異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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108.柳生一族(理解不能!)(その2)

 ニクラス、ミラ、マヤ、フラウス、レドリック、モニカ、ラファ、フレイヤ、ケリー、マリーと戦ってカーラは無敗を堅持した。

 

 模擬戦とはいえ、護衛部隊の精鋭を含めて10人抜きしてしまったら、他に戦う者を見つけるのは難しい。

 次は迷宮組のメンバーが相手をせざるを得ないということか。

 

 ヴィルマは強敵を目の前にして、楽しくて仕方ないという満面の笑みだ。

 

「ユキムラ殿のパーティーメンバー・・・・・・ヴィルマ殿か」

「ヴィルマ、スキルの方は・・・・・・」

「主、分かっている。模擬戦ということは忘れていないぞ」

 意外に冷静なヴィルマの返答だが、両者ともやる気満々だ。

 

 

 カーラも汗を拭い、シーナからコップを受け取って水分補給をしている。

 ヴィルマの方も彼女の回復を待っているようだ。

 分かっているよ。万全の相手と戦いたいのだろう。

 

 連戦に次ぐ連戦を行なったカーラの方が体力的には不利だ。

 だが、カーラ自身が望んだことだし、彼女はヴィルマと戦えることに闘志を燃やしている。

 

 ヴィルマは百獣王Lv93、本来なら剣匠Lv22のカーラが敵うような相手ではないはず。

 相手にはならないはずなのだが・・・・・・何かが起きるのではないかと期待させてしまうものがカーラにはある。

 

「お待たせした。あちらで、よろしく頼む」

「じゃあ、主、行ってくるから」

 ヴィルマには全く緊張感が見当たらない。

 

 二人で買い物にも出掛けるような会話だったが、これから模擬戦が行なわれるのだよな。

 俺の方が緊張してしまいそうだ。

 別に決闘に送り出している訳ではないのだが。

 

 対峙した二人は特に何の合図もないままに、模擬戦を開始した。

 二人の動きは非常に滑らかで、素早く同じ方向に移動していく様はスケートリンクでペアの演技を見ているかのようだ。

 時折鋭い剣戟が二人の間に走るが、双方とも余裕を持って躱している。

 

 ヴィルマは攻撃も防御も上手く、バランス型なんだよなぁ。

 最初に彼女を身請けした時には、こんな感じになるとは全く思いもしなかった。

 カーラの方は防御重視なのだろうか?・・・・・・それとも、攻撃の手札を隠しているのだろうか。

 お互いの攻撃を、まるで示し合わせたかのように回避しまくっている。

 

 ヴィルマは高レベルの百獣王のスピードを生かして、高速移動で回避し、スピードが乗った攻撃を繰り出す。

 一方のカーラも左右の回避でヴィルマの攻撃を躱し、カウンターを次々に放つ。

 動きが速くて、とってもおもしろい。

 

 これはどうやって決着を付けるのだろうか・・・・・・と思っていたら、ヴィルマが大きくバックステップで後退して剣を下げた。

 えっ、もう終わりにするの?

 

 ヴィルマは何かカーラに一声をかけて、こちらに戻ってきた。

 本当に止めてしまうのか。

 なんだかもったいない気がするが、当人同士が納得したなら構わない。

 絶対に白黒つける必要がある訳じゃないしな。

 

「もういいのか?」

「うん、主。あいつが強いのは分かったから。それにあいつは疲れている」

 なるほどね、ヴィルマらしいな。

 

 勝敗よりも、自分が強くなることが重要なのだろう。

 今日は味見だけして、別の機会に万全の状態で戦い、何かを吸収したいのかも。

 また、明日以降も二人で模擬戦を楽しそうにやってる姿が思い浮かぶぞ。

 

 

「次はあたしだね~♪」

「怪我させるなよ?オリビアも怪我するんじゃないぞ!」

「任せて~♪」

 程よく力が抜けているオリビアなら大丈夫だろう。

 

 彼女はカーラの待つ中央の場所まで、ゆる~く歩いていく。

 両手には木の槍二本を握り、いつも通りの槍二刀流だ。

 

 何かカーラに話しかけ、頷かれたみたいだから、これから模擬戦が始まるのだろう。

 少し近くに行って見学させてもらおう。

 

 

 足早に近づいていくと、もう始まるようだな。

 二人とも、それぞれの武器を構えた。

 

 オリビアのジョブは竜将軍Lv93・・・・・・ヴィルマと互角の戦いを演じたカーラの剣技は果たして通じるのだろうか。

 

 

「槍を二本使う者など、初めてだ。タケダ家は多彩な戦い方をする者が多いのだな」

「いいから、かかっておいで~♪」

 なんだか、二人の気合いのギャップが酷い。

 

 それにしてもカーラは昨日、一昨日と我が家の訓練をバルコニーから見てたのじゃないのか?

