・レイモンド:ザビル第二迷宮探索のパーティーのリーダー
・レドリック:同パーティーのメンバー。クーラタル拠点の幹部の一人
・ケリー :同パーティーのメンバー。マリーとは双子の関係
・フラウス :同パーティーのメンバー。ラファ親衛隊のメンバー
・ドロテア :同パーティーのメンバー。元バラダム家の奴隷でフレイヤの親友
・フレイヤ :同パーティーのメンバー。元バラダム家の奴隷で竜騎士
・モニカ :剣聖のジョブを持ち、レイモンドと相思相愛(?)
・ザビル子爵(ガルシア):ザビル領の領主。ユキムラに迷宮討伐を依頼
・リカルド :男爵位を持つザビル騎士団長で、模擬戦好き(強い者限定)
・エミリオ :士爵位を持つザビル騎士団の事務方。苦労人枠?
・ユリア :士爵位を持つザビル騎士団メンバー。部下から姉御と呼ばれている
エステル達が襲撃された日から20日ほど経った。
途中、季節毎のオークションの日も挟みながらも、各部隊の迷宮探索は順調に進んでいく。
オークションでは魔法使いや竜人族も出品されたが、札束レースになったため落札を断念。
その分、迷宮探索で頑張ることに。
午前は訓練に費やし、午後だけクーラタル迷宮の探索をしているが、66階層をクリアして67階層へ突入した。
66階層のボスであるスカイドラゴンは、飛行型のドラゴンで非常に歯ごたえのある相手だったから前衛陣は非常にご機嫌だった。
それでもオリビアの槍二刀流にかかると、見事に攻撃を封じられてしまう。
飛行するスカイドラゴン二匹を槍二刀流でいなす彼女の姿は、神話のワンシーンのようだった。
ドロップ品が『ドラゴンステーキ』でなければだが。
なんか鑑定でボスドロップを確認したら、急に漫画チックな印象になってしまった。
66階層を終えて67階層で探索を始めると、コボルトイェーガーが大量に出現し始めた。
当然、前衛陣の士気はダダ下がりになってしまう。
ボス部屋まで辿り着きたかったので、そのままクリアしたが、68階層に進むのは止めて、暫く64階層でダマスカス鋼のドロップ品を狙うことにした。
レイモンド達のパーティーは、ザビル第二迷宮のボス部屋を昨日発見した。
ザビル第二迷宮は、出現してから大して日数が経ってないので、50階層が迷宮ボスのはず。
レイモンド達は五日周期で一日は休息日とし、その日にパワーレベリングもして強化した。
ザビル第二迷宮の50階層までは、特に問題もなく順調に戦闘と探索をこなしてきている。
迷宮ボス戦に挑みたいと希望していたし、討伐戦に挑むことを止める理由はなかった。
今日は午前中に、クーラタル迷宮の51階層で該当するボスを模した予行演習も無事に終了。
合格ラインに達していたので、そのまま迷宮討伐戦のゴーサインを出した。
そして、そのザビル第二迷宮の迷宮討伐戦がこれから始まろうとしている。
例によって迷宮討伐見学会を行うので、レイモンドのパーティー以外の多数のメンバーが待機部屋に集合している状況。
今回はフリュウ迷宮の討伐を目指しているエルフ組も数名参加している。
シーナやリオン、グラシア達も前回は参加してなかったため、今回は是が非でも参加したいと。
他にも、次の迷宮討伐達成が期待されるアキシマ迷宮を探索中のヘルミーネ達の部隊も参加。
彼女のパーティーのモニカはレドリック、マリーはケリーの戦いぶりを確認したいのだろう。
次の自分達の迷宮討伐戦の参考になるはずだから。
ザビル拠点の主力組であるマテウス達も来ている。
既に討伐を二回経験した迷宮組のメンバーは見学せず、クーラタルで訓練に勤しむらしい。
