

 

「ギルド神殿を使って設立したギルドですが、実は種類によって価値に差があります。

 価値と言っても、領地経営から見た重要性なのですが。

 例えば、探索者ギルドや冒険者ギルドでは、

 ギルド神殿を通じて、アイテムの売買時にお金の計算や出納が行われます。

 領地が探索者ギルドを持つことは、収入源を確保することになります。

 これは探索者のジョブに転職させる手助けをする事とは別に重要な価値と言えます。

 ここまでは、よろしいでしょうか?」

「そうだな。実際の売買を見ていると、そんな感じだな」

 この内容は予想ができるし、理解しやすいな。

 

「一方で、戦士ギルドは戦士のジョブへの転職ができますが、商売にはほぼ関与しません。

 戦士になるためにはギルド神殿が必要なので、ないと困るのですが、

 領地経営・・・・・・収入の確保という観点ではさほど重要ではないとも言えます」

「確かに、そうかもしれない」

 戦士ギルドで戦士のジョブ取得した時って、500ナール払っただけだもんな。

 

 あれで、よく戦士ギルドの経営ができるなと感じたっけ。

 

「なので、爵位に依りますが、

 探索者ギルドのギルド神殿を奪われると、領地収入という点で打撃を受けることになります」

「爵位に依るのか?」

 俺の質問に、何故かラファがニッコニッコなのだが、なんなのだろうか。

 

「はい。爵位に依って、ギルド神殿の位置づけが異なります。

 まず、ギルド神殿を使って探索者ギルドを設立した場合、

 初めに作られるのが探索者ギルドの原本となります。

 そして原本から複写して、探索者ギルドを増やすことができます。

 通常、街などの探索者ギルドに置かれているのは複写したものになります」

「街にあるギルド毎にギルド神殿が必要な訳ではないのだな?」

 俺の質問に彼女は頷いた。

 

「その通りです。

 なので、街にある探索者ギルドのギルド神殿が奪われても、

 原本の機能で奪われた複写を破棄して、また作り直すことができます。

 破棄された時点で、原本の方にお金とアイテムが集約されます。

 なので、奪われた時点で、お金やアイテムが取り出されていなければ

 原本で対応できるため、大きなダメージはないと考えられています。

 もちろん、ギルド神殿を奪われると、その街のギルドの信用は失われますけど」

「そうか。そりゃそうだな」

 俺がその領地の貴族なら、ギルドの責任者をクビにするかもしれない。

 

「一方で、原本の方のギルド神殿を奪われると大変なことになります。

 一般的に、原本の方にお金がたくさん集まっていますので」

「ん?そうなのか・・・・・・そういえば、街のギルド神殿で集めた金はどうやって集金するんだ?」

 この世界に、AL●OKはないよな?現金輸送はどうやっているんだ?

 

 それにしても、ラファがこの上ない笑みを浮かべているのが、ちょっと困るというか怖い。

 

「まず、大前提の話として、ギルド神殿の原本を持つことができるのは、

 伯爵位以上の貴族となります。

 伯爵、侯爵、公爵・・・・・・それと皇帝や王ですね。

 領地を持たない士爵は論外ですが、子爵や男爵は原本を持つことができません。

 これは帝国の法律で決められています。王国についても同様です。

 子爵や男爵は、寄親の高位貴族、もしくは皇帝から複写のギルド神殿を貰うことになります。

 その複写されたギルド神殿を更に複写して、

 自分の持つ領地の街の各ギルドにギルド神殿を置くことになります」

「なるほど。そこで爵位による差がでてくるのか」

 あとは集金の方法が気になるな。

 

「探索者ギルドを例にすると、

 例えば100ナールのアイテムを買い取り、400ナールで販売していると考えて下さい。

 ざっくり言うと300ナールの差額が利益と言えますが、

 その300ナールの利益をどのように分けるのかを、初めに利害関係者で決めます。

 街のギルド、その複写元の貴族、更にその複写元の原本を持つ貴族等で取り分を決めます。

 ギルド神殿を使ってアイテムを取り出す時に、

 取り決めに従って、それぞれの複写元に自動的に送金されます」

「それはなんというか、凄い仕組みだな・・・・・・」

 元の世界のATMもびっくりするぐらいの高機能だ。

 

 売上げと利益配分を数値上の話だけじゃなくて、金貨や銀貨の現物が転送されるのか?

