フリュウ村との交渉の目処が立ったためか、翌日の朝練はエルフ族のメンバーの気合が
特にカーラとグラシアの入れ込みようが頭一つ抜けている。
カーラにはまだ敵わないまでも、食らいつこうとするグラシアの気合が凄い。
カーラの気合は、今日の迷宮探索に参加できないのが理由な気もするが。
迷宮に行けない憂さ晴らしをしているだけだったりして。
彼女が迷宮探索を休む理由は、おばば様に許可された資料室に同行することをシーナから通達されたからだ。
若干、俺の方を恨みがましい目で見てる気もするが、俺のせいではないと思う。
確かに、資料室への案内を申し出たのは俺なのだけどさ。
なんとか迷宮組の探索へ加わろうと、先ほどもまで彼女は俺の周りをうろつき回って謎のアピールをしていたが、シーナの決定を覆す理由が無いよな。
でも、お前が迷宮探索で参加するとしても、昨日と同様、魔法使いとしてだぞ?
「魔法使いで戦うのと、資料室へ行くのとでは大して変わらないのでは?」
「剣が振り回せるのだから、魔法使いのほうが断然いい!」
うん、そこだけ切り取って聞かされると全くの意味不明だ。
剣を振るうのは、そもそも魔法使いの仕事ではないと思うのだが。
聖剣を使って魔法を放つカーラならではの台詞。
「まあ、カーラがシーナを説得できたら考えようか」
「そ、そんなぁ・・・・・・」
お前の妹なのだから、自分でなんとかしてくれよ。
それにしても昨日のカーラは、なかなか面白かったというか凄かったというか。
階層ボス戦では、完全に前衛の避けタンクとして機能しながら、魔法を頻繁に撃ってたよな。
あれはあれで、戦い方の一つのオプションになり得るかもしれない。
55階層までの迷宮ボス戦なら、ボスが二匹でお供が二匹の編成。
次のボーデ迷宮討伐戦では、治療職無しで臨むが、通常はそんなことはしない。
前衛が三人、探索者一人、魔法職一人、治療職一人が標準だろうか。
魔法職と治療職の二人が、お供を一匹ずつ受け持ってくれると、残りの四人で迷宮ボス二匹の相手ができるよな。
探索者は遊撃をこなしつつ、装備品を破壊された時のフォローや全体管理を行う。
となると、残りの三人でボス二匹を受け持つことになる。
もし、一人の装備品を破壊されたら、一人が受け持ちを変更して二対二で戦うのだろう。
前衛三人とも、一人でボスモンスターと戦えるだけの技量やスキルが求められる。
どのような者を迷宮ボスモンスターにぶつけるのが適切なのだろうか。
避けタンクができそうな剣聖や百獣王あたりは候補だよな。
オリビアのような槍二刀流で相手の攻撃を封殺できる者はそうそういない。
盾を壊されるリスクを承知でタンク役をこなす前衛も候補だろうか。
タンク役でも攻撃ができる技量を合わせ持つか、別の者に攻撃を任せて受けに徹するか。
攻撃する者は状態異常に追い込める剣匠、剣聖といった二刀流スキル保持者か、暗殺者系の上位ジョブを取得した者も候補だな。
そういう意味では竜騎士系のジョブも二刀流だからアタッカー候補。
防御に回ると装備品破壊のリスクが高まる気もするから、アタッカー専門が妥当なのだろうか。
避けタンクの装備品が破壊されて、スイッチした時が少し危険が増すかもしれない。
状態異常を誘発するのなら、博徒のオプションも考えたいな。
カーラ程ではなくとも、博徒で避けタンクができると、ユーティリティ性が増える気もする。
そこまでは無理としても、お供を引き受けながら暗殺者系のフォローをするのはアリかも。
後で、ルイと話をしてみるか。
魔法職でありながら、近接戦闘をこなせる者・・・・・・そこまでのユーティリティ性がある者は我が家でも限られる。
今のところは、カーラとラファが有望。
カーラは迷宮組として参加する時は俺がいるから、純粋な避けタンクで参加するだろうけど。
だがフリュウ村の迷宮討伐で旧エストグリュン家のみで臨むのなら、魔法使いと避けタンクの二足の草鞋を履くのはありかもしれない。
他に魔法職のユーティリティプレイヤーの可能性があるのは、ザビルのレベッカとマチルダか。
あとは元エストグリュン家のシーナとノエル・・・・・・あの二人は剣の技量もそこそこだった。
シェルとメリルはどうだろうな・・・・・・今のところ未知数。
ああぁ、トカラの可能性もあるのか。
