異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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107.柳生一族(分からせる)(その1)

 秘密基地でのチクルスと逢瀬を堪能した翌日、予想通り、後始末は大変なことに。

 もはや、チクルスのスイミングキャップが飛んでいき、翌朝に髪の毛が大変な状態になってしまうのは恒例だ。

 ワープゲートを風呂場に繋げて移動し、虚ろな表情の彼女の髪の毛を洗ってあげるところまでが一連の流れになりつつある。

 

 やはりシャンプーは素晴らしい・・・・・・こんな時(マットプレイの後)にはとっても便利。

 大判の布を被せて頭を拭いてやりながら、彼女の部屋にゲートを繋げて送り届けた。

 茫然自失となったチクルスが再起動するには、少し時間がかかるかもしれない。

 

 ペルマスクの鏡は偉大だった。

 こちらの世界の鏡も素晴らしいのだと実感。

 俺が元の世界から持ち込んだ鏡だとサイズ的にイマイチだったからな。

 

 だけど、チクルスの状態を見たエネドラからのお小言が怖い気もする。

 彼女にも早く、ペルマスクの鏡の偉大さを知ってもらうのが優先事項かもしれない。

 

 それはともかく、そこから怒涛の清掃作業を行い、なんとか証拠隠滅。

 

 少し遅刻したが修練場に向かい、朝練に参加することにした。

 既に熱の入った模擬戦等が行なわれているようだが、いつもより賑やかに感じる。

 というか人数が結構多いな。

 

 修練場の中央に視線を向けると、カーラ達が参加しているようだ。

 黒髪のポニーテールを額金でまとめているようだが、あれはカーラの後姿に間違いないし、他にもエルフ族の者達が周囲に見える。

 昨日からタケダ家に加入して、翌日には全員が朝練に参加しているのか。

 メンタルが上向きになった良い兆候だと思いたいが。

 

 カーラの技量を確認しようと、模擬戦の近くへ行こうとすると、小走りで近づいてくる者が。

 普段はザビルにいるクロードとドリスの二人だ。

 彼の表情を見ると、少し緊張した面持ちにも見えるが。

 

「あの、ご主人様、私の喉の治療のために貴重な・・・・・・」

るまぁ~(うあぁ~)ずおーもたんざか(クロードさんが)こっへとはっあぁ~(治って良かったぁ~)するい()かみざろうどがいらくぅ(ありがとうございますぅ)

 クロードの言いたいことはなんとなく分かったが、ドリスが何言ってるのか全然分からん。

 

 そして、クロードの声ってこんな感じだったのか。

 低い割には張りがあって、温かみのありそうな・・・・・・簡単に言うと低音の美声(バリトン)だ。

 エリクサーで回復した、この声にドリスがやられてしまったという訳じゃないのだろうな。

 

「昨晩から、ずっとこんな感じで・・・・・・」

「そうなのか、それは大変そうだが・・・・・・声が出るようになって良かったな」

 彼の右腕にしがみついて、泣きじゃくる彼女を見つめるクロードの目は優し気に感じる。

 

 今まで、ずっと彼女にサポートしてもらってきたので、感慨深いのかも。

 

「全てはご主人様のおかげです。こんな私にありがとうございます」

「他にも治療した者はいたのだから、気にしないでくれ」

 そういえば、フラウスやカーラはどうなったのだろうか。

 

 

「声が出るようになったけど、ジョブを変更するか?」

「いえ、今まで通り暗殺者でやってみたいと思います」

 声が上手く出なかったから、詠唱不要の暗殺者のジョブを俺が勧めたのだ。

 

 まあ、上手くいかなければ後から変えても構わない。

 納得いくまで試してみればいいだろう。

 

「これからも、ドリスと上手くやってくれよ」

「はい。もちろんです」

 とりあえず、模擬戦が見たいので二人と別れ・・・・・・カーラの戦っている近くまで行くか。

 

 その時、修練場の一角でどよめきが起きた。

 どうしたのだろう?・・・・・・足早に向かうと、ヘルミーネと視線が合った。

 

「ヘルミーネ、何か起きたのだ?」

「カーラが模擬戦でレドリックに勝ったようです」

 えっ、なんだって?

