異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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112.グリニアへの道

 三人でクーラタルの自宅に戻り、各自、ターレに行くための準備をする。

 先に二階の作業室にいるアミルに事情を説明。

 エルフの女系の長老からの依頼を受けたこと、午前中の迷宮探索は中止にして、残りの時間を依頼にあてることを説明。

 

「私も同行しましょうか?」

「いや、アミルは同行しなくても大丈夫だよ。

 カーラとシーナの二人を連れていくつもりだけど、それは目的地がエルフ領だからなんだ。

 話をする相手もエルフ族の者ばかりになるだろうから、言葉の問題もあるしな」

「なるほど、分かりました」

 カーラとシーナは当然エルフ語は問題ないし、俺には異世界言語(全言語)のスキルがある。

 

「ひょっとしたら、昼食の時間を少し過ぎてしまうかもしれないが、

 適当なところで切り上げてくるつもりだ」

「分かりました。皆さんにも伝えておきます」

「ああ、よろしく頼む。無理はしないから」

 若干、ジト目で見られている気もするが、危険な戦闘等は発生しないはず。

 

 自室に戻り、クローゼットから双眼鏡を取り出した。

 この世界に来る前に、あちらの世界から持ち込んだものだ。

 まだ一、二回ぐらいしか使ってないけど。

 今回はきっと役に立つはずだから持っていくことにする。

 というか、原作でグリニア捜索の話を読んで必要だと思ったから、わざわざ持ってきたのだ。

 

 部屋を出て、玄関へと向かう。

 既に二人は俺を待ち構えていた。

 

 カーラはボーデの迷宮探索をする時と同じ通常装備。

 剣を三本抱えている。

 

「カーラ、聖剣を預かろうか?」

「ユキムラ殿、エストック二本の方を預かってもらえないだろうか?」

「いきなり聖剣を使うのか?」

「ああ、大丈夫だ。両手剣だって、ちゃんと使いこなせるぞ」

 まあ、本人がそう言うなら構わないか。

 

 彼女からエストック二本を受け取り、アイテムボックスに収納。

 

 シーナの方もタケダ家の標準装備だ。

 両手には鉄の盾とエストックを持っている。

 パワーレベリングで魔法使いを育成していたが、今回は魔法が使えないだろうから、剣士のジョブをセットした。

 剣や盾を持つ姿は様になっているし、修練場の訓練でも剣の扱いに問題ないのは確認済だ。

 元エストグリュン家の五人は剣や槍の扱いが本当に上手いのだよな。

 

 

「シーナの方も準備は大丈夫か?」

「はい。問題ありません」

「では、ターレに行くぞ」

 玄関の壁にゲートを開き、ターレの冒険者ギルドへと繋げた。

 

 ギルドの壁から三人で出て、まずは受付に向かう。

 この時間になると、ギルドは結構空いている。

 暇そうにテーブルで座っている者達は同じパーティーメンバーとの待ち合わせだろうか。

 

 

 それほど待たされることもなく、俺達の順番となった。

 リュックから、ハルツ公のエンブレムとおばば様からもらったエンブレムの2つを取り出して、受付のギルド職員に提示。

 

「実はカッサンドラ様の依頼で、人を探しているんだ。

 昔、グリニア方面の中継地の街から、このターレに移住してきた者を紹介してもらえないか?

 グリニアの方に行ってみたいんだ。

 直接の紹介でなくとも、知っていそうな者を教えてくれるだけでも構わないから」

「ひ、ひぃ・・・・・・少々、お待ちください」

 ハルツ公のエンブレムよりも、おばば様にもらったエンブレムの方が役に立つかもしれない。

 

 ギルド職員は、そちらのエンブレムの方を穴が開きそうなぐらい見ていた。

 こんな末端の職員までビビらせるなんて、さすがは女系の長老だな。

 エンブレムを使った俺の方がなんだか申し訳ない気分になってしまう。

 だけど、おばば様からの依頼で使ったのだから、エンブレムを悪用している訳じゃないはず。

 

