異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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122.グリニアにて

 トウカという冒険者の男がフィールドウォークのゲートを開いた。

 

「この先には、この前、あんたの所の娘さん達を案内したシードナという街がある。

 もっとも、今は人っ子一人いない廃墟だがな。

 この前案内した時にはモンスターはいなかったが、今度はいるかもしれない。

 十分注意してくれよ」

「ああ。では、先に行ってるから、暫くしたら来てくれ」

 彼の開いたゲートをくぐった。

 

(オーバーホエルミング)

 

(索敵)

 

 索敵スキルのマップで確認する限りは、赤い点は見当たらない。

 赤い点だけでなく、グレーの点も青い点も存在しない。

 この近辺には人もモンスターもいないってことだな。

 

 モンスター対策用に、念のためオーバーホエルミングをかけたが無駄に終わったようだ。

 出てきた先はシードナの街の内部で、街を囲む壁にゲートを開いたのか。

 

 オーバーホエルミングの効果が切れた・・・・・・ので、周囲を確認しよう。

 

 ゆっくりと周りを見渡すと、無人の家屋とあちこちに長く伸びた雑草が目に入った。

 さすがに人がいないせいか薄汚れた感じはあるが、戦火に巻き込まれた様相ではない。

 街を囲む高い城壁のような石の壁もしっかりと存在しており、見える範囲では崩れている箇所も無さそうだ。

 風が吹くと雑草が静かに揺れるが、鳥の鳴く声も聞こえるし、どちらかというと長閑な風景に思えてしまう。

 

 やがて、ゲートからトウカが出てきたので、声をかけた。

 

「モンスターは目に見える範囲では見当たらないな。

 このシードナという街は、最近放棄されたのか?

 タリカウという街を元住人の冒険者の者に案内してもらったが、

 あちらの方が、ここよりよっぽど荒れていたと感じたのだが」

「タリカウか・・・・・・あそこは街中に迷宮が出現したからな。

 街の中に現れたモンスターと住人の間で戦闘もあったはずだから、

 さすがに荒れるのが早かったのじゃないか。

 この街はグリニアが放棄されるタイミングと同じだったのじゃないかな。

 フリュウ村の方には特に連絡はなく、気づいたら放棄されていたという感じだ。

 だから、人がいないというだけで、酷く荒れてないのかもしれん。

 この街と外部を隔てる壁はそれなりに頑丈に作られているから、

 フィールドウォークで移動する場所には事欠かないぞ。

 それでも、空を飛んでくるモンスターは侵入する可能性はあると思うがな」

 なるほど。フィールドウォークで移動するには、外壁を使い放題ということか。

 

 この街へは、簡単に移動できそうだな。

 人が誰も住んでいないから、来てどうするのだという話はあるけど。

 フリュウ村もミタカウ村も領主に保護されてはいないから、グリニアが放棄されるとシードナも孤立してしまうので、放棄せざるを得なかったということか。

 シードナは無人の街なのだが、悪用されることはないのだろうか。

 盗賊達も人が近くにいない所を根城にしても意味ないから使い道がないのかね。

 

 

「この近くにも、森林を保護するための移動地点があるが、さすがに案内は不要だよな?」

「その移動地点の先に放棄された村や街があるのか?」

「いや無いな。あるのは森だけだぞ」

「そうか、じゃあ案内は不要だ」

 森に行っても、俺が間伐する訳じゃないしな。

 

 それに木を切ったとしても、運ぶための荷車もなければ、どうにもならないだろう。

 それにしても、巨大とは言わないが、それなりの街なのに放棄してしまうのだな。

 なんとももったいないというか、切ないというか。

 

「ああ、この近くに迷宮があったりするのか?」

「それに関しては全く情報がないな。グリニアや他の街についても同様だ」

 そうなのか。迷宮を見つけようと思うと、ローザを連れ回して確認するしかないのか。

 

 

 トウカは再び、外壁にフィールドウォークのゲートを開いた。

 

「次の中継地はセレスという街だ。まあ、このシードナと大して変わらないがな」

「そうか。まあ先に俺が移動するから・・・・・・」

 ゲートくぐって、次の中継地へと移動。

 

 

(オーバーホエルミング)

 

(索敵)

 

 マップで確認すると、少し遠くの場所に赤い点が見えた。

 見えるのは、赤い点一つだけだ。

 

