・エステル :原作も登場する帝国解放会会長。ユキムラの入会を許可した
・ヘンドリクス:エステルの家臣で百獣王。ユキムラの帝国解放会試験に参加した
・グラジオラス:タケダ家の剣術指南役に就任。剣聖ジョブを所有。通称『グラ爺』
・ルイ :貴族殺しをさせられ
・カラダン :ザビル拠点の責任者。ペルマスクとの鏡や瑪瑙の取引も担当
・ピコ :カラダンの補佐役。冒険者と防具商人のジョブを所有
エステル達を迷宮から救出した翌日も、午前中の訓練に精を出す。
昨日のヘンドリクスの指摘が堪えたというのもある。
グラ爺だけでなく、彼から見ても俺の剣技は三流だと自覚させられたからな。
昔なら『結果が全てだから、言いたい者には言わせておけばいい』で流していただろう。
だが、複数ジョブもチートスキルも使えない状況での『結果』を見てしまうと、反省と努力をせずにはいられない。
基礎練の後は、グラ爺と軽く模擬戦をして、けちょんけちょんに指摘されまくる。
剣の振り方、タイミング、目線、重心の取り方・・・・・・ありとあらゆる箇所にダメ出しされる。
それでも、言われたことを早速修正して練習し直すと、ほんの少しであっても向上していることが実感できた。
この小さな積み重ねを嬉しく感じてしまう。
グラ爺は相手を見て、やる気を起こさせるのが上手いんだよな。
俺が単純ってこともあるのだろうけど。
「ほれっ、また手首の返しが甘くなっておるぞ。しっかり集中せんか!」
「うぃっす・・・・・・」
指摘された点をもう一度吟味して、木刀を握り締め、グラ爺に立ち向かう。
俺とグラ爺の技術や経験の差からすれば、本来なら全く歯が立たずに手も足も出ないはず。
だけど、模擬戦の時のグラ爺は『あとほんの少し』というギリギリの動きをしてくる。
あとほんの少しで、剣が届くかもしれない。
あとほんの少しで、剣が避けられるかもしれない。
その『あとほんの少し』が、こちらの頑張りを促している。
絶望的な差だったら、直ぐに諦めてしまうかもしれない。
簡単に諦めさせないように、上手く転がされているということだ。
それでも一度としてグラ爺に木刀を当てることはできずに、休憩に入ることになった。
「おぬしの特別なスキルが、いつも使えるとは限らぬ。
当主が死んだら、配下は路頭に迷うからの。
その責任を自覚して日々過ごせば、いつか花開くこともあろう」
「はい・・・・・・」
グラ爺は、昨日のエステル達との共闘を知らないはずなのだけどなぁ。
なんで、適切なタイミングで的確なことを言ってくるのだろうか。
剣の達人は人の心を読む達人でもあるのだろうか。
あるいは、亡くなったカーラの父・・・・・・グラ爺の愛弟子に思いを馳せているのかもしれない。
特別なスキルが使えない時か・・・・・・それはどんな時なのだろうか。
昨日は自ら封印して超速スキルを使わなかったけど、本当に危ないと思ったら使う気でいた。
スキルを使う間もなく、奇襲を受ける時はあるのだろうか。
昨日襲撃を受けたエステル達のように。
あの時のエステル達の状況なら、鑑定や索敵のスキルで俺は看破できていただろう。
看破できない状況というのは、起こり得るのだろうか。
迷宮のような検知できる場所でなく、迷宮外で相手が隠れていたら奇襲を受けることはあるか。
いや、もっと最悪のケースを考えるべきだ。
奇襲を受けたと分からないような攻撃の方が危険なはず。
