ボーデ迷宮から戻り、着替えて食堂に向かう。
これからシーナ主催で、フリュウ村との取引をどのように進めるのかの説明会が行われる。
昨日の交流会の場を使い、彼女はエネドラを始め、後方支援部隊の様々なメンバーに助言をもらったらしい。
それがまとまったようで、その結果を俺に評価してほしいとのこと。
俺が許可を出さないと、この話は進められないから仕方ない。
どのようにまとめ、プレゼンしてくれるのか、実は結構楽しみだったりする。
食堂にはシーナ、カーラ、リオン等のエストグリュン家の面々に、グラ爺とグラシアもいる。
そして、シェル達三人まで・・・・・・タケダ家のエルフ族が全員集合していた。
その他には、エネドラとクララ、レドリックとヘルミーネも同席するようだ。
クララ以外の三人はご意見番だろうか。
空いた席を勧められ、座ることにした。予想通り、ど真ん中に近い席だな。
「シーナ、これで全員か?」
「いえ、まだカラダンさん達が来てませんので、もう少々お待ち下さい」
確かにカラダンがいないな。
では、始まるまで少し雑談でもするか。
まずはエネドラから話題を振ろう。
「今日から、またベイルに孤児院の子供達が来てるのだったよな?
30日周期で2組の子供達に石鹸作戦してもらっていたはずだけど、
これで3セット終わったから、もうかなり慣れただろうな」
「はい、旦那様。
もうミモザとクルトの二人だけでも十分回るようになりましたので、
ビンスとリックを他の仕事に回しても大丈夫でしょう。
子供達は少し寂しがるかもしれませんが、あの二人には新しい仕事が必要だと思います。
それから、ミモザの話ではジョブ取得支援も終わったと聞いてます。
あとはベイルの家でミモザとクルトの二人が、薬草採取士や商人の指導をするとのことです」
「そうか、順調のようで何よりだ」
石鹸の量産作業も順調なので、勉強する時間も十分確保できるだろう。
「ビンスとリックに何をさせるのかは、二人の希望も確認しながら、
エネドラとカラダンで相談して決めてもらえるか?」
「はい。承知しました」
戦闘は得意ではないとはいえ、二人とも冒険者のジョブを持ってるから何かと役立つだろう。
あとは、シーナ達の迷宮探索の状況を確認しておきたい。
「シーナ達は今日から、クーラタル迷宮の13階層の探索だったよな。調子はどうだ?」
「はい。質の高い装備品を使わせてもらってますので、久々の迷宮ですが全く問題ありません。
旧エストグリュン家のメンバーもシェルさん達も、今の階層ぐらいなら十分対応できてます」
ある程度は事前にパワーレベリングしたしな。
ここ最近は留守番組の新加入のエルフ族に集中してパワーレベリングしているから、レベルもかなり上がり、戦闘能力も向上したはず。
前衛をこなせる者がたくさんいるし、魔法使いも四人いる。
それに巫女や神官のジョブも持つ者もいるので、編成もかなり楽だろう。
各人の得意なポジションを聞いていると、カラダン達がやってきた。
カラダンを先頭にピコ、ミシェルとローザの四人か。
「旦那様、お待たせしまして申し訳ございません」
「いや、俺も先ほど来たばかりだ。気にするな」
雑談する程度の時間的余裕があった方が良いアイスブレイクになるし。
カラダン達が席に着くと、場が少し静まり返った。
俺も含め、全部で19名か。なかなかのものだな。
「それじゃあ、始めてもらえるか」
「はい。お忙しいところ、お集りいただき有難うございます・・・・・・」
進行はリオンでもエネドラでもなく、シーナがやるのか。まあ、今回の旗振り役だからな。
まずは、今回のフリュウ村との取引の背景、相手側から要求された迷宮討伐への助力について、彼女から軽く説明。