 

 カーラって剣匠のLv22だったよな・・・・・・剣聖Lv60オーバーのレドリックに勝っただと?

 エリクサーで隻眼を治癒させ、目が復活したことで文字通り開眼したのか?

 

 中央で対峙したカーラの顔を見ると、眼帯をしているようだから違うのか。

 というか、隻眼をエリクサーで治療してないのかよ。

 何故だ?シーナも何か言い淀んでいたようだし、回復させたくない理由でもあるのだろうか。

 

「スキル攻撃無しでしたし、カーラの攻撃はダメージを全然与えていませんでしたが、

 攻撃は一方的に当たっていたので、レドリックがギブアップしたのだと思います」

「そうか。レドリックが負けを認めたのだな」

 木製武器だし、さすがにレベル補正があるからダメージは全くなかったのだろう。

 

 だが、これ以上やっても意味がないと思ったから、ギブアップしたのだよな。

 もったいない。せっかくの一戦を見逃してしまった。

 

「彼女はこれで、五人抜きです。

 ニクラス、ミラ、マヤ、フラウスと模擬戦をやって全て退けています」

「マジか・・・・・・それは凄いな」

 初めの三人はまだ育成中だったり、防御主体だ。あり得ないことではない。

 

 だが、フラウスは技量の高い槍使いだ。

 それでも勝てなかったのか。

 

 すぐ傍にいたフラウスに目を向けると・・・・・・うぉっ、こんなに美形だったのか。

 エリクサーで完全治癒した彼女は、とっても眩しい存在になっていた。

 傷だらけだった頃から、治療すれば美人になるだろうとは思っていたけど、これ程とは。

 スラっとした肢体に、端正で凛々しい風貌は宝塚の美形男役に見えてしまう。

 

 

 ヘルミーネに近づき、小声で(ささや)いた。

 

「フラウスは顔や体の傷痕が綺麗に消えたようだな。別人のように見えるぞ」

「ユキムラ様がお誘いになれば、彼女は寝所に訪れると思いますけど・・・・・・

 彼女は全く自分の見栄えに頓着していなさそうですが」

 なんて事を言うんだ!・・・・・・この前、隻眼(ハニトラ)に引っ掛かったばかりだから断固スルーだ!

 

 それはともかく、自分の容姿を気にしてないのか。

 彼女らしいと言えば彼女らしいが。

 鏡が一般的ではない世界だから、エリクサー服用前後の違いに本人が全く気付いていないだけなのかも。

 『体の傷痕はなくなりましたね』ぐらいにしか感じてないとか。

 

 

 水分補給を終えて、汗を拭いながらレドリックがこちらに近づいてきた。

 

「カーラとの対戦はどうだった?」

「正直、驚きました。あそこまで自分の攻撃が通じない相手は久しぶりです」

 レドリックにそこまでのことを言わせるのか。

 

 もう少し詳細を聞き出そうかと思っていたら、次の模擬戦が始まるようだ。

 

 

 カーラの前にモニカが進み出て対峙した。次は彼女が相手するのか。

 彼女もレドリックと同じく、剣聖のジョブを持つ猛者だ。

 レベルも60を超えているので、迷宮組を除けば我が家では一線級の戦力。

 レドリックよりは攻撃重視のスタイルで、ザビルのリカルド騎士団長を模擬戦で退けている。

 

 カーラは一体、どんな戦いを見せてくれるのだろうか。

 

 モニカがスルスルと間合いを詰めて、二刀流の鋭い攻撃を開始。

 木の両手剣二本を左右に持ち、木製とはいえ彼女の剣戟は鋭い風切り音を鳴らしながら、カーラに襲いかかった。

 その全てを難なく躱しているように見えるぞ。

 しかも大きくバックステップするのでなく、最小限の左右の動きで回避してやがる。

 モニカの攻撃の間合いに入ったままで・・・・・・マジかよ。

 

 カーラは避けタンクなのか?

