昨日は久しぶりの雨だったが、今日は快晴。
連日の雨になると、また食堂でグラ爺と『いせはれ将棋』をする羽目になるので助かった。
初めのうちは懐かしさが先立ち、指していて楽しかったのだが、さすがに
そして、あまりに勝ちすぎると老人虐待だと感じてしまう。
とはいえ、真剣に勝負を挑んでくる相手に、わざと手を抜くのも失礼だしなぁ。
難しいところだ・・・・・・なんというか、面倒くさいのだ。
昨日のグラ爺の食いつきを見て、ミラが『いせはれ将棋』の量産を始めそうな雰囲気だった。
ただでさえ、長巻型のエストックや衝角付きの盾を作るのを依頼して負担が増えているはず。
だから、将棋の方は後回しで全然問題ない。
まあ、息抜きになるのなら構わないのだけど、程々にね。
修練場を見渡すと、先日まで広場の片隅に積み重なっていた、木材や大工道具などが全て撤去され、すっきりとした風景。
そう、長期間に渡って実施されていたクーラタルの増築工事が遂に終わったのだ。
昨日が工事最終日で天候は雨だったが、屋内の仕上げがメインのため問題なく終了した。
居住スペースも広がったので、メンバーをまた増やせるな。
食堂や厨房も広くなり、二階には大きな作業部屋が設けられたので、装備品の生成や石鹸の量産作業もゆったりとできそうだ。
工事の完了期限よりは、かなり前倒しで終了した。
なので契約の追加条項に記載された通り、インセンティブ報酬を出すことになる。
こちらは早く工事を完了してほしかったので、win-winの取引になったはず。
頑張ったヨルゲン親方や大工達には、とっても感謝だ。
あの、ぶっきらぼうな親方は『金をもらったのだから、キッチリ仕事をやっただけ』とか言いそうだけど。
そういえば取引といえば、ベイルのビッカーとのビー玉の取引も昨日で終了した。
この世界に持ってきたビー玉が全て売れてしまった。
1個5000ナールで買い取ってもらい、複数個で3割引をセットさせてもらい、完売御礼だ。
たかがビー玉なのだけど、無くなってしまうと少しだけ感傷的な気分になる。
盗賊討伐の懸賞金と比べれば少額だったが、安定収入だったので、当時は少しだけ気を楽にさせてもらえた。
向こうの世界からもってきた売り物で残っているのは、もう小型の鏡ぐらいだけになったな。
アレが次にいつ売れるかは読めないけど。
ビー玉が無くなっても、ビッカーとは石鹸の委託販売を継続しているから、まだまだ長い付き合いになるだろう。
それはともかく、今日もグラ爺の指導を受けながら、素振りを繰り返している。
重心の残し方や、手首の返し方など細かい注意をされつつ、反復練習で体が覚え込むまで繰り返し続けた。
「どこまでやっても終わりなぞ無いと心得よ。集中して、かかれ」
「はーい」
気の抜けた返事だが、気は抜いてない。リラックスしながら体を動かしているだけ。
素振りを中心にやっているのは、エルフ組の未成年者や、ミラやマヤなどの若手が多い。
まあ、俺も17歳の若僧でしかないのだけど。
雑にならないように、気持ちを入れ直しながら、黙々と木製の剣を振るう。
繰り返すうちに雑念が消え、徐々に神経が研ぎ澄まされていくような錯覚に陥る。
とはいえ、機械的な動作にならないように注意を払いながら・・・・・・。
「ほれっ、また重心の位置がずれておるぞ。腑抜けた剣を振っておっても、何も身に付かんぞ」
「はーい」
どんだけ鋭い観察眼の持ち主なんだよ。
確かに自分でも『あっ、これダメだ』と思う時があるけど、それを的確に指摘するんだよなぁ。
型の稽古や素振りだけでなく、朝練の終盤では模擬戦も行う。
相手はヴィルマやイレーネといった猛者連中ではなく、ミラやマヤ達だ。
防御重視で、彼女達もグラ爺から盾の使い方を習っているので生徒同士の模擬戦という訳だ。
俺の剣の使い方、彼女達の盾を使った振る舞いについて、容赦なくグラ爺からダメ出しの叱責が飛んでくる。
うーん、やっぱり、こういうのはいいな。
やっていて楽しい。
理不尽な根性論でもなく、ただ怒鳴り散らされてる訳でもない。
教え方も上手く、実際の技量も高い者からの指導って、本当に貴重な機会だ。
ミラの考案した、衝角付きの盾は模擬戦でもしっかりと使われている。
奇抜な形状の盾だけど、グラ爺はそれを見て馬鹿にすることなく、利用方法や問題点について、しっかりと彼女に指摘している。
衝角の形状と攻撃の流し方の注意点や、それを使った戦闘で具体的に有効なモンスターの種類にまで言及する。
彼女のグラ爺に対する表情は、もう『尊敬の眼差し』としか表現できない。