 やがて、ギルド職員がお偉いさんっぽい人を連れてきた。

 

「あー、カッサンドラ様の依頼で・・・・・・」

「話は聞いた。今、職員を派遣して呼びに行ったから、待っていてくれ」

 なんか手厚い待遇だな。さすがおばば様のエンブレムは効果絶大のようだ。

 

 お偉いさんが直々に対応してくれるなんて。

 そして、会議室っぽい所へ案内されて、お茶まで出してくれた。

 

 好待遇だけど、悪用すると本当に怒られそうな気がしてきた。

 それにおばば様から呼び出しを受けそうだよな。

 正直、そちらの方がよっぽど恐ろしい。

 長々とネチネチお小言を聞かされる姿が想像される。

 そういえば、ハルツ公とゴスラー騎士団長は大丈夫だろうか。

 同行すると主張したのは、ハルツ公だから身から出た錆なのだが。

 

 暫くすると、ギルド職員が男性を伴って入室してきた。

 

「こちらの方がグリニアの中継地から引っ越してこられたそうです。

 後はお話ししていただけますか?」

「そうか。忙しいのに申し訳なかったな。ありがとう」

 ギルド職員は一礼すると退室していった。

 

 部屋に残されたのは、俺達三人と冒険者の男のみ。

 

「ほう。あんたらがタリカウ近くの迷宮に行きたいと?」

「タリカウ近くの迷宮というか、グリニアへの道を探しています」

 年老いた冒険者はエルフ語ではなく、ブラヒム語でシーナに話しかけてきた。

 

 グリニア方面に行きたいと職員には説明したのに、何故、迷宮の話になっているのだろうか。

 ついでに迷宮を討伐してくれということか?

 

 

「グリニアか。グリニアへはさすがに行ったことがない。

 もう、そこまで行ける冒険者も残っていないだろう」

「行けなくても、グリニアに行くための手がかりがあると嬉しいのですが」

 シーナが食い下がっている。なんで、ここまで一生懸命なのだろうか。

 

 話の途中で、彼が体の前で手をクロスさせ、左手の掌を右の二の腕の裏側に当てた。

 ここで、帝国解放会のハンドサインか。

 俺も慌てて、同じハンドサインを返した。

 

「分かった。私をそちらのパーティーに入れてくれ。いくつか連れていってあげよう」

「ありがとう。今から直ぐに出発しても大丈夫か?」

「大丈夫だが、今から行く所はモンスターが結構いるはずだ。

 こちらは戦えないから、戦うのは任せるぞ」

「ああ。それは任せてくれ!」

 何故、最後だけカーラが答えるのだ?

 

 お前は、聖剣の試し斬りをしたいだけだろうが。

 パーティー編成の詠唱をして、彼がパーティーに加わった。

 

 会議室を出て、ギルド職員に再度礼を言って、フィールドウォーク用の壁に四人で向かう。

 彼がフィールドウォークを詠唱した。

 

「では、行くぞ。モンスターがいるかもしれないから、先に出てくれ」

「分かった。任せろ!」

 だから、カーラさぁ。

 

「カーラ、俺、シーナの順で行く。先に俺達が行くから、少ししてから続いてくれ」

「ああ、任せるぞ」

 本当は俺が先に出て、索敵スキルを使いたいのだが、カーラに任せてみるか。

 

 カーラが先行し、俺が後に続く。

 出た先にはモンスターはいなかった。

 

(索敵)

 

 念のため周囲を確認。

 索敵のマップには、かなり離れた所に赤い点が一つだけ見えるな。

 こちらに近づいてはこなさそうだ。

 

 カーラは不満げに聖剣を振っている。

 危ないから、それを振り回すのを止めなさい。

 

 シーラが出てきて、暫く経ってから冒険者の男もでてきた。

 

