(ズキン、ズキンッ・・・・・・)
な、なんだ?・・・・・・もの凄く頭が痛い。
ここはどこだ?・・・・・・視線の先には見知らぬ天井。
ラノベ展開なら、異世界転生だろうが、今は頭が痛くてそれどころじゃない。
頭痛を我慢しながら、右側を見ると、ヘンドリクスが大口を開けて鼾をかいているのが見えた。
その先にはセントバーナードの耳が見えるような・・・・・・エステルっぽいな。
と、とにかく頭が痛い・・・・・・痛いけど・・・・・・体も重い。
横になったまま、足先に視線を向けると黒い物体が見えた。
これは誰かの頭か?
鑑定スキルで確認すると・・・・・・イレーネだ。
しかも妙に温かい。
ハッ!・・・・・・イレーネ、素っ裸じゃないか!
というか、俺は?
上はシャツのようなものを着ている。
でもなんだか、下半身がスースーする。
(おい、イレーネ、起きろ!)
小声で話し掛けるが、反応がない。
それに何だか酒臭いぞ。
酔っぱらって、裸で抱きついてきた?
俺には昨晩の記憶が全くないのだが。
寝たまま周囲を見渡すと、俺のズボンらしきものが転がっている。
今って、俺は『おまわりさん、こいつです』状態?
右側の二本の腕を使って、ズボンを手繰り寄せた。
イレーネは俺の上でスヤスヤ寝ている。
体を起こそうとすると、彼女はようやく覚醒しようとしている・・・・・・のか?
(カプッ、カプッ、・・・・・・)
裸のまま、俺の首に噛みついてきた。
でも、いつもの力強さは感じられず、甘噛み状態だ。
というか、寝ぼけてるんじゃないか。
「御館様はあたしのもの・・・・・・」
「・・・・・・」
二人だけの時ならいいけど、衆人環境での寝言は止めて下さい。
(イレーネ、イレーネ、起きろ。服を着ろ)
小声で話し掛けるが、やはり反応が芳しくない。
声を大きくすると周りを起こしてしまい、非常に拙いことになる。
左側を見ると・・・・・・。
(!!!!!)
指の間が開いた両手の掌で顔を覆ったエスピナと目が合った。
あかん・・・・・・正真正銘『おまわりさん、こいつです』案件になってしまった。
色んな意味で頭が痛い。
視線を外して、何か言い訳を考えてると、パタパタと音を立てて彼女は立ち去っていった。
完全に誤解された・・・・・・いや、誤解も何も、俺にもどうしてこうなってるのか理解不能。
頭の痛みを堪えて体を起こし、まずはズボンをなんとかしたいのだが、下半身にしがみついたイレーネが起きてくれない。
何か頭痛薬ってあったっけ?
考えようとすると、余計に頭が痛くなってきた。
仕方がない。
周囲に起きている者がいないのを確認して、
(アイテムボックス操作)
急いでエリクサーを取り出して、グビグビ飲んだ。
芳醇な香りに、ほのかに甘い口当たり・・・・・・いや、そんなテイスティングはどうでもいい。
おかげで頭がスッキリした。
二日酔い(?)にもエリクサーは効くようだ。
初めてエリクサーを服用したのが、二日酔いってどうなのだろうか。
いくら潤沢にあるとはいえ、かなり勿体ない使い方だ。
でも、頭痛薬が分からなかったから仕方ない。
毒消し丸では、多分効果は無かっただろうし。
二日酔いや頭痛に効く薬か生薬をチクルスに確認しておくか。
でも、昨晩は酒を飲む気が全くなかったはずなのになぁ。
「んっ・・・・・・」
俺の体が少し発光したせいもあって、イレーネが覚醒したようだ。
「御館様・・・・・・」
「!」
いきなり唇を奪われた。
「なんか甘い・・・・・・」
「起きたか?」
俺の口に残ったエリクサーを舐めても、彼女にエリクサーの効果は多分ないだろう。
ゲームアイテム的には、エリクサーは一人一回しか効果がないはずだから。
ちょっと酒臭いのだけど、いつもよりデレている気がして、ちょっと新鮮だ。
そんなことよりも、周囲の者達も起きそうな雰囲気だから急がねば。
「イレーネ、服を着ろ」
「御館様、もう一回・・・・・・」
「服を着てくれ~」
何をもう一回なのか質す気になれない。
ブー垂れる彼女に転がった服を渡して、急いで下着とズボンを履いた。
これで、俺は無罪になったか・・・・・・?
