ボーデ迷宮討伐の翌朝、まずは
「当面、午前中は迷宮に行かずに、訓練にあてることにしようと思っている。
まだまだ剣技が未熟なので、せめて人並の経験と実力を身に付けるところから始めたい」
「時間をかければ大丈夫などと、甘っちょろいことを考えておるのではなかろうの?
おぬしがいくら時間をかけようと、真剣にやらねば無駄というものぞ」
普段の訓練の際も、他の事を考えながらやってることを指摘してるのだろうな。
「確かに、その通りだな。
真剣に向き合うために、しっかりと時間を確保したいと思ってるので、
午前をその時間にあてるつもりだ。
もし、俺がボーッとしているようなら、ビシビシ指摘してほしい」
「言われんでも、そのつもりじゃ。無駄に過ごしている余裕などないぞ」
言いたいことを言うと、
稽古をつけなければならない相手は俺だけじゃないからな。
迷宮討伐を目標に据えて、各人が頑張り始めたので、そのフォローをグラ爺にはしてもらわなければならない。
俺に言いたいのは『口先ではなく、結果で示せ』ということなのだろう。
まずは基礎の剣の扱いができるように集中せねば。
ヴィルマやイレーネを始め、多くの者から模擬戦のお誘いを受けたのだが、我慢して基礎練習に時間を費やす。
もう少し待っていてくれ。
・・・・・・
朝練と朝食を終えて、再び修練場へと移動。
アミル達迷宮組は、今日から午前中のみ、クーラタルの56階層で探索を開始する。
俺抜きで高階層での迷宮探索を行うというものだ。
俺が抜けた欠員は、ミラかサンドラのどちらかが埋める。
今日はサンドラが加わるようだ。
迷宮探索時はミラかサンドラが探索者ジョブになり、アミルは斎王ジョブで治療役になる。
そして、カーラは魔法使いジョブを担う。
彼女は、そのうち魔道士のジョブが取得できるだろうと見越している。
三日間ほど探索して問題ないと判断したら、上の階層に上がるというやり方だ。
ボス戦まですると、時間がかかるので省略することにした。
ミラやサンドラは、ラファ達の護衛部隊で、クーラタルの45階層から55階層まで探索していたから、一段階難易度を引き上げた形になる。
迷宮組の猛者達と一緒なので勝算は十分あるし、俺も部隊編成のスキルでチェックする予定だ。
こういうところが、グラ爺に『集中しろ!』と言われる所以なのだろうけど。
ザビル第二迷宮を探索中のレイモンド達は、今日から44階層に挑戦する。
もう一階層上がれば、迷宮討伐の難易度にかなり近づくので、どこまで通用するか。
ザビル第二迷宮の討伐を行う前衛は、レドリック、ケリー、フレイヤの三人が候補で、前衛陣の層がやや厚めになっている。
ヘルミーネの率いるパーティーは、今日からアキシマの迷宮の探索を開始。
先日、46階層を冒険者に案内してもらったので、冒険者ジョブのヘルミーネを当該階層まで連れていった。
今後は距離の関係で、一度、フリュウ村を経由して移動を行ってもらう。
フリュウ村までは、クーラタルの拠点から拠点間移動のスキルで楽に移動できるから。
そして、ヘルミーネが冒険者のジョブに就く関係で、サンドラかミラのどちらかが探索者として加わる。
さすがに俺のいない高階層での迷宮探索では、探索者ジョブの者がいないと不便だ。
今日はミラが加わる予定。
アミル、ミラ、サンドラの鍛冶師三人衆は、内勤では鍛冶師、外勤では戦闘支援系のジョブと、八面六臂の大活躍をしているな。
ミラとサンドラ、そしてマヤもだが、できれば三人とも迷宮討伐の経験を積ませてやりたいのだけど、どこかに手頃な迷宮がないものだろうか。
また、タリカウの辺りをローザと一緒にウロウロするかな。
ハルバーの迷宮が手頃なのだけど、さすがに三迷宮制覇は悪目立ちするからパスだ。
ハルツ公の騎士団にも、さすがに意地というかプライドもあるだろうし。
■クーラタル探索組(56階層以降)※午前のみ
(前衛)
ヴィルマ(百獣王)、イレーネ(くのいち)、オリビア(竜将軍)
(後衛)
アミル(斎王)、カーラ(魔法使い)、ミラ or サンドラ(探索者)
■ザビル第二迷宮組(44階層以降)
(前衛)
レドリック(剣聖)、ケリー(百獣王)、フレイヤ(竜騎士)
(後衛)