「幸運なことにモンスターはいなかったようだ」

「そうか。この辺りは変わっていないな。そこにあるのがタリカウ南の迷宮だ」

 男の指さした方向に確かに迷宮の入口があった。

 

 俺は幸運と言ったが、試し切りをしたかったカーラには不運かもしれない。

 

「南の迷宮か。何箇所かあるってことだな?」

「そうだ。いくつかある。この迷宮の最上位の階層に行っておくか?」

「ああ、お願いしたい」

 冒険者の男は用心深く、迷宮の入口へと近づいていく。

 

 慌てて、俺達も後を追った。いきなりモンスターが出てきたら大事故になるからな。

 実際に迷宮からモンスターが出現するのに遭遇したことはないのだけど。

 

 冒険者が先に迷宮に入ったので、俺達も後を追った。

 

「ここが53階層だ。55階層以上はあると思うが、私が行ったことがあるのはここまでだ」

「そうか。助かったよ」

 目的地はグリニアに一番近い場所なのだが、途中の迷宮案内はとても嬉しい。

 

 グリニアに至るエリアで、手頃な野良迷宮をいくつか探しておきたい。

 良さそうな場所があるのなら、その近くに一つ拠点を設けても構わないとすら思っている。

 クーラタルやザビルの拠点から、あまりにも遠いと移動に不便だからな。

 

 

 用事は済んだとばかり、彼は出口に向かったので、俺達も後を追った。

 

「次がタリカウの迷宮だ。あんまり行きたくないが、先に行ってくれ」

「了解」

 フィールドウォークのゲートが開き、カーラがさっさと入っていったので、俺も続いた。

 

 移動した先では、カーラが三匹のピッグホッグと踊っていた。

 ただ回避をしているだけでもなく、キッチリと聖剣でカウンターを入れている。

 

 だが、カーラの持っている聖剣は無印だ。

 ひょっとしたら、良品かもしれないがデュランダルには及ばないだろう。

 

(索敵)

 

 マップに表示された赤い点は、この目の前の3つだけのようだ。

 フィールドのモンスターって単独行動じゃないのだっけ?

 でも、原作でもグリニア探索の際には、二匹とか三匹とかいたのだよな。

 階層の伸びた迷宮では、高レベルモンスターを産み出すだけでなく、集団行動もするのかね。

 そんなのが頻繁に出現すると、ちょっとした村や街などは滅んでしまうのは無理もないのか。

 出現頻度とか、よく分からないけど。

 

 

 オーバーホエルミングをかけて、速攻で二匹をデュランダルで殲滅した。

 残った一匹は、カーラが試し切りに使って構わないぞ。

 カーラは残りが一匹になったことで、攻めに転じて一気に倒しにかかるが・・・・・・結構、時間かかりだそうだな。

 無印の聖剣は、特に良品でも無さそうだ。

 粗悪品ではないのだろうが、ほどほどの品質なのかも。

 まあ、スキルも融合されてないのだから、通常品なのか。

 

 冒険者の男も出てきたところで、カーラの前のピッグホッグが煙に変わった。

 

「むう、ユキムラ殿、この剣は思っていたよりも攻撃力がないな」

「そうか。それは残念だな」

 やはり、カーラには剣の特別な鑑定眼などはないのかもしれない。

 

 彼女は見込み違いに、少しガッカリしている。

 とりあえず、ドロップ品の豚バラ肉3つを拾い、アイテムボックスに収納。

 

「ユキムラ殿、この剣はダメだな。エストック二本と交換してもらえないか?」

「そうか。分かった。ちょっと待ってくれ」

 アイテムボックス操作の呪文を詠唱し、エストック二本を取り出した。

 

「これでいいか」

「うん、ありがとう」

 彼女から聖剣を受け取り、アイテムボックスに仕舞った。

 

 無印の聖剣はカーラにダメ出しされてしまった。

 せっかく入手した聖剣だが、倉庫の肥やしになりそうな予感。

 そして、カーラには剣に対する特別な鑑定眼等はなかったようだ。

 

