今回の話はシーナ視点の閑話です。
閑話010『柳生一族の陰謀(その1)』の直後ぐらいからの話となります。
(登場人物紹介)※必要と感じた際に記載することにしています
・シーナ :貴族身分を外れ、奴隷となったが貴族に返り咲きたいと考えている
・カーラ :シーナの姉。元エストグリュン子爵家令嬢。迷宮組で夜伽メンバー
・グランフェルト:シーナ達の父でエストグリュンの統主。セ二号作戦で毒殺された
・リオン :元エストグリュン家の騎士で、カーラ、シーナの良き理解者
・ルイ :リオンの弟。セ二号作戦の際にグランフェルト毒殺に加担させられた
・グラジオラス:『
・グラシア :カーラと同様、グラジオラスから剣の教えを受けた愛弟子
チクルスさんの指導も及ばず、ユキムラ様への
我々五人はユキムラ様の部屋から追い出され、当主の篭絡という目的は叶わず。
私の見る限り、リオンと姉上の姿はユキムラ様の琴線に触れた気もするが、私達未成年者が三人もいたため自制が働いたように思える。
普段からユキムラ様は、エネドラさんに自重を求められているからかもしれない。
あるいは、チクルスさんお薦めの
作戦をもう一度練り直して、別の機会に挑戦しよう。
それでも、その後の姉上の奮戦で、かろうじてユキムラ様の歓心を得たらしい。
タケダ家における旧エストグリュン家の影響力を増すカギは姉上にあるようだ。
迷宮組の一角に姉上がいるものの『古参の方々の信頼には、まだ自分は遠く及ばない』と姉上は言っていた。
剣技と迷宮探索では、セルマー伯配下で最強を誇ったエストグリュン家だが、タケダ家では新参者で、そのほとんどのメンバーは未成年の集まり。
このようなことで、亡き父上の遺志を継ぐことができるのだろうか。
・・・・・・
それから暫くすると、グリニアを探すユキムラ様に付いて回ることになった。
領主から見捨てられたフリュウ村という所を訪れ、傍に出現した迷宮討伐の件で村長や村の長老との交渉や下準備等に忙殺されることに。
実力を示せば迷宮討伐を目指しても構わない、とユキムラ様から助言を頂いた。
やはり武力増強を望まれる方には、実力を示すのが一番なのだと強く感じる。
姉上も大勢の目の前でユキムラ様に実力を示し、迷宮組参加の権利を得た。
貴族だけでなく大商家であっても、武威を示せば影響力を確保できるのだ。
迷宮の高階層での活躍だけでなく、普段の修練場の訓練や模擬戦等で、徐々に実力を示せるように鍛錬に励もう。
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:
:
そんなことを考え、日々過ごしてきたある日の早朝、異変が発生した。
(侵入者を検知しました。侵入者は2名です・・・侵入者を検知しました。侵入者は2名です・・・)
な、何これ?・・・・・・頭の中に響いてくる。
そして、玄関らしきところに二人分の気配がする。
近くにいるリオンやルイも訝し気な顔をしているから、私だけでは無さそうだ。
「全員、そのまま待機だ」
レドリックさんは叫ぶと同時に玄関の方に向かって走り出した。
後にユキムラ様も続いている。
私達も気になるけど、待機を命じられたので、今日の護衛当番とお二方に任せるしかない。
やがて、今朝の護衛任務に当たっていたマヤさんが走ってきた。
何かあったのだろうか。
「カーラさんに剣を教えたという方が、玄関にいらっしゃっています。
私と一緒に来てもらえますか、カーラさん?」
「承知した」
