異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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116.剣聖!?

 おばば様からシェル達を引き取った翌日、修練場での朝練はいつも以上に熱気を帯びていた。

 

 ラファはボーデ迷宮の討伐戦参加という目標ができて、気合が入りまくっている。

 参加は魔法使い枠なのだが、槍で戦うことも想定しているようだ。

 お供のモンスターも二匹出現するのであながち間違いではない。

 

 ただ、ボス二匹をヴィルマとイレーネが引き受けた場合、お供二匹はオリビアとカーラが引き受けるだろう。

 遊撃にはアミルも控えている。

 ラファの槍の出番があるのかは正直、疑問だったりする。

 それでも、いつかは槍を振るう機会があるだろうから、最善を尽くしているのかもしれない。

 

 迷宮組のメンバーも、迷宮ボス戦のセレクションに勝ち残るための練習に余念がないようだ。

 ヴィルマとイレーネも、いつも以上に回避の練習を入念に繰り返している。

 前回はクーラタル迷宮の予行演習でダメ出しをしたから、余程悔しかったのだろう。

 カーラ、レドリック、モニカといった剣技に長けた者との模擬戦を重ねていた。

 

 そして、昨日加わったシェル達も、元エストグリュン家の者達と一緒に剣を振るっている。

 エルフ剣術部隊が編成されつつあるのがなんとも。

 カーラを除外したエルフ族の7人のうち、4人が魔法使いのジョブを得ているってことを忘れないだろうな?

 

 それにしても、急激にエルフ族が増えた。

 カーラも入れると8人なので、ちょっとした派閥だよな、これは。

 少し前までは、狼人族等、獣人系が多かったのに。

 パワーレベリングも上位のジョブ取得もこれからなので、エルフ族の戦力はグッと伸びてくるかもしれない。

 

 今回、グリニア探索で実感したのは、地形の影響が無視できないということだ。

 ドブローの街道から外れた森で盗賊退治をした時は感じなかったのだが、今回のように深い森だと足を取られそうになって移動も慎重にせざるを得なかった。

 モンスターはともかく、対人戦闘だと森に慣れていないメンバーだと苦戦するかもしれない。

 

 エルフ族は皆、森に適性があるというゲーム仕様ではなく、純粋な経験有無の問題だよな。

 元エストグリュン家の者なら、あの程度の森では、それほど影響を受けないとカーラもシーナも断言していた。

 とはいえ、戦闘部隊全員で森や山岳での訓練をするかというと違う気もする。

 

 

(侵入者を検知しました。侵入者は2名です・・・侵入者を検知しました。侵入者は2名です・・・)

 

 ありゃ、拠点構築スキルの侵入者検知に反応が。

 また、ハルツ公から緊急の呼び出しだろうか。

 今回も玄関先の門に反応があるから訪問客なのだろうけど。

 前回は朝食の最中だったが、今回は朝練の時間だから、結構早い訪問だな。

 

「全員、そのまま待機だ」

 レドリックが訓練中のメンバーに一声かけて走り出したので、俺も後を追った。

 

 玄関に到着すると・・・・・・今朝の護衛当番のマヤのそばに2つの人影が見える。

 

 門の傍にコボルト・・・・・・じゃないゴブリンと若者が立っていた。

 クーラタルでは普通にモンスターが出現するって、オネスタさんが言ってたっけ?

 初めて見たな。でも、ゴブリン?

 それにしても、横に普通のエルフ族の人間がいるけど・・・・・・モンスターテイマー?

 

(索敵)

 

 グレーの点が2つだな。ということは、本当にモンスターテイマーなのか?

 野良のモンスターなら、赤い点になるはずだ。

 テイマー系のジョブなど見たことないのだが。

 

 

(鑑定)

 

グラシア・エストグリュン(エルフ族 ♀ 13才)

剣匠Lv4

装備 エストック エストック 竜革の鎧 竜革の靴

 

 

グラジオラス・エストグリュン(エルフ族 ♂ ()()()

()()L()v()7()4()

装備 エストック エストック アルバ 竜革の靴 身代わりのミサンガ

 

 

 

 ありゃ、ゴブリンじゃなくて、エルフ族の老人・・・・・・90才!・・・・・・しかも剣聖Lv74だと?

 家名がエストグリュンだ。

 カーラの関係者か?

