異世界迷宮と戦乱と   作:HMI

290 / 290
 いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

 前話の閑話(ローザ視点)の続きとなります。

 ちょっと残酷なシーンがありますので、ご注意を。


閑話012 探求(その2)

 母さんの気配が消えた。

 デニスさん達と共闘するために、パーティーを解散したのかもしれない。

 でも、母さんの性格上、そんなことをするだろうか。

 

 不安に思いながら、パーティー編成の詠唱をする。

 

「ロビー、私のパーティーに入って。

 今、私達二人がパーティーを組んでないのは危険よ」

「分かったよ、ロウ姉」

 弟がパーティーに加わったのを確認して、ボリス君もパーティーに誘った。

 

 これからやることのためには必要なことだ。

 

「ロビー、ここに二人でいて。今度は勝手に動かないでよ」

「そんなこと言って・・・・・・ロウ姉はどうするんだよ?」

「私は母さんの所に行ってくる。

 危ない事はしないつもりだけど、母さんが危険なら助けないと」

「お、俺も・・・・・・」

「ロビーはダメよ。ボリス君を守ってあげて。確認したら、直ぐに戻ってくるから」

 納得いかなさそうだけど、時間を無駄にできない。

 

「じゃあ、行ってくるわ。絶対、ここから動かないで!」

「ロ、ロウ姉・・・・・・」

 後ろを振り向くことなく、走り出す。

 

 木立の裏を通って、馬車のあった所まで足音をなるべく立てずに急ぐ。

 母さん・・・・・・無事でいて。

 

 

 馬車が見える所まで、慎重に近づいた。

 火事の炎に照らされて、馬車の周りの光景が見え隠れする。

 

 荷台の近くには倒れている者が何名か見えた。

 他には・・・・・・戦っている人達がいるみたい。

 あれは、ニクラスさん?

 盗賊と対峙しているのは二人で、盗賊も二人いるようだ。

 

 

 慌てて近づこうとすると、馬車の近くに見慣れた槍が・・・・・・あれは母さんの?

 その傍に倒れているのは・・・・・・女性・・・・・・母さんだ。

 

「母さん!・・・・・・どうしたの?怪我したの?」

 地面に横たわった母さんからは、何の反応もない。

 

 そんな馬鹿なことが・・・・・・。

 

「ローザさん、手伝って!・・・・・・盗賊がまだいるの!」

 

 近くでゾフィさんの声がしたようだけど、何も頭に入ってこない。

 

「デニスとローラさんは盗賊に殺されたわ。

 ここで生き残ってるのは、私達と貴方の三人だけよ!」

 彼女の言葉を聞いた瞬間、怒りで頭が沸騰した。

 

 夢中で走り寄って、ニクラスさんの横から槍を突き出す。

 たたらを踏んだ盗賊の足を石突で薙ぎ払った。

 前のめりになった盗賊の顔を、ニクラスさんが剣を振り上げて切り払う。

 

 のけ反って無防備になった盗賊の喉、腹、胸・・・・・・を次々に槍で突き刺した。

 

「この・・・・・・」

 

 怒りで我を忘れてるのは自分でも分かるが、もう止められない。

 

 ゾフィさんが対峙していた盗賊の頭に槍を全力で振り下ろす。

 

「ガッ・・・・・・」

 

 頭を打たれて、棒立ちになったところを、横腹へ突きを二回繰り出した。

 くぐもった声を出しても、攻撃を止められない。

 そのまま、喉を穂先で斬り払い、更に胸を一突きした。

 

 周りを見渡すと、呆然としたニクラスさんとゾフィさん以外には立っている者はいない。

 

「母さん・・・・・・」

 倒れた母さんに近づき、抱き起こしても反応がない・・・・・・母さん、本当に死んじゃったの?