 

 それはともかく周囲を見渡すと、それなりの大きさな街だが、廃墟となっている。

 人が住めなくなってしまうと、一気に廃れてしまうのだろうな。

 ここが立川ならぬ、タリカウか。

 

 

「ここがタリカウか?」

「そうだな。さすがに荒れ果てているな」

 彼の眼差しは少し寂しそうだ。

 

 昔住んでいたのなら、それは当然だろう。

 

「結構な大きさの街ですね。昔はさぞ栄えていたのでしょうね」

「そう・・・・・・だったな」

 シーナの言葉に、彼は何かを思い出しているのだろうか・・・・・・自分の住んでいた家とか。

 

 彼が歩き出したので、俺達も後に続く。

 索敵のマップは、念のため表示させたままだ。

 

「街に迷宮が出現すると放棄するのも止む無しなのか・・・・・・」

「ここに迷宮が出現したのは最後のほうだ。

 他にも迷宮が既に出現していて、住民の避難もかなり進んでいた。

 私が両親に連れられて避難した後に出現したらしい」

 ということは、彼がこの街が離れるまでは、まだちゃんとした街の状態だったのか。

 

「さっき行ったタリカウ南の迷宮や、これから行く予定の鷹の森迷宮の方が先に出現して、

 その他にも今となっては討伐に成功した迷宮がいくつかあり、相当厳しい状況だったらしい」

「それは残念だったな」

 彼の口調は淡々としているが・・・・・・かなり昔の事なので吹っ切れているのかも。

 

「最後に、ここへ迷宮が出現したので、多くの者が無理に特攻したらしい。

 相当な被害を出したようだ。タリカウに戻ってきた私の父親も含めてな」

「そうか。多くの者が必死に戦ったのだな」

 それでもダメな時は、街が滅びてしまうと。

 

「この街以外にも近くに街や村は・・・・・・」

「ここまで大きな街は無かったと思うが、小さな村はいくつかあったはずだ。

 もっとも、もう放棄されているとは思うがな」

 セルマー伯領の首のすげ替えも、こんな事になる前の予防措置ということか。

 

 セ二号作戦では領民の被害が出なかったが、騎士団員や城に勤めていた者に被害が出たけど。

 

「それでも、多くの人達が応援に来てくれた。

 タリカウが放棄されてからもずっとな。

 その中に最後まで諦めずに残ってくれていたのが、例のサインを教えてくれた人だ。

 タリカウの迷宮は55階層まで到達していた。

 彼は『自分は力及ばずに撤退するが、このサインを分かるものが来たら便宜を図ってほしい』

 と言って去っていったんだ」

「そうだったのか」

 他からの助けが結構あったのだな。それでも諦めざるを得なかったと。

 

 どのような場合に助けが来るのだろうか。

 派閥が同じ貴族だとか、放棄された土地に新たな領主となりたくて来ていたのかもしれない。

 今となっては確認のしようもないが。

 

 そして、この迷宮で55階層に到達したということは、55階層以上はある迷宮だと。

 56階層からはワンランク上のモンスターになるから、それだけ難易度も上がるし、フロア面積も広くなる。

 56階層以上に伸びてそうなので、迷宮討伐の難易度が高過ぎると判断して立ち去ったのかもしれないな。

 

 

「タリカウ近辺の中では一番新しく出現した迷宮なので討伐するなら、

 ここを狙うのもありかもしれないぞ」

「いや、今回の目的はグリニアに行くことなので」

 彼は故郷の迷宮討伐に興味を持ってそうな者を案内したかっただけなのか。

 

 だが、彼の目論見は的外れではなかったかもしれない。

 心なしか、シーナとカーラの目が爛々と光っているように見える。

 シーナ。まさか、同行を申し出た理由はそれじゃないだろうな。

 

 

「じゃあ、55階層に行こうか」

「ああ、よろしく頼む」

 先ほどと同様に、迷宮に入ってとんぼ返りした。

 

 

「次は鷹の森の迷宮に行くつもりだ」

「了解した」

 徐々にグリニアに近づいているか。

 

 フィールドウォークで連れていかれた先は、人けが無さそうな、うっそうとした森の中だった。

 ここでも、彼の行ったことがある最上位階層まで連れていってもらった。

 案内された階層は54階層だったが、ここも迷宮ボスがいるのは56階層以上なのだろうな。

 

 迷宮から出てきたところで、再確認。

 

「この鷹の森迷宮より先の迷宮はあるのか?