今もグラ爺から槍を使った近接戦闘を習っているように見える。
彼は魔法使い系ジョブを優先させるのが希望だが、聖槍を持って魔法を撃ちながら、お供の相手ができると迷宮ボス戦では助かるはず。
竜騎士ではないけど、いつの間にか前衛に近いポジションに置くと騙し討ちみたいになるから、後で本人の意向もちゃんと確認しよう。
それにしても、グラ爺は槍も教えられるのか。武芸百般といったところだな。
グラ爺がトカラに教えている間に、ルイと話をしてこよう。
見つかるとまた、さぼっていると注意を受けるんだよなぁ。
なるべく気配を消しながら、エルフ族が屯している近くまで足音を殺しながら歩いていく。
だが、カーラに目ざとく見つけられてしまった。
「ユキムラ殿、模擬戦の相手を探してるのか?私が相手をするぞ!」
「いや、そうではない」
せっかくグラ爺に気づかれないように来たのに台無しだ。もうバレただろうな。
「ああ、ちょっとルイと話がしたくてな」
「ルイとですか?」
あっ、シーナまで寄ってきた。後ろにルイの姉のリオンまでいる。
もう仕方ない。オープンな状態で相談しよう。
ルイの方へ近づいていくと、周りをカーラ、シーナ、リオンに取り囲まれてしまった。
なんだか、俺とルイは微妙に居心地が悪い。
「あー、ルイ、君のジョブのことでちょっと相談があるのだけど」
「僕のジョブのことですか?なんでしょうか?」
周りの三人も興味津々で会話に注目している。やりにくいな。
「ルイは今、剣士系のジョブの剣匠と治療職の神官のジョブを持っていて、
そのジョブを念頭に訓練しているよな?」
「そうですね。剣と槍の両方を鍛えています。
二つのジョブを使いこなすなんて思いもしませんでしたが、
タケダ家では当たり前のことだとレドリックさんに言われましたので」
複数ジョブの運用を始めたのは、タケダ家でも最近のことなのだけどな。
というかタケダ家を興して、まだ半年も経っていないから『最近っていつよ?』と言われるかもしれないけど。
「それでだな。ルイに別のもう一つのジョブを担ってもらうのはどうかなと思ったのだ。
『博徒』というレアなジョブなのだけど」
「『博徒』ですか?聞いたことのないジョブですね。どのようなジョブなのでしょうか?」
彼は周りにいるカーラ達へと視線を向けたが、三人も首を横に振っている。
まあ、普通は知らないジョブだろうからな。
「『博徒』のスキルは、特定のモンスターを状態異常にする確率を高めるものだ」
「えっ?それはどういう意味でしょうか?」
しまった。いきなり『確率を高める』と説明しても分かる訳がないか。
「一例を挙げると、カーラが硬直のエストックでモンスターを攻撃してるとするな。
通常は30回攻撃して、1回しか石化しないのに、そのスキルを使うと10回で石化する。
もちろん、キッチリと10回に1回で石化する訳ではないけどな。
だが、スキルを使うと早くモンスターを石化させることができるということだ」
「は、はあぁ・・・・・・」
うーん、伝わっているのかどうか。
「特に剣匠や剣聖のジョブの者には、状態異常を付与する武器を渡しているのは聞いてるか?」
「はい。レドリックさんから説明を受けて、僕も貸与していただきました。
僕みたいな見習いが、スキル融合された武器を2つも使えるなんて夢のようです」
スキル融合された装備を複数渡しただけでなく、武器も防具も複数スキルが融合されている。
でもタケダ家では、それが標準装備だ。
「なので『博徒』のスキルは、その武器を使って攻撃する者の大きな助けになるんだ」
「姫様やグラシア様の助けになるのですね」
ルイはカーラやグラシアを『様』付けで呼ぶのか。そして、カーラは『姫様』と。
なんだっけ。『
元子爵令嬢だったからかもしれんけど。
「そうだな。自分が戦っているモンスターにもスキルを使えるが、
他のパーティーメンバーへの大きな助けになるだろう」
「そうなのですか。では、やってみたいと思います」
半ば強引な説得に近い気もするが、本人の意志も確認できたからオッケーかな。
「その『博徒』のジョブは私でもなれるのでしょうか?」
「えっ、シーナがか?それは無理だな。
あまり大きな声では言えないが、盗賊のジョブを経験している者でなければなれない。
ルイは、この前の件で運悪く山賊のジョブを得てしまっただろう?