 オリビアは槍二刀流で模擬戦をしていたと思ったが。

 メンタル的にそれどころじゃなかったから、碌に見てなかったのだろうか。

 

 それはともかく、今日のカーラは鬼神のような活躍だ・・・・・・エルフ族なのに。

 カーラによって、俺のエルフ族のイメージがどんどん崩されていく。

 

 いつも通り、オリビアは自分の立ち位置を変えず、相手が間合いに入ってくるのを、槍を振り回して威嚇しながら待っている。

 そのオリビアに対して、滑るようにカーラが距離を詰めていく。

 

 そろそろ、オリビアの射程圏内かと思ったところで・・・・・・オリビアの右手に持った槍がカーラの斜め上から袈裟懸けに振り下ろされる。

 逆方向にサイドステップしながら躱そうとする先へ、オリビアの左手に持った槍が横薙ぎで襲いかかってくる。

 相変わらず器用で嫌らしい攻め方をしてくる。

 

「くっ・・・・・・」

 

 間一髪、横薙ぎの槍を二刀の剣で下に叩きつけ、カーラはその上を転がるように躱した。

 アクション映画のような回避だが、彼女に余裕があるようには見えない。

 さすがにオリビアの槍二刀流のような攻撃は経験がないだろう。

 槍一本のフラウスならカーラの剣の技量で退けられたのだろうが、変幻自在なオリビアの攻撃には通じないのかも。

 

 槍の穂先、逆側の石突を器用に入れ替えながら、二本の武器がそれ以上の手数になってカーラを苦しめる。

 

「あはは・・・・・・こんな戦い方をする者がいるとは!」

「あれぇ~、全然当たらないなぁ~♪」

 激しく剣と槍が振り回され、交錯しているのに、二人ともなんだかとっても楽しそう?

 

 リーチの問題で、カーラの剣はオリビアには全く届かない。

 槍の攻撃を少し弾いて、軌道を変えるのが精一杯のようだ。

 

 しかし、ほぼ初見なのにカーラもよく回避できるものだ。

 ただ、今までと違い回避や防御一辺倒になってしまい、反撃の糸口が見えてこない。

 

 それでも果敢に前に出て、オリビアの槍の間合いに入ろうとしている・・・・・・勇気があるな。

 木製の槍とはいえ、オリビアの膂力で打ち据えられたら、ダメージを受けると思うぞ。

 

 鋭く左右にステップを踏んで、剣で槍を受け流して・・・・・・ついにオリビアの懐に入った。

 

(トン・・・・・・)

 

 強くはないが、カーラの木刀がオリビアの鎧の胸の箇所を突いた。

 ダメージは全く入ってないけど、あの槍二刀流をかいくぐって、一撃をいれやがった。

 

 

「もう~全然、当たらないよ~♪」

 

 オリビアの口調は全く焦ってるようには見えないが、彼女の攻撃をカーラは躱しまくっている。

 一方で、カーラの方は軽口を叩くだけの余裕がないぐらい集中しているし、汗を飛ばしながら軽快な動きを続けている。

 

「ダメ、ダメ、降参するぅ~♪」

「ふぅー、肝が冷えた」

 オリビアの言葉にカーラが後ろに下がって、大きく息を吐いた。

 

 汗だくで息を切らしたカーラと、気の抜けた声で両腕の槍を天に掲げて降参のポーズをとるオリビア・・・・・・パッと見は勝敗が逆に見える。

 俺にはオリビアが勝鬨をあげているように見えてしまうのだが。

 でも、どちらも奥の手を隠し持っている気がするんだよなぁ。

 

 

 オリビアは上機嫌で戻ってきた。

 負けた者の顔には見えない。

 

 

「カーラはどうだった?」

「あそこまで躱せる人って、見たことないかも~?」

 確かに俺も初めて見た気がする。

 

