異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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113.孤立した村

 グリニア捜索中に最西端だと言われた集落から更に西に進むと、そこに人影を発見。

 

 人影というか、エルフの若者っぽい三人がニートアントに襲われている。

 索敵のマップで確認すると、グレーの点が3つに赤い点が1つなので、彼等は盗賊というか山賊ではなさそうだ。

 いや、他にも赤い点が一つ見えるな。

 グレーの点3つの場所からは、少し遠い位置だが。

 

 

 カーラが足場の悪い森の中を、ものともせずに駆け抜けていく。

 それにシーナも続いた。

 これは森に慣れていないと厳しいな。今の俺には無理だ。

 純粋な森歩きの経験の差か・・・・・・レベルやステータス以前の問題だな。

 

「助太刀する!そこの三人は後ろに下がれ!」

 一言発するや否や、彼女はニートアントの前に立ちふさがった。

 

 毒攻撃ができるニートアントとはいえ、所詮はレベル1だ。

 カーラとシーナの挟撃を受けて、ほぼ瞬殺された。

 

「おい、大丈夫か?」

「一人怪我していて・・・・・・」

 泣きそうな顔でエルフの女性が震えながら指差している。

 

 その指の先には、苦痛に顔を歪めたエルフの男性がいる。

 

 

(鑑定)

 

 

テルモ(エルフ族 ♂ 15才)

剣士Lv1

装備 シミター 皮の鎧 皮の靴

 

ヒルダ(エルフ族 ♀ 16才)

農夫Lv5

装備 銅の槍 皮の鎧 皮の靴

 

アベル(エルフ族 ♂ 15才)

森林保護官Lv4

装備 ワンド 皮の鎧 皮の靴

 

 エルフは概ね、みんな若そうに見えるのだが、この三人は本当に若いな。

 シーナの方が年下なのだが、貫禄では彼等に勝っている気もする。

 

 そして、三人ともレベルはとても低い。

 これだとレベル1であっても、毒攻撃可能なニートアントが相手だと危険だ。

 そもそも農夫や森林保護官は、前衛で戦うためのジョブじゃない気もする。

 

「ユキムラ様・・・・・・」

「ああ、分かってる。今から生薬を渡すから」

 俺の言葉にシーナは嬉しそうに無言で頷く。

 

 アイテムボックス操作の詠唱をして、滋養丸3つと毒消し丸を取り出した。

 毒にかかっているのか分からないが、飲ませておく方がベターだろう。

 

「回復薬と毒消し丸だ。両方飲んでくれ。こちらの毒消し丸の方から先に飲めよ」

「は、はい・・・・・・」

 アベルという名の森林保護官の子が生薬を手に取り、口の中に入れ始めた。

 

 今は表向き冒険者だから、治療魔法を使うことはできない。

 滋養丸を飲み始めたので、僧侶のジョブをセットして、こっそりと無詠唱で手当を彼に施す。

 

「カーラ、その向こうから、モンスターがもう一匹近づいてくるかもしれない。

 警戒を怠らないでくれ」

「そうか、了解・・・・・・いや、もう見えたので倒してくる」

 彼女は軽やかな足取りで繁みの中に入っていった。

 

「それは?」

「これか・・・・・・これは、先ほどのニートアントを倒した時にドロップした毒針だ」

 この娘は毒針を見たことがないのだろうか。

 

「急にさっきの黒い奴が襲ってきて。今まで、こんなことなかったのに。

 今日も仕掛けた罠に猪がかかっていないか確認しにきただけだったんです」

「そうか」

 テルモという男の子の話をそのまま信じるなら、普段はモンスターがうろついてないのか。

 

 やがて、モンスターを仕留めたカーラが戻ってきたようだ。

 

「ニートアントだった。大した相手ではなかったな」

「ああ、ありがとう」

 カーラはドロップアイテムの毒針をぷらぷらさせながら、俺に渡してきた。

 

 それ、危ないから振り回さないでくれよ。

 俺を毒化しても、暗殺者のジョブは取得できないぞ!

 カーラの事は置いておいて、この子達をフォローしないと。

 

 

「だったら、君達の住んでいる村か街まで、俺達が送ろうか?