 グリニアに向かうまでに一番近い迷宮や街などは?」

「グリニアに行くには、この鷹の森迷宮から西に向かう必要がある。

 ここから西に向かうと海岸線に出るが、その先に島が見えるという話だ。

 島伝いに進むと、次の中継地があるらしいが、今も人が生活しているのか分からない。

 ターレに移住してきた者達で、中継地やグリニアに行ったことがある者は、もう生きていない。

 とにかく行ってみるしかないだろう」

「そうか。分かった。わざわざ、遠い所まで案内してもらって助かった。ありがとう」

 冒険者の男に三人で頭を下げた。

 

「いや、頼まれたことだし、久しぶりにタリカウにも来れたので礼は不要だ。

 いい冥土の土産ができただろう」

「そうか。さきほどの戦闘で出た豚バラ肉を渡すので、せめて土産として持って帰ってくれ」

 ここは原作を踏襲して、アイテムを出しておこう。

 

「おっ、悪いな。礼は不要と言ったのに謝礼をもらってしまって。

 それなら、こちらからも一つ情報を。

 グリニアの方向とは違うが、タリカウから南に行った島に迷宮がある。

 元はタリカウの領内であったが、今は誰も知ることのない島だ。

 タリカウよりも後に出現した迷宮なので、討伐するなら狙い目とも言えるな。

 探索は46階層までしか進んでいないが、恐らくはその後に挑んだ者はいないだろう。

 気になるなら案内しようか?」

「そうか。申し訳ないが頼めるだろうか?」

 野良迷宮の場所は、いくらでも欲しい情報だと思っている。

 

 横の二人のテンションが、心なしか上がっている気もするが、ここはスルーだ。

 

 彼の案内で、海岸近くの森にフィールドウォークで移動した。

 森は森だが、海が見えるくらいだから島と言えば島なのだろうな。

 そして、その近くにあった迷宮の46階層にも案内してもらった。

 これが、原作で『アキシマ』と名づけられることになる迷宮なのか。

 タリカウ(立川)アキシマ(昭島)ねぇ・・・・・・。

 

 55階層までの難易度が低めの迷宮と、56階層まで伸びた迷宮群か。

 この野良迷宮を討伐するかどうかは、もう少し情報を精査してからジックリと考えるか。

 タリカウの廃墟に拠点を設ける訳にはいかないだろうしな。

 

 

「これで、私が連れていける迷宮は全て案内したつもりだ。

 私はこれでターレに戻ろうと思う。

 もし、この先を進むのなら、十分気を付けてくれ。

 老い先短い命だが、どこかが解放されるのを楽しみにしている」

「そうか、そちらも気を付けてな。それとこれを・・・・・・強壮丸だ」

 強壮丸を5つ程、懐から取り出して渡した。

 

 先ほどから結構な頻度でフィールドウォークを使ってくれていたから気になっていたのだ。

 彼は少し嬉しそうな顔をしながら去っていった。

 

 本当に期待しているのか分からないが、少しは希望を持ったのかもしれない。

 今日教えてもらった四つの迷宮のうち、ひょっとしたら一つぐらいは攻略するかもしれない。

 だけど、その情報が公になることはないかもな。

 少し後ろめたい気がしなくもないが、こちらは貴族になる気はないので。

 さて、もう少し情報収集をしなければ。

 

 