フラウス(斎王)、ドロテア(魔道士)、レイモンド(探索者)
■アキシマ迷宮組(46階層以降)
(前衛)
モニカ(剣聖)、マリー(百獣王) or マヤ(獣戦士)、ヘルミーネ(冒険者)
(後衛)
ラファ(斎王)、トカラ(魔道士)、ミラ or サンドラ(探索者)
無心に剣を振るいながら、休憩時に部隊編成のスキルでマップを開き、3つのパーティーの探索状況をチラチラ確認。
練習中に見ていると『集中せんか!』と、グラ爺にどやされるから。
なんだか、仕事の合間の休憩時にスマホを見ているサラリーマンのようだ。
午前中の訓練では、修練場は閑散としている。
グラ爺と俺以外だと、エルフの留守番組の二人しかいない。
今日はルイとリオンの二人が
エルフ組は、弁当持参でフリュウ村の迷宮探索を急ピッチで進めている。
今日から13階層の探索だと言っていた。
焦り過ぎないで、1階層ずつ安全に探索してもらいたいものだ。
獣戦士のマヤは、今日はビンスとリックの二人の護衛で出張中。
彼等は、各々が冒険者、商人のジョブに就き、タケダ家の拠点がない街を巡ることになった。
二人はベイルで孤児院の子供達の面倒を見ていたのだが、クルトが加わったことと子供達がかなり慣れたので配置転換だ。
各街の探索者ギルドでモンスターカードの収集依頼を出したり、その地の探索者と交流を深めたり、街の特産品や商売のネタがないかの確認をするらしい。
少し回り道になったが、彼等が元々やりたかった事に近づいたはずなので頑張ってほしいな。
とはいえ、タケダ家に来る前は村人ジョブで大した経験のない二人だから、初めのうちは防具商人のジョブを持つシルビアがヘルプに入るとのこと。
シルビアはザビル第二迷宮が出現して廃村になった村で商人をしていたのと、その後、クーラタルでエネドラに鍛えられたので、その経験を生かすらしい。
だが、エネドラに言わせると『シルビアにも経験を積ませるため』なのだとか。
まあ、初めのうちは失敗ばかりでも、大めに見ようということなのかも。
剣匠のニクラスと巫女のゾフィは、ザビルに出張中。
販売奴隷の訓練や、ザビル拠点組のパーティーに一時的に加わって迷宮探索の支援をする。
ザビル拠点の主力メンバーのマテウスやニケ達がザビル第一迷宮の上の階層へステップアップするので、その穴を埋める形。
拠点間の人材交流だな。
迷宮討伐を成し遂げた、もしくは成し遂げそうなパーティーが合計3つ。
フリュウ村の迷宮討伐を目指すエルフ組、ザビル第一迷宮で研鑽しているパーティーが2つ。
それ以外にも、商売や取引のために各地で活動している者達がいる。
タケダ家の各メンバーが複数のパーティーを組んで、各地で活躍しているのを想像すると、SLG好きの俺としては、なんだか胸が熱くなる。
「ほれっ、いつまで休んどるんじゃ。さっさと剣を振らんか!」
「はーい」
練習、練習っと。
・・・・・・
昼食を終えて、迷宮組とクーラタルの64階層に移動。
移動した場所はボス部屋に一番近い小部屋だ。
まずは簡単なブリーフィングから。
「クーラタルの64階層の新規モンスターはレムゴーレムだ。
この階層ではレムゴーレム、ハートハーブ、ボスタウルス、シルバーサイクロプスの順に多い。
足の速いモンスターはいないので、密集して迫ってくることが多いだろう。
どれも戦ったことのある相手だが、油断なくいこう」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
小部屋を出て、地図にある道順でボス部屋を目指して歩き始めた。
カーラのジョブは魔法使いから、剣聖に変更してある。
彼女は剣聖と巫女と並行して育成することにした。
カーラが巫女で戦えば、アミルを斎王にせずとも探索者ジョブにできるため、俺がいなくても迷宮組単独でパーティーを組める。
五人パーティーでも戦えるが、午前のように一人誰かを加えることもある。
柔軟な編成ができるだろう。
それにしてもヴィルマ、イレーネ、オリビアは巫女って感じじゃないのだよなぁ。
いや、似合わないという訳ではなくて、興味が無さそうというか・・・・・・まあ、カーラは剣を振れれば、どんなジョブでやりそうなだけだが。