 俺はユキムラって名前だ。こちらの二人がカーラとシーナだ。よろしくな」

「私はヒルダと言います。怪我したのがアベルで、剣を持っているのがテルモです」

「怪我の方は大丈夫か?」

「はい。薬、ありがとうございました。

 今、僕らは何も持ってないので村まで来てもらえますか?」

 この若者達から、お金をもらう気はないのだけど、案内してくれるなら乗っかるか。

 

 今、俺達が欲しいのは情報、グリニアに辿り着くための手がかりだ。

 

「ああ、俺達も聞きたいことがあるんだ。

 そこには君達以外の住人もいるのだろう?案内してくれると嬉しいな」

「分かりました。こちらです。付いてきて下さい」

 テルモという剣士の若者の案内で、六人で歩き出した。

 

 テルモの直ぐ後ろにカーラが付く。

 万が一、モンスターに遭遇した時の対応のためだ。

 俺以外の五人は皆、森を歩き慣れている感じだな。

 田舎の学校に一人だけ転校してきた、都会のもやしっ子状態だ。

 最後尾にはシーナが布陣している。

 俺もまとめて守られているような形になってしまった。

 

 歩きながら、ヒルダとアベルの二人に話しかけた。

 

「ここでは、さっきのようにニートアントとよく出くわすのか?」

「先ほどのモンスターはニートアントというのですか?

 今まで、この森で鳥や猪を狩っていたのですけど、こんなことは初めてです」

 となると迷宮が出現したのか、もしくは前からあった迷宮との通り道ができてしまったのか。

 

「ここから、君達の村までは遠いのか?」

「私達の村は『フリュウ』というのですけど、そんなに遠くはありません」

 フリュウ(府中)ねぇ。うーん。

 

 近くにモンスターが闊歩するようになったら、この先の村も厳しい状況になるかもしれない。

 さきほどのミタカウ(三鷹)の集落は、50階層ぐらいなら討伐可能とか言っていたけど。

 

「俺達はグリニアって街への行き方を調べているんだ。聞いたことあるか?」

「聞いた事ないというか・・・・・・僕ら、この村のことしか知らないので。

 あとは、一番近い集落のミタカウの村ぐらいですかね。

 村の物知りの長老に聞いたら、何か分かるかもしれません」

 ミタカウの村との付き合いはあるのか。そして、ここでも長老か。

 

 エルフって、おばば様といい、やたら長老が出てくる気がするのは俺の偏見だろうか。

 森の近くに住んでいるイメージも強いよな。

 実際、ここも島とは言いながらも、緑豊かな森があるし。

 そして、エルフの種族固有ジョブが『森林保護官』だもんなぁ。

 

 この辺りは姿は見えないものの、鳥の鳴き声が頻繁に聞こえてくる。

 猪などの獣がどの程度いるのかまでは分からないが、自然の恵みが豊かなのだろうか。

 

 そんなに遠くはないと言われたのだけど、結構歩いて、ようやく彼等の村『フリュウ(府中)』に辿り着いた。

 森を歩くだけでも、いつも以上に疲れた気がする。やっぱり、俺はもやしっ子なのか。

 ガタイが良いから、今までそんなこと考えたことも無かったのだけど。

 

 

 フリュウの村は、周囲を木の柵で囲んだ集落で、門には一応、見張りらしきエルフの者が二人立っていた。

 彼らは俺達を見ると、槍を構えてこちらを警戒しているのが窺える。

 俺達みたいな、よそ者三人が急に来たせいなのだろうな。

 

「ヒルダ、そいつ等は何者だ?」

「槍を下して下さい。この人達は、森でモンスターに襲われたのを助けてくれたのです」

 ヒルダが前に進み出て、門番をしている二人に説明をしてくれている。

 

 彼女は農夫ジョブなのに、三人の中ではリーダー格なのか。

 それにしても、剣士はともかく、他の二人は農夫と森林保護官だから迷宮探索とは程遠いな。

 普段から安全な森だと思って出掛けていき、ニートアントに遭遇してしまったということか。

 

 

 ニートアントに遭遇したという彼女の証言で、門番の二人も動揺しているのが感じられた。

 

「申し訳ないが、ここで待っていてもらえるか?村長を呼んでくるから」

「分かりました。待たせていただきます」

 対応は、シーナに一任した。

 

 俺が出張るよりは、同じエルフ族の彼女の方が適任だろう。

 

 門番を一人残して、応対していた男はヒルダを連れて一緒に去っていった。

 他の二人は俺達に気兼ねしたのか、残ってくれている。

 一応、森に出掛けている者が他にいないか確認したが、幸いな事にいないそうだ。

 

