索敵のマップで見る限り、グレーの点が5つと青い点が1つある。
6人パーティーで、威霊仙を目的にボス部屋を目指しているのだろう。
近くに赤い点も3つあるからモンスターと戦っているのかもしれない。
俺達はまだ今のところ、威霊仙を1個しか入手できていない。
そのパーティーが待機部屋に来るまで時間があるだろうから、もう1、2周ぐらいして、ドロップしなかったら諦めて退散するか。
「主、どうした?もう一戦するのだろう?」
「ああ、そうだな。もう少し頑張ろう」
ヴィルマに曖昧な回答をしながら、待機部屋のある壁の方へと歩く。
索敵のマップを開いたまま、壁にワープゲートを開いて、待機部屋へ皆と移動。
青い点が1つというと誰だろう?
まさか、こんな所にゴッゼル士爵家のパーティーはこないよな。
士爵様や塩爺も青かったはずだが、一人だけ青ということはないはず。
となると、エステル達か。
確か俺の記憶では、何故かエステルだけが青く、他のパーティーメンバーはグレーだったか。
この階層に挑む実力者という意味でも、エステル達なら条件に合致するな。
ん?エステル達の後方から赤い点が6つ近づいてきた。
モンスターに挟撃されたのか・・・・・・不運な。
とはいえ、帝国解放会の試験でダンスバトルの競演をした彼等は猛者集団だ。
63階層のモンスターとはいえ、後れをとることはないだろう。
先に接敵した3匹を片づけてしまえば、なんとかなるはず。
なるはずだが・・・・・・大丈夫か?・・・・・・モンスターに挟撃されるのなんて体験したことないから、ちょっとドキドキするな。
「ご主人様、どうしました?ボス戦をやらないのですか?」
「ああ、ちょっと待ってもらえるか。少しだけ休憩しよう」
エステル達が気になるので、索敵のマップを右上に開いたまま暫し休憩。
あっ、グレーの点が1つ消えた。
これはヤバイかも。何やってるんだ、エステル!
「みんな、急な話だが、迷宮で戦っているパーティーを助けにいく。多分、俺達の知り合いだ。
カーラのジョブは巫女に変更した。だから、硬直のエストックは一本戻してくれ。
あと、オリビアも槍一本にするぞ。
ワープで移動するから、付いてきてくれ!」
「了解!」
「了解!」
「ええ~仕方ないなぁ~♪」
「?・・・・・・了解」
「了解」
焦った口調で言ったから切迫感が伝わったのか、全員の表情が少しだけ引き締まった。
カーラは理解して無さそうだな。
他のメンバーは、似たような経験があるから、なんとなく分かるのだろうけど。
ハインツの一味との戦いや、セ二号作戦でも取った行動だ。
今回は対人戦ではなく、モンスター対応だけど。
エステル達に会うのなら、この階層で治療職不在は不自然なのでカーラを巫女に変更した。
最近までレベリングしていたから、丁度良い。
彼女から硬直のエストックを一本を受け取り、アイテムボックスに収納。
巫女だから二刀流はできないが、一本でもMP吸収が付与されているから大丈夫だろう。
オリビアの槍二刀流も見せられないから、槍一本縛りだ。
ヴィルマとイレーネのジョブと装備品は変更しなくてもオッケーか。
アミルは先ほどまで探索者でレベリングしていたので、そのままにした。
帝国解放会の入会時に俺は冒険者を名乗っていたが、それは鬼神ジョブで代替できるから問題ないはずだ。
だが、四刀流はおろか二刀流も使えないので、デュランダル以外の武器を仕舞った。
モンスター殲滅を支援して、直ぐに立ち去るから問題ないだろう。
壁にワープゲートを開き、エステル達のいる通路に一番近い十字路の壁に繋げた。
急ぎたいが、ワープで移動しているのをエステル達に見られる訳にはいかない。
彼等の死角にあたる壁のゲートをくぐり抜け、全員で移動。
内密事項が多いと、偽装のための時間を取られるし、全力が出せないな。
十字路を曲がって、急いでエステル達の方へと向かう。
彼等に後から接敵した6匹のモンスターの後方から、攻撃を仕掛けて援護だ。
右上に浮かんだ索敵マップを確認すると赤い点は・・・・・・あれっ?もう1つしか残っていない。
最初に接敵した3つの赤い点の方は残っているようだけど。
さすがは帝国解放会の会長率いるパーティーだ。
後方から来た6匹のうち大半を、この短い時間で殲滅したのか?
