異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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 いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

 今回の話はローザ視点の閑話となっています。
 話はローザ母娘(ロベルト含む)がザビル領内の村に向かうところから始まります。


閑話011 探求(その1)

 大きな荷物のせいで、荷車を引く馬二頭が荒い息を吐きながら、街道をノロノロと進んでいる。

 今歩いている道は結構、荒れていて、重い荷物を積んだ馬達にはかなりの負担を強いている。

 

 荷車の(わだち)が酷い深みにはまってしまった時は、私達も荷台を押して馬達の手助けをしている。

 商隊の護衛をするために契約を結んだ私達も、そんな時は押さない訳にはいかない。

 

 護衛の契約は一日単位の日当払いではなく、目的地に着くまでの固定金額で支払われる。

 つまり、馬車が目的地に着くのが遅くなれば、護衛として働く日数が増えてしまうので、馬達を助けざるを得ない。

 

 護衛は全部で6名。

 母さんと私、弟のロビーの3名の他に、デニスさん、ニクラスさん、ゾフィさん。

 デニスさんは探索者、ニクラスさんは剣士、ゾフィさんは巫女のジョブらしい。

 三人は数年前からパーティーを組んでいるらしく、今回は私達のパーティーと2つのパーティーで護衛任務を引き受けている。

 

 私達のパーティーは母さんが探索者のリーダーで、私とロビーも探索者。

 正直、デニスさん達のパーティーと比べれば、随分とバランスが悪い。

 だけど、まだ私達二人は見習いの扱いなので、あまり戦力とは見做されていない。

 母さんは探索者のLv37、私がLv8、ロベルトがLv5。

 

 弟はともかく、探索者Lv8の私は迷宮探索という意味では、それなりの経験者だと主張したい。

 だけど、母さんに言わせると『護衛任務を任せられる腕前ではない』とのこと。

 悔しいけど、盗賊討伐の経験が一度しかないので、母さんの指摘に頷かざるを得ない。

 

 私より一つ年下で成人になったばかりのロビーは不服そうだったが、探索者Lv5では迷宮探索ですら、まだ初心者の水準だ。

 ロビーも私も、もっと母さんに鍛えてもらうしかない。

 

 この商隊は三台の馬車を抱え、先頭の馬車には雇い主の商人であるイザクさんが乗っている。

 イザクさんの他には、息子のボリス君と商会の店員2名の商隊だ。

 その後ろの二台の馬車には、ドブローで購入した絨毯が積まれていて、かなりの重量になる。

 

 商隊の護衛は、ニクラスさん達が馬車の前を歩いて守り、後方を私達が固める形だ。

 もっとも守りを固めるというよりは、荷車を押すためではないかと私は疑っている。

 

 ロビーと二人で荷車を押した後、母さんの両側に左右に並んで歩き始めた。

 

 あと何回、荷車を押したら、今日の目的地まで辿り着けるのだろうか。

 地面の土が抉られてできた轍を見つめながら、この先の街道が荒れてないことを祈るしかない。

 馬車の隊列の先を見ると、うっすらと連なった山々が目に映った。

 

 あの山の先には、ペルマスクという鏡の産地があるらしい。

 だけど、私達の目的地は、そのかなり手前のザビルという街だ。

 今日はその更に手前の村が目標だけど、残りどのぐらいの距離なのだろうか。

 

 

(チリッ・・・・・・)

 

 首の辺りに、嫌な感じの気配がする。

 首に違和感があっても、違和感の正体は前方だ。

 そして今までの経験から、この感触は人間ではなさそう。

 

 横を歩く母さんに、小声でささやいた。

 この話は家族以外には伝えられない。

 

 

「母さん、この先に迷宮の気配がする」

「そうなの?じゃあ、また場所がハッキリ分かったら教えてね」

 母さんは嬉しそうに前を向いて歩きだした。

 

 うちの母さんは自他共に認める『迷宮好き』だ。

 暇があれば私達を連れて迷宮に入り、各街にある迷宮を訪れながら、たまに今回のような護衛任務をこなす。

 別に迷宮で戦うのが好きなのではなく、むしろ面倒くさいと思ってる節がある。

 迷宮やその付近を調べたり、モンスターの動きを観察したりするのが楽しいという変人だ。

 戦うのはやむを得ないからだと、いつも言っている。

 

