異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

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(主人公に身請けされる少し前のところから始まる、アミル視点のお話です)


閑話001 こわい人

 私の人生は本当にままならない。

 ついこの間までは、村の幼馴染達と迷宮探索をしていたのに、今は一人だけ、ここにいる。

 

 迷宮探索に一区切りつき、村で休んでいたところ、突然、私の奴隷落ちが決まったからだ。

 兄が盗賊の襲撃を受けてケガを負い、治療費用を捻出するために私が売られることになった。

 

 奴隷で売られる私のために、家族はみんな泣いてくれた。

 私も売られるのが嫌で泣いた。

 でも、家族の誰も私が売られていくのを止めようとはしなかった。

 

 鍛冶師であった兄は私が尊敬する対象だった。でも、今は兄を恨んでいる。

 盗賊の襲撃に遭ったのは兄のせいではない。忌むべき存在は盗賊の方だ。

 理屈では分かっていても、どうしても割り切れない。

 

 何故、兄が重いケガを負わなければならなかったのか?

 何故、私が売られなければならなかったのか?この繰り返しが私を苦しめる。

 

 この奴隷商館に来てからも苦痛の連続だ。

 奴隷購入希望のお客を前に、何度も顔合わせを行い、何度も落とされた。

 1日に3回面談があって、3回ともあっさり落とされたことがある。

 私の目の前で、契約が決まる同僚を目の当たりにして、自分の心が折れそうになる。

 

 私は探索者のLv3。

 

 つい4、5か月前に村の幼馴染達と探索パーティを作り、迷宮の探索を始めたばかりだった。

 私も含めて、ほとんど素人の集団。

 1人だけ先輩の迷宮経験者がいたけど、私達よりも半年早く始めただけ。

 

 全員が探索者で、武器も防具も貧相だったから、よくケガをした。

 僧侶も神官もいなかったので、回復するまで戦えず、迷宮探索はあまり進まなかった。

 でも、それは良い。初めのうちは、そんなもの。メンバーも皆それは分かっていた。

 

 焦って、先を急いでも失敗するだけで、経験を徐々に積めば強くなっていく。

 だから、戦うペースが遅かったり、迷宮に入る頻度が減っても、皆、焦ってはいなかった。

 着実に迷宮で戦って、探索者のLv10を目指せばよい。それまで死なないことが重要だ。

 

 ただ、途中で私は、その経験を積む機会が失われた。

 

 その結果が、探索者のLv3。

 

 私が探索者のLv3だと知ると、お客は私への興味を急速に失う。

 私はお呼びでないということだ。

 僧侶で治療魔法を使える訳でもなく、剣士や戦士のように攻撃スキルを持ってる訳ではない。

 アイテムボックスの枠が3つ、9個のアイテムを収納できるだけ。

 

 探索者は迷宮探索に必要で、パーティー編成もダンジョンウォークも必要なスキルだ。

 でも、同じ探索者を選ぶのなら、レベルの高い者をお客は選ぶ。

 アイテムボックスの数は分かり易く、今の私には残酷な現実。

 

 低階層しか挑めないのなら、大したアイテムはドロップしない。

 アイテム9個なんで、リュックに入るサイズだ。

 戦闘でも活躍せず、私の価値はリュックと同じ...そう見られてるような気がしてしまう。

 

 私の唯一の利点はドワーフであること。鍛冶師の可能性がある。

 そう、あくまで可能性。奴隷で鍛冶師はトラブルの元なので、普通は好まれない。

 平民で、探索者のレベルが10に近ければ、鍛冶師の期待が持たれる。

 結果として、鍛冶師になれなくても、レベルを10まで上げた実績は残って評価される。

 だが、それは今の私には関係のない話だ。

 

 ドワーフだから、人族よりは力がある、今の私のアピールポイントはそれぐらい。

 でも、腕力は村では普通の部類だったので、本当は大したことがない気がする。

 

 特別、家事が上手でもない。

 本を読むことは好きで、よく村の集会場に1人で本を読みに行っていた。

 そのせいなのか、愛想もあまり良くないかもしれない。

 お母さんに、もっといろいろ教わっておけば良かった。

 

 迷宮に行く前は、鍛冶師の兄に憧れていた。

 書物を読みながら、自分が鍛冶師になったらどうしようとか空想していた。

 夢見がちな子供だったのが、今は、この結末。ただ、運が悪かっただけなのに。

 