 ダッシュで移動して近づくと、スローラビットLv1だった。

 背後から駆け寄って、デュランダルの一閃で煙に変えた。

 ウサギの皮を拾って、移動してきたゲートに向かって、ゆっくりと歩きながら戻る。

 

 ちょうどトウカもゲートから出てきたようだ。

 

「一匹だけ、スローラビットがいたので、狩っておいた」

「そうか。この街の外壁もしっかりと残ってるはずなのだが。

 スローラビットということは、どこかの外壁が壊れているのかもしれない」

 確かにスローラビットの脚力だと、この高さの外壁は飛び越えられない。

 

 ここから見えないどこかに、きっと穴でも開いてるのだろう。

 

 このセレスという街も先程のシードナ同様に、雑草がアチコチに生えて廃墟の佇まいだが、ただ無人で寂れただけのようだ。

 壊れた壁や屋根などもなく、普通に住めそうな家屋が見え、建物の間にある通りも綺麗に真っすぐ先まで見える。

 火災の跡や破壊の跡はどこにも見当たらない。

 ちょっと掃除をして、雑草を抜けば、街としてそのまま復興しそうに思えてしまう。

 通りにも家にも、人間だけでなく馬や他の動物の姿もない捨てられた街なのか・・・・・・見ているとなんだか怖くなるな。

 

 ゆっくりと朽ち果てていってるということなのかもしれない。

 

 ザビル第二迷宮が出現した村と思わず比べてしまう。

 盗賊の襲撃もあったから、廃村になった時期は最近であっても、このセレスの街よりも断然荒れ果てていたと感じた。

 もっともアチラの村は、迷宮討伐したら新たに住人を募る可能性があるのかもしれないが。

 今は騎士団も日中は常駐しているから、廃村であっても人が活動している村だしな。

 

 

 街の風景にジッと魅入ってしまっていると、トウカに声を掛けられた。

 

「ここからの森の移動地点も案内はしないぞ。他の村等とも繋がってないからな。

 次に案内するのがグリニアの街だ」

「そうか、よろしく頼む」

 彼は出てきた外壁にゲートを繋げ、俺が先にくぐりぬけた。

 

 

(オーバーホエルミング)

 

(索敵)

 

 さきほどの二つの街と比べ、明らかに巨大な街だが、マップには一つの点も存在しなかった。

 赤い点もグレーの点もなし。

 スキルの効果が切れると、風に煽られる雑草だけが緩やかに揺れ始めた。

 

 後ろを振り返ると、外壁は先程の二つの街よりも圧倒的に巨大でかなりの高さだ。

 ベイルの街と同じぐらいの高さじゃないだろうか。

 街の大きさまでは、ここからでは分からないが。

 

 遠目に見ても、先ほどの街よりは高さのある建物がそこかしこに見える。

 あそこに見えるのは三階建て、四階建てぐらいの建物じゃないのか。

 これほどの規模の街、多くの建物、広い通り・・・・・・こんな街を放棄してしまうというのか。

 なんという無駄なことなのだろう。

 ここまで街を造るのにどれだけの労力をかけてきたのかと、余所者の俺ですら、見知らぬ街の歴史に思いをはせてしまう。

 

 

 ため息を吐いていると、ゲートからトウカが出てきた。

 

「この付近にモンスターはいないようだな・・・・・・。

 こういう言い方はアレだが、何故ここに人が住んでないのか、不思議な気分になる」

「そうだな・・・・・・」

 彼の表情には、なんの感慨も無さそうだ。

 

 既に何度も訪れて見慣れた光景だからなのか、何かを諦めてしまったからなのか、表情からは何も読み取れない。

 

 

「別にこの街の中を案内する必要はないよな?」

「ああ・・・・・・まあ、そうだな」

 別に観光に来た訳でも、知り合いを訪ねてきた訳でもない。

 

 ただ、グリニアに来たかったから来ただけだ・・・・・・だけど、本当に来ただけだな。

 

「このグリニアから東に行くと、やや海岸に近い場所に2つの街がある。

 バクとイロナスという街だ。そこにも案内しようか?」

「ああ。そうだな。お願いできるか」

 彼は淡々と外壁にゲートを開いた。

 

 だが、その先の街もシードナやセレスの街となんら変わりのない光景が展開された。

 とにかく人がいないだけの街。

 グリニアが放棄される際に、まとめて放棄されたのではないかというのが彼の見立てだ。

 2つの街はグリニアと街道が繋がってるものの、その先に街はなく海岸があるのみ。

 グリニアが使えなくなると、孤立してしまうらしい。

 シードナとセレスの街と同じ状況なのか。

 