参加しているメンバーには、ほぼ既知の情報だろうな。
ああ、ローザは初めて知る話かもしれないか。
彼女は食い入るように話を聞いているが、話題が迷宮ネタだからかもしれない。
「フリュウ村から引き出せそうな取引材料は主に4つです。
一つ目がグリニア及びその中継地への案内。
二つ目がタルエム木材の提供。
三つ目が一般木材の提供。
四つ目がフリュウ村の迷宮探索者からのドロップ品及びモンスターカードの提供です。
タルエムと一般木材については、どの程度の量が提供されるのか今後確認する予定です。
木材の提供や迷宮討伐のために、我々に拠点を提供してもらうことが可能だそうです。
村の拠点までの木材の運搬は、村側の人員が行なってくれます」
「なるほど」
となると、一般的な質問からしてみるか。
「森に負担がかからない程度の木材の提供だと言っていたと思うが、
一般論として、シーナやカーラがこの前見た森の規模だと、どの程度か予想がつくか?」
「あまり手が行き届いてなかった部分も多かったように見えますので、
間伐はそれなりにできるのではないかと思います。
どの程度の本数をどのぐらいの時間で提供できるのかは、村長に確認が必要だと思います」
「ザビル拠点で必要な木材の量はある程度、確認できてますので、
現地にミシェルを派遣して交渉できるかと思います」
カラダンの横にいたミシェルも無言で頷いている。
「タルエムについても同様か?」
「どの程度、タルエムの木があるのか把握できていませんので、
そちらの方は村長に確認を取るところからだと思います」
まあ、タルエムはあまり期待しないでおくか。
「タルエムの木材としての市場価値は把握できているか?」
「私の方で商人ギルドで確認しましたので、
クーラタルで流通している販売価格ぐらいでしたら把握できております」
「そうか、エネドラの方で調べてくれたのか」
商人ギルドに加入していて、商人との伝手があると、こういう時には役立つな。
「ターヘラの店で利用する場合の卸値もおおよそ想像がつきます」
「マリアさんとの交渉する場合の金額も想定できているのか?」
カラダンとミシェルの二人が頷いている。
「シーナ、迷宮討伐の助力を求められているが、
迷宮討伐をした場合の価値を、具体的にどのように理解しているのか説明できるか?」
「迷宮を討伐した場合には、貴族に叙勲されることになりますから、
そのぐらいの価値があると考えております」
うーん、その説明では不合格だな。
「貴族に叙勲されることを無価値と考えている者には、どのようにその価値を説明するのだ?」
「えっ?・・・・・・それは・・・・・・」
シーナは困った顔になり、俺と周囲の者の顔を見渡して助けを求めている。
貴族の価値観に共感を求めるだけでは、貴族に興味のない者を納得させられないぞ。
レドリックが手を挙げたので、発言を促す。
「一般的な迷宮探索者の場合は、初めて階層を突破した場合の報酬が騎士団から与えられます。
迷宮討伐の価値は別に評価するとして、
ひとまず50階層までの報酬を評価するのはいかがでしょうか?」
「そうだな。その観点は大切だ。
ザビル第二迷宮の場合は、ザビルの騎士団から階層を最初に走破した場合に報酬が出ている。
一方で、今回はそれは期待できない。
50階層までの報酬を全てもらうと仮定にすると、合計で金貨約12枚と少しぐらいだな」
商人のカルクのスキルはやはり便利だ。
「では、仮に50階層が迷宮ボスがいる階層だと仮定しよう。
50階層までの階層突破報酬を全てもらったとして、
最後の迷宮ボスを討伐する価値はどのように評価する?