「俺は、まだ先に進もうと思うが、二人はどうする?」

「もちろん、ユキムラ殿について行くぞ!」

「ご一緒させて下さい」

 なんか二人の思惑は俺と違う気がするのは気のせいだろうか。

 

「では、いったん鷹の森迷宮の所まで戻るぞ」

「了解」

「はい」

 再び、うっそうとした森の中へと戻った。

 

 そこから、先ほどの冒険者の男が『西』と言って指差してくれた方向を頼りに歩いていく。

 ちょっとした獣道のような所を通りながら、ひたすら進んでいく。

 俺は警戒のために索敵のマップを表示しているが、視界が悪いとあまりクリアになるエリアが広がらない。

 高台のような場所に出られれば少しはマシになるのだろうが、今のところはそのような場所が見当たらないから仕方がない。

 

 カーラは率先して、前を歩き、確かな足取りで進んでいく。

 シーナは俺の後方に控えている。

 これだと、二人に俺が守られているような雰囲気だ。

 

「カーラは山や森の中を進むのが苦じゃないのか?」

「そうだな。エストグリュンの森も似たようなものだったしな。

 私やシーナも子供の頃から、森の中は歩き慣れている」

 エルフだからなのか、エストグリュン家の教えなのか、どちらなのだろうか。

 

 やがて、少しだけ見通しの良い所に出ると、遠くに山が見えた。

 

「ちょっと待ってもらえるか?」

「うん?分かった」

 カーラが足を止めたので、俺はリュックから双眼鏡を取り出す。

 

 双眼鏡を手に取り、遠くに見える山の方向を覗いた。

 少しピントを調整して、崖の上にある見通しが良さそうな木の幹を見る。

 これならワープで移動できるかな。

 

「今から、あそこに見える山へ移動する」

「ユキムラ殿、それはなんだ?」

「えっ、あんな所にどうやって?」

「ああ、これはちょっと遠くが見える道具なんだ。まあ、ちょっとやってみるから待っててくれ」

 傍にあった大きな木の幹にワープゲートを開ける。

 

「今回は先に俺が行くから、俺が戻ってこなかったら、少し時間を空けてから来てくれ」

「うむ、分かったが、無理は禁物だぞ、ユキムラ殿」

 なんか、カーラに自重を促されるのって、納得いかないのだが・・・・・・。

 

 喉元まで出掛かった言葉を飲み込み、移動先のゲートから顔だけ出す。

 

(索敵)

 

 

 特に近くにモンスターはいないようだな。

 足場も大丈夫そうなので、ゆっくりと移動先の崖の上へと歩を進めた。

 

「おお、こんな所だったのだな。ここからだと、下の森がかなり見えるな」

「綺麗な所ですね」

 遅れて移動してきた二人が感想を口にしている。

 

 やっぱり、双眼鏡は便利だな。

 遠くのモノにピントが合うと、ワープで移動が可能になる。

 元の世界から持ってきた甲斐があった。

 

 索敵や鑑定のスキルは対象までの物理的な距離の制限があるようだが、ワープの方は対象が見えさえすれば移動可能と。

 誘拐されたシェル達を救出した際に、一度試したからな。

 

 双眼鏡とワープを駆使しながら、なんとか鷹の森迷宮から見て、西の方向を目指してワープのはしごを試みた。

 そして、遂に海岸沿いまで辿り着くことに成功。

 最初の森は苦戦したが、高台に出てしまえば案外大したことはなかった。

 ドブローの盗賊退治で街道をワープ移動を繰り返した時の経験が役に立ったようだ。

 

 

「あれが島なのだろうな」

「そのようだな」

「あの島まで行くのですね」

 沖合の方に確かに島が見える。

 

 双眼鏡で覗いてみると、手前の島の先にも島が見えた。

 島が連なっているので、それを伝って移動していくことになるのか。

 それでも双眼鏡があるので、目視限界の10倍程度の距離は移動できるから、かなりの労力削減になるだろう。

 

