バルドルフの邸宅で宴会をした翌朝、修練場でアミルにひたすら謝られた。
「ご主人様、昨晩は本当に申し訳ありませんでした。酔いつぶれて、運んでいただいたなんて」
「別にそんなこと、気にしなくても大丈夫だ。
ミラもサンドラが介抱していたし。
もう、アミルは完全に酒が抜けているのだろう?」
「はい。もう大丈夫です。迷宮に行っても全く問題ありません」
「それなら、もう謝らなくてもいい。
たまには酒を飲んで、解放的な気分になるのもいいじゃないか」
昨晩の酔いつぶれていた彼女は結構、可愛かった。
バルドルフがいたから、チラ見しかできなかったけど。
そんなことより、話題を変えた方がいいな。
「それより、昨日はお土産に、バルドルフから聖剣と聖槍を沢山もらったんだ。
ちょっと癖のある形状の武器だけど、倉庫に入れてあるから確認してみたらどうだ?
ひょっとしたら、何か武器を作る上での参考になるかもしれないぞ」
「そうだったのですか。それは楽しみです。ミラちゃんとサンドラさんも誘ってみますね」
そうそう、そんな感じでポジティブに行こう。彼の黒歴史も役に立つ。
「聖剣は、カーラのために知力2倍でもスキル融合するべきかな?
今日の迷宮探索では、彼女は魔法使いジョブで参加してもらう予定だ。
迷宮で彼女の動き確認してからの方が良いかもしれないが」
「そうですね。魔法使いが剣を使うのは、ちょっと想像できないですけど。
ラファちゃんは聖槍を使っていたので、牽制やMP回復に便利だとは思いましたけど」
まあ、カーラはカーラで規格外だからなぁ。
魔法使い用の武器として、ひもろぎのスタッフがあるから、まずはそれを使わせる予定だ。
その結果次第で、聖槍か聖剣を使わせるのを考えるか。
「おぬし、何を油を売っておる?。鍛錬に精を出さんか!」
「おっと。アミル、その話はまた後でな」
アミルとおしゃべりしてたら、グラ爺に怒られてしまった。
昨日から注意されている重心の移動方法と、手首の使い方に注意しながら、四本の腕で次々と素振りをする。
手首を柔らかく、手首身を柔らかく・・・・・・と。
グラ爺はミラの指導をしながら、俺がまたさぼらないように監視している。
ミラも昨晩の酒は完全に抜けたようで、おかしな所は無さそうに見えるな。
彼女は防御時の盾の使い方と剣での反撃方法を習っているようだ。
何か発見があったようで、彼女も楽しく試行錯誤しながら、盾を構えて指導を受けている。
グラ爺は剣だけでなく、盾も教えられるのは心強いな。
やっぱり、この爺さんは凄いわ。素直に尊敬してしまう。
ミラの指導に一区切りついたようなので、前から気になっていたことを話しかけてみた。
「カーラのことで聞きたいことがあるのだけど・・・・・・」
「なんじゃい。口を動かさずに、もっと手と腰を使わんかい!」
言われた通りに、重心に注意しながら、木刀を振るう。
「こんなに丁寧に理論的に教えられるのに、
なんでカーラの動きというか、彼女の考え方は感覚的なんだ?
剣や戦い方の話を彼女にしても、なにか要領を得ない説明をされるのだけど」
「あやつには言葉は通じても、話が通じないからじゃ。
だから実演しながら、感性に訴えるように説明せんと全く理解せんからのう」
なんだ、グラ爺も匙を投げたのか。それはそれで凄い話だな。
「なにか、『考えるより感じろ』みたいに教わったとか言ってたぞ」
「それしか方法がなかったからじゃ」
それで、あそこまでの避けタンクが育つのか。結果よければ全てよし?
「ひょっとして、グラ爺の弟子のグラシアも同じような感じなのか?」
「ほれっ、また手首がダメになっておろうが!