・・・・・・・

 

 

 この後、すぐに面談があるとアラン様から言われた。

 私のほかに、エルマさんとコトノさんが面談に臨むようだ。

 でも選ばれるとしたら、エルマさんだろう。彼女は剣士。攻撃スキルを持ったジョブだ。

 コトノさんは、探索者Lv2。私と同じ外れ組。

 つまり、エルマさんが選ばれなければ誰も選ばれないということだ。

 

 コトノさんは私よりも後に、この商館に売られてきた。

 だから、面談の回数はそれほど多くはない。

 コトノさんはドワーフの私よりは腕力はないと思う。

 私よりも面談で厳しい状況になるかもしれない。

 すぐに私と同じ現実に気付くだろう。

 

 エルマさんの面談結果は分からないが、私とコトノさんの結果は予想出来ている。

 面談に行くのが苦痛で仕方ない。いつまで、こんなことが続くのだろうか。

 

 

・・・・・・・

 

 

 私の目の前に、大柄な人族の男性が座っている。肌の色は少し浅黒く、目が怖い。

 穏やかな口調で話をしているが、目が怖い。私達を値踏みしているようだ。

 それはそうだ、この人はお客なのだ。私達奴隷をお金で購入する人。

 値踏みするのは当然だ。でも、なんでこんな怖い目をしているのだろうか。

 

 この人の視線に気後れしてしまう

 隣にいるエルマさんは熱心に剣士である自分を説明している。自信に満ち溢れた様子だ。

 ブラヒム語は多分、私の方が上手く話せる。

 だけど、エルマさんは堂々と目の怖い男の人に話しかけている。

 

 エルマさんが話しているのに、このお客は私の方に時々、視線を向けてくる。

 

 人族の中には、小さい女の子が好きな人が居ると聞いたことがある。

 この商館にいる奴隷で、人族のチクルスさんから聞いた話だ。

 その時は言ってる意味は分からなかったけど、こういうことなのだろうか?

 私の方を見ないで、エルマさんの方を見てほしい。どうせ、私を選ばないのだから。

 選ぶ理由が小さい女の子が好きだからなんて、気持ち悪い。別の人を選んでほしい。

 

 エルマさんの面談が終わり、私の番になった。

 

 目の前の怖い人が私にブラヒム語で話しかけてくる。

 

「君には、俺と一緒に迷宮に入ってもらいたいのだが、迷宮で戦うのは大丈夫だろうか?」

「は、はい。迷宮での経験はまだ...少ないですが、迷宮で戦うのは..問題ありません」

 男の人は流暢なブラヒム語で話しかけてくる。私のブラヒム語とは全然違う。

 

 昔から少し勉強していたし、探索者でも詠唱に使うから更に勉強した。

 この商館に来てからもエネドラさんに教わった。でも、私のブラヒム語はまだまだ拙い。

 話しかけられた内容は何とか理解出来るが、難しい話になると言葉が出てこないことがある。

 

「ブラヒム語は今、この商館で勉強しているのだろうか?」

「はい。ドワーフの言葉とブラヒム語を両方話せる...方はいませんが、

 ブラヒム語を教えて..もらってます。

 元々少しはしゃべれましたが、ここで10日ほど学んで...います」

 自分の持ってる語彙でなんとか、言葉を紡ぐ。緊張してしまう。

 

「書物を読んだりするのは経験があるだろうか?」

「はい。本が置いてある集会場...や、近所の家に読ませてもらいに行って...ました」

 この人は迷宮探索する奴隷を探しに来ているのに、何故、書物の話をするのだろうか。

 ブラヒム語での会話と意味の分からない話題で私の緊張がさらに高まる。

 

「迷宮探索を主にやってもらうつもりなのだが、

 雑用とか料理とかも可能ならやってもらいたい。どうだろうか?」

「掃除や草むしりなどは、奴隷になる前からやっていたので問題ありません。

 農作業や料理はあまりやっていなかったので、ご期待...に沿えないかもしれません。

 でも、努力いたします」

 迷宮探索者で奴隷を購入する人は、迷宮外では奴隷をこき使うとチクルスさんから聞いた。

 この人も、きっとそうなのだろう。

 選んでほしいのか、選ばれたくないのか段々分からなくなってきた。

 