「ひょっとしたら、知らない場所にフリュウ村のように人が住んでいることもあるのかもな」

「・・・・・・」

 彼は独り言のように呟いた。

 

 

 グリニアとその周辺の4つの街を案内してもらった。

 案内してくれたトウカの表情は冴えない。

 いや、その気持ちは分かるような気がする。

 俺だって、放棄された5つの街を見て、気分は良くない。

 街としては、確かに雑草がたくさんあったが、思っていたほど荒れ果ててもおらず、街としての体裁も保っている。

 ただ人がいないだけの街って感じで、正直何故放棄してしまったのだろうかと思ってしまう。

 

 

 フリュウ村やミタカウ村は領主との関係が絶たれても人は残った。

 一方でグリニアとその近辺の街は人が立ち去った。

 その違いはどこから来るのだろうか。

 周囲の山や聞いただけの海岸線の話も追加しながら、グリニアと周りの4つの街の大雑把な位置関係をメモする。

 

 

「これで、行けそうな街には全て案内したことになるな。

 森の移動場所の方は別に案内は不要だろう?」

「そうだな。森のためだけの移動場所は案内してもらってもなぁ。

 あっ、このグリニアから繋がる街道って、

 さっき案内してもらったバクとイロナスの二箇所の街にしか繋がってないのか?」

 ん?トウカの表情が少し陰ったような気もするが。

 

「いや、それ以外にも西に行く街道があるにはある。だが、そちらには案内できないな」

「理由を訊いても?」

 それだけ嫌な顔するってことは何か拙い事があるのだろうか。

 

 グリニアの先がどん詰まりっていうのは違和感があったのだよな。

 行ける所までは行ってみたい。

 その場合、西に行くリスクの片鱗だけでも確認しておきたいのだが。

 

 

「グリニアはかつては帝国の一部だった」

「そうなのか・・・・・・」

 原作でも確か、そんなこと言ってたような。

 

 だが、それが俺の質問と関係あるのだろうか。

 

「グリニアの先も昔は帝国領だったらしいが、

 王国が独立する際に、グリニアの西のずっと先にある街は王国領になったらしい。

 その後にグリニアの街の近辺に迷宮が多く出現して、

 帝国本土から見て海を渡った先のグリニアは、

 国の支援を受けにくくなり、放棄せざるを得なかったと長老から聞いた」

「そうなのか。なら、西の方向にあるのは王国領だから案内できないってことか?」

 彼は首を横に振っている。違うのか。

 

 

「西に向かう街道は暫く進むと、そのまま西に進む道と南に行く道に分かれている。

 南に行く道の先には昔は村があったのだが、今はどうなっているか分からない。

 その村までフィールドウォークが使えなくなったからな」

「移動魔法が使えないってことは放棄されたということか?」

 俺の質問に彼は首を横に振った。

 

「いや、放棄されたのかどうかは分からない。

 その道の途中からフィールドウォークが使えないんだ。

 だから、魔窟に堕ちたのだと思っている」

「魔窟?魔窟ってなんだ?」

 そういえば、ロッジの資料室を調べた時に『魔境』ってあったな。

 

「魔窟は魔窟だ。俺も長老から聞いただけだから、魔窟の詳しい事は知らない。

 だが、長老の話では魔窟に堕ちると、移動魔法が使えなくなるそうだ」

「魔境じゃなくて、魔窟なのか?」

 トウカは少し難しい表情をした。

 

「長老の話では魔境、魔窟、絶境・・・・・・呼び名はいろいろあるみたいだ。

 だが、移動魔法が使えないって意味では同じなのだろう。

 南にはエライスって村が確かあったはずだが、いつ魔窟に堕ちたのかは分からない。

 気が付いたら、行けなくなっていたんだ。

 南の方面は魔窟に堕ちたが、西の方向はどうなっているか分からない。

 そもそも西の先にある街には俺は行ったことがないから、

 フィールドウォークで移動できない。

 それに徒歩で近づきたいとも思わない。

 魔窟に堕ちているかもしれないからな」

「そうなのか・・・・・・」

 それだけ嫌がるってことは、何か迷信じみたことがあるのだろうか。

 

 迷宮が蔓延ると、街や村が滅びるのだから、良い印象がある訳ないか。

 迷信どころではない、災害のようなものなのだから。

 

「そのエライスって村が王国領になったということはないのか?