グラシアは、おぬしと同じで頭でっかちじゃな。
余計なことを考え過ぎて、飲み込みが悪く、反復練習を重ねながら覚えていくタイプじゃ」
手厳しいけど、図星だな。
カーラと違って、グラシアは俺と同じ凡人枠ってことなのだろうか。
ちょっと親近感が湧いたぞ。
「ほれっ、口を動かしてばかりじゃなくて、体全体をもっと使わんか!」
「はーい」
今は、とにかくグラ爺の言うことに従って、できる限りのことを吸収しよう。
自分流にアレンジするのは、もっと基礎を固めてからにしないとダメなのだろうな。
無言で素振りを繰り返していると、別の者へ教えるため、グラ爺は離れていった。
・・・・・・
朝食を終えて、ボーデ迷宮の49階層へ。
予定では、今日中にボス部屋を見つけて、明日から50階層に挑むつもりだ。
そして、今日から暫くの間、魔法使いとしてカーラに参加してもらう。
この階層はボトルマーメイドとブラックダイヤツナが多いので、弱点属性の土魔法を使うことが多くなるだろう。
その説明をカーラにしたのだが、彼女の表情は冴えない。
ひもろぎのスタッフを持つ手が重そうだ。
俺のセブンスジョブの効果も乗っているから、別に重量的には問題ないと思うのだが。
戦闘になると、彼女はちゃんと魔法の詠唱をして、魔法攻撃を行なっている。
いや、魔法使いだから、当たり前と言えば、当たり前なのだが。
ただ、いつもの剣を振り回す姿からすると、足を止めて大人しく魔法を詠唱している姿に違和感を覚えてしまう。
エルフの魔法使いと言えば、ファンタジーものの定番なのに。
まあ、眼帯しているからなぁ。魔法使いにはちょっと見えないか?
たまにサンドボールを放っているけど、眼帯で命中精度を向上させるつもりなのだろうか。
範囲魔法と違い、単体攻撃魔法は必中ではないので、目を鍛えるのは意味があるのかなぁ。
ただ、サンドボールの命中率は心なしか悪い気がする。
最近、俺の方はサンダーストームが多くて、ボール系の魔法をほとんど使っていない。
俺だってボール系魔法を百発百中という訳でもないから、あまり彼女のことをとやかく言える立場でもないのだけど。
それでも、普段の剣の高い技量を見ているせいか、ボール系魔法で苦戦している彼女は新鮮に見えてしまう。
戦い全般が得意という訳でなく、苦手なものや経験の足りない分野もちゃんとあるのだな。
それが普通といえば普通なのだけど。
普段から常人と違う行動を取るだけに、魔法攻撃も器用にこなすのだろうと勘違いしてたわ。
魔法をそれなりに使った後、石化したモンスターからMP回復する際は、俺のデュランダルを貸してやっている。
彼女に渡したひもろぎのスタッフには、MP回復のスキルが融合されてないから。
デュランダルを渡すと、途端に彼女の機嫌は良くなる。
嬉しそうにデュランダルを両手で持って、石像を砕いている。
そして、MP回復が終わり、デュランダルから、ひもろぎのスタッフになるとダウナー状態。
デュランダルはあくまでMP回復用だ。
別に魔法攻撃を強くしてくれる訳ではないから、貸す訳にはいかない。
元の世界では、デュランダルは聖剣扱いだが、こちらの世界では厳密には聖剣ではない。
鑑定しても、ただの両手剣と表示され、聖剣の文字はどこにもない。
武器生成時に必要な素材は、ひょっとしたら聖剣と同じ可能性があるのかもしれないけど。
だが、デュランダルを作り出すための必要素材は分からんからなぁ。
カーラは武器交換時に鬱と躁の状態を交互に繰り返している。
こんなので大丈夫なのだろうか。
魔法攻撃自体は、それなりにダメージを与えている。
高レベルジョブの所有者である俺の雷魔法よりは威力は低いとはいえ。
動きを見ていると、ついつい前の方に踏み出そうとするので、俺やアミルが注意しながら踏みとどまっている状況。
表情も本当に冴えないなぁ・・・・・・眼帯をしてない左目の方は情けなく、へにょんと垂れ目状態。
そこそこの数、戦わせた後、ひもろぎのスタッフから聖槍に武器を変更させた。