 エマーロ族の私達は定住するよりは、アチコチを放浪している方が性に合っている。

 でも、家を全く持たずに旅ばかりするのはどうかと思うな。

 旅亭のジョブに就いて宿を営むのはゴメンだけど、迷宮巡りばかりなのは厳しいよ。

 水や食事の用意や、体を拭くのだって野宿しながらだと煩雑だし。

 

 冒険者のジョブになれば街の移動など一瞬でできるのだろうが、母さんですら就けていない。

 『早く冒険者になって、今より多くの迷宮を訪れたい』が、母さんの口癖だ。

 だが、そんなことのために冒険者になるのは母さんぐらいではないだろうか。

 

 冒険者になった者は、人や物をフィールドウォークで運んでお金を貰うと聞いたことがある。

 母さんはフィールドウォークで稼ぐ気はなく、迷宮に行くための移動手段としか考えてない。

 

 でも、私も迷宮そのものは嫌いではない。

 その理由は、迷宮に行けば人にあまり会わずに済むからだ。

 家族以外の者と一緒にいると、私は苦痛に感じることが多い。

 だから、護衛任務もあまり好きではないし、家族以外の者と迷宮に入るのは嫌いだ。

 

・・・・・・

 

 ようやく、今日の目的地である村の入口に到着。

 今は雇い主の商人イザクさんと、もう一つのパーティーのリーダーであるデニスさんが、村の門を守る自警団の者と交渉しているようだ。

 

 私達は馬車から少し離れた位置を取り囲むように周囲の警戒をしている。

 だけど、私が気になるのは、村の方角から迷宮の気配を感じることだ。

 

 村に辿り着く直前に、蛇行する街道を歩いてきたのに、迷宮の気配が常に村の方角を指していたのが気になっていた。

 

 やがて話がまとまったのか、馬車が村の門をくぐり始めたので私達も後に続く。

 今日は街道の傍で野宿をせずに、村の中で休めそうだ。

 さすがに小さな村なので、宿なんて無いだろう。

 だけど、野営するにしても、塀で囲まれた村の中と外では大違いだ。

 村なら井戸も使わせてもらえるだろうし、モンスターや盗賊の襲撃に怯えずに済む。

 

 でも、門に入ってデニスさんの発した言葉で、安穏とはできなくなった。

 

「ロランさん。村長から聞いたのだが、つい最近、村の敷地内に迷宮が出現したらしい。

 村の者がザビルの騎士団へ伝えに向かったらしいが、

 まだ騎士団はここに到着していない。

 迷宮から出てきたモンスターのせいで、村人に死者や怪我人も出ているようだ。

 村長からは騎士団が来るまで、この村に滞在してほしいと乞われたが、

 イザクさんは回答を保留していた」

「では、明日には、この村を出発するのですか?」

 母さんの質問の意図は分かる。

 

 明日は、その迷宮に潜りたいから、出発したくないのだろう。

 

「いや、イザクさんの話では、明日はこの村で商売するらしいので、

 一番早く出発するとしても、明後日らしい」

「なるほど」

 母さんは無表情を装っているようだが、私には小躍りしたいぐらい喜んでるように見える。

 

「俺としては、さっさとザビルに向けて出発したいのだがな。

 明日は俺達もロランさん達も自由行動で構わないとさ。

 自由行動と言っても、何もない村だからやれることは限られるけど。

 まあ、タダ働きさせられるよりはマシかもしれん」

「なるほど。では、私達が迷宮に入っても文句は言われないのですね?」

「文句は言われないし、むしろ村人からは感謝されるかもしれんが、

 休息していても構わないのだぞ?