いや、それでもグレーの点が1つ消えたということは誰かが死んだということだ。
援護は必要かもしれない。急がなければ。
「走るぞ。アミルとオリビアは後から来てくれ」
二人が頷くのを確認して、ヴィルマ達を連れて走り出す。
付いてこれるのは、ヴィルマ、イレーネ、カーラの三人だけ。
大した距離ではないが、とにかく急ぐ。
こんな時でも、オーバーホエルミングが使えないのはもどかしい。
内密事項が多いから仕方ないとはいえ。
やがて、エステル達の集団が見えてきたけど・・・・・・ん?モンスターが見えない。
いや、見えるのは見えるが・・・・・・モンスターがいるのは、エステル達のパーティー越し・・・・・・更に前方のようだ。
一人の男は地面に横たわってる者を何やら介抱している。
あちこちの壁や地面が赤く染められている。
そして、装備品が多数転がっている・・・・・・なんだこれは?
索敵のマップで見る限り、我々とエステル達の間に赤い点が1つ見える。
この赤い点は、モンスターではなく『人間』か?・・・・・・まさか、こんな所で盗賊の襲撃だと?
(鑑定)
アーセン(人間族 男 39才 奴隷)
探索者Lv75
装備
吸活のエストック 頑強のダマスカス鋼盾 耐毒の竜革鎧 耐火の竜革グローブ
ダマスカス鋼の額金 竜革の靴 決意の鋼鉄腕輪
奴隷で探索者のLv75?なんだ、この高レベルの男は?
しかも、スキル融合装備品を山ほど持ってやがる。
決意の鋼鉄腕輪・・・・・・対人装備だと?
詮索は後回しか。
「そこのパーティー!助けはいるか?」
とにかく、状況を打開するために声を掛ける。
こちらは、エステル達がいるとは知らずに駆けつけた風体を取るしかない。
なるべくデカい声で、エステル達に聞こえるように叫んだ。
こちらへ振り向いた奴隷の男は、一瞬ギョッとした表情をしたが、直ぐにエステル達の方へと視線を戻した。
俺達をガン無視する気か?
背中を向けた男は・・・・・・その直後に爆散した。
「グォッ・・・・・・」
四散した奴隷男の前にいた男が、血塗れになりながら苦痛の声を上げている。
探索者の奴隷男は自爆玉を使ったのか。
先ほど確認した赤い点6つは、次々に自爆玉攻撃を仕掛けていたのかもしれない。
それで、この辺りが血塗れの状況なのか。
「ご主人様、これは?」
「たぶん、自爆玉だと思う」
アミルとオリビアが追いついてきたが、経緯が分からないので簡単な状況説明しかできない。
自爆玉の攻撃をまともに受けたのか、先ほど声をあげた男は絶息するように床に倒れていた。
索敵スキルで確認する限り、グレーの点が消えてないから、まだ命はあるはず。
そして、赤い点3つ・・・・・・モンスター三匹はまだ残っているのか。
「おい、大丈夫か?何があった?」
「其方は帝国解放会の試験の時の・・・・・・確かタケダ殿だったか?」
一番近くにいた魔道士の男は憔悴した表情だが、俺の事をかろうじて思い出してくれたようだ。
その男が介抱している者は・・・・・・点が存在しない。つまり死んでいるということだ。
「ユキムラか?・・・・・・すまんが、手を貸してくれ」
「分かった。ヴィルマ、イレーネ、オリビア、前にいるモンスターを殲滅しろ!遠慮するな」
前方にいたエステルから声が掛かったので、ヴィルマ達に激を飛ばす。
「主、承知した!」
ヴィルマ達は、エステル達の脇をすり抜けて、彼等とモンスターの間に割って入っていく。
「ご主人様、私も行ってきます」
「ああ。アミル、みんなの指揮を頼むぞ」
アミルを送り出し、それに追随しようとしたカーラの腕を掴む。
「カーラはちょっと待て。怪我人の手当が必要かもしれないから状況を確認してからだ」
「ああ、分かった」
