異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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110.タケダ家のなんてことはない日常(空気の読める女、読めない男)

 朝起きると、左隣にカーラの寝顔が。

 初回から寝顔が見られるなんて、凄く幸せな気分。

 

 昨晩は三桁(百獣王)には遠く及ばないが、二桁に迫る勢いで攻めてしまった。

 寝て起きると体力が完全に回復しているのは、17歳の年齢のおかげか、それともセブンスジョブの効果なのだろうか。

 その反動なのか、彼女の方はぐっすりと寝てしまっているようだ。

 薄っすらと見える眼帯の跡も、なんだか愛おしく思えてしまう。

 じっと見つめていると起こしてしまうか。

 

 

 顔を右に向けると、彼女の肌着とゆったりとした寝間着が積み上げられていた。

 これって俺がやったのだっけ?・・・・・・昨晩の記憶がかなり曖昧だ。

 うーん、ということは、今、彼女は・・・・・・あっ、また俺のリトル・ユキムラが・・・・・・。

 

 落ち着かせるために、目を瞑って右側を向いていると・・・・・・なんだか良い香りがする。

 拙いな。どちらを向いても厳しい状態だ。明鏡止水、明鏡止水。

 でもちょっと、後学のために目を開けて確認を・・・・・・(ゴソゴソ)。

 うーん、想像とは違っていたけど、まあいいか。

 

「ユキムラ殿、何を・・・・・・されている?」

「ん?カーラ、おはよう」

「お、おはようございます。殿方よりも寝坊するなどと面目ない・・・・・・」

「まあ、気にするな。俺も先ほど起きたところだから」

 寝坊の原因を作ったのは俺だしな・・・・・・それにしても、なんだか堅苦しいやり取りだ。

 

 でも、へにょっと情けない顔をしたパンダ顔がとっても可愛い。

 眼帯つけると、急に凛々しくなるんだよなぁ。

 あれは彼女のやる気スイッチなのだろうか。

 

「そ、それを返していただけぬか?」

「ん?これ?」

 彼女は、俺が両手に持った肌着と寝間着を指差している。

 

 このまま無防備な彼女を抱き締めたくなる衝動を抑え、手に持った衣類を差し出した。

 彼女は布団を被り、中でゴソゴソと動いている。

 俺も潜って、鬼人族の目(ナイトヴィジョン)で確認したくなるのだが、グッと我慢。

 

 やがて、着替え終わったのか、彼女が布団から顔を出してきた。

 

「んっ・・・・・・」

 

 そのまま、彼女の唇を蹂躙。

 夜討ち朝駆けは兵法の基本だ。

 

「もう、ユキムラ殿は・・・・・・」

「朝の挨拶をしたのだけど、ダメか?」

「ダメではないのだけど・・・・・・」

 やっぱり剣を握っていないと、へなちょこだな。そこがまたいいのだが。

 

「今日も迷宮だが、大丈夫か?恐らく午後には階層ボス戦があると思うが」

「ああ、大丈夫だ。任せてくれ」

 あらっ、顔が急にキリッとしてしまった。これはこれで愛おしいのだが。

 

 眼帯無しでも、モード切替ができるのだな。

 

 

 昨晩の事を思い出し、抱き締めようかと手を伸ばした瞬間、するりとカーラはベッドから抜け出し、綺麗な姿勢で立ち上がった。

 彼女は、そそくさと部屋を出ていこうとしている。

 去り際に一瞬、こちらを微笑むように見て、そのまま去っていった。

 

 彼女の服から流れてきた香りがなんとも心地良いのだが・・・・・・タイミングを間違えたか。

 なんだか朝から負けたような気がした。

 

・・・・・・

 

 朝練と朝食を終えて、ボーデに行く出発準備を行う。

 今日の迷宮探索は開始時間を遅らせ、先にハルツ公からの呼び出し対応を優先する予定。

 急ぎの用事ということは、きっと碌でもない話だ。

 おおよその見当はつくのだが。

 

