異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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117.聖剣!?

 カーラの師匠が我が家に訪ねてきたのは昨日の朝だったのに、今日から朝練でさっそく皆に剣の指導をしている。

 いや、ありがたい話なのだけど、急展開過ぎないか?

 

 元エストグリュン家の者だけでなく、レドリックやモニカにまで指導している。

 レドリックなんて俺が教わることも多々あるのだけど、彼を指導できるのって凄くないか。

 

 カーラの師匠だから、感覚派というか教えるのが大して上手くないのではという疑惑があった。

 だが、教え方がとても丁寧で、それでいて的確というか・・・・・・嬉しい意味での誤算だった。

 

 いや、この師匠に教えられて、カーラはどうしてああなってしまったのかという方が謎だ。

 師匠・・・・・・もはや、皆から『グラ爺』と呼ばれてるから、俺もそう呼ぶけど、グラ爺の教え方は個別指導授業の●ライ並ではないかと。

 ●ライの指導は受けたことはないが、教わる側のやる気を引き出すのも巧いんだわ。

 

 片手剣を扱う者、両手剣の者、攻撃重視の者、防御重視の者、回避を学びたい者、カウンターをタイミングを習得したい者・・・・・・個人の体格や性格を加味して理論的に教えている。

 俺は基礎練習の反復をするように指導されたのだけど、その訓練法が的確過ぎて驚きの連続。

 前の世界の武道の先生達よりも、ハッキリ言って、数段教えるのが上手い・・・・・・なんだコレ?

 

 グラ爺がタケダ家に留まり、剣を教えてくれるだけで、月に白金貨1枚の授業料を支払っても惜しくないのではと思えてしまう。

 奴隷身分を受け入れてくれたとはいえ、彼がいつまで我が家にいてくれるのか、心配に思えてしまうぐらい価値があるぞ。

 数年後、いや一年後のタケダ家が楽しみでならない。

 

 カーラやシーナには悪いが、旧エストグリュン家の五人、いやグラシアを入れた六人よりも価値があるかもしれない。

 それぐらい、今回のグラ爺の我が家への加入は感動してしまった。

 

「サボってないで、さっさと基礎練をやらんか!」

「はーい」

 こうやって、俺を叱る立ち場の者がいるというだけで、少し安心してしまう。

 

 教わる立場に安住しないように注意しなければ。

 

 基本的にグラ爺は、迷宮討伐はおろか、迷宮探索にも参加しないと宣言された。

 この修練場でひたすら、みんなを鍛えてくれるらしい。

 確かに、迷宮探索に加えたところで過剰戦力だし、グラ爺の力は対人戦でこそ発揮される。

 迷宮で戦うモンスター相手でも剣の技量は必要だが、基本的には装備とジョブ、レベル、スキルで戦うのが迷宮だからなぁ。

 

 迷宮での戦いと対人戦は別物だと思っている。

 その対人戦の技量を底上げするためには、グラ爺は修練場にいるべきだろう。

 ここにグラ爺がいてくれると、レドリックやヘルミーネをクーラタルから動かし易くなる。

 今までは、タケダ家の本拠地を守るために、二人のどちらかを常駐させていた。

 対人戦最強のグラ爺がいれば、本拠地の護衛という意味でこれ以上の戦力はないはず。

 

 話をする限りでは、剣技の指導以外でも、戦略、戦術といった知識も深そうに思えた。

 剣以外でも、きっと学ぶべき事が多い気がする。

 これは、本当に予想外の収穫と言えるだろう。

 

 奴隷身分を厭わず、タケダ家に加入してくれた・・・・・・その対価を考えると、ちょっと背筋が凍る気分にならなくもない。

 シーナ、本当にどうやってグラ爺を説得したのだ?・・・・・・言を左右にして教えてくれないのだが、とっても気になるぞ。

 

「手がお留守じゃのう。しっかりやらんか!」

「はーい」

 しかし、こういう立場も悪くない。一応、俺はまだ17才の若輩者なのだから。

 

 ただ、エルフ族の影響力が強くなり過ぎないように注意しないとな。

 

 

 今日は交流会デーということで、迷宮探索など全チームお休みの日となっている。

 夜の定例会議も休みだし、昼や夜も本格的な料理は出さずにファーストフード的な軽食を大量に準備しておき、後方支援部隊の負担を減らすことにした。

 そのおかげで、後方支援部隊のメンバーもザビル拠点で交流に参加できる。

 

 護衛部隊の交流場所はクーラタルの拠点だ。

 修練場が広いので、拠点をまたがった者同士が集まるだけのスペースもあり、模擬戦も数組同時に行えるので便利だという理由。

 今回はエルフ組も増えたし、グラ爺もいるから、ちょっと盛り上がるかもしれないな。

 