迷宮討伐戦が始まれば、ひたすらワープでピストン輸送を行うことになるが、前回経験済だから問題なくこなせるだろう。
今回の迷宮討伐チームは、純粋な護衛部隊のメンバーとなる。
前衛は剣聖Lv71のレドリック、百獣王Lv71のケリー、竜騎士Lv75のフレイヤ。
後衛は探索者Lv67のレイモンド、斎王Lv69のフラウス、魔道士Lv70のドロテア。
ボス戦は、ほぼ横一線となるので、あまり前衛、後衛の区別はないのだけど。
あえて言えば、魔道士のドロテアは前に出過ぎないようにするくらいか。
迷宮ボスはキックホッグだ。
猪型のモンスターで突進をしてくるため、厄介な迷宮ボスと感じる。
後ろ足でのキックもあるが、序盤は包囲陣形にならないから関係ないだろう。
お供はピックホッグ、ボトルマーメイド、パットバットあたりなので、飛行型モンスターがでてくる可能性もある。
フォーメーションは迷宮ボス二匹の中間にフレイヤが立ち、ボスの突進を阻む役目らしい。
竜騎士である彼女が二刀流で扱う武器は、ダマスカス鋼の両手剣二本だ。
この剣はアミル達鍛冶師グループが生成した長巻型の剣で、リーチの利を生かして牽制する。
スキルは麻痺添加を1つのみ付与しており、迷宮ボスからの破壊を前提に数本予備を用意。
麻痺してくれればラッキーというレベルで、攻撃の本命はレドリックとケリーが担う。
レドリックは硬直のエストックの二刀流、ケリーは鋼鉄の盾と硬直のエストックを使う。
三人でボスで挑みながら、万が一、装備品が破壊されたらドロテアが渡す役目を負う。
ドロテアはサンダーストームをひたすら撃ちながら、装備品補充担当をこなす訳だ。
知力2倍のみ付与された、ひもろぎのスタッフを使ってMP吸収は期待せず、MP対策は強壮剤をひたすら飲む作戦。
両翼はダマスカス鋼の槍を持ったレイモンドとフラウスが、お供のモンスターと戦う。
お供で出現するのが陸上型なのか飛行型なのかは出たとこ勝負なので、槍持ちの者が対応。
事前の練習では、10戦こなして一度だけキックホッグの突進をケリーが食らっていた。
今回の迷宮ボス戦ではどうなるか。
迷宮ボスはLv50なので、レイモンド達とは、そこそこのレベル差が確保できてる。
装備品破壊の確率はレベル差が依存するらしいので、ある程度は防げるはず。
とはいえ、壊される時は壊されてしまうので、後はどこまで冷静に対応できるかが重要だ。
レイモンド達は最後のブリーフィングを終えたようで、充実した表情が窺える。
彼等に近づき、状況の確認。
「どうだ?そろそろ始めるのか?」
「はい。準備は万端です。最終入室者は練習通り、ドロテアさんです。
我々は一足早く入って、陣形を組みます」
「そうか。落ち着いてやれば、問題ないはずだ。みんな期待しているぞ」
力強く頷くと、五人がボス部屋へと入って、配置に着き始めた。
最後に残ったドロテアは少し緊張しているようだ。
しきりに、ひもろぎのスタッフを握る手を閉じたり開いたりしている。
まあ、迷宮討伐戦だから、緊張するなってのは無理だよな。
やがて準備が整ったのか、フレイヤが両手に持った剣を高々と上げた。
「では。始めます」
「ああ。万が一の時は支援するから、命の危険はない。
落ち着いて、練習通りにやってくれ」
「はい。分かりました」
ドロテアはボス部屋の仲間たちを見据え・・・・・・走り始めた。
扉が閉まると、ピストン輸送を開始だ・・・・・・結構、忙しい。
:
:
:
最後のエルフ組パーティーを送り出して、俺もボス部屋へと入った。
戦況はどうだ?
