エステル達のパーティーメンバーと共に、63階層のボス部屋を目指すことになった。
彼等はアミルとパーティーを組んでいるから心配ないと思うが、モンスターは俺達の方で可能な限り片づける方針。
なんだか貴族パーティーの護衛をしている気分だが、これ以上怪我をさせたくないから。
前衛陣は、いつもより警戒しながら、通路を足早に歩いていく。
先ほどまで重傷を負っていた者もいたのだが、エステル達も特に文句も言わずに黙って付いてきてくれている。
迷宮で仲間を失ったショックが残っているのかもしれない。
しばらく進むとモンスターと遭遇。
索敵のマップで確認すると四匹だ。
通路の後方には特に赤い点は存在しないので、前方に集中できるな。
「モンスターがいるので、こちらで対応する。エステル達は待っていてくれ」
「むっ、分かった。無理はするなよ」
アミルにエステル達を任せて、俺達五人は前へと進む。
四匹と数は多くないので俺はあまり前に出ず、四人とエステル達の中間の位置に立ち、戦況を見守った。
ヴィルマ達の実力なら、撃ち漏らして後ろに抜けてくることはないはずだが念のためだ。
雷魔法は使えないので、無詠唱で博徒のスキルによるフォローのみ。
やがて手際良く、全て石像にしたので、俺も削り作業に参加する。
百獣王のヘンドリクスが呆れた表情で近づいてきて、話しかけてきた。
「お前ら、また腕を上げたんじゃないか?
前よりも動きがよくなった気がするんだけど」
「まだ、成長期なんだろうな。それに日々、研鑽を怠ってないから」
「・・・・・・」
俺の回答がお気に召さなかったのか、なんとも言えない表情をしている。
他にどう説明すればいいのか分からん。
『我が家に伝説の剣聖を迎えたので、日々、技能講習を受けてます』とでも言えと?
実際、グラ爺の下で日々、研鑽を積んでいるからなぁ。
石像を削り終え、待機部屋への歩みを再開。
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その後は、モンスターに遭遇することなく、無事に目的地へと到着した。
待機部屋は安全地帯なので、エステル達一同は、ホッとした表情。
だが、仲間を一人失ったこともあり、どこか沈痛にも見える面持ち。
魔道士のクヌートがアクアウォールで水を出してくれたので、水分補給。
今の俺は魔法を大っぴらに使えないので、とっても助かる。
こういう時は、俺の他にも迷宮組メンバーに魔法使いがいると助かるのだよなぁ。
巫女だと紹介したカーラを、今から魔法使いだとは言えないし。
一息つけたのか、エステルが話し掛けてきた。
「ユキムラ、そちらのパーティーがボス部屋を抜けたら、ロッジに向かってくれないか?
セバスチャンに事情を話せば、我の実家に急ぎ連絡を取ってくれるはずだ。
それから、我が家のパーティーが派遣されれば、
3、4日ほど待てば、ここで合流して迷宮を出られる。
その間、じっとここで待っていれば安全だ。
クヌートがいれば、水には困らないだろう。
食料になりそうな迷宮ドロップ品を持っているのなら、分けてもらいたいのだが・・・・・・」
「食料か・・・・・・」
確かに食料は持っている。
ここの階層に来る直前まで66階層を探索していたから、大量の竜肉がアイテムボックスの中にあるはずだ。
バーンウォールであぶれば、美味しく食べられるだろう。
そのまま食っても、普通に美味いけど。
「食料を分けることは可能だが、それよりも一緒に迷宮を脱出すべきだと思う。
先ほどとは別の襲撃者のパーティーが、この辺をうろついてるかもしれないだろう?
ここで待つのは危険な気がする」
「言ってることは分からんでもないが、ユキムラ達のパーティーを割るのか?」
迷宮組のメンバーを見渡しながら頷いた。
「こちらのパーティーから俺が抜けて、エステル達のパーティーに加わろう。
うちには探索者のジョブの者がいるから、俺が抜けてもパーティーを組める。
それに、うちのメンバーが手練れなのは、入会試験の時に確認しただろう?