 一応、幹部連中は、ほぼ口出ししないルールになっていて、下の者同士自由にやってもらう。

 トラブルが起きたら仕方なく介入するけど、前回は特に発生しなかったので、今回もトラブル無しであってほしいがどうだろうな。

 俺も体験してみたいのだが、グッと我慢して不参加を貫く予定。

 

・・・・・・

 

 今までと一味違った楽しい朝練と朝食を終え、エネドラと二人でザビルの拠点へと移動する。

 交流会デーということで原則休みなのだが、上の者はそうも言ってられない。

 今日はザビル拠点の増築工事の件で、大工と打ち合わせだ。

 

 基本的にはカラダンが作成した計画をエネドラが監修しているので俺の出る幕は殆どないのだが、オーナーであり最終意思決定者ということもあり必須参加だ。

 今回の増築工事はシーナのフリュウ村との交渉にも関わるしな。

 一応、シーナとの連携はエネドラとカラダンが受け持ってくれるとのこと。

 他の者に任せられるのは素晴らしいな。

 その分、楽ができる。最終的な責任は俺が負うとはいえ。

 

 ザビルの二階の会議室に大工の親方と事務方の者を招き、カラダンの進行で話が進んでいく。

 

 今回の増築のポイントは3つ。

・メンバーが増え、手狭になってしまった本館の増築

・奴隷商館に男性奴隷用と女性奴隷用の館を一棟ずつ増築

・増築に必要な土地の購入

 

 防具屋は特に問題ないので、増築、改修などは計画していない。

 

 土地の購入については、裏庭の先に購入予定の土地があり、交渉を既に進めている。

 こちらの世界は土地がかなり安いので、購入のハードルはかなり低くて助かる。

 既にザビルでも、一度は土地を購入しているからなぁ。

 

 今回の打ち合わせは、カラダンが作成した増築する建物の設計図を大工達に見せ、意見交換を行うのが目的。

 カラダンが設計図を見せながら、建物の間取りや部屋の用途を淡々と説明していく。

 親方ともう一人の大工から、いくつか質問が出てくるが、クーラタルで増築した時のノウハウがあるのでテキパキと回答していく。

 

「一応、要望は一通り理解したつもりだ。後は工期と代金だな。

 それは、こいつと詰めてくれ」

「承知しました」

 親方の指差す事務方の者とカラダンで詳細の詰めをするようだ。

 

「カラダンさんからは、増築に必要な資材の一部を提供可能と、お聞きしましたが」

「迷宮ドロップ品の板、岩、コーラルゼラチンは大量に所有しています。

 今回の増築工事に必要な数を教えていただければ、期日までに提供できると思います」

 この辺りの取引はクーラタルの増築工事と同じだな。

 

 建築材料は地域によって大して違いがないだろうし。

 

「それ以外に、建築木材についても提供可能かもしれません」

「なんと。それは本当ですか?

 ザビルでは最近、家屋の建築依頼が多くて、

 近隣の森から木材を運んできているのですが、需要に供給が追い付いておりません。

 もし、木材の提供が可能なら、こちらの工事を優先しても構いませんので、

 端材などを分けていただきたいのですが」

 カラダンがこちらを見たので、無言で頷く。

 

「まだ、どの程度の量が確保できるのか決まっていませんが、

 先日、そちらの店舗に伺った際に、必要な木材のサンプルを見せていただきましたので、

 それを基準に、どの程度の数を揃えられそうか確認しておきます。

 そちらも、今回の工事で必要な資材や木材について確認し、後ほど教えて下さい」

「はい。分かりました。

 では、工事に必要な資材とタケダ様の方で提供可能な資材のすり合わせをした後、

 工期と金額の調整をさせて下さい」

「はい。よろしくお願いします」

 カラダンと事務方の男がガッチリと握手をした。

 

 大工店の方からもらった、必要資材のメモを見る限り・・・・・・特に迷宮ドロップ品の方はクーラタルの倉庫に眠っているものを放出すれば、なんとでもなりそうだ。

 木材はフリュウ村との交渉次第だな。

 

 今日の話をベースに必要な木材の量を確認しながら、シーナを中心に交渉するのか。

 誰か補佐を付けたいけど、エネドラが考えているようだから、クーラタルの商人組から誰かを派遣するのかも。

 ああ、ザビルのミシェルというのもあり得るのか。

 まあ、エネドラとカラダンに任せよう。

 