 双眼鏡の向こうに見える見通しの良さそうな場所を選択しながら、なんとかワープをはしごして移動する。

 そして、やや大き目の島に辿り着いた。

 

「ここは結構、大きな島のようだな。ひょっとしたら街か村があるかもしれない」

「そうかもしれない。

 ユキムラ殿、そこに人が通ったような道があるぞ」

「そのようですね、姉上」

 二人が指差す方向を見ると、小さな空間というか隙間が見えた。

 

 元の世界では都会育ちの俺には、それが道だと思えないのだが、森や山に慣れている二人には道に見えるようだ。

 

「あちらの方に続いているようだな。行ってみないか?」

「そうか。そういうことなら、行ってみるか」

 カーラが指差す方向を見据えながら、ワープの移動地点を探す。

 

 双眼鏡で一度、高台に移動して、島の森を見渡してみる。

 

「あれか・・・・・・」

「ユキムラ殿、何か見えるのか?」

「ああ、森の切れ目に何軒かの家らしきものが見える」

 双眼鏡を使って見下ろすと、確かに家が見えるし、人が動いている姿も確認できた。

 

 だが、さすがにこんな小さい集落がグリニアの訳がないな。

 中継地の一つだろうか。

 その近くの移動ポイントにワープで更に移動。

 

 集落の入口の傍に立ち止まり、相手が出てくるのを待った。

 エルフ族の者が二人ほど出てきたので、索敵と鑑定スキルを発動。

 別に赤くもないし、極端に高レベルでもない。大丈夫か。

 

 

「お前たちは何者だ?ここに何しにきた?」

「俺達はカッサンドラ様の依頼でグリニアへの道を探しているのだ。

 ここはグリニアではないだろうが、

 グリニアへ行ける冒険者がいれば紹介してもらえないか?

 もしくは、その手前の中継地点に行ける者でも構わない」

 俺が先頭に立っていたせいか、ブラヒム語で話しかけてきた。

 

 そして、『カッサンドラ様』という言葉に反応したのは、気のせいではないと思う。

 

「グリニアは、ここから2つ以上の中継地を経由して行くのだが、

 その中継地は放棄されて久しい。

 この地にグリニアへ直接飛べるような者はもういないな」

「そうか・・・・・・」

 ここは原作と同じなのか。

 

 つまり、ここが最西端の場所なのだと。

 

「では、ここからグリニアの方向だけでも、教えてもらえないだろうか。

 行ける所まで行ってから、カッサンドラ様に報告したいので」

「むう、ちょっと待ってくれ。上の者と相談してくるから」

 もう一人の男を残して、彼は奥へと引っ込んでいった。

 

 カーラとシーナは、残った一人の男とエルフ語で話をしている。

 異世界言語スキルを持つ俺には、その内容は丸わかりだが、分からないフリをして聞き耳を立てる。

 

 その内容は原作で読んでいた通りの内容だった。

 

 この集落近くには迷宮がないので、人が住めるから残ったことや、迷宮が出現しても50階層ぐらいまでなら討伐できる自信があると。

 ここの出身者の彼等は、ここで死ぬことを覚悟していること等を語っていた。

 そして、この村の名前は『ミタカウ』という名前らしい。

 今度は、ミタカウ(三鷹)かぁ。

 

 やがて、先ほどの男が戻ってきた。

 

「うちの長老が昔、カッサンドラ様に世話になったらしいので、特別に案内を許可してくれた。

 だが、先ほども言ったが、この先の中継地は放棄されているし、島伝いに進むのは困難だぞ。

 それだけは理解してもらいたい。

 それとカッサンドラ様宛に手紙をしたためるので、それを持っていってくれないだろうか?」

「手紙か?それは全く問題ない」

 むしろ、最西端まで頑張って行ってきた証跡になるから、是非もらいたいぐらいだ。

 