カーラは巫女なので『全体手当』しか使えない。
治療するなら、同じパーティーになる必要がある。
僧侶なら『手当』の治療魔法でパーティー外の者にも対応できるのだが。
この状況はセ二号作戦の時にもあったか。迷宮でこんな事態になるとはな。
前方に目を向けると、百獣王の男・・・・・・確かヘンドリクスという名だったが・・・・・・苦し気に蹲っているようだが、命に別状は無さそうだ。
ヴィルマ達が前に出たので、エステル達が後退してきた。
百獣王の男に肩を貸している。
「エステル、そちらのメンバーの怪我の状況はどうなのだ?」
「それが・・・・・・」
「エーギル、どうしたんだよ。目を開けておくれよ・・・・・・。
なんで、お前は動かないんだよ・・・・・・」
突然、女性の声が通路に響き渡った。
声の方に目を向けると、血塗れになり、床に倒れている男に狼人族の女性がすがりついている。
先ほどまで、魔道士の男が介抱していたが、彼は今、別の者の所にいた。
エーギルと呼ばれた男は、一番初めに点が消えた時のメンバーなのかもしれない。
索敵のマップで見ても、そこにグレーの点は彼女一人分だけだ。
やはり彼は死んでいるんだ。
縋りついている彼女は・・・・・・鑑定で見ると、剣匠Lv48か。大きな怪我は無さそうだが。
可哀想だが死んだ者を復活させる術は、この世界には存在しない。
今は生き残ったメンバーをなんとかしなければ。
「うちのメンバーに巫女のジョブの者がいる。
そちらのパーティーに入れば、治療が可能だ。
エステル達のパーティーには、治療魔法が使える者はいないのか?」
「そこに倒れているラパンが、禰宜なのだが、今、詠唱できる状態じゃない。
それに、今は探索者だったエーギルが死んでしまったから、
うちはパーティーが解散してしまっている」
マジかよ。想像以上に酷い状況だ。
探索者が亡くなってしまうと、パーティー効果が使えなくなる。
だから、そのエーギルという男が死んでしまった事は、メンバー全員が瞬時に理解したはず。
残酷な現実だ・・・・・・。
それにしても、迷宮内でエステル達のパーティーが解散してしまったのは本当にマズイ。
怪我の治療もあるが、この高階層の場所からどうやって脱出するんだっていう話もある。
「ご主人様、無力化しましたので、今、最後の詰めに入ってます」
「そうか。アミル、引き続き頼むぞ」
索敵のマップを開くと、この近くに石像になった点以外の赤い点は存在しない。
しばらくは大丈夫だろうか。
「ミライ、どいてくれ。エーギルのインテリジェンスカードを・・・・・・」
「嘘だ・・・・・・エーギルが死ぬ訳がないだろう?
エステル、お前は嘘を言っている・・・・・・。
何度も一緒に死線をくぐりぬけてきたんだ。
こんな所で死ぬはずがないだろう?」
左腕を切断して、インテリジェンスカードを回収するのか。
迷宮で死んだら、左腕を切断してインテリジェンスカードだけを持って帰るのだったよな。
魔道士のクヌートという男が、ミライの腕を取り、壁際に連れていく。
エステルは倒れた男に歩み寄り、左腕を切断し始めたようだ。
背中を向けているから表情は見えないが、少し震えているようにも見える。
やがて、男の遺体は装備品を残して、迷宮に飲み込まれていった。
少し離れた所で、ミライの泣き声が聞こえる。
迷宮で仲間を失うのは辛いよな。
だけど、生き残った者には、まだやるべきことがある。
「ご主人様、終わりました。これがドロップアイテムです」
「ああ、お疲れ様。よくやってくれた」
アミルと前衛陣が殲滅を終えて戻ってきたようだ。
アミルから緑豆を3つ受け取る。
ハートハーブ三匹だったのか。
「アミル、悪いが、四人で周囲・・・・・・通路の前後を警戒してもらえるか?
