グリニア捜索の二日目の朝、カーラとシーナと共に再び、ミタカウの村を訪れた。
村の長老から、おばば様宛の手紙を受け取るためだ。
門番の者に訪問の目的を告げて、待つことしばし。
何人かの者達が、こちらに近づいてくるのが見えた。
先頭を歩いているのが長老か?
鑑定すると名前がスダジイで、83才と表示されたので、恐らく長老なのだろう。
おばば様よりも二回り年下だ。それでも83才。
俺がこの世界で出会った人の中で二番目に高齢の人物だな。
それにしても、名前がスダジイだと、スダジイ爺さん?・・・・・・ジイが2つ重なって、本当に高齢な爺さんに思えてしまう。
「おぬしがカッサンドラ様に手紙を届けてくれる者か?」
「はい。ユキムラ タケダと申します。
カッサンドラ様の命を受けて、グリニアへの道を探しております」
「そうか。グリニアへの中継地は、もはや放棄されておるじゃろう。
もし何か知っておるとしたら、フリュウのヤクモであろうの」
「フリュウのヤクモ様?」
「そうじゃ。フリュウの村の長老じゃな」
また、長老か。
今回はおばば様から始まって、長老巡り旅なのか?
「まあ、偏屈な爺いじゃから、簡単に教えてくれるとは限らんがの」
「・・・・・・」
お爺ちゃん、変なフラグを立てないで下さいよ!
「これが手紙じゃ。しかと預けたぞ。
返信は不要じゃ。こちらの近況を伝えるだけのものじゃからな」
「確かに。本日中にカッサンドラ様の所に参りますので、その時にお渡しいたします」
手紙を受け取り、丁寧にリュックに仕舞った。
なんだか、俺って頻繁に郵便配達の仕事を受けている気がする。
そして、だいたい面倒な事に巻き込まれるんだよなぁ。
最終的には価値のある御褒美にありつけるから、郵便配達は悪くはないクエストなのだけど。
「昨日、フリュウの村を訪れた際に、長老のヤクモ様がこちらにいらしていると伺いましたが」
「入れ違いじゃな。昨日のうちに帰ってしまったのう。
あの爺いと話をしたければ、フリュウ村に行きなされ」
既に面倒なクエストが始まっている予感がするわ。
爺い呼ばわりしているのは、仲が良いのか悪いのか?
フリュウ村の方で迷宮が出現したかもしれないことを伝えるのは、俺達の役割ではないよな。
必要ならフリュウ村の村長あたりから、ミタカウ村の方に話をするだろうし。
「では、ワシはこれで・・・・・・」
「ありがとうございました」
礼を言われる側の立場のはずだが、年長者は敬っておく。日本人の性だ。
ミタカウの村の門から離れ、適当な木陰からフリュウの傍にワープで移動。
門に向かって歩こうとしたら、カーラとシーナが立ち止まった。
「ユキムラ様、フリュウの村での長老との話が終わりましたら、
少しだけ私達に時間をいただけないでしょうか?」
「時間をもらって、どうしようというのだ?」
「この村の人達と話をする時間をいただきたいのです」
これは、迷宮絡みだよな。
「それは、この近くに出現したかもしれない迷宮を討伐するため、
フリュウの村から得られる利を探すための交渉をしようというのか?」
「交渉はまだ難しいと思っています。どちらかと言えば、情報収集に近いかと」
まあ、情報は確かに俺も欲しいと思ってはいるのだが。
「しかし、ここに残るような者達だぞ。簡単によそ者の俺達に心を開くとは思えないが」
「はい。おっしゃる通りだと思います。
なので、私と姉上だけ・・・・・・エルフ同士で相談させてほしいと考えています。
その間にユキムラ様はカッサンドラ様に手紙を届けに行かれるのは、どうでしょうか?」
それは相手をどこまで信じられるかということだよな。
カーラもコクコクと頷いているけど、お前、おばば様と会いたくないだけじゃないのか?
「俺としては、この村の人達を現時点でどこまで信用してよいのか判断できない。
お前達二人だけ残すのは心配だ」
「レドリックさんから、ユキムラ様が相手の敵性を判断するスキルをお持ちだと伺いました。
交渉相手に、それを使って判断されてはいかがでしょうか?