五人だけでも、ここの階層ボス共と十分対応できるぞ」
「それは危険ではないか?ユキムラはパーティーのリーダーだろうが?」
エステルは難色を示すが、俺の言葉に迷宮組のメンバー達は全員無言で頷いている。
一部のメンバーは自信があるだけでなく、早く帰りたいのかもしれないが。
そろそろ、夕飯が迫っている。
いつもなら、帰宅している時間だものな。
「ちょっと最終確認をしたいので、うちのメンバーだけで話をさせてもらっていいか?」
「それは構わぬが、本当に大丈夫なのか?」
「まあ、無理はしないつもりだから・・・・・・」
迷宮組のメンバーを連れて、少しエステル達から離れて作戦会議。
「皆に相談も無しに決めてしまったが、五人で戦うことに不安はあるか?」
「主、任せてくれ!」
「御館様いない戦いは慣れている。あのラファとかいう奴がいた時と変わらない」
「こっちは大丈夫だけど、ユキムラ君は寂しくないの~?」
「ユキムラ殿、剣一本でも大丈夫だ!」
「ボスを極力早く無力化するように作戦を立てます。
回復のスキルを使わせないように、詠唱中断の槍で突けば問題はないと思います」
さすがにアミルは司令塔を任せられるだけのことはある。
「アミル、五人でのボス戦はエステル達がいないから自由に戦えるぞ。
扉が閉まる前にアイテムボックス操作の詠唱をしておき、
扉が閉まると同時に武器を取り出して渡すのはどうだ?
そうすれば、オリビアに槍をもう一本渡すこともできるはずだ。
必要なら、カーラは巫女ではなく、剣聖にすることもできるぞ。
その時に、硬直のエストックをもう一本渡して、二刀流で戦わせることもできる。
ボス戦が終わったら、迷宮を出る前に武器を仕舞えば、怪しまれることもないだろう」
「なるほど。では、カーラさんは剣聖でいきましょう。
お二人には、今、ご主人様がおっしゃったやり方で、武器をもう一本ずつ渡します。
迷宮討伐戦の前に何度も装備品の受け渡し練習をしましたから、アレに比べれば簡単です。
その代わり、最終入室者はヴィルマさんにお願いできますか?
私が最後に入ると武器の受け渡しが遅くなりますので」
「アミル、任せろ。合図をもらったら、走って合流するから」
さすがにアミルは分かってるな。
全員の武器にHP吸収のスキルが付与されているから、治療職無しでも問題ないだろう。
「陣形ですが、中央のボス二匹の左側をオリビアさんでお願いします。
右側を私とヴィルマさんで受け持ちます。
左側のお供二匹をイレーネさん、右側のお供二匹をカーラさんで対応してください。
オリビアさんは、可能な限り、イレーネさんのフォローもお願いします。
カーラさんのフォローは私の方で引き受けます。
面倒なのは、お供でボスタウルスや、マザーリザードが出現した時です。
突進や召喚をさせないように、極力早く石化させましょう」
「了解!!」
「了解!!」
「了解!」
「了解!」
俺だけ、みんなの輪に入れない。
カーラは魔道士のジョブが取得できていたら、また違ったオプションが取れたが、まだ取得できてないから仕方ない。
硬直のエストック二本持たせて、剣聖で戦えば問題ないとは思うが。
巫女だけでなく、剣聖もレベリングして実戦投入しておいて助かったな。
アイテムボックスから、オリビアのダマスカス鋼の槍とカーラのエストックを取り出して、アミルのアイテムボックスに収納してもらった。
エリクサーや、その他の生薬の予備も念のため渡しておく。
「それから、万が一にも大丈夫だと思うが、もし、どうしようもないピンチに陥ったら、
例の動きで俺に伝えてくれ。
索敵のマップで戦闘の様子を常に見ておくから、万が一の時はワープで突入する」
「そんなことをして大丈夫なのですか?」
「一応、誤魔化す方法は考えてあるから大丈夫だ。
万が一のことは起きないと思っているが、
それでも起きてしまったら、必ず助けに行くから安心してくれ。