なんか、ジジ専の残念少女に見えてしまうのは、俺の心が汚れているのだろうか。
ミラだけでなく、アミルやサンドラも近くで二人の会話に聞き入っている。
アミルは手に紙とペンを持ち、懸命にメモしている。
真面目だ・・・・・・迷宮での戦いに役立てようとしているのかもしれない。
サンドラも今は迷宮で暗殺者のジョブを使っているから、戦闘に生かしたいのだろう。
訓練だけでなく、実際のモンスターや対人戦での戦い方を、グラ爺は頻繁に教えてくれる。
俺のような誰かのノウハウを借りてきた知識チートではなく、自分の経験で得たノウハウだ。
他人の知識を使うのが悪いとは言わないが、経験の積み重ねで得たものは、その持ち主が語ると応用性が高くなるし、聞く者を簡単に納得させられるんだよなぁ。
そんなこともあり、グラ爺の周りには人がよく集まっている。
剣を使う者、槍を使う者、攻撃力を高めたい者、攻撃のバリエーションを増やしたい者、モンスターとの戦闘方法で悩んでいる者・・・・・・多種多様な悩みや相談に丁寧な対応をしている。
なんだろう。
本当に『生きた伝説』とは、グラ爺のような人なのかもしれない。
強いだけの孤高な存在ではないのだなと思ってしまう。
どれだけ、この楽しい日々が続いてくれるのか分からないが、無駄にしたくないと心底思える。
「ほれっ。おぬしは、いつまでさぼっておる気じゃ!」
「はーい」
タケダ家の戦力増強は着々と進みそうだな。
・・・・・・
タケダ家の迷宮探索も順調に進んでいる。
クーラタル迷宮の64階層の探索を始めて6日目、ようやくボス部屋に辿り着いた。
ようやくと言っても午後半日で、のべ6日だから、実際には3日強ぐらいだろうか。
ボス部屋に一番近い小部屋に騎士団員に案内してもらったので、時間短縮ができての3日だ。
やっぱり、56階層以降は探索エリアが広いよな。
そのおかげで、他のパーティーとも殆ど会わずに悠々と探索できるのだけど。
待機部屋でまずは、ブリーフィングから。
「64階層のボスモンスターはシールドゴーレムだ。
レムゴーレムよりも防御に秀でたモンスターらしい。
ドロップ品は遮蔽セメントで、レアドロップはオリハルコンだそうだ。
お供のモンスターに飛行するやつはいないから、近接戦闘がメインとなるだろう。
初戦なので、小荷駄隊外しを使うぞ。
今日は時間があるので、ボス戦を何回かやってみようか。
アミルに指揮を任せても大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。
ボスの二匹はヴィルマさんとイレーネさんでお願いします。
お供の方は、左側をオリビアさん、右側をカーラさんで受け持って下さい。
私とご主人様は遊撃で援護します。
レムゴーレムが出現した場合は、眠ってることがあるかもしれません。
ですが、ボス含めて六匹と多いので、麻痺にすることを優先したいと思います。
ご主人様はレムゴーレムの状態にかかわらず、雷魔法を使って下さい。
ボスのシールドゴーレムは時々、強烈なパンチを見舞ってくるそうです。
お二人は十分に注意願います」
「了解!!」
「了解!!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
フォーメーションは、この前のボーデ迷宮討伐戦を踏襲しているのかな。
この後も何周かボスマラソンをするから、カーラやオリビアもボスモンスターとの戦いを楽しめるだろう。
カーラを小荷駄隊に入れて、ボス部屋に侵入。
各自、フォーメーションに着いたことを確認した。
「では、始めるぞ」
全員がこちらを見て頷いたのを確認。
カーラをメイン部隊に戻すと扉が閉まり、モンスター出現のエフェクトが始まった。
出現したシールドゴーレムは、レムゴーレムよりはデカいけど、思ったほどではないな。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
(状態異常耐性ダウン)
イレーネの対峙するシールドゴーレムに博徒のスキルをかける。
カーラの前のレムゴーレムの一体のみが麻痺したようだ。
問題のシールドゴーレムの・・・・・・拳は、なんだか小さな盾のような形をしているな。
あれで殴ってくるのか。
防御もあの拳の形状でやるのだろうか・・・・・・意味あんのかなぁ。
シールドゴーレムは大きく振りかぶって、シールド状の拳を振り回すが、モーションがデカいのでイレーネとヴィルマには当然かすりもしない。
空振りした瞬間を狙い、激しく刺突や斬撃をかましている。