俺とカーラは、まだちょっと手が離せない」
「了解しました」
アミルはヴィルマ達の方へ向かっていった。
(ゴボッ・・・・・・)
背後から、咳き込むような声が聞こえた。
「ラパン!・・・・・・しっかりしろ」
ヘンドリクスが、倒れている禰宜の男によろよろしながら近づいていく。
この百獣王の男も重傷だ。
こちらのパーティーに入れて回復をする手もあるが、その前にやるべきことがあるか。
アイテムボックスから、エリクサーを取り出す。
意識がない者に治療する方法は限られている。
今、この場に僧侶のジョブを持つ者はいないし、俺が僧侶にジョブ変更する訳にもいかない。
口から血を吐いている者に生薬を飲ませるのは難しいだろう。
「すまない。ヘンドリクス、ちょっとどいてくれ」
「えっ?・・・・・・何かできることがあるのか?」
あまりやりたくないけど、仕方ない。
ラパンという男の頭を少し横に傾け、口から血を垂れ流させて、思い切って彼の口に口を付けて、口腔内の血を吸い込んだ。
「ブッ・・・・・・」
吸い込んだ血を何回か、床に吐き出す。
「おい、何をやってる」
ヘンドリクスの質問は無視して、口を拭う。
別に後からやっても構わないかもしれないが、血液で気道が詰まっても困るしな。
それにしても、口の中に鉄の味が広がって、気持ち悪い。
上腕の両腕も、かなり血塗れの状態で、酷い有様だ。
帰ったら、エネドラに怒られる事案だな。
それはともかく、下腕の右手に持ったエリクサーを傾けて、ラパンという男の胸にかけた。
腕が四本あると、二、三本汚れていてもなんとかなるもんだ・・・・・・全然嬉しくないけど。
横たわったラパンの体が、穏やかに発光した後、彼の呼吸は安定し始めた。
エリクサーを使うとこんな感じになるのか。
エネドラ達には渡したけど、実際に目の前で効果を見るのは初めてだ。
呼吸が楽になったようだが、吐き出した血が消える訳ではないし、ラパンという男の口や全身は血塗れの状態のままだ。
ヘンドリクスの方に向き直って、状況説明。
「治療した・・・・・・」
「それは、エリクサーなのか?・・・・・・ラパンのために」
百獣王の男に向かって無言で頷いた。
普段からエリクサーを常備しながら、探索していて良かったな。
こういう状況を想定していた訳ではないけど。
威霊仙だけあっても、この場で生薬生成をする訳にもいかないし。
備えあれば患いなしということだ。
それにしても、俺は迷宮で男とばかりマウストゥマウスしているな。
塩爺といい、今回の禰宜の男といい・・・・・・原作主人公との格差が酷すぎる。
それはともかく、まだまだ解決しなければならないことがある。
「アミル、手が空いてたら、こっちに来てもらえるか?」
「はい、大丈夫です」
俺の声掛けに、彼女は急いで戻ってきた。
「ご主人様、その顔、血は・・・・・・?」
「ああ、これは俺の血じゃないから、大丈夫だ」
全然、大丈夫じゃない顔に見えるだろうけど、そう主張するしかない。
「今から、アミルとカーラを俺のパーティーから外すから、
アミルはパーティー編成をしてくれ。
パーティーに加えるのは、カーラとそのヘンドリクスという男だ。
カーラはアミルのパーティーに入って、そのヘンドリクスが加わったら、
全体手当をかけて治療してやってくれないか?」
「ユキムラ殿、承知した」
「分かりました。皆さんにも伝えてきます」
そうだよな。いきなり二人がパーティーから外れたら、今度はヴィルマ達が驚くか。
アミルが去っていき、今度はエステルに近づいてきた。
彼は俺の前で、いきなり頭を下げた。
「ユキムラ、ラパンにエリクサーを使ってくれたそうだな。大切な薬を申し訳ない」
「気にするな。俺達はこれだろう?」
体の前で手をクロスさせ、左手の掌を右の二の腕の裏側に当てた。
帝国解放会のハンドサインだ。
『助けを求められたら、可能な限り支援しろ』だったよな?
可能だったから、やっただけだ。
「そんなことより、ヘンドリクス以外に負傷者はいるか?
今、うちの者にパーティーを作らせるから、負傷者はそちらに入って治療を受けてくれ。
そのパーティーには、うちの巫女を加えるから治療できる」
「そうか助かる。我とミライと・・・・・・クヌートは?」
「大丈夫です」
魔道士の男は特に怪我はないようだな。
アミルが戻ってきたので、二人をパーティーから外した。
彼女はカーラと怪我人を順次、パーティーに加えていく。
エステル達三人がパーティーに加わると、カーラが『全体手当』の詠唱を始めた。
ヘンドリクスはそれなりの怪我だから、暫く時間はかかるだろう。
その間に、今後の話をしておかないと。
アミルの傍にいた疲れた表情のエステルへ、ゆっくりと近づいた。
「エステル、その・・・・・・亡くなった者の装備品を俺のアイテムボックスに入れようか?