相手が敵であるのなら、さすがに交渉にはならないので、私達も諦めます」
そうきたか。まあ、確かに一理はある。
索敵スキルが万能だとは言い切れない点に不安は残るが。
スキルで確認した時はグレーでも、1時間後に赤になっていることだってあるはずだ。
それを言い始めると、索敵スキルなんて使っていられないのだけど。
「もし、何かあっても、私とシーナは剣で切り抜けるから大丈夫だ!」
「・・・・・・」
最後は力押しかよ。
確かに俺がいると、相手が心を開かない可能性は高いのは認めるが。
一応、昨日は村の若者三人をモンスターから助けてやったのだけどね。
「交渉するなら建物の中ではなく、外でやってもらえるか?
万が一の時は俺が村に突撃して、二人を助けることもできるから」
「はい。分かりました。外で話をするようにします」
昨日見つけた村を見下ろせる高台に陣取って、いざとなったらワープで強襲しよう。
昨日の村長の雰囲気なら必要ないとは思うが、まだ長老には会っていないから信用できない。
長老が偏屈な人間で、いきなり村に入ったら捕らえられてしまうなんて、お約束の展開だったりするしな。
「分かった。二人に任せるが、くれぐれも無理しないようにな。
ハッキリと言っておくが、二人を失うぐらいなら、
この村が滅びてしまっても俺は一向に構わないとすら思っているので」
「分かりました。肝に銘じます」
シーナって本当にシッカリしているのだけど、ちょっと前のめりな所は姉妹で似てるかも。
「じゃあ、行くか」
「はい」
心なしかカーラが浮かれているように見える。
きっと、おばば様の所に行かなくて済みそうだと思ってるからに違いない。
だが、まだまだ分からんぞ。
見張りのいる門に近づき、用向きを伝えた。
昨日の事が伝わっているのか、案外すんなりと話が通ったように思える。
待つことしばし。
先ほどの見張りと共に、長老らしき者がやってきた。
(鑑定)
ヤクモ(エルフ族 ♂ 85才)
森林保護官Lv46
装備 スタッフ 皮の靴
名前は確かにヤクモだな。そして年齢は85才と。
先ほどのミタカウの長老より、少しだけ年齢が上だ。
スタッフというか、体を支える杖を持っているように見えるのだけど。
そしてジョブは森林保護管Lv46かぁ。
85才の割には、ジョブのレベルは低いというべきだろうか。
今まで見た森林保護官の中では最高レベルだが。
森のスペシャリストとか?
「其方らが、ヒルダ達を助けたという冒険者達か?」
「はい。私の名はシーナと申します。
こちらにいるのが我が主のユキムラ タケダと、その従者のカーラでございます」
カーラは俺の従者なのか。まあ、奴隷とは説明できないので、方便だな。
なんか、急に俺が偉そうになった気がして、居心地が悪いぞ。
「村の若者たちを助けてくれたことに、まずは感謝を」
「いや、当然のことをしただけだ」
そこだけ何故、従者のカーラが主張するのか?
でも、長老が俺達に向かって頭を下げると、周囲の村民達も頭を下げた。
少なくとも、俺達に敵意は持ってはいないか。
索敵スキルで確認すると、赤い点は見当たらない。
全ての村民がグレーで、青い点はいないと。
昨日のヒルダ達も別に青くなったりはしなかったからな。
「ニートアントが出たそうじゃな。
今まで、この島の森にモンスターが出たことなどなかった。
間違いなく、迷宮が出現したのであろう。
其方らは、迷宮を討伐して叙爵を狙っている者か?」
「いえ、そうではございません。私達はグリニアへ至る道を探しているのです」
おお、シーナはちゃんと表裏を使い分けられるのだな。
内心ではエストグリュン家の再興を目指しているのに。
まあ、ここの迷宮を討伐したとしても、この島を領地としてもらっても困るよな。
そして、カーラは怪訝そうな顔をしている。彼女は表しか見てない者だから仕方ない。
「グリニアへの道か。心当たりがないではない。だが、其方らには教えられんのぉ」
「・・・・・・」
シーナはヤクモ長老の言葉には応じず、俺の方を振り返ったので、無言で頷いた。
「交渉であれば、応じる用意がございます。
まずは、お互いの情報交換からさせていただきたいです」
「其方がか?そこの主人が交渉相手ではなく?」
「若輩者ですが、主人より本件について任されております。是非、お願いしたく存じます」
おおぉ、シーナ、頑張るなぁ。
交渉に失敗したところで、グリニアに行けなくなるだけで、原作と大して変わりはない。
俺が後からテコ入れする手もあるし、まずは任せよう。
「まあ、よかろう」
「・・・・・・」
シーナがこちらを向いたので頷いた。
「では、私はカッサンドラ様と約束があるので、一端この場を離れます。
昼までには、こちらに戻ってきますので」
「そうか。好きにするがよい」
あからさまにカーラの表情がニッコニッコなのはどうしたものか。
俺の従者なら、俺に付いてこなくていいのか?