ゴソゴソとイレーネが服を着始めたので、そちらを見ないようにしながら、ヘンドリクスからの視線を遮るように衝立の役割をする。
まだ奴は大鼾をかいてるけど。
それにしても、俺はいつ酒を飲んだ・・・・・・飲まされたのだ?
そんな記憶は全くないぞ。
酔っ払いってのは、たいがいそういうものなのかもしれないが。
周囲を更に見ると、アミルやヴィルマも起き始めたようだ。
彼女達の貞操は大丈夫だったのだろうな?
俺自身は、それをとやかく言える立場ではない気もするが。
特に着衣に乱れとかないから大丈夫か。
迷宮組を見る限りは着衣に乱れがあったのは、俺とイレーネのみ?
彼女のは乱れとかそういうレベルではないが。
そちらも記憶に何も残ってないのだよなぁ。
起き抜けだけど、比較的正気で素面っぽく見えるヴィルマに話しかける。
「なあ、ヴィルマ。昨晩、俺は酒飲んでいたのか?記憶が全くないのだけど」
「んー、分からない。だけど、主が飲んでいたソレから酒の臭いがするぞ」
彼女が指差したのは、コーヒー牛乳が入っていたポットだ。
マジっすか。
ポットを手に取り、臭いを嗅いでみると、確かに仄かに酒精の香りがする。
これって、コーヒー牛乳じゃなくて、カルーアミルクだったの?
昨晩は飲んでいて全く気付かなかった。
どのぐらいの度数なのかは分からんけど、結構ガバガバ飲んでたもんな。
一服盛られたのと同じ状態になったのか?
というか、エスピナもこれを美味しそうに飲んでなかったか?
立ち上がって、周囲を見ると、俺が思っていたよりも酷い状況だ。
何人かの男女があられもない姿で抱き合って寝ている。
起き上がって、何事もないように服を着てる全裸の奴もいるけど。
エステルの家って、これが普通なの?
さっきまで未成年のエスピナが寝ていたのは、かなり拙い事案ではないか?
俺にそれを指摘する資格があるかは、置いておくとして。
帝国解放会の初代会長が色魔ジョブとか言ってたけど、様式だけは代々受け継いでるのか?
周りを見ると狼人族が多そうだから、色魔のジョブは取得できないと思うけど。
未成年が飲酒して、成人はR18?・・・・・・エステルの家風は理解に苦しむぞ。
R18?・・・・・・いや、俺がそう思い込んでるだけで、全員未遂の可能性もあるか。
きっと俺も未遂に違いない。
グダグダ考えていると、起きてきたエステルと目が合った。
ニヤニヤしていて、なんだか腹立たしい。
(ポン、ポンッ・・・・・・)
エステルを睨みつけようかと思っていたら、左肩をちょいちょいとつつかれた。
「タケダ殿、今度はあたしと・・・・・・グゲェッ・・・・・・」
「・・・・・・」
素っ裸のミライが、オリビアに首根っこを掴まえられ、引き摺られて退場していった。
コレ、昨日も見なかったか?
昨日は服を着ていたような気もするけど。
(ポン、ポンッ・・・・・・)
今度は右肩を誰かにつつかれた・・・・・・カーラか。
服はちゃんと着ているようだが。
「ユキムラ殿、今朝の訓練は?」
「はあ?」
こんな時でも剣の訓練を欠かさない・・・・・・真面目か!
今からクーラタルに直ぐ戻って朝練に参加とはいかないよな。
「ああ、さすがに今朝は・・・・・・」
「ユキムラ、広場があるから、酒を抜くために体を動かそうではないか」
エステルが何やら悪そうな笑顔で話しかけてきた。
カーラ、イレーネ、ヴィルマは満面の笑み。アミルは苦笑。
オリビアは、遠くでミライを放り投げていた。
上じゃなくて横に。
っていうか、ミライに服を着させろ!