 

 なんで?どうして?・・・・・・直ぐに私達の所に来るって言ったじゃない・・・・・・。

 母さんのお腹から流れた血が地面を赤黒く染めている。

 表情からは眠ってるようにしか見えないのに・・・・・・口からは血が流れて・・・・・・嘘だこんなの。

 

 

・・・・・・

 

 それからのことは殆ど覚えていない。

 

 後からニクラスさんに教えてもらったのは、盗賊は途中で諦めて撤退したらしいということ。

 そして、多数の村人に死傷者が出て、この村が廃村になるであろうということ。

 それでも迷宮が出現したので、村人はいなくとも騎士団が派遣され、管理されるだろうと。

 

 何を聞いても、頭の中をすり抜けていくような感じだった。

 

 母さんのインテリジェンスカードを回収して、迷宮の傍にロビーと二人で埋葬した。

 誰も止める者はいなかったし、母さんのためにできる最後のことだと思ったので、二人で泣きながら穴を掘った。

 

 ロビーが石で目印を作り、それを埋葬した場所に立てて『二人でまたここに来る』と誓った。

 

 

 でも、それが簡単ではないことは、この後直ぐに思い知らされることになった。

 亡くなったイザクさんの店の者が来て、護衛契約の違約金を支払えと言ってきたからだ。

 その人はラメルさんという名で、私達に会うなり、イザクさんが亡くなったことで私達を激しく罵倒してきた。

 

 母さんのためにも、ロビーを守るためにも、いつまでも腑抜けていられない。

 

 襲撃のあった日は護衛任務の対象外だと私達が主張しても、彼には納得してもらえなかった。

 契約書には護衛契約の開始日と終了日の条件しか記載がなかったので、免責を示す証拠がない。

 我が家の資金は母さんのアイテムボックスに収納していたので、違約金を支払うのは不可能だ。

 私達だけでなく、ニクラスさんやゾフィさんも似た状況らしい。

 

 持っていた装備品・・・・・・母さんの形見である鋼鉄の槍等も全て取り上げられ、私達は奴隷になることが決まった。

 

 村の後片付けを手伝わされ、村で同じように奴隷落ちになった人達と共に、ザビルの街の奴隷商館へ送られると告げられた。

 村で奴隷になる者は、それなりの数になるらしい。

 

 こんな事では、母さんの墓に次来るのがいつになるのか分からない。

 

 それ以前に、そもそも奴隷という者に私達二人は馴染みが無い。

 私達が奴隷身分になって何をさせられるのかも分からないので、恐怖と心細さで胸が押し潰されそうになる。

 

・・・・・・

 

 ザビルに向かう馬車は、イザクさん所有だったもので、私達は縄で縛られて乗せられている。

 奴隷になるとは、こういうことなのかと打ちのめされた。

 

 そして、元迷宮探索者である私達は体が丈夫だからと、時々、馬車から降ろされて歩かされる。

 護衛の時だって歩いていたから、それだけなら問題ない。

 

 だけど、脱走防止のために縄で腕を縛られ、鎖で繋げられると酷く惨めな気分だ。

 騎士団の者も一名だけ随行しているようで、なんだか犯罪者になったように感じられた。

 ラメルさんと私達奴隷を、その騎士団の者が護衛するらしい。

 

 ただ、そのザビルの騎士団から派遣された者は、見た目はとても騎士には見えなかった。

 どちらかというと村を襲撃してきた盗賊のような、野卑な雰囲気でかなり驚いた。

 それでも話をした限りでは、こちらに害意は持っておらず、話し方は乱暴だったが、気さくな人のようだった。

 

 本人曰く、戦士のジョブらしく、迷宮が出現したので派遣されたらしい。

 まさか迷宮に入らず、とんぼ返りでザビルに戻るとは思ってなかったとのこと。

 

 

 移動の初日は、私とロビーはニクラスさんやゾフィさんと同じ荷台の上だ。

 その時に盗賊襲撃があった夜のことを詳しく聞くことになった。

 

 母さんがデニスさん達と合流し、イザクさんとボリス君はゾフィさんと退避することに。

 そして、店員二人はイザクさんの命令で、馬車から高価な商品だけを運び出そうとした。

 当然、絨毯のような重い品物は無理だ。

 それを聞いた時、商品なんて諦めて直ぐに逃げればよかったのに、と苦々しい気持ちになった。

 

 馬車から品物を運び出そうとしている間に、盗賊に取り囲まれてしまったらしい。

 そして、複数の盗賊に攻撃されたデニスさんが最初に戦闘不能に。

 その時はまだ息があったけど、近くにゾフィさんがいなかったので亡くなってしまった。

 

 母さんは複数の盗賊相手に、店員二人を庇って上手く戦っていたそうだ。

 だけど、店員が背後から盗賊に攻撃された際、その店員に腕を掴まれて身動きができなくなった隙を突かれ、盗賊の剣で何箇所も斬られたらしい。

 