 商人との打ち合わせが終わり、エネドラは後方支援部隊の交流会の方へ合流。

 何やら、シーナが相談したいらしい。まあ、内容は想像できるが。

 カラダンは増築工事関連の情報をまとめると言って、執務室へと戻っていった。

 

 そして、俺はクーラタル迷宮へ行き、魔物部屋殲滅ツアーの一人旅。

 最近、加わった元エストグリュン家のメンバーのパワーレベリングのためだ。

 

 クーラタル迷宮の55階層の魔物部屋から始めて、下の階層へと時間の許す限り降りていく。

 55階層から51階層まで降りた時点で、午前中が終わってしまった。

 

 昼食のために、クーラタルの街中へと移動して、屋台で買い食い。

 パン屋で買ったパンに、屋台で買った肉串をはさんでパクつく。

 自宅で食べようとすると、皆に気を使わせるので外食だ・・・・・・こういうのも久しぶりだな。

 ちょっとファーストフードっぽいけど、ベイルの街に初めて来た頃はよくやっていた。

 半年も経ってないのに、なんだか懐かしい。

 

 水筒の水を飲みながら、一息ついた。

 周囲を歩く探索者パーティーっぽい連中を見ながら、ここはやはり迷宮の街だなと納得。

 自宅の玄関へ移動し、自室にワープでこっそり移動して、水筒に水を補充。

 こそこそと玄関に移動して、クーラタルの50階層の魔物部屋の近くまでワープ。

 殲滅ツアーの続きだ。

 

 今日はザビルでターヘラのマリアさんを招いて、翡翠の装飾品販売会をやるので、それまではパワーレベリングだ。

 午後は50階層から始めて、ひたすら殲滅しながら、下の階層へと降りていく。

 かなり単調と言えば、単調な作業。

 だけど、対象となっているメンバーのレベルがガンガン上がっていくから頑張れる。

 

 とりあえずは、カーラの魔法使いをLv50まで上げ、先日加入したばかりのグラシアの剣匠もLv50まで上げる。

 小荷駄隊と輜重隊に一人ずつ入れておくと、育成はかなり捗る。

 メインパーティーには俺しかいないので、追加でシェル達も一人ずつ入れて育成。

 シェルとメリルは魔法使い、ヴェロニカは探索者のジョブを上げたいと希望が出されたらしいので、そちらを集中的に上げていく。

 

 魔法をぶっ放して、オーバーホエルミング&デュランダルで切り刻み、ドロップ品をひたすら拾って、アイテムボックスへと入れていく。

 45階層まで到達した時点で、今日の魔物殲滅ツアーを終了。

 ワープゲートを自宅の玄関に繋げ、戻ることにした。

 

 

 相当汗まみれになってしまったので、風呂でお湯をかぶって汗を流したい。

 自室に戻り、装備を解いて、ワープゲートを直接、風呂場に繋げる。

 誰もいないのを見計らって、風呂へと直行。

 

 汗を流して部屋着になり、ひとまず休憩。

 この後はザビルに行き、翡翠の装飾品販売会を催しに参加する。

 主催はカラダンなので、俺はノンビリと参加して、会計というか取引を行うのみ。

 

・・・・・・

 

 ・・・・・・と思っていた時期が私にもありました。

 装飾品販売会の会場に着くと、確かにカラダンとエネドラ中心に場が整えられ、マリアさんの店の従業員が翡翠の装飾品を所狭しと並べている。

 その傍らでマリアさんが獲物を狙う目で周りを見ている・・・・・・そこまでは予想通りだ。

 

 問題は、そこに並ぶ女性陣の列。何故、俺の前に並ぶのだ!

 いや、冷静に考えてみれば、60日程前に女性陣を労うために同じ催しを開いたのだが、その時にも俺に選べと行列ができていたな。

 それから増えた女性達って、ザビルだけじゃなくてクーラタルも多かったのか。

 合計で30名。ザビル16名、クーラタルで14名もいる。

 その14名分の装飾品を俺に選んでくれと?

 

 ニケのようにマテウスが選ぶのが決まってるのを除くと、ザビルの15名はカラダンが選ぶ。

 だが彼は元々、マリアさんの店で働いていたので、女性に商品を薦めるのはお手の物だ。

 俺はネットでレビュー見て、ポチ買いしかしたことないのに・・・・・・。

 

 いや、選びますよ・・・・・・選びますけどおぉ~。

 カーラやシーナ達の笑顔の為にも頑張りました。

 その前の魔物部屋殲滅ツアーの苦行など、大したことではなかったな。

 

 カラダンも俺の選択に口を出しては拙いと思ったのか、一切助言してくれないしぃ~。

 いや、みんなの笑顔を見ていると、遣り甲斐はありましたけど。ありましたけどぉぉ~。

 

 全員分を選び終えて、嬉しそうな女性陣を横目に、燃え尽きた灰になりかけながら終了。

 揉み手をせんばかりに近づいてくるマリアさん・・・・・・でも本当の闘いはこれからなのだ。

 

 『予算は一人5万~7万ナールで!』と伝えているが、キッチリと7万ナールの商品を従業員は薦めてくるし。

 カラダンの方は、彼の審美眼と目利きに従って選んだのだろう。

 こちらは従業員が薦めてくる品に対し、贈り先の娘に相応しい理由を考えるのが大変だったよ!