だから、我が家で数少ない取得可能な者なのだ。
言っておくけど、『博徒』は別に盗賊の上位ジョブではないからな。
ジョブの取得条件がちょっと複雑なだけなのだ」
「そうなのですか。盗賊ジョブの持ち主だからなれるのですね・・・・・・」
ああぁ~、ちょっとルイが落ち込んでしまった。これはどうしたら。
「そんなに落ち込むことないぞ。『博徒』のジョブは俺だって持っているのだから」
「えっ、ユキムラ様もですか?でも、さきほど盗賊のジョブを持っている者しかなれないって。
ユキムラ様は何故、盗賊のジョブを持っているのですか?」
あ、あれっ・・・・・・励ますつもりが、話の展開がおかしな方向に。
まさか、『帝国に入国するなり、サンダルをパクリました』とは言えないよな。
いや、実際にパクッたのだけど。直ぐに返したとはいえ。
「まあ、俺もルイと同じように騙されたことがあるということだ」
「そうだったのですね・・・・・・」
騙されたと言いながら、ルイを俺が騙している。
なんか適当な嘘を言ってるから、少し心が痛い。ほんの少しだけど。
「ともかく、今が盗賊のジョブでなければ何も恥じることはないのだぞ。
むしろ、その逆境を生かして、タケダ家へ貢献できていると思っている。
迷宮組の前衛メンバーへの支援になっているしな」
「では、僕も『博徒』のジョブを取得して、エストグリュン家に貢献したいと思います」
あれっ、貢献する先はエストグリュン家なの?タケダ家ではなく?
うーん、今は突っ込むのは止めておこう。
気持ち良く『博徒』のジョブで活躍することを引き受けてくれそうだから。
「それで、『博徒』のジョブを取得するには、僕はどうしたらいいのでしょうか?」
「もう少ししたら、やってほしいことを説明するので、それまでは待っていてほしい」
「そうですか、分かりました。では、お待ちしております」
な、なんか、純真な若者を騙しているような気がしなくもない。
やっぱり盗賊、山賊、海賊・・・・・・といったジョブに良いイメージは微塵もないからだよな。
盗賊は人を殺すのに躊躇がない気がするし。
もちろん、逃げるだけの盗賊もいたけど、向かってくる盗賊は隙あらば、こちらを殺そうとしていたと思う。
一方で普通の人は人を殺すと盗賊落ちになるので、人を殺すのは躊躇する。
だから、盗賊の一味は結構好き放題やる傾向があるのじゃないのだろうか。
この辺りのギャップが普通の人が盗賊を蛇蝎のように嫌う理由なのかも。
普通の村や街でも盗賊に襲撃されたら、命懸けで撃退するらしいし。
その結果、盗賊を殺したり、場合によっては盗賊でなくても手引きしたものを殺すことがあり、盗賊落ちすることが起きるってヘルミーネが言ってたっけ。
ただ、情状酌量が認められると盗賊から解放されることがあるとかなんとか。
原作主人公や俺には鑑定があるから、盗賊であるか否かを判断できるし、なんなら盗賊になっても、ジョブ設定で外すことができる。
俺なんて、この世界に来てから直ぐに、盗賊のジョブ欲しさにサンダルをパクったもんな。
一般の感覚とズレているから気を付けないと。
あっ、ルイがなんかこちらを心配そうな顔で見て・・・・・・俺が隠し事してるのがバレたか?