 店員は直ぐに亡くなったらしいが、ゾフィさんが戻ってきた時には母さんはまだ生きていた。

 だけど、母さんはパーティー編成が詠唱できるような状態ではなく、デニスさんも既に亡くなっていたので、ゾフィさんと同じパーティーになることができなかった。

 

 最終的には、そのまま母さんは息を引き取り、ニクラスさんとゾフィさんで盗賊と戦っている時に私が現れたとのこと。

 二人が聞いた母さんの最期の言葉は『ローザ、ロベルト・・・・・・無事で・・・・・・』だった。

 初めから6人でパーティーを組んでおけば・・・・・・と悔しい気持ちで一杯になった。

 

 合流して直ぐに、母さんがデニスさん達とパーティーを組んでいれば、少しはマシな状況になっただろうか。

 でも、母さんは私達のことを考えて、それをしなかったのかもしれない。

 

 私達が危険になった時でも、パーティー効果があれば少しは有利になるし、何より居場所が直ぐに分かるから。

 

 ニクラスさんとゾフィさんからは、母さんを死なせてしまったことについて詫びられた。

 私は無言で首を横に振るしかできなかった。

 

 別々のパーティーなのだから彼等には責任はないし、そもそも迷宮探索者や護衛に就く者達は全て自己責任だ。

 

 それでも、彼等が私に詫びているのは、私達を一人前と見てないのだと思った。

 確かに今回の護衛任務では、私達は見習い扱いの金額で契約した。

 それは私達が頼りにならない者であるという証左だ。

 

 彼等のせいで母さんが死んだ訳ではない。

 私が頼りにならなかったばかりに、一人で戦った母さんを死なせてしまったんだ。

 母さんはもう戻ってこない・・・・・・代わりに、これからは私がロビーを守らなくては。

 

 

 移動の二日目から、荷台に乗るのは男女別々にしろと命じられた。

 私はロビーと離れて、女性側の馬車に乗ることに。

 

 そこで初めて、奴隷になったらロビーと別れてしまうかもしれないことに思い至った。

 売られる先が二人同じ所だとは限らない。

 

 奴隷商館で別々の部屋で生活して、別の場所にいきなり売られるかもしれない。

 ひょっとしたら、今までのように話をできるのも、奴隷商館へ連れていかれるための、この短い期間だけかもしれない。

 

 そう思うと、涙がこぼれそうなぐらい不安な気持ちになる。

 

 移った女性用の荷馬車の方には、ゾフィさんの他に村で奴隷になった人達がいた。

 亡くなった村長の娘であるアネットさん、村付の商人だったシルビアさん、村で薬草採取士を営んでいたフローラさんの三人。

 

 アネットさんは、村長が亡くなり、あの村が廃村になると決まった時に、残った私財を全て分配して村人達への補償に充てたらしい。

 

「何故、補償するのですか?

 盗賊の襲撃は予想できなかったのだから、村長の責任とは思えないのですけど。

 お父さんからの遺産は、アネットさんが好きに使っても誰からも文句を言われないのでは?」

「普通はそうでしょうね。でも、今回の襲撃は父に全く責任が無いとは言えないの」

 訝しがる私に、彼女はポツリポツリと今回の盗賊襲撃の発端を語り始めた。

 

「父と村のジェフという男が、自警団の戦力を強化するために連れてきた護衛がいるの。

 その護衛がジェフと一緒に、今回の盗賊襲撃の手引きをしたのを見たと村の者が言ってたわ。

 父はもちろん知らなかったみたいなのだけど・・・・・・

 でも村長だから、知らなかったでは済まされないと思う」

「村の中に裏切り者がいたなんて・・・・・・」

 彼女の話に暗澹とした気分になった。

 

 黙り込んだ私を見たアネットさんは、村長のせいで奴隷になったと私が考えたと思い、気まずい気持ちになったかもしれない。

 

 でも、そうではない。

 村長や、その手引きした者を恨む気持ちよりも、自己嫌悪の念が強くなった。

 

 もし、そのジェフという男や手引きした護衛の者に自分が会っていたら、ひょっとしたら盗賊の仲間だと気づいたかもしれない。

 

 私には、自分に害意を持つ者に対して、あの不快感を抱く力がある。

 もっと村の中を歩き回って、いろんな人と会話していたら、ひょっとしたら異変に気づけたかもしれない。

 

 迷宮の位置は、ある程度近づけば、なんとなく方角が分かる。

 でもモンスターや他人からの害意は、かなり近づいて、その者から私が見える距離まで詰めなければ気づくことができない。

 