シーナはどうだ?」
「貴族になる予定のない者にとっての価値なのですよね・・・・・・私には説明できません」
「他の者はどうだ?誰か説明できそうな者はいないか?」
周囲を見回すと、ほとんどの者は首をかしげている。
だけど、一人だけ笑っている者がいるな・・・・・・グラ爺だ。
俺と目が合ったので、グラ爺が口を開いた。
「おぬしは説明できるのか?」
「そうですね・・・・・・
説明できることになるのかは分かりませんが、考える道筋を示すことぐらいはできそうです」
頭の中を整理しながら、説明の切り口を考える。
「まず、今回の交渉相手はフリュウ村だ。
彼等は恐らく、村単独では迷宮討伐はできないだろう。
だから、迷宮討伐できないと村が滅びる可能性があると仮定しようか。
となると、迷宮討伐の価値はどの程度が妥当なのかという話になるな」
「そ、そうですね。彼等は領主の庇護下にはありませんから・・・・・・」
シーナは少し考え始めたが、答えが簡単に出るものではないだろう。
「見た限り、フリュウ村は領主に保護されている一般的な街や村よりも貧しく、
俺達に提供可能な資金もほとんどないだろう。
そもそも貨幣を使った商売などはされていない自給自足の生活をしているようだしな。
だから、彼等にできることは村から提供できて、
村が困窮しない程度の最大限のものまでしか提供できないだろう」
「ユキムラ様のおっしゃる通りですが、
彼等の最大限提供できるものが、迷宮討伐の価値と同じとはとても・・・・・・」
「そうだな。きっと足りないだろうな」
だから、答えに困ってる訳なのだろうけど。
「迷宮討伐は誰が依頼しているのか、
もしくは誰が迷宮討伐を目指しているのかによって、きっと価値が異なるのだと思う。
ハルツ公からボーデの迷宮討伐を依頼された時にシーナ達四人を引き取ったよな。
俺はその取引で、既に迷宮討伐以上の価値あるモノをもらったと今では思っている」
「えっ?あっ、まあ・・・・・・」
シーナとカーラは何かとても嬉しそうな顔をしている。
スマン、シーナ、お前達四人に迷宮討伐以上の価値があると言ってる訳ではないのだ。
誤解しているようだから、誤解させたままにしておくけどさ。
カーラを引き受け、シーナ達四人を引き受け、シェル達を得て、グラ爺との繋がりができた。
グラ爺一人で、多分、迷宮討伐二、三回分の価値があると今は思っているのだ。
シーナ達を引き受けず、カーラがいるだけでもグラ爺は我が家に訪ねてきたかもしれないが、シーナがいなければ説得できなかっただろう。
だから、もう俺は十分に元を取った気分なのだよ。結果論だけどな。
「話を元に戻すが、迷宮討伐を依頼された場合、
ギルド神殿の提供を求められるかどうかが一つの分岐点になるのじゃないかと思う。
今回、ハルツ公はギルド神殿が欲しかったから、我が家にその提供を求めてきた。
討伐とギルド神殿の対価として四人を引き取ったが、十分な対価だと思ってる。
今回はハルツ公の時と違い、ギルド神殿は俺達が貰う。
ギルド神殿があれば、別の機会にギルド神殿を求めている者と取引を行うこともできる。
その他の価値として、50階層の比較的安全な迷宮討伐戦が試せるという価値もあるか。
まあ、その価値は我が家特有の価値な気もするがな」
「なるほど。ギルド神殿を使った取引がこれからもできるかもしれないということですね」
「実際には取引をしないかもしれないがな。
装備品に融合して使ってしまうかもしれないし」
あっ、シーナとヘルミーネが凄く残念そうな顔をしている。
ギルド神殿の帝国への提出が貴族の叙勲条件の一つだからだろうな。
「つまり、ギルド神殿を所有していれば、
後からその価値に見合う物が手に入る可能性もあると言いたかっただけだ。
これが俺の出した解答の一つだが、どうだろうか?」
「商人のような考え方じゃが、まあ、好きにすればよかろう」
これはグラ爺に合格点がもらえたのだろうか。
まあ、貴族への道はかろうじて残ってるからな。なる気は全くないけど。
今の話は、ギルド神殿の提供を除外した迷宮討伐の価値を評価していないが、実際にはこの評価は難しい。
名声を欲する者にとっては、ステータスとなるので価値に変換することは難しいし、迷宮討伐に四苦八苦している領主にとっては、白金貨に値する価値かもしれない。
我が家の場合だと、迷宮組の娯楽だろうか・・・・・・命懸けなのだけどね。
ラファの場合だと、自己実現の場だったりするかも。うーん。
実際、50階層程度の若い迷宮の討伐は良い機会なのだよなぁ。
「あとは、今の話をベースにして、フリュウ村から彼等が困らない程度に
なるべくタケダ家の利益を提供してもらえれば構わないのじゃないか?