槍を持たせた方が、若干生き生きしているようにも見える。
それでも、前衛として前に出る訳ではなく、後ろから槍で突くのだが、他の前衛陣が強力なので、彼女の出番は少ない。
槍はリーチが長い分だけ邪魔になるので、前衛陣に割り込む訳にはいかない。
それでもボール系魔法の方は、槍を突き出すような感じで放っているおかげなのか、ひもろぎのスタッフよりは心持ち命中率が上がった気もする。
ほんの少しだけどね。誤差かもしれないけど。
アミルが、こちらに寄ってきて、小声で話しかけてきた。
「カーラさん、大丈夫でしょうか?あの表情は、ちょっと心配になります」
「そうだな。モンスターの攻撃も受けてないし、魔法攻撃自体は、そつなくこなしてるのにな」
剣を握ってる時と、スタッフを握ってる時のギャップが酷い。
「これは、やっぱり聖剣に知力2倍をスキル融合した方が良いのでしょうか?」
「魔法攻撃の威力は、ひょっとしたら変わらないかもしれないが、
カーラの精神衛生上、そうすべきなのかもしれないなぁ」
本人は頑張ると言っていたが、これだと無理やり頑張っている感じだよな。
「悪いが、昼食後に融合を頼めるか?空きスロットが3つの聖剣を使ってくれ。
MPは大丈夫だと思うが、念のため強壮丸を数個飲んでほしい」
「はい。分かりました。お任せ下さい」
アミルはニッコリと笑っている。
彼女なりに、やはりカーラのことが心配だったのだろう。
それにしても、我ながら
彼女が魔法使いを頑張ると言ったとはいえ、あからさまに落ち込む姿を見るのは、どうにも忍びないのだよなぁ。
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ひもろぎのスタッフよりは、聖槍の方がマシだったようで、躁鬱の落差は小さくなった。
とはいえ、カーラはフラストレーションを溜めているようにも見える。
一方で、49階層の探索は順調に進んでいる。
今のヴィルマ達が49階層のモンスターに後れをとるようなことは無い。
それでも午前中にボス部屋の発見はできずに探索は中断し、自宅へと戻ることにした。
・・・・・・
昼食を終え、49階層の探索を再開。
まずはカーラの武器交換からだ。
「カーラさん、これを・・・・・・」
「アミル殿、これは、剣じゃないか!
ユキムラ殿、やはり私には剣を振るうのが性に合ってるから・・・・・・」
聖剣を掴むなり、カーラのテンションは爆上げ状態になった。
だけど、カーラよ。お前は先日、その聖剣にダメ出しをしていなかったか?
もはや、剣ならなんでもいいのか?
ひもろぎの聖剣 両手剣
スキル 知力2倍 攻撃力2倍 MP吸収
アミルが用意してくれた聖剣は3つのスキルが付与されているので、前に比べるとそれなりに豪華になった。
スキルは見た目では分からないから、使ってみてから実感するのだろうけど。
だが、前衛用の武器としては、タケダ家の標準装備と比べて一段階落ちるレベルだろうな。
ダマスカス鋼の剣やエストックにスキルを付与した方が物理攻撃力は高いかも。
バルドルフの話では、スキルを付与してなくても聖剣は魔法攻撃の威力を高めるらしい。
『知力2倍』のスキルを付与したのだから、魔法使いが利用する分には強力かもしれない。
少なくとも、ひもろぎのダマスカス鋼槍よりは魔法攻撃力は上だろう。
聖槍に『知力2倍』のスキル付与したものと同じくらいなのかな。
「落ち着け、カーラ。それは聖剣だ。この前、少し使っていただろう?
この剣は魔法の攻撃力を高めてくれる効果があるらしい。
魔法使い用の武器として、アミルがスキル融合してくれた。
その剣は、午前中に使っていたスタッフと違い、MP吸収の効果も付与されている。
だから、その剣を使って、MPの回復することができるぞ」
「ユキムラ殿、この剣を使っていいのだな?」
カーラよ・・・・・・お前、自分に都合の良い言葉しか耳に入らないのか?