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対戦するモンスターの半分ぐらいはレムゴーレムだ。
レムゴーレムとなると、オリビアとアミルのダマスカス鋼の槍が火を噴くな。
いや、実際には火は噴かないのだけど、二人が面白いようにレムゴーレムを転ばせる。
器用に太い足の間に槍を差し込んで、コロコロと転がす。
それはもう、いとも簡単に。
そして一度転がると、レムゴーレムは簡単に起き上がれないから、ヴィルマやイレーネの状態異常を付与する武器で簡単に無力化させられる。
レムゴーレム以外のモンスターも前衛陣がそつなく対応している。
うん、安定しているな。
昨日の迷宮ボス戦は遠く後方から見ていたから、結構ヤキモキさせられたけど、間近で見ていると安心できる。
カーラも時々、全体手当を使っているが、モンスターをあっという間に無力化するので出番があまりない感じだ。
俺もチマチマとサンダーストームを撃って、たまに麻痺させて少しだけ貢献。
戦闘の合間に、アミルと今後のタケダ家の武器について相談。
昨日の迷宮討伐の振り返りで話題になった件だ。
「ミラは迷宮での戦闘で、長い刀身のレイピアや
「最近、しっくりいく形のものが決まったみたいで、迷宮での戦闘で使ってると言ってました」
そうか。ついに長巻型の片手剣の完成形が迷宮デビューしたのか。
「昨日の振り返りで、ミラが言ってた話なのだけど、
彼女の使っている武器は利用者が少ないことを気にしていたじゃないか?」
「そうですね、利用者はまだ少ないですね。
レイピアはミラちゃんとサンドラさん、盾だとマヤさんが試しに使っているぐらいですから」
暗殺者のジョブを使ってる者と、盾を重視したタンク役か。
「昨日、レドリックとモニカが話をしているのを聞いたのだけど、
リーチの長い片手剣か両手剣を使うべきかどうか議論していたみたいだ」
「えっ?レドリックさんとモニカさんが?」
「ああ、昨日の迷宮討伐戦を見学して、
空中を舞う迷宮ボスとの戦いだと、今の武器では苦戦するのではないかと感じたようだな」
昨日、迷宮ボス戦で圧勝した迷宮組を見ても、感じるところはあったらしい。
「ヴィルマとイレーネは、空中を舞うノドグロと戦った際には膠着状態だったじゃないか?
お供の相手をしていたオリビアは早々に無力化して、ボス戦に参加していたよな。
そして、もう一方のお供は飛行型のブラックダイヤツナで、カーラが相手をしていた。
もちろん、カーラは全く被弾しなかったけど、無力化するまでには時間がかかっていたし、
ラファのフォローもあって、無力化に成功したよな?」
「そうですね。オリビアさんの所が、もっとも優位に進めてましたから」
「カーラとブラックダイヤツナでは、彼女の方が圧倒的に優勢なのだけど、
リーチの差がある分だけ、どうしても時間がかかるんだよな」
別にカーラに問題がある訳ではないのだが。
「迷宮組はそれぞれが個性的で強力な強みを持っているのだけど、
護衛部隊は、まだそこまでではないと思っている。
だから、あまり長く膠着状態になると、
被弾して装備品破壊のリスクが増えることを、レドリックは気にしているようだったな」
「それで、剣聖のジョブでもミラちゃんの使っている武器が役に立つと思われたのでしょうか」
「多分、そうじゃないかな。
だが、その議論を横で聞いていて、
俺はミラの使ってる武器を標準化する手もあるかなと思ったんだ」
「えっ?タケダ家の標準装備にするのですか?」
彼女の可愛いビックリ顔を見ながら頷く。
「標準化するにしても、段階を経るかもしれないがな。でも可能性は高いと思っている」
「段階的にですか?」
「そうだな」
次のモンスターが近づいてきたので、しばし戦闘。
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:
:
戦闘が終了し、先ほどの会話を再開。
「例えば飛行型のモンスターや、リーチの長い武器が必要な迷宮ボス戦に限定して、
長い刀身の片手剣や
片手剣の方はエストックレベルのグレードにしてみたらどうかと思うんだ」
「エストックって、ダマスカス鋼製ですよね?