 なんか、グリニアの話どころじゃなくなってしまったな。

 

 暫く待つと、村長がやって来たので、話をすることに。

 

「ヒルダ達が襲われているところを助けていただいたそうで、ありがとうございました」

「当たり前のことをしたまでだ」

 村長のお礼に、カーラが応じた。

 

 その横でシーナもフォローに回っている。

 ここはエルフ族同士で話をしてもらうべきだろう。

 エルフ語で会話してもらっても、俺としては全く問題ないから。

 

「この島に迷宮が出現したということでしょうか?」

「逆にこの島には迷宮は無かったということなのでしょうか?

 私達は、この島に来たばかりなので、よく理解できておりません」

 さすがシーナ、その調子でグリニアの事も聞き出してくれ。

 

「この島には迷宮などありませんでした。

 ニートアントということなら、他からここに飛んでくるということはないでしょうから、

 この島に迷宮が出現したのは違いないでしょう」

「迷宮が無かったということなら、そうなのかもしれませんね」

 ニートアントが頻繁に現れるようなら、放っておくとやっかいな迷宮かもしれない。

 

「森を歩き回る時には、武器を持った者や治療魔法が使える方が同行した方がよいでしょう。

 毒消し丸も常備しておくべきかもしれません」

「そのようですな。村民にも十分に注意するように伝えます」

 この村には、どの程度戦える者がいるのかね。

 

 村長の顔には、少し焦りが見えるようだ。

 そりゃ、今まで無かった脅威がいきなり出現したのだから、焦りもするだろう。

 後は村の方でどこまで自衛できるかだが。

 島に限らず、どの村であっても、ある程度は自衛を求められるからなぁ。

 

 

「それで、実は我々はグリニアに行く手がかりを探しています。

 こちらの村にご存じの方はいらっしゃらないでしょうか」

「グリニアですか?この先の中継地が放棄されてから時間がかなり経っています。

 それでも数年前までは身内が訪ねてくる者がいましたが、今ではそれも途絶えました。

 グリニアまでの中継地だけでなく、グリニア自体も、放棄されたのでしょう。

 こちらに来ていた者の話では、グリニアの近くにも複数の迷宮が出現したそうです。

 グリニアが放棄されたのであっても、驚きはないですね」

 この話は原作と同じかなぁ。

 

 ちょっとだけ原作よりも先に進めたけど、ここで打ち止めかもしれないな。

 

「グリニアに行ったことがある方も、いらっしゃらないのでしょうか?」

「そうですね・・・・・・ひょっとしたら長老に聞けば分かるかもしれません。

 長老は、今、ミタカウの村に行ってます。いつ帰ってくるのかは分かりませんが」

 ん?今ちょっと、変な間があったような・・・・・・でも、今日は、ここまでかな。

 

 明日、ミタカウの村に手紙を取りにいくから、その時にミタカウに長老とやらがいれば確認するし、いなければ再度、ここに来て確認するという手もある。

 

 

「それで、あの・・・・・・あなた方は暫くここに留まったりはしないのでしょうか?

 もし宜しければ、迷宮探しに協力していただければと」

「・・・・・・」

 シーナがこちらを振り向いて俺の意向を確認してきたので、首を横に振った。

 

「申し訳ないのですが、我々も急ぎの用事がありまして」

「そうですか」

 さすがはシーナ。空気を読んで、やんわりと断ってくれた。

 

 ここに留まって迷宮探しなんて、さすがに無理だよな。

 ボーデの迷宮攻略の仕事も引き受けているのだし。

 

「ミタカウの村に協力を仰いだりはできないのでしょうか?

 先ほどミタカウの村に訪れた際には、若い迷宮なら討伐できると、おっしゃられてましたけど」

「どうでしょうか。ちょっと長老と相談してみてからでしょうね」

 まあ、相談できる者がいるのなら、相談してみてくれとしか言えない。

 

「では、私達はこれで。グリニアについての情報、ありがとうございました」

「はい。こちらこそ三人を助けていただき、ありがとうございました」

 カーラは名残惜しそうに、こちらに戻ってきた。

 

 ヒルダ達三人も、少し寂しそうな表情。

 だが、ここに留まり続ける訳にはいかない。

 

 ヒルダ達に、もう一度手を振って森の中に戻ることにした。

 

 

「ユキムラ殿、ここにできた迷宮を討伐するという訳には・・・・・・」

「カーラ、忘れたのか?