朝練の時にグラ爺が言っていたのは、こういうことなのだろうか。
グラ爺・・・・・・こんな時に言葉でなく、身振り手振りで感覚的に伝えるのはどうしたらいいのだ?
俺にはさっぱり分からん。
「ユキムラ殿、この剣を本当に使っていいのだな?」
「ああ、まあ少しだけならな」
剣を持つと、カーラの圧が途端に強くなった。
少しだけだぞ・・・・・・本当に少しだけ。少しだけだから。先っぽだけだからな。
聖剣を持つカーラが恍惚とした表情となっている。
心なしかアミルの俺を見る目が冷たいような・・・・・・解せぬ。
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聖剣を持ったカーラは、魔法使いなのに獲物を狙う狩人のようになってしまった。
いや、ちゃんと魔法も放っているのだけど。
サンドストームも、サンドボールも撃つけど、隙あらば聖剣で斬撃を入れようとする。
今もヴィルマの相手しているボトルマーメイドの膝にサンドボールをぶつけている。
上手くモンスターのバランスを崩しそうな箇所に当てるようになったなぁ。
ワンドと同じように、聖剣を突き出して、刺突をするようにしてサンドボールを放っている。
あれが、実は命中率を上げる秘訣なのだろうか。
午前中より、明らかに効果的なボール魔法を放っている気がするぞ。
剣を持つと人格が変わるとか、ちょっとヤバイ奴に見えてしまう。
遠間からで、剣自体は届かない距離から突いているから、ボール魔法が飛んでいかないと、ただ素振りしているようにしか見えないけど。
それとも、剣が届かないからボールを当ててますって感じなのだろうか。
回避に自信があり、かなり近づいてからボール魔法を放つと、ほぼ必中攻撃になっている。
本当は、剣でそのまま斬りかかりたいのではないかと、疑ってしまうのだが。
サンドストームで全体攻撃をする選択もあるのだが、石像が増えてきてアクティブなモンスターが減ると、カーラの今のやり方も実は効果的に思えてきた。
ヴィルマやイレーネといった前衛陣のアシストになるように上手く立ち回っている。
これは、自分が前衛で剣を振るう立場だから、どうやったら効果的な崩しになるのか分かっているからじゃないだろうか。
釈然としない部分はあるけど、効果的な連携ができて、モチベーションアップにもなってるから、このまま様子見するか。
残念人魚のボトル顔に横からボールを叩きつけて援護したり、オリビアの対峙している奴の背中の部分にサンドウォールを立てて、彼女の槍二刀流とのサンドイッチ攻撃までやっている。
なんか、魔法使いの新たな戦い方を見せてもらってる気もするな。
近接戦闘も得意な稀有な魔法使いしかできない芸当だと思うけど。
「カーラ、魔法使いを上手くこなせているな。暫くはこのままやってみるか?」
「いや、ユキムラ殿、私は魔法使いとしては全然ダメなのだ。だから、あまり期待しないでくれ」
「それは、もっと練習が必要だということか?」
「そ、そんなぁ・・・・・・」
あまり苛めるのは止めておくか。
それでも、魔道士のジョブを得るためには、もっと魔法使いとしての実戦を経験してもらう必要があるのだよなぁ。
ラファやドロテアもそうだったけど、魔法使いLv50で暫く経験を積まないと、魔道士のジョブを取得できなかったのだから。
「まあ、迷宮討伐戦では剣匠のジョブで戦ってもらう予定だ。
だが、魔法使いでの経験もちゃんと積んでもらうぞ」
「わ、分かった。頑張るから、迷宮討伐の時は魔法使いは無しだぞ」
聖剣を持たせれば、魔法使いでもいける気もするが、ラファがいるからなぁ。
そういえば、原作ではゴスラー騎士団長がシモンを倒すのに魔法がどうとか言っていたな。
遠距離からボール攻撃をブチ当てるのだろうか。
回避能力が高ければ、普通に避けられてしまいそうな気もするが。
シモンは狼人族だし、剣技は高そうな記述だったから、回避能力もありそうに思えるけど。
ゴスラー騎士団長は、ああ見えて、対人戦では近距離でボール魔法をぶっ放す程の手練れなのかもしれないな。