 出発しようと玄関に向かうと、エネドラが待ち構えていた。

 

「旦那様、差し出がましいかもしれませんが、これを・・・・・・」

「これはシャンプーか」

 彼女の差し出してきた布袋にはシャンプーの入った壺が3つ程入れられていた。

 

「先日の会議で、カシア様が体調を崩されていると旦那様がおっしゃっていました。

 これをお見舞いの品として、献上されてはいかがかと」

「なるほど」

 確かにエストグリュン家の四人を引き受けた際にハルツ公から、そんな話を聞いたな。

 

 その話を会議でチラッと報告した気もするが、そんなことまでエネドラは覚えていたのか。

 さすがはエネドラ(さすエネ)、大したものだ。

 これは、お見舞い半分、プロモーション半分ってところだろうか。

 

「分かった。ハルツ公にお会いした際に献上してこよう。

 細やかな気配り、いつも助かっている。ありがとうな」

「いえ、大したことはしておりませんので」

 さりげなく、こんな配慮までしてもらえるから、頼りになるんだよなぁ。

 

 頼り過ぎてはいけないと思いながらも、ついつい頼ってしまう。

 

「じゃあ、行ってくるから」

「はい。いってらっしゃいませ、旦那様」

 玄関にゲートを開き、ボーデへと移動。

 

・・・・・・

 

 騎士団員に用件を告げ、いつも通り執務室へと案内される。

 先日、カーラと来た時に比べると幾分落ち着いた感じになっただろうか。

 前に来た時は、もう少しピリピリとした雰囲気だった。

 

 顔見知りの騎士団員数人とすれ違ったが、さすがに笑顔ということはないものの、緊張感を伴った感じでもない。

 

 騎士団員が用件を伝えると、そのまま執務室へと案内された。

 ハルツ公、ゴスラー騎士団長と何名かの事務方の者がいるが、カシア様の姿はない。

 原作と違い、カシア様に感謝されるような話の流れではないのだろうな。

 セ二号作戦でタケダ家は活躍したと思っているが、その内容があまりに殺伐としているから。

 

 ゴスラー騎士団長の勧めで、ソファへと座る。

 ハルツ公は事務方となにやら話し込んでいるようだ。

 

 目の前に座ったゴスラー騎士団長が話を切り出してきた。

 

「今日はまず、セ二号作戦の報酬のお話となります。こちらをどうぞ」

「拝見いたします」

 報酬の内容は前回から少しアップデートされたかな。

 

 金銭で100万ナールと、スキル融合装備品等とアイテム若干か。

 

 

(セ二号作戦の戦果報酬:タケダ家)---------

 

【報酬概要】

・報酬金:100万ナール

 ※盗賊等の懸賞金は含まず(既にタケダ家へ受け渡し済)

 

・報酬とする装備品:以下の明細の通り

 

・報酬とするアイテム:以下の明細の通り

 

【明細】

■冒険者輸送/要人警護

 報酬:35万ナール

 

■捕縛3名

 騎士1名(捕縛後釈放)、聖騎士1名(既に死亡)、探索者1名(既に死亡)

 報酬:15万ナール

 

■討伐関連

 回収したインテリジェンスカード:22枚

 獣戦士3名、冒険者2名、探索者1名、騎士2名、僧侶1名、神官3名、暗殺者1名、剣士1名

 凶賊2名、海賊6名(懸賞金:78万6000ナール(既に支払完了))

 

■取得装備品(以下の全てをタケダ家に譲渡)

(スキル融合装備品)

 激情のエストック、硬直のエストック、催眠のエストック、頑強の竜革鎧、防毒の竜革グローブ

 防毒の硬革グローブ、駿馬の硬革靴、盗賊のバンダナ

 

(装備品)

 ダマスカス鋼の剣2、エストック2、・・・・・・

 竜革の鎧2、硬革の鎧5、鉄の鎧3、・・・・・・

 ダマスカス鋼の額金2、硬革の帽子5、・・・・・・

 竜革のグローブ2、硬革のグローブ6、・・・・・・

 竜革の靴2、硬革の靴8、革の靴7、・・・・・・

 

