本話はセ二号作戦終了から数日後のハルツ公の執務室の内容となります。
ちょっと短い話なので、本日この後(5分後ぐらい)、もう一つ閑話を投稿します。
次話(閑話010)も、お見逃しなく。
※009、010のどちらから読んでも影響は特にありません。
「ゴスラー、被害状況の最終報告はまとまったか?」
「はっ、先ほどのエームンドの報告が最後でしたので。それにしても酷い状況です」
ボーデの方でこれ程の被害が出るとは想定外じゃった。
じゃが、実際に
この2割増し、3割増しの被害が出ていても不思議ではない状況じゃったからの。
カシアが負傷することや、最悪失う未来もあり得た。
城内を巧みに移動しながら、城の奉公人や騎士団員を惨殺しまくった賊の精鋭部隊を打倒しなければ、もっと酷い状況になっておったわ。
その精鋭部隊を倒したのが我が騎士団でなく、タケダ殿のパーティーというのは歯がゆいが。
「閣下、こちらが最終報告となります。行方不明者2名の足取りは未だ掴めておりません。
それにしても、魔法使い2名が行方知れずとは・・・・・・」
「そうか。もはや、その2名は領内にはおらぬであろうの」
若手の魔法使い2名・・・・・・当該の家に問い合わせても帰宅しておらぬと。
「恐らく連れ去られたのであろう」
「この2名が賊を手引きしたのではなく、略取されたのだと?」
それ以外には考えられぬ。
「この2名以外に今回3名もの魔法使いが殺されておったであろう?
恐らく我が城で内部から手引きした者がおるはずじゃ。
魔法使い達の部屋を狙い撃ちで襲い、抵抗した者は殺し、従った者は連れ去ったのであろう。
死んだ者は熟練の魔法使いばかりであったじゃろう?
賊に従うのをヨシとしなかったため、殺されたのであろうの。惨いことをしおる」
「確かに、殺された者と賊が揉み合うのを見たと証言する者もいましたが。
若手の者は未熟故、抵抗せず連れ去られたと?」
「恐らくはの。少なくとも手引きした者は、その魔法使い2名ではないであろう」
手引きした者のおおよその見当はついておる。
「手引きした者はカシアの所にいたセルマー伯領から来た侍女3名であろう」
「3名ですか?確かに1名は間違いないと思いますが、他の亡くなった2名もそうでしょうか?」
「まず、間違いない。
タケダ殿が討伐した暗殺者の女、あれはカシアの侍女の薬草採取士じゃったが、
恐らく今回の手引きをした城の中に紛れ込んでいた者のリーダー格であろう。
最近、雇い入れた狼人族の女じゃったが、薬草採取士ということで油断を突かれたのじゃ。
種族なぞ関係ないと雇ってやったが、恩を仇で返されたの。
雇った後に転職して、今回のボーデへの襲撃に加わったのであろうよ。
余やカシアの侍女は雇い入れた後はインテリジェンスカードチェックをしておらぬからの。
同様の罠にかからぬために、今後は定期的に確認しなけれならぬじゃろう」
「現在、その狼人族の女を推薦したセルマー伯領の商家の者を尋問しておりますが、
どうも金で買収されていたようで、その出自は掴めておりません」
「ここまで用意周到に準備しておったのじゃから、簡単に尻尾を掴めぬじゃろう」
恐らくは尋問などしても無駄じゃろうの。しない訳にもいかぬが。
「その暗殺者の女以外は、カシアが結婚の際に実家から連れてきた者で、
セルマー伯領のエンブレムの場所も知っておるし、この城の中も詳しい。
それなりの期間、この城におったからの。
魔法使いの者達がいる場所やエンブレムの場所を伝えたのも、その二人であろう。
最終的には口封じをされたようじゃが」
「こちら側の作戦が発動したことを伝えたのも、その三名でしょうか?」
ゴスラーの言葉に無言で頷いた。
「タケダ殿が石化させて捕まえた聖騎士の男、レーガンは元侯爵家の子息だと分かりましたが、
侯爵家に問い合わせをいたしますか?」
「爵位も外れておったし、知らぬ存ぜぬで返されるじゃろうが、問い合わせはしておいてくれ。
今回、侯爵家が関与しているのは、ほぼ間違いないからの」
あのレーガンという男は、侯爵家の傍系の縁者というところまでは直ぐに分かった。
この間までは子爵だったはずじゃが、インテリジェンスカードを見る限りは爵位がなかった。
恐らく、今回の件に臨むにあたって外したのであろう。
侯爵家への影響を最低限にするために。
「全エルフ最高代表者会議のメンバーが関与しているとは」
「やることさえ分かっておれば、後は作戦発動の際に伝えるだけじゃからの。
なにか、こちらの動きを伝える手段を持っておったのであろう。
具体的にどうやったかは分からぬが。
侍女が三人も死んで、そのうち一人は城内の者を殺しまくって、タケダ殿に成敗された。
カシアのショックも相当のものであろうよ」
彼女は聡い故、三人が内通していたことはとっくに気付いておるじゃろう。
それにしても、セルマー伯領から連れてきた二人の侍女の、あの死に様は一体?