 隻眼の状態なのに、何故あんなに躱せるのだ?

 本当に柳生十兵衛(女十兵衛)じゃないのかと思ってしまう。

 

 おっ、躱し際にカウンターでカーラの刺突がモニカの鎧の胸部に入った。

 レベル差があるから、痛みは全くないはず。

 モニカも連撃を全く緩めないが・・・・・・そのことごとくを躱しまくっている。

 

 彼女も剣聖のスキルであるダブルスラッシュを使う気は全く無さそうだな。

 それでも、二刀を自由自在に振り回してカーラを捉えようと鋭い斬撃を見舞っている・・・・・・だが、全く当たらない。

 おいおい、ちょっと凄くないか。

 俺だったら超速スキル無しでは、ここまでの回避は絶対無理だ。

 ここまで見事に躱すとは。

 迷宮組に入れてくれと主張していたのも、実力と自信があってのことだったのだな。

 

 やがて、カーラの攻撃が更に3、4回入ったところでモニカがギブアップした。

 レドリックに続いて、モニカも負けたのか。

 スキルを使っていたり、実剣を使っていれば結果は違ったかもしれないが、模擬戦レベルではカーラの完勝か。

 

「これは凄いな。正直、ここまでやるとは思わなかった」

「ご主人様、彼女の回避技術は素晴らしいと思います。

 これでまだ剣匠ですから、もし剣聖にでもなったら更に磨きがかかるかもしれません」

 確かにレドリックの言う通りだな。

 

 迷宮討伐でも避けタンクの価値は高いからな。

 エステル会長の話ではないが、攻撃を受けないというアドバンテージはでかい。

 

 だが、原作のシナリオ踏襲であれば、本来は彼女は魔法使いだったはずなのでは?

 何故、このタイミングでエルフ族の避けタンクが加入するのだ?

 原作踏襲なら、避けタンクはもっと早い時期に加入しているはずではないのだろうか。

 

 それにしても隻眼の状態でこの強さなら、エリクサーで回復したら、とんでもないことになるのではないだろうか。

 何故、彼女は隻眼の治療を拒むのだろうか。もったいない。

 

 

 カーラはさすがに六連戦なので、いったん休憩に入るようだ。

 その間を埋めるように、リオンとノエルが模擬戦を始めた。

 リオンは木の槍を持ち、ノエルは木刀を持っている。

 二人とも、まだ村人ジョブのままだ。

 

 だが、その二人の戦いは、とても村人ジョブ同士の戦いには見えない。

 リオンの槍捌きは、ひょっとしたらフラウスに迫る勢いかもしれないし、ノエルの剣戟も鋭く、回避の身のこなしも素晴らしいと感じた。

 というか、やっぱりこいつら近接戦闘が得意そうだな・・・・・・柳生一族だよ、柳生一族!

 

 盗賊落ちを経験したルイも村人ジョブのまま、ミラと木刀で打ち合っているが、こちらの動きも悪くない。

 木刀を持って、ミラに反撃の隙を与えないように攻撃しているようだ。

 ミラも防御が得意だから上手くいなしているが、結構苦戦しているように見える。

 

 ルイは博徒のジョブをやる気がないか確認してみたいのだが、どう切り出したものか。

 博徒のスキルは状態異常発生率を高めるから、暗殺者だけでなく二刀流のスキルを持つ剣匠や剣聖と組ませると相性が良いのだよなぁ。

 まあ、暫くは彼のやりたいジョブで頑張ってもらってからでも構わないか。

 

 

「なんというか、頼もしいな・・・・・・」

「ユキムラ様、新しく加わった五人は全員が戦闘部隊の希望です」

 そりゃそうだろう。こんなのを見せられると。

 

「後ほど、五人の希望するジョブのリストを提出しますので、確認をお願いします。

 五人とも迷宮探索に積極的で、カーラは迷宮組のパーティーへの参加を希望しています」

「ああ、それは本人の口から聞いたよ」

「なんですって・・・・・・?」

 うぉっ、ヘルミーネの後ろだったから気付かなかったけど、ラファもいたのか。

 