 私は村の人と会うのを拒み、母さんに任せっきりだった。

 母さんは私達を守ってくれたけど・・・・・・私は母さんを守れなかった。

 

 私はロビーを守るためにも・・・・・・もっと、強くならなければならない。

 これからは人に会うことを恐れず、もっと積極的になるように自分を変えていく。

 

 :

 :

 :

 

 ザビルの街に着くと、数人の騎士団員が待ち受けていた。

 それにしても、同行した戦士の者が騎士団員と知らなければ、その人達が騎士団員とはとても信じられなかっただろう。

 ザビルの騎士団は何やら、荒くれ者の迷宮探索者のような雰囲気だ。

 

 リーダー格の者が小袋を出して、ラメルさんと話をしている。

 どうやら、私達が倒した盗賊達の懸賞金がイザクさんの店に譲渡されたらしい。

 ただ、討伐した盗賊達にはほとんど懸賞金はかかってなかったらしく、違約金を相殺するには全く足りなかったようだ。

 

 ラメルさんは忌々しそうに、こちらを睨みつけてきた。

 私達はただ俯くことしかできない。

 

 ここで分かったのは、ラメルさんからは首筋に感じる、あの不快感はしないということ。

 彼は我々のことを良くは思ってないのだろうが、それでも盗賊から感じる悪意とは別物だ。

 モンスターや盗賊から感じる悪意は、反撃しなければならないと思う程度にハッキリと分かる。

 あれはいったい、なんなのだろうか。

 

 

 ザビルの街に着いた私とロビーは、直ぐに奴隷商館へ行くらしい。

 一方で、他の人達はザビルの騎士団詰所に行き、今回の件の事情徴収を受けるとのこと。

 

「ローザさん、ロベルト君、これから大変だと思うけど、お互い頑張ろうね」

「ゾフィさんも、お元気で・・・・・・」

「僕も頑張ります」

「頑張ってれば、ローザもロベルトも迷宮探索の才能があるから大丈夫だ。自信を持て」

「ニクラスさんも無理しないように」

「ニクラスさん、ゾフィさんをちゃんと守るんだよ」

 ロ、ロビー、最後の一言は余計な気が・・・・・・。

 

 彼等と別れ、同行してくれた騎士団員とラメルさんと共に奴隷商館へと向かった。

 ニクラスさん達やアネットさん達と今後会うことはあるのだろうか。

 今まで、母さんと各地の迷宮を巡って歩いてきたけど、こんな気分になったのは初めてだ。

 

 奴隷身分になると勝手に出歩くことはできないから、もう会うことはないのかもしれない。

 ロビーとはそうならないように、何かできることを考えなければ。

 

 

 連れていかれた奴隷商館は、ビックリするぐらい大きな建物だった。

 奴隷商人というのは儲かるのだろうか。

 こんな大きな建物を間近で見たのは久しぶりで、敷地もかなり広そうに感じた。

 この中に入るの?・・・・・・こんな立派な建物に入るのは初めてかもしれない。

 

・・・・・・

 

 ラメルさんと騎士団員に連れられて、商館の者の案内で建物の中へと入った。

 立派な建物の中を歩いていても、鎖に繋がれているので惨めな気持ちのままだ。

 

 穏やかな顔の商人風の男が出てきて、二人に挨拶をした。

 私達は後ろで、ただ聞いてるだけ。

 彼の名前はカラダンというそうだ。

 そして、この奴隷商館の主だと伝えられた。

 

 手慣れた感じで、私達の値段を二人に告げている。

 探索者にはレベルというものがあるので、買い取りの価格は決まってると宣言された。

 特別容姿に優れてない限り、どこの街の奴隷商館でも基本的には同じ金額だと説明している。

 自分達が人間ではなく、ただの商品であることを実感させられた。

 

 

 ラメルさんは、一瞬顔を顰めたが、一つ舌打ちをして奴隷商人の伝えた金額を承諾した。

 私達二人は、この奴隷商人の所有物になったのだ。

 

 足下がおぼつかないような感覚に囚われながら、奴隷の権利の説明を受け、インテリジェンスカードの手続きをされたが、全く頭に入ってこない。

 

 ラメルさんは、奴隷商人から金貨と銀貨と書類を受け取ると、さっさと退室していった。

 その後を商人っぽい女性が追っていったから、きっと帰りの案内をするのだろう。

 