 

 従業員が片づけをしている間に、俺はカラダンと共に別室でマリアさんと価格交渉。

 今回の30人分の代金精算についての調整だ。

 

「マリア様、今回の装飾品の代金に充当するものについて、提案がございます」

「ふんっ、聞くだけ聞こうかね」

 カラダンが元雇い主である彼女を『マリア様』呼びするのを聞くと、違和感が半端ない。

 

 聖母というよりは、魔女の集会(サバト)に出てくる魔女じゃない?

 

「迷宮ドロップ品の蝶の羽、蝶の触角、蝙蝠の羽、蝙蝠の爪がございます」

「まあ、ある程度まとまった数なら対価として引き取っても構わないね。

 だけど、それだけで今回の代金全てに充てることは無理だろう?」

 確かに、倉庫を全部ひっくり返して差し出しても、今回の全額には届かないはず。

 

「他にも、迷宮ドロップ品の銀が数十個ございます。貴族用・平民用の石鹸もございますので」

「ほう、銀や石鹸かい。それなら少し考えてもいいかねぇ」

 クーラタルの60階層のボス戦では、銀のインゴットがドロップした。

 

 体感で400~500グラムぐらいの小さめのインゴット。

 ボス周回をしたおかげで、60個ぐらい倉庫に眠っていたので引っ張り出してきた。

 

 その後は、カラダンとマリアさんの間で、そこそこ熾烈な交渉が行われた。

 どの商品がどの程度の価値があるか等といった言い合いだ。

 お金(カルク)が絡まないと、俺の3割引きスキルの出番はない。

 ただ置物のように見ているだけの存在に成り下がった。

 

 マリアさんは装飾のない鏡の取引まで持ち出してきたが、こちらでも利用予定があるので丁重にお断りした。

 その分、高級木材であるタルエムが手に入るかもと言って、煙に巻いておいた。

 いや、将来的には取引する可能性は十分にあるから。

 シャンプーや化粧水を取引材料にする手もあったのだが、まだ公爵領でも浸透してないので、エネドラに時期尚早とダメ出しされた。

 

 

 30人分の代金に3割引をセットした金額から、カラダンの交渉が功を奏して、最終的な支払代金は63万ナールにまで下がった。

 今の俺個人の手持ち資金は300万ナールを超えているから支払には何の問題もない。

 それでも、大幅な金額ダウンとなったのはありがたい。

 カラダンとエネドラには感謝しかない。

 ドロップ品は量が量なので、後日、マリアさんの店に冒険者を派遣して持ち込むことにして、現金のみ先に支払うことにした。

 

 

「また、次の販売会の企画をしておくれよ。期待しているからね」

「まあ、機会があればね(女性陣の人数が増えればね)

 既にタケダ家全体の人数は70名近くになっている。3回目の開催は意外に早いかも。

 

 そうでなくても、午前中にザビルの増築工事の計画をしているのだ。

 もう、水滸伝まっしぐら(108名まで増える)かもしれない。

 

 マリアさんと握手を交わし、クーラタルの自宅に戻ることにした。

 この後、カラダンはマリアさんと夕食を共にすることになっている。

 ただし、ザビルの拠点ではなく、ザビルの街で店を予約して接待するらしい。

 

 俺は別の予定が入っているので、マリアさんとの夕食会には参加せず、代わりという訳ではないが、護衛としてニケとピコが付くことになっている。

 ピコは、まあ勉強のためだな。

 本当は今日は休みなのだけど、本人がやる気なので止められない。

 

・・・・・・

 

 クーラタルの自宅で、アミル、ミラ、サンドラの鍛冶師娘達と合流。

 三人を俺のパーティーに加え、帝都の冒険者ギルドにワープで移動。

 ギルドを出て、向かう先は帝都のバルドルフ宅だ。

 

 帝都の鍛冶師協会へ防具納品の際に、フランツ会長からバルドルフ邸の地図をもらった。

 地図だけでなく、ルッソまでもらっていたりする。

 

 隻眼のバルドルフがドブローから帝都に戻ることに俺が一役買った、その礼という扱いだ。

 俺が飲む訳ではないから、主にバルドルフとパミラさんのためなのだろうけど。

 そして、今日はせっかくの機会なので、隻眼に我が家の鍛冶師三人を会わせる企画を立てた。

 若干、三人の酒癖が気にならなくもないが、虎穴に入らずんば・・・・・・というやつだ。

 

 フランツ会長からもらった地図を頼りに、帝都の街を歩く。

 索敵のマップとナビゲーションシステムが連動してくれればと、いつも思うが、そんな便利な機能はない。

 地図を見ながら、ひたすら歩くしかないのだが・・・・・・目的地ってこれか?