 ラファの顔には怒りの表情が・・・・・・こんな顔の彼女は見たことがない。

 後から来て、迷宮組の席を掻っ攫われると思ったのだろうか・・・・・・メッチャ、怒ってる。

 

 

 激怒した彼女はカーラの方にゆっくりと近づいていった。おいおい・・・・・・。

 

「カーラさん、私は迷宮組の6番目のメンバーの座を賭けて、貴方に決闘を申し込みます」

「誰だ?」

「私はユキムラ様の一番弟子のラファと申します。貴方に決闘を申込みます!」

 いつ、俺が弟子を取ったんだよ。

 

 迷宮組のメンバーを決めるのは俺だぞ。

 白黒つけるために、なんでもかんでも決闘すればいいってもんじゃないだろう?

 

「おいおい、俺のパーティーメンバーを決めるのに決闘はないだろう?」

「そうなのか?ユキムラ殿のパーティーメンバーは実力制で決まると言ったではないか?

 ここにいる者を全員倒せば、ユキムラ殿のパーティーに加えてもらえるのではないのか?

 このラファという者とは、まだ戦っていない。

 いずれは戦う必要があるのなら問題ないだろう?」

 頭の中身がシンプル(ざんねん)過ぎるぞ。

 

「模擬戦だということを忘れるなよ。

 命のやり取りではないぞ!

 二人とも相手に大怪我をさせるのはダメだからな!」

「大丈夫だ!」

「木製の武器ですから、きっと問題ないです!」

 本当に大丈夫なのだろうか。

 

 いざとなったら、オーバーホエルミングで止めに入るか。

 ラファとカーラの戦いも見たいと言えば見たいしなぁ。そのままやらせるか。

 

 最近のラファは朝練では獣戦士のジョブを使っている。

 彼女の魔道士や斎王のジョブはどちらもLv60を超えているが、近接戦闘で使うにはちょっと無理があるジョブの効果だ。

 その2つのジョブには敏捷や腕力の上昇効果が一切ないからなぁ。

 

 普通なら、獣戦士Lv46と剣匠Lv22が戦えば、ラファに軍配が上がるだろう。

 だが、先ほどカーラはLv60オーバーの剣聖二人をギブアップさせている。

 その結果からすると、ちょっとラファに勝ち目はない気もするが。

 

「ユキムラ様、万が一の時はこれを使って下さい」

「ん?これは・・・・・・」

 シーナが差し出してきたのは、見たことのある小袋。

 

 昨日、俺がカーラに渡して使ってくれと頼んだ、エリクサーが入った袋じゃないか。

 結局使っていなかったのは分かったけど、こういう使い方は想定外だな。

 

「まあ、いざとなったら使うかもしれないけど、使わないで済む結果になってほしい」

「姉上は、『東杜(あづまもり)の剣姫』と呼ばれた猛者です。万に一つも負けはありません!」

「ラファ様も、その辺の剣士に負けるような者ではありません!」

 リオンとの模擬戦を終えたカーラの弟のノエルと、ヘルミーネが何やら口論に。

 

 大人げないぞ、ヘルミーネ。

 それにしても、なんとかの剣姫とか、厨二心をくすぐる称号だな。

 俺にも何か称号を貰えないものだろうか。

 『四本腕の超速移動』とか・・・・・・ネーミングセンスが無いせいで、『新種の昆虫発見!』みたいに聞こえてダメだわ。

 

 おっと、そろそろ始まるな。

 ラファは木の剣で戦うのか。

 てっきり槍を使うと思ったのだが、相手に合わせたのかもしれない。

 

 中央で対峙した二人だが、始まると同時にラファが突っかけた。

 距離をいきなり詰めると、鋭い突きを放って、右側に素早く移動。

 狼人族の身体能力と、獣戦士のスピードを生かした攻撃だったが、カーラは最低限の回避で躱して、木刀の剣先で肩にカウンターの一撃を入れた。

 木製の武器だし、レベル補正もあるからダメージはないはず。

 だが、勝負事として見たら、カーラにポイントが入ったことになる。

 