 残されたのは、私達二人と騎士団員。

 奴隷商人の後ろには護衛らしき戦士っぽい男と商人っぽい若者が控えていた。

 

 盗賊顔の騎士団員は、どうして残っているのだろうか。

 

「ああ、まあ若いうちはイロイロと苦労すっこともあるけど、めげずに頑張れや」

「はあ・・・・・・」

 この男は何を言ってるのだろうか。

 

 奴隷になって何を頑張れと?・・・・・・いや、ロビーのために自分は頑張るつもりだ。

 だけど目の前の男に言われる筋合いはない。

 

 彼は私とロビーの腕に繋がれた鎖を外してくれた。

 外れた鎖を自分の腕に巻きつけながら、私達に向かって話し始めた。

 

「そういえば、名乗ってなかったか・・・・・・

 俺はザビル騎士団にやっかいになってるガリアってもんだ。

 まあ、何か困ったことがあれば、俺の名前で訪ねてこいや。

 金を貸すのは無理だが、できることがあれば助けてやっから」

「ありがとうございます。その時はお願いします」

 ロ、ロビー・・・・・・こんな盗賊男の手を借りることなんて何もないから、頭を下げないで。

 

 男は言いたいことを言うと去っていった。

 奴隷商人の後ろにいた若者が、盗賊男の帰りの案内をするのだろう。

 追いかけるように急いで退室していった。

 

 

「あの人は、貴方達のことを心配されてるようですね」

「そうなのでしょうか」

 あいつとは、馬車で数日一緒だっただけだ。

 

 特に親しく会話もしてないし、私達は腕を縛られ、鎖で繋がれて監視されていたのに。

 

 

「まあ、彼の事はいいでしょう。それよりもこれからのことを相談しましょうか。

 貴方は、本日からタケダ家の所有奴隷となりました。

 タケダというのは、商会の名前でもあり、私の主人の名前でもあります。

 ちなみに私も主人であるユキムラ タケダ様の奴隷です」

「えっ?」

 この奴隷商人の男・・・・・・商館の主だというのに、奴隷身分なの?

 

「先ほど退室していった女性と男性、それに私の後ろにいる男

 ・・・・・・マテウスと言いますが、皆、奴隷です」

「・・・・・・」

 ってことは、ラメルさんとガリアって名前の騎士団員以外、全員奴隷だったのか。

 

 そんなことが、あるのだろうか。

 

 

「まあ、奴隷であることは、ひとまず置きましょうか。

 貴方達には二つの選択肢があります」

「・・・・・・」

 奴隷身分であることは、置いておかれることなの?それに選択肢って?

 

「一つ目は一般的な奴隷・・・・・・販売奴隷として、他の客に売られていくこと。

 もう一つは、タケダ家の奴隷となり、タケダ家のために働くことです。

 選択肢が二つあると言いましたが、タケダ家の奴隷になるためには条件があります。

 タケダ家のために、貢献できることを証明することですね。

 貴方はどちらを選択したいですか?

 後者の場合には何ができるか、まず説明して下さい」

「・・・・・・」

 目の前の男が言ってることは本当なのだろうか?

 

 もし本当なら、私達がタケダ家の奴隷になると言えば、ロビーと離れ離れにならなくて済む。

 私達が貢献できることは何だろうか?

 タケダ家って何をしているの?

 

「あの・・・・・・タケダ家が何を生業としているのか分かりませんが、

 私達は優秀な迷宮探索者です。

 それなら、タケダ家に貢献できることになるでしょうか?」

「優れた迷宮探索者なら、タケダ家に貢献できることになるかもしれません。

 ですが、その『優秀』であるというのは、どうやって証明できるのでしょうか?

 今まで走破した迷宮の階層でしょうか?