 確か国を跨っては移動魔法が使えないって聞いた記憶があるのだが」

「いや、あの感じは違うと思う。

 それにエライス村より、南の先には森があるだけだから、王国領ってことはないと思う」

 感覚論で言われても分からんなぁ・・・・・・行って確認してみるしかないか。

 

「グリニアや周辺の街の人々は、陸続きである王国領の方に移住したのではないかって話だ。

 一部は帝国領の方に戻った者もいるとは思うが」

「まあ、移動魔法じゃ大したものは運べないし、

 領主がいなくなれば近場の陸続きの方に行くのかもしれないな」

 領民にとっては、近場の迷宮を討伐してくれるのなら、誰が領主でも構わないのだろう。

 

 迷宮を討伐してくれないのなら、してくれそうな方に移動してしまうのかな。

 このグリニアの街の西はどのようになってるのだろうか。

 

 

「最悪、歩いては行けるということだな?」

「そうだな。モンスターは出現するかもしれないって意味では、タリカウやシードナと同じだ。

 おい、まさか、ここから歩いて西に向かうつもりじゃないだろうな?

 悪いこと言わないから止めておけ!」

 そうは言われても、ここまで来て引き返すのは中途半端過ぎる。

 

 この世界には、魔王なんていないはずだし、街道で出くわすモンスターも迷宮の高階層のモンスター並ってことはないだろう。

 仮に高いレベルのモンスターが出現しても一匹ならどうとでもなるはずだ。

 ヤバくなったらオーバーホエルミングかけてダッシュで逃げる手もある。

 パーティーの仲間がいなければ、逃走も自由自在だから行ってみるか。

 

 

「おい。本当に行くつもりか?」

「そうだな。ここまで来たら、行ってみたい。

 まあ、無理するつもりはないから、ある程度確認したら戻るつもりだ。

 心配しないで、フリュウ村まで戻ってもらっても構わないぞ。

 ここまで案内してくれて、ありがとう。

 渡した生薬は全て使ってもらっても構わないから」

 人の良さそうなトウカはまだブツブツ言って、俺を引き留めようとしてくれている。

 

 『魔窟は危険だ』とか『迷宮がたくさん出現する地域は危ない』と沈痛な面持ちで俺を説得しようしてくれている。

 だけど、彼は無人になったグリニア等の街と、フリュウ村の将来を重ねているのかもしれない。

 エライスの村が魔境になったというのなら、このグリニアもいつかそうなるかもしれない

 そしてフリュウ村についても同様の未来があり得るのかも。

 

 

「あんたは・・・・・・あんたの家、タケダ家だっけ?・・・・・・迷宮を討伐をしてくれるのだよな?」

「そうだな。先ほどの取引で約束した、フリュウ村近くの迷宮討伐は必ず成し遂げるつもりだ」

 この質問の意図はなんだろうか。

 

 必ず帰ってきて、迷宮討伐を果たせという励ましのつもりか?

 それとも、このような状態にフリュウ村をしないための確認か?・・・・・・まあ、後者だろうな。

 それぐらい、今回の案内は胸に迫るものがある。

 

 案内してもらうまでは、原作でも主人公が行った事のないグリニアに行ってみたいという軽い気持ちだったが、今やそんな観光気分にも似たものは消し飛んでいる。

 迷宮が討伐されないと、街や村がどのようなことになるのかをこの目で見てしまった。

 自分の生まれた街や村が、こんな状況になってしまうかもしれない・・・・・・その現実を皇帝や貴族の上層部は恐らく正確に理解しているのだろう。

 その上で、そのようなことを起こさないために貴族制度を作り、貴族の子弟達を迷宮という死地に送り込んでいるのかもしれない。

 

 カーラやシーナはこの現実を知っていて、貴族であることを全うしようとしているのだろうか。

 何かこの世界の真理というか、理を俺は少しだけ理解したのだろうか。

 理解したのかもしれないが、共感できた訳ではないのだけど。

 

 この世界に転移して、生まれが別の世界にある俺には共感できないことなのかもしれない・・・・・・同情はできたとしても。

 この現状を理解できたからといって、貴族になってグリニアやその近辺の街を復興してやる・・・・・・とまでは俺には思えない。

 覚悟の違いなのか、俺が所詮は別世界から来た異分子だからなのか。

 