 無理に迷宮に入る必要はないのだから」

 そんなことを母さんに言っても無駄だ。

 

 きっと、私達二人を連れて、朝から迷宮に入るはず。

 

「では、私達も自由行動を取りますので、パーティーは別々ということで」

「ああ、まあ好きにしてくれ。俺達は迷宮には入らないがな」

 デニスさんは、早速私達三人をパーティーから外した。

 

 護衛の間、私達三人はデニスさんのパーティーに入り、6名で1パーティーとして行動する。

 だけど、明日は自由行動なので、今からもう2つのパーティーにしてしまうのだろう。

 私もその方が気が楽になるので助かる。

 

・・・・・・

 

 翌日、私達三人は早速朝から迷宮に入ることになった。

 

 朝食をさっさと終わらせ、入口から1階層へと移動した。

 入口にいた自警団の人に確認したら、まだ1階層も走破できてないらしい。

 まともに迷宮で探索できる者が村にはいないからだそうだ。

 

 1階層のモンスターはミノだった。

 ミノは、村人が相手するには手強い相手だ。

 この迷宮はちょっと外れかもしれない。

 

 ロビーも少し、ブー垂れている。

 

「皮かぁ・・・・・・スローラビットだったら楽だし、たまに肉がドロップするのに」

「油断しないで、ちゃんと槍で突きなさい」

 ミノの突進を母さんは軽く躱し、三人でミノを取り囲んで攻撃。

 

 私達三人は、全員が探索者のジョブで、そして三人とも槍を使っている。

 母さんは鋼鉄の槍、私達二人は鉄の槍だ。

 

 1階層のモンスターぐらいであれば、母さん一人でも十分に倒せる。

 だけど、私達も体を温めるために、槍で何度もミノを突く。

 護衛任務中は素振りぐらいしかやってなかったので、戦いの勘を取り戻すには丁度良い。

 突進攻撃は要注意だけど、1階層のミノ一匹ぐらいなら、私もロビーも回避するの簡単だ。

 

 母さんの鋼鉄の槍が鋭く突き刺さり、ミノは煙へと変わった。

 ドロップ品の皮を拾い、先へと進む。

 

 

「ローザ、どっち?」

「多分、こっちだと思う」

 十字路に差し掛かった所で、私は右の通路を指さした。

 

 迷宮の通路の分かれ道がある度に、母さんは私に道を尋ねてくるのが常だ。

 私には階層ボスのいる場所が凡そ分かるから、最短経路で進むための道筋を選べる。

 

 この能力も、私達三人で探索する時だけ使うことにしている。

 家族以外の者には説明しても理解されないし、信じてなんてもらえないだろう。

 母さんからも『他人に話すべきではない』と言われている。

 最近は、迷宮に行くのに滅多に身内以外でパーティーを組むことなんてないのだけど。

 

 私の感じる嫌な気配を頼りに、迷宮の奥へ奥へと進んでいく。

 それでも1階層なんて大して広くないので、さして時間もかからずにボス部屋を発見した。

 

 待機部屋で少し休憩して、ボスモンスターのハチノス戦に挑む。

 ミノを一回り大きくしたハチノスも、私達三人の敵ではない。

 母さんが槍で上手くいなして、私達二人が側面から攻撃する。

 

 後方だと後ろ足からの蹴りがあるので、側面が無難だ。

 あっという間に討伐して、2階層へと進む。

 

 その後も、私の案内で2階層、3階層と順調に探索は進み、4階層まで到達。

 低階層のモンスターだから、戦闘で怪我することも、ほとんど無く探索できた。

 2階層はコボルトで、3階層がグリーンキャタピラー、4階層はスパイスパイダー。

 コボルトはともかく、4階層までに突進系、糸のスキル攻撃、毒化するモンスターが出現するので、初心者には厳しい迷宮だと感じた。

 

 

「今日は、ここまでにしましょうか」

「つ、疲れた・・・・・・」

 額に大粒の汗を浮かべたロビーは、今にも槍を投げ出しそうなぐらい疲れてそうだ。

 

 母さんが今日の探索の終了宣言をしたけど、あの言い方だと明日も来たいのだろう。

 出発日は明日になるかもしれないので、もう来られないかもしれないのに。

 

・・・・・・

 

 迷宮を出て、イザクさんの馬車3台が置かれた広場へと向かった。

 騎士団員も常駐してないから、階層突破報酬はもらえない。

 低階層だから雀の涙程度だし、もらっても大して嬉しい訳ではない。

 だけど、ロビーは『最初に突破したのが俺達だ』と言って自慢できるのが良いのだとか。

 