四つの交渉材料を最大限提供してもらって、
それが、さきほど言った金貨12枚の何倍かになっていれば
タケダ家に利が十分あると言える気もするがな」
「なるほど、分かりました。それなら十分交渉可能だと思います」
シーナの目が獲物を狙うような目になっていて、ちょっと怖いのですけど。
「他に何か、意見や反論などある者はいないか?」
あれっ、いつの間にか俺が進行役になってしまったような。
まあ、いいや。俺はファシリテーターみたいなものだし。
おっ、リオンが手を挙げている。何か意見があるのかな。
「シーナ様から伺ったのですが、フリュウ村の傍にミタカウという村があるそうですが、
その村は50階層ぐらいの迷宮なら、討伐できる力のある者達がいるとか。
フリュウ村がミタカウ村へ協力を求める可能性があるのではないでしょうか?」
「そうだな。実は俺も、それは少し考えた。
例えば、フリュウ村は50階層の到達まで我々に支援してもらい、
迷宮討伐だけミタカウ村の猛者に任せるというのは、あり得るかもしれないと。
正直なところ、50階層まで到達したのなら、こちらで討伐してしまいたいと思うがな」
俺の言葉にレドリックとヘルミーネは苦笑している。
我が家には迷宮討伐を経験してみたい者達が結構いるのだよなぁ。
「今のリオンの指摘も考慮に入れて、フリュウ村と交渉してもらえるか?」
「はい。分かりました。ありがとうございます」
これで、交渉の軸は作れたかな。
「今回の取引はどのような体制で行うつもりだ?」
「エルフ族からは、私とリオン、グラジオラス様に参加してもらう予定です。
グラジオラス様はエルフ内では、顔が利きますので。
ザビルの方からミシェルさん、クーラタルの方からクララさんに参加してもらう予定です。
クララさんはミシェルさんの補佐に付くと伺っています」
エネドラがクララの方を見ながら頷いている。
これは、ミシェルとクララに経験を積ませようとしているのかも。
何かあれば、カラダンとエネドラがサポートに入るのだろうな。
その意味では、シーナのサポートにグラ爺が付くのだろうか。
いや、そちらもエネドラかな。
「報告は私とカラダンの方に必ず入れるようにしなさい」
「エネドラ様、分かりました」
やはりエネドラの方か。まあ、妥当だろうな。
エネドラもカラダンも拠点の責任者だし、ひょいひょいと出歩く訳にはいかない。
だが、進捗は把握し、必要とあらば介入すると。
「それで、あの・・・・・・交渉が成立しましたら、その迷宮の討伐を・・・・・・」
「焦るな。まずは50階層に到達できる実力を見せてもらってからだ。
フリュウ村の迷宮探索する部隊を旧エストグリュン家中心に組んでもらうのは構わない。
部隊の編成はレドリックとヘルミーネに詳細を相談してくれ」
「分かりました。まずは50階層を目指そうと思います。
シェルさん達にも協力してもらうつもりです」
「交渉が成立したらな」
もう事実上、エルフ部隊が結成されつつあるな。
カーラも参加させたいと言ってたし、恐らくカーラとグラシアの二枚看板で迷宮ボス戦に挑むつもりなのだろう。
グラ爺は迷宮討伐戦には手を出さないって言ってたし。
まあ迷宮ボス討伐戦の際は、俺も後方で観戦&万が一のフォローはさせてもらうけど。
育成途上だが、魔法使いジョブ持ちもいるし、治療役も探索者、冒険者もいる。
迷宮の高階層で経験を積みながら、グラ爺に鍛えてもらう必要はあるだろうけど。
「取引の予定が決まったら、教えてもらえるか?」
「この後、ミシェルさんとクララさんとも詳細を詰めますが、
恐らく明後日ぐらいに、フリュウ村に行くことを考えてます」