アミル達の命には代えられないからな」
彼女は嬉しそうに頷いたが、他の連中はキョトンとしている。
まあ、司令塔が理解してくれていたら、大丈夫だ。
もし、アミル達がピンチになったら、エステル達と組んでいるパーティーを一度解散し、『ちょっと用を足しに』と言って待機部屋からダッシュで離脱する。
通路の方に出たら、オーバーホエルミングをかけて、ワープでボス部屋に突入だ。
モンスターを殲滅したら、ワープでボス部屋から通路を抜けて、待機部屋に戻ってから、エステル達に謝ればいい。
また、挙動不審な奇行をする者という噂が立つかもしれないけど、アミル達を危険に晒すよりは全然マシだ。
内密事項があると面倒だけど、2つのパーティーの脱出と安全を考えるとやむを得ない。
部隊編成のスキルで、アミルのパーティーを部隊登録した。
「じゃあ、みんな大丈夫か?カーラのジョブは今は剣聖にしてあるからな。
迷宮を出た後、俺達が再度、合流するまで待っていてくれ」
「ユキムラ殿、了解した」
「ご主人様、無理はしないようにお願いしますね」
無理を言ってるのは俺の方なのに、何故か逆に念押しされてしまった。
「じゃあ、俺はエステル達の方と作戦会議をしてくる」
「はい。でも、私も付いていっても構いませんか?」
「そうだな。アミルも来てもらうか」
彼女にも、エステル達がどんな作戦で挑むのか聞いておいてもらおう。
二人で、エステル達のいる場所へと移動。
「うちのパーティー内での話はついた。五人で十分いけると判断した。
それで、こちらの作戦はどうする?俺はエステルの指示に従うつもりだが」
「迷惑かけて悪いな。
我のパーティーは役割分担が概ね決まっている。
エーギルの役割だったところをユキムラに担ってもらいたい」
まあ、そうなるよな。
アミルと俺は、それぞれのパーティーを解散した。
改めて、エステル達をパーティーに加えていく。
パーティージョブ設定で見ると、彼等の待機ジョブは普通だな。
騎士から聖騎士、獣戦士から百獣王、剣士から剣匠、魔法使いから魔道士、神官から禰宜へとステップアップしたのが見て取れる。
まあ、それがこちらの世界の常識だ。
俺達のように複数ジョブを育成したり、切り替えたりはしないから。
「ボスモンスターはヘンドリクスと我がそれぞれ引き受ける。
お供二匹はミライとユキムラで、それぞれ受け持ってくれ。
クヌートはサンダーストームをひたすら撃ち続ける。
ラパンは適宜、苦戦している誰かのフォローをすることになる。
彼の槍は詠唱中断のスキルが付与されているので、ボスのスキルのキャンセルも担う」
「なるほど、了解した」
禰宜のラパンが、ちょっと忙し過ぎる気もするが、普段からやってるのなら仕方ない。
「陣形は、左から、ユキムラ、我、ヘンドリクス、ミライだ。
中央にラパン、その後ろにクヌートだ。
ボス部屋に最後に入るのはクヌートになる」
「了解」
最終入室者を決めておくのは、どこでもやっているのだな。
とりあえず、目の前のお供二匹をなるべく早く片付けて、他の者のフォローに回るか。
「強壮剤をいくつか持っているが、必要なら渡すぞ」
「それは助かります。
こちらも十分な量を持ち込んでいたのですが、
大半はエーギルのアイテムボックスの中でしたから。
手持ちはありますが、心もとなくなってきてましたので」
亡くなった探索者のエーギル以外に、エステル達にはアイテムボックス持ちの者がいない。
アイテムボックスを開いて、強壮剤を10個ずつ、クヌートとラパンに渡した。
「こんなに・・・・・・ありがとうございます」
「まあ、念のためだ。
あと、必要になる事態は避けたいが、皆にもこれを・・・・・・」
滋養剤も10個ずつ、エステル達に渡した。
「ユキムラ、ここまで・・・・・・すまないな。この借りはいつか返すから」
「いつもと違うメンバーの俺が入るのだから、勝手が違うことがきっと起きるだろう?