「わ、私も同行いたします。恐らく知り合いだと思いますので」
一瞬、マヤさんは迷ったようでしたが、小さく頷いてくれました。
訪問者は恐らく、グラジオラス様でしょう。
亡き父上を除けば、姉上に剣を教えたと言える者は一人しかいません。
三人で玄関に向かうと、そこにはグラジオラス様だけでなく、グラシアも立っていた。
グラジオラス様の腰の治療のために、二人で旅に出ていたはずだけど戻られたのか。
姉上が、グラジオラス様へ駆け寄っていく。
「師匠、お久しぶりです!」
「カーラか・・・・・・」
グラジオラス様は険しい顔をしている。きっと父上のことが耳に入っているのだろう。
「其方は、このような所で何をしておる?エストグリュン家はどうする気じゃ?」
「私は、このユキムラ殿の下で、エストグリュン家の再興をするつもりだ!」
「なんじゃと?」
グラジオラス様の顔は、先ほどよりも更に厳しい表情になった。
だけど、姉上の言う通り、エストグリュン家は新しく再興しなければならない。
私も賛同するし、全力で協力したい。
姉上の話では、姉上がユキムラ様の奴隷になる時に、その条件を飲んでいただいたのだとも聞いている。
タケダ家の利があれば、不可能ではないはずだ。
「カーラ、其方、腑抜けたか?」
「そんな事はないぞ。私の剣は師匠と別れてから、更に磨きがかかっているのだ!」
確かに姉上の言う通りだ。
姉上だけでなく、私やリオン、ルイやノエル達も、エストグリュンにいた時より体のキレが良くなり、剣技が向上した気がする。
信じられないことに、この短期間で新しく上位のジョブも得た。
「では、腑抜けてないか確かめてやろう」
「師匠、望むところだ!」
最終的にはユキムラ様に負けたが、一時は姉上はユキムラ様に勝っていた。
恐らく今の姉上であっても、グラジオラス様には全く歯が立たないだろう。
父上や姉上に剣を教えた、あの方は当に別格の存在。
『
そして、旧エストグリュン家の力をユキムラ様に見せる、絶好の機会に思える。
なんだか胸が高揚してきた。
私が頬を熱くしていると、グラシアが姉上に近づいてくる。
「姫様、御家の危機存亡の時に統主の下に駆けつけられず、申し訳ありませんでした」
「もう、済んだことだ。それよりも、エストグリュン家の再興のために力を貸せ」
「はっ、それはもちろんです。グラ爺と共に、粉骨砕身いたします」
そうだ。彼女は姉上と並んで、もっともグラジオラス様の薫陶を受けている者だ。
彼女が助勢してくれれば、それも心強い。
なんとか、グラジオラス様共々、タケダ家に引き入れられないだろうか。
・・・・・・
その後のグラジオラス様とユキムラ様、姉上の戦いは予想外の展開だった。
一度はユキムラ様に負けたグラジオラス様が治療を受け、姉上共々コテンパンに打ちのめした。
圧倒的にダメージを与えたのではなく、余裕を持って勝ったのだ。
当主に対しては失礼な言い方だが『子供扱い』にしていたと言っても過言ではない。
やはり『
そして、スキルを使ったとはいえ、前に姉上に勝った時と同様、ユキムラ様はグラジオラス様に模擬戦で勝利した。
それはそれで凄いことだ・・・・・・というか信じられない。
模擬戦とはいえ、グラジオラス様が負けたのを見るのは生まれて初めてだ。
こんなことが起きるなんて。
二人の再戦の前に、ユキムラ様がグラジオラス様に渡したのは、どうもエリクサーらしい。
横にいたヘルミーネさんが、そう呟いていた。
たかが模擬戦のためにエリクサーを?