こんど、うちのカーラと魔法を使った模擬戦でもやってもらうか。
いや、魔法だと木製武器のような手加減ができないから無理か。
カーラなら、ハルツ公やゴスラー騎士団長に『あれっ?これくらいは回避されると思ったのだけど』と言いながら、全力でボール魔法を当てかねないよな。
いや、俺とカーラで模擬戦をやるのだったらアリだろうか。
お互い魔法使いLv50のままで、複数ジョブの効果無しでやるならどうだろう・・・・・・危険かなぁ・・・・・・主に俺が。
今は考えるのは止めて、後でグラ爺に相談してみよう。
「カーラ、そんなに無理に突っ込んで、聖剣を当てなくてもいいのじゃないか?」
「え、MP回復のためだから・・・・・・」
「石化してからでも、十分だろう?」
「ユキムラ殿、私は経験の少ない魔法使いなのだ。だから直ぐにMPが枯渇してしまう」
ホントかよ?
お前は昨日のパワーレベリングで魔法使いLv50に達しているし、なんなら俺のセブンスジョブの効果も乗ってるはずだぞ。
しかも、MP回復と称しながら、モンスターの攻撃をわざと誘発して、回避した上でしっかりカウンターもキメてるし。
それでも、しっかりと
前衛陣の邪魔はしてないから、特に喧嘩にはなっていない。
聖剣の攻撃力が低いから、獲物を奪われたとクレームも発生せず。
これって魔法使いを卒業して、魔道士になったとしても、このままなのだろうか?
今と同じく聖剣を振り回している姿しか想像できないよなぁ。
うーん・・・・・・『うちの魔道士が聖剣を振り回して、避けタンクをやりたがる件について』
このタイトルでラノベが一本書けそうだな。
『
カーラは動きのキレも戻ってきたし、魔法の詠唱頻度も若干だが上がっただろうか。
魔法使いの動きに、キレが必要かというとなんともだが。
それはともかく、カーラも含め、みんな気分よく迷宮探索ができるようになった。
アミルも苦笑いしているが、彼女が用意してくれた武器が役に立っているから結果オーライだ。
次の迷宮討伐は論外としても、カーラを『避けタンク魔法使い』として運用するのはアリなのだろうか。
自分でも何を言ってるのか、分からなくなりそうだが・・・・・・所謂ファンタジー物に出てくる『魔法剣士』とは、ちょっと違う気もするなぁ。
彼女は魔法攻撃があまり好きではなさそうだし。
それでも、迷宮ボス戦では魔法使いだって、回避能力が高い方が有利だ。
剣聖や獣戦士系のジョブで、避けタンクをするのがスタンダードとは思うけど。
:
:
:
順調に探索は進み、ついにボス部屋を発見。
やっぱり45階層以降は探索に時間かかるな。
こいつをクリアしたら、運が良ければ、あと一階層で迷宮ボス戦か。
多くても、あと二階層で終わりだろう。
まずは、ブリーフィングから。
「49階層のボスモンスターはレイジマーメイドで、カーラ以外は既に何度も戦った相手だな」
今回のボス戦は俺は積極的には参加せずに、皆に任せたいと思う」
「ご主人様、迷宮ボス戦を見据えての対応ですか?」
「そうだ。迷宮ボス戦は俺が参加しない予定だからな」
「主、任せてくれ!」
他の三人もコクコク頷いている。
だが、カーラ、今、お前は魔法使いなのだぞ。
さり気なく前衛アピールをするんじゃない。
「今回の階層ボス戦、カーラは魔法使いでの役回りだからな」
「えっ・・・・・・」
そんな、この世の終わりのような顔をするんじゃないよ。
「ただ、お供を一匹受け持ってもらうから、前衛も兼ねる。
ただし、サンドストームを使うのを忘れるなよ」
「大丈夫だ。任せてくれ、ユキムラ殿」
今の『任せてくれ』は、
「数日後に予定されている迷宮ボス戦の編成は、かなり特殊だ。
前衛が四人で、魔法使いのラファと探索者のアミル、治療を施すジョブはいない。
HPの回復は武器のHP吸収と生薬に頼った戦いになる。
だから、今のうちにそれに慣れてもらおうと思っている。
今回、カーラの武器にはHP吸収のスキルが付与されてないから、万が一の時は俺が対応する」
「なるほど」
アミルは頷いているけど、他のメンバーは大丈夫か?特にカーラ。
カーラは回避するから何とでもなると思ってないだろうか?