既に結構、詰めているのだろうな。最後の追い込みして終わりだろうか。
「そうか。では、そのタイミングで、俺がフリュウ村までリオンを一度連れていくか。
リオンは冒険者のジョブを持ってるから、一度行けば次からは俺抜きで行けるよな。
その日、ついでにフリュウ村の迷宮も探し出すか。
確か、この前案内してもらったグリニアの中継地の対価が迷宮探しだったよな?」
「はい。武器でも構わないと言われてますが、迷宮の発見でも大丈夫です」
ローザの能力も再確認してみたい。
「ローザも明後日の迷宮探しを手伝ってくれるか?」
「旦那様、マテウスの方には既に私から話をしてますので、日程が決まれば調整できます」
既にカラダンが話を通してたのか。ローザも頷いている。
シーナは多方面に調整する能力に長けているのかも。
ただ、一点突破という力はまだ足りないな。
14才なのだから、今はこれで十分なのだろうけど。
ローザにはミタカウ村や鷹の森迷宮の近辺の迷宮探しも頼みたいが、それはフリュウ村との取引にケリがついてからでいいか。
「護衛部隊が迷宮に入って修練するのは、これからも続けるつもりだ。
タケダ家に利がある場合、特定の迷宮で探索したり、迷宮討伐を行うこともあるだろう。
まあ、いつも取引を行うとは限らないがな。
誰にも知られていない迷宮を討伐することもあるかもしれない」
「ユキムラ殿、任せてくれ」
何故、そこだけカーラが反応するのだ?
エルフ部隊だけに任せたりはしないぞ。
迷宮組や他の護衛部隊・・・・・・レドリック達やラファ達もいるからな。
「そういえば、おばば様に許可をもらった資料室への案内もしないとな。
リオンとヴェロニカ、ローザ、アミルを案内すればいいか?」
「はい。お願いします。他にもルイやノエルも連れていこうと思ってます」
ローザも頷いてるから、興味を持ったみたいだ。ロッジの資料室にも行ったしな。
一方でカーラは俯いて、空気に徹しようとしている。
シーナに任せたぞ。確か、一度は連れていくと言ってたよな。
「今日はこれぐらいで大丈夫か?後はまた進展があれば教えてほしい」
「分かりました。ユキムラ様、皆様、お忙しいところ、ありがとうございました」
シーナが立ち上がって、皆にお辞儀をしている。
カーラも隣で立ち上がって、シーナと同じ振る舞い。
本当にどちらが、姉なのやら・・・・・・まあ、適材適所か。
カーラは迷宮で活躍してくれ。
できれば魔法使いとしても活躍してほしいが、こればっかりは好みと適性があるからなぁ。
打ち合わせはシーナの望む形でほぼ決着し、エルフ部隊の迷宮探索・・・・・・恐らくは迷宮討伐への道が開けた。
旧エストグリュン家のメンバー達は、皆、一様に表情が明るい。
「今度こそ、お役に立ってみせます。迷宮探索の先鋒はお任せ下さい」
「おぬしは、まだまだじゃ。もっと鍛錬に励め!」
グラシアがグラ爺にたしなめられている。
だが、そのグラ爺の表情は穏やかそうにも見えるな。
一方で、シェル達は少々置いてきぼりになっているかもしれない。
まあ、旧エストグリュン家のメンバー達のテンションが高過ぎるからだろう。
彼女達三人も、自分達が何を目指すのか、今後はちゃんと考えるべきだな。
シーナ達と同じ道を歩むのか、それとも別の道を模索するのか。
まだ、おばば様の所から逃げてきたばかりで、そこまで頭が回らないのかもしれないが。
後でそれとなく、ヴェロニカに話をしておこう。
・・・・・・
食堂から立ち去ろうとしたら、カラダンに呼び止められた。
「旦那様、この後、時間は空いてらっしゃいますでしょうか?