 ただ、この先の魔境、魔窟というものや、王国の街を確認してみたいという気持ちはある。

 今は帝国の一部の街しか知らないので。

 知らないものへの恐怖を今回知ってしまったからなのだろうか。

 

 実際には、自由民とはいえ帝国民扱いの俺が王国の街にすんなりと入れないかもしれないが。

 検問がなければ、街へは出入り自由だろうか。

 

 二人して沈黙してしまったが、俺の方が先に口を開く。

 

「西に行くには、あそこに見える門から出ればいいのか?」

「それはそうなのだが・・・・・・本当に行くのか?」

 無言で頷いた。

 

 彼は何とも言えない表情で俺を見据えている。

 

「なら、本当に行けないと分かったら戻ってこいよ。

 それと、この近辺を探索し終えたら、必ずフリュウ村に顔を出してくれ。

 そうでないと、とてもじゃないが安心できないから」

「そうだな。必ず顔を出すから心配しないでくれ」

 このトウカって男はいい奴だな。

 

 

「それじゃあ、行ってくる」

「気を付けろよ」

 真剣な眼差しで、再度注意喚起してくる。

 

 

 真っすぐに門へと向かい、門の少し手前の場所でトウカのいる方向を振り返った。

 ちょうど彼は帰還のためのフィールドウォークのゲートをくぐろうとしていた。

 

 こちらに背中を向けた彼に無言で手を振り、門の横の通用口をこじ開けて街の外に出た。

 この街道をとりあえず、真っすぐ進めばいいのか。

 通用口の門をしっかりと閉めた。

 まあ、モンスターは通用口を開け閉めして出入りすることはないのだろうが。

 

 さて、西へと行くか。

 

 だが、そのまま街道に沿って徒歩で移動するつもりはない。

 リュックから、フリュウ村を探し出す時にも使った双眼鏡を取り出した。

 これを使って、なるべく距離を稼がせてもらおう。

 

 高台がある所はそこへ移動し、なければ街道沿いの木の幹を目指して、ワープでどんどん移動していく。

 グリニアの近くとはいえ、移動方法はドブローで盗賊を捜索していた時と変わらないな。

 こちらの方が森が多くて、高台が少ない、街道が少し見すぼらしいという違いぐらいか。

 

 意外に、この移動方法(ズルなやり方)は頻繁に使っている気がする。

 

 高台に上がった時は、視界が開けているので索敵スキルも発動してみる。

 赤い点が時々、チラチラと見える。

 モンスターはやはりいるんだよな。

 

 人間がいてもいなくても、その辺りは変わらないのか。

 いや、人間を求めてモンスターを迷宮が排出しているのだっけか。

 この辺りにいる人間なんて俺ぐらいな気もするけど。

 

 四回目のワープで目標の一つが見えてきた。

 

 これが街道の分岐点というやつか。

 別に道しるべとなる看板がある訳でもない。ただの分かれ道だ。

 このまま道なりに行くと西で、左折すると南なのだろうな。

 南はエライス村があるはずの場所だと言ってたか。

 

 とりあえず、南へ行ってみよう。

 双眼鏡で移動ポイントを探して、ワープ・・・・・・できない?

 ゲートは開くけど、移動先に双眼鏡で見えていた先が指定できないのか。

 

 フィールドウォークでも同じか。

 これだと、魔境とやらでは、ワープのボーナス魔法を使っても移動できないのだな。

 フィールドウォークの制約が、そのままワープの制約と同じになってるのか。

 チートスキルを使ってもズル(チート)できないと。

 仕方ない。少しずつ近づいて、移動魔法が使える境界線を確認してみよう。

 

(オーバーホエルミング)

 

 ・・・・・・でダッシュして、指定したかった木の幹の所まで高速移動。

 別に木陰まで、普通に超速スキルは使えるのだな。

 まあ、オーバーホエルミングは英雄ジョブの通常スキルだけど。

 

 そして、移動先のゲートが開かなかった木の幹に対して、ワープ・・・・・・のゲートが開かない。

 フィールドウォーク・・・・・・も同じか。

 この感覚は、遮蔽セメントの場所にフィールドウォークのゲートを開こうとした時と同じだ。

 

(索敵)

 