まずは、ここから安全な場所に移動すべきだと思うのだが。
ここからなら、ボス部屋前の待機部屋が一番近いだろう?
そこまで全員で移動しないか?
途中のモンスターは俺達が片づけるから」
「そうか。では、装備品の方は頼めるか?
それと、襲撃者達の装備品もユキムラの方でもらってくれ。
エリクサーの対価にはならないだろうから、後でその埋め合わせは別にするつもりだ」
彼の言葉に頷いたものの、エリクサーの対価には十分な気がする。
先ほど、転がっている装備品を鑑定しまくったが、最後に自爆攻撃をした探索者を鑑定スキルで確認した際の装備品と、ほぼ同じものばかりだった。
短い時間でボス周回してゲットしている威霊仙よりも、遥かに価値が高いように思える。
俺が武器や防具を無詠唱で鑑定できるとは教えられないから、受け取るしかないのだけど。
ここから安全な場所に退避するのなら、待機部屋が一番近い。
ただし、待機部屋だとダンジョンウォークは使えないから、迷宮を脱出することはできない。
ダンジョンウォークが利用できる小部屋まで戻るには2、3日はかかってしまうだろう。
エステル達とそこまで戻るのは、いくらなんでも現実的ではない。
それにしても、装備品は血塗れで、酷い状況だ。
自爆玉で攻撃すると、こうなるんだな。
まあ、俺もエステル達も、かなり血塗れの状態ではあるのだが。
とりあえず、周囲に散乱した装備品を拾いながら、アイテムボックスへ収納していく。
手持ち無沙汰になったアミルも手伝ってくれた。
カーラは治療魔法実行中だし、残りの三人は通路の前後を警戒している。
俺も索敵のマップを確認しながら、不意打ちの回避に注意を払う。
これ以上、人間の襲撃者は来ないと思うが、ここにとどまり続けるとモンスターと遭遇する可能性があるはずだ。
装備品を集める傍ら、エステルが今回の襲撃の顛末を説明してくれた。
「初めに、モンスター三匹と戦っていたら、後方から別のパーティーが近づいてきてな。
それで『手助けはいるか?』と訊かれたから、不要だと答えた。
その後は、こちらが三匹と暫く戦っていたら、いきなり襲撃されたのだ」
「それは油断させるためだったということか?」
彼は首を横に振った。
「油断させるためでもあるのだろうが、
誰がパーティー編成をしている探索者なのかを見定めていたのかもしれん。
いきなりエーギルが自爆攻撃を2回受けたと、後ろにいたクヌートが言っていた」
「そこまで計画的だったのか・・・・・・」
探索者をやられると、迷宮でのパーティーは崩壊に直結する。
「その後は、我を守るべくミライやヘンドリクスが盾になろうとした。
ミライとヘンドリクスは一回ずつ、自爆攻撃を受けたのだ。
残った襲撃者二人のうち、一人がラパンに自爆攻撃を行なったらしい。
そのタイミングで、ユキムラ達が駆けつけてくれたのだ。
最後の一人はもう一度、ラパンに自爆攻撃をした。
ひょっとしたら治療役の者を殺して、迷宮から脱出不可能にするつもりだったのかもしれん」
「だとすると、かなり周到な準備をして、ここに来たのかもしれないな」
エステルは苦々しい表情で頷いた。
もし、俺達が駆けつけなかったら、エステル達はかなり厳しい状況だったかもしれない。
ラパンという禰宜の男が死ななかったとしても、探索者無しではパーティーが組めないから魔法による回復が全く望めないし、パーティー効果も受けられない。
手持ちの生薬があったとしても、それのみで魔道士と前衛職三人だけで戦えだと?