 ボーデの迷宮の討伐と引き換えに四人を引き取ったのだ。

 ハルツ公との約束をないがしろにする訳にはいかないのだぞ」

 俺の言葉に二人はハッとしたような表情になり、そして俯いてしまった。

 

「じゃあ、自宅に戻るぞ。昼食を終えたら、ボーデの迷宮探索を再開だ」

「そう・・・・・・だな」

 まあ、カーラは剣を振るっているうちに、気分も上向きになってくるだろう。

 

 シーナはどうだろうな。

 

 村から見えなくなった所で、適当な木陰にゲートを開いて、ワープで帰宅することにした。

 

・・・・・・

 

 自宅に戻って、食堂に行き、エネドラに遅れたことを詫びた。

 既に食堂には護衛部隊も迷宮組のメンバーもおらず、ずらして昼食を摂っているクララ達がいるだけだった。

 俺達三人も二階に急いで上がって着替える。

 

 先にアミルのいる作業室へと向かい、遅くなった詫びを入れ、午後の予定について説明。

 

「遅くなってしまい、悪かったな。昼食を済ませたら、ボーデの迷宮に行くつもりだ」

「分かりました。ヴィルマさん達に伝えておきますね。ごゆっくりして下さい」

 俺は自室に戻り、アミルは修練場に向かったようだ。

 

 一階に降りて、食堂に行くと既に配膳は済んでおり、カーラとシーナの二人が俺を待っていた。

 

「悪い、遅くなった。

 アミルに午後の予定を伝えておいたので、食事が終わったらボーデの迷宮だ」

「ユキムラ殿、了解した」

「・・・・・・」

 カーラもシーナも元気がないな。

 

 まあ、迷宮が近くにできた村があるのに放置してきた訳だから、後味が悪いのだろう。

 それにしても、二人とも元貴族の令嬢ということもあって、食事の仕方が非常に優美だ。

 一緒に食事をしている俺の方が緊張してしまう。

 

 

「ユキムラ様、相談というか確認があるのですが」

「ん?なんだ?」

「ユキムラ様は今日のフリュウの村の傍に出現した迷宮を、討伐されることはないのでしょうか?」

「先のことは分からないが、当面は特に予定していない。ボーデの迷宮討伐が優先事項だしな」

 シーナの言いたいことは分からなくもないが。

 

「あの狭い島で、迷宮が討伐されないと、あの村は滅びるしかなくなってしまいます」

「そうかもしれない。だが、だからタケダ家で討伐するのか?」

「その・・・・・・タケダ家には迷宮討伐できる力があるので」

「その理屈に従えば、今日案内してもらったタリカウ近辺の迷宮群もタケダ家で討伐するのか?

 セルマー伯領の迷宮だってそうじゃないか?キリがないと思うぞ」

「・・・・・・」

 結局のところは、どこで見切りをつけるかということだ。

 

「タケダ家に利の無い行動は選択できないな。

 迷宮討伐となると、それなりに時間がかる。

 1パーティーや2パーティーは派遣しなければならないから人手も必要だ」

「はい・・・・・・分かりました」

「逆に言えば、利があるのなら討伐するかもしれないということだ」

「「!」」

 我ながら甘いな。

 

「では、少し考えてみます」

「程々にな。あと、考えるのなら一人ではなく、複数の人間で考えるべきだろう」

「はい、ありがとうございます」

 まあ、おばば様が言っていた『お金の使い方を教えてやれ』ってのに通じるのだろうか。

 

 シーナの教育用の課題ということだな。

 あとは、シーナ次第だけど。

 カーラの機嫌も少し良くなったような気がする。

 ちょっと、甘やかし過ぎだろうか?

 ん?・・・・・・これだと諸侯会議・・・・・・もとい、貴族路線まっしぐら?