 うん、索敵スキルのマップは普通に使える。

 マップの端っこの視界が通った場所に、普通に赤い点が見えた。

 チートスキルでも索敵スキルは使えると。

 今のところ、移動魔法が使えないだけか。

 

(オーバーホエルミング)

 

 ダッシュして、赤い点に向かって走り出す。

 

(鑑定)

 

 ミノLv1か・・・・・・普通に低レベルのモンスターだ。

 デュランダルで瞬殺して、ドロップアイテムをアイテムボックスへ収納。

 アイテムボックス操作のスキルも普通に使える。

 

 ここは魔境のエリアらしいけど、移動魔法以外のスキルや魔法は使えるってことか。

 

 さて、ここから先はワープもフィールドウォークも使えないのだよな。

 うん、先に進むのは止めよう。

 村の場所も正確に分からないのに、徒歩で移動するのはちょっとなぁ。

 先ほどの別れ道に戻って、西を目指してみるか。

 

 分岐点に戻って、再び、双眼鏡を使った移動を開始。

 だが、二度目のワープで移動ができなかった。

 これって、魔境のエリアが広がっているってことなのだろうか?

 この先に街があるのかもしれないけど、トウカの言うところの『魔窟に堕ちた』ってこと?

 

 なにげなく街道の地面を見ると、馬車が通ったような(わだち)が見えた。

 それほど深くえぐれた轍ではなく、新しくできた轍のように見える。

 分岐点のあった方向へ振り返ると、轍の跡は途中でなくなっている。

 魔境から来て、分岐点に至る前に引き返したってことなのか?

 

 どういうことだ・・・・・・普通は逆じゃないのか?

 グリニアの方から来て、魔境のエリアに来たからグリニアに引き返すとか・・・・・・いや、それもあり得ないのか。

 そもそも、グリニアの街は放棄された無人の街だ。

 人間がいないのだから、グリニアへ引き返す者もいないと。

 

 なら、この轍はなんなのだろうか?

 魔境だけを行き来する特別な馬車?・・・・・・そんな馬鹿な。

 

 広がりつつある魔境が気になるから、この先へ進む・・・・・・いや、そうじゃない。

 

(オーバーホエルミング)

 

(ワープ)

 

 ゲートが開いたので、グリニアへと急いで戻る。

 

(ワープ)

 

 一気にフリュウ村のタケダ家の拠点まで戻った。

 部屋の一角で、一つ大きく息を吐き出した。

 馬鹿は俺だったか。

 

 トウカは、『気が付いたら、行けなくなっていた』とエライス村のことを言ってた。

 つまり、魔窟のエリアが前触れもなく広がることがあるってことかもしれない。

 魔窟に堕ちると、フィールドウォークが使用不可になり、正真正銘孤立してしまう。

 徒歩でモンスターを倒しながら移動することはできるとしても。

 

 土地鑑も地図もない場所で移動魔法が使えなくなる?

 それは、もう遭難しているのと同じだろう。

 直ぐには起こり得ないかもしれないけど、グリニアや周辺の街が魔窟に落ちたら、陸路で繋がってないから、フリュウ村へ戻れなくなる。

 そのことに気づいて、急に怖くなった・・・・・・というか背筋がゾッとした。

 不用意に危険な場所に近づき過ぎたか。

 

 魔境だか、魔窟だかに近づくにしても、もう少し準備して安全を確保してからだ。

 今日はグリニアに行けただけで、ヨシとしよう。

 おばば様への報告はいったん保留だ。

 もう少し頭を整理してから、報告の段取りを考えてからにしよう。

 

 

 部隊編成のスキルでリオン達の部隊を確認すると、既にフリュウ村に戻ってきているようだ。

 拠点の家を出て、トウカを探しながら、リオン達のいる場所へと向かった。

 

 シーナの傍にいたグラシアが俺に気づいて、小走りで近づいてきた。

 

「ユキムラ殿、迷宮の1階層の攻略を終えて、ただいま戻りました」

「そうか、お疲れ様」

 よく見ると、シーナの傍にトウカがいた。

 

 彼もこちらに気づいて、手を小さく振っている。

 これで、約束は果たしたかな。ちゃんと顔を見せたぞ。

 

 グラシアと共に、シーナ達のいる方へ歩いていく。

 

「お疲れ、シーナ。何か問題でもあったのか?」

「いえ、1階層を攻略し終えて2階層に入ったので、

 攻略した階層の案内をどのようにするか、相談していたところです」

 そうか、今度は我が家が階層案内をする役割になるのか。

 