 探索を終えて、直ぐに一息吐ける場所に移動できるのは便利だ。

 村の人達は迷宮が出現して災難なのだけど、母さんには居心地の良い環境なのかもしれない。

 

 あとは、騎士団が早く村に到着すれば大丈夫だろう。

 もっとも騎士団が来てしまえば、村も商隊を引き留める理由がないので、母さんの迷宮探索は終わってしまうけど。

 

 馬車に戻って、着替えや桶を持って井戸へ。

 井戸の利用は既に許可を得ているし、私達が迷宮に潜ってることも伝わっていて、村の人達からは歓迎されている。

 

 桶に水を移し、手拭いで顔を拭き、人けのない木陰で着替えをする。

 こういう時は、定住先の家を持たない不便さを強く感じる。

 

 着替えると、母さんは村の商人の所へと向かい、私達は留守番。

 迷宮で得たコボルトソルトや手持ちのドロップアイテムで食料等を買うか、交換するためだ。

 

 この村には女性の商人がいるらしい。

 たしか、デニスさんがそんなことを言っていた。

 母さんから一緒に行かないかと誘われたけど、顔見知りでない人とは接したくないので断った。

 

「ロウ姉は、相変わらずだなぁ」

「煩いな、ロビー。放っておいてよ」

 村の人が投げかけてくる好奇の視線が、とっても苦痛なんだよ。

 

・・・・・・

 

 母さんが夕飯の材料を仕入れてきたので、三人で準備に入る。

 

 馬車から少し遠めに離れた所に、今日の野営場所を確保。

 イザクさん達の馬車から少し離れた場所にデニスさん達がいるので、私達は更に離れた場所だ。

 私にとってはありがたいので、なるべく人けがない所で野営したい。

 

 

 アイテムボックスに収納していたコボルトソルトとヤギの肉を、村で採れたミル(蜂蜜)グナン(小麦)と野菜に母さんは交換してもらったらしい。

 レベルの高い探索者ジョブの母さんは、かなりのアイテムを貯め込んでいる。

 なので、迷宮に馴染みのない村とは、それなりに物々交換が成り立つ。

 あとは常備していた干し肉とヤギの肉を使ってメインの焼き物を作る。

 

 ロビーはミル(蜂蜜)よりも迷宮のキラービーが落とす蜂蜜の方が美味しいというが、私は断然、ミル(蜂蜜)の方が好きだ。

 ミル(蜂蜜)の方が少しだけ苦みがあるが、食べた後の口の中がスッキリする。

 一方で迷宮産は甘すぎると思う。

 母さんの意見も同じで、ロビーはお子様舌だと思うんだよなぁ。

 

 ヤギの肉を薄切りにして、ペッパーとコボルトソルトで味付けして一気に焼き上げ、仕上げに少しだけミル(蜂蜜)を塗れば完成。

 本当は、シェーマの葉にでも包んで蒸し焼きにしたいけど、その辺の石を積んで作った竈では火加減が難しい。

 グナン(小麦)へ適当なサイズに切った野菜と干し肉を鍋に入れて、火にかければ熱々の具だくさんスープの完成。

 あとは二種類の野菜を適当に切って皿に散らしたサラダを添える。

 肉を焼くのは私、スープを作るのは母さん、サラダを作るのはロビーの仕事と決まっている。

 

 母さんは料理が苦手だと言うが、私は母さんの作ったスープが結構お気に入りだ。

 特に寒い冬の季節に野営している時に飲むと、心も体も温かくなる。

 

 ロビーのサラダはペッパーの味付けが結構、雑なので味にいつもばらつきが出る。

 私の焼く肉は二人には好評だ。

 二人が面倒臭がりで、私に押し付けたいだけかもしれないけど。

 

 熱々のハーブティーにミル(蜂蜜)を少しだけ垂らして、最後に口直し。

 ロビーだけ、迷宮産の蜂蜜を入れて飲んでいる。

 成人したというのに変わらず、お子様のままだよなぁ。

 

 夕飯が終わると、桶の水を使ってザッと食器を洗って、竈の火を消して就寝の準備に入る。

 