迷宮ボス二匹に対応している三人は、まだ陣形を乱してはいない。
フレイヤが長巻型の両手剣で、上手くキックホッグの足下や鼻先を叩きながら、突進体勢を取らせないようにしている。
側面からレドリックの二刀流やケリーの刺突攻撃も、練習通りに効果を上げてるようだ。
ケリーは剣の捌きが巧くなったな・・・・・・我が家に来た時から、技量はそこそこだと思ったが。
今なら分かるけど、俺よりは上だと感じる。
過去に勝てたのは、複数武器の使用と複数ジョブの効果が理由だったのだな。
同じ条件で戦ったら、今なら勝てない可能性が高い。
そもそも、ニムラルのオッサンに鍛えられていた年数を考えれば、俺の方が強いと思っていたこと自体が思い上がりだった。
悔しいけど、現実を見つめなければ。
グラ爺やレドリックになら負けても悔しくないのに、ケリーにそう感じるのは年齢のせいか。
こちらの実年齢では2つ年下だから。
大した努力もせずに、年齢が上なだけで嫉妬を感じるなんて、ラノベあるあるみたいな自分に笑ってしまう。
それはともかく、お供のモンスターは・・・・・・ピックホッグ、ボトルマーメイドが一匹ずつか。
ピックホッグをフラウス、ボトルマーメイドをレイモンドが対応している。
斎王のフラウスはピックホッグをダマスカス鋼の槍で上手く捌きながら突進を防いでいる。
ボスよりは小さいとはいえ、猪型のモンスターの突進を食らうと戦線に綻びが出てしまう。
槍の巧者らしく冷静に距離を取りながら、一定間隔で『全体手当』の治癒を発動。
戦線が横一線で逆側の戦況が分からないので、機械的にスキルを使うと決めたらしい。
『MP吸収』のスキル融合がされた槍だから、MPを気にせず発動できる。
ピックホッグと戦いながら、コンスタントに詠唱しているのだから、技量が高い証拠だ。
レイモンドはボトルマーメイド相手に間を上手くとりながら着実にダメージを与えている。
とはいえ、探索者ジョブには攻撃力の高いスキルはないので、持久戦を想定してるのだろう。
ボトルマーメイドには水魔法による攻撃があるが、詠唱陣が出ても、詠唱中断のスキルが付与された槍で直ぐにキャンセルさせている。
両翼は綻びを見せる隙は無さそうだ。
ドロテアがひたすらサンダーストームを放ってるのも見えた。
麻痺は・・・・・・どれもしていないか。
一匹でも麻痺すると、かなり有利になるはずだが。
遠距離攻撃をしない近接型のモンスターだからなのか、エルフ組の連中は気合の入った観戦だ。
特にグラシアは自分が戦ってるかのように、体を小刻みに動かしている。
ああいうのもイメトレと言うのだろうか。
おっ、左側のキックホッグが体勢を崩して、前のめりに倒れた。
レドリックの二刀流の激しい斬撃で石化したか?
まあ、フレイヤが麻痺らせたかもしれないし、ドロテアの雷魔法の効果かもしれないけど。
でも、これで戦局が傾いたかもしれない。
レドリックとフレイヤがもう一方のキックホッグを取り囲んで攻撃し始めた。
ということは、左のキックホッグは石化したのか。
フレイヤは右側のキックホッグの正面に立ち、ひたすら長巻型の両手剣二本を叩き込んでいる。
遠目に見ても、なかなかの迫力だ。
その側面から、レドリックとケリーが激しく襲いかかった。
一気に決めるつもりなのかもしれない。
お供の相手をしているレイモンドとフラウスは、上手く両翼の戦闘を膠着状態にさせていた。
ドロテアも落ち着いて、サンダーストームを淡々と撃ちまくっている。
これなら安心して見ていられるぞ。
自分が戦闘に参加しないで見ているだけというのは、やきもきさせられるんだよなぁ。
二匹目のキックホッグも石化させたようだ。
鑑定で前衛陣三人の装備品を確認したが、装備品破壊は起きてない。
三人は両翼のお供のモンスターを片づけるために、分かれて攻撃に加わり始めた。
ドロテアは最後まで手を抜くことなく、愚直にサンダーストームを撃ち続けている。
大事な戦いにおいては、結構、重要なことだと思う。
こういう手堅いところが、不測の事態を防いでいるのではないだろうか。
やがて、お供は一匹が倒され、一匹が石化した。