そこまでのグレードにすると、確かにタケダ家の標準品と同レベルになりますね」
そう。そして『長巻型の片手剣』というところが肝なのだ。
「エストックにすると空きスロットの最大数が4つになるだろう?
すると石化、麻痺、MP回復、攻撃力2倍がスキル融合できる。
アクティブ攻撃スキルをバンバン使いながら、状態異常の付与が可能となる。
HP回復は神官系のジョブに任せることになるけどな。
そして、エストックは片手剣なので、
もう片方の腕には盾を持つか、スキル付与をしないエストックを持つことができる」
「盾はともかく、スキル融合しない武器を持つのですか?」
「そうだな。迷宮ボス戦では、装備品破壊の可能性があるので、攻撃を受けるための武器扱いだ。
例えば、剣聖や竜騎士は二刀流なのだが、あえて片側は破壊を前提とした武器を持つ形だ。
スキル融合した武器が攻撃用、スキル無しの方は防御用だ。
もちろん二刀流前提でのスキル攻撃の『ダブルスラッシュ』は二本の武器で攻撃できる。
両方の武器に攻撃力2倍を付与したり、状態異常を付与した方が攻撃面では効率が良いが、
防御面、特に装備品破壊を考慮に入れて、使い捨てにできる選択肢を選ぶ感じだな」
彼女はまだ、得心がいかないようだ。
「長い刀身の片手剣はタケダ家でしか使えない。
通常の武器とは言い難く、武器屋に売ることもできないし、委託契約の納品にも利用不可だ。
だから、数を作って空きスロットの多いものを用意する際、
空きスロットできなかったものは、迷宮ボス戦用の使い捨て武器に利用する」
「なるほど。確かに使い捨てにするなら、空きスロットが無いものを使うのが適切ですね。
あっ、ひょっとして両手剣ではなく、片手剣にしたのは・・・・・・?」
勘の良い彼女は、俺の意図をしっかり理解したようだな。
「剣聖だけでなく、暗殺者や獣戦士のジョブで使い捨ての盾を使ってもらうためですか?」
「そうだ。槍を得意とする者は使えないが、剣を得意とする者のジョブで広く使うためだな。
盾の方は、空きスロットのない通常の盾でも構わないが、
空きスロット無しの盾も大量に生成されるだろう?
それを使い捨て扱いにしても構わないな」
彼女は、うんうんと頷いている。
「評判が良ければ鋼鉄製でなく、ダマスカス鋼製の盾にする選択肢もあるが、
ダマスカス鋼製は重たいからな。
まずは種族やジョブに左右されない鋼鉄製の盾を使うのが良いと思っている。
鋼鉄製を普及させた後に必要ならダマスカス鋼製にする等、段階を経るべきかもしれない。
そして、刀身の長いエストックも、前衛のうち一人だけ試しに使ってみるとか、
段階的に広げていくかどうか判断すべきだろうな」
「ただ、そうなると、刀身の長いエストックに、またスキル融合を大量にする必要がありますね」
「そうだな。だが、いきなりタケダ家の完全な標準品にする訳ではない。
あくまで迷宮討伐戦用の標準品とするのなら、今のように大量に用意することはないだろう。
1パーティー分の前衛なら、多くても3人で3本くらいだな。
予備にもう1本ずつ用意しても6本だ」
「なるほど。そんなものですか」
アミルもだんだんと麻痺してきたかもな。
6本にスキルを4つずつ融合すると、コボルトが24枚と他のカードも24枚必要だ。
我が家のモンスターカード収集能力からすると、それほど難しいことではない。
そして、拠点構築の効果で、6本のエストックに空きスロット4つをものを用意するには、180本程度のエストックを武器生成する必要がある。
それに必要な鍛冶素材も、今のタケダ家の倉庫にあるな。
そして、その9割以上のエストックが使い捨て扱いになるのだけど・・・・・・ハハハ。
「まあ、この後、レドリックやヘルミーネ達とも相談しながら、計画を練ってみよう。
ザビル第二迷宮もアキシマの迷宮も迷宮ボス戦を迎えるまで、もう少し日数がある。