(ゴンッ・・・・・・)
「あっ、痛っ・・・・・・」
「おぬし、本当に剣を極める気があるのか?サボッってばかりで!」
違った、彼は俺がグラ爺に木刀で殴られそうなのを心配したのか。
木刀だし、レベル補正があるから、大して痛くはないのだけど。
それにしても・・・・・・俺はいつから『剣を極める』なんて話になっていたのだろうか。
反論すると、また殴られるから言わないけど。
「今から頑張りまーす」
「口だけでなく、とっとと剣を振らんか!」
仕方なく、手にした木の剣で素振りを開始。
まずは、ルイのジョブ取得のためのパワーレベリングを頑張ろう。
『博徒』は複数のステップを踏まないとジョブ取得できない。一つずつこなしていかなれば。
戦士のジョブを育成して賞金稼ぎのジョブを取得する。
これ自体は普通なのだよな。賞金稼ぎのジョブも物凄くレアという訳ではないはず。
原作でも帝都に賞金稼ぎギルドがあると表現されていたぐらいだから。
賞金稼ぎのジョブが知れ渡っているぐらいだから、『生死不問』のスキルだって知る人ぞ知る程度には知られているのだろう。
チートスキルの無詠唱でスキルを使うと、周りからドン引きされるってだけで。
普通に詠唱して使う分には問題ない気もする。
成功率がレベル差に依存するみたいだから、使い勝手が悪いってのはあるのだろうな。
それに加え、盗賊をLv30まで育成しなければならないため、『博徒』のジョブは稀少になる。
賞金稼ぎのジョブを得た後に盗賊落ちしてから経験を積んで、エレーヌの神殿でジョブを取得するというのが、この世界で『博徒』のジョブを得る自然な流れなのだろうか。
『博徒』のギルドがあるとは考えにくい気もするし。
ひょっとすると、英雄のジョブ並みの稀少性なのかもしれない。
俺だって原作の知識がなければ、ここまでメインで使おうとは思わなかったはずだ。
複数ジョブを育成できるから、ジョブ取得自体は割と簡単にできたかもしれないけど。
『博徒』のジョブ自体は単体で見れば、戦力ダウンに繋がり易い。
それ自体が何か尖った長所がある訳ではないからなぁ。
自分の戦う相手にスキルを使って状態異常になり易くするだけなら、普通に暗殺者系のジョブに就いた方が有利な気がする。
暗殺者ジョブはパッシブスキルの『状態異常耐性アップ』があり、その恩恵も受けられるから。
『博徒』のジョブの利点は、暗殺者系のジョブや二刀流で状態異常付与の武器を持たせた者の長所を伸ばす効果があり、ターゲットとなるモンスターを自由に選択できる点だろうか。
『博徒』のジョブを持つ者が別の役割をこなせると、パーティーへの貢献度が上がるはず。
複数ジョブ持ちとは比較できないが、前衛や遊撃の真似事ができると有用性が高まるだろう。
ルイは真面目にグラ爺の訓練も受けているし、今でも近接戦闘能力がそこそこあるようだから、是非、ユーティリティープレーヤーとして開花してほしいな。
「また、腰が入っとらんぞ!しっかりと集中せんか!」
「はーい」
なんか俺って、ちゃらんぽらんなキャラになりつつあるような。
集中、集中っと。
・・・・・・
朝練と朝食を終えて、まずはシーナ達を資料室へと送ることに。
シーナ、リオン、ローザ、アミル、ヴェロニカをパーティーに入れ、資料室へと移動。
アミルとヴェロニカはとんぼ返りする。
アミルはカーラと違い、これから迷宮組で迷宮探索をするため。
ヴェロニカは、おばば様に近い所に長居したくないらしい。
まあ、せっかく逃げてきた訳だしな。
その後、カーラとノエル、ルイを資料室に送り届けた。
後はリオンがいれば帰ってこられるだろう。今日は玄関が絨毯をかけてあるし。
今日は早く迷宮から戻れたら、迎えにいくつもりだけど。
・・・・・・
迷宮に行く準備を整え、カーラを除く迷宮組でボーデ迷宮へと出発。
入口で兄ちゃんから訝しげな目で見られながらも、50階層へと移動。
最終階層に近くなってから、人数減らすと奇異な目で見られるよな。
でも、ターレ迷宮は五人で討伐したのだから、今更だろう?