しかも、ユキムラ様の対戦相手で他家の者のために渡すのは、普通ではあり得ない気がする。
やはりユキムラ様も只者ではない。
グラジオラス様とは違った意味での強者なのだと思う。
グラシアもモニカさんに模擬戦で敗北を喫していた。
モニカさんは姉上に模擬戦で敗れたとはいえ、グラシアに圧勝した。
モニカさんクラスの強者が片手で数えられないぐらいいるとレドリックさんは言っていた。
やはりタケダ家は層が厚い。
総合的な武力、経済力で考えると、父上の築いた最盛期のエストグリュン家より上かも。
エストグリュンは子爵家であり、タケダ家は平民の商家であるのに。
だけど、そのタケダ家の当主であるユキムラ様に、グラジオラス様の力を示せたのは大きい。
ユキムラ様の胸に今日のことは、大きく刻まれたことだろう。
・・・・・・
エネドラさんの一声で模擬戦は終わりを告げ、朝食後に再び、グラジオラス様とユキムラ様がお話をすることになった。
姉上の剣が錆びついてないことはグラジオラス様に理解していただいたものの、エストグリュン家の今後についてグラジオラス様が納得した訳ではない。
聡いユキムラ様は、グラジオラス様の訪問の意図を正確に理解しており、尊重しておられる。
先ほど見せた剣技の効果もあり、グラジオラス様の存在が大きくなったのだと思う。
ユキムラ様はグラジオラス様の前に立ち、真剣な表情で話し始めた。
傍には姉上もいる。
「元々の来訪目的が果たせたのか確認したくてな」
「カーラの剣はまだまだじゃが、錆びついてはいないようじゃな。
じゃが、カーラ。其方は奴隷となってどうするつもりじゃ?」
「師匠。もちろん、エストグリュン家の再興を果たすつもりだぞ!」
姉上、言葉だけでは再興は叶いません。
「こやつは、そう申しておるが、当主のおぬしはどうなのじゃ?」
「俺は、そもそも貴族を目指す気はないぞ」
「なんじゃと?それで、こやつの主になるつもりなのか?」
ユキムラ様は貴族を目指さないと、前から広言されている。
グラジオラス様の剣に敗れたとしても、その意志を曲げることはないはずだ。
タイミングは今しかない。
「グラジオラス様、ユキムラ様、ここは私達とグラジオラス様でお話しさせて下さい」
「まあ、シーナがそう言うのなら」
ユキムラ様は、配下の積極的な発言や提案を好まれる。
それは、エストグリュン家にはなかった家風だ。
エストグリュン家では、父上や重臣の者達が話をして物事を決めていく。
私のような未成年の若輩者に、発言の機会などは無かった。
タケダ家に加わって間もない私であっても、その点については素晴らしいことだと感じた。
そして、それが今のタケダ家の興隆に繋がっているのだとも思う。
ユキムラ様から少し離れた所に、元エストグリュン家の者達が集まった。
この面々が一堂に会することになるなんて、父上が亡くなり、ハルツ公に捕らえられた時には思いもしなかった。
だから、この機会を絶対に逃す訳にはいかない。
グラジオラス様とグラシアは何としても、タケダ家を支援してもらいたい。
だけど、そのためのハードルはかなり高い。
タケダ家に加わるには、奴隷身分にならなければならないからだ。
グラジオラス様とグラシアがタケダ家に加わるには、今のエストグリュン家を捨てユキムラ様の配下になることを意味する。
誇り高きグラジオラス様が、それを簡単に受け入れてくれるとは思えない。
二人にはタケダ家を外から支援してもらうのが、望みうる限りの最善策だろう。
それすらも、グラジオラス様に納得してもらうのは困難だと思うが。
「師匠、ユキムラ殿は立派な御仁だぞ」
「カーラ、其方、色惚けたか?