 やはりカーラの回避能力は凄いし、回避だけでなく攻撃の技量も高そうだ。

 それでも、ラファは小刻みに体を左右に振り、フェイントも駆使しながらカーラの気を散らせようとするが、カーラは間合いを詰めながら最小限の動きで回避してカウンターを放ってくる。

 これは・・・・・・対人戦の経験や技量に差があり過ぎるのかも。

 

 ラファだって、クーラタルの55階層まで到達したのだから、それなりに修羅場を踏んでいる。

 対人戦闘は別物ということなのか、カーラの技量が圧倒的なのか、どちらなのだろう。

 

 やがて、ラファが剣を下げた。

 潔くギブアップしたのか。

 いや、何やらヘルミーネを呼んでいる。

 

 二人が近づくと・・・・・・武器を交換したのか。

 木の剣をヘルミーネが預かり、ラファは木の槍を持った。

 得意武器にして、リーチの差も使って有利に進める気なのかもしれない。

 それでも、同じ槍使いのフラウスは負けたと聞いたぞ。

 ラファに勝ち目があるのだろうか。

 

 やがて、再び対峙した二人の模擬戦が再開された。

 カーラはポーカーフェイスで、特に相手を見下す訳でもなく、値踏みするように見つめながら滑らかな軌道で移動していく。

 槍を持った分だけ、ラファも間合いを取り易いはずだが、それでも構わずにカーラは積極的に距離を詰めていく。

 回避に本当に自信があるのだな。

 そして、ラファの繰り出す槍の穂先や石突を使った奇襲も難なく回避している。

 

 それでも、先ほどと違ってカーラに何か警戒しているような動きが見えるな。

 

「ラファは詠唱隠蔽を使う気でいるようですね」

「そうなのか?」

 近くにいたレドリックの呟きで意味は分かったが、ラファの動きからは全く分からなかったな。

 

 レドリックには、ちょっとした振る舞いから詠唱隠蔽を狙っているのが分かってしまうのか。

 さすがにニムラルのオッサンに我が家で最初に詠唱隠蔽の技術を学び、タケダ家に広めているだけのことはある。

 でも、それはスキル攻撃を使うということなのだよな。

 木製だからダメージは少ないと思うけど、どうなのだろうか。

 獣戦士のビーストアタックは必中攻撃だから、カーラが優秀な避けタンクであっても回避は不可能かもしれない。

 

 カーラがこちらから見て横向きになった瞬間、ラファが槍の鋭い一撃を放ち、土埃が舞った。

 打撃音がしたから、どちらかに一撃が入ったはず。

 そして、・・・・・・地面に転がされていたのはラファの方だった。

 一体、何が起きたのだ?

 

「今のはビーストアタックだったよな?回避されたのか?」

「いえ、こちらからは見えにくかったのですが、カーラに一撃が入っているはずです。

 その上で、カウンターで返したのかもしれませんが、よく見えませんでした」

 ヘルミーネが心配して駆け寄っていった。

 

 怪我してないか気になるので、俺も後を追う。

 

 地面に転がったラファにカーラが何か声をかけている。

 

「ラファ、大丈・・・・・・」

「ユキムラ様はここまでで・・・・・・」

 ヘルミーネに手を横に出されて、止められてしまった。

 

 背中を向けたヘルミーネの向こうで、ラファは立ち上がり、急ぎ足で立ち去っていく。

 敗北を認めたのだろうな。

 でも大きな怪我は無さそうでよかった。

 ゼナも彼女の方に寄っていったから、きっと手当をしてくれるはず。

 

 ちょっとラファにかける言葉が俺には思いつかない。

 これまで頑張ってきた彼女に『頑張れ』とも言えないし、『次のチャンスが・・・・・・』などと、安請け合いもできない。

 ヘルミーネが後を追っていったので、今は彼女に任せよう。

 

 

 二人の後姿を見送っていたら、フレイヤが近づいてきた。

 今度は彼女がカーラの相手をするのか。

 

 邪魔になるので、急いでレドリックのいる所に戻った。

 タフな竜人族とはいえ、今のカーラに通用するのだろうか。

 