俺はもうエリクサーで酒が十分抜けてるから無理に朝練やらなくてもいいのだけど・・・・・・とは言えないよな。
せっかくだから、エステルの騎士団の実力を確認するか。
「ほらっ、起きんか!ヘンドリクス!」
「グッ・・・・・・」
寝転がっていたヘンドリクスがエステルに蹴られている。
迷宮組はすでに体を動かして準備運動に入ってるし。
俺もストレッチでもやっておこうか。
でも、その前に水分補給をしよう。
水差しの水をコップに入れて、喉を潤した。
他の迷宮組のメンバーにも配ってやる。
四本の腕を有効利用して、次々に水を入れて渡していく。
決して昨晩の疚しさからの罪滅ぼしではない。
まだ酔いが残ってそうなのは、イレーネぐらいのようだ。
でも、今は皿に残っていた肉の切れ端を美味しそうに食っているな。
ある意味、凄い娘だ。
アイテムボックスから装備品を出して、彼女達に手渡す。
一応、木製の武器も持ってきてるので、広場とやらに行ったら渡すかな。
・・・・・・
小ホールを出て、ヘンドリクスの案内で広場へと向かった。
案内してもらった広場はかなり大きくて立派に感じる。
クーラタルの我が家の修練場よりは、少し広いかもしれない。
既に騎士団員が気合の入った練習に取り組んでいる。
ただ鑑定してみても、特別変わったジョブの奴はいない。
さっきの件があるから、色魔のジョブ所有者がいるかと思ったのだが。
よく見ると、エステルの奥さんが若手の騎士団員っぽい者に稽古をつけている。
エステル本人より働いているじゃないか。
近くにいたエスピナに手を振ったら、そっぽを向かれてしまった。
なんだろう。最近、カシア様といいエスピナといい、女性に避けられる事案が多い気がする。
うちの前衛陣のメンバーを見ると、臨戦態勢に入りつつあるぞ。
獰猛な笑みを浮かべながら、体を動かしてウォームアップをしていた。
怪我しないように、ちゃんと柔軟はやろうな。
グラ爺からも、体を解してから稽古に入れと厳しく言われているし。
「タケダ様、手合わせをお願いする」
「?」
誰だコレ?・・・・・・いや、ミライか。
頭に額金を巻いてたから、よく分からなかった。
鑑定スキルは、やはり便利だな。
酒が抜けたのか、言葉が少しだけ丁寧になっている。
当たり前だけど、防具はちゃんと着けている。
さきほどはノーガードで挑んできたけど。
「俺は師匠から、他家との模擬戦を禁じられているのだ」
「はあ?なんだそれは?」
反応したのは、ミライではなくヘンドリクスだ。
仕方がないだろう。そういう決まりなのだから。
正確には俺と同格の者かグラ爺以外の者との模擬戦禁止。
他家の者は実力がよく分からないから、自動的に禁止となる。
ヴィルマやイレーネ達とも禁止されてるぐらいなのだから例外はないのだ。
ミライは、あからさまに落胆した様子。
「ううぅ・・・・・・つまらない」
「私がご主人様の代わりに、お相手します」
ア、アミル、急にどうした?
俺とミライの間にスッと彼女が割って入ってきた。
右手には木の槍を持っている。
「いいよ。やろうか」
「はい。お願いします」
アミル、今朝はちょっと好戦的じゃないか?
二人は模擬戦をする場所に向けて歩いていった。
「アミルちゃん、怒ってるね」
「オリビア、アミルが怒ってる原因はなんなのだ?」
「それは、昨晩の件じゃない?」
「昨晩って、何があったんだ?」
彼女達二人が揉めていた?
「昨晩、あの狼人族の女が・・・・・・」
「ミライが?」
「ユキムラ君のズボンを降ろして・・・・・・」
「ちょ、ちょっと待て!」
「あとは内緒~♪」
「ええぇ?」
って、気になるじゃないかよ!未遂だよね?