 

「御館様、次はあたしだ。でも、あいつが休んでから」

「ちゃんと加減しろよ。開いてる方の片目を攻撃するなよ」

 俺の言葉に無言で頷く。

 

 イレーネの鋭い刺突は結構、危険だ。事故のないようにお願いしたい。

 

 カーラの所にはシーナが水と汗を拭く布を持って、付き添っている。

 なんだか甲斐甲斐しいな。

 カーラよりもシーナの方がお姉さん気質に思える。

 

 

 多少は休めたのか、カーラが俺に視線を向けてきた。

 迷宮組への加入を認めるか、次の相手を寄越せ(お替わりだ)と言っている気がする。

 

 イレーネに視線を向けると、彼女は無言で頷き、カーラの方へと歩き始めた。

 横にいたアミルとも視線が合う。

 

「私はやりませんよ」

「そうだな。アミルの役割はあいつ等とは違うから、別に模擬戦で実力を示す必要はない」

 アミルは司令塔なのだから、腕っぷしの勝負なんて無意味だ。

 

 それに戦闘能力だって、標準を軽く超えていると思っている。

 ただ、迷宮組の前衛陣が異常なだけだ。

 レベルが上がり、自分達の成長が日々実感できるから、訓練にも身が入るのだろうな。

 だが、これからはレベルも頭打ちになるだろうから、そうなった時にどうなるのか心配だ。

 レベルの上限は恐らく99だろうからなぁ。

 

 

 イレーネの持つ『くのいち』のジョブの敏捷効果は中上昇。『獣戦士』のジョブと同等だ。

 今の彼女はLv87だから、そんじょそこらの『獣戦士』よりはダントツに素早いはず。

 だが、ジョブのスペックでは、ヴィルマの『百獣王』のLv93には劣る。

 『百獣王』の敏捷効果は大上昇だからな。

 

 『くのいち』の真骨頂は状態異常に持っていくのが早いことなので、近接戦闘という意味でのアドバンテージはそれ程高くはない。

 彼女をそれを日々の訓練等の努力で補っている。

 それに関しては、本当に頭が下がる思いだ。

 

 

 そろそろ始まるようだな。

 二人が構えたところで、模擬戦が開始された。

 まずはイレーネの方が、慎重にジリジリと間合いを詰めていく。

 一方でカーラの方も左右に移動しながら、イレーネを中心にサークリングしつつ接近する。

 

「シッ!」

 

 イレーネが連続での刺突を放つが、カーラは難なくそれを躱す。

 本当に回避が上手い。

 だが、カウンターを狙ったカーラに更にイレーネがカウンターを返す。

 イレーネの性格が表れている気がする。

 

 ヴィルマに比べて攻撃偏重のイレーネは、手数でカーラを圧倒するつもりか?

 二刀流相手に手数で勝とうとするなんて、本当に負けず嫌いだな。

 

 カーラの滑らかで曲線的な攻撃や防御と比べると、イレーネのは直線的だ。

 単純なスピードだったら、恐らくイレーネに軍配が上がるはず。

 その身体能力の差を覆すように、イレーネの攻撃をカーラが避けまくっている。

 これが、正真正銘の避けタンクなのか。

 

 何度か攻防のやり取りが行われたが、イレーネの方がちょくちょく被弾している。

 もちろん木製武器だし、レベル補正があるから全くダメージはない。

 だが表情を見る限り、イレーネの闘争心はMaxになっているように見える。

 

 

 ここから反撃を試みるのか・・・・・・と思っていたら、イレーネは攻撃をピタリと止めた。

 カーラは自分のペースで次々に斬撃を入れてくる。

 イレーネは盾と木刀で防いでいるが、カーラはカウンターの反撃に注意しながら、二刀流の斬撃をイレーネに当てている。

 ダメージはないのだろうが、木刀でトン、トン・・・・・・とイレーネのプライドにヒビを入れるような攻撃だ。

 

 何故、イレーネは反撃しないのだ?