 フレイヤの持つ武器を見ると、剣の刃渡りが長く見えるな。

 

 鑑定すると『木の剣』・・・・・・木製の両手剣だが、それにしても長い。

 ミラが長巻型の両手剣を検討していると言ってたから、練習用に作ったのかもしれない。

 

 背の高い竜人族の彼女が長巻型の木の剣を持つと、対峙しているカーラとの対比で大人と子供に見えてしまう。

 大して重たくはない木製武器だが、竜騎士のフレイヤが二刀流でブンブン振り回すと大きな風切り音が出て、なかなかの迫力だ。

 それでも、カーラはポーカーフェイスで相手を冷静に吟味しているように見える。

 

 やがて、対峙した二人がお互いに距離を詰めて・・・・・・フレイヤの二刀流攻撃が始まったが、今までと同様にカーラが躱しまくる。

 後ろに下がることなく、距離を詰めているということは、初見の相手の攻撃を正確に見切っているということなのか?

 ちょっと規格外過ぎて、唖然としてしまう。

 

 確かに動きが大きく、剣も大振りではあるが、木製とはいえ竜騎士の二刀流の間合いに俺なら入りたくないぞ。

 懐に入られると、今度は剣の中央の刃渡りの部分で押しつぶそうと剣を押し出してくるが、それも難なく回避してカウンターを入れまくっている。

 全くダメージは感じてないのだろうけど、それでもパッと見はフレイヤが押されてるように思えてしまう。

 

 やがてフレイヤが両手の剣を下げて、ギブアップしたようだ。

 これで八人抜きかよ・・・・・・笑うしかない。

 

 

 シーナが駆け寄って、汗を拭く布とコップを渡している。

 水分補給か。

 一応、修練場でも水分補給ができるように、建物の近くの場所に水差しは常に準備してある。

 あの場で飲むということは、まだ続けるということだな。

 本当に全員倒すまで止めないつもりなのだろうか。

 

 

 次にカーラの前に出てきたのは、ケリーとマリー・・・・・・二人で挑む気か?

 それは反則なのでは?

 

 だが、カーラは当然のように受けて立つようだ。

 双子は二人とも百獣王Lv60だ。

 ラファの時とは全然違う。

 

 この二人は生粋の前衛職で、連携の息もピタリ合っている。

 俺だったら、二人とまとめてだと模擬戦では、ちょっと戦いたくない相手だ。

 度々挑まれるから、仕方なくやる羽目になるのだけど。

 

 双子は緊張感を見せずに、純粋に強い相手と戦えることに喜びを感じているようだ。

 こちらはこちらで無邪気過ぎる。

 

 ビーストスラッシュは使ったらダメだからな。

 

「レドリック、さすがに二対一だとスキル攻撃は・・・・・・」

「そうですね。それは拙いと思います」

 俺の言葉に反応したレドリックが指を口に突っ込んで、指笛を吹いた。

 

 双子がこちらを振り向き、レドリックが何やら右手でサインを出している。

 二人は頷き、カーラの方に向き直った。

 

「二人にはスキル攻撃禁止の合図を出しておきました」

「そんな合図があるのか」

 普段から朝練に出ていたけど、全然気づかなかった。

 

 時々、指笛吹いてるなぁ~とは思っていたけど。

 でも、指笛聞いたのは最近になってからか。

 その時も、こちらの世界にも指笛あるんだなぐらいにしか思わなかったわ。

 

 双子は少し距離を空けて並び、カーラと対峙した。

 さすがに、左右に大きく展開したり、前後に回り込むみたいな事はしないのだな。

 純粋に模擬戦(バトル)を楽しもうとしている様子だ。

 

 ケリーは木の両手剣、マリーは木刀と盾を持っている。

 カーラの方は先ほどからずっと、木刀の二刀流だ。

 我が家の様々な手練れを二本の剣で退けてきた。

 こいつ(カーラ)は・・・・・・きっと本物だ。

 何がどうとか言えないけど、剣や戦いに人生を懸けているのかもしれない。

 

 

 そろそろ始まるか。

 

 双子がいきなり並んで走り、間合いを詰めてきた。

 

 カーラに攻撃をする・・・・・・直前に二人が交差して、左右にすり抜けるように攻撃してきた。

 ケリーの剣は上体に、マリーの剣は足の低い位置を狙って。

 

 その攻撃をカーラは前に出て回避しやがった。

 なんで、双子の攻撃がそれで当たらないんだ?