 

 見た目、結構な邸宅に見えるぞ。

 門番だけでなく護衛も数人いるな・・・・・・さすが帝国に二人しかいない隻眼様ということか?

 ドブローに住んでいた時の小さな住居はなんだったのだろうかと思うのだが。

 まあ、あの家も目の前の大邸宅に比べれば小さいというだけで、バルドルフ夫婦二人だけなら十分デカいのだけど。

 

 門番にフランツ会長からもらった紹介状を渡して、待つことしばし。

 隻眼様自ら迎えにきてくれた。

 

 俺が木箱を抱えているのを見て、彼は微妙な表情を浮かべている。

 まあ、言いたいことは分からなくもない。

 だが、手ぶらで来る訳にもいかないし、酒以外の土産が思いつかなかったのだよ。

 貰い物なのだけどね。ただ、パミラさんの機嫌は絶対に良くなるはずだ。

 

 ミラと他の二人の酒癖によっては、俺とバルドルフは窮地に追い込まれるかもしれないが。

 

「こっちだ・・・・・・」

「どうも」

 一応は歓迎してくれているのだろうか。

 

 念のため、事前に鍛冶師協会を経由して、訪問することは伝えてある。

 そのおかげで、ルッソをフランツ会長から貰ったのだけど。

 

 門を通り抜け、俺達四人はバルドルフの後に付いて、邸内を歩いていく。

 広いけど、あまり生活感がないな・・・・・・というか、建物がデカくて頑丈に見えるから、そう感じるだけなのかも。

 別に庭園がある訳でもなく、最低限の植木に簡素な通路だな。

 警備のやり易さを優先しているのか、バルドルフに庭を愛でる趣味がないのか。

 まあ、後者だろうな。そんな風には全然見えないし。

 

 案内された先は、会議室のような応接室か。

 

 席を勧められ、俺達四人は豪華なソファに腰を下ろした。

 俺の正面にバルドルフが座り、初対面のアミルとサンドラの紹介をした。

 二人は少し緊張しているようだが、なんとか挨拶を終える。

 そんなに緊張するものなのかね。まあ、憧れの隻眼様なのだから仕方ないのか。

 

「鍛冶師を三人も抱えているのか?お前、変わってるな?」

「ああ、よく言われるな」

 鬼神ジョブだが、奇人ではないつもりなのに、度々その指摘を受ける。解せぬ。

 

 

「先に用件を聞いておくか?この後、訳が分からんことになるかもしれないからな」

「訳が分からんって・・・・・・まあ、あり得るのか。

 実は見てほしいものがある、というか、聞きたいことがあるんだ。

 これだな・・・・・・」

 アイテムボックス操作の詠唱をして、聖剣を取り出した。

 

 デュランダルでもなく、エクスカリバーでもない、おばば様からもらった無印の聖剣だ。

 

「これか・・・・・・これは、俺が作ったものだな」

「そうか。なんとなく、そんな感じはしていた。だから、ここに来たのだけど」

 聖剣を見るなり、彼は渋い顔をしている。

 

「俺の配下の者に使わせたが、立派そうな割にはダマスカス鋼の剣よりも威力が無さそうでな。

 使い方が分からないので、詳しそうな者に教えてもらおうと思ったのだ」

「そうか・・・・・・まあ、若気の至りというやつだな」

 若気の?・・・・・・それはどういう意味だ。

 

「お前は聖槍が大好きだったな?」

「大好きって・・・・・・別にそういう訳でもないが」

「うちから、何本も聖槍を持っていったじゃないか。

 正直、聖槍を何本も持ってる奴なんて、そうはいないぞ」

「我が家には魔法を使いながら、槍も振り回せる猪口才な奴等がいるのでな」

 聖槍を褒めているつもりなのに、彼の表情は渋いままだ。

 