 

 カーラがいくつもの斬撃でイレーネの鎧を突いた・・・・・・その時、

 

(ガシュッ・・・・・・)

 

「くっ・・・・・・」

 カーラが呼吸を乱して、回避している。

 

 イレーネの刺突がカーラの鎧の上を滑った・・・・・・これは当たってるよな。

 それからも、カーラの攻撃の数回に一度、イレーネの攻撃がカーラに当たるようになった。

 

 イレーネは・・・・・・攻撃を当てさせ、その瞬間、当てた腕に沿って刺突を繰り出している。

 これは避けにくい返しだ・・・・・・カウンターと言えばカウンターだけど、肉を切らせて骨を断つ?

 ただでさえ、純粋な速度ではイレーネの方に分がある。

 当たったのを確認してから、スピードに任せて無理やり当てにいってる。

 

 『後の先(ごのせん)』と言うには、あまりに泥臭いやり方だけど、そうまでして勝ちたいのか。

 イレーネの負けず嫌い極まれりだな。

 実剣では使えない戦法だけど。

 

 これは相手がギブアップするまで、イレーネはやり続ける気でいるのじゃないか。

 

 二人の近くに行って、大声を出して割って入った。

 

「終わりだ。勝負無しだ!」

 俺が止めなければ、延々続いてしまう。

 

 気持ちは分からなくもないけど、こんな模擬戦は続けさせられないよ。

 

「むぅ・・・・・・もうちょっとだったのに」

「ユキムラ殿、これからいいところだったのに・・・・・・」

 お前ら、いい加減にしろよ!

 

 いや、ひょっとしたら時間が経てば別の展開になったのかもしれないけど、見ている方は心配でヤキモキしてしまうわ。

 

「とにかく終わりだ。この勝負は無しだ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 ムスッとした表情で二人とも距離を空けて、剣を下げた。ようやく終わってくれた。

 

 再開すると困るので、イレーネの手を引いて、元いた所まで引っ張っていく。

 そこには迷宮組のメンバーがいるから、クールダウンしようぜ。

 

「イレーネ、カーラのことをどう思った?」

「あいつは強い。今までのどんな奴とも違う」

 一応、実力は認めたと。

 

「他のみんなは?」

「主、あれだけ躱すのが上手いのはセンスだけじゃなくて、相当努力してるはずだ。

 単に戦いに強いだけじゃなくて、精神(こころ)も強いと思う」

「これだけ躱されたのは初めて。あの()は面白いね~♪」

「前衛としては、心強いと思います」

 前衛としてはね・・・・・・ハルツ公の推薦は魔法使いだったような気もするけど。

 

「隻眼の状態で、あれだけ回避するのは素直に凄いと思った。

 彼女は迷宮組へ加わることを希望している。

 俺は6人目のメンバーにしても問題ないと思うけど、みんなの意見は?」

「・・・・・・」

 みんな、無言で頷いて・・・・・・いや、アミルだけがジト目で俺を見ている。

 

 迷宮組ということはハーレムメンバーということで、何か含むところがあるのだろうか。

 

「ああ・・・・・・アミル、何か言いたいことがあれば言ってくれ」

「ご主人様って、意外に鈍い所がありますね?」

 ん?なんだ。

 

 実はカーラのあの豊満に見える胸がニセモノとか?・・・・・・ドワーフ娘に対する偏見が過ぎるか。

 

 もしや、実は女性に見えて、まさかの男の娘だったとか?

 いや、鑑定で確認して『♀』だったから、それはないか・・・・・・一体なんだ?

 

 

 アミルの髪型が変わっていたり、新しいアクセサリーを着けているとか?・・・・・・いや、ダマスカス鋼の腕輪で変わらないよな。

 いや、そっちのアクセサリーじゃなくて、普通のアクセサリーかヘアピンを変えたとか???

 何に対して鈍いと言われるのか、ちょっと全然分からないよ!

 

「ゴメン、全然分からないのだけど、何か見落としているのかな?」

「・・・・・・教えてあげませ~ん」

 えっ、何それ?とっても気になる。

 

 周りを見渡すと、ヴィルマとイレーネは首を傾げている。

 オリビアはニンマリしている・・・・・・?

 

 繊細派(アミル&オリビア)鈍感派(その他3名)に分かれてしまったの?

 俺もそちらに入りたい。

 

 俺がオロオロしていると、カーラがシーナ達四人を連れてやってきた。

 

「ユキムラ殿、次の相手は・・・・・・」

「えっ?」

 お前、まだやるの?