 

 もう一人の若者はエルフ族の未成年の女性か。

 男性かと思ったのだけど、ショートカットの女の子だったわ。

 ボーイッシュ女子か。

 テイマーではなく、剣匠のジョブだ。

 

 高レベルの剣聖とはいえ、装備品はいたって平凡なのだな。

 弘法筆を選ばずなのだろうか。

 

「ここにカーラという名の者はおるか?」

「この家には確かにカーラという者はいるが、そちらは?」

「カーラに剣を教えた者じゃ」

 ってことは、この老人がカーラの師匠?

 

 確かに、言われてみればスター●ォーズのヨ●ダに似てなくもない。

 おばば様が『爺い』呼ばわりしてたから、200才ぐらいかと思ったら、違ったようだ。

 90才か・・・・・・あれっ、ヨ●ダは900才まで生きたのだっけ?まだまだ、これから?

 

「私が呼んできます」

「マヤ、頼むぞ」

 彼女は修練場の方に急いで駆けていった。

 

 

「其方が、カーラの主か?」

「そうだな」

 俺の言葉にヨ●ダじゃない、師匠の眼光が鋭くなった。

 

「カーラを奴隷にして、どうする気じゃ?エストグリュン家を乗っ取る気か?」

「いや、そんな気は毛頭ないぞ。

 そもそも、エストグリュン家は亡くなった当主の代わりに誰かが継いだのじゃないのか?」

「あのような、公爵の傀儡に何ができようか」

 そんなことを言われても、知らんがな。

 

「師匠、お久しぶりです!」

「カーラか・・・・・・」

 マヤに呼ばれたカーラが到着したようだが、彼女の明るさと師匠の怒りのギャップが酷い。

 

「其方は、このような所で何をしておる?エストグリュン家はどうする気じゃ?」

「私は、このユキムラ殿の下で、エストグリュン家の再興をするつもりだ!」

「なんじゃと?」

 おいおい、カーラ、燃料を投下しないでくれよ。

 

 そして、その横でシーナが無言で頷いてるのも勘弁してくれ。

 

「カーラ、其方、腑抜けたか?」

「そんな事はないぞ。私の剣は師匠と別れてから、更に磨きがかかっているのだ!」

 それは俺のパワーレベリングのおかげじゃないか?

 

「では、腑抜けてないか確かめてやろう」

「師匠、望むところだ!」

 お前達は、なんでいつも力で解決しようとするんだよ。

 

 エストグリュン家の家風か?

 

 師匠の横にいたグラシアという娘は、カーラに小声で詫びていた。

 

「姫様、御家の危機存亡の時に統主の下に駆けつけられず、申し訳ありませんでした」

「もう、済んだことだ。それよりも、エストグリュン家の再興のために力を貸せ」

「はっ、それはもちろんです。グラ爺と共に、粉骨砕身いたします」

 なんだか、きな臭い話をしてやがる。

 

 そして、カーラの師匠を、この娘は『グラ爺』と呼ぶのか。孫か?ひ孫か?

 ひぃがいくつあるのか知らんが。

 

 

「おぉ、これは戦うには、うってつけの広さじゃな」

「そうだぞ、師匠。これだけの設備はエストグリュン家にも無かっただろう?」

 なんだか、別の事で上機嫌の二人だが、これから模擬戦で戦うのだよな?

 

「グラ爺、まずはあたしが・・・・・・」

「ふん、好きにするがよい」

 なんだ13才の娘の方が挑むのか。

 

「誰か、腕に自信のある者、あたしの相手をしてくれ」

「!」

 おいおい、随分と大きく出たな。

 

 

 モニカが一歩進み出た。

 

「では、私が・・・・・・」

「いきなり押しかけ、不躾な振る舞いで恐縮ですが、お相手をお願いします」

 自信もあるけど、礼儀は一応知っているのか。

 

 

 二人が修練場の中央で対峙した。

 

 グラシアという剣匠Lv4の娘は木刀二本を持ち、剣聖Lv63のモニカは木の剣を二本持った。

 レベル差的には相手にならないはずだが、この前のカーラとの戦いでそれは懲りている。

 この娘もカーラのような避けタンクなのだろうか。

 

 

「はじめ!」

 