■その他(基本的にタケダ家に全て譲渡)

(押収したアイテム)

 自爆玉3(タケダ家には2つ譲渡。騎士団側で1つ受領済)

 滋養丸28、強壮丸5、滋養剤11、強壮剤2、滋養錠2、強壮錠1、毒消し丸5、万能丸6

 

(押収した所持金)

 24万8000ナール

 

(特別報奨金)

 25万ナール2000ナール

 

---------

 

 盗賊の懸賞金と合わせれば、178万ナールちょっとか。

 うーん、高いのだか安いのだか分からないが、こんなものと言えばこんなものなのか。

 

 金は純粋にタケダ家の運転資金に回して、スキル融合装備品はエネドラに捌いてもらうか。

 装備品の方は防具類はザビルの防具屋行きだな。

 

 石化して捕縛した二人はいずれも死亡と。

 エリクサーが与えられなかったということだな。

 ということは、二人から情報は何も入手できなかったということか。

 

 

「確認しました。問題ありません」

「そうですか。では、こちらに署名の方をお願いします」

 ペンを受け取り、署名を実施。

 

 これで金銭や装備品等、諸々を引き取ったら、ボーデの迷宮討伐に邁進するだけかな。

 

 事務方の者と防具商人が呼ばれ、別室で金銭と装備品、アイテムの受領。

 スキル融合装備品の方は、書類が添付されていた。

 これって、我が家でも出している鑑定書みたいなものなのだろうな。

 

 ひたすらアイテムボックスに収納して、書類をリュックに仕舞った。

 これで完了か。やっぱり時間がそれになりにかかるな。

 

 執務室の方に戻ると、ハルツ公がソファの席でお茶を飲んで休憩していた。

 

「終わられたか?」

「はい。ありがとうございました」

 正当な対価とはいえ、一応礼は言っておくべきだろう。

 

 

 エネドラから助言された件をやっておかないとな。

 

「閣下、カシア様が体調を崩されていると伺いましたが、

 本日はお見舞いの品を献上させていただければと」

「ほう、見舞いとな」

 ちょっと警戒されたかな。まあ、今までの対応を考えれば仕方ないか。

 

「はい。先日、お持ちしたシャンプーの改良版です。

 御気分が優れないのであれば、気晴らしになるかと思いまして」

「そうか、ありがたくいただこう。カシアはまだ体調を崩しておってな。

 これを渡せば少しは元気になるかもしれぬ。かたじけない」

 あれっ、思っていたよりも笑顔だな。少なくとも魚の死んだような目ではない。

 

 リュックからシャンプーの壺の入った布袋を取り出して、テーブルの上に丁寧に置いた。

 

 

 ハルツ公は、布袋を一瞥したものの、別の話を切り出してきた。

 

「セ二号作戦と関連するのじゃが、

 タケダ殿にはエルフ族の女系一族の長老と会ってもらいたい」

「面会ですか?目的というか意図はどのようなものでしょうか?」

「タケダ殿はカーラ嬢の所有者になったのじゃ。長老とすれば気になるのであろう。

 大丈夫。心配することはない。

 なに、余よりもひどいことをされることはないであろう」

 ハルツ公の目は死んでいない・・・・・・が若干、濁っているような。

 

 隣に座っているゴスラー騎士団長の目は死んでいる。

 ということは、今回は一緒に行くのだろうか?