二人の戦いを見る限り、彼女達の表情から若干の余裕が感じられるか。
オリビアはお供のレムゴーレムを転倒させ、もう一体のボスタウルスも遠間から攻撃して前進を阻んでいる。
カーラの方は、麻痺した方を放置して、もう一体のレムゴーレムをターゲットと決めたようだ。
レムゴーレムに纏わりつくように接近し、硬直のエストックの二刀流で攻撃を加えている。
死角に入りながら、一方的に連撃を続けているな。
あれは、間もなく石化させるだろう。
アミルはカーラが放置した、麻痺になったレムゴーレムの足に槍を差し入れて転倒させた。
両翼のお供を無力化して、均衡を崩す作戦だろうか。
俺はヴィルマとイレーネの援護のために中央へ前進する。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
2セット目の雷魔法を放ったが、ボス二匹は麻痺にならず健在。
シールドゴーレムの攻撃は二人に全くダメージを与えていないが、状態異常にもなっていないので、ジリジリと前に寄られて彼女達は後退せざるを得ない。
「アミル、ヴィルマの支援を!・・・・・・俺はイレーネの方に向かう」
「了解!」
アミルの返事を聞き流して、イレーネの対峙するシールドゴーレムの側面に回る。
こいつは・・・・・・膝がないのか・・・・・・膝があれば、膝カックンを仕掛けたのに。
仕方がないので、足を出した瞬間を狙い、後方から剣で前方へと弾き飛ばす。
バランスを崩して、ヨロヨロし始めた。
「イレーネ!側面に回り込んで、足を払え!」
「了解!」
彼女は一瞬驚いた風だったが、ニヤリとしながら俺の逆側に姿を消した。
左右に分かれて、シールドゴーレムの足の動きに合わせて斬撃を振るう。
双方の足を二人でリズム良く弾き飛ばそうとする。
デュランダルとオーバーホエルミングを使いたいが、ここは我慢して彼女に付き合う。
おっ、くのいちの『一閃』のスキルが決まったのか、左足を払われて転倒。
そのまま、起き上がらせないように連続攻撃を加えつつ・・・・・・石化させた。
オリビアの方は既に二体とも転倒させて、ひたすらダマスカス鋼の槍を叩きつけている。
ボスタウルスの方は石化しているようで、ピクリともしていない。
彼女の方は任せておけば大丈夫か。
もう一体のシールドゴーレムを見ると、既にイレーネが取り付いて、ヴィルマと連携しながら先ほどの足払い攻撃を繰り返している。
ヴィルマのビーストスラッシュが決まって・・・・・・こちらも転倒したな。
起き上がれずにジタバタしているシールドゴーレムに対し、激しい連続攻撃を加え始めた。
カーラの対峙していたモンスターは、既に二体とも麻痺して転がっている。
彼女の相手を石化させるのを手伝うか。
やがて、六匹とも石化させて無力化に成功。
あとは、削り作業だけだ。
イレーネと一緒にシールドゴーレムの石像の削り作業に従事。
石にしてしまえば、シールドを持っていても、あまり関係ない・・・・・・というか、ゴーレムだから元々石ではないかという説も。
「今回のシールドゴーレムは、少しだけ手強かったかな?」
「初めは苦戦したけど、御館様の指示で楽になった。ありがとう」
この戦い方は、実はグラ爺に教えてもらったんだよなぁ。
シールドゴーレムへの戦い方ではなく、重心の崩し方をいくつか伝授してもらった。
防御が固くて、重量のあるモンスターへの対処法だ。
まあ、アミルやオリビアがレムゴーレムをコロコロ転がしていたのも参考になったかな。
やがて、全てを煙に変えて、ドロップ品を取得。
残念ながら、レアドロップのオリハルコンではなかったが、遮蔽セメント2つをゲット。
遮蔽セメントって、袋に入ってるのだな。セメント袋ってことなのだろうか。
増築工事のヨルゲン親方の話では、遮蔽セメントは少量混ぜて壁に塗れば効果があるらしい。
これからは、この遮蔽セメントも工事の金額交渉の役に立つのだろうか。
「どうする?ボス戦をもう何戦かやってみるか?」
「ユキムラ殿、私もボスモンスターと戦いたい!」
「私はどちらもでいいかなぁ~♪」
「ご主人様、私も戦ってみたいです」
おっ、珍しくアミルがボス戦を希望している。
ヴィルマとイレーネは満足したようだったので、もう一戦だけボス戦をこなし、この階層は切り上げることにした。
残念ながら、オリハルコンはまたもドロップせず。
必要になったら、ボスマラソンするか。
65階層に抜けて、小部屋で水分補給しながらミーティング。
「まだ、時間が余ってるから、次の階層に行ってみるか?