 レドリックの合図で、二人の模擬戦が始まった。

 二人はジリジリと距離を詰め・・・・・・まずは、モニカの鋭い二刀の斬撃がグラシアを襲う。

 彼女は木刀を器用に使い、受け流している。

 カーラなら武器を使わずに回避していたから、彼女程の避けタンクではないのだな。

 それでも、モニカの斬撃を躱せるのは、それなりの技量ということだ。

 

 そして、回避後にカウンターも時折繰り出している。

 モニカも、それを木の両手剣二本で受け流しながら、前に出て圧力をかけていく。

 

「ととっ・・・・・・」

 グラシアが慌て出した・・・・・・これは決着が付きそうだな。

 

 更に回転を上げたモニカの剣が2、3回当たり、グラシアはギブアップした。

 

「参りました。まだまだ己の鍛錬が足りないことを実感しました」

「・・・・・・」

 モニカは、特に誇ることもなく一礼して、後ろに下がっていった。

 

 やっぱり、普通にモニカは強いよな。

 リカルド騎士団長に模擬戦で勝ったのは伊達じゃない。

 さすがに剣聖Lv63は格上過ぎたのだろうけど、彼女はまだ13才だ。

 年齢を考えると、かなりの技量だと思う。

 

 

 特に残念がる訳でもなく、サバサバとグラシアは引き揚げてきた。

 

「グラ爺負けた。また鍛えて。姫と統主とグラ爺以外に負けたのは久しぶりだ」

「未熟者が・・・・・・攻撃も防御も淡白過ぎるわ!」

 思いっ切りが良くて、見ている方は楽しかったけど・・・・・・これが実戦だと確かに困るか。

 

 

 カーラが上機嫌で、近づいてきた。

 

「師匠、久しぶりにやらないか?」

「おぬしの剣が錆びついていないか、確かめてやろう・・・・・・」

 剣聖Lv74の爺さんはカーラに声を掛けると、こちらに近づいてきた。

 

「ほれ。おぬしも来い」

「俺?」

 まず、俺とカーラがやるのか?

 

 言われるがままに、修練場の中央に向かった。

 爺さんは、俺とカーラの中央ぐらいの位置で立ち止まった。

 

 

「覚悟はいいか、ガキ共。二人まとめて相手してやる。

 その代わり、ワシに一太刀でも入れられたら『剣聖』の称号をくれてやろう。

 ワシは東杜(あづまもり)の剣聖 グラジオラスだ」

「ユキムラ殿、剣聖を手に入れるチャンスだぞ!」

「・・・・・・」

 マジかよ。俺とカーラの二人を相手にしようってのか?

 

 でも、俺は剣聖のジョブは既に持っているのだけど。

 しかも、あの爺さんより、ジョブのレベルは高いぞ。

 

 それにしても、エストグリュン家って、なんかイロイロと称号が多いな。

 

 カーラが、『東杜(あづまもり)の剣姫』で、この爺さんが『東杜(あづまもり)の剣聖』だって?

 シーナあたりは『東杜(あづまもり)の白い魔女』と呼ばれていたりして。

 

 だが、おもしれぇ・・・・・・カーラの師匠とやらの実力を見せてもらうチャンスだ。

 こんなに長生きしているのだから、凄い剣技を見せてくれるのかもしれない。

 カーラをあそこまでの避けタンクに育てた訳だし、期待してしまうぞ。

 

 

 小声でカーラに囁く。

 

(まずは、俺から攻めるので、後に続いてくれ)

(了解!!!)

 声が大きいって。

 

 

 あまりカーラとの距離を空けずに、二人並んで爺さんと対峙した。

 俺が右でカーラが左に陣取っている。

 

 俺は例によって、木の剣の四刀流だ。

 今回は予備動作を入れずに、いきなり強襲するつもり。

 

 お互いに一礼した後、まずは鋭い出足で俺が突っかける。

 牽制の一撃だけど、四本同時攻撃だ。

 

「シッ!」

 

(ガンッ)

「ゲッ・・・・・・」

 

 

 あれっ、俺の牽制の攻撃で剣聖の爺さんが吹っ飛んだ。

 後方に飛びすさった訳ではなさそうに見える・・・・・・普通に転がっているから。

 俺が先に吹っ飛ばしたせいで、カーラの剣は相手を見失っているし。

 

 

「グッ・・・・・・、ワシに一太刀浴びせるとは大した奴じゃ。約束通り、剣聖の称号をくれてやる」

「・・・・・・」

 いや、剣聖のジョブは持っているし、剣聖のジョブ取得条件は剣聖に勝つことじゃないから。

 

 その取得条件だと、最初の剣聖はどうやってなるんだって話になるじゃないか。

 

 

「寄る年波には勝てぬわ。最近、腰の持病が・・・・・・」

「・・・・・・」

 だったら、大人しく縁側で茶で啜っていればいいのに。

 

 年寄りに暴力を振るったようで、俺がとんだ悪者になったじゃないか!