 

「ここにいる迷宮組のメンバーで、カーラを6人目として迎え入れることが先ほど決まった」

「本当か?じゃあ、これからユキムラ殿達と迷宮に行けるのだな?」

 アミルは若干含むところがあるようだが、反対してなかったから満場一致とする。

 

「迷宮に一緒に行くのは装備品の準備や連携の確認をしてからだな」

「じゃあ、連携の訓練を今からやろう」

「はあ?」

 本当に頭の中身がシンプル(ざんねん)過ぎる。

 

「明日までには装備品の方は用意しておきます」

「アミル殿、本当か?よろしくお願いする!」

 カーラがアミルに向かって、丁寧に頭を下げている。

 

 戦闘や迷宮探索においては、カーラは真面目で実直だな。

 

 

 シーナがカーラの肘を指でツンツン突いてる。

 この妹が姉のストッパー役なのか。

 

「姉上、そんな事よりもユキムラ様にお伝えすることがあるのでは?」

「ん?なんだっけ?」

 シーナは自分の右眼の下をトントンと叩いている。

 

 ああ、カーラの右眼に着けている眼帯・・・・・・隻眼になった理由か?

 もとい、エリクサーを使わない理由?

 

「うん?これがどうした?」

「ん?」

 カーラは右眼に着けていた眼帯を外した・・・・・・そこには傷一つない普通の眼球が見える。

 

「これがどうかしたのか?」

「えっ?どうかしたというか・・・・・・眼の怪我は?」

「ユキムラ殿、私は怪我などしてないぞ。回避には自信があるからな」

 えっ、えっえぇ~なんで?

 

「はあ・・・・・・では妹の私から、ご説明いたします。

 姉上は回避や剣の技量を上げるため、

 片方の眼に眼帯をつけて、普段から訓練や迷宮探索をしているのです。

 眼帯を着けると遠近感が狂い、

 剣を当てにくくなったり、回避しにくくなったりするので鍛錬になると申しまして」

「普段から?」

「そうだ。6歳ぐらいの時からずっとそうしているのだ。

 二、三日毎に右眼と左眼で付け替えている。

 その方が、鍛錬になると剣の師匠も賛成してくれた」

 バ、バカじゃないの?・・・・・・その師匠とやらも止めろよ!

 

 そんなバカげたことでも、子供の頃から今に至るまでやっていたら、剣技や回避テクニックが劇的に向上したりするのか?

 そういえば、初めて会った時は左眼に着けていた・・・・・・のか?今日は右眼?

 

「アミル、ひょっとして・・・・・・?」

「はい。ご主人様のお察しの通りです」

 俺とヴィルマとイレーネはカーラが眼帯の着けている目が変わったのに気付いてなかった?

 

 エリクサーがどうのと言っていたのに、スンゴイ恥ずかしいのだけど・・・・・・。

 穴があったら入りたい気分だ。

 

「エリクサーは必要なかったと?」

「はい。ユキムラ様、誠に申し訳ありません」

 妹のシーナが頭を下げているが、別に彼女のせいではない。

 

 誰のせい?・・・・・・俺か?カーラか?

 

 ヴィルマはまだキョトンとしているが、イレーネは下を向いてプルプルしている。

 イレーネにも俺と同じく羞恥心があったようだ。

 

「御館様、要するにあたしは手加減されていたってことか?」

「えっ?」

 違った、物凄い怒りの表情を浮かべているわ。

 

「もう一回、勝負だ。あたしに勝ったら、パーティーに入るのを認める。負けたら認めない!

 でも、今から戦うのは両目だぞ!片目は認めない!」

「分かった、再戦だな。直ぐやろう!」

 おーい、何故そうなる?

 

 手加減じゃなくて、訓練で眼帯していただけだろう?

 カーラは単に続きがやりたいだけじゃないのか?

 

 止める間もなく、足早に移動して対峙すると直ぐに戦いを始めやがった。

 

 そして先ほどと同じ事が繰り返されるのかと思ったら・・・・・・イレーネの『後の先』が通じない。

 今度はカーラに回避されている・・・・・・マジかよ?