念のため、俺は禰宜のジョブをセットしてある。
カーラが直接攻撃を受けるとは思わないが、モンスターから攻撃魔法を受けた時のためだ。
「まあ、一度戦ってみよう。
やってみてダメなら、ボス戦を数回やってから、探索を終えるぞ」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
ラファが合流するのは、二日後の予定だから、今日はちょっとした練習だ。
「ボス二匹はヴィルマとイレーネに任せる。お供はオリビアとカーラで一匹ずつだ。
俺は雷魔法も使わなければ、博徒のスキルも使わない。
カーラはサンドストームを使うのを忘れるなよ。
アミルはいつも通り、遊撃と全体管理を頼む。
今回のボス戦は小荷駄隊外しは使わないからな」
「了解!!」
「了解!!」
「了解!」
「り・・・・・・了解」
「了解」
迷宮討伐戦に俺が参加しないから小荷駄隊外しは使えないので、今回はそれを踏襲。
万が一、問題あれば介入するつもりだが、恐らくその機会は訪れないだろう。
「じゃあ、始めようか。指揮はアミルが頼む。
俺は最後にボス部屋に入るが、皆と同じタイミングだから陣形をちゃんと自分達で整えろよ」
「はい。お任せ下さい、ご主人様。
私以外の四人は先に入ってください。
フォーメーションが整ってから、私が最後に入ります」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
俺はアミルの後に付いて入ればよいのだな。了解と。
ヴィルマ達が先にボス部屋に侵入して、フォーメーションが整ったところで、こちらに手を振って合図をした。
「ご主人様、では始めます」
「ああ、よろしく頼むぞ」
アミルが駆け出したのを追って、俺もボス部屋に入った。
扉が閉まり、モンスター登場のエフェクト開始・・・・・・鑑定で確認すると、お供はボトルマーメイドとブラックダイヤツナか。
オリビアがブラックダイヤツナを受け持ち、ボトルマーメイドはカーラか。
おっ、もうサンドストームの攻撃だ。
アミルの侵入タイミングを測って、事前に詠唱を始めてたな。
戦闘の時は真面目だな、カーラ。
レイジマーメイドの攻撃はヴィルマ、イレーネ共に難なく躱して、カウンターを入れている。
回避やカウンターについては、二人とも朝練でグラ爺に教えを乞うていたよな。
直ぐに効果が出る訳はないだろうが、その努力はきっといつか報われる日が来るだろう。
オリビアは空中に浮かぶブラックダイヤツナを子供扱いして、叩き伏せている。
浮遊するモンスターとオリビアの槍二刀流の相性はすこぶる良い。
彼女のところが崩れる心配はないだろう。
カーラのところも見ていて安心だ。
ボトルマーメイドの攻撃はかすりもしないで、聖剣でカウンターの斬撃をビシバシ入れている。
魔法で攻撃しているのを見なければ、どう見ても避けタンクだよなぁ。
一回目だけでなく、二回目以降も真面目にサンドストームを撃っている。
それが魔法使いとしては正しい姿なのだが、避けタンクの動きをしていると、どうにもおかしな気分になってくる。
アミルはオリビアとカーラの動きを見て、お供への援護は不要と判断したのか、ヴィルマとイレーネの間に入って、レイジマーメイドに牽制の突きを放ち始めた。
たまに詠唱陣が浮かんでも、アミルとオリビアが素早くキャンセルしている。
俺の出番は本当に無さそうだな。
いつもより時間はかかったものの、特に問題もなく殲滅完了。
カーラ以外の前衛陣は、時間が経過すれば状態異常にさせられるため、モンスターを問題なく無力化していた。