 

「グラ爺、やっぱり腰治さないとダメだよ・・・・・・」

「このぐらい、なんでもないわ!」

 いやいや、全然回避できてなかったから。

 

 避けようとして、苦痛に顔を歪めてたじゃん。痛いのだろう?

 それに追い打ちをかけるように、ブッ飛ばした俺が言うのもアレだが。

 

 爺さんの傍に歩み寄り、手持ちの滋養丸を数個手に持った。

 

「これを・・・・・・」

「有難いが、この腰痛は傷薬ではどうにもならんのじゃ」

 そうなのか・・・・・・慢性的な腰痛は怪我ではないから?

 

「それなら、これを・・・・・・」

「なんじゃ、それは?」

「腰に効く薬だと思う」

「そんなものがあるのか、まあ気休めになるのなら・・・・・・」

 そいつは、腰痛に効く薬(エリクサー)だ。

 

 

「どうだ?多分、痛みは無くなっていると思うが」

「なんじゃ、これは。本当に痛みが無くなっておる」

 慢性の腰痛でも、エリクサーなら効果があると。一つ、勉強になったな。

 

 カーラをここまでの避けタンクに育ててくれたのだから、エリクサーの一本ぐらい安いものだ。

 

 

「長年の痛みが嘘のようじゃ!」

「グラ爺、本当に治ったの?」

 ゴブリンっぽい爺さんが、年齢に似合わず小気味良い動きをしている。

 

「本当か、師匠?じゃあ、私と勝負だ。勝ったら、剣聖の称号をくれ!」

「むっ、カーラか。遊んでやるから、かかってこい」

 爺さん、カーラにブッ飛ばされるなよ。

 

 年寄りが相手なのだから、ちゃんと手加減しろよな。

 

 

 その後の光景は目を疑わんばかりの展開だった。

 カーラの二本の木刀は、全く爺さんを捉えずことはできず、逆に彼女は爺さんからの攻撃を幾度となく受けていた。

 しかも、爺さんの攻撃は手加減を加えているっぽい。

 俺の四刀流でも、彼女を捉えることはできず、オーバーホエルミングを使ってようやく仕留めたのに。

 

 それにしてもマジかよ・・・・・・これが、本物の『剣聖』なのか。

 ジョブやレベルがどうのこうのじゃなくて、剣技を積み重ねた象徴的な存在か。

 『東杜(あづまもり)の剣聖』の名は伊達じゃなかったようだな。

 

 

「まだまだ剣聖の称号は、おぬしには早いようじゃな」

「くっ、これからも修練に励みます」

 というか、カーラは眼帯付けたまま戦っていたよな。

 

 それ外してたら、もう少し善戦できたのではないのか?

 こんな時でも、訓練重視なのだろうか。

 

 

 カーラとの模擬戦を終えて、爺さんが俺に近づいてきた。

 

「おぬし・・・・・・もう一度、やらんか?」

「そうだな・・・・・・」

 体に武者震いが走る。

 

 面白い・・・・・・この達人に、どれほど俺の力が通じるものなのか試してみたい。

 

 修練場の真ん中で、爺さんと対峙した。

 周りの連中は、先ほどから爺さんの剣技に釘付けで、取り囲んで観戦モードになっている。

 

 

 相手のペースに巻き込まれないように、主導権を取らないとな。

 間合いを詰める前に、四本の木の剣を振り始める。

 

 

 右の上腕の剣を袈裟懸けに、左の上腕を水平に、右の下腕を下から上に、左の下腕を上から下へ・・・・・・カーラの時にもやった、俺の得意パターンだ。

 カーラの時よりも、更に鋭く速い振りで、風切り音を出しながら、ゆっくりと爺さんに近づく。

 

 

「ほおぅ・・・・・・こんな剣筋は初めてじゃな」

「・・・・・・」

 師匠も弟子と同じ感想を呟くのだな。

 

 この圧力をどうかいくぐってくる気だ?