 しかし、それだと3割アップとか3割引きのスキルを使うと誤差が出て、どこかが損をするのでは?・・・・・・まあ今更か。

 もっとも俺はギルド神殿を使った売買なんて、ほとんどやっていないから、迷惑をさほどかけてはいないと思うけど。

 

「利害関係者が、どの程度の割合で利益を分配するのかは、

 法律の定めというのがありませんので、力関係で決まります。

 唯一、皇帝直轄の場合には決められた割合で男爵、子爵との配分割合が存在します。

 もっとも、男爵、子爵が何かトラブルを起こすと、取り分を減らされることがあるそうです」

「ひょっとして、男爵よりも子爵、子爵よりも伯爵になった方が実入り良いのか?

 それで、貴族は伯爵位以上を目指したりするとか・・・・・・?」

 ヘルミーネとラファが、これ以上はないという笑顔で頷いている。

 

「ユキムラ様も、伯爵位を目指されたらいかがですか?」

「・・・・・・」

 俺は無言で首を横に振った。

 

 ラファ、そのような同調圧力に俺は負けないぞ。

 伯爵なんぞにならなくても、タケダ家は十分儲かる仕組みを構築してみせるからな。

 

「ユキムラ様の初めの質問に答えるとすれば、

 どの爵位の貴族、または街のギルドのどの種類のギルド神殿が奪われたかによって、

 その影響はマチマチということになります。

 一般的に原本は影響が大きく、末端ほど小さいのですが、

 繁盛している探索者ギルド等については影響が大きいと言えます」

「なるほど。分かり易い説明をありがとう」

 なんとなく、問題の本質が見えたかな。

 

 さきほどのハルツ公の説明からすると、セルマー伯の城で保管していたギルド神殿の原本が根こそぎ奪われたのじゃないか?

 ギルドの種類によっては影響が小さいだろうが、取り急ぎギルド神殿の数を集めて原本を一定数揃えないと、セルマー伯領の経済が大ダメージを受けるのかもしれない。

 そして、原本を奪われたということなら、金庫を奪われたのと同じだよな。

 セルマー伯の城にギルド神殿以外で、どれほどの金が蓄えられていたのかは知らんが、かなりヤバイ財政状態になっている可能性もある。

 

 予備のギルド神殿をハルツ公の領内でどれほど持っているのかにも依るが、俺に優先度を高くして依頼するのは切羽詰まってるからなのだろう。

 そして、ボーデの迷宮の攻略を急いでいるのは、死傷者が多数出た騎士団の再編もあるのだろうが、速やかに迷宮を討伐してギルド神殿を入手したいのかも。

 

 文面化してもらった要求事項に、迷宮討伐を成し遂げるだけでなく、ギルド神殿も買い取りするって書いてあったしな。

 実はギルド神殿の入手のために、迷宮討伐を手段としているだけかもしれない。

 

「貴族がギルド神殿を盗まれたり、奪われたりすることは

 とてつもない失点、失政と見なされます」

「なるほど・・・・・・」

「ユキムラ様なら大丈夫だと思いますよ!」

「・・・・・・」

 ラファ、俺は貴族になる気はないっての。

 

 

 とりあえずはハルツ公の困り具合は、ある程度予測がついたかな。

 実際に困っているのは新セルマー伯の方なのだろうが、ハルツ公が後ろ盾になっていることや、カシア様の従弟ということもあって、無関係を決め込めるような状況でもないと。

 最悪の場合は新セルマー伯を斬り捨てることもあり得るのかもしれないが。

 だが、全エルフ最高代表者会議でセルマー伯領への侵攻を担ったハルツ公に、責任が全くないとは言い切れないのかも。

 何よりも、伯爵領が衰退してしまうと、なんのために首を挿げ替えたのか分からなくなる。

 

 エストグリュン家もセルマー伯の寄子の子爵家と言ってたから、残ってる者がいたり、後任が決まったとしても、セルマー伯と共倒れになる可能性があるな。

 そして、エストグリュン家の衰退危機を理由にカーラを経由して、俺にギルド神殿の引き渡しや、迷宮討伐支援の圧力をかけてくる可能性もあるかも。

 そんなことをやってる場合ではないだろうと言いたいが。

 