昨日のマリア様とのお話で相談したいことがあります」
「ああ、構わないぞ。エネドラも一緒か?」
「はい。エネドラ様にも聞いていただきたいと思います」
昨晩の接待で何か言われたのかな。
「まず、昨日の装飾品の代金に充当したドロップ品と石鹸は、本日、マリア様にお渡ししました。
銀60個も含まれております。
既に現金は昨日のうちに支払を終えてますので、代金の支払はこれで全て終わりました」
「そうか。分かった。
昨日は会場の準備から、マリアさんの接待の手配まで、ありがとう」
おかげで、昨晩はバルドルフの邸宅に訪問できた。本当に助かっている。
「昨晩、ザビルで予約した店でマリア様と食事をしましたが、
石鹸の取引量を増やせないかと打診されました。
今は帝都の奴隷商人協会での委託販売となっていますが、
昨晩相談されたのは、マリア様の店との直接取引が希望のようです。
取引量は、帝都の委託販売と同量を要望されました。
契約形態は、まずは委託販売から始めたいそうです」
「そうか、それは良い話だ。取引先の相手が増えるのは大歓迎だな」
ただ、マリアさんの店で、それだけの量を売れるのだろうか。
「マリア様は帝都に装飾品を扱う店を構えるようです。
その店で貴族用と平民用の石鹸を取り扱いたいとのことです。
どうも、帝都の奴隷商人協会でリピーターが増えつつあるようで、
売れるのではないかと考えられたようです」
「帝都に店を出すのか。それは凄いな」
出店の原資に、我が家の装飾品の売り上げが貢献しているのではないだろうな。
それはともかく、知り合いの店が帝都にあって、その店で石鹸を売ってくれるのなら、これは心強いな。
「では、マリアさんと具体的な販売数や提供時期を詰めてもらえるか?
委託販売を行う前提なら、相手の要望に沿う形で交渉して構わないので。
エネドラから何か意見はあるか?」
「いえ。在庫も十分にありますし、大丈夫です」
「では、マリア様と詳細を詰めさせていただきます。
契約内容が概ね決まったところで、また報告いたします」
「ああ、よろしくな」
これで販売のチャネルが一つ増えるかもしれない。
ん?レドリックが何かカラダンの後方で待っているな。
「どうした、レドリック。何か問題が発生したのか?」
「レイモンド達が、ザビル第二迷宮の村で盗賊と遭遇しました」
「そうか、ついにか」
元々、その村は盗賊達に滅ぼされた村だ。
ローザとロベルトも巻き込まれ、母親を失った。
今回、遭遇した盗賊達がそれと関連するのかまでは不明だが。
「それにしても、ローザもいないのに、よく盗賊だと分かったな?
迷宮でいきなり襲われたのか?」
「いえ、迷宮ではなく、迷宮の外で戦闘になったようです」
ん?そんなこともあるのか。
「どうも、迷宮から出てきたパーティーが怪しそうだったので、
入口にいた騎士の方がインテリジェンスカードの確認を迫ったようです。
その場にレイモンド達も偶然いたので、戦闘に巻き込まれて討伐したとのことです」
「なるほど。そうだったのか」
あの村には騎士団が常駐してるのに、盗賊達は知らなかったのか。
いきなり
そりゃ、直ぐに戦闘になるな。
案外、騎士団員もその場にレイモンド達がいたから、確認を迫ったのかもしれない。
盗賊達と戦闘になったとしても、共闘してくれそうだしな。
「その戦闘で、レイモンド達は盗賊の一味六人のうち、五人を討伐したそうです。
討伐した盗賊達のインテリジェンスカードを持ち帰っており、これがそれになります」
「そうか。後ほど、騎士団の詰所に行ってこよう。
俺からも声をかけておくが、レイモンド達を労ってやってくれ」
「はい。ありがとうございます。私の方からも伝えておきます」
騎士団の詰所があっても、そこは出張所だから、さすがにギルド神殿は持ち込んでないか。
レイモンド達は『対人強化』スキルを付与した腕輪を装備しているが、役立ったのだろうか。
まあ、彼等のパーティーは、ザビル第二迷宮のトップランナーになっている猛者達だ。
そんじょそこらの盗賊達には負けないはずだが、対人戦闘はまた別だからな。
装備品が役立ったのなら、幸いだ。
あちこちで、様々な盛り上がりを見せているが、タケダ家が元気な証拠だと思いたいな。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/7/8(水)の予定です。