50階層の開始地点の小部屋でブリーフィング。
「ボーデの50階層の新規モンスターはブラックダイヤツナだ。
ブラックダイヤツナ、アニマルトラップ、ロールトロール、ラフシュラブの順に多い。
恐らく、ブラックダイヤツナが突っ込んでくるから、各個撃破をしていこう。
戦ったことのあるモンスターばかりだから、大きな問題はないはずだ。
だが、皆、油断しないようにな」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
小部屋を出て、50階層の探索を開始した。
:
:
:
カーラはいないが、特に問題なく探索は進んでいく。
彼女が迷宮探索に加わったのは、まだ数日間程度でしかない。
それまでは五人でこなしてきたので、元に戻ったという感じだ。
空中を浮遊するブラックダイヤツナをオリビアとアミルが槍で叩き落とし、ヴィルマとイレーネが追い打ちをかける。
たまに俺のサンダーストームで麻痺に陥らせて、効率的に捌いていく。
ロールトロールの裏拳をヴィルマが難なく躱し、激情のダマスカス鋼剣を叩きこむ。
イレーネの連続刺突が炸裂し、アニマルトラップを石化させていく。
アミルの的確な牽制と指示もあり、迷宮組に隙は見当たらない。
昼食を挟み、午後の探索を開始。
だが、午後の探索はボーデ迷宮ではなく、クーラタルの63階層から始める。
少しアクセントをつける意味もあり、ボスモンスターのホーリーバジルと戦うボスマラソンを実施することにした。
威霊仙をゲットするためなのだけど。
10周前後の戦闘をこなし、威霊仙を2個ゲットしたところで終了。
ボーデ迷宮の50階層へ移動し、探索を再開。
ひたすら、ブラックダイヤツナを倒し、ドロップ品の赤身を積み上げていく。
原作と違い、残念ながら迷宮組には魚大好き娘はいない。
肉好きはいるのだけど・・・・・・それでも、食材アイテムのドロップは悪い気はしない。
レベルキャップに引っ掛かっている俺は料理人をセットして、レアドロップのトロのドロップを増やしたりしている。
探索は順調に進んでいるが、今日は資料室に向かったシーナとカーラ達も気になるので、少し早めに探索を切り上げることにした。
ゲートを自宅玄関へと繋ぎ、俺以外の四人を帰宅させる。
最後に残った俺は、エルフ族の資料室へとゲートを繋ぎ直して移動した。
資料室に行くと、カーラが俺を目ざとく見つけ、寄ってくる。
「ユキムラ殿、私も迷宮に・・・・・・」
「カーラ、もう今日の迷宮探索は終わったぞ」
「そんな、狡い・・・・・・」
いやいや、予定通りの行動だろうが?
シーナもこちらに気づいてやってきたようだ。
「何か、面白い情報はあったか?」
「面白い・・・・・・かどうかは分かりませんが、
エルフ族の調べた迷宮の位置や探索状況を調べてメモしました」
『面白い』って言い方はなかったか。失礼。
「先日、案内してもらったタリカウ近辺の情報や地図もありましたので、
後で整理して報告するようにいたします」
「そうか、それは助かる。明日はフリュウ村との取引の日だったよな。
明日、ローザと調査予定のフリュウ村の迷宮の情報も合わせて記録しておくか。
まあ、島に迷宮の印を入れておくだけかもしれないけど」
「はい。情報をまとめて記録しておきます」
「迷宮・・・・・・」
カーラ、もはや、その単語にだけ反応しているだろう?
「カーラの方は、何か気になる情報は無かったか?」
「ミスリルスレッド、靴下・・・・・・」
おっ、それは原作にも出てきた脚を細く見せる靴下とやらか?