一方でカーラの方は、サンドストームを放ちながら、ひたすら回避して聖剣でカウンターを入れるのだが、モンスターを討伐するのには時間がかかる。
攻撃力2倍を付与したが、聖剣は与ダメが若干低いから仕方ない。
そして、魔法使いのジョブは近接攻撃向きではないからな。
それを感じさせない動きを彼女はしているのだが。
だけど戦闘が長引いた分だけ、彼女は生き生きと体を動かしていた気もする。
ドロップ品を拾って、五人に念のため確認。
「もう一度やるか?」
「もういいかな」
「十分」
「別にどっちでもいいけど~♪」
「・・・・・・(コクコク)」
「大丈夫だと思います」
若干一名、もう一戦やりたさそうな者がいるが、多数決の原理で『終了』だ。
この後、シーナから相談に乗ってほしいと言われているし、少し早いが終わりにしよう。
あれはあれで、どうなったのか気になるからな。
「では、50階層に抜けて帰るか」
カーラの両肩を押しながら、50階層の小部屋へと抜けた。
迷宮から出て、入口の兄ちゃんに50階層に到達したことを伝え、階層案内を実施。
一応、報告の義理は果たしたからね。
階層突破の報酬も受領。
俺達が迷宮から出れば、彼も引き揚げるみたいだ。
兄ちゃんに挨拶して、適当な木陰から自宅へと戻ることにした。
お読みいただき、ありがとうございました。
拙作での魔道士ジョブの取得条件について、御説明します。
原作では、あまり明確に語られてなかった気もするので、拙作での独自解釈になります。
本話では、『魔法使いLv50で暫く経験を積まないと、魔道士のジョブを取得できなかった』と主人公が語ってました。
ジョブ取得の条件の一つは『魔法使いLv50であること』なのですが、もう一つの条件として以下を設定するこにしました。
拙作では、『一定以上の魔法攻撃ダメージをN回(※)与えること』としております。
※回数は非公開(というか、適当です・・・・・・草)
原作では、ドープ薬を使った場合に魔法使いから魔道士になれないという記載がありました。
つまりLv50にしただけではダメだと解釈しております。
それなら、『普通の魔法使いLv50で暫く経験を積む』のと同等で、一定以上の魔法攻撃力を一定回数加えることにしても問題ないかなと判断しました。
一般的にレベル上昇に連れて、魔法攻撃力は上がるはず。
通常の魔法使いLv50なら可能ですし、ドーピングした場合には魔法攻撃力は落ちるので、一応の辻褄は合うのかと判断しました。
魔法攻撃力は、スキル融合武器や同じパーティーの知力補正のパーティー効果で底上げ可能なので、ドープ薬を飲んだ個数が少なければ取得可能ということになります。
一応、拙作での解釈では、ドープ薬でLvは上がるけど、(知力や腕力補正に関する)ステータスは上がらない、もしくは上がっても誤差レベルと解釈しております。
魔法攻撃力も定量的には把握しようがないので、拙作主人公のようにLv50にしてから、暫く経験を積ませてジョブ取得できたらオッケーという感じでしょうね。
ある程度レベルを上げ、もう少しで上位ジョブ取得可能なレベルにしてから、ドープ薬を飲むのが効率的なのでしょうけど、レベルという概念がなく、鑑定で見えないとできないのでしょうね。
実際には現地の人達は、入手したらとっとと飲んでしまいそうなのが目に浮かびます。
ドープ薬も探索者以外はレベルという概念がない世界なので、使い方が難しいのでしょうか。
サボーの会話では『規定で50個』とレベル50を彷彿させる記載があったのは、探索者のレベル50で冒険者ジョブ取得ができることに起因してるのですかね。
よく分かりませんけど。
説明は以上となります。
次回投稿日は2026/7/4(土)の予定です。