次は65階層ではなく、66階層にするけど・・・・・・ランドドラゴンだな」
「ドラゴン!・・・・・・ユキムラ殿、是非戦いたい!」
カーラの気合が凄いな。
彼女が加入してから、ドライブドラゴンなど竜種のモンスターとは戦ってなかったか。
ドラゴンと戦えると、燃えるのかな。
そんなタイトルの映画があったような・・・・・・まあ、いいか。
他の皆も頷いてるので、66階層へと移動。
例によって、騎士団員に案内してもらったボス部屋に一番近い小部屋だ。
まずは、ブリーフィングから。
「クーラタルの66階層の新規モンスターはランドドラゴンだ。
65階層は探索しなかったが、ファイヤーバードが出現する。
この階層ではランドドラゴン、ファイヤーバード、レムゴーレム、ハートハーブの順に多い。
ファイヤーバードが突っ込んでくるから、いたら各個撃破しよう。
ランドドラゴンが三匹以上で迫ってきたら、きっと苦戦するだろう。
その際には、中央にオリビアで左側には俺が位置する。
右側のメンバーは、ローテーションしながら逐次、試してみよう。
初戦はヴィルマとイレーネで対応してくれ。
二人の援護はアミルに任せるぞ。
手強い相手になるが、油断なくいこう」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
小部屋を出て、歩き始めた。
初戦の相手は、ランドドラゴン5匹とファイヤーバード2匹か。
フルスペックだな。
64階層の時も最大7匹だったが、レムゴーレムとは圧力が別物かもしれない。
「前にランドドラゴン3、後ろにランドドラゴン2とファイヤバード2で1番だ。
ファイヤーバード2匹が突っ込んでくるから、先に片づけよう。
オリビアとアミルで、なんとか地上に叩き落としてくれ。
その後は、先ほど言った並びでランドドラゴンを迎え撃つぞ」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
中央にオリビアが立ち、右にアミル、左に俺が並ぶ。
ファイヤーバードが2匹、急速に近づいてくるのが見えた。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
(状態異常耐性ダウン)
右側の奴に博徒のスキルをかけた。
2匹とも墜落しなかったから、麻痺は発生せずか。
突っ込んできた2匹にオリビアの2本の槍が襲いかかり、両方とも地面に叩き落とされた。
アミルの出番はなかったな。
ランドドラゴンが近づいてくる前に、6人に取り囲んで滅多打ちにする。
二匹とも瞬く間に石像にして前進。
今度は右側のやや後方にヴィルマが立ち、オリビアの後ろにイレーネが位置する。
ヴィルマが足止めして、イレーネが側面から攻撃するつもりだな。
やがて、通路に横一線で並んだランドドラゴンが突っ込んでくる。
なかなかの迫力だ。見た目は巨大なトカゲなのだけど。
(サンダーストーム、サンダーストーム)
(状態異常耐性ダウン)
2セット目のサンダーストームでオリビアの前の奴が麻痺・・・・・・彼女は右側の援護に回るため、ヴィルマ達に接近するトカゲを側面から攻撃。
(オーバーホエルミング)
こちらは、デュランダルと硬直のダマスカス鋼剣でトカゲの頭を滅多打ち。
前進を阻まれたランドドラゴンはスローモーションで大口を開けて、攻撃の姿勢を取ろうとするも・・・・・・そのまま煙となった。
右側を見ると、オリビアの側面攻撃でひっくり返されたトカゲを、ヴィルマとイレーネが一方的に攻撃を加えている。
オリビアはもう右側には目もくれず、目の前の麻痺したトカゲに激しい攻撃を繰り返す。
まだ二匹残っているはずなので、俺は前に出るか。