「侯爵家に探りを入れて、二人の魔法使いを取り戻しますか?」
「探りを入れるのは構わぬが、取り戻すのは困難であろうの。
既に帝国内にはいない可能性が高い故」
「そ、それは何故にございます?」
ゴスラー、何故、其方はその程度のことが察せられぬのじゃ。
「王国に連れ去られたからじゃ。恐らく十中八九間違いあるまい。
帝国内に留めおいても、侯爵領内の迷宮討伐では使えまい。
直ぐに、こちらから誘拐されたのがバレるからの。
奴隷にして売り払っても、直ぐに調べがついてしまう。
王国でなら、奴隷にして使い放題じゃからな。
実際に、王国との戦いで、帝国側で行方不明になった者が目撃されておる。
可哀想じゃが、今すぐ救出する術も証拠もない」
「そ、そんな・・・・・・同族の侯爵が他国と通じているなんて」
甘い、甘いの。善良であることは、こやつの美徳じゃが、謀略戦では頼りにならぬの。
「この規模の戦力を集め、入念に準備もしており、魔法使いが略取されおった。
侯爵レベルの力を超えておる。他国の介入を疑うのは当然じゃろう?
恐らく、魔法使いと引き換えに、資金か戦力を融通する手はずであろう。
今は王国とは停戦状態じゃが、また動き出した時に備えた布石かもしれぬ」
「その二人が王国の尖兵となることもあり得ると?」
「迷宮討伐に駆り出されるのか、戦争に使われるまでかは分からぬ。
じゃが、遠くない将来、王国の駒となって動かされておるじゃろう」
二人の実家には、そんなこと説明できぬがの。
「それでは、侯爵家からの介入は今後もあると考えておいた方が・・・・・・」
「そうじゃの。表立って戦うことは、帝国法がある故できぬ。
じゃが、今回のような領地間のいざこざの場合に横槍を入れてくることは考えられる。
注意した方が良かろう。
他にも迷宮に入る時にも注意が必要かもしれぬ。
迷宮に限らず、盗賊をけしかけてくることも頭に入れておくべきじゃの」
「となると、ボーデやハルバーの方に騎士団員の増員も・・・・・・」
「ボーデはタケダ殿じゃから、問題なかろう。
ハルバーは現在派遣した騎士団員で凌ぐしかない。
問題はセルマー伯領の方じゃ。
あちらの迷宮の討伐が進んでおらんかった故の今回の作戦じゃ。
増員するのなら、あちらになるじゃろうて。
せっかく伯爵の首を挿げ替えたのに、迷宮討伐が進まぬのでは作戦の意義に反する」
とはいえ、増員は簡単ではないの。
今回の作戦で、こちらもセルマー伯側も騎士団員の結構な人数が死んだり、重傷を負っておる。
ボーデの迷宮攻略にタケダ殿の力を借りることができたのは僥倖じゃが、それでも足りぬ。
「それにしても、セルマー伯領のギルド神殿が奪われたのが痛恨の極みじゃ。
あれらがあるとないとでは、セルマー伯領の再建にかかる期間が雲泥の差となる」
「亡くなられたセルマー伯の発見が遅くなり、ギルド神殿の捜索が後回しになりました」
ボーデの城のギルド神殿の防衛に成功したのは、せめても救いか。
今回、カシアの救出よりも優先したのじゃから、奪われましたでは話にならぬ。
予備は別の場所に隠しておるが、執務室のギルド神殿が奪われておったら大打撃じゃ。
伯爵領のギルド神殿がなかなか見つからなかった故、万が一に備えてボーデの城の執務室の防衛を最優先したのじゃ。
実際、賊軍の部隊は捜索しておったようにも思えるしの。
早々に城に引き返さなければどうなっておったか。
「魔法使いの攻撃もあったせいで、閉ざされた部屋の捜索にも時間を取られたのも原因かも」