モンスター共を完全に無力化したので、石像を削って終了だな。
周りの見学者も安堵感に包まれているようだ。
やがて全ての石像が煙に変わり、戦闘が終了し、ドロップ品の回収に入った。
レイモンドがボール状の物を持ってるので、やはりギルド神殿がドロップしたようだ。
ここで実は51階層まで伸びてました・・・・・・なんてサプライズはさすがに無かったか。
見学者の連中が、討伐を成功したメンバー達へと近づいていく。
おっ、モニカがレイモンドに抱きついていやがる・・・・・・ちょっと羨ましい光景。
今までの迷宮討伐で、ここまでダイレクトに感情を表現した奴いたっけっか。
ヘルミーネも祝福しようと近づいたが、モニカの喜びっぷりに少し腰が引けているようだ。
マリーもケリーに何か話しかけてるようだし、マテウスもレドリックと談笑している。
ドロテアはフレイヤと並んで、二人で楽しそうに話し込んでいた。
討伐を成し遂げたメンバー全員に笑顔が見える。
全員が初の迷宮討伐成功だ。そりゃ、嬉しいだろうな。
これで、タケダ家では三回目の迷宮討伐を成し遂げた訳だけど、迷宮討伐後に直ぐに皆に労ってもらえるのって、見ている方も本当にハッピーな気持ちになる。
レイモンドがモニカに抱きつかれながら、俺の方に近づいてきた・・・・・・リア充め。
「やったな、レイモンド。見事な戦いぶり・・・・・・リーダー役だったぞ」
「ありがとうございます。
まさか自分がこんな歳で迷宮討伐を成し遂げるなんて思いもしませんでした」
喜びあふれる表情で俺にギルド神殿を差し出してきた。
うん、確かにギルド神殿だ。
レイモンドはラファのように、ギルド神殿に頬ずりせんばかりの拘りは無さそうだな。
というか、討伐したメンバーは、ギルド神殿に無関心っぽい。
まあ、貴族になるのでもなければ、ただのチンケなボールだし、探索者ギルドで換金してくれる訳でもない。
ん?・・・・・・実は探索者ギルドに売ると、白金貨1枚が支払われるなんてことないだろうな。
売る気なんてないけどね。
「ああ、このギルド神殿だけど、ザビル騎士団への報告はレイモンドでやってもらうから、
そのまま持っていてくれ」
「えっ、僕が報告するのですか?」
「そりゃ、そうだろう。実際、討伐したのはレイモンド達なのだから」
今回はボーデの時と違い、俺が討伐したフリをする必要が無い。
前回は俺が討伐を引き受けたし、ラファは貴族対応もあって人前に出せなかった。
今回はそのまま村に詰めている騎士団に、レイモンドから報告してもらうつもりだ。
「じゃあ、今回もバラバラに少しずつ時間をずらしながら、迷宮から出るぞ。
迷宮を出た所で待っていてくれ」
パーティーのリーダーが各々頷くのを確認。
一応、最後に迷宮を出るのは俺のパーティーだ・・・・・・何かあったら困るからな。
まあ、何かあるとも思ってないのだけど。
別に最後にでてきたパーティーが、迷宮討伐を成し遂げたとは限らないから問題ないだろう。
一つずつパーティーが出口へと向かうのを見ながら、まったりとした時間を過ごす。
レイモンドの話では、迷宮ボスの攻撃をケリーが二回、フレイヤが三回ほど受けたそうだ。
それでも、装備品破壊は発生しなかったのか。
たまたま運が良かったのか、ジョブのレベルを上げていたのが功を奏したのか。
これからも、迷宮討伐戦をこなして、記録を積み上げていこう。
最後に残ったマテウス達と一緒に俺も迷宮から脱出。
出口では、大変な騒ぎになっていた。
入口にいた騎士団員にレイモンドが迷宮討伐を報告したのと、タケダ家の4つのパーティーがいて賑やかなせいだ。
レイモンドが近づいてきて、俺に話しかけた。
「迷宮討伐の報告をしました。今、団員の方が騎士団の詰所の方に走っていきました」
「そうか。お疲れ様。
おーい、レイモンドのパーティー以外の者は皆、ザビルの拠点に戻ってもらって構わないぞ」
ヘルミーネとリオンが頷いている。
彼女達は適当な木の幹にフィールドウォークのゲートを開き、移動し始めた。
昼食を終わらせてから、また迷宮に戻るのだろうな。
食事時の話題は、今回の迷宮討伐戦か自分達の未来の迷宮討伐戦かもしれない。