「では、明日の午前中、もう一度ここに来ることにする。手紙はその時に受け取ろう。

 積もる話もあるだろうから、手紙は一晩かけて作ってもらって構わない。

 それはそれとして、案内だけしてもらっても構わないか?」

「ああ、それは問題ない。俺に付いてきてくれ」

 男の案内で、集落の中へと通された。

 

 

 よそ者が珍しいのか、集落の人達からの視線が俺達に集中する。

 鑑定すると、魔法使いLv38、探索者Lv42、剣士Lv39、僧侶Lv40・・・・・・確かにそれなりの戦闘力を持っている者がいるようだ。

 ハルツ公やザビル子爵の騎士団と比べれば見劣りするが、ゴッゼル士爵家とアイリス家の面子を加えたメンバーよりは全然上な気がする。

 少なくとも魔法使いがちゃんといるしな・・・・・・そして、冒険者Lv18もいるか・・・・・・というか、そちらに向かって歩いているな。

 案内してくれた男は、壮年の冒険者の前で立ち止まった。

 

「エミール。この三人を西の海岸線の所まで案内してもらえないか?

 なんでもグリニアに行く島の方角を知りたいそうだ。長老からの依頼だぞ」

「この三人がグリニア?・・・・・・ああ、分かった。長老からの依頼なら仕方ないな」

 パーティー編成の詠唱をして、エミールという名の男にパーティーに加わってもらった。

 

「じゃあ、付いてきてくれ」

「了解」

 彼の後に続いて小屋のような所に入ると、壁に絨毯がかかっていた。

 

 フィールドウォークを詠唱して、彼がゲートをくぐったので、俺達も後に続く。

 出た先は海岸の崖の上のようだ。

 

「ここが、この島の一番西になる」

「あの先に見える島がグリニアに続いているのか?」

 ダメ元でも、行ける所までは行ってみたいのだよなぁ。

 

「そうだな。だが、その先をずっと島伝いに移動しても、

 次の中継地までは辿り着けないと聞いている」

「そこまでは行ったことがないのか?」

 ん?・・・・・・少し彼の表情が変わったような。

 

「そうだな。俺は行ったことがないし、あまり勧めないな。無駄足になるだろうから」

「そうか。でも、まあ行ける所まで行って、ダメだったら諦めるよ。

 明日の午前中に、そちら村の長老さんから手紙を受け取ることになっている。

 だから、また明日来ることになると思う。案内してくれて助かったよ。ありがとう」

 手をひらひらと振って、彼はフィールドウォークのゲートから戻っていった。

 

 

「さて、お昼の時間も過ぎてしまったけど、先に進むが大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ!」

「私も大丈夫です」

 二人とも元気だな。

 

 双眼鏡を覗いて、次の移動ポイントを探し、島の高所の位置へワープで移動。

 移動ポイントを一つ挟んで、次の島へと移動。

 

「この島は、先ほどの集落のあった島と比べると小さいな。

 そして、高台の移動ポイントがあまり無さそうだ」

「森の中の移動なら任せてくれ」

「姉上、慎重にお願いします」

 森の中になると、カーラ達に頼り切りになってしまうな。

 

 気休め程度に索敵のマップを出しているが、視界が悪いせいで索敵範囲が狭い。

 

「ん?ここは人が通った後があるように見えるな」

「そうですね。姉上」

「さっきの集落より西は放棄されているって話ではなかったか?」

 相変わらず俺にはよく分からないのだが。獣道と何が違うのだろうか。

 

「とりあえず、その跡を追ってみるか」

「そうだな、ユキムラ殿。多分、こちらの方だな」

 カーラは注意深く周囲を警戒しながらも、ドンドンと進んでいく。

 

「戦闘の気配がするが・・・・・・」

「姉上、少し急ぎましょう」

 こんな島で戦闘かよ。

 

 あっ、確かに人っぽい三人がニートアントに襲われているじゃないか。

 

「助けに行くぞ!」

「任せろ!」

「姉上、油断なく!」

 どうやら、先ほどの集落が人間が住んでいる最西端ではないらしい。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/6/13(土)の予定です。
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