俺がサボーと戦った時に、本気で相手を確実に殺す気だったら、決闘開始前からLv99デスを連発する手もあった。
外聞を気にして使わなかったが、手段を選ばなければ可能だったよな。
昨日の襲撃者達も、襲撃当初は当にそれに近い手段を講じた訳だ。
もっとも効率的にエステルを殺そうと、卑怯だのなんだのは関係なく、自分の命も顧みず実力行使で探索者のエーギルを殺した。
俺に対して、それをやるとしたら・・・・・・それは賞金稼ぎのジョブの『生死不問』のスキルか。
レベルの高い賞金稼ぎに、見えない所から、ひたすら『生死不問』のスキルを使われたら危ないかもしれない。
『生死不問』のスキルを人間に試したことはないけど、恐らくスキルを使われたことは相手に悟られないはずだ。
レベル差がないと、なかなか成功しないが、繰り返しやればいつか成功するかもしれない。
『身代わり』のスキルを付与したダマスカス鋼の腕輪を装備しているけど、腕輪が壊れたことに気づかなかったら危険だな。
『身代わり』のスキルが発動せずに、即死することはあるのだろうか。
賞金稼ぎのジョブはルイが持っているよな。
だから、彼に頼めば実験可能だけど、こればっかりは試してみる勇気はない。
心配し過ぎだろうか。
だが用心に越したことはない。
やはり、俺だけでなく、タケダ家の者達もレベル上げをしておくべきだろうな。
まだまだ、Lv70にも達していない者は多いから。
だけど、タケダ家全員をLv90台にするのは、別の危険を抱え込むことになるかも。
あとは、受ける方ではなく、使う方でも『生死不問』のスキルを考えてみるか。
賞金稼ぎのレベルを90以上にすれば、60階層ぐらいならモンスター相手でも役立つかも。
「ほれっ、いつまで休んどるんじゃ。さっさと体を動かさんか!」
「はーい」
賞金稼ぎの件は、また別の機会に試してみるか。
わざわざ迷宮探索を休みにして確保した、午前中の訓練時間を無駄にはできない。
グラ爺に指摘された数々のダメ出しを修正すべく、集中して木刀を振り始めた。
・・・・・・
今日は事務処理デーなのだが、ボーデの琥珀、ターレの瑪瑙、ペルマスクの鏡や石鹸の取引はカラダン達に任せている。
午前中はザビル組に任せ、午後のハルツ公との取引から顔を出すことにした。
さすがに最高位の貴族の相手を部下へ丸投げにはできない。
今回は鏡と石鹸だけでなく、販売可能と判断した化粧水、保湿クリーム、シャンプーも持参。
当然、俺とカラダンだけでなくエネドラにも同行してもらう。
カシア様への説明があるから、むしろ彼女にいてもらわなければ困ってしまう。
公爵の執務室に案内されると、早速、鏡と石鹸の納品作業。
背負子に入れた鏡を取り出して、テーブルに並べる。
カラダンとピコも石鹸の木箱をテーブルへ出し始めた。
カシア様が一つずつ手に取り、確認しながら検品が進んでいく。
鏡と石鹸が終われば、次は新商品の売込みだ。
今日はいつもより時間がかかるだろう・・・・・・と呑気にテーブルを眺めていたら、ゴスラー騎士団長に手招きされた。
これ幸いとばかり、納品作業をカラダンに任せて、テーブルから離れることに。
ん?ゴスラー騎士団長は執務室と隣接する会議室のドアを開け、そちらに来てほしいようだ。
開けたドアを通って、先に会議室の方に入っていくハルツ公が目に映った。
カシア様は納品作業を続けているが、聞かせたくない話なのだろうか。
導かれるままに会議室へ入ると、ゴスラー騎士団長も入ってきてドアを閉めた。
三人で内緒話か?