「俺も先代の隻眼の師匠から、聖剣の作り方を教わってな。かなりの数を作ってみたんだ。

 だが、実際に使った奴に確認すると、エラく不評でな。

 今や、倉庫には使われない聖剣が山ほど眠っているんだよ」

「不評というのは、具体的には?」

「今さっき、お前が言った通りだ。剣としては威力が足りないってことだな。

 もっとも、これは魔法の攻撃力を高める効果がある。

 だから、魔法使いが持つ分には、それなりに効果はあるはずだ」

「魔法使い用の武器なのか?剣なのに?」

 俺の質問に彼は一層渋い顔をした。

 

「聖槍が魔法の攻撃力を高めるのだから、同じ素材で作られた聖剣も同様の効果があるとか?」

「まあ、そんなところだ」

 ふーん。

 

 

「だから、若気の至りだって言っただろうが・・・・・・」

「まだ、俺は何も言ってないぞ」

 『武器の名前に惹かれて、いっぱい作ったのね?』って喉元まで出かかったけど。

 

「そんな訳で、あまり出回ってない。正直、お前がそれを持っていたのに驚いたぐらいだ」

「なるほど。だから、あまり見かけなかったのか」

 聖槍と同じということは、聖剣も最大の空きスロットの数は5つなのかもしれない。

 

 さすがに『空きスロットの最大数は同じか?』とは質問できないけど。

 

 ここで、アミルが小さく右手を上げて、発言の許可を求めてきた。

 バルドルフが彼女を見ながら、無言で頷く。

 

「あの・・・・・・後学のために、聖槍と聖剣の鍛冶素材と数を教えて下さい」

「この嬢ちゃんは、隻眼を目指しているのか?」

 彼はアミルの質問には答えずに、俺に逆質問をしてきた。

 

「そうだ。おかしいと思うか?」

「いや、全然。それなら教えてやるが・・・・・・」

 

 彼は必要な鍛冶素材と数、それとクーラタル迷宮でドロップする階層まで教えてくれた。

 アミル達三人は懸命にメモを取っている。

 

「85階層・・・・・・だと」

「そうだな。だから、聖槍や聖剣の素材も、ここにはあまりストックがない」

 85階層なら、確かにそうなるだろうな。

 

「それは、初代皇帝のパーティーが入手した鍛冶素材しかないからか?」

「初代皇帝だけではないが、その階層で戦える者は少ないからな。

 しかもボスモンスターのドロップだから、入手までに時間がかかる」

 確かに俺達みたいに、ボスマラソンが自由自在にできる訳じゃないから仕方ないのか。

 

「にもかかわらず、聖剣をたくさん作ったのか・・・・・・」

「だから、若気の至りだって言っただろうが!」

 触れてはいけない事だったようだ。

 

「剣を持って戦う魔法使いなんて、いないからな。持つとしても聖槍までだろう?

 だから、ここに限らず倉庫に眠ってるんだろうよ」

「なるほど」

 我が家に約一名、剣を持つとテンション爆上げになる魔法使いジョブ持ちがいたような・・・・・・。

 

 そして、聖剣はラ●トセイバーになったり、ソニックムーブを放つような能力もないと。

 まあ、そんなの剣聖や魔法使いが使うイメージではないから当たり前か。

 最近、ヨ●ダに似た奴を見たので、どうしてもス●ーウォーズの知識に引きずられてしまう。

 聖剣だから、剣聖が使うと思ってしまったのも安直だったか。

 

 

(コン、コン、ガチャ・・・・・・)

 

「あら、お客様をいつまで、ここで待たせるつもりなのかしら?」

「あっ、いや・・・・・・」

 パミラさんがノックして、こちらの反応も確認せずに入室してきた。

 

 もはや、バルドルフのターンは終わった。ここからはずっとパミラさんのターンのようだ。

 

「もう、準備はできてますから」

「・・・・・・」

 このパターンって、グラ爺が我が家に押しかけてきた時のエネドラに似ているような。

 

 準備って何?・・・・・・と確認する間も与えられずに、パミラさんは木箱を抱えて案内を始めた。

 もはや、我々五人は付いていくしかない。

 

 :

 :

 :

 

 そこからは、なかなかカオスな状態になった。

 宴会の準備がされていた会場で、乾杯から30秒でミラが酒乱状態に移行。

 前回を踏襲して厨房に退避しようと試みたものの、既に料理が十分に準備されていたため、俺は逃亡に失敗。

 なるべく、バルドルフの傍にいるのが精一杯の回避行動だった。

 

 アミルは酒があまり強くないらしく、三杯目のルッソで早々に沈没して、俺にもたれかかった状態になった。

 酒臭いのだが、可愛いから許す!