 

「ユキムラ様、参考になったでしょうか?」

「ああ、とっても参考になった。ありがとう」

 二人の笑顔が・・・・・・まあ、今はスルーだ。

 

 食堂で二人と別れて、二階の自室へと向かう。

 ちょっと頭を整理したいな・・・・・・何を交渉の材料とするのかを検討しよう。

 

 二階の廊下を歩いていると、バルコニーに続くドアが開きっ放しだ。

 ドアを閉めようと近づくと、ドアの先のバルコニーにカーラの姿が見えた。

 

 表情はよく見えないが、バルコニーの手すりに頭を押し付けている。

 昨日と同じか・・・・・・悩んでも解決できないことが彼女を苦しめているのかもしれない。

 あるいは、俺の不誠実な対応に怒りを覚えているのかもしれない。

 

 

 彼女から視線を外し、ドアをそのままにして、自室に戻った。

 机に座って、ハルツ公に要求する物を思いつくままにリスト化していく。

 金、素材、モンスターカード、城に眠っているかもしれない装備品、長期の商品購入の契約・・・・・・選択肢はそれなりに出てくる。

 だが、そのどれも・・・・・・虚しく思えてしまう。

 

 セ二号作戦の光景が次々に思い出された。

 多くの人間を殺し、多くの人間が殺され、虜囚になった者、盗賊に落ちた者、奴隷として我が家に来たカーラ・・・・・・。

 怒りが沸々と込み上がってくる。

 

 自分で選択して、セ二号作戦に飛び込んだのに、何故こんな気持ちになってしまうのか。

 タケダ家には死んだ者も、虜囚になった者も発生していない。

 今は新しく加わったカーラが、その当事者・・・・・・被害者としているだけだ。

 

 彼女に同情しているのだろうか?

 彼女の代わりに怒っているのだろうか?

 彼女への対応の仕方が悪かったから、後悔しているのだろうか?

 

 

 俺はそんな人間ではなかったはずでは・・・・・・。

 ああ、これはダメだ・・・・・・こんな気持ちでは、前に進めない。

 理性よりも感情の方が先走っているのは・・・・・・分かっている。

 タケダ家の当主として、これでは・・・・・・。

 

 :

 :

 :

 

 決めた・・・・・・もう、迷わないぞ。

 

 自室を出て、バルコニーへと向かう。

 カーラは先ほど見た時と変わりなく、手すりに頭を付けたままの状態だった。

 

 

「カーラ、君に話がある・・・・・・」

「話とは?」

 眼帯で片目しか見えないが、それでも彼女の目は虚ろだ。

 

 誰がこんな目にしたのか・・・・・・それは今、どうでもいい。

 

 

「これから、俺はハルツ公の所に行く。君も一緒に来ないか?」

「ハルツ公の所に?ユキムラ殿の用事は分からないが、私はなんのために行くのだ?」

 彼女が行く理由?・・・・・・言葉に上手く表せない。

 

 

「自分の知らない所で、勝手に自分達の運命を決められるのは・・・・・・君は嫌じゃないのか?」

「言ってることが分からない。行くと何か変わるのか?」

 俺だって、そんな事は分からないよ。

 

「今回の陰謀を誰が仕組んで、どのような結果をもたらしたのか、全体像は俺にも分からない。

 だけど、分からないなりに自分で考えて・・・・・・いや、感じるままに行動したいと思っている。

 関係者の君がハルツ公との交渉の場に行きたいのなら、連れていこうと思っただけだ」

「私がいても、どうにもならないのじゃないか?私の希望が通るのか?」

「通らないかもしれない。無駄だと思うのなら、付いてこなくても構わない」

 今度は彼女の瞳に怒りがチラッと見えた。

 

「俺は、君の弟妹やリオンとルイの四人を取り戻そうかと思っている。

 そのための交渉にこれから行く予定だ」

「!・・・・・・何故、そんなことを?・・・・・・公爵と対立するつもりなのか?」

「何故かと言われれば合理的な理由は思いつかない。

 あえて言うなら、俺がそうしたいと思い、俺が今そうするべきだと感じたからだ」

 別に彼女から信用を得たいと思っている訳でもない。

 