座るように勧められて席に着くと、ハルツ公がおもむろに切り出してきた。
「本日の午前中にセバスチャンが城へやってきた。
タケダ殿は用件は存じておるじゃろうが、エステル達の件じゃ」
「・・・・・・」
どう答えたものか。
セバスチャンから、エステル襲撃の件で特別会員に報告をするとは事前に聞かされている。
それが早速なされたのだろうな。
とはいえ、セバスチャンがどこまで彼等に説明して、俺の方からどこまでの話をしても問題ないのかの取り決めはしていない。
「これが受け取った報告書じゃ。気になるのなら目を通されよ」
「では・・・・・・」
こんな時、『異世界言語(全言語)』のスキルは助かる。
ブラヒム語で記載されていても、ちゃんと理解できるから。
渡された報告書を見る限りは、昨日エステルがセバスチャンに報告した内容そのままに近い。
最後に『特別会員の者も注意されたし』と注意喚起が追記されている程度だ。
俺が披露した自爆玉攻撃の考察や推測などは当然、記載されてはいない。
「タケダ殿は、エステル達が襲撃された際に、その場に居合わせたとか。
その時の話を聞きたいのじゃが」
「話すとおっしゃられても、ここに記載されている通りですね。
どのようなことを知りたいのでしょうか?」
報告書に記載されていないことを、ペラペラしゃべるのはどうなのだろうか。
帝国解放会入会の際、俺の推薦人を務めてくれた者であったとしても。
ゴスラー騎士団長は神経質そうな顔でこちらを見据え、要望を出してきた。
「襲撃者の特徴を教えてもらえると助かります。
会長だけでなく副会長、総書記、特別会員が標的にされる可能性がないとは言い切れません。
迷宮だけでなく、迷宮の外でも注意が必要でしょう」
「なるほど。ただ、私が遭遇した時には既に襲撃者は最後の一名でした。
その最後の一名というのは、あえて言えば特別な特徴等は無かったように感じました。
ただ、自爆攻撃を行う際には、その者は全く躊躇する様子はなかったと思います。
そして、他の五名も自爆攻撃を次々に仕掛けてきたらしいです。
エステル会長から伺ったのは、襲撃前に会話した際には大して目を引く相手ではなかったと。
目立たず近づき、迷わずに自爆攻撃をしてくるという意味では恐ろしい相手だと思います」
「そうか。タケダ殿をして『恐ろしい』と言わしめるのであれば、要注意じゃの」
ハルツ公の言葉にゴスラー騎士団長も頷いている。
「あとは、報告書にもあった通り、一人に対して複数回の自爆攻撃を仕掛けています。
身代わりのミサンガは予備を持っていた方が安全かもしれません」
「なるほど。確かにそうじゃな」
身代わりのミサンガの予備は帝国解放会のロッジでも売っていたな。
今頃、在庫が無くなるぐらい購入が殺到していたりして。
特別会員ぐらいしか襲撃の話は共有してないので、それはないか。
「そういえば、タケダ殿はクーラタルの63階層を攻略しておったのじゃの。
威霊仙の予備があるようなら、当方でも買い取るがどうじゃな?」
「いえ、あいにく威霊仙はドロップしませんでしたので予備はございません」
エステルのバーティーメンバーに供与したことが、どこまで伝わっているのか。
報告書には俺のエリクサーで回復したとの記載は特にない。
本当はかなりの量をストックしているが、それは秘密にする予定だ。
これからもコソコソと威霊仙を集めて、こっそりと使っていく。
どうしてもという時は他家にも渡すけど、あまり大っぴらにはやらないつもりだ。
「そうか、残念じゃの。まあ、なかなかドロップしないものじゃから仕方あるまい。
相談したかったのは、それぐらいじゃ。
そろそろカシア達の方も終わってるおるじゃろうから戻るかの」
「はい」
エステル達の件と威霊仙の件と本題はどちらだったのだろうか。
案外、納品や新商品の売込を回避するため、身を潜めるのが目的かもしれないが。
三人で執務室に戻ると、既に取引は終わったように見える。
テーブルの上には何もなく、カシア様とエネドラがにこやかに談笑していた。
前にセ二号作戦の後始末で訪れた時には、カシア様は体調を崩されていると伺っていたので復調したのかな。
カシア様は我々の姿を見ると、執務机に移動するハルツ公の方へと向かっていった。
代金を伝えるのかもしれない。
こちらも、さり気なくエネドラとカラダンの方へと近づく。
「取引は終わったのか?」
「はい、旦那様。後で御報告いたします。
今日は全て買い取っていただきましたが、次回以降は予定よりは少なくなるかもしれません」
そうなのか。
ひょっとしたら、セ二号作戦で受けた痛手から回復してないのかもしれない。