とはいえ、習熟訓練も必要だから、決まったら徐々に量産する必要があるけど」
「なるほど、そうですね。
これでミラちゃんやサンドラさん、マヤさんに活躍の場が増えると嬉しいのですけど」
そうだな。剣聖や竜騎士のジョブの者にも歓迎されるといいな。
その後も64階層の探索は順調に進み、探索の終わりに63階層のボス周回を1時間程実施。
目的は威霊仙で、1日に平均2個ぐらいの取得を目論んでいる。
エリクサーを量産するのは、高階層の探索や地図のない迷宮の探索を行なっているパーティーに配備するためだ。
万が一、大怪我を負った際の保険にしたいと思っている。
1パーティーに2個程度をエリクサーを持たせて、万が一使うような事態になったら、そこで探索を終了して戻ってくるようにするつもり。
レイモンドやヘルミーネ達のパーティーには杞憂で終わると思っているが、万が一への備えだ。
マテウス達のザビル組や、フリュウ村の迷宮探索をしているエルフ組にも配備したい。
威霊仙が2個ドロップしたところで、本日の探索を終了とした。
・・・・・・
翌日も午前中は訓練、午後から迷宮探索というサイクルのスケジュールで淡々と進めていく。
結局、前日の会議でレドリック、ヘルミーネ達に持ち掛けたところ、刀身の長いエストックの利用は好意的に受け入れられ、翌日から鍛冶師三人衆で量産することとなった。
迷宮探索に行ってない空き時間での装備品生成だが、三馬力だからなんとかなるとのこと。
・・・・・・
午前中を訓練にあてると決めてから3日目・・・・・・この日のクーラタルはあいにくの雨だった。
朝練の前から、どしゃ降りの状態で、裏庭で訓練ができる状況ではない。
ザビルまで行けば、天気が違うから訓練はできるだろうが、さすがにクーラタル拠点の人数を受け入れるだけのキャパはない。
仕方ないので、食堂で暇をつぶすことに。
ミラが作った木彫りの人形で、迷宮での戦闘を模したシミュレーションに興じる者が数組。
俺も、それをノンビリと眺めることにした。
エルフ組がタケダ家に加入して、初めての雨だったので、この遊戯を興味深そうにシーナやリオンも見ている。
俺の横にはグラ爺もいて、しきりに感心している。
もちろん、シミュレーションに興じる者の戦術に感心している訳ではなく、遊戯盤とモンスターの人形である駒を使った可視化ツールの手法に対してだ。
さすがの齢90歳の剣聖も、こんなものは見たことがなかったらしい。
考案した俺はちょっと、鼻高々だったりする。
「ご主人様、依頼されていたものが完成しました。まだ試作品レベルですけど」
「ん?」
ミラが両手で袋を抱えて、近づいてきた。
取り出したのは、彼女に依頼した『将棋盤』と『駒』だ。
将棋盤は、元の世界と同じ9×9のマス目の板で作成をお願いした。
駒の方は、五角形の駒に表面と裏面に文字を書いてもらった。
ただし、金だの銀だの書いてもらっても、こちらの世界の人には理解不能なので、いせはれ風に変更した。
五角形の木の駒に、以下のように彼女に文字を書いてもらった。
文字を彫って、黒っぽく色づけしてある。
予想以上に良い出来栄えだ。
(駒の説明)
歩兵:剣士
香車:騎士
桂馬:暗殺者
銀将:剣匠
金将:剣聖
王将:聖騎士
角行:獣戦士(龍馬:百獣王)
飛車:魔法使い(龍王:魔道士)
成銀、成桂、成香、と金:剣聖
俺は心の中では、『いせはれ将棋』と呼ぼうと思っている。
王将を王や皇帝でなく、聖騎士にしたのはなんとなく。
まあ、領主はだいたい聖騎士が多いだろうから。
領主同士の戦いという訳だ。
「おぬし、これはなんじゃ?そこにある人形のものとは違うようじゃが」
「ん?これか?これはだな・・・・・・」
グラ爺は、先ほどから皆が興じていた人形の遊戯盤よりも、この将棋に興味を示している。