 正直なところ、貴方達の探索者のレベルでは『優秀』という言葉からは程遠い気もしますが」

 探索者のレベルというのは分かり易いから、目の前の男の主張ももっともだ。

 

 でも、ここで引き下がる訳にはいかない。

 母さんなら、こんな時になんて言うだろうか。

 

「私達には亡き母から受け継いだ迷宮に対する知識があります。

 それに迷宮に対して観察し、考え抜いて最適な選択肢を選ぶ能力があります。

 知識と経験は積み重ね、精査してこそ生きるものだと母から教わりました」

「知識ですか・・・・・・」

 カラダンという男は、後ろのマテウスという者に視線を向けた。

 

 戦士風の男は、首を横に振っている・・・・・・口先だけではダメということか。

 

 

 それだけでなく、私には階層ボスを探し出す力や、モンスターや盗賊を察知する能力もある。

 だけど、それは今は説明できない。

 言っても簡単には信じてもらえないだろうし、手の内を簡単に晒すものではないと母さんにも注意されていた。

 

 

「貴方の説明では私には判断がつきませんね」

 

 ダメか・・・・・・母さんや私達の考え方というのは、他の者には分かりにくい。

 

 

「ですから。私の主に判断してもらうことにしましょう。

 それと、もう一つ確認しておきたいことがあります。

 タケダ家で、貴方達がやりたいと思っていることがあれば説明して下さい」

「やりたいことですか?

 それは、タケダ家のために貢献できることとは別なのでしょうか?」

 目の前の奴隷商人は微笑を浮かべている。

 

「同じかどうかを決めるのは貴方達です。

 貴方達のやりたいことは何でしょうか?」

「私は迷宮の謎を解き明かしたいです」

「迷宮の謎?・・・・・・それは一体?

 迷宮で戦うのが好きだということでしょうか?」

「迷宮で戦うのが好きということではありません。

 迷宮の在り方と言うのでしょうか・・・・・・迷宮が何故存在するのかを解明したいということです」

 怪訝そうな顔で彼は首を傾げている。

 

 母さんと私以外には、なかなか理解し難いことだ。

 ロビーの興味があることでもないし。

 弟は先程から、ほとんどしゃべっていない。

 質問の矛先が弟に向かうと、説明に綻びが出てしまう。

 

 

「分かりました。いずれにしても、私の理解を超えていることなのでしょう。

 やはり、私の主に会ってもらってから判断していただきます」

「はい。よろしくお願いいたします」

 私が頭を下げると、ロビーも一緒に頭を下げた。

 

 横目で見ると、やれやれという表情をしている。

 あれは、私に付き合ってくれる時の弟の顔だ。

 

・・・・・・

 

 その後、大して日数を空けずに奴隷商人の主であるタケダ様と面談することになった。

 

 そこからは急展開だ。

 

 少し目つきの怖いタケダ様は、私の説明を聞いて、即決でタケダ家入りを許可してくれた。

 迷宮探索の経験を共有するからと言われて、訳も分からず同じパーティーに入れられ、ザビルで戦闘訓練に明け暮れていたら『君は冒険者になった』と言われた。

 

 確かにフィールドウォークも使えるようになり、アイテムボックスの数が50個になっていることも確認できた。

 

 タケダ家に加わって、20日も経過してなかったので非常に混乱した。

 私だけでなく、ロビーも冒険者のジョブを得ていた。

 

 母さんが待ち焦がれていた冒険者のジョブを、この僅かな日数で私達が取得するなんて。

 迷宮には入っているが、勘を取り戻すために低階層でしか戦っていない。

 

 上位のジョブになったが、ザビルで与えられた仕事は特別厳しいものではなかった。

 立派な装備品を貸し出され、同じパーティーには私達よりも迷宮での戦闘経験が豊富なマテウスさんやニケさんも帯同している。

 

 食事は質も量も十分で、与えられた部屋には、ちゃんとしたベッドやテーブルもあった。

 休憩や睡眠も十分取るように注意されている。

 服も貸与され、正直なところ、奴隷身分の前より生活の質が良くなった。

 

 

 今は修練場での訓練を終えて、休憩がてらナナさんの畑にいる。

 

「あら、ローザさんは、そんなことしないでもいいのよ。

 これはあたしが、好きでやってることなのだから」

「体を動かしたいので、手伝わせて下さい」

 横にいるロビーは俯いて、小さく笑っている。

 

 私の言葉を嘘臭く感じているのだろう。

 確かに私は無理しているかもしれない。

 今までの私なら、大して知りもしない彼女の仕事を手伝いたいなどと言わなかっただろう。

 

 でも、私は自分を変えたいと思ったから、今は無理してでも行動したいと思っている。

 あの時に感じた後悔を、またしたくないから。

 

 ザビルの村で、今のように村の人達と話をしていたら、盗賊の手引きをする者達を見つけられたのだろうか。

 今となっては手遅れなのだが、それでもきっと、将来に生きてくると信じたい。

 