ゴスラー騎士団長が小袋を持って、代金を告げてきた。
エネドラに視線を向けると、問題ないようで無言で頷いている。
感謝の言葉を述べ、代金の入った小袋を受領。
「では、今回も良い取引をさせていただきました。
次回もよろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いします」
カシア様はにこやかにされているが、他の男性陣二人は微妙な表情。
そして、カシア様の笑顔は俺の方には全く向いてないのだが。
前は俺に対してもにこやかな表情で話しかけてくれていたけど、セ二号作戦以降、避けられているように思うのは気のせいだろうか。
まあ、エネドラやカラダンとの関係が良ければ、ほとぼりが醒めるまで大人しくしておくか。
ほとぼりが本当に醒めるのかは分からないが。
お三方に礼を言い、頭を下げて執務室を後にした。
ボーデの城を出て、四人でいったんクーラタルの拠点へ移動。
・・・・・・
クーラタルの食堂へ入り、取引結果の共有をしてもらった。
鏡と石鹸については、いつもの量をいつもの金額で取引したとのこと。
新商品については、持ち込んだものをこちらの言い値で買い取ってくれたが、次回以降はあまり多くは買い取れないかもと言われたらしい。
「遠回しにおっしゃっていたのは、
戦闘で騎士団に被害が出たため予算が回ってこないのだそうです」
「なるほど。やはりセ二号作戦の影響は無視できないのだな。
だが、ハルツ公と取引しているという商品という実績は大きいと思う。
エネドラ、帝都で委託販売する商品に加えてみるのはどうだろう。
カラダンにマリアさん達の対応を任せても大丈夫か?」
「はい、お任せを。
エネドラ様、後ほど今の量産体制と販売量のすり合わせをさせて下さい」
「分かりました。夜の会議後に相談しましょう。
それまでに量産する数をどこまで増やせるのか確認しておきます」
これで、新商品の方も販売が軌道に乗れば、売り上げも徐々に上がっていくだろう。
「では、取引の件はこれで終わりにしよう。
この後は、俺はザビルに移動する予定だ。
ローザを借りる件は大丈夫か?」
「はい。マテウスにも話を通してありますので問題ありません」
半日弱程度の時間が確保できたので有効に利用したい。
「じゃあ、エネドラ、カラダン、ピコ、今日も取引の対応、ありがとう。
おかげでとっても助かっている。これからも、よろしくな」
「はい、お任せ下さい。旦那様」
エネドラが応じると、三人とも頭を下げた。
ちょっと、こういうのはいつまで経っても、慣れないというか照れるな。
「準備したら、ザビルに向かうので、カラダン達は先に戻っていてくれ」
「承知しました」
この後の準備もあるので、自室へと戻った。
・・・・・・
準備を整えて、ザビル拠点の玄関へ移動。
既にローザが待ち受けていた。
リュックを背負い、戦える装備品を身に着けている。
こちらも同様だ。
まあ、戦闘はほとんど発生しないと思うが、ゼロではないかもしれないので。
「じゃあ、今日はよろしく頼むな」
「はい。とっても楽しみです」
ローザと二人きりでパーティーを組むのは初めてだろうか・・・・・・前にあったかなぁ?
まずは、二人でタリカウまでワープで移動。
「ここは昔、エルフ族の領地だった街でタリカウと呼ばれている。
もう、捨てられた街で領主はいないのだがな。
今日はこの近辺を動き回って迷宮を探し出したいと思っている。
なので、ローザに協力してもらいたいんだ」
「はい。私でできることであれば」
ローザでなければ、多分、タケダ家の誰にもできないことだと思う。
フリュウ村の迷宮を探し出したことで、彼女の迷宮探知能力に問題ないのは実証済だ。
「ローザなら分かると思うが、そこに迷宮がある」
「はい。確かにありますね」
前に冒険者に案内してもらった迷宮を指さすと彼女も頷いた。
「ここからアチコチ移動してみて、
そこにある迷宮と違う迷宮が出現してないか探して回るんだ」
「なるほど、この前の迷宮探しと違って、今回は大変そうですね。
実際にあるかないかも分からないので」
さすがに彼女は賢いな。フリュウ村の迷宮との差を瞬時で理解している。
でも、今回は工夫するから、彼女の思っているほどは大変じゃないはず。
まずは、移動ポイントを探すか。
この近辺は冒険者の男に直接案内してもらったので、高台移動はしていないのだよな。
リュックから双眼鏡を取り出して、まずはあそこに見えている丘に移動するか。
「それはなんですか?」
「ん?これは、遠くを見る道具だな。
ここの部分を覗くと、小さいけど遠くの風景が見えるんだ」