空いたスペースを埋めるように前進しようとすると、横から元気なトカゲが迫ってきた。
出会い頭に、横殴りでデュランダルを叩きつける。
足を狙ってバランスを崩させようとするが、重心が低いランドドラゴンにはイマイチ効果薄。
仕方なく、そのまま地面に押し付けるように、デュランダルと硬直のダマスカス鋼剣で連打。
突然、俺が足止めしているランドドラゴンに別のランドドラゴンが激突。
オリビアの攻撃で吹っ飛ばされたのか。
巨大なトカゲ相手に、オリビアも半端ねぇな。
「ゴメーン、邪魔だったぁ~?」
「いや、むしろ助かったわ!」
バランスを崩した二匹に、オリビアと共に、そのまま激しい攻撃を加える。
そういえば、もう一匹いたはず。
目の前のトカゲを叩きながら、横目で前方に目を向けると・・・・・・少し後方にトカゲが見えた。
あれは麻痺しているのか。
ヴィルマとイレーネが駆け寄っていく姿が見えた。
カーラは後方でつまらなそうに、石像をエストック二刀流で削っていた。
出番は直ぐに来るからさ。
しかし、これで終わりが見えたな。
:
:
:
やがて、全てのランドドラゴンを無力化した。
石像を削りながら、アミルに最近感じていた疑問をぶつけてみた。
「今のランドドラゴンとの戦いをどう思った?」
「えっ?どうと言われても、いつも通り戦えたかなと思いましたけど」
そうだな。確かに『いつも通り』戦えた。
「アミルって、タケダ家に来るまでは戦闘経験の少ない探索者だったじゃないか?
俺も帝国に来るまでは、迷宮で戦ったことのない村人ジョブだったから、
その頃と今のギャップに時々戸惑いを覚えるんだ。
最近、午前中はいつもグラ爺に鍛えてもらってるだろう?
直ぐには無理かもしれないけど、そのギャップを少しでも埋めたくてな」
「そうでしたね。確かに私もタケダ家に来てから戸惑いの連続でした」
知識チートのある奴は計画的犯行かもしれないが、巻き込まれる側の混乱はその比ではない。
迷宮探索だけでなく、いきなり鍛冶師になったことで混乱に拍車をかけたかも。
『経験値』というゲーム的な意味では、俺の方がグラ爺よりも圧倒的に所持しているはず。
だけど、実戦の『経験』という意味なら、その真逆なのだろう。
異世界一年生の俺と名実共に剣聖のグラ爺では、子供と大人・・・・・・どころか、文字通り赤ちゃんとお爺ちゃんの差だ。
しかもグラ爺の場合は、ただ歳を重ねただけではない重みを持っていそうだし。
「タケダ家に来るまでは、
自分がクーラタルの66階層でランドドラゴンと戦う姿なんて想像もつきませんでした」
「そうだよな・・・・・・やっぱり」
想像がつかなかった・・・・・・だけでなく、どれだけ負担になるかというのが気がかりだ。
「貴族の子供が騎士団員のパーティーに入るだけで迷宮には入らず、
経験を共有して強くなるって話は聞いた事があるだろう?」
「はい。あります。ヘルミーネさんからも実際に聞きました。
共有される経験の多さは、その貴族や騎士団の力によってマチマチだとも」
うちは、それを更に何十倍にもパワーアップさせた感じなのだよな。
「10歳の子供に経験をたくさん共有して、その子がジョブの経験を積んだからって、
いきなり子供が大人に勝てる訳ではないよな?
もちろん、そのジョブで共有された経験が多ければ多い程、
身体能力が上がって攻撃力は増すのだろうけどさ」
「そうですね。ご主人様は、今のタケダ家のやり方に疑問を感じているのでしょうか?」
彼女の質問に直ぐ答えることができず、自分が迷っていることを改めて実感。
「それが自分でも、まだ考えがまとまらなくてな。
正真正銘の実戦経験を積んだグラ爺には、模擬戦で全く俺は敵わなかっただろう?