マテウス達を戻すためにゲートを開き、彼等を帰宅させた。
ここに残ったのは、迷宮討伐を成し遂げたレイモンドのパーティーメンバーと俺だけ。
迷宮の入口に残っていた騎士団員の一人が、入口に入ろうとしてどこにも移動できないのを確認しているようだ。
このあたりは、どこの騎士団員でもやることは同じなのだろう。
団員の顔にも笑顔が見られるのは、この無人に近い村から解放されるからかもしれない。
この村は盗賊襲撃後に復興することなく住民が去り、荒れたままだったよな。
迷宮討伐後は、この村に新しい入植者を募るのだろうか。
暫くすると騎士団員数名が近づいてくる。
そしてレイモンドではなく、俺に話しかけてきた。
「迷宮討伐のご支援、感謝します。
ザビル子爵が是非、お会いしたいとのことです。
サビルの館まで来ていただけないでしょうか?」
「ああ、分かった。俺だけでなく、実際に迷宮討伐をした者達も連れていって問題ないか?」
「はい、もちろんです。是非、お連れ下さい」
迷宮討伐したのは俺じゃないからな。そこはハッキリと伝えておかなければ。
もし、褒めてくれるのなら、直接本人達へお願いしたい。
団員に連れられて、村の詰所の建物へ。
そういえば、ここに来るのも久しぶりだ。
レイモンド達は、よく顔を出してるらしいけど。
壁にかけてある絨毯を使って、ザビルの館のロビーへと案内してもらった。
俺はいったんとんぼ返りして、レイモンド達を迎えに。
レイモント達をザビルの館に送り届けて、ロビーに7人が集合した。
団員の案内でいったん待合室の方へ。
少し待つと侍女っぽい人が、ハーブティーを持ってきてくれた。
50階層のボス部屋で水分補給はしたけど、これはこれでありがたい。
皆で遠慮なくいただくことにした。
ここにいる半分のメンバーはザビル子爵には会ったことがないのか。
レドリックとケリー、フラウスはリカルド騎士団長達と模擬戦やった時にチラッとだけ会ったが、他の者はここに来るのが初めてだもんな。
ザビルに拠点を構えたけど、俺だってザビル子爵と会ったのは数えるほどだ。
ハルツ公ほどは会ってない。
ケリーがそろそろ退屈し始めたかなという頃に、お呼びがかかった。
騎士団員の案内で、通路を歩いていく。
薄っすらと記憶にあるのは・・・・・・この先は子爵の執務室だったかも。
ゼノとゼナを引き取った時に行った部屋がこちらの方向だった気がする。
そう考えると、この館にタケダ家のメンバーって結構、来ているのか。
なんだかんだと付き合いがあるのだもんな。
執務室へと通されると、そこにはよく見知った面々がいた。
ザビル子爵、リカルド騎士団長、ユリア士爵、エミリオ士爵と事務方、騎士団員が数名。
俺達が入ると、四人の貴族は席を立ち上がり、こちらに近づいてきた。
「タケダ殿、予想以上に早い迷宮討伐達成、ザビル領を預かる者として感謝を伝えたい。
ザビルの領民、貴族を代表して、心より感謝申し上げる」
「ザビルの治安向上に貢献できまして、こちらもホッといたしました。
もっとも、迷宮討伐を成し遂げたのは私ではなく、こちらの者達ですが」
体を横にずらして、討伐を成し遂げた六人を改めて紹介した。
子爵は頷き、他の三人は腕を胸にあてて、わずかに頭を下げた。
うちのメンバーは六人とも奴隷身分だけど、貴族に頭を下げさせて良かったのだろうか。
というか、普段は山賊集団のようなのに、こういう時は様になっているな。
迷宮討伐を成し遂げた者達には敬意を払うのが、ザビル流なのかもしれない。
「ささやかではあるが、別室に料理なども用意させた。
迷宮討伐の話などを聞かせてほしい」
「ま、まあ・・・・・・」
しまった。料理を皆に食べさせるのは問題ないが、迷宮討伐の話題は拙いかも。
うちの戦い方やジョブはあまり公にしたくはない。
剣聖、百獣王、竜騎士、魔道士、斎王までいるし。
ジョブとしては地味な探索者であるレイモンドだって、Lv67だ。
軽くレドリックに目配せすると、苦笑いしている。
きっと俺の危機感が共有できていると思いたい。
「では、こちらへ・・・・・・」
子爵様が歩き始めると、他の三人の貴族も後に続いた。