こちらの世界には双眼鏡は無さそうだから珍しいのだろう。
双眼鏡を使って、丘の所にある木の幹を確認。
初めの移動ポイントはあれにしよう。
「あ、あの・・・・・・私も見せてもらっても構いませんか?」
「うーん、そうだな。大丈夫だけど、落とさないように注意してくれよ。
これは一つしか持ってないので、それなりに大切なものなんだ」
「はい。丁寧に扱うようにします」
ローザに渡して、両手で持ってもらい、俺も手を添えながら丘の上を確認させてみた。
彼女は双眼鏡で覗いたり、直接目で丘の方を見たりしている。
やがて、俺の方に向き直って、満面の笑みで話し始めた。
「こ、これは不思議な物ですね・・・・・・本当に遠い景色が見えます。
それに何故かハッキリと見えますね。
どうして、こんなことができるのでしょうか?」
「俺も仕組みはよく分からないんだ。ただの道具として使っているだけだから」
レンズがどうとか言っても、通じないだろうしな。
仕組みも詳しく知らないから、嚙み砕いて誰にでも分かるように説明する自信がない。
「これで迷宮の入口を探し出すのですか?」
「いや、それはさすがに無理だな。
これを使って、移動魔法で移動する場所を探すんだ」
俺の言葉に彼女にはピンときてないようだ。
説明するより実演した方が早い。
「じゃあ、移動するからついてきてくれ」
「はい」
ワープで手近な木の幹にゲートを開いた。
繋げた先は、双眼鏡で確認した丘にあった木の幹。
先にゲートをくぐり、彼女も後に続いた。
「どうだ?ここは先ほど、その道具で覗いた場所だ。
その道具を使えば、遠くの場所の移動先を指定できるという訳だ」
「なるほど。見えている場所でしたら、遠くでも移動先に指定できるからですね」
やはり彼女は頭の回転が速い。
「この位置だと、感じられる迷宮はさきほどのタリカウの街の迷宮だよな?」
「はい。近くの迷宮は先程の所のものです」
彼女はタリカウのある街を指差している。
本当に迷宮の位置が分かるんだよなぁ・・・・・・なんか羅針盤みたいだ。
「この道具で移動場所をどんどん探して、
移動していって違う方向から迷宮の気配がしたら教えてほしい」
「なるほど。そのために遠くの場所が見える道具を使うのですね。
分かりました・・・・・・それで、あの・・・・・・」
ん?・・・・・・どうした?
「その道具を使って確認した場所に、私もフィールドウォークを使ってみたいのですけど」
「そうか・・・・・・まあ、別に構わないけど・・・・・・」
ワープでも移動できるのだから、フィールドウォークでも可能だろう。
別に俺限定で使える移動魔法ではないから、彼女がやったってできるはずだよな。
:
:
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実際にやらせてみたら、彼女のフィールドウォークでも移動できた。
当たり前と言えば当たり前だが。
「おもしろいですね。こんなやり方で迷宮を見つけようなんて」
「そうだな。まあ、あまり迷宮を探すなんてことはしないのだろうけど。
誰かが偶然見つけた迷宮を騎士団に報告するのだよな?」
「そうですね。普通はそうかもしれません。
私の場合は他の人より迷宮の場所を見つけやすいですが、
それでも、やみくもに歩いて迷宮を探し出すなんてことはしませんでしたし」
迷宮に並々ならぬ拘りがありそうな彼女であっても、積極的に迷宮探しはしないのか。
それにしてもローザって、騎士団に入って迷宮探しの専門家になっていたら、騎士団で偉くなれたりするのだろうか。
我が家から手放すつもりはないけど。
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何度か移動しているうちに、未知の迷宮の気配を探りあてた。
「別の迷宮の気配がします。
タリカウの迷宮の気配はもうしなくなりましたから、別の迷宮のはずです」
「そうか、そういえば今までで二つの異なる迷宮の気配を感じたことってあるのか?」
「それはなかったと思います。
比較的近くにある迷宮同士でも、結構離れた距離にあるようでしたから」
ふーん、そんなものなのか。
そんなに近くに迷宮がポコポコ出現したら、領地を治める方もたまったものじゃないよな。
彼女が検知した迷宮の気配を中心に移動しまくり、なんとか迷宮を発見。
その後も、索敵で未クリアの部分を集中的に移動して、更に迷宮を一つ見つけた。
「こんなに迷宮って簡単に見つかってしまうのですね」
「ん?・・・・・・それはどうだろうな。俺はローザのおかげだと思うけど」
「ご主人様は、この見つけた迷宮をどうされるのですか?