 こちらが近づくのに合わせて、爺さんもゆっくりと近づいてきた。

 というか、爺さんは小柄だから・・・・・・的が小さくてやりにくいな。

 

 

「クカカカカッ・・・・・・」

 奇声を発しながら、地を這うように急接近してきた。ゴブリンじゃなくて、妖怪の類だな。

 

 ただでさえ的が小さいのに・・・・・・爺さんの進行方向を予測して、四本の剣を下方に向かって面制圧をかける。

 

 

(トン・・・・・・)

 

 俺の剣をかいくぐって、爺さんに軽く木刀で胸を突かれた。

 はあぁ?・・・・・どうして、俺の剣が当たらないんだ・・・・・・意味不明だ。

 少し下がりながら、更に剣速を上げていく。

 そして、再び、前進する。

 

 

(トン、トン、・・・・・・トン・・・・・・)

 

 立て続けに三本入れられた。

 胸、腹、右手・・・・・・これは、手加減されているのか?

 

 

「身体能力が高いだけの『素人剣法』じゃな」

「・・・・・・」

 全く、その通りで反論できない。四本の腕とセブンスジョブの力でねじ伏せようとしただけだ。

 

 となると、カーラと同じ戦法を取るしかないのか。

 

 

(オーバーホエルミング)

 

「むっ、・・・・・・」

 

(トン・・・・・・)

 

 爺さんはカーラと同じく、俺の剣筋を正確に目で追っていたが、体が付いていかずに俺の刺突を胸に受けた。

 だが、彼女の時と同様、これは俺の勝ちでもなんでもない。

 

 ついムキになって、タケダ家の者じゃないのにチートスキルを使ってしまった。

 だが、これだけの達人と模擬戦できる機会なんて、そうそう訪れないだろうから仕方ない。

 カーラの関係者だし、腰痛に効く薬(エリクサー)をやったのだから内緒にしてくれよ。

 

 

「やるな。これがおぬしのスキルか・・・・・・」

「ああ、このスキルでなければ勝てない相手なんて、

 まだ片手で数えるほどしか戦ったことがないのだけど」

「おぬしは、スキルなんぞよりも、もっと基礎から学ぶべきじゃな」

「反論の余地もない・・・・・・」

 エストグリュン家の奴等からは本当に学ぶことが多いんだよ。

 

 

 

(ガーン、ガーン、ガーン・・・・・・)

 

 音のした方を振り向くと、鍋と金属製の柄杓を持ったエネドラが仁王立ちしている。

 どこかで見た風景。

 

 

「もう、朝食の準備はとっくにできあがっているのですが・・・・・・」

「ひゃ、ひゃい・・・・・・」

 あっ、爺さんとカーラ汚い・・・・・・俺の背中に隠れてやがる・・・・・・グラシアという娘もだ。

 

 これだと、俺がエネドラの視線を全て受けなければならないじゃないか。

 

 

「二人も食事を一緒に・・・・・・」

「我らは既に済ませてある」

「グラ爺ぃ、訓練しよう!」

 絶対、朝食まだだろう?グラシアの腹が鳴っているのが聞こえたぞ。

 

 この娘は食事よりも、訓練の方が優先なのかもしれないが。

 全く、エストグリュン家の奴等ときたら。

 

 

 そんなことよりも、今は食卓に着くのが最優先だ。

 これ以上、エネドラを待たせる訳にはいかないからな。

 

 皆を急き立てて、食事に向かうことにした。

 早足に玄関へと向かう俺に、カーラが近づいてきた。

 

「ユキムラ殿は剣聖の称号を得たな。私はまだまだのようだ・・・・・・」

「いや、剣聖というのはだな・・・・・・」

 ジョブ取得条件を言いかけて、考え直した。

 

 カーラの言ってることが、案外正論な気がする。

 俺が得た剣聖のジョブなんて、知識チートと成長チートで得ただけの謂わば養殖物の剣聖だ。

 一方で、あの爺さんの持つ剣聖は天然物だ。

 どれだけの鍛錬と実戦の果てに、あの領域に辿り着いたのか想像もつかない。

 あの爺さんに一太刀も入れられないようでは、ハリボテ剣聖だよな。

 