 イロイロとおかしいだろう?

 

 すり抜けた双子の顔も驚いたように見える。

 ナニこいつスゲー、みたいな顔で、顔を見合わせている。

 だが、その顔も獲物を見つけた不敵な表情へと変わった。

 双子のスイッチが入ったのかもしれない。

 

 それからは目まぐるしく二人が猛追に次ぐ猛追、攻撃に次ぐ攻撃・・・・・・を連続で仕掛ける。

 そして、それをカーラがことごとく回避する。

 朝っぱらから、なんでこんなに盛り上がっているのだろうか。

 でも、三人の激しい攻防に目が離せない。

 カーラは回避だけではなく、機先を制した攻撃で出鼻をくじき、更に回避とカウンターの鋭い一撃も織り交ぜている。

 

 だが、双子の連携も負けておらず、カーラは回避だけでは追いつかず、木刀で受けさせるところまで追い詰められているように見えた。

 それでもカーラは距離を前に詰め、時に左右に体を小さく振って回避を行なって一方的に攻撃をさせないようにしている。

 

 いつしか、周りの者も模擬戦や素振りを止めて、修練場の真ん中で戦う三人を注目し始めた。

 これは拮抗した戦いなのだろうか。

 

 カーラは少し疲れたのか、双子の斬撃を受ける回数が増えてきた気がする。

 それでも、しっかりと二本の木刀で受け止め、直接のダメージは凌いでいるようだ。

 いつ、この均衡が崩れるのだろうか。

 

 双子は息の合った絶妙のタイミングで猛追し、そして、攻撃の強度を上げ始めた。

 カーラの木刀で受ける回数が更に多くなり・・・・・・ん?

 

 ケリーのバランスが突如崩された。

 カーラの剣がケリーの木の剣を受けたまま、後ろに引き、そのタイミングでカーラがケリーの右脚を蹴っ飛ばしたのだ。

 そのまま、マリーの斬撃を躱しながら連続の刺突で後退させ、ケリーの肩口にカーラの木刀の一撃が入った。

 剣だけでなく、足技も使うのか。

 対人戦を意識した、実戦的な戦いだな。

 格闘系は双子の得意な分野だったはずだが、十八番を奪われた感じだぞ。

 

 バランスを更に崩したケリーを放置して、カーラは二刀流でマリーへの逆襲に転じる。

 マリーの盾防御をかいくぐって、二撃、三撃と木刀の攻撃が入った。

 

「それまで!」

 

 レドリックが勝負を止めた。

 

 ケリーは悔しそうに勝負を続行したがったが、マリーが負けを認めたようだ。

 マリーは潔いな。

 

 元々、二対一の変則マッチだったのだから、明確な勝敗を決める必要もないだろう。

 誰も大した怪我はして無さそうだし、観戦している俺は良いモノを見せたもらったという満足感が残って、非常に楽しい。

 

 激戦だったこともあり、カーラは大量の汗をかいている。

 小麦色の肌に汗がキラキラと光、なんだか色っぽい。

 そして、さすがに連戦で疲れたのか、カーラがこちらに戻ってきた。

 

 

「ユキムラ殿、あと誰に勝てば認めてもらえるのだ?」

「・・・・・・」

 違った。お替わりの催促だった。

 

 

「主、次はあたしだ・・・・・・」

 

 不敵な笑みを浮かべてヴィルマが俺とカーラの前に割って出てきた。

 

 やっぱりこうなってしまうのか、戦闘民族共め。




お読みいただき、ありがとうございました。
朝練の模擬戦ごときで、まさか二話連続になってしまうとは・・・・・・。

次回投稿日は2026/5/28(木)の予定です。
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