 

「なんか、凄いことになってますね?」

「ああ、レドリック、ちょっと揉めてしまってな。

 みんなの訓練の手を止めてしまって申し訳ない」

「まあ、たまには技量の高い者達が本気で戦うのを見るのも勉強になるでしょう」

 確かにそうなのだけど、始まり方というか動機がなんだかなぁって思ってしまうのだよ。

 

 そうは言いながらも、せっかくだから近くに行ってみよう。

 俺とレドリックだけじゃなくて、他の者達も周りを取り囲んで観戦モードだ。

 

 イレーネの攻撃は全く当たらなくなってしまった。

 眼帯するのはハンディを与えてるようなものだという、イレーネの直感は当たっていたのか。

 

 ん?イレーネの木刀を振るペースがちょっと変わったか?

 盾と木刀の使い方も何か変わったような?

 

「イレーネさんは詠唱隠蔽を使おうとしていますね」

「そうなのか、ラファと一緒か・・・・・・だが、ラファは使っても負けたよな」

「どうでしょうか。やってみなければ分かりません。

 ラファよりもイレーネさんの方が後から詠唱隠蔽を学びましたけど、身に付いたのかどうか」

 先ほどは見逃したけど、カーラの返し技が見られるのかもしれない。

 

「ぐっ・・・・・・」

 カーラの刺突が当然、イレーネを積極的に襲い始めた。

 

「ああ、これは詠唱隠蔽が不発に終わるかも・・・・・・」

「そうなのか」

 レドリックはカーラの意図を察したようだ。

 

「それは、先ほどの娘(ラファ)に見せてもらった」

「クソッ・・・・・・」

 カーラの言葉にイレーネが悪態をついている。

 

 一度やられたら次から通じないとか、センスがあり過ぎじゃない?

 

 ダメージはさほどでもないが、カーラの攻撃が一方的にイレーネに入るようになってしまった。

 詠唱隠蔽は封じられ、攻撃は当たらず、刺突の軽い打撃がコツコツと当たっている。

 マジかよ。これほどまでにカーラの戦闘力は高いのか。

 ジョブのレベルってなんなのだろうかと思ってしまう。

 魔法使い推薦で加入したカーラからは、魔法のマの字も感じられないけどな。

 

「イレーネ、もう終わりにしろ」

「・・・・・・」

 彼女も勝敗が付いたのを理解したのか、アッサリと後ろに下がり、剣を下に向けた。

 

 悔しそうな顔で涙目になっている気もする。

 別にこれから、同じパーティーの仲間になるのだから、お互いに切磋琢磨していくだけだ。

 ヴィルマを見倣って、相手から学んでほしい。

 

 イレーネは無言でヴィルマ達の方へと下がっていった。

 カーラはそちらには行かず、こちらに近づいてきた。

 

 

「ユキムラ殿、一手、御指南いただきたい」

「そうだな・・・・・・」

 やっぱり、そうきたか。

 

 正直、剣の技量では、俺はレドリックにもヴィルマ達にも敵わないと思っている。

 それでも挑まれれば、一手指南しなければならないか。

 当主だから受けて立つしかない。

 武家の当主ではないのだけどね。

 別に道場破りの対応でもないから、気楽に戦わせてもらおう。

 俺だってカーラから学ぶことは多いはずだ。

 

 ヴィルマ達の所に戻り、アミルから木の剣を二本、ヴィルマから一本受け取った。

 俺の手元に一本あったから、これで四刀流だ。

 

「これから、カーラと模擬戦をやってみる」

「主、期待しているぞ!」

「ユキムラ君、応援しているよ~♪」

「・・・・・・」

「ご主人様、怪我させないようにして下さいよ」

 一人、涙目で『負けたら許さない』と圧をかけてくる者がいる。

 

 期待に応えられるかどうか。

 

 カーラのいる所まで歩き、対峙した。

 

「ユキムラ殿は剣を四本使うのだな。四本の剣を使う者との戦いは初めてだ」

「そうか」

 俺もできる事なら、お目にかかってみたいね。同族はどこかにいるのだろうか。

 

「ユキムラ殿は私に魔法使いのジョブでも戦ってほしいのだと、ヘルミーネ殿から伺った。

 だが、私は見ての通り、剣を振るしか才能のない者だ。

 もし、この戦いで私がユキムラ殿に勝ったら、剣一筋でやらせてほしい」

「・・・・・・いいだろう」

 これで、負けが許されなくなってしまったじゃないか。

 