シーナの護衛が必要だから、残していくけどさぁ。
長老と、その場にいる村民達に軽く会釈をして、出口の門へと歩く。
後ろから誰か追ってきた・・・・・・ヒルダか。
「ユキムラさん、昨日はありがとうございました」
「昨日、礼は言ってもらったから大丈夫だぞ」
わざわざ、もう一度礼を言いにきたのか。律儀な娘だ。
「昨日、あたし達がニートアントに襲われたって伝えたら、
みんな怖がって森に行かなくなってしまって・・・・・・このままだと、村が大変なことに。
モンスターと戦えそうな者は村には少ないから。
ユキムラさん達が来てくれると、とっても助かるのだけど」
「そんなことを俺に伝えて大丈夫なのか?
今、俺の従者達がそっちの長老達と交渉しているのだぞ」
「大人達は口ばっかりで、動かないから心配なんだよ」
とはいえ、無理に行動してもモンスターの餌食になるだけだと思うぞ。
「まあ、交渉はさっきの娘に任せているから、何か伝えたいのなら、あちらに言ってみろよ」
「あの場では、私にしゃべらせてくれないから、ここに来たんだって」
ヒルダは農夫のジョブの割には、いろいろと積極的のようだ。
こういうのって、ジョブと関係ないのだな。
「まあ、君の言いたいことは分かった。
だが、交渉はいったんシーナに任せたから、俺は彼女の交渉内容を聞いてから判断するよ。
言っておくが、森が危険なのは事実だ。
無理して立ち入るなよ。いつも、俺達のような助けが来てくれる訳ではないからな」
「分かってるよ。でも、貴方達が来てくれると助かるってのも事実でしょう?
そのためなら、なんでもあたしはやるからさ。
あの二人だけじゃなくて、私もあなたに身を捧げるから・・・・・・それなら、どうかな?」
なんてことを言いやがる
最近、ハニトラ案件が多いな。しかも美形のエルフばかりだ。
「俺はそんなのじゃないから」
「そんなことないでしょう?エルフの綺麗どころを二人も従者で連れておいて」
うーん、なんも言えねぇ。
シーナは違うけど、カーラはハーレムメンバーだし。
なんなら、いつもは二人ではなく五人連れているしなぁ。
それにしても、同族から見ても、あの二人は綺麗なのか。元貴族だもんな。
元貴族令嬢なのに加えて、我が家の石鹸とシャンプーで更に磨きがかかっている。
その魅力で長老もノックアウトして、交渉を有利に進めてほしいが、あちらは既に枯れかかってるかもしれないから無理か。
「先ほども言ったけど、交渉はシーナ次第だ」
「分かったよ。でも、私の言った事も考えておいてね」
俺の返事を聞かずに、ヒルダは去っていった。
うーん、しかし俺はやっぱりそういう目で見られているのか。
ハーレムメンバーで迷宮組を固めているし、何よりもタケダ家の戦闘部隊って、女性比率が高いのだよなぁ。
どうして、こうなった?