 原作では、逃走を図っていたようだが。

 それとも話題に出るだけで嫌気がさすのだろうか。

 

 しかし、ここで『おばば様』イベントか。

 

「なに、ただの挨拶じゃ。タケダ殿はカーラ嬢を伴って、ただ挨拶してくるだけじゃ」

「行くのは我々二人だけなのでしょうか?」

「いや、余とゴスラーの二人も同行するつもりじゃ」

「閣下、私はセ二号作戦後の事務処理が・・・・・・」

「どうせ、直ぐには終わらぬ。行ったところで、大して変わらぬであろう」

「・・・・・・」

 ようやく、苦労人の本領発揮か。

 

 いや、既にセ二号作戦で十分に苦労しているか。

 これ以上は過労死ラインを越えてしまうかもしれないぞ。

 

 

「女系一族の長老ということですが、カシア様は・・・・・・」

「先ほども申したがカシアは今、体調を崩しておるから無理はさせられない。

 なに、ちょっと会うだけじゃから大したことではない」

 何度も繰り返し言うってことは、本当に体調が悪いのかもしれない。

 

 カシア様が行かないという原作との違いが、変な所に影響しないでほしいな。

 

「カーラは今から呼んできた方がよろしいのでしょうか?」

「いや、面会は明日の午前中じゃ。

 この後、騎士団の冒険者に案内をさせるので、明日は現地で合流じゃ」

 カーラと二人で行くということはWeb原作準拠ではなく、小説版のシナリオ準拠なのだろうか。

 

 Web原作だと、『捕まえた』と言われて、そのまま連行されるオチだったような。

 それにしても、こちらの都合は関係なく、明日の午前中で決め打ちか。

 まあ、おばば様の都合というか、命令なのかもしれないけど。

 

 

 その後もゴスラー騎士団長はゴネていたが、ハルツ公に黙殺されていた。

 これ以上、ここにいても仕方ないので暇乞いし、騎士団員の案内で明日の移動場所へと案内してもらった。

 移動した先は、どこかの屋敷のロビーっぽい場所だな。

 警備をしている者が、こちらの方に視線を向けている。

 不審者でないか確認しているのだろうな。

 

 騎士団員に礼を言って、ゲートを開いてクーラタルの自宅へ戻ることにした。

 

・・・・・・

 

 皆に探索開始が遅くなった詫びを入れて、迷宮組6人でボーデ迷宮へ。

 48階層の攻略を再開した。

 

 おばば様の件はカーラには、まだ伝えていない。

 イマイチ影響が分からないので、夕方伝える予定。

 

 だからという訳ではないのだろうが、カーラは伸び伸びと戦っている。

 

 

 昼食を挟んで、引き続き探索を続行。

 ロールトロールをひたすら倒し、鉄と鋼鉄のドロップ品を積み上げていく。

 

 この鍛冶素材はミラの武器・防具試作用に使われるのかな。

 ダマスカス鋼はまだまだ貴重だから、なかなか長巻用の素材には使いにくい。

 衝角(ラム)付きの盾も同様だ。

 空きスロット無しのものが生成された場合に、それらの癖のある装備品は売却しにくいからな。

 それにタケダ家専用の武器として、今は秘匿しておきたいし。

 

 鉄や鋼鉄なら、空きスロット無しのものでも、死蔵しておいて構わないだろう。

 いつかダマスカス鋼の素材が余ったら、空きスロット4つのものを狙いたいが今は我慢だ。

 

 そろそろ探索を終わらせる判断をしなければ・・・・・・と思っていたところでボス部屋をなんとか発見できた。

 カーラは剣匠Lv39までレベルが上がったが、ジョブやレベルという点では、他のメンバーと比べて見劣りする。

 それでも、避けタンクとしてのテストをしたいので、カーラにボスモンスターを受けもってもらうことにした。

 

 テストの結果、カーラの動きは全く問題ないことが分かった。

 Lv48のトルネードトロールの攻撃が掠りもせず、回避しまくっていた。

 これなら49、50、51階層のボス戦、迷宮ボス戦もいけるかもしれない。

 ヴィルマとイレーネが迷宮ボス戦を所望していたから、カーラは今回は見送ることになるかもしれないが。

 

 49階層に抜けた後、兄ちゃんを49階層に案内し、階層突破報酬をもらって帰宅した。

 今回は俺達が迷宮討伐を任せられているので、誤魔化さずに最新階層を案内している。

 