「ユキムラ殿、アミル殿の戦いが始まるぞ」
「!」
カーラ。戦いって言うけど、ただの模擬戦だぞ?
命のやり取りじゃないのだから。
アミルもミライも模擬戦だと忘れずに、度を越した攻撃は無しにしてくれよ。
軽く木刀と木の槍の穂先を当てて、二人の模擬戦が始まった。
まずは、リーチの差で優位に立つアミルが、槍を数回突き出して牽制している。
アミルのジョブは鍛冶師にしてあるから、剣匠のミライとのレベル差はかなりのものだ。
物凄い風切り音と共に繰り出されるアミルの鋭く重い突きに、彼女は慌ててバックステップで距離を取った。
剣匠のジョブは二刀流だが、木刀二本で受けるのは危険と判断したか。
ミライは何とか間合いを詰めようとするが、アミルは槍の持ち手を調節して、近間のスペースを上手く潰しながら近づけさせない。
一発当たると、木製とはいえ、今のアミルのパワーだと危険だものな。
それにしても、アミルも槍の使い方が上手くなった。
グラ爺に教えを受けたのと、彼女自身の努力の成果だろう。
努力しているのは、別に俺だけじゃないのだよなぁ。
ヘンドリクスがニヤニヤしながら近づいてきた。
「ミライが苦戦しているな。あのチッコイ娘、やるじゃないか」
「俺のパーティーのメンバーだからな。それとチッコイ呼ばわりは止めろ」
「ほいほい。でも槍の使い方なら、お前より上手いんじゃないか?」
「否定できないな」
俺は槍二刀流だったり、四刀流で本領を発揮するのだけど、槍一本なら彼女の方が上かも。
おっ、ミライが突っかけた。膠着状態に焦れたのか?
強引に距離を詰めて、右手の木刀でアミルを腕を叩いた・・・・・・が、アミルの突きを腹に受けて、軽く吹っ飛んだ。
「それまで!引き分けだ」
エステルが模擬戦の終了を告げた。
腹を少し押さえてるミライとアミルが礼をして、アミルはこちらに戻ってきた。
ミライは別の騎士団の仲間の方へと歩いていってる。
「ご主人様、勝ち切れませんでした」
「だが、良い経験だったのじゃないか?」
「はい。師匠に言われたことも試せましたし」
やっぱり、グラ爺の指導か。
タケダ家じゃない者がいる場では、グラ爺のことは『師匠』呼びすることで統一してある。
グラ爺は、なんだかんだと有名人だからな。
あまり我が家にいることを広めたくない。
「まあ、実戦ならミライの負けだろう」
「ヘンドリクスも、そう思うか?」
俺も同意見だ。
木製の武器じゃなければ、ミライは大ダメージを受けていたはずだ。
逆に模擬戦だからこそ、彼女は踏み込んでいったのかもしれないけど。
武器の相性の問題もあるだろうけど、アミルの槍の技量ならミライレベルの者と互角以上に戦えるのか。
次はカーラか・・・・・・えっ、エステルの奥さんに挑むの?