「靴下に興味があるのか?」
「まあ・・・・・・」
カーラはエルフにしては、どちらかと言えばふっくらしてるのだよな。
ふっくらと言っても、戦士体型ということで、太ってはいないのだけど。
やっぱり女性だから、足の太さとか気になるのだろうか?
「シーナも知っているか?」
「えっ。あっ、はい。
エルフにはスリムな方が多いですが、中には少々気になさる方もおられて、
そういう人にとっては救世主だと聞いたことがあります」
この辺は原作通りなのか。
「カーラも気になるのか?」
「シーナ、それって重たいのか?」
ん?重さが関係あるのか?
「えっ?・・・・・・姉上、ミスリルスレッドを使っているといっても、
薄く作られているので、多分軽くて伸縮性があると思いますよ」
「じゃあ、鍛錬には向かないか」
カ、カーラ、・・・・・・俺は何も突っ込まないぞ。突っ込んだら負けだ。
それにしても眼帯といい、靴下といい、
「シーナは興味がないのか?」
「そうですね。エルフ内でしか流通できないですから。
せめて、人間族に転売でもできれば考えますが」
シーナは商売のネタとして考えているのかよ!色気のない姉妹だなぁ。
カーラは色気よりも食い気・・・・・・ならぬ、
「もう少し調査に時間をかけるか?」
「いえ、ここで有益な情報はある程度、調べ尽くしたと思いますので、
もう引き揚げようかと思います」
そうか。調査が終わったのなら、ここに暫くは用が無いことになるのかな。
「そういえば、ここに出入りしていたことは、カッサンドラ様には伝わったのか?」
「おばば様のお付きの方が、こちらにいらしてたので、
我々がここに出入りしていたのは伝わったのではないかと思われます」
「なるほど」
それなら、シーナの目的も達成したことになるか。
カーラ、こんな所で俺の背中に隠れても意味ないと思うぞ。おばば様は近くにいないし。
「じゃあ、シーナ。俺は先に帰るから、皆を連れて戻ってきてくれ」
「はい。分かりました」
前に教えてもらった遮蔽セメントが使われていない壁へと移動。
フィールドウォークで壁にゲートを開く。
何故か、俺の後ろにカーラがいるのだが・・・・・・。
「カーラ、お前はシーナ達と帰るんだ」
「えっ・・・・・・あ、はい」
少しでも早く、ここから逃れたいのか。集団行動をちゃんと取りなさい。
・・・・・・
クーラタルの自宅へと戻り、エネドラ達に帰宅を告げた。
「旦那様、レドリックが何やら相談したいことがあると言ってましたが」
「そうか。じゃあ、修練場の方に行ってみるよ。ありがとう」
修練場に行くと、結構な人数の者が訓練していた。
レイモンド達が中心となったザビル第二迷宮の探索チームも戻ってきてるし、迷宮組もアミルとカーラを除いて訓練しているな。
グラ爺がいるから、みんなやる気を出しているのかもしれない。
俺を見つめるグラ爺の視線が冷たい気がするのは気のせいだと思いたい。
今は訓練目的じゃなくて、レドリックに話があるだけなのだから勘弁してほしい。
レドリックの所に向かうと、近くにラファ、ヘルミーネ、レイモンドもいるな。
「ああ、なんか俺に話があるとエネドラから聞いたのだが。今、話をするか?」
「そうですね。丁度、関係者もいますから、相談させて下さい」
ラファに関連する話か?
そういえば、今日でクーラタルの50階層に到達したので、明日から迷宮組に合流予定だな。
何か不測の事態が発生したのだろうか。
「ザビル第二迷宮の件なのですが、
レイモンド達から迷宮討伐を自身の手で行いたいと希望が出ています」
「ああ、なるほど」
そちらの方か。
今、自分達が迷宮探索をしているのだから、自分達の手で迷宮討伐したい気持ちは分かるぞ。
シーナ達の迷宮討伐を目指す姿にレイモンド達も触発されたか?