 だけど、そんなことは、もうどうでもいい・・・・・・他人の思惑に振り回されるのは止めだ。

 

「ユキムラ殿は、師匠と同じことを言うのだな・・・・・・」

「えっ、なんだって?」

「なんでもない・・・・・・」

 まあ、いいか。そんなことよりも今は行動する時だ。

 

 

「カーラ、同行するのか、しないのか、君自身が決めて行動してくれ」

「分かった・・・・・・私も行くことにする。

 ユキムラ殿と公爵がどんなことを話をするのか気になる」

 今はそれで十分だ。

 

 行って何か変わる気もしないが、少なくとも自分の知らない所で決まることにはならないはず。

 

「じゃあ、今から行くぞ。・・・・・・だが、その前に君はエネドラの所に行ってもらう」

「ん、何故?」

「君のその格好では貴族の前には出せない。服をエネドラに選んでもらってからだ」

 俺の言葉に、彼女は口をパクパクさせている・・・・・・だが、その格好はダメだ。

 

 常識がないと言われている俺でも、それぐらいは分かる。

 奴隷の服装ではないが、普通の平民のものだ。

 ハルツ公は何も言わないかもしれないが、元貴族令嬢をそんな服装で貴族の前には出せない。

 

「いいから付いてきてくれ」

「・・・・・・」

 無言になってしまったが、元貴族なら見てくれは少しは気にするべきでは?

 

 

 その後、エネドラの所に連れていき、ひと悶着あったが、服装の方はなんとかなった。

 ヘルミーネやフラウスが体型的に似ていたらしく、選択肢はそれなりにあったようだ。

 俺には全く分からない話だったが。

 

「エネドラ、急に頼んで悪かったな。忙しいのに・・・・・・」

「旦那様、この程度のことはなんでもございません」

 まあ、楽しそうにカーラを着せ替え人形にしてたのではないかという気もする。

 

 もう一つ言っておかなければならないことがあった。

 

「エネドラ、ひょっとしたら、また我が家のメンバーが増えるかもしれない。

 その時は、その・・・・・・また、エネドラ達に面倒をかけるかも・・・・・・」

「旦那様、大丈夫です。旦那様は自分のやりたいようになされば良いのです」

 くぅ~、もう彼女には敵わない。

 

 カーラはキョトンとした表情で、俺とエネドラのやり取りを見ている。

 お前も、そのうち、エネドラの凄さを実感するから、それを楽しみにしてろよ。

 

「では、行ってくる。なるべく昼食前には戻るつもりだが、少し遅くなるかもしれない」

「はい。いってらっしゃいませ、旦那様」

 彼女に手をひらひらと振って、食堂を後にした。

 

 カーラも俺の後に付いて、玄関へ続く廊下を歩く。

 

「ユキムラ殿が、この家で一番偉いのじゃないのか?

 なぜ、エネドラ殿にあのような態度を取るのだ?

 彼女はユキムラ殿の奴隷ではないのか?」

「彼女が俺の奴隷であることは間違いない。

 だが、今のようなやり取りはタケダ家では自然なことなのだ・・・・・・」

 俺の回答に納得がいかないのか、彼女は首をかしげている。

 

「それは、おいおい分かるだろう。今は俺のパーティーに入ってくれ」

「分かった」

 カーラをパーティーに加えた。

 

「それにしても、ユキムラ殿の背負っている荷物は随分と大きいな。

 今回の交渉に関係があるのか?」

「まあ、そうだな。それも、そのうち分かる」

 リュックの背負い位置を調整して、玄関の壁にワープゲートを開いた。

 

「じゃあ、行くぞ。遅れずに付いてきてくれ」

「分かった・・・・・・」

 彼女は不審げな表情を浮かべながらも、頷いてくれた。




お読みいただき、ありがとうございました。
話が長くなってしまったので、2つに分けました。

ギルド神殿の利益分配や送金機能は、本作用の独自設定ですが、この後の話でも度々話題に上がる予定です。
爵位に依存関係をつけたりしているのも、戦乱に入ってからの話に関連があったりします。

次回投稿日は2026/5/22(金)の予定です。
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