「ユキムラ殿、どうした?」

「いや、なんでもない」

 もっと研鑽を積めということか。剣聖への道は遠いな。

 

・・・・・・

 

 朝食を終えて、カーラや元エストグリュン家の者達と共に修練場へと向かった。

 あの爺さんはカーラとの話が終わってないからな。

 急遽、模擬戦大会になってしまったが、あの爺さんが目的を果たしたのかは不明だ。

 

 修練場に向かうと、爺さんとグラシアという娘が模擬戦をやっていた。

 腰の治った爺さんは、彼女を子供扱いにしながら稽古をつけている。

 やっぱり、あの爺さん巧いな。

 剣の技量がどれ程のものなのか、俺にはとても測ることができないのだけど。

 

 俺達に気づいたようで、二人は剣を下げて、こちらへ近づいてきた。

 

「元々の来訪目的が果たせたのか確認したくてな」

「カーラの剣はまだまだじゃが、錆びついてはいないようじゃな。

 じゃが、カーラ。其方は奴隷となってどうするつもりじゃ?」

「師匠。もちろん、エストグリュン家の再興を果たすつもりだぞ!」

 ブレないねぇ。

 

「こやつは、そう申しておるが、当主のおぬしはどうなのじゃ?」

「俺は、そもそも貴族を目指す気はないぞ」

「なんじゃと?それで、こやつの主になるつもりなのか?」

 爺さんが激高してるけど、血圧大丈夫か?

 

「グラジオラス様、ユキムラ様、ここは私達とグラジオラス様でお話しさせて下さい」

「まあ、シーナがそう言うのなら」

 ここでも、シーナが仲介役か。

 

 俺から、少し離れた所に7人が集まって相談している。

 爺さんは背が低いので、集団に囲まれ、すっぽりと見えなくなってしまった。

 そして、シーナと爺さんが何を話しているのかも、俺には聞こえてこない。

 

 その横でヴィルマ、イレーネ、オリビアが模擬戦をやっている。

 彼女達もブレないねぇ。

 エストグリュン家の連中との話が終わったら、迷宮に行くから、もう少し待っていてくれ。

 

 やがて話が終わったのか、シーナを先頭に7人がこちらに近づいてきた。

 

「グラジオラス様とグラシアは、タケダ家に加わることになりました。

 もちろん、奴隷身分になることは二人とも了承いただいております」

「はあ?」

 先ほどの話から、どうして今のシーナのような結論になるのだ?意味不明だぞ。

 

 

「おぬしも、その部下達も剣の腕はまだまだ未熟じゃ。

 ワシが、この家に加わって鍛えてやろう」

「今のエストグリュン家の方はどうするのだ?

 奴隷になると家名が外れることになるのでは?」

「公爵の傀儡となった家は、エストグリュン家とは言えぬ。

 これでは、グランフェルトの小僧も浮かばれぬわ」

 グランフェルトって、亡くなったカーラの父親で、元当主か。

 

 こちらとしては、この爺さんに鍛えてもらうのは嬉しいが、美味すぎる話に警戒してしまう。

 

「ユキムラ様としても、この二人に加わってもらう方がタケダ家としての利があるのでは?」

「まあ、確かにそうではあるが」

 急速にエルフ比率が増加中だよな。

 

 民主政治じゃないから、『数は力』とはならないぞ。最終決定権は俺にあるし。

 この爺さんは、タケダ家の剣術指南役扱いになるのだろうか。

 確かに魅力的ではあるのだけど。

 明確なデメリットがないから、反論しにくいな。

 

「そういうことなら、こちらこそ、よろしくお願いします」

「ほう、年長者を敬う心はあるようじゃな」

 日本人だからね!