・・・・・・

 

 迷宮から戻り、着替えてカーラの部屋に。

 明日、おばば様の所に出頭命令が下っているので、カーラも連れていかなければならない。

 出発直前に、いきなり言うよりは今が適切だろう。

 何か準備が必要かもしれないし。

 

 ドアをノックすると、カーラではなくシーナが出てきた。

 シーナって、カーラの部屋によくいるな。

 エストグリュン家の四人は、増築中の一階の部屋を使ってもらうことにしたはずなのだが。

 

「ユキムラ様、ようこそおいで下さいました」

「お、おう・・・・・・カーラはいるか?」

「はい。こちらへどうぞ」

 シーナの案内で部屋に通される。

 

 入ると、カーラがテーブル横の椅子に座って、熱心に剣を磨いている。

 真面目というか、それ()ばっかり考えているというか。

 

 

「明日、ハルツ公からの依頼でエルフ族の女系の長老という方にお会いすることになった。

 カーラも連れてきてくれと言われているが、大丈夫か?」

「ひ、ひぃ・・・・・・」

「長老というと、カッサンドラおばば様ですか」

 カーラは相性が悪そうだな。シーナはおばば様を知っているのか。

 

 シェル達を匿うために、おばば様を利用させてもらったが、俺はまだ直接の面識はない。

 そういえば、シェル達は元気にしているのだろうか。

 

 

「カーラが怯えているようだが」

「姉上が苦手としている方ですから」

 ハッキリと苦手と言えるぐらいな相手な訳ね。

 

「シーナは大丈夫なのか?」

「いえ、私も苦手なのですが」

 その割には普通に見えるが、カーラがへなちょこ過ぎるせいで普通に見えてしまう。

 

「シーナも苦手なのか?」

「はい。少し」

「何故苦手なのだ?」

「エストグリュン家は迷宮討伐は得意でしたが、領地経営が上手くなかったので」

 ちょっとでも弱みを見せると、そこを突いてくるのだろうか。

 

 ただ、セルマー伯よりはマシだったのかもしれないが。

 

「そうすると、カーラは連れていかない方が・・・・・・」

「いえ、連れていって下さい。行かなければ何と言われるか」

「ひ、ひぃ・・・・・・」

 本気で怯えている。大丈夫だろうか。

 

「シーナも一緒に行かないか?カーラがこの調子だと俺も困るのだけど」

「はい、分かりました。姉上、しっかりして下さい。

 そのような事では、エストグリュン家の再興は覚束ないですよ」

 もはや、どちらが姉なのだろうかという取り乱し様だ。

 

 そしてシーナにとっては、お家再興は規定路線なのか。

 彼女は俺の発言した手段を確信犯的に目的化している気もするな。

 

 そこはスルーするとして、明日は三人で行こう。

 原作と同じキャラか分からないから、面識があって会話できる人間がいると非常に助かる。

 シーナが会話してくれている間に、こちらも準備ができるからな。

 

 ハルツ公はイマイチこちらの味方になるか不明だし。

 原作通りの展開なら、ハルツ公もゴスラーもきっと、おばば様にけちょんけちょんにやられるはずだが、今回はどうなるのか。

 俺達の方に矛先が向かわないとも限らないよな。

 

 

 ついでにシェル達が元気でやっているか訊いてみるか。

 彼女達を引き渡したが、別にこちらが悪いことした訳でもないのだし、様子を確認するぐらいは許されるだろう。

 そういえば、もう一つ似たような話があったな。

 

 

「ああ、シーナ。セルマー伯の令嬢・令息が逃げ込んだ先がひょっとしたら・・・・・・」

「ユキムラ様、その件はあまり広言されない方が宜しいかと。

 どのような形で敵の耳に入るか分かりません。

 まだ敵の全体像も分かりませんので、今は知らないフリをしているのが得策かと」

 本当にカーラよりもシーナの方がしっかりしている気がする。

 