 階層突破報酬はともかく、さすがに他の迷宮と同額の案内料金を貰うわけにはいかないよな。

 

「エネドラ様と相談の上、お返事するようにいたします」

「とりあえず案内が必要なのは、比較的安全な階層であったり、

 食材など、どうしても欲しい素材がドロップする階層だろう。

 ある程度階層の攻略が進んでからじゃないか?」

 俺の言葉にシーナとトウカが頷いてる。

 

 取引の最中かもしれないから、口には出さないけど、程々に手加減してやれよ。

 これからも長く取引が続くかもしれないのだから。

 

「じゃあ、俺は先に自宅に戻るから。後はよろしくな。

 それと、今日の取引の件、エネドラ達への報告は丁寧にな」

「は、はい・・・・・・承知しました」

 『エネドラ』というキーワードを出した瞬間にシーナの顔色が若干変わったような。

 

 カーラに対する『おばば様』と同じか?まあ、そこまでではないか。

 

 タケダ家の拠点の家屋に入り、ワープで帰宅した。

 

・・・・・・

 

 グリニアに行った翌日も、淡々と迷宮探索を進めた。

 シーナ達はカーラを除いたエルフ部隊を中心にフリュウ村の探索を駆け足で行なっている。

 地図もない迷宮だが、昼食もお弁当持参で、低階層の攻略ペースをとにかく上げるようだ。

 

 そして、昨晩シーナがエネドラにお小言を貰ったと、朝練の際にリオン経由で情報を入手。

 やっぱり重要な報告は迅速にしないとな。

 フリュウ村に誠意を見せたかったのかもしれないけど、それなら事前にエネドラに話を通しておくべきだろう。

 まあ、これも経験だな。

 

 

 迷宮組から外れて単独行動を取っている俺は、クーラタルの50階層から下へ下へと移動しながら、魔物部屋殲滅ツアーを実施。

 ルイの博徒のジョブ取得と、遅れて加入したシェル達の育成が中心だ。

 フリュウ村の迷宮探索の合間で、彼等が留守番組の際にパワーレベリング。

 ルイは賞金稼ぎをLv30まで上げ、クーラタルの1階層に連れていった。

 コボルトLv1相手なので『生死不問』のスキルを数回発動したら、あっさり博徒は取得できた。

 

 メリルはルイの影響ではないのだろうが、暗殺者系のジョブを取得したいと言い出した。

 なので、同じくクーラタルの1階層で毒針を使って条件をクリア。

 コボルトがジョブ取得に大活躍してるな。

 

 そのまま、時間を許す限り、パワーレベリング。

 

 

 魔物部屋を殲滅し、ドロップ品をひたすら拾いながら、昨日のグリニアの件を振り返った。

 魔境が広がると、移動魔法が使えずに、その地域は困難な状況に陥る。

 グリニアのように交通の要衝となる都市でもなく、帝国から見て飛び地のようになってしまう地域は見捨てられることもあるのだと。

 魔境が人間の住める場所でないとなると、迷宮を討伐しながら人間の住めるエリアを拡大していかなければならないのか。

 あるいは、現時点で確保している領地を迷宮討伐しながら必死に守っていく。

 

 昨晩、ヘルミーネに魔境の話をしたら、『領地を守り、人間の住める地域を増やすのは貴族の務め』とアッサリ言われてしまった。

 そして『魔境は徒歩でしか移動できない』と伝えると、『そもそも徒歩や馬車で移動するのが普通』と返されてしまった。

 『冒険者を雇って移動する』のは、身軽な金持ちだけだとも。

 アイテムボックスに収納できない大量の荷物は、馬車移動が基本だから。

 この世界の移動は、精緻な地図もなく街道沿いに進むのも当たり前だということ。

 

 便利な地図や移動手段がある元の世界で生きてきて、こちらに来てからもワープのチートに慣れ過ぎてしまったせいで、この世界の常識とズレてしまっているのかもしれない。

 

 だが、その話を聞いても、やはり安心できないので朝一の日課を一つ増やすことにした。

 

 フリュウ村の拠点に移動し、そこからグリニアにゲートが繋がるかを確認することにした。

 グリニアが万が一、魔境になったら、次はフリュウ村の方まで広がることを懸念している。

 シーナ達が迷宮攻略をしている時に、フリュウ村のある島が魔境になってしまったら、その村は陸路で繋がっていないため救い出すことができない。

 心配し過ぎかもしれないが、万が一のための確認だ。

 