それなのに、今は66階層でランドドラゴンを圧倒して勝っている。
他のパーティーメンバーも、かなり有利に戦闘を進めていると思っている。
そこだけ見れば、このパーティーは強いってことなのだろうけどさ。
だけど、70階層ならどうだろうか?更に80階層なら?・・・・・・って想像するとな。
いつか、このやり方が行き詰った時、
それまでに積み上げなければならなかった、本当の『経験』を持っていなければ、
窮地に追い込まれるのではないかと、漠然とした不安を感じたのかもしれない」
「ご主人様でも、そんなことを感じるのですね。なんだか安心しました」
う、うーん、それは褒められてるのか?・・・・・・いや、共感してくれたのか。
ゲームのルールで勝ってるだけだと、ゲームのルールで勝てない壁にぶち当たった時に
迷宮はともかく、少なくとも対人戦ではそれが露呈したのだよな。
「ヘルミーネさんの話では
『だから貴族の子供は、幼くても厳しい訓練を受けさせられる』とおっしゃってました」
「そうか。そうなのだろうな」
スキルが使えるようになって浮かれていると、迷宮で簡単に命を落とすということかも。
そういえば、ザビルの戦士ギルドでギルド神殿の仕様の調査をした時に、受付の奴に似たようなことを言われたか。
『戦士になったからって、急に強くなるわけじゃないから命を大切にな』だったっけ。
戦士になり、ラッシュを使えるようになったからといって、それで無敵になれる訳ではない。
魔物部屋で全滅したパーティーなんかも、案外そういったギャップを理解せずに無謀な階層に向かった末路なのかも。
ヴィルマやイレーネ達が訓練に入れ込むのも、実は俺と同じ不安やギャップの解消のためだったりするのだろうか?・・・・・・いや、ただの戦闘民族という疑惑も拭い切れないけど。
原作主人公が上の階層に行くのを躊躇っていたのも、実は同じ理由なのかもしれない。
遅まきながら、俺も原作主人公と同じ感覚を共有できたのだろうか。
こちらは
目の前のランドドラゴンを削り倒したので、次の石像に二人で向かう。
削り作業をしながら、先ほどの話を再開。
「アミルは、今戦った七匹のモンスター群に、
レイモンド達のザビル第二迷宮組のパーティーが勝てると思うか?
ファイヤーバード二匹に、複数のランドドラゴンが密集体形で来ると厳しい相手だと思うが」
「えっ、どうでしょうか。
レイモンドさんやヘルミーネさんからは、
迷宮で新しく戦うモンスターがいる場合には、助言をよく求められます。
勝てるか勝てないかは、正直なところ分かりません。
それでも事前の準備をして立ち向かっているので、
戦って厳しい相手だと判断したら、引き返してくるのではないでしょうか。
私達が新米探索者だった頃は、そうしてましたけど」
なるほど。それが普通の感覚か。
仲間の負傷も顧みず、回復したから先に進む・・・・・・はゲームの感覚だよな。
いつも無傷での完勝にはならないから、戦えばケガもするし、疲労も貯まる。
水分補給だって必要だから、リーダー役はパーティーの体調管理にも気を使うのだよな。
よほどの手練れや、強力なスキルが連発できるのでなければ、軽戦士が多いパーティーでは、ランドドラゴンが多い集団は厳しいかもしれない。
竜騎士や守りの堅いタンク役がいれば、安心できるだろうか。
原作によると、80階層まで行くと十分に一流とみなされるのだっけ?