とりあえず門を出て、見張りの者に会釈をして森の方へと向かう。
こちらの姿があちらから見えなくなった所から、ワープを使って昨日の高台へと移動。
双眼鏡を取り出して、村の方を見ると・・・・・・シーナとカーラが立ったまま、長老と話をしているっぽい。
長老は何か椅子を持ってきてもらったようで、外で話をしているな。
シーナはちゃんと俺の指示に従ってくれているようだ。
先ほどの雰囲気からすると、こちらに敵対行動は取ることは無さそうだけど。
しばらく様子見したが、双眼鏡で見る限りは不穏な感じに見えなかったので、おばば様への報告に向かうことにした。
・・・・・・
前回同様に屋敷のロビーのような所に移動して、護衛の者に用向きを伝える。
「分かりました。お取次ぎいたしますので、しばらくこちらでお待ちください」
「了解」
この間と同じ待合室で待機させられる。
二回目だからという訳でもないのだろうが、それほど待たされることなく、直ぐにおばば様の部屋へと案内された。
「なんだい。おぬし一人かえ?
グリニアに辿り着けずに泣きを入れにきたのかえ?」
「いえ。こちらの手紙を預かってまいりました」
俺一人だと、毒攻撃が俺に集中するなぁ。やっぱり避けタンクを連れてくるべきだったか。
ミタカウの長老から預かった手紙を側仕えの者に渡した。
「ミタカウというグリニアまでの中継地の村まで行きました。
その村の長老によると、グリニアへの中継地は既に放棄されているだろうから、
辿り着くのは困難だと言われました。
中継地の2つまでが確実に放棄されていて、恐らく3つめも放棄されているだろうと。
その長老から、カッサンドラ様宛の手紙を預かってきた次第です」
「そうかえ、あの村の者には、昔よくしてやったからねぇ」
ミタカウの長老が世話になったというのは、本当だったのか。
実は、あの長老は昔、おばば様に惚れていて、許されぬ禁断の・・・・・・とかあったりして。
「おぬし、何か失礼なことを考えてるだろう?」
「いえ、特には・・・・・・」
おばば様、エスパーかよ!
「なるほどね。まあ、あの男がそう言うのなら、無理なのだろうね」
「はっ。残念ですが」
おう、俺の報告よりも長老の言葉というか、手紙が効果的だったのかな。
原作では、主人公達が説明しても、ネチネチ言われていた記憶が。
やはり第三者の証言は重要と。
加えて、その第三者が依頼人の知り合いなら、なお良しだな。
「まあ、ここまでやられたら、報酬を渡さない訳にはいかないね。
うちの離れにある書庫への立ち入りを許可しておこう」
「書庫?」
ああ、なんだっけ。ミスリルスレッドがどうとか、靴下がどうとかってやつか。
「ああ。一族の影響力が及ぶ範囲の土地にある迷宮の情報などがまとめてある。
あそこで調べ物をすれば、いろいろ役に立つこともあるだろう」
「なるほど」
違った。迷宮情報か。靴下も間違ってないかもしれないけど。
「おい、リュート」
「はっ」
「この男に迷宮書庫への入室許可を出すから、離れに連れていってやんな」
「承知しました」
リュートは、扉に近づいて、外の人と何やら話をしている。
「おぬしは、本当に貴族になる気があるのかえ?」
「さあ、どうでしょうか。なりたいと言っても簡単になれるものでもないと思ってますが」
「その通りさね。だからこそ、本気でなりたい者しかなれないのさ。
どうもシーナと違って、おぬしは貴族になる気が無さそうに見えるんだよね」
おばば様、鋭いな。エスパーじゃなくても、観察眼はあるのかもしれない。
さすがは生ける屍・・・・・・じゃない、伊達に長く生きてはいないな。
「叙爵を目指すのなら、せいぜい書庫を利用することだね。
ネスコの奥の迷宮に入ってもいいし、別の迷宮だってかまやしないよ」
「なるほど」
アキシマの迷宮とか、フリュウ村の近くの迷宮でも構わないか。
まあ、フリュウの方はシーナの交渉次第だろうけど。
「自分達のパーティーメンバーで迷宮の情報を調べている者が別にいますが、
その者を書庫に連れてきても構いませんか?」
「好きにしな。シーナだけでは大変だろうからね。
あのじゃじゃ馬は、そっちは全然役に立たないだろうし」
おばば様、やっぱり鋭いな。
もっとも、カーラが生まれたてのポニーになったのは、おばば様のせいな気もするけど。
「ほら、ぼさぼさしないで、さっさとお行き」
「分かりました」
「では、こちらへ」
リュートとは別の案内人の後について、おばば様の部屋から退室した。
通路を結構歩いて、おばば様のいた屋敷から出て、別の建物へと移動する。
確かに、離れだな。
その離れに入ると・・・・・・ああ、これは図書館のイメージに近いな。
帝国解放会の資料室よりは大きい。
ただ、資料が置いてあるスペースよりも、閲覧するための場所がゆったりと確保されている。
ロッジの資料室が図書室なら、こちらは小さめな図書館というところか。
「こちら側の壁は遮蔽セメントを使っておりません。
なので、許可が出ている方は、いつでも自由にお使い下さい。
ここは特別に秘匿するような情報は置いてありませんが、
パーティーメンバー以外の第三者を連れてくることは御遠慮下さい」
「承知した」
ロッジと違って、出入り自由というのは便利だな。
俺かシーナが付き添えば、アミルやローザを連れてきても問題ないだろう。
さすがに今日は資料調査は無理だろうから、別の日にするだろうけど。
「では、カッサンドラ様の所に戻りましょうか」
「あ、ああ。よろしく頼む」
あれっ、原作では、このまま帰らせてもらえるのではなかったか。
原作だと一度帰って、またメンバーを連れて戻ってくるのだったっけ?