ラパンは戦力外というか、守りながら戦わなければならないだろう。
言い方がはアレだが、足手まといになる可能性が高い。
ハートハーブ三匹を倒せたとしても、ボス戦は突破できない気がする。
パーティーが組めないと、一人ずつボス戦に挑むのか?・・・・・・いくらなんでも無理だ。
ラパンを抱えて、五人で入ってもボス部屋の扉は閉まらないだろう。
全員、別パーティー扱いと見なされるはずだ。
ボス戦に挑めないとすると、他のパーティーが通りかかるのを待機部屋でひたすら待つのか。
階層ボスをクリアするパーティーに、エステルの実家に救援を依頼するように伝言してもらうしかない。
救援が到着するまで、最速でも2、3日かかるだろう。
ハードモード過ぎるわ。
「これで最後だと思います」
「ああ。アミル、ありがとう」
彼女から、最後に残った竜革の靴を受け取り、襲撃者達の装備品は収納完了。
収納した限りでは、6人分の装備品は、全て同じ構成だった。
6人分の装備品が7箇所の収納場所で全て収まったから。
これだけのスキル融合装備品を用意して、しかも対人装備と自爆玉を用意してきたという事は、完全にエステル達のパーティーを狙い撃ちにしたのかもしない。
というか、普通に考えて、エステルを狙ったのだろうな。
帝国解放会への入会時の説明で、『会員の身分を会員以外にばらさないように注意しろ』と言ってたのは、こういうことがあるからか?
それにしても、ここまでのことをするのだろうか?
最後に亡くなったエーギルの装備品を仕舞った。
それを見ていたミライが、また泣き崩れた。
ヘンドリクスとエステルが彼女に近づいて声をかけている。
でも、俺達もお前達もここから脱出する必要がある。
仲間を失って直ぐに立ち直れとは酷な話だが、生きて帰らなければならないんだ。
先ほどまで重傷だった禰宜のラパンは、表情は硬く、青ざめているようだが立ち上がった。
エリクサーを投与したのだから、身体的には問題ないはずだ。
あとはメンタルの問題だが、こればかりはMP回復薬等でもどうにかなる訳ではない。
それにしても、結構な人数が酷く血に汚れた惨憺たる状況だ。
複数人による自爆玉の攻撃は本当に恐ろしいな。
見かねた魔道士のクヌートが、アクアウォールで水の壁を出してくれたので、皆で血の汚れを落とした。
それでもザックリとしか洗い流せないので、赤い汚れは薄っすらと付いたままだ。
何よりも、充満した血の臭いに辟易させられる。
元の世界にいた時なら、間違いなく吐いていただろう。
その意味では、こちらの世界に順応したというのか、メンタル的にタフになったというのか。
「どうだ、そろそろ移動できそうか?
モンスターが来る前に待機部屋に移動しよう」
「ああ、大丈夫だ」
エステルだけでなく、他の四人も頷いているのを確認。
「俺達が前を固めるから、後ろから付いてきてくれ。
それから、後方の警戒を頼む。
もし、後方からモンスターが迫ってきたら、俺達が対応するから呼んでくれて構わない」
「そうか。申し訳ないが頼む」
慣れたパーティーのみで戦う方が楽だからな。
出発する前に、パーティーを再編成。
エステル達五人はアミルのパーティーに入れた。
残りのタケダ家五人でパーティーを組み、戦闘をこなす。
アミルを一人だけエステル達のパーティーに入れるのは不安があるが、俺達五人なら63階層のモンスター如きに後れを取るはずはないので、アミル達は守り通せる。
索敵のマップを確認するから、奇襲を許す気もないし。
「じゃあ、出発するぞ」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
アミルは別パーティーでも返事をするのね。まあ、良い習慣だと思うけど。
後ろのエステル達を気づかいながら、前へと歩き始めた。
さて、これから63階層を突破しなければならない。
どうやって切り抜けようか・・・・・・。
お読みいただき、ありがとうございました。
本話で、HP吸収のスキルが付与されたエストックは『吸活のエストック』としました。
※HP吸収は『吸活』の名称に独自設定
MPが『精神(原作:吸精)』で、HPが『活力(拙作:吸活)』ですね。安直ですが。
原作に登場したエステルのパーティーメンバーの一部を都合により名前を付与しました。
名前がないと、表現しにくかったもので。
原作でも名前が判明したら、可能な限り変更する予定です。
次回投稿日は2026/8/2(日)の予定です。
※変則スケジュールの投稿で申し訳ないです。そのうち元に戻します。