文字で、剣士とか剣聖とか書いてあるから、興味を持ったのかもしれない。
袋の中から、ミラに渡してあった説明書を取り出して、いせはれ将棋のルールを説明。
「よく分からんが、この紙に書いてあるルールで軍勢を動かして、
先に領主の首を取れば良いのじゃな?」
「ま、まあ・・・・・・そうだな」
どうして、元エストグリュン家の者達はみんな好戦的な言い方をするのだろうか。
「で、どうやって始めればいいのじゃ?」
「ああ、まずは駒の並べ方からだな・・・・・・」
とりあえず、駒の初期配置を教えて、対戦の開始準備をする。
「いきなり俺とやるのか?一応、経験者だから、さすがに強いぞ」
「こんな、子供じみた遊びに強いも弱いもなかろう?」
ふーん、そんなこと言っちゃうんだぁ。まあ、いいけどさ。
:
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「ぬうぅ、何故、
「それが策略というものだからな」
いやいや、単純な『王手飛車取り』だからね。
俺の
初心者はそれをやられるとビビるだろう?
我ながら大人げないとは思うけど。
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その後、朝食が始まるまでにグラ爺と3戦ほど指したが、3戦3勝だった。
さすがに初心者に負ける訳にはいかない。大人気ないけど。
朝食の配膳をしていたエネドラの目が冷たかったので、早々に片づけることにした。
グラ爺はちょっと悔しそうな表情だったが。
・・・・・・
朝食を終えて、二階に上がろうとしたら、グラ爺に呼び止められた。
「おぬし、どこに行くつもりじゃ?」
「どこって、これから迷宮に行くので、二階で準備をしようかと」
雨が降って訓練ができないのなら、時間を有効利用するためパワーレベリングだ。
「こんな雨の日に、迷宮に行ってどうしようというのじゃ?」
「は、はいぃ?」
迷宮に雨もクソもないだろう・・・・・・。
「勝ち逃げは許さん。食堂に戻るように」
「え、えぇ~?」
えの何段活用?・・・・・・いやいや、爺さん、負けず嫌いだな。たかが将棋なのに。
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:
「ぐぬぬ。何故、勝てぬ。そもそも、剣士が何故、いきなり剣聖になるのじゃ。
剣匠にならずに剣聖になるなぞ、インチキじゃ」
「いやいや、相手の陣地に入ったら剣聖になるって遊戯のルールなので」
もはや、グラ爺の言ってることもグダグダだな。
いくら負けず嫌いで才能があったとしても、さすがに将棋未経験者が半日程度で経験者に勝てる訳がない。
俺の剣の訓練ではないが『修業して出直してこい』と言いたい。
将棋盤は、今、この1セットしかないけど。
「も、もう一回じゃ。今度はワシが勝つ」
「いいけど、あと2、3戦でやったら、止めるからな」
ここでグラ爺の相手ばかりして昼飯の時間までいたら、エネドラにきっと怒られるはず。
しかし、90歳の爺さんにも意外に子供っぽい一面があるのだな。
この負けず嫌いの性格が剣の道を極める秘訣なのだろうか・・・・・・。
ただ、初歩的な定石は今でも覚えているから、当分、爺さんに負けることはないだろう。
待てよ。夜の定例会議が終わったら、グラ爺に対局を迫られるだろうか。
いや、誰か他の者に将棋のルールを教えて、対戦を押し付けよう。
グラ爺よりも、ハーレムメンバーとの
お読みいただき、ありがとうございました。
スローライフ系の話は真面目にやらないので、いせはれ将棋の出番はこれ以降、ほとんどないかもしれません。
グラ爺の性格をちょっと表現したかったので登場させてみました。
次回投稿日は2026/7/28(火)の予定です。
※ちょうど連載を始めて1年ということで、一日前倒しでの投稿となります