 というか、少ない情報でシーナもよく、これだけの配慮ができるものだな。

 素直に感心してしまう。

 生来の性格によるものなのか、誰かにそのような貴族教育を受けたのか。

 エネドラといい、目の前の彼女といい、行間を読んだり、細かい配慮をするのに長けている気がするな。

 

「ちなみに、明日はハルツ公も来るらしいが大丈夫か?」

「いざとなればユキムラ様がいらっしゃいますので、どうとでもなるのではないでしょうか?」

「・・・・・・」

 俺は、おばば様の前でハルツ公と戦ったりはしないからな。

 

「姉上から、ユキムラ様は公爵相手に一歩も引かない交渉をしていたと伺いました」

「まあ、明日はその長老に挨拶に行くだけだから、ハルツ公との絡みはないだろう」

 本当に大丈夫だろうか。

 

 

「では、明日の朝イチで、その長老・・・・・・カッサンドラ様とやらの所に行くのでよろしくな」

「・・・・・・」

「姉上、しっかりなさいませ」

 カーラはプルプルと首を横に振っているけど、シーナに任せよう。

 

 カーラの部屋を出て、自室に向かった。

 

 とりあえず、三人で行けばなんとかなるだろう。

 カーラは指名されているから、連れていくしかないよな。

 あとは俺とシーナでなんとかしよう。

 

・・・・・・

 

 夕食が終わり、風呂でまったり。

 

 今日は珍しくカラダンがクーラタルに来ており、エネドラと長々と打ち合わせをしたらしい。

 その流れのまま、食事をこちらで取り、風呂でも一緒になった。

 

 カラダンとレドリック、レイモンドと風呂に入るのは、かなり久しぶりだ。

 もちろん、ピコも付き添っている。

 ザビルの拠点リーダーにカラダンが就任してからは、彼はほとんどザビルにいるからな。

 まだ人数が少なかった頃のことを思い出す。

 レイモンドがレドリックに女の口説き方の教えを乞うていた話を思い出してしまった。

 その成果の確認は後回しにして、先に確認しておきたいことがある。

 

「カラダンって、ローザのことをどう思ってるんだ?」

「ぶっ・・・・・・旦那様、いきなりどうしたのですか?」

 初めてローザを紹介してもらった時、カラダンの嫁さんの紹介かと思ったんだよ。

 

「どうもしないけど、どう思っているのか訊いただけだが?」

「彼女とロベルトもですが、母親が盗賊に殺されて辛い境遇の割には頑張っていると思います」

 ふーん、それだけ?・・・・・・ホントにホントにそれだけ?

 

「いや、マテウスとニケの例もあるから、確認しておこうかなと思って・・・・・・」

「・・・・・・」

 風呂に浸かっているからってだけじゃない程、カラダンの顔が赤い気がするな。

 

 これ以上はセクハラになるから止めておくか。

 

「カラダンさんって、ローザの事が好きなんすか?」

「何故、そのような話になるのですか!」

 レ、レイモンド・・・・・・空気を読まない奴だな。

 

 お前もモニカに対してはかなり奥手な癖に・・・・・・だから、空気が読めないのか。

 

 レドリックはニヤニヤしているし、ピコは肩を震わせている。

 やっぱりそういうことか、ピコ!

 お前が一番近くで見ているもんな。

 

 別に同じ種族同士だから、くっつけとか余計なお世話だけど。

 カラダンには立場もあるし、タケダ家では奴隷の自由恋愛を認めている訳でもない。

 そういうのって、俺の見えない所でエネドラが厳しく言っているらしい。

 ただ、カラダンもザビルのリーダーとして責任を果たし、成果も出してるから、行く行くはそうなったら認めても構わないと思っている。

 

 

「湯あたりしそうなので、この辺で失礼します」

「ああ、お疲れ~」

 『湯あたり』なんて、俺がみんなに教えた言葉だ。

 

 風呂が一般的でない、こちらの世界ではない言葉だからな。

 その言葉を使って戦略的撤退するとは、さすがは拠点リーダー。

 

 

「カラダンのことはいいけど、レイモンドの方はどうなんだ?