80階層で戦えないと一流とみなされないなんてホントかよと疑いたくなる。
原作とこちらでは基準が違うのだろうか。
試してみたい気もするが、一流の水準に近づきたくて、急いで80階層を目指すのは違う気がするのだよなぁ。
石像を全て削り切ると、ドロップ品は竜肉が5つとオストリッチが2つ。
これからは暫く、竜肉祭りになりそうだ。
「ユキムラ殿、探索を続けないのか?」
「お、おう・・・・・・」
竜種との戦いが少なかったので、カーラが次の対戦を所望している。
:
:
:
その後も複数のランドドラゴンと、それなりに戦ったが危険を感じることは一度も無かった。
最後に63階層でボス周回を1時間ほどこなし、威霊仙が二度目のドロップをしたところで、自宅へと引き上げた。
・・・・・・
ランドドラゴンと戦うのも3日目に突入。
今のところは、危険な状態に陥ることなく淡々とドロップ品の竜肉を積み重ねた。
歯ごたえのある相手に前衛陣はご満悦で、集中力を切らさずに戦えている。
午前はグラ爺の訓練を受け、午後には迷宮探索という生活のリズムにも慣れてきた。
それでも、急に剣技に開眼したなどということもなく、地味な基礎練を毎日続けている。
今日も最後に、63階層で威霊仙を2個ゲットして、帰途に就く。
食堂に行き、エネドラ達に帰宅報告をして、二階に上がろうとしたらレドリックとヘルミーネに呼び止められた。
「夜の会議の後でも構いませんので、少し相談したいことが・・・・・・」
「分かった。今から着替えるので、二階の会議室で待っていてもらえるか?」
二人が頷いたので、自室に戻って急いで着替えることに。
なんだろう。ちょっと深刻な顔をしているのは、迷宮で何かあったのだろうか。
ヘルミーネがいるってことは、アキシマ迷宮関連だろうか。
水に浸した布で体を拭きながら、着替えて会議室へ。
増築工事で広くなった会議室には、二人が既に待ち受けていた。
ハーブティーのポットとコップも人数分置かれ、俺の分も用意されていた。
席に着き、ハーブティーを飲みながら、相談内容を確認。
「ザビル第二迷宮の件なのですが、探索のペースを少し落としたいと思いまして、
ご主人様から意見をいただければと」
「リーダーのレイモンドの判断で必要だと思うのなら、落としても構わないぞ。
これはレイモンドではなく、レドリックの意見なのか?」
「はい、レイモンドでなく、私の意見となります」
リーダーの意見ではないのか。
「レイモンド自身はどう考えているんだ?」
「彼は『もう少し頑張ってみたい』と言ってます。
ですが、45階層に入ってから特にレイモンドの疲労が目立つ気もします。
45階層に入って一段階モンスターの強さが上がったというのもあると思います。
レイモンド自身が戦闘で苦戦している訳ではありませんが、
メンバーの被弾する回数も増えてきましたので、全体に目を配る負担が増えたと思います」
「なるほど。それにクーラタルと比べて、地図もない迷宮での探索だ。
ダンジョンウォークが使える場所での、休憩や探索の終了タイミング等、
リーダーとしての判断が重荷になってるのかもしれないな」
レドリックだけではなく、ヘルミーネも頷いている。
彼女は今、アキシマの迷宮でレイモンドと同じ立場だからな。
レドリックはレイモンド側のパーティーで前衛を務めながら、補佐もしているけど、彼女の負担の方がレイモンドよりも大きいかもしれない。
リーダー格は、実質彼女一人な訳で、それに次ぐのはラファぐらいだが、まだ14歳でジョブのレベルはともかく迷宮での経験年数は短いよな。
貴族の騎士団では、複数のパーティーを配置して迷宮討伐にあたっていると聞いたことがある。
40階層ぐらいまでなら一般の探索者達に任せるだろうが、高階層だと対応が違うのだろう。
それを我が家では単独パーティーで実践しようとしているのだよな。
迷宮組のような最精鋭部隊ならいざ知らず、護衛部隊には負担が大きかったかもしれない。
「俺の意見は、事故が起きる前にペースを落とした方が良いと思うな。
ペースと落とす方法だけど、定期的に迷宮探索の休みの日を入れる、
一日の迷宮探索の時間を減らす、その二つを併用するの3つぐらいが浮かぶ。
レドリックやヘルミーネはどう思う?」
「私は定期的に休みを入れるのが良いかと思います」
「私もレドリックの意見に賛成ですが、レイモンドの意見も聞いてみた方が・・・・・・」
ああ、ちょっと誤解させたかも。
「ヘルミーネ、例えば、45階層以降は定期的に休みを入れるようにする。
そのルールはレイモンド達だけでなく、護衛部隊全体のパーティーに適用すべきだと思う。
つまり、今、アキシマの迷宮探索をしているヘルミーネ達も同じだ。
そう考えた時に、ヘルミーネはどう思う?」
「えっ、私達もですか・・・・・・そうですね。定期的に休む方が分かり易いかもしれません。
迷宮探索の終わりの時間は、
ダンジョンウォークの使える場所の見つかるタイミングによりマチマチです。
一日の探索を短くするにしても、できる時とできない時があると思いますし」
確かに、ワープの使えない通常のパーティーだとそうだよな。
あとは『休み』というのを、どうやって過ごさせるかというのも大事だ。
「それなら、45階層以降は、1階層走破する毎に1日休みを挟むのはどうだ?