 暖かくなってきたとはいえ、まだ夜は寒い。

 馬車で運んでもらった毛布を引っ張り出して包まり、朝まで身を寄せ合って寝るしかない。

 少し大き目の毛布は、並んだ三人の足下にかけて横になる。

 逆側の離れた場所にいるデニスさん達のパーティーも既に就寝に入っているようだ。

 

 迷宮の戦闘での疲れと、温かい食事のおかげで、ロビーはもう今にも眠ってしまいそうな顔。

 ロビーに背中を向けて、母さんの方に向き直る。

 どうせ、ロビーはこのまま朝までグッスリだろう。

 

 眠気が強くなるまで、母さんと迷宮談義をするのが夜の日課だ。

 

「何故、迷宮は突然、出現するのか?」

「・・・・・・エサにする迷宮探索者を広く探すために、同じ場所には出現しない」

 

「迷宮が出現する所と、出現しない所の差は?」

「・・・・・・他の迷宮がある近くには出現しない。エサの取り合いになるから」

 

「エサの取り合いが起きない迷宮同士が増えると、人が住めなくなる地域が広がるのでは?」

「うーん、母さん。それ、昨晩は言わなかったよね?」

「今日、迷宮で探索している時に考えたからね・・・・・・」

 やっぱり熟練の探索者だから、低階層のモンスターぐらいは考え事しながらでも余裕なのか。

 

 私と母さんは、毎晩、暇な時間を見つけては、迷宮の成り立ちを二人で質問し合いながら考える遊びをしている。

 いつから始めたのかは、もう覚えていないけど、私が探索者になった頃からかも。

 時々、わざと質問の回答を変えて、次に繋がる質問に変化が発生するようにしたりして、質問や回答をどんどん深めていく。

 

「・・・・・・人が住めなくなる地域が広がる前に、強力な騎士団が派遣される?」

「うーん、ローザ、それはどうだろうなぁ。

 派遣されない場合もあるし、派遣される場合もあろうだろうし・・・・・・。

 強い騎士団を領主が持ってるかどうかは、かなり運に左右されるよね」

 そんなこと言われても、騎士団の強い、弱いがどうやって決まるのか私には知らない。

 

「じゃあ、この続きはまた明日の夜だね。次に行こうか。

 ダンジョンウォークで行ける場所と行けない場所が迷宮内にあるのは何故?」

「・・・・・・迷宮探索者に楽をさせないため。

 どこでも移動できたら、皆、待機部屋に直ぐに行ってしまう」

 

「ダンジョンウォークで移動できる場所があるのは何故?」

「・・・・・・初めからボス部屋まで、休みなしに探索するのは難しいから。

 あまりに難しいと、誰も迷宮に入らなくなってしまい、エサがなくなってしまうから」

「ローザ、それ面白い考え方だね。いつ考えたの?」

「今朝、起きた時かなぁ・・・・・・なんとなくだけど」

 

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「そろそろ終わりにしましょうか。明日の迷宮探索に響きそうだから」

「そうだね。もう寝ようか。おやすみなさい、母さん」

「お休み、ローザ。また明日ね」

 そうは言っても、明日の質問を今のうちに考えておこう。

 

 まだ、もう少し起きていられそうだし。

 

 明日の新しい質問は『迷宮の入口は何故探索者以外でも入れるのか?』でどうだろうか。

 母さんは何て答えるかな。

 私は迷宮がたくさんエサを得るためだと思うのだけど。

 

 寝ようと思うが、迷宮からの不快な感覚があるので、なかなか眠れそうにない。

 迷宮の傍で眠るなんて、かなり久しぶりな気がする。

 何故、迷宮がこんな不快感を発しているのだろうか。

 そして、私はどうしてそれを感じ取れてしまうのか。

 

 この件についてだけは、母さんと質問のやり取りをしたくない。

 一度、この能力のことを母さんに相談したことがある。

 母さんは『それは才能などではなく、ローザが努力したことで勝ち取ったものではないの?』と言っていた。

 

 モンスターの攻撃を事前に察知できるだけだったら、そうだと思えたかもしれないが、盗賊であったり、迷宮の階層ボスや迷宮の位置が分かる理由にはならないと思う。

 

 『迷宮は分かってないことが多いから、きっと何かあるはず』だと母さんは言っていた。

 それを発見したいとも。

 

 自分だけが、何故、こんな不快感を感じ取れてしまうのか。

 好奇心旺盛な母さんが、次々に疑問をぶつけてくると、その発端に行きついてしまうだろう。

 

 不快感を感じ取れるようになった理由については、心当たりがある。

 でも、それは母さんには話したくない。

 

・・・・・・

 

(カーン、カーン、カーン・・・・・・)

 

 

 突然、村中に高い金属の音が響き渡った・・・・・・あれは、警告を告げる半鐘の音?