 剣士系で剣聖を目指してもらうのは構わないが、魔法使いも併用してほしいのだよなぁ。

 その方が、パーティーとしての戦術の幅が広がるから。

 

 結局、実力で黙らせるしかないのか。

 もう少し建設的な話し合いをしたいところだが。

 まあ、全ては勝ってからということか。

 

 

「じゃあ、始めるか」

「胸を貸していただく・・・・・・」

 言葉とは裏腹に、その表情は絶対に負けるものかという決意が見て取れるぞ。

 

 それにしても、眼帯を外したカーラはなかなかの・・・・・・いや、今は目の前の勝負に集中だ。

 

 

 イレーネを始め、迷宮組の面々が手間取った相手だ。

 普通の相手なら、二刀流、三刀流から入って様子見をするのだが、そうもいかないだろう。

 四刀流を使って、全力で面制圧をかけにいくか。

 

 カーラが、ややゆっくりと前に進み出てきた。

 間合いに入ってくる前に、こちらは剣を振り始める。

 

 右の上腕の剣を袈裟懸けに、左の上腕を水平に、右の下椀を下から上に、左の下椀を上から下へ・・・・・・時間差を付けながら、速度差をつけながら、角度を変えながら、個々の腕毎に緩急や軌道の変化をつけて振り回す。

 俺の周囲に小気味よい風切り音が鳴り響く。

 

「むっ、これは・・・・・・こんな剣筋は初めてだ」

「それは、どうも・・・・・・っと」

 四刀流は他人に仕掛けたことはあるけど、自分が仕掛けられたことはない。

 

 いつかは味わってみたいのだが、こればかりは難しい。

 さすがに、カーラは簡単には間合いに入ってこられないようだ。

 

 間合いの傍まで来ては、後ろに下がり、そしてまた前に・・・・・・というのを繰り返している。

 こちらはジリジリと彼女との距離を詰めながら、ゆっくりと前進。

 

(カーン、ガンッ・・・・・・)

 

 おおぉ、左右の木刀で俺の剣を受け流して、隙間を無理やり作り、間合いを詰めてきた。

 やるなぁ・・・・・・でも、直ぐに元の位置にまで押し戻す。

 

 二本の木刀で無理やりスペースを作るのは至難の業だぞ。

 ただ、空間を制圧しているだけでなく、腕力もちゃんと乗せて剣を振るっているのだからな。

 スピードだけでは対応できないはずだ。

 

 こちらの間合いに入ってこられないのなら、そのまま押していくか。

 ジリジリと前に進み、圧力をかけていく。

 間合いに入ろうとしても入れないカーラは、左右に体を小刻みに振って凌ごうとするが、耐えきれず徐々に後ろに下がり始める。

 

「これは・・・・・・やりにくいな。でも・・・・・・」

「凄いな。ここまで耐えた奴はいないぞ」

 今まで四刀流で面制圧をかければ、かなりの確率で斬撃を浴びせてきたが、まだ一発もまともに当てていない。

 

 彼女の卓越した回避能力と剣技で受けられてしまっている。

 17歳の小娘に・・・・・・と思いかけて、6歳から鍛えていたと言ってた話を思い出し、余計な思い込みを振り払う。

 剣を握ってからの経験が俺よりも遥かに長いのだから、油断する理由は何一つない。

 

 このまま、圧力を強めてジリ貧に追い込もう。

 少し大股の一歩を踏み出してプレッシャーを・・・・・・と。

 

(ガン、ゴンッ・・・・・・)

 

 踏み出すと同時に、カーラの二刀で、こちらの二本の剣の柄の末端、柄頭の部分を弾かれた。

 はあ?

 

(トン・・・・・・)

 

 カーラの木刀が俺の鎧の胸の部分を突いた。

 剣を受けるのでも流すのでもなく、俺の剣の柄頭を剣で更に弾き飛ばして、無理やりスペースをこじ開けて隙を突いてきた。

 曲芸の類じゃないか?