 

 だが、実際に討伐するかどうかは別問題だ。

 本当に利があるかどうかは、俺だけでなく他の者にもチェックしてもらうべきだろう。

 

・・・・・・

 

 遅い昼食を終えて、玄関に迷宮組が集合。

 ボーデにワープで移動して、兄ちゃんに挨拶をした後、49階層の探索を開始。

 

 まずは49階層の初っ端なので、ブリーフィングから。

 

「ボーデの49階層の新規モンスターは、アニマルトラップだ。

 アニマルトラップ、ロールトロール、ラフシュラブ、パットバットの順に多い。

 足の速いモンスターは少ないから、こちらから近づいて倒すぞ。

 カーラ以外は既に戦った相手ばかりだから、いつも通りの陣形と魔法で戦う。

 カーラは初めのうちは少し様子見しながら、戦ってくれ。

 皆、油断しないようにな」

「了解!」

「了解!」

「了解!」

「了解!」

「了解」

 

 小部屋を出て、49階層の探索を開始した。

 

 :

 :

 :

 

 カーラは本当に初めのうち・・・・・・というか、一戦目しか様子見しなかった。

 二戦目以降は、なんの問題なくアニマルトラップの攻撃を回避しまくっていたし。

 

 武器は聖剣ではなく、硬直のエストックを二本。

 カウンターをバンバン当てて、石化していく。

 暗殺者ほどではないが、二刀流は状態異常にさせ易い。

 そして、やはり避けタンクがいると戦線が安定するな。

 今までもヴィルマやイレーネが、それに近い役目を果たしていたとはいえ。

 

 アニマルトラップからドロップする陳皮を拾い、探索を続行。

 通路を歩きながら、今後の迷宮討伐に向けて、皆の意見を確認することにした。

 

「まだ少し先の話だけど、次の迷宮ボス戦について皆に相談があるのだけど・・・・・・」

「相談。どんな?」

 迷宮ボス戦というキーワードだけで、ヴィルマとイレーネのテンションが上がってしまった。

 

 カーラも眼帯のない方の片目がキラリと光った気がする。

 

「このボーデの迷宮ボス戦は、俺抜きで挑戦してみないか?」

「えっ、ご主人様が抜けるのですか?」

「それはやってみたい!」

「御館様いなくても、大丈夫!」

「ユキムラ君、どうしちゃったのぉ~?」

「お腹でも痛いのか?」

 カーラ、今の体調は関係ないだろう?先の話なのだから。

 

「もちろん、ワープで俺は後から入って、皆の戦闘を後ろから確認させてもらうぞ。

 そして、万が一の時は俺もフォローするつもりだ。

 今の実力なら俺抜きでも十分戦えると思っている。

 ただし、俺が抜けるから一人メンバーを追加したいと思っている」

「なるほど、ということは追加メンバーはラファさんですね?」

「ああ、あの元気な奴か」

「御館様、子供をメンバーに加えるのか?」

「あのちっちゃい娘ねぇ~♪」

「あのラファという娘は根性があるな。実力はまだまだだけど」

 さすがはアミル、お見通しか。

 

 そして、微妙にみんな辛辣だなぁ。

 確かに迷宮組と比べると、一つ二つ落ちるが、実力は十分だと思うのだけど。

 もちろん、迷宮討伐ができると考えているのは、他の五人の実力あってのことだが。

 

 モンスターとの戦闘を終え、ドロップアイテムを拾い、更に先へと進み始めた。

 次の戦闘までの間、さきほどの続きの話をする。

 

 

「ラファはダメか?なら、他に誰か適任の者がいるなら推薦してくれ」

「魔法使いってことなら、ラファさんで問題ないと思います。近接戦闘もできますし」

「んん~?誰でもいいけど」

「五人じゃダメ?」

「私も誰でもいいよ~♪」

「どのような魔法使いの者が入っても、私が後ろに通さないから問題ない!」

 アミル以外は、自分のことしか考えてないのじゃないだろうか。

 

「イレーネ、五人で挑むのはダメだ。迷宮ボスだからな」

「分かった。誰でもいいや」

 みんな、自信過剰じゃないか。ちょっと心配になってきたぞ。

 

 この前は五人で迷宮討伐に挑んだけど、自分で言うのもアレだが、俺は規格外だからさ。

 

「クーラタルの50階層のボスが、ちょうどボーデの50階層のボスと同じだ。

 だから、前回の迷宮ボス戦と同様にクーラタルで事前に練習をするぞ。

 その結果次第で迷宮ボスと戦う相手を決めるからな」

「今度こそ・・・・・・」

「次はあたしの番だ!」

「あたしは、お供の相手だよね~♪」

「ユキムラ殿、私も迷宮ボスと戦う権利があるのだろうか?」

 アミルは棄権というか、迷宮ボスとはやり合わないと。

 