討伐することを考えてるのでしょうか?」
迷宮討伐か・・・・・・簡単には判断できないな。
「現時点では、分からないな。
この迷宮がいつ出現したものか分からないので、
どのぐらいの階層まで伸びてるか不明で、討伐の難易度も判断できない。
エルフ領の迷宮情報はシーナ達が調べていたので、それと突き合わせたいな」
「ああ、あの立派な資料室で調べましたね」
「そうか。ローザも一緒に調べてもらったのだったな」
「確か、地図もいくつか転記したはずです。
他にも『ロッジ』という所で転記した地図もあったので、そちらも調べてみます」
「そうか、そちらもあったな。『ロッジ』の資料室の地図は結構大雑把な地図だったと思うが」
なら、まずはそちらをやってもらうか。迷宮討伐のことを考えるのは、その後だな。
「それって、ローザにお願いしても構わないか?
俺がさっき簡単に作った地図もあるから、それと合わせて」
「はい。大丈夫です。それで・・・・・・あの・・・・・・」
ん?・・・・・・なんだろう。今度はローザも迷宮討伐をしたいとか?
「今回のような迷宮出現有無の調査を定期的にやるのはダメでしょうか?」
「定期的に?それは何故?」
「迷宮は突然、出現するのですけど、
それに何か規則性や特徴がないものか調べてみたいのです」
迷宮出現に法則なんてあるのかなぁ・・・・・・それに調べて何の役に立つのか。
「ちなみに、その調査って君の亡くなったお母さんがやっていたことなのか?」
「いえ、母は冒険者でなく探索者でしたし、そういった迷宮の調査はしてなかったです。
迷宮が何故、出現するのかには興味を持っていましたけど」
ふーん、娘の方がマクロな視点の持ち主のなのかな。
「まあ、やってみたいのなら構わないぞ」
「えっ?本当によろしいのですか?」
「よろしいのですかって・・・・・・やってみたいのだろう?」
「そうなのですけど、調べても規則性や特徴が見つけられないかもしれませんし、
見つけられても、それに価値があるかどうかも自信がなかったので・・・・・・」
誰も知らない情報や知識を得ようとすることは間違ってないはず。
「まあ、規則性や特徴が見つかった時に価値が分からなかったとしても、
後から重要な情報だと分かることだってあるだろう?
調べていくうちに別のことが分かることもあるかもしれない。
やりたいのだったら、やってみたらどうだ?
今回、移動場所をいくつも確保したから、この道具も次回からは不要だろうし、
俺が付き添わなくてもできるよな?」
「はい。大丈夫です。マテウスさんに許可をもらって時間を作るようにしてみます」
「それは構わないが、もしやるとしても単独行動は駄目だからな。
誰か最低もう一人、できれば二人ぐらい戦闘ができそうな者と一緒に行動してくれ」
「はい。分かりました。ありがとうございます」
時系列で、迷宮の出現、消滅の法則なんか見つかると面白い気もするが。
まあ、かなり長期間に渡って、観測してみないと難しいだろう。
それこそ数十年単位で。
でも、そんなことができるのはローザしかいない。
俺の知る限り、彼女だけが迷宮を感じることができるのだから。
セバスチャンに頼めば、各地の迷宮の発見/討伐情報なんて入手できるのだろうか。
ロッジの資料室には、一元管理されている情報は無かったと思うけど。
彼女が生きているうちに、何か一つでも新しい事実が見つかれば御の字だろう。
元の世界だって、偉大な発見だと認められるのは、発見した本人が亡くなってからなんて話はザラだったよな。
そんなことよりも、彼女自身がやりたいことやって充実した日々が送れることが重要だ。
「じゃあ、帰ろうか」
「はい」
ローザをザビル拠点まで送り、クーラタルの自宅へと戻ることにした。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/8/26(水)の予定です。