 

 隣に横たわっていた母さんは直ぐに起き上がった。

 私と同様に、まだ眠りについてなかったのかもしれない。

 

「母さん・・・・・・」

「ロビーを直ぐに起こして。そして装備品を直ぐに着けなさい!」

 母さんは直ぐにアイテムボックス操作の詠唱を始めた。

 

 私も上半身を起こして、横にいたロビーを揺さぶった。

 

「ロビー起きて・・・・・・起きなさい!」

「ん・・・・・・」

 既に深い眠りについていたのか、ロビーの反応は鈍い。

 

 気にせず揺さぶりながら、私もアイテムボックス操作の詠唱を始めた。

 立ち上がった母さんは、既に防具を着け終えて、鋼鉄の槍の握りを確かめている。

 

「ローザ。ロビーとここにいて。とにかく防具を着けて、槍を持ちなさい!

 私はイザクさんとデニスさん達の所に行ってくるから」

「分かった。直ぐに戻ってきてね」

 母さんは、無言で頷くと足音を立てないように、馬車の方へと小走りで去っていった。

 

 ロビーはようやく覚醒したのか、周りをキョロキョロと見回している。

 

「ロビー、起きた?村の様子がおかしいの。直ぐに防具を着けて、槍を手に持ちなさい。

 母さんは状況を確認し、馬車の方に向かったわ」

「・・・・・・」

 私が既に防具を着け終えているのを見て切迫感が伝わったのか、弟は急いで詠唱を始めた。

 

 半鐘は、さっきからずっと鳴りっぱなしだ。

 村の中が急激に騒がしくなってくる。

 罵声や叫び声も聞こえてきた・・・・・・これはモンスターが村に漏れだした?それとも盗賊?

 

 やがて剣戟の音も聞こえ始めた。

 これは盗賊の方だ。

 

 母さんがこちらへ走ってくるのが見える。

 

「ローザ、ロビー、盗賊の襲撃よ。貴方達は、そこの木陰に隠れていて。

 私はイザクさんを連れてくるから、それまで貴方達は隠れてなさい。

 絶対にこちらに来てはダメよ!

 馬車は盗賊の恰好の目標にされるから」

「母さん、私も一緒に戦いたい!」

「ダメよ。貴方にはまだ無理。貴方の仕事はロビーを守ることよ。

 母さんは大丈夫だから、心配しないで。時間が惜しいから、馬車に戻るわ。

 盗賊なんかに母さんは負けないから心配しないで」

 鋼鉄の槍の石突を地面に、ドンッと突いて、母さんはニッコリ私達に微笑みかけた。

 

 でも、私は知っている・・・・・・それは母さんが強がりをいう時の顔だ。

 

「ロビーを頼むわ。ロビー、ローザの言うことを聞くのよ!」

 

 母さんは、それだけ言うと、馬車に向かって走っていってしまった。

 

「ロウ姉、どうしよう・・・・・・」

「今は、母さんの言う通りにしよう。

 母さんとイザクさんが来るまで、その木の陰に隠れて様子見よ」

 泣きそうな顔のロビーの手をしっかり握って、母さんが指差した方へ歩き出す。

 

 その間にも、村の喧騒は大きくなり、火の手が上がる家も見え始めた。

 大きな木の幹の裏に二人で隠れ、少しだけ顔を出して周りに目を向ける。

 

 村の中を走り回る人、それを追いかける盗賊らしき者、地面に倒れ伏している人が見えた。

 この村の自警団は、どのぐらい強いのだろうか?

 襲ってきた盗賊は何人ぐらいいるのだろうか?