 モニカとは上手くいってるのか?」

「えっ?ええぇ・・・・・・僕はそんなことは(モゴモゴ)」

 相変わらず、自分のことになるとヘタレな奴だ。

 

 身請けした直後から、レイモンドは全然変わっていないな。

 ザビル第二迷宮探索のパーティーを率いるリーダーとはとても思えない。

 まあ、レドリックの話では、迷宮探索中はモニカと二人でモジモジするようなラブコメ展開はないらしいが。

 公私でギャップがある奴なんだよ、コイツは。

 

「ミラとサンドラが暗殺者のジョブを取得したけど、

 レドリックは何か気になることがあるか?」

「ミラは、ここ最近、訓練の際に意識して盾を相手に打ち付ける練習をしていますね。

 今までは、攻撃を受け流すのがほとんどでしたが、

 暗殺者としての戦いをイメージしているように思います」

 思い込みかもしれないけど、ドワーフの女性って考えが深いというか理知的というか。

 

 ドワーフの男共はバルドルフとか、本当に頭を使っているのか疑いたくなることがある。

 いや、ワーレン会長などは頭使ってそうか。

 やっぱり役職とか役割が、人の行動に与える影響が大きいのかね。

 

「サンドラは剣の扱いは上手いので、剣士系でも暗殺者系でもやっていけると思いますよ」

「そのようだな。模擬戦をやってみた感じでは、結構、器用そうだった」

 それでもドワーフってことで、俊敏性に優れているって訳ではない。

 

 ドワーフだから、若干小柄ではあるが、軽戦士って感じではないよな。

 重戦士かというと違うのだろうけど。

 

「新しくジョブ取得する者は注意して見ておきます」

「ああ、頼むぞ。戦いのオプションが増えるのは良いことだが、器用貧乏になっても拙いしな」

 俺のチートスキルでジョブ取得も育成も簡単にできてしまうので、逆に注意が必要だ。

 

 鬼人族のジョブだって、異世界転生者特典のキャラクター再設定で使える様々な恩恵がなければ、器用貧乏まっしぐらな感じだし。

 

 

「レドリックはポーラの調子はどうなんだ?

 よく分からないけど、出産が結構、近づいてきたのじゃないのか?」

「チクルスさんが連れてきた産婆さんの話では、まだ数十日先だそうです」

 数十日ってアバウト過ぎない?

 

 この世界の医療水準からすると、そんなものかもしれないけど。

 

「ポーラの出産が近づいてきたら、お前は外出禁止だからな。

 出産の時には、必ず近くにいてやれよ!」

「えっ、そうなのですか?」

「そうだ。これは当主としての命令だ。異論は認めない。

 エネドラにも、そのように伝えているので、気を付けてくれ」

「は、はあぁ、分かりました」

 実際、出産の時に旦那がいて何か役立つことは少ないだろう。

 

 それでも、いるのといないのとでは、大違いだと思う。

 特に生まれた後の事を考えると。

 

 出産に備えて、もう少しエリクサーの予備を増やしておかないとな。

 まだ、予備は3つしかない。

 時間を見つけて63階層でボス周回して、こまめに増やしていこう。

 

 

 ピコもレイモンドも興味深そうに俺の話を聞いてるようだったが、お前らにはその前の段階があるだろう?

 そちらをなんとかしないと、その先の話を聞いても仕方ないと思うのだが。

 

 そういえばタケダ家には、その手のことをスマートに察して対応できる男って見たことないな。

 気配りができるカラダンであっても、私的な事になるとちょっとヘタレ気味な気もするし。

 

 初めは唯一レドリックぐらいな気もしていたのたけどが、よくよく考えてみれば、こいつも『デキ婚』みたいなもんなのだよなぁ。

 まあ、いいか。タケダ家の男共は総じてそんなものってことだ。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/6/7(日)の予定です。
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