百獣王と剣聖の戦いか。
どんな戦いが繰り広げられるのか楽しみだな。
今度の立会人はヘンドリクスがやるのか。
エステルが俺の方に向かって歩いてきた。
「ユキムラ、ちょっとあちらに行こう」
「ん?」
せっかく面白そうな模擬戦が始まるのに。
エステルに連れられて、近くに誰もいない木陰の方へと移動。
内密の話をしたいのか。
「この前、我らが襲撃された件だが、その後、騎士団へ確認したところ、
63階層でインテリジェンスカードを確認した際に不審な6名を目撃したことが分かった」
「不審な者?」
「そうだ。全員が奴隷身分でジョブが探索者と剣士しかいなかったそうだ。
63階層でそんな構成で臨むパーティーは、まあいないからな。
騎士団員が覚えていたそうだ」
「そうか」
やっぱり、近接戦闘職のジョブばかりだったのか。
しかも全員奴隷ということは、使い捨ての扱いかよ。
だが、いくら奴隷とはいえ、自爆攻撃を自ら進んでやるものだろうか。
その辺りがよく分からないな。
「他に何かおかしなことは?」
「今のところは、それぐらいだな」
エステルは大きなため息を吐いている。
調査が行き詰ってるのかもしれない。
そういえば、俺達がインテリジェンスカードのチェックを受けずに、63階層に侵入したのは気付かなかったのだろうか。
俺達も容疑者として調べるような捜査能力はクーラタルの騎士団にはないのだな。
客観的に考えると、63階層の事件現場に突然現れた俺達も十分怪しいだろうに。
襲撃犯の遺留品は俺が譲り受けた装備品ぐらいしか無かったからなぁ。
手がかりが無さ過ぎて、これ以上の追跡は騎士団では難しいかも。
「それとエリクサーの代わりは、もう少し待ってほしい。
今、色々と我が家もゴタゴタしていてな」
「まあ、そんなことは気にしなくてもいいさ。おっ、終わったか」
丁度、カーラとエスエルの奥さんが一礼をしているのが見えた。
「そうだな。どうやらそちらの剣匠の娘が勝ったようだな」
「そうか。あまり見てなかったのだが」
「あれは騎士団でも一目置かれるぐらいの手練れのはずなのだが。
ユキムラの方もなかなかのメンバーを揃えているのだな」
「あいつは、我が家でも五本の指に入るほどの剣の使い手だから」
本当は剣匠でなく、カーラは剣聖だ。レベルも60台だし。
しかも、グラ爺の愛弟子で、子供の頃から努力を怠らず、普段から眼帯で鍛えてる剣バカだ。
今も隻眼状態で勝ったのだよなぁ。
素直に凄い奴だと感心してしまう。
順位付けするならグラ爺、カーラ、レドリック、ヴィルマ、イレーネ、モニカ・・・・・・だろうか。
三番手以降はダンゴな気もする。
シングルジョブでの剣技という意味では、俺は後ろから数えた方が早そうだな。
ああ、我が家に帰って訓練したくなってきた。
「ユキムラ、これからも定期的に我が家に来てくれ。
その方がエスピナも喜ぶからな」
「えっ?」
俺はどちらかというと避けられていた気がするのだが。
実は照れ隠しで、好意を持たれていた?
エステルが指差した先を見ると、オリビアがエスピナに高い高いをしている。
今度は天井がないから、かなりの高さまで飛んでいるように見えるのだが。
でも、こちらに聞こえるぐらいの大きな笑い声で喜んでいるな。
好かれているのは、俺ではなくオリビアか。
意外な才能だな、オリビア。
「そうだな。うちの連中も刺激を受けそうだから来させてもらうよ」
「ああ、いつでも来い」
とはいえ、男爵位の貴族だから、そんなに暇ではないだろう。
今見ると、イレーネはヘンドリクスと、ヴィルマはエステルの奥さんと模擬戦を始めたようだ。
なかなか面白そうな戦いをしているな。
周りで見学している騎士団員達の中にも猛者がいるかもしれない。
アミルもさっきまでラパンと槍の模擬戦をしていて、勝ったようだった。
オリビアはエスピナの相手ばかりして、模擬戦に参加していない。
槍二刀流は解禁できないけど、槍一本で模擬戦しないのかな。
俺はグラ爺の許可が下りないから模擬戦禁止だが、他のメンバーはそれなりに楽しめるかも。
カルーアミルクと夜這いにだけ注意して、定期的に遊びに来ようかな。
いや違う違う。夜の宴や遊びは必要なく、朝練に顔を出すだけにするか。
一月か二月毎に一回程度の割合で来るのはどうだろう。
その後も対戦相手を替えながら、模擬戦を繰り返し、大いに盛り上がった。
ミライはカーラ、ヴィルマ、イレーネにコテンパンにやられて少ししょげている。
頑張れ、ミライ。
エステルの騎士団の猛者を相手にカーラは全勝して、その力を見せつけた感じだ。
まだ、彼女はレベリングできるから、身体能力的にはもう少し強くなれるのだよなぁ。
本当に末恐ろしい。
エステル達に見送られ、クーラタルの自宅へと戻ることにした。
なかなか楽しいひと時だったな。
・・・・・・
自宅に戻ると、エネドラのお小言が待っていた。
うん、無断外泊したからな。
もう平謝りするしかない。
「旦那様、お酒を飲まれましたか?かすかに匂いますが」
「ああ、悪かった。
実は飲むつもりが無かったのだが、俺のコップに酒が入ってたのに気付かなかったんだ」
事実なのだけど、もう酔っ払いのたわ言にしか聞こえない言い訳だ。
「いえ、旦那様がお酒を飲まれたのなら構いません。
それだけ楽しめたのですよね?」
「そう・・・・・・だな」
記憶に無いのだが、記憶に無いぐらい楽しめたことにしておこう。
「旦那様は、たまにそれぐらいのことをしてもらった方が私達も安心できます。
護衛のヴィルマさん達もちゃんといたのですから問題ありません」
「ソウデスネ・・・・・・」
素っ裸のイレーネに、俺は護衛されていたのだろうか?