 情報が全くないまま、不安だけが膨れ上がっていく。

 

 母さんは大丈夫だろうか。

 パーティー効果で母さんのいる方向は分かる。

 先ほどから、あまり動いていないようだ。

 

 イザクさんが馬車の傍を離れてくれなくて、こちらに戻れないのだろうか。

 母さんと離れ離れになり、弟の手を握って動くこともできず、無力感に苛まれる。

 

 暗闇の中、目を凝らしていると、こちらに近づいてくる人影が見えた。

 二人・・・・・・?いや、三人いる。

 一人は背が低そうだ。

 母さんではないようだが・・・・・・あれは?

 

 イザクさんと息子のボリス君か。

 近くにいるのは、デニスさんのパーティーに所属する巫女のゾフィさんだ。

 母さんは何故、一緒に来ないのだろうか。

 

 声をかけようとすると、三人に別の者が近づいてきた。

 イザクさんは、その者と面識があるのか、ホッとしたように声をかけ始めた。

 

「おお、先ほどの・・・・・・息子と安全な所に隠れたい。どこかに・・・・・・」

「こちらへどうぞ」

 その人は、ドアの開いた家の方を指さして、先に進むように促している。

 

 どうやら、この村の人のようだ。

 片手に剣を握っているから、自警団の人なのだろう。

 

 ゾフィさんを先頭にドアをくぐろうとした瞬間、後ろにいたイザクさんへ男が斬りかかった。

 いきなりのことで、声も出ない・・・・・・何故?

 

「ぐっ、何を・・・・・・?」

「・・・・・・」

 男はイザクさんへの問いかけに答えず、そのまま剣で滅多刺しにしている。

 

 イザクさんは男の腕を掴んでいるが、丸腰の状態では抵抗できず何度も剣が突き刺さった。

 

「お、お父さん・・・・・・!」

 

 子供の目の前で、なんてことを・・・・・・。

 

「ロビー、ここにいて。動いちゃダメよ」

「えっ、ロウ姉?」

 弟の返事は無視して、木立伝いに男の後ろへと足音を立てずに回り込む。

 

 ゾフィさんも異常に気づき、呆然とする息子さんの手を引き、二人の間に割って入ろうとする。

 だが、暗がりでつかみ合いになってるため、彼女の槍で引き離すことはできない。

 

 私がやるしかないのか。

 

 小道に飛び出して、男の後ろから背中に向けて、鉄の槍を短く、そして鋭く突いた。

 

「グェッ・・・・・・何が・・・・・・」

 

 苦痛の声を上げて振り向いた男の右手に持った剣を、槍の穂先で弾き飛ばす。

 今度は、その腹に向けて、両手で力を込めて刺した。

 

(チリッ・・・・・・)

 

 首の辺りに嫌な感じの気配がし、対象が目の前の相手であることが、ひしひしと感じられた。

 

 

「グウゥ・・・・・・」

 両腕にも肉を貫く不快な感触が伝わってくる。

 

 顔を俯かせているがの薄っすら見えるが、暗がりの中なので男の表情までは分からない。

 イザクさんは、既に横倒しになり、体をピクピクさせている。

 

「ゾフィさん、ボリス君を連れて、離れて・・・・・・」

「あなたは?・・・・・・ローザさん?」

 突き刺さった槍を捻じりながら、横薙ぎに振るい払うように力を込めた。

 

「ガアァ・・・・・・」

 男が苦悶の声を上げて、地面に倒れた。

 

 そのまま間髪を容れず、槍で滅多突きにする。

 

「ローザさん・・・・・・その人、もう死んでいる・・・・・・」

「はあ、はあ・・・・・・」

 ゾフィさんの言葉で我に返った。

 

 火事が延焼したのか、周りがチラチラと明かりに照らされるようになってきた。

 私の雇い主を滅多切りにした男は、もうピクリともせずに地面に俯せで倒れている。

 

「お父さんを助けて!」

「パーティーに入ってないと・・・・・・」

 ゾフィさんは巫女なので『全体手当』を使おうと思えば、同じパーティーに入るしかない。

 

 そして、ここに来るまでの間にパーティーには入ってなかったのだろう。

 イザクさんは痙攣を起こして意識も朦朧としているように見える。

 