「まあ、こちらの作戦発動を察知した際か、
そのずっと前にギルド神殿は別の場所に持ち出されおったであろう。
魔法使いの攻撃は、セルマー伯の城へ我が方の注意を引き付けるためのものじゃ。
おかげで、ボーデの城への対応が遅れたからのう」
今回は忌々しいことに後手後手に回ってばかりじゃ。
「タケダ殿から話のありました、セルマー伯の城で魔法攻撃を行なった魔法使いですが、
クーラタルの商人ギルド経由でオークションに出品した商家へ問い合わせをしましたところ、
既にその商人は殺されておりました。
買い取った者の名前、住まいは偽りでした」
「やはりそうじゃったか。簡単に情報を残すような輩ではないようじゃ」
とはいえ、関わっているのは侯爵家で間違いなかろう。証拠はないがの。
セルマー伯の城での戦いは魔法攻撃が使えない故、魔法使いをボーデにほとんど残した。
そこを突かれ、魔法使いを狙い撃ちで討ち取りにきおった。
今回の件は、こちらの戦力を削ることも敵の目的であったのじゃろう。
魔法使いに限って言えば、戦力が半減とは言わぬが、それに近い打撃じゃ。
騎士団の立て直しには、十数年はかかる。
それは、迷宮討伐への影響が十数年は続くということじゃ。
戦力を補充するために、見込みのある家に支援もせねばならぬから人手と資金もかかる。
頭の痛いことじゃ。
「エストグリュン家の四人をタケダ殿に引き渡したのは良かったのでしょうか?
ギルド神殿の入手と迷宮討伐を考えれば致し方なかったとはいえ」
「構わぬ。調べれば調べる程、あの四人が何も知らぬことは明らかであったじゃろう?
むしろ、カシアの所の死んだ侍女達の方が詳細を知っておったであろう。
じゃが、全て口封じをされてしまいおった。
見せしめを望む者達もおったかもしれぬが、こちらにも余裕がない。
監視に割く人手も惜しいからの。
直ぐに解放してエストグリュン家と合流されても困る。
ギルド神殿2つと迷宮討伐の対価としては安いものじゃ」
自爆玉も一つ手に入ったしの。本当は2つ、3つ入手したかったが。
カーラという、あの娘もほぼ何も知らされておらなんだ。
今回の賊軍の首謀者に近いレーガンとやらは生かして尋問したかったが、予想以上に早く事切れてしまいおった。
こちらに引き渡される前に、相当のダメージが入っておったのじゃろうの。
エストグリュン家当主の毒殺に加担させられたルイという小僧も、何も知らずに手先にされたようじゃったし。
人質とされた三人も軟禁されていただけで、情報を持っておらなんだ。
情報がこちらに伝わらぬように細心の配慮がされておった。
セルマー伯とエストグリュン家当主が情報を持ってそうじゃったが、こちらの作戦決行を察知して早々に毒殺されたのであろう。
「カーラ嬢も同様でしょうか?」
「そうじゃな。あの娘も大したことは知っておらなんだ。
前に相談していた通り、タケダ殿に与えるエルフ族の駒としては最適じゃろう。
結果論じゃが、おかげでギルド神殿2つと迷宮討伐が安上がりになった訳じゃしな」
魔法使いとしての腕前は聞かぬが、まあ子爵家の嫡子だから貴族教育はされておるじゃろう。
セルマー伯の城に残しておくと火種になりかねぬしな。
新伯爵側で囲うにしても人手が余分に必要になるが、そのような余力は今はなかろう。
ボーデで軟禁し続けることも面倒じゃ。
「しかし、エストグリュン家の一部の者達がタケダ家に押しかけるのでは?」
「そうかもしれぬの。じゃが、それはどこに留め置いても同じであろう?