まあ、ミライからの襲撃は、イレーネかオリビアが多分撃退してくれたのだろう。
きっと俺の貞操は守られたはず。
その代わり、別の大切な何かを失った気もするが。
「朝食は用意してありますので、お食べ下さい」
「ああ。ありがとう。いつも助かるよ。じゃあ着替えてくるので」
もう二階に逃走するしかない。
着替えて降りると、俺以外の迷宮組のメンバーも朝食にありつこうとしていた。
配膳が済み、席に着くと迷宮組の遅めの朝食開始。
テーブルにはエネドラも座り、昨晩の会議の報告をしてくれた。
定例の報告がほとんどだったので、特に問題は無かったそうだ。
「それから、旦那様宛に手紙が届いております」
「えっ?また?」
なんかデジャヴなのですけど。
先日、エステルからもらった手紙と似たような豪華な手紙だった。
もう、この展開は慣れたぞ。
落ち着いて食事を終えた後に手紙を開封。
差出人はファビオ士爵か。
内容としては、取引に応じてくれた礼と、ギルド神殿に対する取引の件。
500枚のカードを二十日後ぐらいまでに集めるので、また伝言するとのこと。
そのタイミングで迷宮討伐の正式契約を結びたいと書いてあった。
500枚を二十日後だって?
それが本当なら、ルークの家よりも調達能力が高いことになるのではないか。
過去の取引実績からすると、ルークでも二十日で500枚のカードを集めるのは無理だろう。
お手並み拝見とするか。
・・・・・・
遅めの朝食を終えて、修練場へ。
少し遅くなったけど、今は猛烈に訓練をしたい気分だ。
エステルの家では、おあずけを食らってたからな。
まずは、グラ爺に一言必要だ。
「朝練サボって申し訳ない。これから気合を入れて訓練に励むつもりだ」
「何やら酒の匂いがするな」
一風呂浴びてから訓練した方が良かったか?
いや、誤魔化すのは違うよな。反省せねば。
「ああ、これはだなぁ・・・・・・」
「別に言い訳なぞせんで構わぬ。
おぬしはたまに羽目を外して失敗するぐらいが丁度良かろう」
なんでエネドラと似たような事を言うのだろうか。
「毎日、同じように剣を振ればいいというものでもない。
自分を何かの型にはめてばかりだと、自分を見失うこともあるぞ」
「はあ。肝に銘じておきます」
どちらかというと俺は奇行を指摘されることが多い気もするが、それとこれは別なのだろう。
「ともあれ、ここにいる時は剣に集中せよ。
要はメリハリを付けろということじゃ」
「うぃっす」
今はとにかく訓練がしたい。
迷宮組のメンバー達の活躍を目の当たりにしたら、気合が漲ってきたんだよ。
シングルジョブの状態でも、いつかは追いつけると信じて、木刀を手に取った。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回投稿日は2026/9/9(水)の予定です。
次は閑話を投稿する予定となります。