 アイテムボックス操作の詠唱をして、急いで滋養剤を取り出した。

 倒れたままのイザクさんに駆け寄り、右手に持った生薬を口に入れようとするが、大量の血が吐き出されてきて、飲み込ませることができない。

 

 両手が血で濡れて、生薬が溶けていってしまう。

 炎に照らされて揺れる彼の表情には・・・・・・もう何も見えてないようだ。

 

 もう一度、大量の血を吐き出すと、彼はそのまま動きを止めてしまった。

 変わり果てた雇い主の姿を呆然と見つめるしかない。

 

「ロウ姉、イザクさん亡くなってるよ・・・・・・」

 振り向くと、いつの間にか傍らにロビーがいて、ボリス君の手を握ってる。

 

「そ、そんな・・・・・・お父さん・・・・・・」

 イザクさんの息子は首を横に振りながら泣き出した。

 

「ローザさん、ロベルトさん、私はデニスやローザさんの所に戻ります。

 あそこには、イザクさんの所の店員二人も残ってますので。

 ボリス君のことを頼みます」

「えっ・・・・・・?」

 こちらの返答も待たずに、ゾフィさんは踵を返して走っていってしまった。

 

 

「ロウ姉、さっきの木の陰の所まで戻ろう。母さんが、そこにいろって言ったんだろう?

 ボリス君も一緒に行こう」

「お、お父さん、このままにするの?・・・・・・そんなの嫌だよ」

「今はどうしようもないんだ。お願いだから、こっちに来て。

 そうしないとイザクさんも悲しむから・・・・・・」

 子供にかけるロビーの言葉が虚ろに聞こえた。

 

 でも、ここにずっと留まり続けるのは確かに拙い。

 血に濡れた右手で、槍を握りしめて立ち上がる。

 

 ロビーがボリス君の手を握って、強引に移動し始めた。

 ボリス君は泣きながら、引っ張られていく。

 私は周囲を警戒しながら、後に続いた。

 

(チリッ・・・・・・)

 

 後ろから感じた嫌な気配に反応して、体を捻って槍を横薙ぎに振るった。

 

 振り向くと、顔に手を当てた男が、くぐもった苦痛の声を上げて、こちらを睨みつけていた。

 右手には血で汚れた剣を持っている。

 先ほどの男とは別の盗賊だ。

 

 注意深く、槍を構え、二度、三度と突きを繰り出す。

 先ほど振るった槍の穂先は男の右目を抉ったのか、顔の右半分が血に染まっている。

 視界が悪い中、右手に持った片手剣を無茶苦茶に振り回してる。

 

「ギエッ・・・・・・」

 

 男の右側から槍が突き出てきて、腹に突き刺さった。

 

「ロウ姉!」

 男の腹に刺さったのは、ロビーの槍だ。

 

 私も間髪を容れずに、槍を繰り出し・・・・・・男の喉を突き刺す。

 前のめりに倒れそうになった男に、更にロビーの槍が追い打ちをかけた。

 

 動かない躯となった男に一瞥して、もう一度、イザクさんと傍らの盗賊の死体に目をやる。

 いったい、どれだけの盗賊が襲撃に加わっているのだろうか。

 

「行こう。ロウ姉・・・・・・」

 ロビーは震えるボリス君の手を持って、再び歩き始めた。

 

 もう一度、周囲を確認して、私も続く。

 元の木の陰に辿り着いたところで、泣きじゃくるボリス君をしゃがませ、私達も身を隠した。

 

 火の勢いは治まらないが、喧騒は徐々に小さくなってきた気がする。

 だけど、母さんもデニスさんもゾフィさんも戻ってこない。

 パーティー効果で母さんのいる方向は分かるが、馬車のある所から動いてるように思えない。

 皆で固まって行動しているのだろうか。

 

 その時、急に母さんの気配が途切れた。

 パーティーを解散したの?・・・・・・そ、それとも・・・・・・?

 

「ロ、ロウ姉・・・・・・」

 

 泣きそうな弟の表情・・・・・・私の顔もきっと同じなのかもしれない。




お読みいただき、ありがとうございました。

次回投稿日は2026/8/12(水)の予定です。

次も閑話の投稿になる予定です
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