 

 でも爺さんは、腰痛の薬(エリクサー)を、これからも欲しいのだけだったりして。

 高齢だし、慢性的な腰痛は再発しそうな気がするよな。

 剣術指南役の給料と思えば、定期的に服用してもらっても構わないか。

 普通なら高額過ぎるのだが、昔と違って威霊仙の安定供給が可能になったから問題ない。

 将来的にはタケダ家メンバー全員に、人間ドック代わりに年に一回服用させようとすら思っているぐらいだし。

 

 

 さて、ちょっと出発が遅くなったけど、迷宮に行こう。

 訓練に勤しんでいたヴィルマ達に、ボーデの迷宮へ行くことを伝えた。

 

 新しく加わる二人の扱いは、シーナとレドリック、ヘルミーネで相談してもらうことにして、エネドラのいる食堂へと向かう。

 俺の隣にはカーラが一緒に歩いている。

 久しぶりに師匠に会えたし、再び、あの爺さんに稽古をつけてもらえるから嬉しいのかね。

 かなり、ご機嫌な表情に見えるぞ。

 

 それにしても、最近、2、3日置きぐらいに、人がどんどん増えている気がする。

 しかも、エルフ族ばかりだ。ついつい、横にいるカーラを見てしまう。

 シェル達はともかく、カーラを引き受けてから、芋づる式にエルフ族が増えているな。

 邸宅の増築工事をしておいて助かったよ。

 

・・・・・・

 

 食堂でエネドラに朝の顛末を説明。

 

「・・・・・・という訳で、タケダ家に二人加わることになった。

 90才の爺さんと13才の女の子だ。カーラやシーナの元実家の関係者らしい」

「承知しました。委細お任せ下さい」

 もはや、何が『・・・・・・という訳』なのだろうかと自分でもツッコミを入れたくなる。

 

 今度、エネドラにも何か労いをしなければ・・・・・・そういえば、改良した秘密基地はチクルスしか招いてなかったな。

 

「旦那様、何やら悪い笑顔をしておりますが・・・・・・」

そんなことはないが(ソンナコトナイヨー)

 そちらの方もいずれ考えよう。

 

 エネドラに二人の事を任せ、迷宮に行く準備を急ぐことにした。

 

・・・・・・

 

 ボーデの49階層の迷宮探索を再開。

 

 カーラはご機嫌で、アニマルトラップの攻撃を避け、カウンターを鋭く入れている。

 今日の朝の事件が思いの外、良い方向に転がったからだろう。

 それにしても、あれだけの技量を持つ者が稽古をつけてくれるのは心強いのだが、カーラを見ていると少し心配になってしまう。

 

 カーラの眼帯への助言などを考えると、教えるのが上手いのではなく、根性論だったり感覚的で曖昧な教え方をするのではと危惧している。

 元の世界でも、名選手が名監督、名コーチとは限らないって話があったよな。

 

 次の獲物に接敵するまでの間、カーラと少し雑談。

 

「あの爺さんの剣技は凄かった。世の中には剣の達人というのが本当にいるのだな」

「師匠は凄いんだ。

 ここ数年は腰を痛めて、隠居のような状態になっちゃってたけど、

 今まで私は一度も勝ったことがなかった。

 万全の状態の師匠に、また挑めるので、とっても嬉しい!」

 数年前は、もっと凄い動きをしてたのかね。

 

「ひょっとして、あの爺さんが万全だったら、セルマー伯領の件は・・・・・・」

「どうだろうな。師匠は隠居していたから、領内のことに口を出したかどうか。

 腰の治療のためにグラシアを連れて旅に出ていたんだ。

 ただ、師匠が万全なら、どんな人数の相手であっても剣で負けるなんて私には想像できない」

 そして、爺さんが戻ってきたら、当主は殺され、その娘達は俺の奴隷になっていたと。

 

 そこだけ切り取って聞かされたら、キレるのも止むを得ない事案だよな。

 よく、タケダ家に加入する気になったものだ。

 シーナがどうやって、あの爺さんを説得したのかは、ちょっと気になるぞ。

 

「あの爺さんが連れていた娘、グラシアという名前だったか。

 彼女は、爺さんの孫かひ孫かなにかなのか?」

「あの二人には血のつながりはないはずだ。

 ある日、師匠が『知り合いの娘じゃ』と言って、連れて帰ってきた。

 それ以来、一緒に暮らしている。

 グラシアは師匠の身の回りの雑事をやり、師匠は彼女に剣を教えている。

 正直、羨ましいと、いつも思っていた。

 彼女は私にとって、実の妹のような存在だ」

 ふーん、東杜の剣聖の愛弟子といった感じなのかな。

 

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 その後も、49階層の探索は順調に進む。

 綻びを見せるような隙が一切ない状態だ。

 これなら、迷宮ボス戦は大丈夫かな。

 ラファが入ってからの連携確認を軽くやって、クーラタルで予行演習をすれば完璧だろう。

 