あのような素人剣法しか使えぬ者が、エストグリュン家を率いるなど、片腹痛いわ。
そのようなことでは、其方の亡き父も墓場で嘆いておるぞ」
姉上、いくらユキムラ様に惚れたとはいえ、その言い様では説得は無理です。
私から説明するしかないか。
「グラジオラス様、ユキムラ様に底知れぬ力があります。
父上が統主であった頃のエストグリュン家よりも、
将来のタケダ家は遥か高みの興隆を極めると思われます」
「何を根拠にそのような事を申しておる?」
「タケダ家は、この拠点だけでなく、全部で3つの拠点を持っております」
「それは、武家ではなく、商家としての才覚であろうが?」
確かにその通りだ。
だけど、領地経営するには武力だけではダメだと、グラジオラス様なら理解されているはず。
「ユキムラ様は既に迷宮を討伐しております。
ユキムラ様は、この帝国に来てから初めて迷宮に入ったそうです。
帝国に来てから、まだ半年も経ってないとも伺っております」
「戯けたことを・・・・・・いくら、あのスキルを使ったとしても、そのようなことは不可能じゃ」
あの動きを高速にするスキルだけでは説明はつかない。
「いえ、ユキムラ様は一人の力で、それを成し遂げているのではございません。
部下を育成する力に長けているのです。
その証拠に、このリオンはタケダ家に来て、冒険者のジョブを取得しております。
他にも、多数の上位ジョブ取得者がおります」
「なんじゃと、リオンは騎士であり、探索者ではなかったであろうが?」
リオンが、私の肩を強く掴んだ。
この内容はレドリックさんから、特に他家の者には秘密にせよと言われている。
なので、リオンの言いたいことは分かる。
だけど、グラジオラス様を動かすには並大抵の話では無理だ。
ここがエストグリュンの岐路になる。
私はリオンの顔を見据えた。
リオンはまだ、迷ってるようだが・・・・・・やがて、私の意図を汲んでくれたようで頷いた。
「はい。その通りです、グラジオラス様。
私は、ここに来て短期間で冒険者になりました。
シーナ様やノエル様も剣匠のジョブを取得しております」
「にわかには信じられんの・・・・・・だが、その目は嘘では無さそうじゃな」
「はい。私達も初めは凄く驚きましたが、全て事実にございます」
リオン、ゴメンなさいね。無理やり言わせてしまって。
「加えて、タケダ家は武力の強化に力を注いでおります。
我々の装備品を見ても分かる通り、質の高いものをふんだんに与え、
このような広い修練場を設け、各メンバーの育成にも配慮されております。
ですから、グラジオラス様におきましては、時間の許す限り、
エストグリュン家から出向いていただき、我々に稽古をつけていただきたく存じます」
「・・・・・・」
グラジオラス様は鋭い目で私を見つめている。
私の話をどのような言葉で、断ろうかと考えているのだろうか。
今のエストグリュン家の当主が誰だか分からないが、その者から許可を得る算段をしてくれているのだろうか。
グラジオラス様は小さなため息を吐き、予想外のことをおっしゃった。
「それなら、わしがタケダ家に加入すればよいのじゃろう?」
「いえ、タケダ家に加入する条件は、ユキムラ様の奴隷となることです。
グラジオラス様に加入いただくことは、家名を捨てていただくことになりますので・・・・・・」
この条件を聞けば、さすがにタケダ家へ加わる目はないだろう。
申し出はありがたいけど、グラジオラス様を陥れるようなことは言えない。
「構わぬ。名ばかりのエストグリュン家なぞ、なんの価値も無いわ。
タケダ家が武断の家を目指すのであれば、
それに力を貸して、エストグリュン家を再興すればいいのじゃろう?
おぬしの目論見はそうではないのか?」
「ご賢察の通りでございます」
私のような小娘の小賢しい策略など、お見通しか。
そして、今のエストグリュン家は、剣聖に見限られる程の凋落ぶりということ?