 

 サンドラだけは、パミラさんに負けず劣らず、杯をドンドン重ねていただが、完全な素面のようにしか見えない。

 彼女は大変な酒豪であることが発覚。

 非常に頼りになりそうだが、一線を越えたらリバウンドが怖いかもしれない。

 

 ちなみに、パミラさんは酒が好きなだけであって、強くもなんともない。

 早々に酒乱モードになったし。

 むしろバルドルフの方が強かったりする。

 酒の強さと夫婦間の力関係は必ずしも比例しないということだな。

 

 俺は帰りのフィールドウォーク(タクシー)のため、酒は一切拒否して、酒の肴を水で流し込んでいる。

 くどいようだが、ドワーフ族が言うところの『水』ではない、ただの水だ。

 

 対面に座るバルドルフと鍛冶師ネタで盛り上がる。

 いかにして最高の剣を作るための努力をしているか・・・・・・といった苦労話が面白い。

 是非、アミルにも聞かせたかったのだが、横で眠っているので、起こすのは忍びない。

 

 サンドラはパミラさんの訳の分からない話に真剣に寄り添っている。真面目だ。

 いや、我が家の鍛冶師三人は全員真面目なのだが、意識を保っているのが彼女一人だけなので。

 ミラも意識はあるようだが、酒乱状態なのでノーカウント。

 明日になったら、記憶に何も残ってないだろうし。

 

「それにしても、隻眼を目指しているのか。並大抵の努力ではなれないぞ」

「そうだな。だが、いずれは達成できると俺は信じているぜ」

「そうか。だが、なんとなく察しているかもしれないが、隻眼になると制約も多くなる。

 それは注意しておくべきだな」

「なるほど」

 公式な隻眼だと、国から保護される半面、自由に制約を受けるのだろうな。

 

 その割には、帝都の鍛冶師協会の会長と揉めて、ドブローに出奔していた気もするが。

 

「まあ、喧嘩の一つぐらいはできるがな」

「・・・・・・」

 俺の心を読むんじゃないよ。

 

 意外に空気が読める男だったのか。いや、パミラさんに鍛えられたに違いない。

 

「まあ、そんな訳で、母ちゃんにも迷惑をかけることがある。

 今日はガス抜きになっただろう。正直、助かった」

「そんなものか」

 まあ、隻眼も見えない所で苦労していると。

 

 大邸宅に住んで、全てに薔薇色の人生って訳でもないのだな。

 アミル達は非公式の隻眼になってもらうかな。

 あまりに若いうちに隻眼になると、怪しまれるし。

 

「感謝のついでに今日も土産を持って帰ってくれ。

 聖槍でも聖剣でも好きなだけ持っていって構わん」

「・・・・・・」

 聖槍はともかく、聖剣は不良在庫の処分ではないのか?

 

 まあ、せっかくなので、その二つは鑑定でチェックさせてもらうけど。

 

 他人から貰ったルッソで、隻眼様作成の武器を持ち帰ると思うと、少し後ろめたい気もする。

 いや、身を挺して宴会に参加しているのだから問題ないか。

 バルドルフからも、『感謝』の言葉をもらったしな。

 

 アミルを起こさないように静かにソファに横たえ、俺とバルドルフは脱出に成功。

 そうだ。倉庫に行くのは俺だけのためではなく、彼のためでもあるのだ。

 既に沈没したミラに代わって、サンドラがパミラさんの相手をしてくれているのが、とっても助かっている。

 

 :

 :

 :

 

「ここだ。この倉庫には聖槍と聖剣だけが収納されているので、好きなだけ持って帰ってくれ」

「本当に大丈夫なのか?

 これって、帝国で管理されているのじゃないのか?」

 

「問題ない。ここにあるのは、国の管理から外れた余剰品扱いのものだ。

 国に報告している聖槍は、別の正式な倉庫の方にあるからな」

「なるほど」

 聖槍は価値があるけど、聖剣は価値が認められてないから、余剰倉庫にしかないのか。

 

「分かった。じゃあ、ちょっと見させてもらうよ」

「ああ、好きなだけ持っていってくれ。

 作ってばっかりだと、この倉庫はドンドンいっぱいになってしまうからな」

 

 そのまま倉庫に入ったが、バルドルフはどこかに行ってしまった。

 なんだ、ここでパミラさんからの魔の手をやり過ごすのかと思っていたのだが。

 

 入ってみると、彼が倉庫に入らなかった理由が分かった気がする。

 ちょっと、ここに置いてある武器は、見栄えというか形状が趣味に走り過ぎてないか?