 

 夕食の時間が近づいてきたので、迷宮探索を切り上げることにする。

 カーラ以外の迷宮組メンバーはクーラタルの自宅にゲートを繋げて帰宅させた。

 

 俺とカーラは、クーラタルの34階層に移動。

 ボス部屋前の待機部屋でカーラに説明。

 

「これから、俺と二人でボス戦をやってもらうが、俺は見ているだけで戦わない。

 倒すのはカーラに全て任せるので、頑張ってくれ」

「?・・・・・・なんだか分からないが、目の前の奴を倒せばいいのだな?」

「そうだ。油断するなよ」

「任せろ、ユキムラ殿!」

 戦う時だけは、元気いいな。

 

 二人でボス部屋に侵入すると、扉が閉まり、ボス戦が始まった・・・・・・だが、コボルトイェーガー二匹では、彼女の敵ではない。

 相手の攻撃を全て回避して、カウンターを入れまくって殲滅した。

 

 騎士のジョブをセットして、カーラの左腕を持ち、インテリジェンスカード操作をして、彼女のカードを表示させた。

 

「見ての通り、カーラは剣聖のジョブを得た」

「おおぉ、そういえば、この前の模擬戦にユキムラ殿に勝ったからな。

 剣聖の称号を持つユキムラ殿に勝ったことがあるのだから、これで私も剣聖の称号を得たのか」

 いやいや、剣聖のジョブを取得する条件は、剣聖に勝つことじゃないから。

 

「迷宮ボス戦には、カーラは剣聖のジョブではなく、剣匠のジョブで挑むことになるぞ」

「なんだか分からないが、迷宮ボス戦は任せてくれ」

「なんだか分からないのなら、少しは考えた方が・・・・・・」

「師匠も『考えるより感じろ』って、よく言っている。全く、問題ない」

 そういえば、ヨ●ダも似たような事を言っていた?・・・・・・師匠の指導力に疑問符が。

 

 剣聖は今からパワーレベリングしても、迷宮ボス戦には間に合わないから、剣匠で戦ってもらうつもりなのだけど。

 カーラの剣匠はLv52まで上がった。迷宮ボス戦までに、Lv60以上に上げておきたいな。

 

 

「まあ、それはいい。

 だが、明日以降、迷宮ボス戦までの間は、魔法使いのジョブで戦ってもらうぞ」

「えっ?ユキムラ殿、それは、ちょっと考え直した方が・・・・・・」

「先ほどは、考えるなって言ってなかったか?

 魔法使いのジョブでも頑張ると言っていたよな?」

「ああ、自信はないけど・・・・・・やってみようかな」

「違うぞ。やってみるではない。やるか、または、やらないかだ。カーラはどちらを選ぶんだ?」

「や、やります・・・・・・」

 カーラの反論を封じるために、俺もヨ●ダ風に諭してみた。

 

 魔法使いの話になると、急に弱気になるな。

 剣を持たせたオリビアみたいな感じなのだろうか?

 今更ながらだが、迷宮組のメンバーには癖のある奴が多い・・・・・・アミル以外は(俺も含めて)

 

「明日は迷宮探索は休みなのだから、ゆっくりしてくれ」

「分かった。師匠に稽古をたっぷりつけてもらおう!」

 久しぶりに会ったのだから、積もる話もあるだろう。剣で語り合ってくれ。

 

 明日はタケダ家の交流会の日だから、迷宮探索や各種雑務、定例会議も全て無しだ。

 俺がいると周りに気を使わせるだろうから、一人でこっそりと作業に勤しもう。

 

 それにしても、今朝のキレッキレッの動きを見せた爺さん、凄かったな。

 あの達人に稽古をつけてもらうカーラを羨ましく思いながら、迷宮を後にした。




お読みいただき、ありがとうございました。
どこかで聞いたような話のネタが混じってますが、スルーしていただけると。
(永野先生、誠に申し訳ありません)

なお、グラジオラス(学名: Gladiolus)は、アヤメ科グラジオラス属の植物の総称。
ラテン語で剣の意味を持つそうです。

あと、エストグリュン家の当主は慣例的に『統主』と呼ばれています。
カーラの亡くなった父親であるグランフェルトもエストグリュン家の統主です。

次回投稿日は2026/6/27(土)の予定です。
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