強くて優しかった父上、家族を大切にし、領民からの信頼もあった・・・・・・その父上を頂点にまとまっていたエストグリュン家が、そのような状態に・・・・・・。
怒りで頬が熱くなる。
ダメだ。冷静にならなければ。
「おぬしはどうする?おぬしはもう成人だ。自分の道は自分で決めよ」
「あたし?もちろん、グラ爺に付いていくよ。
まだまだ教わらなければならないことが多いからね」
グラシアまで加わってくれるのは心強い。
ユキムラ様は部下の育成に力を入れているから、グラジオラス様が加入すれば、きっと我々の発言権も強くなるに違いない。
それを手がかりにして、なんとかエストグリュン家の再興を考えていたのは事実だ。
タケダ家の主人と奴隷の関係は、他家と異なるとリオンが言っていた。
奴隷でも力をつければ、ユキムラ様への発言権が通常の貴族家などよりも大きくなるとヘルミーネさんから聞いたこともある。
そして、ユキムラ様は配下の者、特に女子供には甘い・・・・・・そこにつけ入りたいと思っていた。
「それよりも、シーナよ。
あの小僧は貴族になる気などはないと言っておったであろうが。
おぬしはタケダ家とやらの当主を裏切るつもりではなかろうの?
そなたの父は最期まで、伯爵に忠義を立てておったと聞いたぞ。
おぬしは、その父とは別の道を歩むつもりか?」
「それは・・・・・・」
やはりグラジオラスは、私の浅はかな考えを察しておられる。
「まあよい。おぬしの好きにするがよかろう。
だが、一言だけ言っておく。
重要なのは『エストグリュン』などという器ではないぞ。
その者達の魂の有り様じゃ。
貴族じゃろうが、剣士じゃろうか、商人じゃろうが、それは変わらぬことよ。
そのことを
「はっ、肝に銘じておきます」
今は石に齧りついてでも、力をつけなければならない時だ。
剣技もそうだし、タケダ家内の影響力もそうだ。
そして、今は亡き父上の無念を晴らすためにも。
ユキムラ様もおっしゃっていたが、父上を謀殺した黒幕は必ず別にいるはず。
その者を私は絶対に許さない。
父上がルイに伝えた最期の言葉を守るためにも。
そして、必ずエストグリュン家の再興を果たしてみせる。
「では、今のお話をユキムラ様へお伝えしてもよろしいでしょうか?」
「構わぬ。
じゃが、其方らも、これからの訓練は今までの腑抜けたものでなく、厳しくなると心得よ」
「師匠、望むところだ!」
あ、姉上・・・・・・頑張るのは、そこだけではございませぬ。
ユキムラ様をしっかりと繋ぎとめて下さいませ。
七人でユキムラ様の所へ近づいていく。
一つ大きく息を吸って、ユキムラ様へ切り出した。
「グラジオラス様とグラシアは、タケダ家に加わることになりました。
もちろん、奴隷身分になることは二人とも了承いただいております」
「はあ?」
やはり、驚かれるのも無理はない。
先ほどまで、私だってこのような展開になるとは想像すらできなかった。
「おぬしも、その部下達も剣の腕はまだまだ未熟じゃ。
ワシが、この家に加わって鍛えてやろう」
「今のエストグリュン家の方はどうするのだ?