 聖槍と言いながら、三つ又の槍みたいなものがあるし、偉く豪奢な装飾を施した聖剣がある。

 

 これは確かに『若気の至り』だな。

 バルドルフの黒歴史とも言えるかもしれないし、国に報告はできないのかも。

 これだと、おいそれと他人の手に渡したくもないだろうな。

 俺達ならいいのかというのは置いておいて。

 

 とりあえず見栄えは無視して、ひたすら鑑定をかけ、空きスロットの多いものを確認。

 聖剣・・・・・・数が多いな。そして、木刀のようなシンプルな形状から、ゴージャスな見栄えのものまで、見てるだけでも飽きさせない。

 っていうか、武器に対するバルドルフの拘りというか、『愛』を感じるな。

 真剣に見ていると時間が無くなってしまうので、空きスロットだけに注目するけどさ。

 

 

 それにしても、この倉庫デカい!・・・・・・こんな倉庫がいくつあるのだろうか。

 入口から入った時には分からなかったけど、奥行きが凄いわ。

 カンテラで照らしながら入っていくと、奥の方まで見えないし。

 

 ひらすら鑑定して、以下をチョイス。

 

聖剣(空5)2、聖剣(空4)4、聖剣(空3)6

聖槍(空5)2、聖槍(空4)3、聖槍(空3)5

 

 さすがにこれだけ数があると、空きスロットが4つ以上のものが結構見つかった。

 空きスロットが3つのものを、もっと持って帰っても構わないのだろうけど・・・・・・アミルが隻眼になるのを信じて待つか。

 あまりに奇抜な形状は、悪目立ちするから遠慮させてもらったよ。

 

 素材収集にはクーラタルの85階層に挑まなければならないのか・・・・・・道のりは遠いな。

 クーラタル迷宮の最高到達階層は91階層だったっけ。それよりは低いとはいえ。

 剣聖への道も遠いが、聖剣への道も遠いと。

 それにしても、これだけの数を作るのには、相当の鍛冶素材を使った(無駄にした)のではないだろうか。

 

 手にした聖剣や聖槍を、入口の傍まで運んでいると、バルドルフがやってきた。

 

「やっぱり、聖剣を持って帰るのか?それと聖槍も。お前、やっぱり変わってるわ」

「いや、製作した者にそんな事を言われるのは心外なのだが」

 俺が凝った形状の聖槍を指差すと、彼は嫌そうな顔をした。

 

「早く、アイテムボックスへ仕舞ってくれ」

「へいへい」

 仕方なく、二十本程の武器を収納。

 

「さっきパミラ達の所を、コッソリ覗いてきたけど、

 お前の連れてきた鍛冶師の娘が一人でルッソを飲んでいたぞ」

「マジかよ。じゃあ、もうお開きだな」

 サンドラ、酒強いな。

 

 :

 :

 :

 

 宴会場に戻ったら、確かにサンドラがルッソをチビチビと飲んでいた。

 

「あっ、ご主人様、お帰りなさいませ」

「ああ、サンドラはあまり酔ってなさそうだな?」

「はい。美味しいお酒ですから、全然酔いが回らないみたいですね」

「そうなのか」

 安酒だったら、酒乱になったりするのだろうか・・・・・・試してみる気はないが。

 

「じゃあ、これで俺達はお暇するので」

「ああ、また気が向いたら遊びに来てくれ」

 バルドルフだけでなく、意識を失っているパミラさんにもお辞儀をして帰宅することにした。

 

 俺がアミルをおんぶして、サンドラがミラを背負った。

 ドワーフにしては長身なミラを背負っても、サンドラの足取りはしっかりしている。

 さすがは力持ちのドワーフ。そして、ルッソごときではびくともしないと。

 今度から、鍛冶師で酒の席に呼ばれた時は、サンドラを連れていくか。

 原作で皇帝が言っていた『剛の者』って、サンドラみたいな人なのかね。

 

 バルドルフが移動用の絨毯がかけられた場所まで案内してくれた。これは助かるな。

 

「じゃあ、また気が向いたら、顔を出してくれ」

「ああ、装備品(土産)、ありがとうな。我が家で使わせてもらうから」

 聖剣の話題を振ると、少しだけ嫌そうな顔をするバルドルフ。ちゃんと使うからさ。

 

 フィールドウォークの詠唱をしてゲートを開き、彼にもう一度会釈をして四人で帰宅した。




お読みいただき、ありがとうございました。

サンドラはキャラ決めした時には、酒豪キャラの予定ではありませんでした。
名前を何度か見てるうちに『Sanity + Drunk』・・・・・・もう、酒豪でいいかって気分になりました。
実際の英語では、酒豪は『Heavy Drinker』等らしいですけど。

次回投稿日は2026/7/1(水)の予定です。
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