こちらが対応しなくても済むのなら、タケダ殿の所でも構わぬではないか。
一部の者がタケダ家と合流したとしても、タケダ殿は貴族を目指しておらぬ。
揉めたとしても、こちらの腹は痛まぬからな。
むしろ、今のエストグリュン家から不満分子を厄介払いできて好都合じゃろう。
領地に根付いた者が多いから、全員が離脱するとも思えぬしの」
どうせ、膿を出すのなら早い方が良かろう。
「タケダ殿へ渡す報酬はまとまったか?
そろそろ精算して、再建のために予算をどの程度使えるのか当たりをつけたいのじゃが」
「はい。装備品は既に揃っていますので、後は細々とした生薬類と金銭かと。
自爆玉は二つお渡しするということでよろしいでしょうか?」
「やむを得ぬの。ここで自爆玉を出し惜しんで、ボーデの迷宮討伐で影響が出ても困る」
ゴスラーが差し出してきた書類に目を通すが・・・・・・問題はない。自爆玉は惜しいが。
今回の被害で、ボーデの城とセルマー伯側のエリクサーはほぼ払底した。
それでも、重傷者全員を治すには至らなんだ。
自爆玉の方も騎士団再建のための長期計画で供出するから、そちらも予備がほぼ無くなってしまうじゃろう。
「閣下、エームンドからも問われたのですが、
タケダ殿のパーティーの戦力はどのように評価されておりますでしょうか?
閣下はセルマー伯の謁見室で、賊の集団との戦闘でタケダ殿に護衛されたと伺いましたが」
「高い戦闘力、殲滅力を有している・・・・・・ということは分かっておるが、評価不能じゃ」
今回、タケダ家で討ち取った賊は22名と捕虜が2名じゃったか。
「評価不能と言いますと?」
「実際の戦闘をこの目で見ておらぬからじゃ。
謁見室で護衛された際には、余はアミルという娘に抱えられて椅子の後ろに匿われておった。
恐らくは、余にタケダ家の戦力を見せぬための目隠しであろう。
その僅かな時間の間にタケダ家のパーティーは12名の賊軍を殲滅しおった」
あのようなことをされるとは全く思わなんだわ。
「えっ?では、タケダ殿達は5名ではなく4名で12名を殲滅したのですか?」
「そうじゃな。うち1名は石化して捕虜にする余裕まであるようじゃ」
あれでは、どの程度の戦力なのか全く分からぬ。
賊達が更に3、4名増えても結果は変わらぬかもしれぬな。
強さの測りようはないがの。
「そ、それはまた・・・・・・」
「短時間で殲滅し、大きな傷を負った者がいなかったのじゃから、まだ余力もありそうじゃの」
我が騎士団のパーティーを2つ、3つ派遣しても敵わぬやもしれぬ。
「それは、カシア救出の際も同様じゃ。
後からカシアに確認したのじゃが、あのバルコニーの場にいたタケダ家3名のうち、
一人はカシア達を護衛し、一人は2名の賊軍と対峙して討伐したと聞いておる。
タケダ殿にいたっては、一人で6名と対峙して、短時間で殲滅したらしいぞ。
その場を見た当家の者は誰もおらぬのじゃがな。
しかも一人は石化状態とはいえ、生かしたまま捕えておる」
「先日の模擬戦で確認した際には、
タケダ殿のパーティーメンバーは途方も無く強いという感想を持ちましたが、
それよりも数段、タケダ殿自身が強いということなのですね」
強さの底が見えぬ。
「そうじゃ。そして、ボーデの迷宮攻略にも自信を見せておる。
今度も単独パーティーで迷宮討伐に臨むのであろう」
「頼もしいと思う反面、扱いに注意が必要と感じますな」
「その通りじゃ。
貴族と表立って争う気は無さそうじゃが、
対立するような事態になったら注意が必要ということじゃな」
できれば、これからも迷宮討伐のための有効な駒として使いたいがの。
(コン、コン・・・・・・)
「失礼します。閣下に緊急の伝言が来ております」
「むっ、入れ」
セルマー伯領で何かあったか?
ゴスラーが騎士団員から手紙を受け取った。
騎士団員はドアを閉めて立ち去っていったが・・・・・・ゴスラーの表情が硬いの。
「・・・・・・閣下、・・・・・・カッサンドラ様からのようです」
「なんじゃと!」
このクソ忙しい時に、なんということじゃ!
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は本日の予定です。今回は連続投稿になります。
本話投稿の5分後に投稿予定です。