例えば、休みの日の午前中は自由に過ごさせて、休息を取り、
午後はグラ爺に訓練に付き合ってもらったり、パーティー内で話をする時間にするとか。
もちろん、1日全て休息するようにリーダー判断で決めても構わない。
必要なら、小遣いを支給して気分転換に出掛けても構わないなんてどうだろうか?」
「そこまでするのですか?」
レドリックとヘルミーネは顔を見合わせて困惑気味だ。
「極端に思えるかもしれないが、
それぐらい分かり易く『休ませる』意識をもたせるべきじゃないか?
そうしないと、休みの日にひたすら訓練をして、休息にならない未来が想像できるのだけど」
「はは。確かに」
今度は二人で苦笑している。お前らも自覚があったのではないか。
この世界に週休2日なんて導入するのは難しいからな。
『週』の概念がないからでなく、『休日』や『休息』というものの共通認識がないから。
「それでやってみて、問題あれば、また改善したらどうだろう。まずは始めるところからだ」
「なるほど。分かりました」
幹部連中が賛成してくれたので一安心か。後は運用しながら改善だ。
「明日から適用しよう。
ザビル第二もアキシマも今日、階層走破はできてないから、明日休みとはならないけどな。
レイモンドには、くれぐれも『タケダ家全体で決まったルールだ』と伝えてくれよ。
ヘルミーネも、自分達のパーティーメンバーに共有してほしい」
「承知しました」
「了解です」
護衛部隊だけでなく、後方支援部隊も休みのルールを作りたいな。
後方支援部隊は強制的に5日毎とか、10日毎とかでローテーションにするか。
だが、エネドラやカラダン、ミモザといった幹部連中を休ませるのに難儀しそうだ。
みんなワーカホリック気味だから。
今回の件は、今晩の定例会議でも議題にしよう。
・・・・・・
迷宮討伐に向けた休暇導入ルールは、昨晩の会議で共有、周知された。
レイモンド達のように迷宮にずっと入っているメンバーはレベリングができなかったので、休暇のタイミングでレベルを上げてしまおう。
迷宮討伐戦までに全員Lv70前後まで上げておけば、レベル補正の効果と装備品破壊のリスク低減ができるはずだ。
後方支援部隊の休暇制度はエネドラとカラダンで考えてもらうことになった。
ワーカホリックの二人が果たして、ちゃんとした案を出してくるのか、お手並み拝見だ。
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その後も午前は訓練、午後は迷宮探索と規則正しい生活を続けている。
今日も探索の締めの作業である、63階層のボスマラソンに従事。
この階層で取得した威霊仙も既に20個を超え、各地で活躍するパーティーにもエリクサーを2つずつ常備させられるようになった。
数カ月前までは、あんなに切望していた威霊仙・・・・・・エリクサーが通常装備扱いに。
これも、タケダ家の実力が向上したということなのだろうか。
そういえば、ザビル第二迷宮の討伐を成し遂げたら、威霊仙を所有している貴族を紹介してもらうことになっていたな。
どうしよう・・・・・・『もう、威霊仙は調達したので大丈夫です』と言って、やんわり断るか。
その時が来たら、また考えよう。
俺の休み?・・・・・・明日は事務処理デーだから、休みみたいなものだ。
定期的に休みを取ってるようなものだし、何より俺の安らぎは毎晩あるから大丈夫。
そういえば、エネドラ達から後方支援部隊の休暇計画が出てこないな。
仕方がないから、俺が直々に彼女に夜の休暇プランを提供するか。
秘密基地体験ツアー(無料体験)なんてどうだろう。
・・・・・・アホなことを考えながら、威霊仙獲得のボス周回を継続。
おっと、索敵のマップで確認すると、他のパーティーが近づいてきたようだ。
短い時間だけど日参していると、たまにあるんだよな。
ん?グレーの点に混じって、一つだけ青い点が見えるが、これって・・・・・・?
お読みいただき、ありがとうございました。
今日で投稿を開始してから、ちょうど一年が経過しました。
拙い文章にお付き合いいただき、感謝しております。
いつも感想やココスキ、評価登録、誤字指摘を下さり、ありがとうございます。
連載して1年が経過しましたので、活動記録を追加しました。
今後の見込み等を記載していますが、どこまで予想通りになるのかは・・・・・・?
次回投稿日は2026/7/30(木)の予定です。
※ちょうど連載を初めて1年ということで、少し変則的なスケジュールでの投稿となります
引き続き、拙作にお付き合いいただければと思います。