 

 ケリーも確か、ザビルのリカルド騎士団長に同じような事やってたよな。

 あの時は剣一本だったから、狙い易かったはず・・・・・・俺には無理だけど。

 四刀流で変幻自在の剣の軌道に対して、二本同時にピンポイントで当てるとか信じられんわ。

 

「御館様、本気で攻撃しないと!」

「本気でか・・・・・・?」

 背中からイレーネの檄が響き渡る。

 

「ユキムラ殿・・・・・・出し惜しみは・・・・・・止めていただきたい」

「うーん・・・・・・」

 カーラは徐々に息が切れてきたようだ。

 

 俺は一戦目だが、彼女は十戦以上も猛者と戦ってきている。

 そろそろ体力も限界に近いのかもしれない。

 

 このまま、体力切れを待つのはダメだよな。

 本気、本気か・・・・・・使いたくないのだが、魔法使いで戦う件も懸かっているから仕方ないか。

 

 

「悪いが終わらせてもらう」

「まだ、この上があるのだな?」

 彼女の表情が一瞬、喜悦に満ちた気がする。

 

 

(オーバーホエルミング)

 

 

 スローモーションになった彼女の肩口に、上腕の右手の剣で攻撃を仕掛ける。

 彼女の視線が俺の剣の軌道にシッカリと向けられている・・・・・・これを目で追えるのか?

 

 だが、逆の肩口と胴体に左手の二本の剣で攻撃を同時に行う。

 これは彼女の剣技や物理的なスピードでは絶対に避けられない。

 二本の剣戟が彼女を打ち据えた。

 

 更に右手の下椀の右手で下から掬い上げるように胴体に当てようとすると、彼女は体を引いて反らして更に回避を試みる。

 凄いな。オーバーホエルミング中の剣にここまで反応できた者は見たことがない。

 剣は当たったが、若干、重心をずらして芯を捉え損ねたか?

 

 超速スキルの効果が消えるまでに、そこから二撃、三撃と連続して鎧を打ち据えた。

 

 これでもういいや。

 スキルの効果が切れるのを静かに待つ。

 

「なっ、今のは・・・・・・?」

「これは俺の勝ちで文句ないよな?」

 彼女は上体を後ろに反らしながら、背中から地面へと落ちてしまった。

 

 倒れたのは剣の圧力を減殺させるために、後ろに跳んだせいだろう。

 それにしても、オーバーホエルミングまで使わないと勝てないなんて。

 もうそれは、事実上俺の負けってことだと思うのだけど。

 

 しかし、カーラの回避能力の凄さ・・・・・・原作の超絶避けタンク様もこんな感じなのだろうか?

 

 それはないか。

 原作ヒロインなら、『今のはギリギリ危なかったですね♪』と言って、オーバーホエルミングでも難なく避けそうな気もする。

 

 

 カーラは地面に仰向けで横たわったまま、呆然としている。

 

「これが俺の奥の手だ」

「5年以上も負けたことがなかったのに・・・・・・」

 5年って、12歳から負け知らず?・・・・・・とんでもない奴だな。

 

 あっ、彼女の頬に大粒の涙が流れている。

 なんだか、ヴィルマが我が家に加わった時のことを思い出してしまった。

 そして、ヴィルマ・・・・・・思っていたよりもカーラの精神(こころ)は強くなかったようだぞ。

 

 起き上がった彼女は、俺の方に目もくれずに人垣をかき分けて遁走してしまった。

 

 えーと、これはどうすれば?

 

「ユキムラ様、姉上のことはお任せ下さい」

「あ、ああ・・・・・・」

 妹のシーナがカーラを追って走っていく・・・・・・結構、足が速いな。

 

 普段から、姉を追いかけ慣れているのだろうか。

 

 

(ガーン、ガーン、ガーン・・・・・・)

 

 ん?

 

 音のした方を振り向くと、鍋と金属製の柄杓を持ったエネドラが仁王立ちしている。

 視線の先が・・・・・・俺を見据えているような気もする。

 

「もう、朝食の準備はとっくにできあがっているのですが・・・・・・」

「ひゃ、ひゃい・・・・・・みんな撤収するぞ」

 笑顔に見えて、目が笑ってないエネドラに背筋が凍りつく。

 

 一戦しか戦っていないのに俺のせいなの?・・・・・・とは言えないので迅速に行動しなければ。

 皆を急かして、食堂に向かうように追い立てる。

 なるべくエネドラの方を見ないように。

 

 

 時間をかなり使ったが、カーラの迷宮組への参加は決まったのだろうか?

 よく分からない結末だった。




お読みいただき、ありがとうございました。
次の話は(多分)閑話になります。

次回投稿日は2026/5/30(土)の予定です。
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