本当なら、その辺で通常モンスターと戦って、連携確認を行いたいが、そんな余裕はない。
早く、ここを脱出したいからな。念には念を入れておきたいだけだ」
エステルの言葉に俺は手をひらひらと振る。
「他に気になることがなければ始めよう。
まずは、うちの連中が先に戦うが構わないか?」
「ああ。大丈夫だ。気を付けてな」
俺だけでなく、アミルの方に向かって、エステル達が声をかけている。
彼女は表情を引き締め、こちらに向き直り、全員を見渡してキッパリと言った。
「お任せ下さい。先に64階層に抜けて、お待ちしております。皆様も御武運を・・・・・・」
エステル達が頷いたところで、彼女は踵を返して、ヴィルマ達の方に去っていった。
俺も皆に声をかけるために、アミルに続く。
タケダ家のメンバーが全員揃った・・・・・・今度は俺だけ別のパーティーだけど。
「皆の準備ができたら、アミルの指示で始めてほしい。
今回はいつもと違うやり方なので、十分注意してくれよ。
アミル、万が一の時は例の合図を送るのを忘れないように」
「主、心配無用だ。いつも通り戦って、いつも通り勝つだけだ」
「御館様は心配し過ぎ、あたし達を信じてほしい」
「私はユキムラ君の方が心配だよ~」
「ユキムラ殿、今まで何も変わらない。先に行って待っているぞ」
「合図の件は了解です。でも、ご主人様・・・・・・くれぐれも自重して下さいね」
心配してやったのに、また、逆に心配されてしまった。
まあ、お互いのことを気遣っているのだと思いたい。
アミルがパーティー編成を詠唱して、迷宮組のメンバーをパーティーに加え始めた。
「では、私達は準備に入ります。
ヴィルマさんだけ、ここに残って下さい。
私の合図で突入をお願いします」
「分かった。待ってるぞ」
ヴィルマを残して、アミル達がボス部屋に入っていった。
俺とヴィルマは扉の外から、アミル達を見守る。
やがて、四人が配置についたようだ。
アミルが振り向き、右手を振るのが見えた。
「主、先にボスを倒して、上の階層で待っているぞ」
「おお、頼むぞ、ヴィルマ」
彼女はニッコリと笑った後、表情を引き締め扉の中へと入っていった。
初めはゆっくりとした歩調から、ダッシュで走り始め、みるみるアミル達の方に近づいていく。
彼女が合流するのを見届ける前に、目の前の扉が閉まった。
俺は目の前の閉じた扉を見つめたまま、ジッと立っている。
これは『俺に話しかけるなよ』とエステル達に電波を送っている状態。
俺がこの状態なら、エステル達もきっと話しかけてこないだろう。
実際には、索敵のマップを見ながらアミル達の戦闘を確認しているだけなのだが。
索敵のマップは俺にしか見えないから、エステル達からすれば、扉の向こうを心配してるようにしか見えないだろう。
正直なところ、何かあったら介入するつもりなので、邪魔されたくない。
特にヘンドリクス、ちゃんと空気を読んでくれよ。
話しかけてくるとしたら、奴ぐらいだと思っているから。
索敵のマップでは、青い点が5つと赤い点が6つ動いているのが確認できる。
動きが大きい赤い点は、きっとボスタウルスだろう。
ハートハーブやシルバーサイクロプス、マザーリザードなら、ここまで動きは早くないと思う。
見る限りボスタウルスは一匹だけのようで、左に位置するイレーネ側の方に出現したな。
彼女が対峙する一匹が素早い動きをしているが、隣のオリビアがちょっかいを出している。
きっと彼女の槍二刀流が炸裂しているに違いない。
彼女の前にいるはずのホーリーバジルは前進できそうで、前に進めていない。
槍二刀流の前に封殺されているのかもしれない。
右端にいるカーラは2つの赤い点の間に入って、緩急をつけた動きで翻弄しているのだろう。