奴隷になると家名が外れることになるのでは?」
「公爵の傀儡となった家は、エストグリュン家とは言えぬ。
これでは、グランフェルトの小僧も浮かばれぬわ」
ユキムラ様はグラジオラス様の言葉を吟味されているようだ。
もう一押ししないと。
「ユキムラ様としても、この二人に加わってもらう方がタケダ家としての利があるのでは?」
「まあ、確かにそうではあるが」
思案されているようだけど、悪い感触ではない。
「そういうことなら、こちらこそ、よろしくお願いします」
「ほう、年長者を敬う心はあるようじゃな」
ユキムラ様が頭を下げた!・・・・・・やはりグラジオラス様の価値を的確に理解されている。
グラジオラス様がタケダ家に加入すると決まり、リオンもホッとしているようだ。
彼女は我々の中では一番の年長者ということもあり、かなりの負担をかけてきた。
グラジオラス様の加入で、剣技だけでなく他の面でも我々に助言をいただけるかもしれない。
リオンにかかっていた重圧を少しでも減らしていきたい。
そして、その一翼を私も担うようにならなければ。
姉上には『武』の面を支えていただき、『政治』、『外交』、『謀略』は私が支えていく。
ユキムラ様はにこやかな表情だが、グラジオラス様が鋭い目で私を見つめている。
グラジオラス様からすれば、今の私はユキムラ様に対する背信者なのかもしれない。
今は望む自分の姿でなくとも、いつかタケダ家の利とエストグリュン家の再興を結びつけ、胸を張ってユキムラ様とグラジオラス様の前に立てるようになりたい。
・・・・・・
(フリュウ村との取引を終えて)
フリュウ村との取引は、驚くほど順調に終わった。
こちらの希望する最上の条件ではなかったが、上から二番目に落ち着いた。
これなら十分満足できるものだと思う。
村長が迷宮討伐を強く要望しており、こちらが戦力を提供できるから、タケダ家主導で交渉が進められた。
交渉が無事に成功したので、私の横にいるリオンは嬉しそうだ。
これから迷宮探索を行い、いずれは我々の力で迷宮の討伐を成し遂げる。
そのための準備が一つ整ったことになった。
だけど、達成感が得られたとは、とても言えない状況だ。
取引の契約書の骨格はエネドラさんとカラダンさんに助けてもらって、ようやく作成したもの。
その後も、想定問答などをクーラタルの皆さんに手伝ってもらい交渉へ臨んだ。
説明者の私に対して、フリュウ村の村長は初めは懐疑的な目を向けていた。
だが、グラジオラス様が傍にいていただいたおかげで、信用してもらえたと思っている。
私とリオンだけでは、交渉は難航していたはずだ。
多くの人の助けがあって取引が成功したのであり、自分の実力で成し得たのではない。
自分の力の無さ、信用の無さに忸怩たる思いでいっぱいだ。
そして、これからの迷宮探索や討伐には、グラジオラス様の力を借りることはできない。
迷宮討伐の時だけ、姉上の力を借りれるかもしれないという程度だ。
その前に、迷宮討伐の実力があることを確認すると、ユキムラ様はおっしゃていた。
本日、取引は成立したが、木材やタルエムをザビルへ運搬する差配もある。
タケダ家への利益を書面の上でなく、見える形で実現していかなければならない。
全てにおいて、道程はまだまだ遠い。
グラジオラス様は私の横に立ち、珍しく穏やかな表情で話し掛けてきた。
「焦らず、一歩一歩進むことじゃな」
「グラジオラス様、本日は未熟な私のため、ご足労いただき、ありがとうございます」
今日の一番の功労者へ、深々と頭を下げた。
「そなたは、父親とも姉とも違う道を歩むのであろう。
タケダ家では年齢などに関係なく、活躍の場が広がるようじゃの。
己の信じる道を歩むのは構わぬが、道義を忘れ、我欲に走れば身の破滅じゃ」
「そのようなことにはなりませぬ。
亡き父上に恥ずかしくない道を歩んでみせます」
エストグリュン家の再興を果たし、迷宮討伐と領民からの期待に応える。
目標は遠くとも、ここから着実に成果をあげてみせる。
未成年だからといって、子供扱いされるのも、ただ運命に翻弄されるのも真っ平だ。
私はもう、ただの幼き子供ではないのだから。
お読みいただき、ありがとうございました。
貴族の子息であっても、子爵家の子供であるシーナはラファ(元男爵家令嬢)、ジーク(アイリス士爵家嫡男)とも異なるように書き分けてみました。
その分、シーナの外しっぷりが際立っている気もしますが。
こんな子供を、そこまで駆り立てさせる世界観を描きたかったのでした。
それぞれの者にユキムラがどのように応じていくのか・・・・・・一部の者しか、まだプロットできてませんが、戦乱のパートに入って具体化していこうと思っております。
次話からメインストーリーに戻ります。
次回投稿日は2026/8/22(土)の予定です。