でも、おばば様とは会わなかった気もするが。
反論する訳にもいかないので、彼に付いて元来た道を戻ることに。
戻りながらも、シーナ達の交渉のことに思いをはせる。
時間はそれなりに経っているだろうから、交渉の時間としては十分だろうか。
まずは情報収集、情報交換だと言ってたから、持ち帰っての検討になるのだろうけど。
おばば様の部屋に戻って、書庫への入室許可をもらったことへの感謝を伝えた。
出入り自由な資料室というのは、ホントに嬉しいからな。
それにしても、なんで戻ってきたのだろうか。
まさか、これからハルツ公がやってきて、俺とまとめて無理難題を押し付けられるのじゃないだろうな。
ゴスラー騎士団長の死んだ魚のような目が思い出される。
この前の面会は、俺は途中退室したから、あの後どうなったのかは知らない。
どうせ、嫌味をひたすら言われただけで、大した話ではなかったと思うけど。
しばらくすると、扉がノックされた。
「いらっしゃいました」
「お入り」
外の見張りの者が、おばば様に入室許可をもらっている。
ゲッ、本当にハルツ公が来たのか?
扉が開かれ、入室してきたのは・・・・・・エルフの女性三人。
というか、シェル達じゃないか。
わざわざ俺に挨拶しにきたのか。
(鑑定)
シェル(エルフ族 ♀ 14才)
剣士Lv6
装備 レイピア 竜革のジャケット ダマスカス鋼の額金 竜革のグローブ 竜革の靴
メリル(エルフ族 ♀ 13才)
戦士Lv6
装備 レイピア 竜革のジャケット ダマスカス鋼の額金 竜革のグローブ 竜革の靴
ヴェロニカ(エルフ族 ♀ 27歳)
探索者Lv7
装備 エストック 竜革のジャケット ダマスカス鋼の額金 竜革のグローブ 竜革の靴
シェルとメリルは確か、魔法使いのジョブを持っていたはずだが、タケダ家にいた時と同様に剣士と戦士のジョブを育てたのか。
ここで活躍しようと思ったら、魔法使いの方が有利な気もするが何故、そのジョブなのだ?
それでも、各々のジョブがLv6になっているから、頑張ったのだろうな。
別れた時は、確かLv2ぐらいだったはず。
そして、ヴェロニカは家名が外れているな。
家を出されたって扱いなのか。
確か別れた時のジョブは騎士だったはずだが、今は探索者なのか。
三人とも、餞別であげた竜革の防具やダマスカス鋼の額金を身に着けているな。
いや、そうじゃない。
なんで、この三人は完全武装なのだ?