「ラファにも言ったことだが、迷宮討伐するのなら、
事前にクーラタルで、ボスモンスターが迷宮ボスと同じ階層でボス戦を重ねてもらって、
十分な実力があることを示すのが条件だ」
「そうですね。おっしゃる通りです」
ただ、ザビル第二迷宮で探索する護衛部隊の場合は、少し複雑な事情があったな。
「気になるとしたら、前衛陣の方か。
今、ザビル第二迷宮の探索は前衛陣が日替わりで戦っているよな。
迷宮討伐するとしても、どの前衛の組で戦うのか決めるのが難しいのではないか?」
「はい。それはご指摘の通りです。自分も含めて、前衛陣は皆、迷宮討伐を希望してますので」
レドリックは苦笑している。まあ、レドリックも参加したい口なのだろう。
一方で、横にいるヘルミーネは複雑な表情。
多分、彼女も迷宮討伐戦に参加したいのだろうな。
だが、彼女はザビル第二迷宮の探索に全く関与していないから遠慮しているのかも。
ラファもボーデ迷宮の討伐に参加しそうな勢いだし、他の護衛部隊も迷宮討伐経験が与えられそうな手前、置いてきぼりになっている感じかもしれない。
「実は、もう一つ迷宮討伐の候補となる迷宮があるのだけど。
この前、シーナ達とグリニアの街に至るまでにフリュウ村と交渉した件があっただろう?
その途中で案内された迷宮なのだが、
ひょっとしたら55階層ぐらいまでの迷宮じゃないかと思われる迷宮を紹介された。
実際に案内してもらったのは46階層だったから、まだ10階層近く残ってるのだが、
もし希望者がいれば、それを新たに迷宮攻略対象に加えるのはアリかと思っている。
見捨てられた迷宮だから、迷宮討伐しても誰からも称賛も感謝もされないけどな」
「実際に、迷宮ボスのいる階層がいくつなのかは、探索してみないと分からないのですね?」
レドリックの言葉に頷く。
アキシマの迷宮は55階層以下の可能性があると原作では言われてた気もするが、確実という訳でもないし、原作とずれているかもしれない。
「私は、その迷宮討伐に立候補したいです」
「ヘルミーネか。恐らく今は誰も探索していないから貴族の横槍は入らないだろう。
希望者がいるようなら考えようか。
レドリックとヘルミーネで少し話し合ってみたらどうだ?」
彼女は嬉しそうに頷いている。
今なら、グラ爺がクーラタルにいるから、ヘルミーネも迷宮探索に邁進しても大丈夫かも。
「話を戻すが、レイモンド達がザビル第二迷宮の討伐を目指すこと自体は反対しないぞ。
先ほど言った条件を満たせば挑戦を許可しても構わない。
ただし、俺はソロとして、迷宮ボス戦を後ろから観戦させてもらい、
危ないと判断したら、介入するがな」
「普通は迷宮ボスを討伐するか、返り討ちに遭って全滅するかなのですが。
危険な場合に助けてもらえるのなら、挑戦する勇気も湧くでしょう。
それで安心し過ぎても困りますけど」
まあ、それは慣れるしかないよな。
他にもイロイロ考えていることがあるから、それもいずれ披露しよう。
「じゃあ、希望者の人選は任せたぞ」
「はい。二人で話し合ってみます」
あとは護衛部隊の幹部に任せよう。
修練場から立ち去ろうとするとグラ爺に声をかけられた。
「せっかくだから、素振りの100本でもしていかんかい!」
「はーい」
木刀を四本同時に投げてきたので、四本の腕でキャッチする。我ながら器用だ。
素振りをしながら、先ほど話をした内容を振り返る。
迷宮討伐を達成できそうなメンバーはタケダ家にどのぐらいいるだろうか。
迷宮組以外だと、レイモンド達とザビル第二迷宮を回っている9人。
それ以外だと、ラファ、ヘルミーネ、トカラぐらいか。
ミラ、マヤ、サンドラはどうだろうな・・・・・・まだ早いか。
ザビルまで加えればマテウスも候補に入りそうだが。
「ほれっ、なんじゃ、その体幹の使い方は。しっかりと集中せんか!」
「はーい」
集中、集中っと。
迷宮討伐を目指すチームが迷宮組以外にも、多数出てきたのは喜ばしいことかもしれないな。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/7/11(土)の予定です。