 ザビルの館での経験は、新しく物珍しさの連続だ。

 明るい天井に水が出てくる筒、そして何よりも風呂だ。

 風呂なんて貴族が入るものだと母さんも言っていた。

 今の暮らしを母さんと一緒にしていたら、なんて感想を持ったのか聞いてみたかった。

 

 ここのみんなは、私達エマーロ族や髪の毛が緑色であることを大して気にしてないようだ。

 非常に居心地も良くて、幸せに感じることも少なくない。

 

 畑仕事が一段落ついた頃には、他の販売奴隷達も自分達の住む建物へと戻り始めた。

 

 沈もうとしている夕日を見ていると、母さんと過ごした迷宮巡りの日々が少しだけ甦ってきた。

 母さんが亡くなってから、まだそれほど月日が経っていないのに、今は三人で迷宮を巡っていた頃の記憶が遠い子供の頃のように感じてしまうのが、なんとも哀しかった。

 

 厳しくも優しい母さんだった。

 訓練では娘であっても容赦なく木刀で打ちのめして『迷宮の魔物は手加減などしてくれないよ』と叱咤激励してくれた。

 

 迷宮の謎を夜通し語り合っていると、私の考えに賛同して優しい笑顔を向けてくれた母さん。

 その笑顔が何度も浮かんできては、夕日に消えていく。

 母さんはもう、この世にはいない。

 

 

 私はなんのために生きるのか。

 

 

 討伐しても討伐しても再び出現して人間を苦しめる迷宮。

 何故、モンスターと戦い、迷宮を討伐しなければ人間は生きていけないのか。

 

 迷宮の謎を解き明かしたい。




お読みいただき、ありがとうございました。

次回投稿日は2026/8/15(土)の予定です。

次も閑話の投稿になる予定です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

異世界迷宮と斉奏を(作者:或香)(原作:異世界迷宮で奴隷ハーレムを)

突然目の前に現れたのは、読んでいた小説と同じ文面だった。▼冗談でも行けるものなら、記憶を頼りに "彼" のいた世界と近い場所へと向かいたい。▼気がつくと自分がいたのは、小説とは似ているようでどこか違う、聞き覚えのない場所。▼───違っていたのは風景だけでなく、自分自身もだった。▼--- ▼本小説は原作「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」様、「異…


総合評価:3242/評価:8.52/連載:199話/更新日時:2026年08月10日(月) 12:00 小説情報

異世界迷宮でロマンスを【完】(作者:ノイラーテム)(原作:異世界迷宮でハーレムを)

 本作品は『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』と『異世界迷宮でハーレムを』を元にした二次作品です。何か問題が生じた場合は消去いたしますね。▼


総合評価:1054/評価:7.26/完結:101話/更新日時:2026年04月01日(水) 21:21 小説情報

異世界迷宮へ行ったなら(作者:三星織苑)(原作:異世界迷宮でハーレムを)

十数年あこがれ続けた世界への入り口を見つけてしまった。▼死ぬ可能性がある?▼そうだろうな。▼現代文明の恩恵を受けられず不便な生活を強いられる?▼そうだろうとも。▼食文化が発展していなくて好物は二度と食えないだろう?▼そりゃそうだ。▼でも、そこには彼女がいるかもしれない。▼それだけでも行く価値がある!


総合評価:11493/評価:8.94/連載:314話/更新日時:2026年08月10日(月) 20:00 小説情報

勝ち組男の異世界迷宮で奴隷ハーレム(作者:Lilyala)(原作:異世界迷宮で奴隷ハーレムを)

両親の仲は良好。親友と呼べる人間もいる。▼金銭面で困った事は無いし、社会的地位もある。▼そんな男の異世界迷宮奴隷ハーレム暮らし。▼◇注意◇▼この作品は小説家になろうで更新停止中の▼『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』▼書籍化作品の▼『異世界迷宮でハーレムを』▼漫画版の▼『異世界迷宮でハーレムを』▼の三作品をチャンポンしている作品となっています。▼なろう版の『異世界…


総合評価:5380/評価:8.57/完結:126話/更新日時:2025年06月27日(金) 06:00 小説情報

Re:異世界迷宮で奴隷ハーレムを(作者:載せられた人)(原作:異世界迷宮で奴隷ハーレムを)

これは“ミチオ・カガ”が取り戻す物語


総合評価:3225/評価:8.55/連載:51話/更新日時:2024年02月18日(日) 09:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>