迷宮から戻ってきたばかりなのだろうか。
それに何か雰囲気がおかしい気が・・・・・・。
「捕まえた・・・・・・」
「えっ?」
シェルが俺の左腕をガッチリと両手で握っている。
そして、右腕にメリルが、俺の胴体にはヴェロニカがすがりついてきた。
「な、何を・・・・・・」
「なに、この娘達三人がな。連れていけというのでな」
「連れていけ?」
おばば様は薄ら笑いを浮かべていて、とっても怖いのだけど。
そして、シェル達三人の目は死んでいた。
「ええっと。これは、どういう・・・・・・?」
「連れて帰るというまで、放しません」
「・・・・・・放しません」
「助けて下さい」
なんだ、何が起きているんだ。
三人の目は完全に死んでいる。
壊れた人形・・・・・・というか、バイ●ハザードに出てくるゾンビのように俺に襲いかかってきているような。
「ここで鍛えてほしいというから、鍛えてやったのに、とんだ根性なしだったよ・・・・・・」
「・・・・・・」
鍛えたというか、とことん追い詰めたのではないだろうか。
「これからは心を入れ替えて、ユキムラ様に誠心誠意尽くさせていただきます。
だから、連れて帰って下さい」
「え、えっと・・・・・・」
なんか、最近、これに似た台詞を別のエルフ族の女性から聞いたような。
「最近、また一族の者が増えたからね。無駄飯食いには居場所なんてないんだよ」
「ひ、ひぃ・・・・・・」
増えた一族の者って、セルマー伯領から来た方々・・・・・・?
おばば様、本当に何をしたのだ?
そして、おばば様の所って定員制なの?
「あー。シェル、今日のところは・・・・・・」
「連れて帰るというまで、放しません」
「・・・・・・放しません」
「助けて下さい」
本当に壊れた人形のようになっている。
ヴェロニカ、俺にすがりつくのに、その部分はちょっと・・・・・・イロイロと困るのだが。
目が死んでいるから、全く色っぽくはないのだけど。むしろ、ホラーだ。齧らないでね。
「これは、どうすれば・・・・・・?」
「一族の娘なのだから幸せになれるように図ってやるのが長の務めだ。
ちゃんと幸せにしてくれる甲斐性があるならね。
何番めかの妾だっていいじゃないか」
綺麗にまとめようとしているけど、食い扶持を減らすために厄介払いしたいだけじゃないのか?
「連れて帰るというまで、放しません」
「・・・・・・放しません」
「助けて下さい」
ああ、もう分かったから。
「だけど、タケダ家に来るということは、貴族への道が絶たれるかもしれないぞ」
「構いません」
「構いません」
「助けて下さい」
貴族の矜持はどこにいった?
俺は貴族教育って結構、洗脳教育に近いものだと思っていたのだけど、それを簡単に打ち砕くなんて、おばば様恐るべし。
「まあ、この娘達のことも騒ぐほどのことじゃない。
一族の人数も増えたし、それなりにはある話さ」
「・・・・・・」
俺の所に来る云々じゃなくて、犠牲者を減らすという方向には思考が向かないようだな。
犠牲者を出している者に自覚がないというのは、本当に恐ろしい。
「じゃあ、一緒に帰るか?荷物をまとめたりとかは・・・・・・」
「このまま連れていって下さい」
「何も思い残すことはありません」
「ここから離れたい」
いったい、何をどうすれば、こんなことになるのだ?
そのまま、ここを出るつもりだったから完全武装で来たのか。
昨日は、おばば様に『実はマイルド』という印象を持っていたのだが、事実誤認だったらしい。
「では、本当に連れて帰りますけど、よろしいので?」
「ぼさぼさしないで、さっさとお行き」
おばば様に頭を下げて退室することにした。
来た時とは打って変わって、俺の背中に三人が数珠つなぎになって震えながら歩いている。
カーラは連れてこなかったのに、結局プルプル震えているエルフ族に背中を掴まれている・・・・・・なんだこれ?
このまま、フリュウ村に行く訳にはいかないよな。
この三人を連れていくと、フリュウ村からの俺の印象が最悪になる気がするぞ。
ロビーに戻ったので、三人を俺のパーティーに加えた。
壁にかかった絨毯から、クーラタルの自宅に戻ることにした。
うーん、エネドラになんと説明したものか。
でも、彼女は三人との別れ際に『いつでも戻ってらっしゃい』とか言ってたからセーフか。
あれっ?『遊びにいらっしゃい』だったか?・・・・・・きっと、大丈夫だよね?
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/6/20(土)の予定です。