青い点に接触しそうで、接触できない赤い点がウロウロと動いているのが見えた。
その左横の青い点が、青い点の相手している赤い点に側面から近づいていく。
あれは、アミルがヴィルマの対峙しているボスモンスターに牽制を仕掛けているのだろう。
こうして赤い点と青い点の動きを見ていると、実際には見えない戦闘風景が思い浮かんでくる。
これなら、アミル達はきっと大丈夫だ。
アッサリと石像に変えて、64階層に抜けてくれるはず。
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:
:
やがて、赤い点が一つ動きを止め、二つ動きを止め・・・・・・石像がドンドン増えてるのだろう。
俺の手助けは必要無さそうだな。
全ての赤い点の動きが止まり、その近くに青い点が隣接している。
削り作業に入ったらしい。もう、大丈夫だ。
やはり、迷宮組は強いと今更ながら実感。
赤い点が一つずつ消滅していく・・・・・・暫くすると、全ての赤い点が消えた。
ドロップ品を拾い、装備品でも収納しているのだろうか。
青い点が、一度集まり、奥へと移動し始めた。
64階層に抜けるのだろう。
索敵のマップだけでなく、部隊編成のマップも開いた。
階層が違うと索敵のマップでは表示できないので、64階層に移動した時の確認用だ。
やがて、ボス部屋から青い点が消え始める。
青い点が全て消えると、目の前の扉が開いた。
当然の事ながら、ボス部屋には誰もいない。
そして、部隊編成のマップで、64階層の小部屋に青い点が5つ出現したのが確認できた。
ふうぅ・・・・・・無事に終わったな。
今度は俺達の番だ。
エステル達が背後から近づいてくる気配がしたので振り向いた。
「うちのパーティーは無事、戦闘を終わらせたぞ」
「ああ、それにしても、戦闘時間が短い。
これでリーダー無しの五人だけとは、本当に頼もしい連中のようだな」
エステルの言葉にニッコリと頷く。
我が家のメンバーを褒められて、悪い気はしない。
もう少しゆっくりと、64階層に移動するように伝えておくべきだったかと思うが、俺達が早く脱出できるように配慮したのかも。
「では、我らも入るぞ。クヌート、合図を待て」
リーダーのエステルの言葉にクヌートが神妙な表情で頷いた。
ミライ以外のメンバーとは、帝国解放会の入会試験で、お互いの戦闘を披露したから、実力はおおよそ分かっている。
だが、今回は俺のジョブ構成と武器が、その時と大きく異なる。
同一パーティーなので、俺以外へのパーティー効果が大きくなり過ぎないように、シングルジョブにしてある。
ジョブは『鬼神』一つだけ。
アイテムボックスを持つ、一番強いジョブにしてある。
英雄、勇者のジョブをセットしてしまうと、他のメンバーの違和感があり過ぎるだろうから使うことはできない。
前回は硬直のダマスカス鋼槍を使ったが、今回の武器はデュランダル一本のみ。
オーバーホエルミングは使えないが、もう、デュランダルでひたすら斬りまくるしかない。
どうしてもヤバくなったら、英雄や勇者をセットするかもしれないが極力避けたいな。
多少の被弾は覚悟で、モンスター相手に斬り結んでゴリ押しだ。
エステルの指示通り、一番左側のポジションに陣取った。
この場所でボス戦を戦うのは、久しぶりかもしれない。
緊張をほぐすように、デュランダルを両手で握り、軽く素振りをする。
下腕の両手は手持無沙汰だ。
デュランダルは両手剣だが、鬼神のジョブなら片手で振り回すことができる。
だが、両手剣を片手で振り回す訳にはいかない。
冒険者のジョブでは、そんなことはできないし、片手剣だと思われたら、何故、盾を持ってないのだと不審に思われてしまう。
他のパーティーメンバーと組むと、内密事項を隠さなければならないので面倒臭いな。