 そして、カーラか。カーラはどうしようかな。

 

「カーラが迷宮ボスと戦うかどうかは、ヴィルマとイレーネの結果次第かな」

「そうか。チャンスが全くない訳ではないのだな。分かった」

 確かにカーラを迷宮ボスに当ててみたい気はしている。

 

 だけど、レベル補正的にはヴィルマ、イレーネの方が有利なんだよなぁ。

 装備品を破壊する確率はレベルに大きく影響すると、エステル会長から聞いたから。

 カーラは、某赤い彗星のように『当たらなければ、どうということもない』理論だろうけど。

 

「ラファの件も、まずは皆の意見を聞いてみたかっただけだ。

 この後、レドリックやヘルミーネにも相談しようと思っている。

 その上で、二人が反対しなかったら、ラファ本人の意向を確認してみるつもりだ。

 彼女が参加する気があるのなら、この迷宮探索も途中で俺と交代して戦ってもらうつもりだ。

 そして、最後はクーラタルでの練習結果で最終判断をしようと思っている」

「ハハッ、ユキムラ殿は慎重なのか、慎重じゃないのか分からないな」

 これでも慎重なつもりだ!

 

「カーラ以外は、ラファとは55階層まで戦ったことがあるだろう?

 おそらく連携などは問題ないはずだが、

 49階層か50階層の途中から参戦してもらう可能性があると今は思っていてくれ」

「了解!」

「了解!」

「了解~♪」

「了解!」

「了解しました」

 まあ、ラファ自身が断ることは、恐らくないだろうけどな。

 

 :

 :

 :

 

 その後も、迷宮ボス戦の意見交換を交えながら探索を続行。

 少し遅く開始した49階層の探索だったが、夕方が近づいてきたので切り上げることにした。

 

 

 自宅に戻り、二階へは上がらずに修練場に向かった。

 見回すとレドリックはいるけど、ヘルミーネはいないようだ。

 とりあえず、レドリックだけでも相談しておくか。

 

 

 片手を上げてレドリックに近づくと、彼の方も近づいてきた。

 

「ちょっと相談したいことがあるのだけど構わないか?」

「はい。大丈夫です」

 まだ、他の者には聞かせたくないので、少し離れた場所へと二人で移動。

 

 

「ボーデ迷宮の討伐だけど、恐らくは10日以内には実施できると思っている」

「今の進捗からすれば、そうかもしれませんね」

 普段から夜の会議で進捗の報告は確認し合っているからな。

 

「今回の迷宮討伐戦では俺はいったん外れて、他のメンバーを一人入れようかと思っている。

 迷宮組の五人の了解は既に得ているんだ」

「なるほど。となると、その一人はラファですか?」

 やっぱり分かってしまうのか。アミルといい、レドリックといい。

 

「まだ、最終決定はしていない。レドリックとヘルミーネの意見を確認してみたくてな」

「私は賛成ですね。

 ご主人様が抜けると、魔法使い役がいなくなるのでラファなら適任でしょう。

 彼女のように近接戦闘もこなせる魔法使いは限られますから」

「アミルにも似たようなことを言われたよ。では、レドリックは賛成と。

 ヘルミーネもいたら、一緒に相談したかったのだけどな」

「彼女には、私の方から伝えて確認しておきますよ。

 恐らく賛成すると思いますけど。

 ラファ本人は伝えないように言っておきます。

 ヘルミーネは今、シーナに呼ばれて何やら相談を持ちかけられているようです。

 終わったら確認してみますので」

「そうか、では頼むな。

 最終決定は本人の意思確認と、クーラタルでの予行演習を無事に終えることが条件だがな。

 もし、クーラタル迷宮の結果でダメだと判断したら、迷宮ボス戦には俺が参戦するつもりだ」

「なるほど。では、ラファは張り切るでしょうな」

 苦笑しながら頷いた。

 

 そして、ヘルミーネはシーナから呼び出されていると。

 恐らく、フリュウの迷宮関連だろう。

 まあ、シーナがどんな提案してくるか見守るかな。

 さすがに直ぐに合格点が出るようなことはないだろうが、それも勉強のうちだ。

 

 14歳の娘二人(ラファとシーナ)が、どのように成長していくのか想像し、17才だけど、父親気分を味わいながら自室に戻ることにした。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/6/17(水)の予定です。
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