「ドワーフの種族固有ジョブである鍛冶師については、どう思っている?」

「鍛冶師はドワーフの中でもとりわけ優秀...な者しかなれないと思っています。

 あこがれの存在...ではありますが、私がなれるかどうかは正直分かりません」

 平民の時に考えていたことをしゃべってしまった。

 

 ブラヒム語での会話だと自分の考えを伝えるのが難しい。

 今の奴隷の私に鍛冶師になれる道はなかったのに。

 言葉を考え直して、訂正しないと。

 

「力というか腕力には自信がある方か?」

「村のドワーフの中では、平均...的な方だったと思います。

 迷宮探索でお役に立てればと思っています」

 矢継ぎ早の質問に、受け答えが難しい。訂正の機会を失ってしまった。

 でも、それはどうでも良いか。どうせ、私が選ばれることはないのだから。

 

 ドワーフでも平均的な力。探索者のLv3。私が選ばれることはない。

 

「何か、俺が君を迎え入れる場合の希望等はあるか?

 衣食住、迷宮探索、何についてでも構わないが、あれば聞かせてほしい」

「えっ?ご主人様に望むこと...は特にありません。買って頂けるだけで感謝...します」

 小さい女の子は好きですか?...とは訊けない。そんなブラヒム語は習わなかったから。

 あ、でも、チクルスさんとの会話から、言葉を選べば可能かもしれない。

 ...でも、そんな恐ろしいことは訊けない。この人の目は怖い。

 

・・・・・・・

 

 面談が終わり、苦痛な時間が終了した。

 緊張から解放されて、脱力していると、アラン様に呼ばれた。

 

 あの目の怖いお客さんが私の身請けをすると決めたそうだ。

 やはり小さい女の子が好きなのだろうか。

 正直、エルマさん以上に上手く話せた気が全くしなかったのに。

 

・・・・・・・

 

 私と怖い目のお客様の間で、アラン様がインテリジェンスカード操作を行なっている。

 怖くて足がすくむ。

 アラン様の言葉もインテリジェンスカードの内容も頭に入ってこない。

 私の残りの人生の道筋が決まった瞬間だ。とても不安で恐ろしい。

 

 怖い目の男の人は何か私に話しかけてきたが、受け答えがうまく出来ない。

 アラン様から下がって良いと言われて、急いで私は立ち去った。

 

・・・・・・・

 

 奴隷部屋に戻ると、暫くしてアラン様が私の下にやってきた。

 アラン様のお話では、5日ほど商館でブラヒム語を勉強させてくれるそうだ。

 あれほど流暢なブラヒム語を話す主人の所に行くのだから、勉強しないとまずいと思った。

 また、エネドラさんの力を借りなければならない。

 

 あとは、チクルスさんに小さい女の子が好きな男の人の対処法を確認しておこう。

 人族の種族固有ジョブがどうこうと言っていたような気がする。何か知ってるかもしれない。

 彼女は何故かいろいろと私の知らないことを知っているように思う。

 二歳年上ということで知識と経験が豊富なのだろうか。

 

 でも私はドワーフの中では特別小さい方ではない。むしろ、少し大きい方な気がする。

 ドワーフ自体が、小柄な種族なだけだ。あのお客さんは分かってるのだろうか?

 

 ブラヒム語の件も含めて、どっちも切実な問題だ。

 あと5日間でどうにかなるだろうか?とても不安だ。

 

 エネドラさんとチクルスさんは母娘だと聞いた。

 彼女たちの境遇は私より厳しい。

 彼女たちは大きなケガを負っていて、私以上に契約してもらえる可能性が低いらしい。

 

 あと1、2か月で契約先が決まらないと、今よりも厳しい環境に移されるそうだ。

 今より厳しい環境って、なんなのだろう?怖くてチクルスさんには聞けなかった。

 

 ずっと、お客様との面談に落ち続ければ、私もその厳しい環境に移されたのかもしれない。

 

 でも、私はあの目の怖いお客様の所に行かなければならない。

 私には選択肢がない。私の人生はままならない。




お読みいただき、ありがとうございます。
奴隷の選ばれる側の立場、アミルが主人公をどう思っていたのかを描きたくて、作成しました。

あとは、探索者Lv2とかLv3とかの奴隷って、どんな感じなのだろうか...とか。
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