右側に立っていたエステルが近づいてきた。
「ユキムラ、緊張しているか?」
「ん?いや、緊張はしてないと思う。
ただ、我が家以外のメンバーと組んで戦うのは久しぶりだなと思って」
護衛部隊のメンバーと探索をすることはあっても、ここまで気を使うことはなかった。
俺の回答に頷いたエステルは、周りを見渡し、全員の状態をチェックしているようだ。
「皆、準備は整ったか?そろそろ、始めるぞ」
エステルの問いかけに、俺を含めた四人が頷いた。
まずは目の前の敵に集中しよう。
エステルが右手を挙げると、扉の外にいたクヌートが、こちらに走ってくるのが見えた。
彼の背後で扉が閉まるのが見えたが・・・・・・魔道士なのに、意外に走るのが速そうだな。
いつも、最後に走って入るから、慣れているのだろうか。
正面に向き直ると、モンスター出現のエフェクトが終わり、俺の目の前は・・・・・・ハートハーブとボスタウルスだ。
ハートハーブ二匹の方がやり易かったが仕方ない。
まずは、ボスタウルスに近づき、斬撃を見舞う。
ハートハーブから離れすぎないように、目の前のボスタウルスをデュランダルで滅多打ち。
オーバーホエルミングも使ってないから、それなりに被弾もするけど、構わずに連打する。
そして、俺の傍から離れて、他の者の所へ行かせないように、ハートハーブの注意を引き付けておかなければならない。
わざと背中を見せて、ハートハーブの攻撃を誘う。
背後から、ハートハーブが攻撃を仕掛け始めたがガン無視する。
途中、サンダーストームの魔法攻撃があったが、目の前のボスタウルスも、背後のハートハーブも残念ながら麻痺にはならず。
それなりに痛いが、デュランダルで即座に回復するので問題ない。
グラ爺から学んだ回避&カウンター等は使わずに、ボスタウルスの討伐を優先する。
すまんな、グラ爺。教わった事を実践できずに。
カーラのような華麗な回避も今の俺には無理だ。
ボスタウルスの胴体にデュランダルの斬撃を加え、たまに敵の角が腕に当たっても気にせず、削り合いに終始する。
やがて、目の前のボスタウルスを討伐完了。
「痛ってぇな、この野郎!」
背後から、攻撃してきたハートハーブを振り向きざまに袈裟懸け。
幹の部分にデュランダルの斬撃がヒットして、大きく揺れた。
そのまま前進して、デュランダルで一気に畳み掛ける。
枝を振り回して攻撃してくるが、デュランダルを横薙ぎに叩きつけ、更に上段から斬りつける。
近くに来ていたラパンは、援護してくれようとしたのだろうが退散していった。
今の俺の戦いぶりを見たら、助けたくなる気持ちは分かる。
だが、こちらは大丈夫だから、他の者をフォローしてくれ。
そのまま斬撃を加え続け・・・・・・煙に変えた。
次はどこへ・・・・・・エステルと目が合うと『ミライの所へ』と短い指示だ。
ホーリーバジル二匹の背後を回り、一番右にいるミライの所へと走った。
エステルの所には、ラパンがフォローについたようだな。
ヘンドリクスはホーリーバジルを手玉に取るように回避しまくり、カウンターで斬撃を放つ。
避けタンクのお手本のような戦いぶりだ。
俺もああいう戦い方をしたかったが、技術がないし、今は殲滅スピードを優先する。
ミライはハートハーブとボスタウルスの攻撃を回避しながら、時々、エストックの二刀流で攻撃を仕掛けている。
俺と全く同じ相手なのに、彼女は上手く回避してるな。
あのエストックは先ほど鑑定で確認したら、吸精のエストックと吸活のエストックだった。
スキル融合武器二本とは豪勢だね・・・・・・さすがは貴族家か。
「ミライ、援護するぞ!」
「おう、早いな」
今の彼女は結構、余裕がありそうだ。特に息も上がってないし。