 魔境が海を越えて広がることがあるのかは、本当のところ分からない。

 フリュウ村の冒険者達がグリニア方面に顔を出しているのは、案外それを心配しているのではと疑っている。

 急に自分達の村が魔窟に堕ちて慌てないように、魔窟の広がりを確認してるのかもしれない。

 

 長老は『森を見守るため』と言っていたな。

 フリュウ村の中にも村が自然に帰るのを止む無しと思う者とそうでない者もいるはずだ。

 トウカは後者の考えを持つ者のような気がしているのだよなぁ。

 

 まあ、トウカや他の村人達の真意を確認することなんてできない。

 それを知ったとしても、俺達が何かしてやれる訳でもないのだし。

 今は約束したフリュウ村の近くに出現した迷宮を討伐することに注力するだけだ。

 

 

 フリュウ村以外の迷宮探索も淡々と進んでいる。

 

 レイモンド達の部隊もザビル第二迷宮の42階層を突破して、43階層に到達した。

 45階層以降は手強くなるが、今の護衛部隊の実力からすれば50階層に到達するのは時間の問題だろう。

 

 俺抜きの迷宮組もラファを加えて、問題なくボーデ迷宮の50階層の探索を進めている。

 夕方までにはボス部屋を発見したので、そこで探索は終了。

 50階層のボスは迷宮ボスの可能性がある。

 明日、クーラタルで予行演習をした後、メンバーの最終選定をして迷宮討伐に挑む。

 

 いよいよ、ボーデの迷宮討伐が迫ってきた。




お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/7/18(土)の予定です。
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読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

異世界迷宮と斉奏を(作者:或香)(原作:異世界迷宮で奴隷ハーレムを)

突然目の前に現れたのは、読んでいた小説と同じ文面だった。▼冗談でも行けるものなら、記憶を頼りに "彼" のいた世界と近い場所へと向かいたい。▼気がつくと自分がいたのは、小説とは似ているようでどこか違う、聞き覚えのない場所。▼───違っていたのは風景だけでなく、自分自身もだった。▼--- ▼本小説は原作「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」様、「異…


総合評価:3222/評価:8.56/連載:195話/更新日時:2026年07月13日(月) 12:00 小説情報

勝ち組男の異世界迷宮で奴隷ハーレム(作者:Lilyala)(原作:異世界迷宮で奴隷ハーレムを)

両親の仲は良好。親友と呼べる人間もいる。▼金銭面で困った事は無いし、社会的地位もある。▼そんな男の異世界迷宮奴隷ハーレム暮らし。▼◇注意◇▼この作品は小説家になろうで更新停止中の▼『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』▼書籍化作品の▼『異世界迷宮でハーレムを』▼漫画版の▼『異世界迷宮でハーレムを』▼の三作品をチャンポンしている作品となっています。▼なろう版の『異世界…


総合評価:5381/評価:8.57/完結:126話/更新日時:2025年06月27日(金) 06:00 小説情報

異世界迷宮でロマンスを【完】(作者:ノイラーテム)(原作:異世界迷宮でハーレムを)

 本作品は『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』と『異世界迷宮でハーレムを』を元にした二次作品です。何か問題が生じた場合は消去いたしますね。▼


総合評価:1042/評価:7.28/完結:101話/更新日時:2026年04月01日(水) 21:21 小説情報

異世界迷宮へ行ったなら(作者:三星織苑)(原作:異世界迷宮でハーレムを)

十数年あこがれ続けた世界への入り口を見つけてしまった。▼死ぬ可能性がある?▼そうだろうな。▼現代文明の恩恵を受けられず不便な生活を強いられる?▼そうだろうとも。▼食文化が発展していなくて好物は二度と食えないだろう?▼そりゃそうだ。▼でも、そこには彼女がいるかもしれない。▼それだけでも行く価値がある!


総合評価:11434/評価:8.93/連載:309話/更新日時:2026年07月15日(水) 20:00 小説情報

Re:異世界迷宮で奴隷ハーレムを(作者:載せられた人)(原作:異世界迷宮で奴隷ハーレムを)

これは“ミチオ・カガ”が取り戻す物語


総合評価:3223/評価:8.55/連載:51話/更新日時:2024年02月18日(日) 09:00 小説情報


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