その後に俺も続きながら、レドリックに小声で『ジョブや戦闘方法は内密だ』と短く言うと、彼は頷いてくれた。
ゆっくりと歩きながら、後方で彼による内緒の口止めをサポートする。
大丈夫かなぁ・・・・・・特にケリー。
フレイヤは人見知りだから、ドロテアが口添えしてくれれば大丈夫だろう。
レドリックとレイモンドも心得ているから、大丈夫だと信じたい。
やっぱりケリーが不安だ。
別室に案内されると、いくつかのテーブルの上に料理が既に置かれていた。
焼いた肉を中心とした大皿料理だ。
これなら、テーブルマナーがどうとかは無さそうだな。
ハルツ公に招かれた晩餐会とは雰囲気が違うのでホッとした。
さきほど、迷宮討伐したばかりだから、さすがに上品な料理は間に合わなかったのだろう。
料理を用意してくれただけで感謝だが。
肉料理を見て、ケリーの顔に笑顔が。
そのまんまの表情で肉をずっと食い続けてくれて構わない。
食べてる間は余計なことをしゃべったりしないだろう。
酒は出されずに、ハーブティーだけのようなので、更に安心した。
貴族の四人は公務がこれからもあるのだろうから、酒は厳禁なのかもしれない。
和やかな雰囲気で、料理を頂きながら、雑談に興じた。
迷宮討伐の具体的な戦闘の話題を避けながら。
リカルド騎士団長はレドリックと旧交を温めているようだ。
『また模擬戦しようぜ』とか言ってるし。
横で肉を頬張っているケリーは無反応だな・・・・・・肉に夢中か。
ユリア士爵はフラウスと何やら話をしている。
槍談義でもしているのだろうか。
エミリオ子爵はレイモンド、フレイヤ、ドロテアに囲まれて楽し気に話をしている。
まあ、フレイヤはドロテアの後ろに隠れて、料理を食べているだけだが。
竜人族の彼女の体は大きいので、ドロテアでは全然隠れられていないのだけど。
会話はレイモンドが主に対応している。
さすがはパーティーリーダーだ。本当に頼りになる。
そして、俺はザビル子爵の対応だ。
内容は迷宮討伐の話ではなく、若干ビジネスライクな話だった。
スキル融合装備品の調達や、ザビルの武器屋に高品質な装備品を卸せないか等という相談。
そういう話なら、ウエルカムだ・・・・・・ザビルでは予算が厳しいと愚痴っているけど。
途中、エミリオ士爵がこちらに来て、ゼノとゼナの様子を確認していた。
二人とも別の街で真面目に働いていると伝えると、少し表情が和らいでいた。
よく分からないが、気にしてくれていたようだ。
レイモンド達は貴族の相手をしなくてよくなったため、料理の方に急いで向かっていた。
俺もご相伴にあずかりたいが、二人の貴族の応対で無理だ。
「迷宮討伐を達成したら、威霊仙を持っている者を紹介するという話だったな。
今、呼びにやってるので、そのうち顔を出すであろう」
「なるほど」
そういえば、そんな約束をしてもらったな。
あの頃は威霊仙が切実に欲しかった。
でも今は短時間とはいえ、毎日のようにクーラタルの63階層のボスマラソンをしているから、威霊仙は数十個単位で所有している。
迷宮探索パーティーにも、探索者ジョブの者にエリクサーを持たせて万が一に備えている。
今更、ギルド神殿と威霊仙を交換してもらってもなぁ。
何か他に魅力的なものがあるのなら取引したいけど。
このザビルで・・・・・・というなら、ちょっと思いつかない。
竜騎士になれそうな若者を紹介してくれるとか?・・・・・・うーん。
もやもや考えていると、ドアが開き、二人の男が入室してきた。
心なしか、リカルド騎士団長の顔が険しくなった気がするぞ。
二人のうちの一人が、子爵様の方に視線を向けると、こちらに真っすぐ歩いてきた。
この男が威霊仙を所有しているという貴族なのだろうか。
(鑑定)
ファビオ・ランベルト・イルマ(人間族 男 42歳 士爵)
豪商Lv17
装備 激情のダガー 身代わりのミサンガ
ご、豪商?・・・・・・士爵位で商人系のジョブってこと?
いや、そんなことよりも・・・・・・なんだ、この男は?
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/8/29(土)の予定です。