手近にいたハートハーブの背後から、デュランダルで斬りかかった。
クヌートのサンダーストームで、俺の目の前のハートハーブが麻痺した。チャンス到来。
時々、ミライの相手するボスタウルスにも背後から斬りかかりながら、ハートハーブと交互に斬撃を放つ。
当然、麻痺しているハートハーブの方へはガンガンと攻撃が当たる。
やがて、ハートハーブを倒したので、そのままボスタウルスへ。
二対一なら、もはや時間の問題だ。
ミライがギリギリで回避して上手く引き付け、俺が背後から襲いかかるという黄金パターン。
そのまま、激しく連打してボスタウルスを倒した。
「凄いな。さすがは、先ほどのパーティーのリーダーだけのことはある」
「それより、エステル達の援護に向かおう」
ホーリーバジルはタフだから、簡単には倒せないはず。
エステルとヘンドリクスが膠着状態にしてくれているので、手数で押し切るぞ。
一番近い、ヘンドリクスの方へと向かう。
彼は相変わらず、見事な回避をしながら、カウンターで的確に斬撃を放っている。
帝国解放会の入会試験でダンスバトルに興じた時にも、一流の避けタンクだとは思ったが、今の方が尚更そう思える。
グラ爺に鍛えてもらい、基礎を教わり実践した今の方が、彼の技量の高さがわずかなりとも実感できるようになった。
今までの『なんとなく』ではなく、自分との厳然たる差として見えてきたのだ。
焦っても、直ぐには彼やカーラの領域には辿り着けない。
今は目の前の敵を屠ることに注力せねば。
ホーリーバジルに襲いかかろうとしたら『エステルの方へ行け』と指示された。
ミライは前から、俺は後ろからエステルの対峙するホーリーバジルへと接近。
彼女がエステルとホーリーバジルの間に割って入った。
俺は背後から、ひたすら叩くという先ほどの繰り返しだ。
白っぽい木の枝や幹を激しくぶっ叩く。
後ろに飛んでくる攻撃も無視して、斬撃の手数を増やすことに専念。
エステルも側面に回り、ラパンと一緒に攻撃を始めている。
攻撃力の高いダマスカス鋼の剣が、ホーリーバジルの幹の部分を痛打している。
エステルは回避もそこそこ上手く、攻撃も重い・・・・・・バランスが取れているな。
こちらも負けずに、嵩に懸かってデュランダルで連打して揺さぶる。
最後はミライのスラッシュが決まり、ホーリーバジルは討伐された・・・・・・おかげで俺のデュランダルは空振りに終わっちまった。
その後は、残ったホーリーバジルを全員で取り囲み、一気に畳みかけて倒し、モンスターの殲滅は完了した。
残ったドロップアイテムは・・・・・・威霊仙はドロップせず緑豆か。
残念だが、確率的にはこんなものだろう。
「些少だが、ドロップ品は受け取ってくれ」
「ああ。分かった」
アイテムボックス持ちは俺しかいないので、緑豆とロースを受け取って収納。
ヘンドリクスは俺の方を見て、微妙な表情をしている。
言いたいことは分からんでもないが、今は何も言わないでくれ。
平時なら軽口の一つの言いそうだが、仲間を失った直後ではそんな気にならないのだろうか。
「ユキムラ、ありがとう。おかげで助かった。64階層に抜けようか」
全員が頷くと、エステルは出口に向かって歩き始めた。
この階層で、彼等の仲間、エーギルが亡くなり、迷宮に飲み込まれたのだよな。
別に遺体を残して立ち去る訳ではないのだが、なんとも言えない気分だ。
迷宮組、そしてタケダ家のメンバーには決して起きてほしくないことだ。
ともあれ、これで63階層からは脱出できる。
僅かな時間しか離れてないのに、早くアミル達に会いたくなった。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/8/5(水)の予定です。
※変則スケジュールでしたが、次回から元に戻ります